<sui-setsu>
若い人たちが使う短縮語のなかにはときどき見当のつかないのがある。最近、面食らったのが「ガラケー」だった。これを知っている人は多くないのではないか。
省略せずに言えば「ガラパゴス携帯」である。まだ、分からない?
話せば長い話である。日本の携帯電話は海外と異なる通信方式だったため独自の「進化」をとげた。海外は電子メールやネットに接続する携帯に向かったのに、日本は携帯で利用できるメールやネットを構築した。まるで逆。それに絵文字だとか、メールでの決済だとか高機能のサービスをテンコ盛りにした。
南太平洋の孤島ガラパゴスでは生物が独自の進化をとげた。異形のオオトカゲが島を支配する。日本の携帯はそれに似ている。島内では威張っても海外では通用しない。
近年はネットとの同期を重視した海外発の「スマートフォン」が日本でも主流になろうとしている。が、日本型携帯の方が使いやすい人はたくさんいる。そういう人々が自分の携帯を自虐的に「ガラケー」と呼ぶわけである。
私はガラケーどころか、カメラもついていない「らくらくフォン」の使用者だが、一念発起してスマートフォンを購入することにした。
聞けばアップルのスマートフォン「アイフォーン」が大旋風を巻き起こし、スマートフォン戦略がメーカーの生死を分ける情勢らしい。(私はグーグルのソフトでQWERTYのキーボード付きを探したがいいのがない)
世界最大の携帯メーカーのノキアはスマートフォンへの取り組みが遅れ株価は3分の1に下がり、責任者を入れ替えた。第3位の韓国のLGも営業利益が90%減益となった責任をとって最高経営責任者(CEO)が辞任する。
日本勢は英ソニー・エリクソンを除く8社合計で世界シェアは5%にも達しないらしい。シェアを食っても食われてもコンマ以下の話だから、経営者はクビにならない。ガラパゴスの平和。
しかし、私ですらスマートフォンを買おうというのだから、日本の携帯市場もこれが主流になるに違いない。ガラケーに手を焼いていた海外メーカーだが、今度は日本市場をじゅうりんするかもしれない。すでに米アップルは地歩を築き、韓国のサムスンやLG、さらにノキアや台湾勢も本腰を入れだした。
私は日本製を買うつもりだが劣勢は覆いがたい。残念なことだが、国内市場に立てこもってもダメなことを教えるまたとない教材にはなる。外に打って出るしか日本に選択肢はない。(専門編集委員)
毎日新聞 2010年9月22日 東京朝刊
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