きょうの社説 2010年9月21日

◎介護職員の待遇 将来の展望開く改善策を
 介護労働者の2009年度実態調査の結果がまとめられた。介護報酬の引き上げなどで 離職率の全国平均は前年度より改善したが、それでもなお17%と高く、石川県内は逆に悪化して18%を超えた。富山県内は12%台で全国平均を下回るものの、やはり前年度より上昇しており、両県の介護事業所の半数は「今の介護報酬では人材確保のために十分な賃金を払えない」と答えている。

 菅直人首相は、介護の分野で新たな雇用創出を図り、経済成長のばねにしていくことを 強調してやまないが、そうであれば介護労働者の待遇改善策を具体的に示さなければなるまい。

 介護労働安定センター石川支部と富山支所の調査では、介護職を選んだ理由について5 0%以上が「働きがいのある仕事だから」と答えている。「人や社会の役に立ちたいから」という人も多いのは心強いが、全国的には家庭生活に自信、展望が持てないため「寿退職」する男性職員も少なくないのが実情という。介護職で人生設計を描きにくい状況では、「雇用拡大」も「産業としての成長」も掛け声倒れになりかねない。

 事業者に支払われる介護報酬は、09年度改正で3%引き上げられた。石川、富山での 調査では、報酬アップに伴って「諸手当の引き上げ」や「基本給の引き上げ」を行った事業所は両県ともそれぞれ30%以上に上る。そのほか一時金支給や正規雇用の増加、研修の充実などに力を入れる事業所も目立つが、報酬引き上げが職員給与に直接反映されていないところもあることをうかがわせる。

 介護労働者の平均賃金(月給)は石川、富山県とも22万円に届かず、半数以上は「仕 事内容の割に賃金が安い」と答えている。

 09年度の介護報酬引き上げでは、保険料の負担増を抑えるために国費が投入されたが 、その緩和措置は10年度で終了する。また、09年度の補正予算で急きょ追加された「介護職員処遇改善交付金」制度も11年度で期限が切れる。暫定的な改善策を継ぎ足すといったやり方ではなく、介護労働者の賃金の底上げを図る確かな政策と展望を示す必要がある。

◎アフガン総選挙 秩序ある政治体制の岐路
 アフガニスタン下院選挙の投票が、反政府武装勢力タリバンの攻撃が多発するなかで実 施された。選挙の最終結果が出るのは10月の予定であり、どの程度の不正があったか判然としないが、今回の下院選は、アフガンの国会を有効に機能させ、国民と国際社会に信頼される、秩序ある政治体制を築いていけるかどうかの岐路といえる。

 オバマ米大統領はイラクでの戦闘任務を終了し、タリバン掃討に集中する態勢を敷いて いる。来年7月にはアフガン駐留米軍の撤退を開始する計画であるが、思惑通りに進む保証はない。

 課題はアルカイダを押さえ込むことだけではない。武装勢力に拉致され、先ごろ解放さ れた日本人ジャーナリストは、「犯人はタリバンではなく、カルザイ大統領とつながりのある腐敗した軍閥集団だ」と指摘している。真相は定かではないが、「政府の統治能力の不足は、タリバンの脅威に匹敵する」とも言われるアフガンの実情をうかがわせる。

 地方に軍閥が割拠する状況は、2001年の旧タリバン政権崩壊後も続いている。新た な国づくりの開始で各軍閥の武装解除と兵士の社会復帰が進められ、日本もその業務を支援してきた。しかし、地域の治安維持の必要もあって武装解除が完全に行われたわけではなく、カルザイ大統領が、軍閥有力者の支持を取り付けて政権維持を図ったため、軍閥の存在感が増しているという。

 また、米下院報告書によると、駐留米軍への物資補給の警備を軍閥が請け負っている。 軍閥はそれによって資金を蓄え、アフガン政府のコントロールがますますきかなくなっている上、資金の一部がタリバンに流れている可能性もあると指摘している。

 カルザイ政権の統治力の欠如と汚職のひどさはかねて指摘されるが、地方の軍閥が国家 統合の意識に乏しく、集団の利害を優先して動くようでは、国会も機能せず、民主的な国民国家の建設は一層困難になる。アフガンの政治指導者らは総選挙を機に、あらためてそのことを銘記してほしい。