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奈良県明日香村にある国史跡の牽牛子塚(けんごしづか)古墳が、飛鳥時代の斉明(さいめい)天皇(594〜661)の墓であることがほぼ確実になった。当時の天皇家に特有の八角形[記事全文]
カンガルーと大自然の国オーストラリア。その政治をおおった雲がようやく取り払われたようだ。8月に行われた総選挙後の交渉で、与党労働党が政権を保つことになった。ギラード首相[記事全文]
奈良県明日香村にある国史跡の牽牛子塚(けんごしづか)古墳が、飛鳥時代の斉明(さいめい)天皇(594〜661)の墓であることがほぼ確実になった。
当時の天皇家に特有の八角形墳で、巨石を使って堅固に築かれた壮大な墳墓であることが、明日香村教育委員会の調査で明らかになったからだ。
石室が二つの空間に仕切られていることはこれまでにわかっており、斉明天皇と娘を合葬したという日本書紀の記述とも合うとされていた。
専門家の見方は斉明天皇が被葬者である点で一致している。
斉明天皇は大化改新を断行した中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)=天智天皇=の母で、2度皇位に就いた。蘇我氏を滅ぼし、天皇を中心に国を形づくる激動の時代を生きた人の墓となれば、専門家でなくとも古代史のロマンを感じるだろう。
しかし、ことはそう簡単でない。
宮内庁は、この古墳から西に約2.5キロ離れた奈良県高取町の車木(くるまぎ)ケンノウ古墳を斉明天皇陵と指定しているからだ。一帯に「天皇山」という地名がついていたことなどから、幕末に指定されたという。
なぜ、食い違いが生じるのか。
天皇や皇后、皇族を埋葬したとされる陵墓は全国に740あり、宮内庁が管理する皇室用財産である。多くは江戸時代から明治にかけて、伝承や記録などをもとに定められた。
考古学の進展から、年代などが合わない例が増えた。たとえば明日香村の中尾山古墳を文武天皇陵、大阪府高槻市の今城塚古墳を継体天皇陵とみる専門家は多いが、宮内庁の指定は別の古墳だ。古代の天皇陵で学界の見方と一致するのは、天武・持統天皇合葬陵などごく一部という指摘もある。
しかし、斉明天皇陵についても、「墓誌や明確な文献などが出てこない限り、指定を変えない」という。
宮内庁は古代の天皇陵などの学術調査に消極的だ。学会からの要望を受け、約30年前に一部の天皇陵などの外周まで、4年前に墳丘の一部まで研究者の立ち入りを認めたが、あくまでも「限定公開」にとどまっている。
陵墓は「現に祭祀(さいし)が行われ、皇室と国民の追慕尊崇の対象」となっているから「静安と尊厳の保持が重要」というのがその理由だ。「生きた墓」という考え方である。それならなおのこと、真の被葬者がだれかは重要ではないか。
古代の天皇陵などは国民の文化財として情報を公開し、本格的に学術調査して歴史的価値を明らかにすべきだ。そのうえで文化財の指定を考えたい。
高松塚古墳では、発掘をきっかけに貴重な壁画と古墳そのものが台無しになるという苦い経験をした。調査や発掘に際しては、保存や公開の方法について十分な配慮も必要だ。
カンガルーと大自然の国オーストラリア。その政治をおおった雲がようやく取り払われたようだ。
8月に行われた総選挙後の交渉で、与党労働党が政権を保つことになった。ギラード首相は改造内閣を発足させ、ラッド前首相を外相に起用した。
総選挙の結果は異例だった。
労働党と保守連合(自由党、国民党)の与野党いずれも下院(定数150)の過半数をわずかに取れず、勝敗の決着がつかなかった。
伸び悩む2大陣営を横目に緑の党が下院で初議席を得たほか、上院でも躍進した。労働党は、この緑の党のほかに無所属議員3人の支持を取りつけることで下院の過半数を確保した。
豪州で2大陣営のどちらも過半数を取れない「中ぶらりん議会」となったのは、70年ぶりだ。英国流の政治制度を採り入れるこの国では、与野党のどちらかが長期政権を担ってきた。
その英国でも、4カ月前の総選挙で「中ぶらりん議会」の結果が出たのは記憶に新しい。英豪両国にならって日本は小選挙区制をとりいれた。英豪で大政党が中道化し、小政党が躍進している。これらの国の民主主義がどう変化していくのか目が離せない。
続投を決めたとはいえ、ギラード政権の今後の政権運営は不安定にならざるをえまい。下院で得た76議席は、議席の半数をわずかに1議席上回るだけだ。緑の党や無所属議員が反旗を翻せばとたんに政権は行き詰まる。
このことが日豪関係にどんな影響を与えるだろう。
豪州は堅実な経済成長を続け、日本は石炭、牛肉など多くの1次産品を輸入している。政治経済からエネルギー安全保障まで、日豪間には幅広い協力関係が築かれている。
ところが最近は、捕鯨をめぐる対立が注目を集め、双方の国民感情がささくれ立っている。強い発言権を持った緑の党が突き上げるかもしれないが、捕鯨問題を感情的にエスカレートさせることは避けるべきだ。
石炭、鉄鉱石などを採掘する企業に資源税を課す構想の行方も不透明だ。大量の資源を輸入する日本企業にとってコスト上昇につながりかねない。税導入にあたっては、対外的な影響も十分検討してもらいたい。
ラッド外相は首相時代、日本と協力して国際賢人会議をつくり、核軍縮、不拡散を国際社会に呼びかけた。今後は、これを支持する国々によるグループづくりに結びつけてほしい。
経済連携協定の交渉を前進させ、米国を含むアジア太平洋地域経済の自由化につなげることも課題だろう。
日豪双方の政権とも、いわば仕切り直しでの再スタートだ。成熟したパートナーになるための対話を進め、外交全般で連携を強めてもらいたい。