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[21942] {ネタ}異聞・銀河英雄伝説
Name: 凡人001◆98d9dec4 ID:8b963717
Date: 2010/09/17 22:03
人類が宇宙に進出し、既に1700年以上が過ぎた。
そんな銀河の、これは1つの歴史書である。
それを人は、銀河英雄伝説と読んでいる。

はい、愚考に愚行して銀河英雄伝説をテーマにした二次創作(原作無視)をやって見たいと思います。テーマは銀河共和国が存続し、自由惑星同盟領土が銀河帝国ゴールデンバウム王朝であり、長年にわたり対立と戦争を続けている。そこに彼の英雄たちを登場させて見てはどうなるか、中二病丸出しの作品です。
キルヒアイスやヤンを生かしたいという思いと、ラインハルトとヤンが別の立場にいたらどうなっているかをテーマに頑張っていこうと思います。また各種作品とクロスオーバーしてくるかもしれません。

以上がダメ、嫌、な人は見ない事をオススメします。では。

9月17日追記
銀河帝国内部の要塞は全部銀河帝国が保有している設定です。理由は本文にあるとおり、国防優先であったからです。もちろん、共和国はそんな事知りません。
また、駄文にもかかわらず多くの方のご批判、ご指摘を頂きありがとうございます。文が短いのは作者の力量不足です、申し訳ありません。なんとか長く出来るよう頑張りますのでよろしくお願いします。



[21942] 第一話 会議は踊り・・・・
Name: 凡人001◆98d9dec4 ID:8b963717
Date: 2010/09/16 19:24
無音のはずの漆黒。そこに聞こえないはずの音が聞こえる。
光。光。また光。漆黒の闇を切り裂く緑色の艦艇。
その正体は銀河共和国軍第13艦隊の艦艇2万隻である。





side ヤン・ウェンリー

(2万隻。さして重要でもないこの時期にこの出兵。一体なんの意味がある?)

(戦えば必ず人が死ぬ。それを分かっているのか?)

(私がイゼルローンを落として以来、共和国はこんな無益な戦闘を続けている・・・・これでは講和による戦争終結どころか殲滅戦になるぞ)

ベレー帽をだらしなくかぶりながらデスクに足を投げ出すさえない男。
もしもこんな姿を何も知らない人間が見たら驚嘆するか呆れるか。まあ後者の方が絶対的多数にはなれるだろう。
もっともその男の役職をしれば更に不安と不信が加わるかもしれない。

(人類の歴史上最も大きな事件はラグラン市事件とそこから集った4人の英雄たちであると言われている。あのシリウス戦役後に登場したのが銀河共和国。彼らのリーダーが生きていた事で人類は100年以上早く黄金期を迎えられた。その国で建国百周年を祝い、暦がシリウス暦から宇宙暦に変わり、帝国の登場で帝国暦が生まれた。いやはやそのまま人類が平和裏に進めば私も今頃は歴史学者の一人として生きていられたろうに・・・・それが親父の事故、共和国軍への入隊、極めつけはエル・ファシル・・・・まったく、いったいどこでボタンを掛け間違えたんだ?)

「閣下」

ヘイデルの瞳を持った金髪の副官の声に思案の海から引き上げられる。

「やあグリーンヒル大尉」

「お休みのところ申し訳ありません、ですが時間ですので、その」

「ああ、いいんだよ。そんなに申し訳なさそうにしなくても」

「ハイ。ムライ参謀長、パトリチェフ副参謀、ラップ作戦参謀、アッテンボロー、フィッシャー、グエン各分艦隊司令が席についております」

フレデリカ・グリーンヒル大尉の発言を受け、艦橋の司令席から作戦会議用の司令官席に移る。


side ムライ

「閣下、敵艦隊はこちらの2倍、約4万隻、三方向から方位せんとしています」

「ふーん、そいつは一大事だ。」

ジロリ。そんな擬音語が聞こえそうな目線でアッテンボロー少将を睨む

(全く困ったものだ。もっと共和国軍人として、特に将官としての意識をもって欲しいものだ)

「あ、いや、ですがね、その辺の事はラップ大佐やヤン提督がなんとかしてくれますって。ね?」

(何故そうも楽観的なのだ!! このままいけば我が艦隊はダゴンの殲滅戦で敗れた帝国軍と同じ目にあうのだぞ。)

「しかし、三方向から2倍の敵に包囲されては退却もままなりません。ここは戦わずにイゼルローン要塞に後退すべきかと。」

(慎重にことを進めるに越した事はない)

「なるほど、確かに参謀長の言うとおりですな。」

パトリチェフ准将が賛同する

「逃げる時間はまだありますからな。ダゴンの、しかも敗者の二の舞役は避けるべきでしょう」

エドウィン・フィッシャー少将も意見を述べる。

(そう、まだ逃げる時間はあるのだ)

「しかし、敵を前に逃げたならば最悪軍法会議で銃殺ですぞ? それならば一戦交えた方がよろしいのではないですか」

グエン・バン・ヒュー少将が交戦論を主張する。

「いやしかし、二倍の敵相手に戦うってどうやって?」

「それは・・・・」

「それにです、ラップ作戦参謀、この2倍の敵、ロボス元帥からの直接命令、こう、なんか・・・なにか作為を感じません?」

「アッテンボロー提督、そう言う事は私事に言うべきでいま言うことではないと思われますが。」

「確かに。今までは最低3個艦隊が帝国領へ侵攻して通商破壊作戦を展開していましたからな。妙といえば、妙です。」

「副参謀長も。あまりに不謹慎です。」

「まあ、なんです。800年近くに渡って共和国は自由の国ですから。ルドルフ大帝の築いた銀河帝国とは違いますし」

「で、戦うのか戦わないのか、勝つにはどうするべきか。」

第13艦隊ではこうした政治的な発言が一切制約されず、パトリック・アッテンボローの銀河NETでは「もっとも自由をもつ艦隊」と皮肉交じりに賞賛されていた。

(会議は踊る、されど進まず、か。やはり私の役目は常識論を唱えることでありヤン提督に一杯の水を注ぐことだけか)

「いいかな?」

混沌とし始めた会議にヤンの一言がのぼった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一月前 首都シリウスにて。

宇宙艦隊司令部に呼ばれたヤン・ウェンリー大将は思わず聞き返した。
その場にいるのはラザール・ロボス元帥、アンドリュー・フォーク准将の二名。
なんとも居心地の悪さを感じつつヤンは疑念を述べる。

「は、2万隻でありますか?」

「そうだ、2万隻の艦艇を貴官に与える」

「お言葉ですが、通常艦隊は13000隻を基本として中将をその任に当てるのではないでしょうか?」

「普段はそうだが、貴官は大将だ。しかも史上最年少30歳にして、な」

「はぁ」

「はぁ、では困るのだよ、大将。貴官は我が軍の英雄。あの難攻不落のイゼルローン要塞を半個艦隊で攻略した救国の英雄ではないかね?」

「あれはまぐれに過ぎま」

「まぐれだろうが何だろうが貴官は共和国の大将であり尚且つ英雄でもある言いたい事が分かるかね?」

「なんとなくですが、分かります」

「よろしい、フォーク作戦参謀、説明を」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・



一ヵ月後、帝国領アスターテ星域

side ヤン

「という訳で、これが私の考えた作戦だ」

作戦構想を語り終える。
グエンはうなずき、パトリチェフはしきりに肯定し、ムライは唖然とし、ラップやアッテンボローはいたずらが成功したような顔で、フィッシャーは目を閉じ腕を組み、グリーヒルは畏敬の念を向けた。

「三方向から包囲される前に、2万隻の大軍を持って各個撃破に討って出る」

方針は決まった。後は実行するのみ。

「こういうのは好きじゃないんだけどね、今回ばかりは仕方ない。」

ヤンのつぶやきは表面上は誰にも、本当は副官のグリーンヒル大尉にだけ聞かれ、消えていった。



[21942] 第二話 帝国の事情、共和国の策略
Name: 凡人001◆98d9dec4 ID:4c166ec7
Date: 2010/09/17 16:46
銀河共和国。それはシリウス戦役を母体に誕生した星間国家である。
シリウス戦役の後、人類は地球のくびきを脱し黄金時代を迎える。
百年続いたシリウス暦は、宇宙暦へと改定された。それから300年、人類は穏やかな、しかし確実な停滞期に入る。
宇宙暦300年代、新進気鋭の若き英雄がシリウス政界に登場した。彼の名はルドルフ・フォン・ゴールデンバウム。人々は熱狂し、人類社会は彼を中心に新たな開拓時代へと突入した。
フロンティア・エイジ。宇宙暦200年代後半から300年代を指す言葉である。

だが、彼は急進的過ぎた。ルドルフ=地球(圧制)政権という構図ができ始める。それは彼の命まで危険にさらし、彼はニュー・ランド(彼の名づけではノイエ・ラント)にはんば亡命する形で彼の支持者(この時点で数億人、後に共和国全白人人口の半分、数百億)と共に共和国を後にする・・・・・・彼個人の深い憎悪を抱きながら。


それから300年、両者は国力の差もあり何もなかったが、オストマルク大公らの帝位継承権争いが火種となり銀河帝国軍が、協定により不可侵地帯であったイゼルローン回廊を突破、ダゴン星域会戦を契機に両者は戦争状態へと突入した。

そして、150年近い月日が流れた。



アスターテ星域

side キルヒアイス

「星を見ておいでですか?」

赤髪の青年は10年来の親友に声をかける

「ああ、星はいい・・・・・だが」

金髪の青年は途中までは機嫌よく、途中から棘のこもった声で答えた。

「作戦会議で何かありましたか?」

「キルヒアイスは鋭いな」

「艦隊、についてですか」

(でなければ説明がつかないものな)

「そうだ。わざわざ倍の兵力を3つに分派している。シュターデン中将は例のダゴン星域会戦を再現したいのだろうが・・・・」

「もしも敵艦隊が各個撃破に転じたならば、という事ですね」

「エルラッハ艦隊12000隻、ゼークト艦隊13000隻、本体15000隻。どれをとって見ても敵に劣る」

「気にしすぎ、とシュターデン提督に言われましたか?」

「ああ、ついでに俺が同じ中将であるのが気に食わないらしい。指揮官は私だ、とまで言って下さった」

(怒ってるな、これは。心底。)

「ですが、決まってしまったものは仕方ありません。それより策がおありなのでしょ?」

その言葉にラインハルト・フォン・ミューゼル中将はにやりと笑った。

「共和国軍が無能でなければ、武勲を立てる機会が回ってくるかも知れぬな」

(ご自分が戦死する、とはお考えにならないのか)

のちのローエングラム王朝建国者とその最大の功労者はまだ見ぬ敵と古きに固執する味方に挟まれながら星の海を征く。




ところかわり、銀河共和国首都シリウス星系4番惑星シリウス
宇宙艦隊司令部

「まもなく、ですか」

「そうだ、まもなくだ」

「これであの生意気な青二才も終わりですな」

「めったな事を言うものではないよ、准将。我々は彼の友人だぞ?」

「そうでした、友人でした。であるからには・・・・・」

「そう、であるからには、彼の勝利を期待しなければならぬな」

准将と呼ばれた男が声色も変えずに続ける。

「共和国の主要メディアは抑えてあります。二倍の敵に立ち向かうことが如何に愚かな事か。それを宣伝してくれるでしょう」

「よしんば戦わずに逃げ帰ればそれはそれ。それを理由に彼奴らをまとめて更迭できる」

「辺境の分艦隊司令官にでもしますかな」

「さて、な。まあ国葬あたりが妥当だろう」

「奇跡の魔術もネタ切れであると思いたいものです」

アンドリュー・フォークは心のそこで思った。
自分こそ英雄にふさわしい。分裂した銀河を統一するのはヤン・ウェンリーなどという冴えない男ではなく共和国士官学校主席卒業の自分にこそふさわしい、と。

ラザール・ロボスは思った。これであの小生意気で目障りな大将を排除できる。万一勝利したならば、異例の上級大将昇進もありうるが・・・・まあ、2倍の敵に3方向から包囲させるようフェザーンを経由して小細工したのだ。負けてもらわねば困る。シドニー・シトレ。やつを蹴落とすためにも。


side フェザーン自治領

禿の男といかにも神経質そうな男の二人が、一目見て安物ではない、豪華なインテリアに囲まれている部屋で話し合っている。
一人は第四代フェザーン自治領主、アドリアン・ルビンスキー、もう一人は首席補佐官のボルテックである

「共和国の件はそれでよい。イゼルローン陥落以降、共和国は些か図に乗りすぎている」

「はい、此度の遠征で2万もの艦艇を失えば暫らくは大人しくなるでしょう」

「国民感情もあるしな」


フェザーン自治領は今から100年ほど前に地球出身の商人にして共和国中央議会代議員でもあったレオポルド・ラープが共和国、帝国双方に合法・非合法の各手腕を用いて建設した事実上の独立国家である。国防兵力として約二個艦隊を保持し、帝国、共和国間の交易を独占すること、過剰な反応を両陣営から買わぬことを念頭に今日では共和国・帝国・フェザーン=6・5・2の微妙な均衡を維持してきた。

「ですが、自治領主閣下。」

「ん?」

「あのイゼルローン攻防戦があったからこそ帝国は曲がりなりにも共和国と対等であった訳で、要塞が落ちた今となっては・・・・」

「均衡が崩れつつある、と言いたいのだな?」

「ケッセルリンク補佐官のレポートでは既に共和国6・帝国4・フェザーン3となっております。このままですと」

「うむ、共和国が帝国を併呑するのではないかと、そうなればフェザーンの価値も急速に薄れるのではないか、そう言いたい訳か」

「ご明察、恐れ入ります」

「なに、案ずるな。その為に帝国に共和国の情報を流したのだ」

(もっとも、あの艦隊はヤン・ウェンリー指揮下の艦隊。はたしてロボス元帥の思惑通りに行くかな?)


side 銀河帝国 フリードリヒ4世

「此度は勝つか」

やる気のない、といわれならがこの数年間貴族の自尊心をくすぐり平民への重税を課すことなく共和国の侵攻に対応してきたフリードリヒ4世が国務尚書リヒテンラーデ侯の報告を受ける.
この灰色の皇帝とまで言われた彼がやる気をだした、と、言われるようになるのはヤン・ウェンリーのイゼルローン陥落以降断続的に行われてきた共和国軍による帝国領侵攻作戦に端を発した。イゼルローン要塞建設の契機はブルース・アッシュビー貴下の宇宙艦隊による侵攻、いわゆる第二次ティアマト会戦まで遡る。
共和国軍に惨敗した帝国軍は恐れた。大規模な侵攻を。如何に多産政策を奨励したとはいえ絶望的な国力差は変わりはしない。故に恐れた。
結果論ではあるが、帝国の不安は杞憂に終わる。
共和国が本気で攻めて来ないのは、攻めた場合の犠牲、全土制圧成功時の経済的な負担と増税(何せ英語(銀河語)とドイツ語(帝政ラテン語)と言語に通貨、標準規格まで全て違う)、それによる有権者の反発を恐れてのことである。
また、時の為政者ら、つまり共和国議員達が、言葉にはしないが帝国下級貴族の持つ『高貴なる義務』の名の下に行われる無軌道なゲリラ戦を恐れたのだ。


「真に。陛下の温情で軍部も二倍の艦艇を動員できました」

「これで勝てぬようではゴールデンバウム王朝も終わり、という訳じゃな」

(国運をかけ軍事費の半分を投入し、その建設過程で失われた艦隊10個以上。そのイゼルローン要塞が無欠占領されるとは・・・・四半世紀もの間、国力に劣り、政治的に相容れぬ我が軍の攻勢に耐えてきた共和国のフラストレーションは如何ばかりの事か・・・・)

「陛下!?」

「なに、冗談よ」

(もっとも、こんな腐敗した国なぞ滅びても良いのやもしれんがな)

「それより此度の情報、妙に的確すぎる。フェザーン以上に共和国にも網を張るよう軍部に通達せよ」

(・・・・フェザーン。共和国は大義名分がなければ軍事侵攻できぬ。となれば彼奴らの存在が第二のイゼルローンとなるやもしれぬ。そして共和国内部の不協和音・・・・まだ滅びるにはいかぬ。まだ、な)

「御意のままに」

フェザーン、共和国宇宙艦隊司令部、銀河帝国、それぞれが第13艦隊の敗北を予見しながらアスターテ会戦の火蓋が切って落とされる。それは停滞の終わりであり、新たな英雄たちの登場でもあった。



[21942] 第三話 アスターテ前編
Name: 凡人001◆98d9dec4 ID:4c166ec7
Date: 2010/09/17 17:07
さて、アスターテ星域会戦の前に銀河帝国設立を振り返ってみよう。ルドルフの築いた帝国は100年ほど共和国の探知外に存在した。
彼らの言う長征1万光年は伊達ではなかった。以後国家建設と打倒共和国を合言葉にゴールデンバウム王朝の黄金期が始まる。
彼らはヴァルハラ星系第3惑星に首都「オーディン」を築き上げた。

またノイエ・サンスーシに代表される古典的な建物は、宇宙暦550年代に登場し、580年代に成熟した政治家、共和国再興の父アーレ・ハイネセンによる対外宥和政策の間隙をもって建設されている。

何故ルドルフはイゼルローン回廊開拓に成功したのか?
それは、彼個人が一種の株式の株券でありヒーローであったからだと言われている。
長征において幾人もの人々、支持者を失ったルドルフではあったが、共和国に残した親ルドルフ的な政治的な基盤、軍部からの支援、企業や民間支持団体からの大規模な援助はイゼルローン回廊開拓に大きく役立った。
確かにルドルフ=地球政権という構図があったが、それを信じない人々も存在し、サルガッソスペースより先に存在するであろう恒星系に莫大な富を夢見た人々がいたのだ。
そんな彼らの欲望、あるいは願望を利用したルドルフは驚くべき程の犠牲の少なさで宇宙の暗礁宙域を突破した。
・・・・・そして、自らの痕跡を抹消し一切の連絡をたった。
余談だが、このルドルフ艦隊消失事件は共和国国内に大きな波紋を呼んだ。
彼らが数億の民と共に全滅したのだと考えられ、ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムは国葬を持って処遇された。
なお、大規模な資金援助をした団体の半数は倒産や解体を余儀なくされルドルフ不況というべき状態に共和国は入ってしまう。

やがて銀河帝国と銀河共和国が接触すると共和国の市場開拓、経済原理という状況と負い目もあった事から数十年の蜜月時代を迎える。

接触時、銀河共和国大統領を務めていた第二の国父アーレ・ハイネセンはこう語ったという。

「我々の先祖は罪深いことをした。いくら急進的とはいえ、その思想を持って個人を抹殺するなど民主主義の行うべきことではない。失意の中に消え去った彼、ゴールデンバウム氏の為にも、また我が国民にいらぬ犠牲を出さぬ為にも我々は銀河帝国と不可侵協定、ならび相互通商条約を結ぶべきであろう」




宇宙暦796年 アスターテ星域

side ヤン

第13艦隊は勝利を収めつつあった。
ヤンの構想どおり比較的近距離にいたエルラッハ中将の艦隊は約1.6倍の第13艦隊の強襲をうけ前方集団3000隻が瞬時に壊乱、その後艦隊中枢に第13艦隊得意の一点集中射撃を受け指揮官であるエルラッハ中将が戦死、その後は残敵掃討といって良い段階まで追い詰められていた。

(・・・・そろそろ頃合か)

「グリーンヒル大尉」

「はい、なんでしょう?」

「敵艦はあとどのくらい残っている?大雑把な数で良いんだ」

「そうですね、報告によりますと残り2000隻程、更にその半数が損傷しているとの事です」

「そうか、ならば良いか。ムライ参謀長」

「ハッ」

「アッテンボロー少将達に連絡。フィッシャー少将の指導の下艦隊を急ぎ再編せよ、とね。」

「眼前の敵を放置して、でありますか?」

「パトリチェフ副参謀長の意見はもっともだ。でもね、もはや敵は艦隊と呼べるものではない。放置しても構わないさ」

(それにこれ以上の殺戮は無意味だ)

「なるほど」

「それに戦いはまだ3分の1が終わったに過ぎない。更にロボス元帥の厳命でここで引く事も出来ないからね」

「それとだ、グリーンヒル大尉、敵艦隊に向け通信を送ってくれ。内容はこうだ『これ以上の追撃はしない、生存者の捜索・救出と貴官らの退路は保障する』、以上だ」

それから30分、銀河共和国最精鋭と謳われた第13艦隊は整然と列を整え漆黒の中に消えた。



side ゼークト艦隊

「どう言う事だ!! 敵は密集隊形をとり我々を迎え撃つつもりではなかったのか!?」

艦隊司令官の怒号が艦橋にいる幕僚たちに降り注ぐ。

「閣下」

「新任のオーベルシュタイン大佐か。なんだ。何か策があるのか?」

「ハイ。今すぐ艦隊を転進させるべきです」

「窮地にある味方を見捨ててか!?」

「残念ながらエルラッハ艦隊は既に壊滅しているものと思われます。なによりこの『我、敵艦隊と交戦中至急来援を請う』という文ですが、本当にエルラッハ艦隊から発信されているかが怪しいものです」

「卿の意見ではこれは敵の偽電だと言いたいのか?」

「左様です、ここは敵の手に乗らず」

「いや、ここで味方を見捨てるわけにはいかん。唯でさえ国力で劣るわが国が味方を見捨てたとあっては平民階級に動揺が走る」

「しかし、今ここでは生き残ることが最優先。政治的な問題は帰国してからの宣伝でどうとでもなりますまい」

「・・・・だが」

「それに、国力の点をご指摘なさるのでしたら既に一個艦隊を失った以上全軍撤退をも視野に入れるべきではないかと」

「・・・・・・・」

「いや、敵将はまだ若い。それに対してエルラッハ中将は歴戦の勇士だ。今尚彼の艦隊を惹き付けているに違いない」

「閣下! それは希望的な観測に過ぎません。ランテェスターの法則を考えるまでもなくエルラッハ艦隊は」

「もう良い!!全艦全速前進。艦隊の最高速度でエルラッハ艦隊を救援に」

その時、艦橋が揺れた。
そしてスクリーンに多くの光の華が咲いた。

「なんだ、どうしたのだ!」

「左舷後方に敵艦隊。ジャミングが激しくそれ以上のことは分かりません」

「何!」

「閣下、敵はやはり戦場を移動したのでしょう。ここは迎撃を」

「やかましい。言われなくともわかっておるわ」

このやり取りの間にも戦火は拡大していく。
そして義眼の参謀は、最早見切りをつけていた。

(ゼークト提督も所詮この程度の人か)



side 第13艦隊

「よーし、後はドンちゃん騒ぎだ。」

「はは、こいつは良いどっちを向いても敵ばかりだ。撃てば当たるぞ。弾薬を惜しむなよ」

「慌てず、焦らず、敵艦隊の通信量が多い部隊を集中して叩くのです」

第13艦隊は敵の後背を取った。圧倒的な有利の下、ヤンはグエン分艦隊を先頭に突撃を命じた。
それを支援するアッテンボロー、フィッシャーの両艦隊。

「ヤン提督、敵がワルキューレを発進させつつあります」

「了解した、ラップ大佐。各艦に伝達、敵空母部隊に砲火を集中させよ、と」

「ハッ」

(どうもラップに敬語を使われるのは違和感があるな・・・やりにくい)


戦闘開始から1時間後、ゼークト艦隊はエルラッハ艦隊同様の損害を出してしまう。
違うのは指揮官が未だ健在かどうかといった程度であろう。

「敵艦隊司令に連絡を入れてくれ。降伏せよ、しからざれば退却せよ。追撃はしない、とね」



side ゼークト艦隊

「降伏だと!? しかもそれが嫌ならば逃げろだと?馬鹿にしおってからに!!」

「通信相手はヤン・ウェンリー大将です」

「あの、あの、あのヤン・ウェンリーか!!!? イゼルローンのみならずここでも恥辱を受けろというのか!!!」

「か、閣下」

「砲撃だ。これほど無残に敗北して我々はおめおめ帝都には戻れん。よもやここにきて命を惜しむ者はおるまいな」



side 第13艦隊

「ヤン閣下、返信です。」

ラップ大佐が手を震わせながら続ける

「読みます。『汝は武人の心を弁えない卑怯者である、我、無能者とのそしりを受け様とも臆病者と誹りは感受できず。この上は皇帝陛下の恩顧と帝国の繁栄の為全艦玉砕し帝国軍の名誉を全うすべし』以上です」

「武人の心だって!? 臆病者の誹りは受けられないから玉砕するだと!!」

普段のヤンらしからぬ態度に幕僚たちの視線が集まる。

「敵旗艦を判別できるか?」

(死んで詫びるなら一人で詫びれば良い。なぜ部下を巻き添えにする!)

「出来ます」

「集中的にそれを狙え。これがこの戦い最後の砲撃だ」

「照準完了」

「撃て」


ゼークト艦隊旗艦は消滅した。ゼークト提督は戦死し、他の生き残った艦艇も四散して逃げ散っていく。
そんな中、砲撃で撃沈される前に一機のシャトルがゼークト艦隊旗艦から脱出した事を気に留めたものはこの時点では誰もいない

宇宙暦796年1月、アスターテ会戦前半戦と後に言われる戦いは終わった。
これ以上の犠牲を出したくないヤンは、艦隊を帰路に着かせようとしていた。





[21942] 第四話 アスターテ後編
Name: 凡人001◆f6d9349e HOME ID:d7a7faea
Date: 2010/09/17 21:14
『諸君らは共和国を守る精鋭部隊である。民主主義の大儀を掲げるこの国と、第1から第18艦隊までの国防戦力とが共に手と手を取り合えば圧政を掲げる銀河帝国軍の侵攻を跳ね除け、やがては悪の拠点イゼルローン要塞をも陥落させることが出来るであろう。このヨブ・トリューニヒトは諸君らの愛国的な活動を期待するものである』



『アーレ・ハイネセンは確かに偉大さ。だがな完璧な人間がいないように彼も完璧ではなかった。銀河帝国の底力と当時の少数派であったゲルマン系白人民族の鬱憤を軽視してしまった。それがこの戦争の一つの要因さ。もっとも当時の私が同じ立場にいたらやはり和平を選択しただろうよ。何故かって?そりゃあもちろん世論には勝てんからだよ』byホアン・ルイ



『シトレ元帥は仰っていた。我々は偶像と戦っている、とね。わしもそう思う。わしが初陣を飾った第二次ティアマト会戦までは攻勢に転じていたのは共和国軍じゃった。しかし、目先の勝利に拘泥し艦隊増強を行った為、要塞建設という発想の転換を行えなんだ。その結果が6度にわたるイゼルローンの敗北であり、度重なる帝国軍の侵攻であろう。わしの子供の頃は選抜徴兵制度などなかったものじゃよ?じゃがあの要塞が完成させてしまってからそれは開始され、物事は悪い方向ばかりへと進んでいる、そんな気がする』by アレクサンドル・ビュコック



『銀河帝国軍が侵攻してきただと?何かの誤報だろう』byコード・ギアス大統領



『我々は帝国に逆侵攻する必要はないのです、ウィンザー議員。何故なら我が国のほうが人口比で勝り、開拓すべき惑星を多数保有しております。一方銀河帝国は国防に力を傾け内政問題を疎かにしています。もしも我が軍が大挙して侵攻するなら敵を団結させ、更には平民階級への弾圧を招きかねません。また、あの広大な領土を維持するには18個艦隊では絶対数がはるかに足りません。更に言わせてもらいますが、戦勝をもぎ取ることと治安維持は全くの別物であります。小規模ならともかく、5個艦隊以上の出兵は臨時国債などで賄われ財政の悪化につながりますので、民意が納得できる理由が必要です』byシドニー・シトレ



第四話 アスターテ後編


side ラインハルト

「無能どもめ」

おもわず悪態をつく。
艦隊は予想通りに壊滅させられ、残った艦隊は本体15000隻のみ
対して敵は未だ20000隻近くの艦艇が残っている

「これでは話にならぬ」

敵軍が引き返す、という報告を受けたときは何かのデマかと思ったが予想通りデマだった。
おかげで戦場深く誘い込まれてしまったようなもの。

(俺に全軍の指揮権があれば、いや、一個艦隊の指揮権さえあれば必ず逆転させられるものを)

「シュターデン中将は最早正常な判断を下せないものと思われます」

ジークフリード・キルヒアイス大佐が副官として意見を述べる

「キルヒアイスもそう思うか?」

「はい、この期に及んでなお前進命令を出すなど自殺行為です」

「そうだな、本来であればゼークト艦隊壊滅と同時に速やかにオーディンへと帰還するのが『常識』というやつだ」

「それをおやりにならないのは、司令官個人がもはや意固地になっているとしか思えません」

赤毛の親友は正しい。いつも正しい意見を述べる。・・・・述べるが

「ああ、そうだろうよ。だが、だからといって私の指揮下にある艦隊だけでも逃げ出すわけにはいかん」

指揮シートをつかむ手に血管が浮かぶ。
何も出来ない自分への腹立たしさ、将兵への申し訳なさ、宮廷貴族どもの無能さとこの国の理不尽さに怒り、呆れ返っている。

「でしたら、ラインハルト様のなすべき事を為さるべきでしょう」

(こいつは・・・・全く敵わんな)

「キルヒアイス、このメモリーデータを全艦艇に流してくれ。くれぐれも内密に、な」

「畏まりました」


それから2時間後、ラインハルトの下に報告が届けられた

「敵影確認」

(距離800、方位は一時から二時の方向)

「距離900。方位1.25時の方角」

「敵艦発砲!!」


アスターテ会戦は新たな局面を迎えた。



side 第13艦隊 4時間前

「全艦、これよりイゼルローン要塞に帰港する、転進用意」

「帰港されるのですか?」

聞き返すのはパトリチェフ。

「ああ、敵二個艦隊を撃破したんだ。もう十分さ」

(全く、これだけの勝利を得たんだ。もう十分だろう)

ヤンは指揮官席の上に胡坐をかきながら考える。

(ロボス元帥も納得するはずだ。二個艦隊を相手に損害はほとんどなし、対して敵艦隊はほぼ壊滅・・・常識的に考えて十分な戦果のはずだ)

ヤンは人殺しを嫌っている。そんな彼をイゼルローン要塞防御司令官ワルター・フォン・シェーンコップは『矛盾の人』と称している。

だが、ヤンの期待はものの見事に破れる事のになる。
一人の仕官がフレデリカに通信文を渡し、彼女の顔が強張った。

「閣下、その、宇宙艦隊司令部より通信です」

(なんでこのタイミングにこんな命令が? とにかく閣下に伝えなければ)

「なんだい大尉、撤退命令かい?」

フレデリカ・グリーンヒル大尉は無言で首を横にふった

(・・・・・何だか、いやな予感しかしないなぁ)

「読んでくれ。」

「読みます・・・・『敵艦隊を全て殲滅せよ』・・・・以上です」

「全く」

(上層部は現状が分かっているのか!?超能力者でもいるんじゃないのか・・・・いや、実際の戦場の現場をこんなに詳しく分かるはずがない)

(つまり、私は嵌められたという訳か・・・・アッテンボローの言った通りになるとは・・・・まったく)

「了解したと返信してくれ。ああ、それと先ほどの命令は撤回。全軍に通達、最後の戦いだ、死なないように戦い抜こうと激励してくれ」


4時間後

中央から正面衝突したシュターデン艦隊は中央突破戦術と近接戦闘により半壊しつつあった。
そして、戦闘開始から約1時間、イワン・コーネフ、オリビエ・ポプラン少佐のスパルタニアンによる連携攻撃によりシュターデン提督が戦死した。

その報告は即座にラインハルトの下へ届いた。

「キルヒアイス!」

「はい。全艦に告ぐ。これより我が艦隊はラインハルト・フォン・ミューゼル中将の指揮下に入る。全軍C-4回戦を開き即座に行動せよ」

帝国軍が反撃の狼煙をあげんとしていた。

一方この放送はヒューべリオンでも受信された。
急速に穿つ共和国軍、分裂していく帝国軍。一見すると勝利は確実なものとなったかに見えた。

「・・・・脆すぎる」

ヤンが何か引っかかりを覚えた頃、各分艦隊司令官達も同じ様な感触に囚われていた

「どういう事だ、何故敵の反撃がこうも薄い!」

「やれやれ、何かこうラップ先輩やヤン先輩の予想とはかけ離れてないか?」

「予想では死兵になる前に片をつける筈・・・・それが」


・・・・その頃、ラインハルトの旗艦では・・・・

「どうだ!!」

「はい、我が軍は敵に分断させつつあります」

「よし、今だキルヒアイス、全艦全速前進!!敵の後背に食らいつけ!!」


・・・・ヒューベリオン・・・・

「っ、しまった」

「閣下! 敵が、左右に分断した敵が我が方の後背にくらいつつあります」

「反転、いいや、待て。ヤン提督、このまま時計回りに前進。さらに敵の背後を突くべきです」

「ラップ参謀の言うとおりだ。全軍に厳命、時計回りに敵艦隊後背へ食らいつくように。なお、敵前回頭は慎み防御に全力を注ぎ込むべし、だ。急いでくれ」


更に2時間、両軍は二つの蛇がお互いの尾を食らい合う陣形になった。
そして消耗戦を嫌った両者はお互いが息を合わせたかのように兵を引いていく。

・・・・・そんな中・・・・・・

「閣下、敵艦隊司令官ラインハルト・フォン・ミューゼル中将から通信が入っています。如何為さいますか?」

「・・・・・・・・・・」

ヤンは熟考の末、決断した。



[21942] 第五話 分岐点
Name: 凡人001◆f6d9349e HOME ID:4c166ec7
Date: 2010/09/18 20:34
『お前たちを叩きのめしたのはこのブルース・アッシュビーだ。そして次に叩きのめすのもブルース・アッシュビーだ。よく覚えておけ』



『我々は屈しない。銀河共和国から苦節1万光年、ついに我々は新天地を得たのだ。余はここに銀河帝国ゴールデンバウム王朝の成立を宣言する。そしていつの日にか必ず正当な支配者として共和国を僭称する輩に反撃するであろう』byルドルフ・フォン・ゴールデンバウム



『帝国は怖いのさ。自国の権益を我ら共和国が全て掻っ攫うのではないかとね。だがな、それも仕方ない。圧倒的、とまではいかないが国力の差は歴然としているし、なにより人口差が違う。貴族制という一種の専制政治は確かに効率の良い制度だ。その結果ルドルフの作り上げた帝国は、軍事面において我が国とほぼ互角といって良い・・・・もっとも、我々が限定戦争を望んでいるのに対して向こうは常時戦時下のようなもの。いずれ破綻するのは目に見えている。だから大規模な出兵などする必要はないし、イゼルローン要塞が落ちた今、選抜徴兵制度も廃止すべきなのだ・・・・・まあ、人口差を10対5にまで埋めた歴代皇帝の多産政策は賞賛に値するがな』by ジョアン・レベロ



『イゼルローン要塞は陥落した。それも半個艦隊で。成功させたのはヤン・ウェンリー少将。これで我々は帝国領土へ約30年ぶりに侵攻できる。宇宙暦795年1月は記念すべき年月となるだろう。彼を二階級特進させ軍を嗾けさせよう。彼に、魔術師ヤンに続け、とね。そうすれば戦略的劣勢で戦力を削がれてきた軍部のことだ、喜び勇み出兵命令に賛同するであろう(そして再選だ)』byラザフォート大統領



第五話 分岐点

第13艦隊は凱旋の途上にあった。三方向から包囲されながら2個艦隊を殲滅し、更にもう1個艦隊を半壊させ味方の損害は1割にも満たない。まさに、圧勝である。
それは初期の予想を大きく裏切る形であった。
特にダゴン会戦の勝利の再現を目論んだフェザーン、共和国軍首脳部、帝国軍の者達にとって凶報以外の何者でもない。



「全艦警戒シフトに移行」

ムライ参謀長の命令が各艦に伝達される。

「各艦はフィッシャー提督の命令に従い、秩序ある行動を行うように」

当たり障りのない命令。弛緩した空気。
誰も彼もが笑顔を浮かべ、今日生きていることを喜んでいるようだ。

(無理もない)

ヤンは思う

(本来なら殲滅されるのは私たちの筈。それが逆に敵艦隊を殲滅した・・・人事でなければ私だって無邪気に喜べただろう・・・)

ヤンの思考は続く

(しかし、それでも私は喜ぶことは出来ない。1289隻、戦死者13万17名。帝国軍の方はざっと400万はくだらないだろう)

(そして私はまた偶像にまつり上げられる。英雄という名の監獄に・・・)

(・・・そんな私が・・・)

「参謀長」

「何でしょう?」

「私は数時間ほど私室にもどる。何かあったら連絡をくれ」



side フレデリカ・グリーンヒル

化粧室の前で念入りに彼女は化粧をしていた。
それはこれから彼女自身の一世一代の賭けに出ようとしていたからだ。

(思えば14年前から私はあの人に憧れ、恋してきた)

14年前、宇宙暦782年、帝国軍が威力偵察兼労働階級確保(共和国内部では組織的拉致行動として強く非難されている)を目的とした軍事行動に出た。目標は共和国外縁恒星系エル・ファシル。参加兵力は一個分艦隊2000隻
無論、反撃した共和国軍であったが、アーサー・リンチ司令官は戦闘途中にエル・ファシルに帰還、指揮系統を失ったエル・ファシル駐留軍2000は壊乱してしまう。
そんな混乱の中、任官して一年の若い中尉が民間人脱出計画の最高責任者となった。
一方帝国軍は慢性的な労働力を少しでも増やし、各貴族領土の荘園に働く平民階級を手に入れるべく艦隊を増派。戦力比は1対5にまで膨れ上がりエル・ファシル駐留軍は玉砕か撤退か、降伏を迫られることになる。

(そしてみんながパニックに陥った・・・・大人で冷静だったのはあの人くらいの者かしら)

パニックに陥った市民をなんとかなだめる新米の中尉。
一方でリンチ少将は一部司令部幕僚ともに独自に脱出計画を進める、それはあまりにも常識的な、故に帝国軍にも察知される行動であった。

(・・・・あの日に遡る・・・・あの人の初めての奇跡の日を)

司令官敵前逃亡。その報道はエル・ファシル全土に駆け巡った。
そしてそれを待っていたかのように中尉は動いた

『お静かに。何、司令官が一部の幕僚と共に逃げただけです。それよりみなさん、我々も脱出します。急いで割り当てられた便の船に乗り込んでください』

脱出船団は対レーダー装置を働かせる、という固定概念とエル・ファシル惑星上に展開した500隻あまりの無人艦隊に気を取られ見事民間人400万人を脱出させる事に成功した。それは一人の英雄の始まりであり、いまや偉大な英雄となった者の第一歩であった。


そして、現在。フレデリカは司令官室の前まで来た。

『ヤン司令、この会戦が終わって生きていることが出来たならお話をさせてもらってもよろしいでしょうか?』

返ってきた答えは『YES』

アラームを押す。程なくして『どうぞ』という掛け声が扉越しに聞こえた。



side ヤン

『卿が、あのヤン・ウェンリーか。卿らのアスターテにおける各個撃破の活躍は見事である。私が国政の全権を掌握した暁には良き関係を築きたい』

『また、共和国が攻撃せぬ限り、こちらからも攻撃はせぬ様、ラインハルト・フォン・ミューゼルの名で確約しよう』

『卿らの勇戦に敬意を評す。お互い再戦の日まで壮健でいたいものだ』

(敗軍の将の中にこれほどの器の持ち主がいたとはね)

あの通信で初めて話した相手。ラインハルト・フォン・ミューゼル。
まさか自分より若い若者が艦隊司令官とは思わなかった。
そして匂わされた野心も。

(たった数言の会話の中で彼は私に伝えた)

(いずれゴールデンバウム王朝は自分の手で滅びるであろうと)

灰色の頭脳と呼ばれた彼の知略は、若い金髪の司令官の思考を読み取った。

(大胆な青年だ。如何に言葉を選んだとはいえ不敬罪とやらにあたるかもしるぬというのに)

その自身の表れにも驚嘆させらる他なかった。

(全く、味方には嫉妬されるは敵には賞賛されるは・・・・普通逆じゃないのかい)

その時アラームがなる。
心当たりは・・・・・ある。

(グリーンヒル大尉・・・だな)

「どうぞ」

『失礼します』

ドアが開き、グリーンヒル大尉が入ってきた。
その瞬間、あのヤン・ウェンリーが、色恋沙汰にそれ程縁のなかった灰色の頭脳が直感を感じた

(・・・・私もどうして・・・・度し難い低脳だな)



side フレデリカ

鼓動がとまらない。こんな事は初めてだ。

「あ、あの」

ヤンは何もいえない。何故ならサーブを打つ権利は彼女にある。
アスターテの前夜、わざわざヤンを捕まえて話があるといったのは彼女だったのだから。

「閣下」

「・・・うん」

「わ、私と、その、あの、えっと」












「私と付き合ってもらえませんか!!」

(言ってしまった!!)



side ヤン

(やはり・・・・・そういう話題か)

「あの?」

グリーンヒル大尉の思いは知っていた。知っていた上で躊躇してきた。
はっきりと分かったのはイゼルローン攻略戦後だった。
そして、今、自分の気持ちに嘘をついてきた、あるいは向かい合わなかった報いを受けているのだろう、ヤンはそう思った

「グリーンヒル大尉」

「ハイ」

彼女の声が震える。顔が強張る。

「私は人殺しだ」

彼は言い放った。まるで断罪を望むかのように。

「それに、生活能力はないし、見ての通りさえない人相だ。しかも政敵もいる・・・・・そんな私で本当にいいのかい?」

(私の心は決まっていたんだな。彼女と再会してから・・・・ずっと)

それは彼女のもっとも聞きたかった言葉

『私でいいのか』



side フレデリカ

「はい。そんな貴方だからこそ、私はここにいます」

そして彼女は驚くべき事実を告げだした

「実は今回の出兵に対して父から艦隊を降りるよう申し付けられました。『もはや命令の撤回は叶わぬ、ロボス元帥はヤン提督を生贄にするつもりだ』と」

彼女は続けた。たった今、自らの伴侶に選んだ人物に。

「父は続けてこうも言いました『卑怯者と罵られようとも構わない。恨まれても構わない、だからお前だけでも』と」

それは父が、ドワイト・グリーンヒルが全てを捨てる覚悟の発言であり行動であった。
そこまで娘を想う父親の気持ちを振り切ったフレデリカにヤンは改めて問うた。

「何故、残った?」

と。

「決まっています。どうせ死ぬのなら貴方と一緒に死にたかったからです」

その言葉と共にフレデリカはヤンに抱きついた。
そして口付けを交わす二人。
ヤン・ウェンリーは生涯のフレデリカ・グリーンヒルという伴侶を得た瞬間である。




このときを後世の歴史家はこう批評する。
「ヤン・ウェンリーが政治の世界を目指すきっかけのひとつは間違いなくこの出会いであったろう。彼は守るべきものが出来た。正確には増えたというべきか。どちらにせよ政敵から自分の大切な人々を守り通す力を彼は手に入れざる負えなくなったと言ってよい。その事はフレデリカ・グリーンヒルに告白された当時のヤン・ウェンリーには分からなかった。だが、嫌でも分かることとなる。それは別の男との出会いによってもたらさるのだった」



[21942] 第六話 出会いと決断
Name: 凡人001◆f6d9349e HOME ID:4c166ec7
Date: 2010/09/19 07:25
『ユリアン、アーレ・ハイネセンの一番の功績は何だと思う?』

『帝国と争わなかった、でしょうか?』

『そう。彼はわかっていた。新興国とはいえ貴族制と専制制度を両立させた国が、国力差が著しい共和国の、特に沸騰した国民世論の前と総力戦体制に移行すれば帝国は勝てないであろう事を。』

『ですが、ヤン提督。僕たちはまだ帝国と戦っています。それはどうしてでしょうか?』

『一般的にはルドルフの怨念といわれているけど私は違うと思う。まず帝国は恐怖から戦っていると思う。特に大貴族にとっては負ける事=処刑される事だと思っているんじゃないかな?もちろん、口には出さないけどね。だから最近のイゼルローンを進発した艦隊が何度も足を止められているんだろうね。そして帝国が当初の予想以上に艦隊を動かせるのは、軍部が貴族の援助を受けていて、それを使った皇帝が軍を強化している、そんなところかな』

『でしたら! 尚のこと帝国を打倒しなければならないのでは?』

『そう、問題はそこだ。ユリアン、思い出してごらん。接触時の平和は何十年続いた? そのときの共和国の繁栄はどうだった?』

『・・・・・第二の黄金期、そう学校で教わりました』

『そう、第二の黄金期だ。人類は争うことなくそういった価値あるものを手にいれられる、そう私は思っている』

『では提督は銀河帝国と和平を結ぶべきとお考えなのですか?』

『いや、今は違う。少なくともゴールデンバウム王朝の現体制が継続するなら和平は結べないだろうし、結ぶべきではない』

『それは?』

『軍産複合体』

『・・・・・軍?』

『簡単に言うとね、共和国内部で軍隊に利権を持っている人々の集団のことさ。大は軍艦の建造会社から小は統合作戦本部のコーヒーショップの店員まで。彼らの職を斡旋できないと議員でも大統領でも次の選挙で劣勢になるか失職する。特にタカ派の議員は、ね。私の危惧はそれなんだ。仮に現時点で講和を結んだとしても銀河帝国は鎖国してしまうだろう。そうなると交易・貿易対象として意味がない。第二次黄金時代は銀河共和国と銀河帝国との共存と貿易、帝国領土の開発でなりたった。民需に関して言えば共和国産のほうが優れている。私の予想ではフェザーンの様に貿易で儲けることで戦後不況を乗り切れると考えている。ところが、55億の人口を持つ国家が一方的に鎖国するとそれは起きない。つまり貿易による失業回避という代替案にならないんだ。そして不況で職を失う人々が街に溢れれば旧暦(西暦)1900年代のファシズムのような国粋主義の台頭を生むだろう。そして、また戦争だ。経済を回らせるための、終わらせるつもりのない、無計画な破滅へと続く戦争だ・・・・そう丁度今のようなね』

『・・・提督』

『軍人では戦争を終わらせられない、そいつは分かっている。だけど、政治家になっても戦争を終わらせる環境にもっていけない。イゼルローンを落とせばこちらの負担が減るかと思った。だが、甘かった。見通しが甘すぎた。軍内部は私のような若造が大将閣下になっているのがよほど気に食わないらしい。私に続けと煽られて既に3度も出兵している・・・・大規模な敗北も占領もなかったから良かったもののもしも広大な占領地を持ち、それ全土に焦土作戦を取られていたら・・・・大敗北をきしてより軍備に経済が依存するような事態になればと思うと・・・・正直ぞっとするよ』



第六話 出会い


フレデリカとヤンが熱烈なキスを交わしていた頃、ジャン・ロベール・ラップは頭を抱えていた。
捕虜の一人が面識を求めてきている、という報告をアッテンボローから受け取ったのだ。
ご丁寧に護衛つきでトリグラフからヒューベリオンに送るとも付け加えて。

「はぁ、なんでまた一介の大佐がこんな情報を知っているんだ?」

彼が目を通しているレポート、それにはロボス元帥が裏で情報を帝国側へ流した状況証拠が多数書かれていた。

「会わせない訳にはいかないだろうけど・・・・いま会わせるのは・・・・でも」

ラップは気付いていた。
あの親友に春が訪れるのではないか、特にグリーンヒル大尉の唯らなぬ様子。
そしてヤンの普段では考えられない、だがよほど注意しなけば分からぬ態度、それを長年の感が感じ取った。

(はは、これを邪魔したら正直銃殺ものだな)

「だが、そうとばかり言ってられない。」



side ???

(どの艦も私のシャトルを拾わなかったのは予想外だったな)

男は無機質な目で自分に与えられた個室に目を見やる。

(まあ、あえて火中の栗を拾いたがる者はおらぬ、ということであろう)

出された食事に手をつける。
それは先ほど通った士官食堂のレパートリーと同じものだった

(共和国は平民・貴族の差別はないと聞くが本当のようだ)

もくもくと食べる捕虜に、ある種の感動を覚える兵士もいる

(毒殺を恐れないのか?)

(ここは敵艦だぞ?その上ヤン提督を呼びつけておいてこの態度は一体なんだ?)



side ヤン

フレデリカと熱い包容を交わしているところに端末に無線が入ってきた。
正直無視をしたいがそうは言ってられない

(すまないね、大尉。続きはまた今度だ)

ヘイゼルの瞳はまだ物足りなさを感じていたが、流石に軍務中であることを思い出したのか、慌てて離れる。

「し、失礼しました」

思わず頭を下げるフレデリカ。
それを困ったように見つめるヤン。

「いや、そのね、僕たちはもうそういう関係なんだからプライベートの時はそんな風にしなくても」

このあと数分間二人は謝り合戦を続けた



side ラップ

(・・・・いい加減出ろ)

こめかみに青筋を立てながら電話する。
確かに内線番号は合っている。居るのも分かっている・・・・・あとはそこで何をしているか。
怒りを通り越して呆れて来た。

(はぁ、本気で銃殺されそうに思ってきた)

やっと繋がった。

「ヤン提督、捕虜の一人が面会を求めています。興味深い資料をお持ちのようですので是非会って頂けませんか?」

新しい出会い。
人は出会い、別れを繰り返す。そんな中、一人の人間との出会いが、その人物の進路を決めてしまう事も往々にしてある。

『分かった、彼を司令官室に通してくれ』



side ヤン

『彼を司令官室へ通してくれ』

連れて来られたのは如何にも参謀です、といった雰囲気を醸し出す男だった。
堂々としてはいるが、威風を感じないのは何故だろう?

「貴官の名前を聞く前に、こちらから自己紹介しよう。私がヤン・ウェンリー。階級が大将で・・・彼女が」

「フレデリカ・グリーンヒル大尉です」

二人の挨拶にとくに感銘を受けた様子も、恐怖した様子も、憎悪した様子もなく彼が会釈する

「銀河帝国軍ゼークト艦隊情報参謀パウル・フォン・オーベルシュタイン大佐です、お初におめにかかります」

「それでオーベルシュタイン大佐は私に何を提示してくれるのかな?」

「その前にお人払いをお願いします」

「ここには私と大佐と大尉の3人だけだが?」

ヤンの問いに男は淡々と答えた。

「そう、グリーンヒル大尉がいらっしゃる。私の記憶で間違いがなければ総参謀長ドワイト・グリーンヒル大将殿の娘が」

ヤンの顔に嫌悪感が浮かんだ

「つまり、政治的な話だと、そう言いたいのかい?」

「ご明察恐れ入ります」

両者はなにも言わず視線をぶつける。
だが、先に折れたのはヤンの方だった。

「大尉、その、すまないが・・・・」

「はい、隣室に控えさせていただきます」

フレデリカの姿が完全に消え去った頃合をみて語りだす。
そしてヤンにラップに見せたものと同じ報告書を渡す。
それを熟読するヤン。今までもこの捕虜と面会してから緊張のしっぱなしだった。
それが今まで以上に顔が強張る。

「ヤン提督、貴方は非常に難しい立場に立たされているようですな」

そこにはヤン・ウェンリー謀殺の為に上官たるロボスがフェザーン経由で流した事を裏付ける資料があった

「貴官は一体どこでこれを?」

「アスターテに出兵する直前に担当の各将官、参謀に配布された資料です。容易に手に入りました」

「どう、しろと?」

「もはや知らなかった、では済まされますまい。それに薄々感づいておられた筈です。この会戦には裏がある、と」

ヤンは何も言わない。ただ無言で続きを言うようオーベルシュタインに求めた。

「それは貴方を謀殺ないしは敗北させることです。その状況証拠に今回の出兵では我が国は非常に詳細なデータを手に入れれました」

「ヤン提督、貴方の人となりはわが国でも研究されてきました。とうぜんですな、あのイゼルローン要塞を無血占領されたのですから」

「そこから導き出されたのは、お人よし、という事です。政治的野心も表面上は見えない」

ヤンが口を開く

「ああ、そうかもしれない。それで良いんじゃないか?誰にも迷惑はかけていないし」

彼は首を横にふった後、発言した。
それはヤンの隠れた本心を見事に突く発言だった。

「嘘、ですな。貴方は自責の念にとらわれている。自分についてきた部下に対して謀略に巻き込まれたのを許せない、そう思いのはずだ」

ヤンは薄気味悪さを覚えた。

(何故だ、何故この男はこうも簡単に自分の懐へ入り込んでこれる?)

何故、自分の懸念をこうも的確に当ててくるのだ?

その時、何を思ったか、オーベルシュタイン大佐は片目に手をやった。

・・・・そして

「ご覧の通り、私の両目は義眼です。弱者に生きる資格なしとしたルドルフ・フォン・ゴールデンバウム時代に生まれていれば生まれた直後に抹殺されたでしょう」

「お分かりですか? 私は憎んでいるのです。彼が築き上げた帝国を。」

ヤンが口を開く。

「・・・・・・それを撃ち滅ぼす為に私に手を貸せ、そう言いたいのかい?」

彼は我が意を得たとばかりに頭を下げる。

「御意」

続けてヤンは、自分を襲う何かから逃れるように話を続けた。

「だが私は一介の大将に過ぎない。共和国大統領でも中央議会議長でもない、何より私自身が政敵に暗殺されるほど立場が弱い。なにより私は退役するつもりだ。貴官には悪いけどこの戦いで帝国軍は浅くない傷を負った。その回復には相当な時間がかかるだろう。だから私は悠々自適な予備役生活を・・・・」

そこでオーベルシュタインが手を挙げる。そして発言を求めた。
次の瞬間、ヤンは凍りついた。

「選抜徴兵制度、そしてその対象者ユリアン・ミンツ。これらを無視して退役されるとは思えません」

(っ、どこまで知っている!?)

「・・・・・・・・・・」

沈黙。

「・・・・・・・・・・」

口を開いたのはオーベルシュタインだった

「私を買っていただきたい。貴方を、貴方の敵から守るため。そして貴方を覇者にする為に」



その後、公式にはパウル・フォン・オーベルシュタイン『少将』が自由意志で銀河共和国へ亡命し、ヤン・ウェンリーの権限で共和国情報部第三課「国内諜報部門」の局長に就任させた事が記されているのみである。



[21942] 第七話 密約
Name: 凡人001◆f6d9349e HOME ID:4c166ec7
Date: 2010/09/20 14:55
『ここで、銀河共和国の歴史、特に政治制度について述べたいと思う。諸君らに知っていのとおりラグラン・シティ事件をきっかけに4人の建国の父たちが生まれた。それから黒旗軍の活躍により地球正規軍を撃破し、当時、第三次産業の中心であり、持久力の無い地球連邦、その本拠である地球全土を戦略爆撃と戦略封鎖で飢餓に追い込んだ。『我々に殺されるか、餓えて死ぬか、自分で選べ』というある仕官の言葉が地球政権への植民地側惑星の憎悪の深さを物語っている。その後、シリウス暦が採用されるがシリウス暦を採用し続けることが地球政権時代、西暦を採用し続けた事とそれがシリウス単独政権の圧制へと他の星系がダブらせる事を恐れた、時の大統領レギウム・ドラグノフ氏は中央議会に掛け合い、公募した中から宇宙暦を採用する。それが宇宙暦元年であり今から780年ほど前のことだ』

『さて、政治制度であるが、時の4人の英雄がまず参考にしたのは旧暦(西暦)のアメリカ合衆国だった。旧暦1900年代もっとも完成された三権分立を採用することで共和国のなばかり民主主義化を防ごうとし、それは成功した。行政権を握る大統領府、立法権を持つ中央議会、最後の審判にして良識の砦、最高裁判所を設立させた。中央議会の定員は450名。うち150名は75ある各星系(州と呼ばれる事もある)から2名、残り300名は各地の小選挙区制度から選らばる。その為、中央議会は『州民連合』と『自由共和党』の二大政党政治が展開されてきた。そして中央議会には最高評議会と呼ばれる行政への諮問機関がある。これは行政の暴走を防ぐために設けられた機関で中央議会から12ある委員会(国防委員会、人的資源委員会、財務委員会など)の委員長12名から構成され大統領の職権(特にダゴン会戦以降は軍事大権)を1度制限することが可能である。行政権を持つ大統領は直接選挙、任期5年3期までと決まっており立法権を持たない代わりに、議会の提案を一度拒否できる。解任請求は原則されない。また大統領が行う重要な行動は評議会に諮問され、ここで2度否決されるとその軍事行動や提案などは廃案となる。また、現役軍人の入閣や大統領就任は共和国憲章で明確に否定されているが、退役軍人は問題ない。むしろマーシャル大統領の様に大軍を指揮した人間を国民が優秀と判断し、大統領へと就任させた例もある。』

『(故に大統領職は人気職でもあるわけですか、校長。)』

『最高裁判所の役割は民事・刑事・行政裁判を抜かせば違憲審査権にあると言えるだろう。立法府が行う議題、法律が共和国憲章に反する場合に効力を発揮し、それを差止め、棄却させられる。だが悲しいかな、現在の情勢、そうイゼルローン要塞が帝国軍の手にあり、共和国軍は防戦一方のため、違憲審査が行われるのはあまりにも少なくなった。』

『例えば、例の選抜徴兵制度の導入でしょうか?』

『ヤン候補生の指摘は相変わらず毒舌だな。そう、その制度も議会に論争の末可決された。本来なら違憲審査なり大統領拒否権の発動なりがあってもよかったのだが・・・・』

シドニー・シトレ中将による士官学校特別講演会より抜粋。著者パトリック・アッテンボロー 『銀河共和国の矛盾』




第六話 密約




首都星シリウスは勝利の報告に色めきかえっていた。
アスターテの大勝利が伝わったのであり、当然の結果といえよう。


『やってくれました、エル・ファシルの英雄、イゼルローンの奇跡、魔術師ヤンがアスターテで悪逆非道な専制君主の艦隊を撃破しました』

『共和国軍の事前の報道によりますと、2倍の敵から方位され勝った例はないとの事。しかも帝国軍は著作権料を支払わずにダゴン会戦を再現しようとした模様。』

『と言うことは、リン・パオ、ユーフス・トパロフル両元帥以上の活躍と言ってよいのでしょうか?』

『そうですね、史上最年少の大将であり、ダゴンの逆転劇を演出したのですからそう言っては良いのでしょうか?』

『それ以上にブルース・アッシュビー元帥より若い元帥の登場です。本人が聞いたら喜ぶ・・・・』

ブツン。
ソリビジョンの電源が切れた、いや、正確には切られた、というべきか。



side ロボス 

宇宙艦隊司令長官室で苦虫を何十匹もすり潰した顔でフォーク准将を睨み付ける。
そこには第11艦隊ウィリアム・ホーランド中将、作戦部参謀アンドリュー・フォーク准将とロボス元帥の3人がいた。

「どう言う事だ!! 本来であれば逆ではなかったのか!!」

ロボスが怒鳴る。

「そもそも、ダゴン会戦を再現させるよう情報を流させたのは貴官ら二人の為だったのだぞ」

言っていることは責任転換の何者でもない。
確かにヤンが気に食わないことで一致している3人であるが、最初に謀殺を提案し、実行するよう命令したのはロボスだ。

「それが、アスターテでの空前絶後の大勝利。メディアはこぞって元帥号授与を規定事実として報道している」

そう、フォークの流した情報が裏目に出た。
勝利前は反ヤン・ウェンリーと言う様な報道が多かったが、勝利の報告が入るとメディアは一変した。
惑星ネットの批評も批判から大絶賛に変貌している。
これで勲章などで済ませればロボス自身への非難に向かいかねない勢いだ。

「しかも有り難い事に、国防委員会委員長のトリューニヒト閣下まで乗り気と来ている!!」

シドニー・シトレ統合作戦本部長がヤン・ウェンリーの元帥昇進を後押ししているのは分かる。
同じ大将格でありながら、何故だか総参謀長のドワイト・グリーンヒルも親ヤン・ウェンリーだ。
だから二人が賛成するのはわかる、分かっていたが・・・・・

『ロボス君、国防委員会はヤン大将を元帥に昇進させるよう勧告する。これは正式な決定だ』

トリューニヒトがヤンを擁護するとは思わなかった。
彼の思惑はだいたい読める。政治力のないヤンを傀儡にしたいのだろう、と。
だが、パエッタ中将をはじめ軍内部の宇宙艦隊司令官の親トリューニヒト派将校の反発を買うような言動はさけるものと思っていた。
そう考えフェザーンを経由して情報を流したのだ・・・・だが、それが、全て裏目にでた。

「一体全体なぜこうなった!!! 帝国軍は居眠りでもしていたのか!?」

ロボスはこれ以上ヤンを活躍させないため、三人で新たな策謀を開始した。
それは図らずしもヤン・ウェンリーを上らせるための策謀となるのだが、現時点ではそれは誰にも分からない事だった。





side ヤン

『貴方を覇者にするために』

「貴官はいったい何を言っているのか分かっているのかい?」

思わず聞き返す。

(・・・・そうであれ、しかし)

ヤンの中で渦巻く迷い。
足を踏み外しそうな気分だ。いや、この場合は道をそれる気分と言った方が正しいか。

「そうです、私は私自身の目的のため閣下を利用する、閣下は閣下ご自身の身を守るため私を利用する、そういう事です」

(私が覇者になる・・・・それで本当に守れるのか?)

頭の中でぶつかり合う論争。
フレデリカ、ユリアン、アッテンボロー、キャゼルヌ先輩、ラップを初め私を信じて付いてきてくれた人々。ジェシカやシェーンコップのように期待する人々。守りたいもの。

(私はどうしたら良い?)

オーベルシュタインを見つめなおす。
冷徹な義眼には回答が一つだけあった。
ただそれは、ヤンの感じ方とは全く逆方向の回答であった。


「貴官は・・・・・私を裏切らないと確約できるのかい?私が貴官の意にそぐわぬ時は私をも排除する、そうではないのか?」

オーベルシュタインは眉一つ動かさず答えた。

「そうですな、そうなるでしょう」

(言い切ったか・・・・それほどまで自信があるのか)

その時、先ほどまでフレデリカと抱き合っていた感触が急激にもどってくる。

(・・・・フレデリカ)

思い出されるのは養子の笑顔。
大佐、提督、と自分をしたってきた今年16になる少年。

『ヤン提督、僕、軍人になろうと思います。』

(私が反対してもユリアンは戦場に向かう運命にある。あの悪法、選抜徴兵制度がある限り)

ヤンの心は固まりつつあった。
彼に芽生えつつあるのは政治的野心。
その発端は家族を守るため。
たったそれだけをするのに30歳の大将は茨の道を歩まざる負えなくなってしまった。

「やれやれ私は劇薬を手に入れたらしい、それもとびっきりの劇薬を」

皮肉にも動じないオーベルシュタイン。だがヤンはもう驚かなかった。

(まるでドライアイスみたいだな、この図太さは)

「オーベルシュタイン大佐」

「ハッ」

「私を共和国の覇者にする為にはまず何をしたら良いとおもうかい?」

そこで返ってきたのは質問

「失礼ながら、閣下は何が必要だと思われますか?」

ヤンは簡潔にいう。

「停戦、そして講和。ただし、現在のゴールデンバウム王朝以外の勢力と」

ヤンの答えに半ば満足したオーベルシュタインはなお促す。

「さらにあるでしょう。閣下ご自身の身を守るために」

ヤンの顔がゆがんだ。

「・・・・・・・・最低でも宇宙艦隊司令長官と同等になること。つまり元帥号の授与だ」

(いや、それだけじゃ満額の回答にはならない)

「・・・・・・・・そして、親ヤン・ウェンリー派を立ち上げる。」

オーベルシュタインは無機質な賞賛をあげる。

「お見事です、閣下。それに付け加えるならば」

「付け加えるならば、軍内部だけでなく、国民、政界の双方に基盤を持つこと」

さらにヤンは続ける。

「政界への転出。講和の達成。すくなくとも通商条約の締結」

「その理由は?」

「貴官なら、言わなくても分かるだろ?古来より戦争を動かしてきた魔物の一つにして筆頭、経済、さ」



それから沈黙が流れた。



永遠ともいえる沈黙。



そこでヤンは重い口を開いた。


「私が元帥になったら、いや、帰還したら貴官をシドニー・シトレ統合作戦本部長に会わせる。また、キャゼルヌ後方主任参謀やドワイト・グリーンヒル総参謀長にも力をかしてもらう。元帥号を一旦捨ててもこの人事を認めてもらう」

(何故だろうな・・・・こんな陰謀劇を繰り広げるほど私は卑しい人間だったのか?)

オーベルシュタインは相変わらずの姿勢、声色で聞きなおした。
まるで、ヤンが自分が使えるに値する主君であるか確認するかの様に。

「その人事とは?」

今度はヤンも即答した。

「共和国情報部第三課、国内調査・防諜部門、通称パンプキン・シザーズ。そこで貴官に働いてもらおう。共和国は軍事面以外で国内の防諜にあまり力を入れていない」

「理由は簡単。帝国で作れるものは共和国で作れる。しかも帝国が1作る間に、10を作れる計算だからだ」

(ここまで言った以上、もう・・・・・後には引けない)

そして義眼の男が答える。

「そして国内にいるヤン提督のシンパを集め、国内の敵を掃討する、というわけですね」




「・・・・・・・・・ああ」


義眼の男は敬礼をしてその場を下がった。

そしてヤンは、聞こえるはずのない音を確かに聞いた。

それは、自分の背後で扉がしまる、そんな音だった。


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