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【シリーズ現場】

学生の発想 能登に新風 長期インターン制度半年

2010年9月19日

和ろうそくについて客に説明する別川さん(左)=七尾市一本杉町で

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受け入れ先『視野広がった』 地域全体への波及課題

 全国の学生が、能登の企業で長期インターンする「能登留学」が始まって半年。豊かな自然環境の中、学生たちに就業体験してもらい、大学のない能登に新しい風土を生みだそうと始まった試み。受け入れ側からは「若い発想に触れ、今まで踏み込めなかった事業まで視野が広まった」との声も上がる。滑り出しは上々だ。(福本英司)

 一八九二(明治二十五)年の創業で県内で唯一、和ろうそくを製造する七尾市の高沢ろうそく店には、六月から金沢大四年の別川美帆さん(23)が留学している。フランスへの語学留学も経験したが、「国内で日本の伝統文化を学びたい」と海外約十カ国に販路を持つ同店を選んだ。

 夏休みを利用して七尾に住み込み、工場での実習や店頭での接客を学んだ別川さんは今、販売促進の企画を練っている。研修中、植物性の良さや炎にリラックス効果がある和ろうそくの魅力を、客や小売店に伝えきれていないと感じた。

 そこで、仏事用だけでなく、日常生活での使い方や植物性の材料を紹介した説明書を商品に添付することを提案。別川さんは「研修に来てからの自分の発見をもとにした。若い人の目にとまりやすい紹介の仕組みを考えたい」と話す。

社員が集まった会議で留学の成果を報告する甲斐さん=同市藤橋町で

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 「説明書をつけることで、こちらの思いや和ろうそくの魅力が伝わる」と、アイデアを認める同店の高沢久さん(37)。「店でずっと働く私たちに気付かなかった単純なことを教えてもらい、商売への見方が変わった」と刺激を受けたようだ。

 別川さんの企画づくりは現在、留学を終える九月末に向けて最終段階に入っている。

 八月末、四カ月の留学を終えた立命館アジア太平洋大(大分県)三年の甲斐一生さん(21)=福岡県出身=は、七尾市のスーパーどんたくで研修した。

 店員と客のコミュニケーションが不足していると考えた甲斐さんは、店員が日々感じたことを記す「つぶやきボード」をレジ横に置く企画を発案。「今日も暑いですね」「昨日は海に行きました」などと店員が書いたつぶやきを見た客が、レジで店員と会話をするようになったという。

 どんたくを運営する山成商事の山口成俊社長も「社員が今まで気付かなかった新鮮な意見を出してくれた。会社の意識改革にもつながる」と評価する。

 学生側にも能登の魅力は伝わっている。甲斐さんは十月から七尾に戻り、希望する塾講師になるため、市内の塾で一年間アルバイトする。将来はどこで働くか分からないが、七尾での生活を選んだ甲斐さんは「人が温かく住みやすい」。金沢市出身の別川さんも「地域のつながりがあり、伝統を大切にする能登での研修は、将来の大きな財産になる」と感じている。

 能登留学を運営する御祓(みそぎ)川の森山奈美社長は、受け入れ先が新たなヒントをつかんでいることに手応えを感じる一方で、今後の課題も指摘する。「一部の企業が元気になるだけではいけない。能登全体に波及し、若い人が能登に残りたい、移り住みたいと思える地方になるよう、長期的な事業にできるかが大きなテーマ」と先を見据える。

 後記 北陸地方の中央部から突き出た能登半島に、意欲ある若い学生たちが集まる。独特な文化や海産物、農業など多くの資源が残るこの地方で、学生が吸収できることは多いだろう。受け入れ側の企業も、若者と接する経験でさまざまな収穫を得ることができると感じた。

 若者が流出しがちだった能登だからこそ、受け入れに参加した一つ一つの企業が地域にもたらす影響は大きいはずだ。小さな試みが、能登の発展にどう結びついていくか。成果が分かるには長い目が必要だが、参加する企業や学生らの前向きな姿勢に、明るい将来を垣間見た。

  能登留学   七尾市の民間まちづくり会社「御祓(みそぎ)川」が進める長期間のインターン事業。能登地方の病院や仏壇店など8カ所で2カ月から1年間、企業の課題解決や新規事業立ち上げなどに携わる。8月末に九州の学生1人が留学を終え、現在は名古屋大や金沢大の学生3人が参加する。内閣府が2011年度までの3年間で70億円の予算を投じ、全国のNPO法人などを通して、新規事業促進や人材育成を目的に始めた「地域社会雇用創造事業」の一環で運営されている。

 

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