藤岡弘、
ラストサムライ (01/06)
藤岡弘、
【日本の偉大さに日本人が気付いていない】
屋外の寒波がウソのよう。今年、還暦を迎えるとは思えない“熱さ”を目の当たりにした。
芸歴40年−。国際俳優としての活躍や、文化交流・武道交流で海外を100カ国以上訪ねるうち、「日本の武士道精神、サムライ精神が、世界の多くの人々に関心を持たれていた。日本の偉大さに気付かされた」という。同時に「そのことに、日本人が気付いていない」ことも知ったと熱弁をふるう。
たとえば、84年に主演したハリウッド映画「SFソードキル」では、「米国人と触れ合う中で、それまで培ってきた武士道の精神性や技術が大きな力となった」「誇りを持って対等に接し、そのスピリットを伝えられた」と、懐かしそうな目をする。
日本の偉大さを伝えようと、同じ米国映画「K−2ハロルドとテイラー」では、ラストシーンで日の丸の旗を使うよう監督に直訴、シーンを変えたこともあった。
「戦後60年、資源もない国が奇跡の復活を成し遂げた。それが世界から見て、どれほどすごいのか。私はそれに気付いたが、昨今の日本の若者は欲望や快楽を求めてばかり。周りから見れば、私は変わり種かもしれない。でも俳優という、周りに影響を与える立場にいる以上、そうしたメッセージを送ることにしたんだ」
そんな日本人、特に若者たちに向けたメッセージを凝縮したのが、昨年12月に出版した『愛と勇気と夢を持て!』(ゴマブックス)だ。
「4−5年前の成人式で、真剣を使った試斬をやったら、会場がシーンと静まり返ってねえ。成人式が荒れていた時期だったから、主催者は『これほどに静かになるとは考えられなかった』と驚いてしまってね」
思いは、同世代=団塊の世代にも向けられる。
「次代を背負う若者に生き方を体で見せる責任があるのに、見物人・評論家・傍観者が多すぎる。『あの人のために命を投げてもいい』と思わせるリーダー像を見せている人がいるのか!」
また、昨年、世間をにぎわしたいわゆるIT長者の流れにも、厳しい視線を投げかける。
「財や地位、名誉にうつつを抜かす輩がとても多いが、人間のあり方として滑稽、お粗末。金儲けにしても、右から左へ数字だけが動き、痛みや苦しみ、悩みがない。それだけで天下を取った気になっているのもおかしいし、それを称賛する世の中もおかしいんだ!」
【仮面ライダーは青春の大きな出会い】
記者を含め、「仮面ライダー」を見て育った世代には、こうした硬派な発言が、妙に説得力を持つ。
「周りからは、『何だ、ジャリ番組の人間が何を言ってるんだ』といわれたこともあった。でもね、子供たちには未来がある。世界の子供がヒーローを求めているんだ」
そう話す横顔は、今も連綿と続く仮面ライダーの世界の、初代ヒーローそのものだ。
「青春の1つの大きな出会いだったね。そこで愛と正義と勇気を感じとって、心の中に凝縮しながら演じた。ここまで影響を与えるとは想像しなかったけど。自分のヒーロー・鞍馬天狗に、正義を教えられたように、僕もそれを伝えることに命をかけた。歴史は繰り返すんだなあ」
自身も番組の中で叫んだ「変身!」について、「大切なのは、“心の変身”。僕が講演したり、本を書いたりするのは、そのきっかけ作り。心のチャンネルをオフからオンにする手伝いなんだ」と話す。
「僕にエネルギーを与えてくれるのは、世界中の子供の笑顔」と話し、「ヒーロー映画を作ってみたい。それで還元していければ」という夢をぶち上げる。
「日本中の学校の子供に、できれば国境も越えて世界中の子供に見せてやりたい。これまでに得た物をそういうところに投入できればうれしい」
今年も、さらに熱く燃え続けていきそうだ。
ペン・兼松 康
カメラ・瀧誠四郎