PB(プライベートブランド)高級化の試練、競争は第2ステージに突入
東洋経済オンライン 9月21日(火)11時0分配信
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| 曲がり角のプライベートブランド(撮影:今井康一) |
このメーカーでは原料、人件費、光熱費を卸値の72%以内に抑えることが最低水準の採算ラインだが、安値のPBを客寄せにしたい流通からの値下げ要求で80%超えが常態化。少しでも生産ロスが出れば赤字になる厳しい取引が続いていた。
だが、秋商戦に向けたバイヤーとの話し合いでは一転。値上げの話が浮上し、250円程度の高価格帯商品への関心も高まっていた。「価格を1割下げても客数が1〜2%しか伸びず、坪当たりの売上高下落が続く状況に流通側は焦っている」(同社幹部)。今、行き過ぎた価格競争に歯止めをかける動きが水面下で始まっている。
■激安PBが足かせ 拡大戦略のジレンマ
食品のPBが本格的に浸透したのは2008年から。世界的な原材料価格の高騰を受けて、多くのメーカーがナショナルブランド(NB)の値上げに踏み切った。そこで流通各社は、割安感を訴求したPBを拡充して大ヒット。09年のPB市場は前年比2割以上も伸長し、食品市場全体のシェア8%強を占める2兆3000億円まで成長した(富士経済調べ)。
すっかり市民権を得たPBだが、イオン系のスーパー首脳の表情は暗い。「もはやPBを売るメリットはない」と言い切る。PBは中間流通や販促費用などを省くことで、NBよりも低価格かつ好採算なのが特徴だ。だが昨年、消費者の節約志向に合わせて流通各社は、従来よりもさらに低価格なPBを大量に投入。これにより採算が悪化し、NBより利幅の薄いPBも出始めたという。「現場ではPBを売ろうという意識が低下している」(同首脳)。
09年後半に入り、原材料価格の高騰が落ち着いたことも逆風だった。NBの安売りが再び活発化したことでPBとの価格差が狭まり、いよいよ成長に陰りが見え始めたのだ。
同スーパーでは今期に入り、PB売上高が前期比2割程度も減少している。イオングループ全体では10年3〜5月期のPB売上高は2.5%増に留まり、3割強も増えた昨年とは環境が一変。セブン&アイ・ホールディングスも数値は非公表だが「NBの低価格化で非常に厳しい状態」(イトーヨーカ堂の高橋信・食品事業部グループMD担当チーフバイヤー)と打ち明ける。
両社とも、一時的な節約志向への対応策としてPBを位置づけているわけではない。イオンは今期、「PBの売上高目標は(前期比24%増の)5600億円」(久木邦彦取締役)に設定。セブン&アイも12年2月期に5000億円(10年2月期比56%増)を掲げる。
停滞市場へのカンフル剤として両社が考えたのが、PBのプレミアム化だ。NBと同価格かそれ以上で、より高付加価値を訴求する。PB比率の引き上げに貢献するだけでなく、激安PBと違って利幅も大きい。
イオンはすでに、NBの平均価格帯より4割高い278円のレトルトカレーを発売している。「具材にこだわり、これまでつかめなかったシニア層中心に人気を博している」(久木取締役)。セブン&アイもPBを高価格帯へシフトさせて、ブランド価値を高めることで購買層を広げる狙いだ。
■NBを超えるPBにメーカーは冷ややか
流通企業は、自前の研究所や工場を持っていない。このためPBのプレミアム化にはメーカーの協力が不可欠となる。すでにPB比率が4割に達した英国では、流通主要4社のシェアは7割超。圧倒的なバイイングパワーを武器に、食品メーカーに高付加価値品をPBとして提供させ、顧客層の拡大に成功している。
一方で、日本の主要4社のシェアはわずか1割程度。メーカーがあえてPBに高付加価値の商品を提供するメリットは少ない。昨年からPBへの消極姿勢を一変させて、セブン&アイへPBの提供を始めた山崎製パンも、「商品開発のノウハウがない流通ではなく、技術開発を進めるNBが先を行く。これ以上、PB比率は増えないだろう」(飯島延浩社長)と、自信たっぷりだ。
それでもプレミアム化の流れは、中小の食品メーカーにとって脅威になりかねない。これまで激安PBの製造の受け皿となってきたが、流通大手はPB市場拡大に伴い、生産能力が高いトップメーカーへの委託を増やしている。そこへ品質向上が条件に加わると、研究開発費に乏しい中小メーカーは不利となる。
流通はPBを生産する見返りとして、商品棚を優先的に割り当てることを通例としており、中小メーカーはNBの納入も難しくなる。ある中堅パンメーカーは、山崎製パンのPB参入で棚の占有率が減少。NBの特売品を増やして何とか商品棚を確保している状況だ。「特売品の比率が増えて、工場はフル稼働なのに利益は減る一方だ」と同社の工場長は悲鳴を上げる。
PB市場を分析する富士経済の日下部史圭研究員は、「今の状況が続けば中小メーカーの淘汰が起きて業界再編につながりかねない」と指摘する。業界のパワーバランスを崩しかねないプレミアム化の成否はいかに。第2ステージの火蓋は切られたばかりだ。
(麻田真衣、鈴木良英=週刊東洋経済2010年9月4日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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最終更新:9月21日(火)11時0分
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