1審判決は、被告が老人のつめ切りを楽しみにしていたという異様な構図を認めたが、捜査段階の調書をうのみにした非常識なものであった。控訴審が無罪としたのは市民感覚を反映したもので評価できる。密室での取り調べでは、冤罪(えんざい)の温床になることが一層明確になった。信頼を回復するためにも当局は取り調べの全過程録音録画を急ぐべきだ。
深くつめを切った傷害行為について正当業務として違法性を否定した判断には疑問が残る。専門的な見地ではなく、一般市民の感覚でとらえるべきで有罪とすべきではなかったか。一方、捜査側の供述調書について、裁判所が信用性を否定した点は非常に重い。こうした無罪判決が相次いでおり、日本の刑事司法に大きな課題が提起されていると言える。
毎日新聞 2010年9月17日 東京朝刊