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事件の構図破綻、解消狙う?…検事のデータ改ざん

FD、報告書と食い違い

 大阪地検特捜部の主任検事が、公判の行方を左右する重要な証拠を改ざんしていた疑いが浮上した。郵便不正を巡る厚生労働省の偽証明書発行事件。なぜ、主任検事はこんな行為に及んだのか――。

公判左右する重要証拠

 「故意に改ざんしたと言われても仕方ない」

 捜査にかかわった特捜部関係者は驚がくの表情を浮かべた。

 特捜部は、郵便局から証明書の提出を求められた自称障害者団体「(りん)の会」が、厚労省の村木厚子元局長(54)(1審無罪)や厚労省元係長、上村(かみむら)勉被告(41)(公判中)に証明書の発行を催促した、とのストーリーを描いていた。

改ざんされた疑いが持たれているFDの記録。「2004年6月1日」が8日と書き換えられて更新されている=前田尚紀撮影

 主任を務めた特捜部の前田恒彦検事(43)が改ざんした疑いが持たれているフロッピーディスク(FD)に記録されていた証明書の作成日時は「2004年6月1日午前1時20分」。ところが、郵便局員らの聴取で、凛の会が証明書提出を求められたのは早くても6月8日だったことが判明した。

 このため特捜部は、作成日時を記した捜査報告書を証拠としなかった。しかし村木元局長の弁護側が証拠として開示するよう求めた。そして、大阪拘置所でこの報告書に目を通した村木元局長が、食い違いに気付いた。

 弁護側は報告書を証拠請求。1月の初公判の弁護側冒頭陳述でこのデータを引用し、「検察の主張は破綻(はたん)している」と主張した。検察側は6月の論告で、「今回の証明書が、このFDのデータを印刷したものとは限らない」と反論したが、判決はFDのデータと証明書の関連を認めた。

 改ざんされていたFDの証明書の作成日時は「04年6月8日午後9時10分」。特捜部が描いた構図と符合するが、特捜部がFDを返却したのは昨年7月17日。捜査報告書も訂正されておらず、改ざんデータが公判に影響することはなかった。

 「前田検事は捜査段階で日付の矛盾に気付き、つじつまを合わせようと、FDの日付を書き換えたのではないか。そう疑ってみるのが自然だ」。検察関係者は唇をかんだ。

改ざん、ソフトで可能

 インターネットセキュリティー会社「ラック」(東京)によると、フロッピーディスク(FD)の改ざんは、ネット上に有料や無料で公開されているソフトを利用すれば、可能という。ただし、FDの記録上で表示される更新日時を書き換えたとしても、その書き換えをいつ行ったかという磁気情報が残ることがある。その場合、専門の解析会社に依頼すれば、磁気情報をたどって書き換え時期などを知ることができる。

 また、書き換えた場合、FD内のファイルの更新日時と、そのファイルが入ったフォルダーの更新日時など、他の様々なデータとの整合性をそろえるのはかなり専門的な知識が必要という。セキュリティー業界の関係者は「ソフトをダウンロードできる程度のパソコンの知識があれば改ざんは可能だが、もし改ざんにソフトが使われたのであれば、プロが解析すればすぐに見破ることができる」と指摘している。

自供引き出すエース的存在…主任検事

大阪地検が入る大阪中之島合同庁舎(21日午前、大阪市福島区で)=前田尚紀撮影

 前田検事が大阪地検特捜部に配属されたのは、2008年4月。それ以前には、東京地検特捜部に在籍した06年4月〜08年3月、元防衛次官の汚職事件で贈賄側の防衛専門商社元専務を取り調べるなど、事件の「キーマン」となる容疑者を担当することが多かった。

 大阪地検特捜部では、元特捜検事で弁護士だった田中森一受刑者の詐欺事件(08年4月)や音楽プロデューサー・小室哲哉元被告による詐欺事件(同11月)などの捜査で主任検事を務めた。また、民主党の小沢一郎元幹事長の資金管理団体を巡る政治資金規正法違反事件では、東京地検特捜部に応援として派遣され、逮捕した公設秘書(当時)の取り調べも担当。

 部内では、描かれた構図通りに容疑者から自供を引き出す「割り屋」として評判を取る特捜部のエース的存在。上司の信頼も厚かったが、一方では、周囲から「取り調べが強引」との評判もあった。

ずさん捜査、公判で明らかに

 村木元局長の裁判では特捜部の捜査の問題点が次々と明らかになっていた。

 「凛の会」の元会長・倉沢邦夫被告(74)(1審・一部無罪)の手帳には、民主党の石井一参院議員と面会した旨の記載があったため、凛の会側から口利きの依頼を受けた石井議員が厚生労働省側に証明書発行を働きかけた「議員案件」との構図を描き、捜査を進めた。

 だが、倉沢被告が石井議員に面会したとされる日、石井議員は千葉県内でゴルフをしており、ゴルフ場にはその記録も残っていた。特捜部は捜査段階で石井議員への任意聴取を行うなどの裏付けを怠り、描いた構図に基づき村木元局長を起訴していた。

 供述調書の真偽が問題となる中、捜査側が取り調べ経過などを記録する「取り調べメモ」についても、上村被告らを取り調べた検察官のうち、公判に出廷した6人全員が廃棄していた。

 取り調べメモの性格を巡っては最高裁が「メモは公文書」との判断を示し、最高検もメモの適正保管を求める通知を全国の地・高検に出している。大阪地裁は今年5月、上村被告らの調書の大半を証拠として採用しない決定をした際、「メモは取り調べ状況を認定するための有用な資料」と指摘していた。

2010年9月21日  読売新聞)
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