Part 2

2010年09月19日 08:31
経済

「円高」の空騒ぎ

先週の為替市場は「非不胎化介入」で大騒ぎだったが、そもそも今の水準は円高なのだろうか。次の図は、1995年と現在を比べたものだ。確かにドル/円レート(赤)は15年ぶりの高さだが、各国の物価水準などを勘案した実質実効為替レート(青)でみると5年前の水準に戻った程度で、15年前に比べるとまだ3割以上低い。

yen
名目為替レート(ドル/円 左目盛)と実質実効為替レート(2005年=100 右目盛)

この最大の原因は物価上昇率の違いで、アメリカのCPIはこの15年の累積で40%近く上がったが、日本はほぼ0%である。むしろ現在は2008年前半までの「円安バブル」が訂正される過程にあり、1ドル=60円台になってもおかしくない。

ただし齋藤誠氏が指摘するように、アジア諸国の為替レートは相対的に下がる一方、資源国の通貨が上がっているので、日本の貿易環境は悪化している。しかしこれは日本政府の為替介入ではどうにもならない。非不胎化介入にも、市場はほとんど反応しなかった。その効果は(インフレ効果のない)量的緩和と変わらないからである。

為替介入が効果をもつのは、プラザ合意の前のように為替相場がバブル的な水準になっていて、政府がそれをつぶすことができるときに限られる。今回は85円ぐらいまでは戻したが、依然として実効レートは最近15年の平均より安い。ゼロ金利では、不胎化も非不胎化も同じことだ。「政府・日銀は断固たる決意で通貨を供給して円高を阻止せよ」などと騒いでいるのは、無知なリフレ派とマスコミだけである。

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トラックバック一覧

  1. 1.

    [注目の記事]為替介入に必勝法はあるか

    チラ裏御免 ネタ元: 「購買力平価でみた日本経済の問題点」--- アゴラ http://agora-web.jp/archives/1094758.html 「円高」の空騒ぎ --- 池田信夫blog http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51481375.html   為替介入の話。とりあえず現状は日銀の勝ち。心配なのは、

コメント一覧

  1. 1.

    4 確か先週のFM877で私の選挙区の衆議院議員が同じような内容の話んをしていました。元大蔵省出身の方なので、たぶん正しいんだろうとその時思っていたのですが、この様にグラフで示してもらうと大変わかり易いです。同じことを違う人から聞く。ウラを取った感じがします。

  2. 2.
    • taka_me
    • 2010年09月19日 21:17

    3 円高が論ぜられるときに実効為替レートが引き合いにだされますが、納得感がありません。
    多くの企業が為替レートは90円前後に想定して計画を立ています、それに対して実効為替レートはまだまだ円安なんだからというのは、実際に円高で起きている影響を無視した、机上の空論ではないでしょうか?
    今の水準でも、産業の空洞化は進んでいます。

    なにかに書いてありましたが、実効為替レートでは円安は、PBR1倍切ってるからこの株は割安と同じように杓子定規であると考えます。

    今回の介入は投機筋を抑えるためにも必要だったと考えています。

  3. 3.

    実質実効為替レートで考えると複雑化するのでドルに対する実質為替レートで考えれば、95年の80円は現在換算だと1ドル=57とか58円だそうです。だから当時と比べたら円高じゃないって少しおかしいと思います。
    実質為替レートの計算式通りになる条件として、物価上昇率と賃金上昇率が全く同じであること。インフラコストも物価上昇率と全く同じであること。技術水準の差が常に一定であること。その他の制度や税制もほぼ同じであること。そして世界との競争に晒される分野に限った物価指数であることが条件にならなければ現実に当てはまらないと思います。
    アメリカは95年当時と比べて物価は上昇しているらしいですが、それが経営者や金融分野や不動産業者や高度技術者以外の従業員の賃金に結び付いているとは到底思えません。つまり、物価は上昇したかもしれないけど賃金の安いアジア諸国の台頭によって賃金上昇は抑えられてしまった。
    経済は数学と違って絶対理論ではありません。。昨日正しかった理論が今日正しいわけではありません。実質為替レートの計算はあくまで絶対理論の公式ですが、その理論が上に書いた条件を必要とする以上、間違っていると言わざるを得ません。現実と理論が大きく乖離していると思います。
    部品や素材を世界中からかき集めて機械で組み立てる資本集約型産業なら、急激でなければ円高メリットも享受できますが、労働集約的な企業は円高によってドル換算の賃金が上昇して競争できなくなってしまいます。95年当時なら技術的な差もあってしのげたかもしれませんが、今は多くの中小企業の技術差がなくなって完成品メーカーとの地の利以外の優位性しかなくなっています。
    だからと言って安易な為替介入には反対です。為替操作国として報復関税やアメリカ議会の政治宣伝に利用されそうです。

  4. 4.

    実質実効為替レートを論じる際には、どうして2002年からドル円と乖離したのかを考える必要があると思います。
    中国が不当に為替レートを割安化させたのは、アジア通貨危機以降で、それ以降、急激に日本国内の生産(=労働)がアジアに移転しました。
    中国が為替を極端に割安化させたために、中国との貿易量が急増し、もともと、割安であった人民元の円の実質実効為替レートに占める割合が徐々に増加していますが、人民元は割安を修正する過程にあり徐々に高くなっていますので、実質実効為替レートでは、余り円高にならないように見えてしまいます。
    また、労働が中国に移転したために、日本のデフレが深化し、円は実質では割高化しにくくなっています。
    日米のインフレ率の違いだけで、円が割安なのか割高なのかを論ずるのは早計だと思いますし、だいたい、それでは2002年以降の屈折を説明できません。
    現時点でも、日本の生産者の経営層の考えていることは、いかに、自社の生産を海外に移転するかであり、今後、生産を海外に移転すればするほど、それだけで、他の要素が無くても、実質実効為替レートは安くなる性質を持つことに、ご注意ください。

  5. 5.
    • ismaelx
    • 2010年09月20日 12:50

    釈迦に説法だと思いますが、円高で騒ぎになるのは、輸出産業がそれでダメになる。倒産なり海外移転してしまうということが原因です。

    先日、日経新聞に、輸出の損益分岐のレートとして大企業93円。中小で95円という記事が載ってました。いくらか掛け値があるかもしれませんが、ドル90円より安くなってしまうと危険水域といえるのではないかと思います。

    それで、疑問点は、今の円レートが続くとして、仮に日本の輸出産業がダメになってしまうとしたら日本経済に大きなダメージがあるわけで、それにもかかわらず今の水準が適正だといえるのだろうかということです。物価の比較では説得力がないのではないでしょうか。

  6. 6.

    円が高いか安いかを考える場合に、次の2点を考えたらどうでしょう
    1、日本は輸出超過、米国は輸入超過、これからは円安と言えると思うのです。
    (この上半期の日本の輸出超過額は約4兆円ですね、日本の輸出競争力は相当なものですね)
    2、レートが適正だとすれば、
    米国は輸出競争力に比して人件費が高いから輸入超過になる、日本は逆で人件費が低いから輸出超過になると考えて良いのではないでしょうか。
    ▼輸出超過国は人件費を上げる、輸入超過国は人件費を下げて「輸出額=輸入額」になったときに正しいレートと言えると思うのです
    貿易は本来物物交換なので「輸出額=輸入額」が正しい姿だと思うのです。
    ▼そもそも貿易は効率化を追求してお互いに人件費を上げることが目的で、少なくも人件費引き下げ競争ではないと思うのです。
    従って「輸出額=輸入額」を国際ルールにすべきと思うのです。

  7. 7.
    • koujirou9876
    • 2010年09月21日 06:58

    5 もうそろそろ、輸出産業ばかり保護する政策はやめてほしいです。1ドル90円に設定していようが、そんなことはどうでもいい。円高に振れれば、為替差損を出して、赤字計上すればいい。
     産業の空洞化を引き合いに出し、円高是正を訴える輩は、資本主義・自由貿易を否定している。先生が指摘されているように、実質レートで見れば、今でもかなり円安でありながら、騒いでいるアホ経済学者がたくさんいる。
     為替レートの変動で業態そのものが成り立たないのだとすれば、その業界はもう儲からないということを意味し、バカ政府の為替介入で、ゾンビ企業を過保護にして、生き残らせても、将来莫大な税金が必要になるだけだ。とっとと、清算して新しい業態に変身したらどう?
     

  8. 8.
    • harappa5
    • 2010年09月21日 09:29

    >疑問点は、今の円レートが続くとして、仮に日本の輸出産業がダメになってしまうとしたら日本経済に大きなダメージがあるわけで、それにもかかわらず今の水準が適正だといえるのだろうかということです。

    では、どうしたら良いでしょうか?永遠に、円高介入をし続けろ、という事でしょうか。構造的に問題がある以上、構造的な問題を解決するしか方法はないと思います。

  9. 9.
    • edogawadamo
    • 2010年09月21日 21:41

    どうも輸出産業の都合だけで円安・円高を論じる人が多いようですね。「円高=輸出産業がダメになる=日本がダメになる」という刷り込みがあるように思います。

    90円/ドルが想定為替レートだとしたら円安バブルの頃なんて120円ドル位ですから、輸出産業はぼろ儲けだったわけです。政府が30兆円の含み損と引き換えに、輸出産業を太らしたのに今になって「円高で苦しい」ってご都合主義も良いところでしょう。

    一方、製造業が生産拠点を新興国に移す流れは、為替レート云々の問題ではありません。これは賃金が高止まりした先進国が皆通る道で、デフレなんかじゃありません。今まで高すぎた物価や賃金が国際標準に近付いただけです。よって、為替介入や雇用奨励金をばら撒いたところで抗いようがありません。

    輸出型製造業に依存しない産業構造に転換するのが本筋です。なのに「影響が大きすぎる」だの「急に職業は変えられない」だの言いつつ問題を先延ばしてかれこれ30年。じゃあ、これからも永遠に国内製造業の延命措置を施すつもりでしょうか?

  10. 10.
    • ismaelx
    • 2010年09月21日 22:55


    >では、どうしたら良いでしょうか?永遠に、円高介入をし続けろ、という事でしょうか。構造的に問題がある以上、構造的な問題を解決するしか方法はないと思います。
     
    為替レートは各国経済によって定まり、各国がそれなりにたち行けるようにするバランサーのような役目があります。ですから経済を反映する「自然な」レートであれば操作する必要はないでしょう。
     
    しかし現実は、為替差益を狙って、外国ファンドの買いが入っての円高ですから「不自然」なレートではないでしょうか。

    輸出産業を保護するという批判もありますが、しかし、リーマンショックでもわかるように、輸出産業は日本経済にかなりの比重を占めています。失業率は、社内失業も含めるとまだまだ高い状態です。
     
    外需に頼らず、内需を振興するというのは、そう言われだしてから数十年ていどたっていて、いまだに実現できません。実現不可能なことではないでしょうか。
     
    為替レートを云々するよりも、農業も含んで規制緩和、改革や労働市場の改善など日本経済活性化のほうが、まずするべきことではないかと思います。
     

  11. 11.
    • tk856331
    • 2010年09月22日 10:58

    赤字をうめるためにアメリカが大量にドルを垂れ流しし続けたのが原因でありませんか?
    そんな無茶ももう出来なくなって来たように思います。

  12. 12.

    為替レート本位制金融(円高メリット還元政策)
    「120円/ドル」(暫定)を限度に政府は日銀より円札を借りる、
    日銀は120円/ドルを下回らないように金利を上げ貸した円札を回収する。
    次より
    http://www002.upp.so-net.ne.jp/HATTORI-n/1202-5.htm

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