外交部記者会見でのトラブルに思う「どうしてそうなった」

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前回の「あちらが立てば、こちらも立たねばならない訳で。」に続き、尖閣諸島に関するお話で。「39's Giving Day」のBlu-rayの件は、またいつか。

さて、前回も少し書いたのですが、中国の漁船「ミン晋漁5179号」の衝突に端を発したこの問題で、台湾の保釣人士たちが14日未明に尖閣海域まで船を出しました。これに付き添う形で台湾側からは海巡署の船が出て、さらに日本からも海保の巡視船が出たこともあり、現場海域には20隻近い船がいたようです。このいつも通りの「睨めっこ」に対し台湾の外交部は14日、コメントを発表するとともに記者会見を行いました。コメントについては前回拾ったとおりなのですが、今回はまず日本メディアが報じたニュースから、外交部の関係の部分だけを抜粋します。海巡署についてはごめんなさい。

(略)台湾の抗議船が当局の巡視船とともに尖閣諸島に近づき海上保安庁の警告を受けて引き返した問題で、尖閣の領有権を主張する台湾の外交部(外務省)は14日、同庁が抗議船の動きを妨害したとして日本側に抗議したことを明らかにした。海岸巡防署(海上保安庁)も、抗議船が尖閣に向かう場合は今後も同行すると明言。尖閣の火種が波及する形で日台関係が再び冷え込む可能性が出てきた。(略)

尖閣、日台関係に波及 船妨害と日本側に抗議 (日本経済新聞/強調は引用者)

沖縄・尖閣諸島(台湾名・釣魚台)に接近した台湾の抗議船が14日、海上保安庁に航行を阻止されたことについて、台湾外交部(外務省)は同日「不満を表明し、日本側に抗議した」と発表した。また改めて「釣魚台は我々の固有の領土だ」と主張した上で「共同で日台間の相互利益と長い友情を守ることを希望する」と表明した。(略)

台湾:外交部が抗議船航行阻止に「不満」 尖閣諸島接近で (毎日新聞/強調は引用者)

(略)台湾外交部の章計平報道官は、14日の記者会見で尖閣諸島は台湾の固有の領土だとしたうえで、「漁船はわれわれの海域で活動しており、日本側の妨害に抗議するとともに不満を表明した」と述べました。(略)

台湾外交部が日本側に抗議 (NHK/強調は引用者)


他にも共同電の記事なんかもありますが、まずはこの3つだけ。本当は時事通信も探していたんですけど見つからなかったんですよね。なぜこの3つの記事を引っ張ってきたかと言うと、いちばん最後のNHKにもある「記者会見」が問題だったんです。おいらは台北にいる記者の皆さんの取材姿勢を批判するような立場にありませんが、15日の台湾の主要紙は、この記者会見での日本メディアの姿勢を一斉にバッシングします。3紙続けて抜粋して訳すことにしましょうか。上から自由時報、聯合報、中国時報です。

外交部は14日、保釣船が日本側の妨害に遭った件で記者会見を開いた。台湾駐在の日本メディアの記者たちが出席し、気勢激しく迫っていた。台湾と中国とが連携して釣魚台問題で日本に対して圧力をかけているのではないか、というばかりではなく、外交部の章計平・新聞司副司長に対し、釣魚台が中華民国に属する根拠を提示するよう要求した。

日本の記者たちの態度が強硬であったことから、また台湾はなぜ釣魚船の出航させたのかとの質問もあり、一部の台湾記者から反発を招いた。会場の後方からは、「釣魚台はもともと台湾のものだ。なぜ出ていかなければならないのか!」という声も上がった。
中国漁船が釣魚台海域で日本側に拘束された事で、日中関係は緊張している。台湾はこれにやや遅れて歩調を合わせている。日本メディアは章計平に対し、双方が手を組んで日本にプレッシャーをかけているのかどうか説明を求めたが、章計平はその場では関係がないとコメントした。さらにある日本の記者は記者会見の終了後、釣魚台が台湾のものであるならば、なぜ中国漁船が当該海域で漁を行っても、台湾は日本がしているような抗議をしないのかと質問した。
これに対し章計平は、「中国大陸との事柄は両岸関係に属するものであり、その点については回答する権限と責任のある機関から回答する」と答えたところ、日本の記者は不満げに「なら、いっそのこと統一してしまえばいい」と話した。

台湾の記者は、日本の記者の横暴な態度に不快感を覚え、外交部がこうした動きに異を唱えないとなめられてしまう、と多くの記者たちが話し合っていた。

中国と台湾は連携して日本の圧力をかけているのか? 日本メディアが外交部と衝突 (自由時報/強調は引用者)

外交部が14日に行った記者会見には、数十人の日本メディア記者も入っていたが、強い語気で、順々に絶えず質問をぶつけ、中華民国は「我々の尖閣諸島」に主権はないと鋭く質疑を行った。これはその場にいた台湾の記者たちに不満をもたらし、「我々の釣魚台だ」という言葉が口を付き、会場の空気は緊張したものになった。

14日の外交部記者会見は、事前に釣魚台問題について声明を発表することが知らされていた。記者会見が始まる前から既に、日本のメディアで会場は埋まり、日本経済新聞、毎日新聞、時事通信、NHKなどが詰めかけていた。
質問が始まると、日本のメディアは相次いで釣魚台の主権について質問を行った。何度も何度も、問題となっている海域を「我々の尖閣諸島」と形容したので、会場にいたあるテレビ局のカメラマンは耐えかねて「何がお前たちのだ? 我々の釣魚台だ!」と口にした。
日本メディアは繰り返し「なぜ尖閣諸島が台湾のものだと主張するのか、その根拠は何か?」と問い詰めた。外交部の章計平・副発言人も態度を頑なにさせていき、釣魚台の主権帰属について「関係する文献や歴史的資料の中にすべて記載されている」と強調し、日本のメディアに自らそれらを参照するよう求めた。

記者会見終了後も、日本のメディアは章計平を取り囲み、「なぜ中国の漁船が尖閣諸島に入ってきてもあなた達は抗議せずに、我々には抗議するのか?」と質問を続けた。章計平は、その件は両岸関係に関わる事であり、大陸委員会と統一したコメントに拠るべきだと述べた。しかし日本メディアはこれにも納得せず「理解できない」「あなた達両岸は、いっそ統一してしまえばよい。まったく主権は無いのか」などと話した。

日本メディア「台湾に主権はないのか」質問 台湾メディアからは反論も (聯合報/強調は引用者)

(略)しかし、その後の記者会見の中で、外交部は日本の記者から厳しい声を浴びせられた。どうして中国に対しても釣魚台の主権を何度も主張しないのかと問われ、「台湾と中国はいっそ統一してしまえばいいのに」と言われてしまった。

外交部の沈呂巡・政務次長が今井正・交流協会代表を呼びだした前日、中国も釣魚台問題で日本の中国大使に4度目の呼び出しを行っていた。これは我が方が中国と共同戦線を張っていることを示しているのではないだろうか? 外交部の章計平・副発言人は、単に時系列的に見ると偶然の一致があっただけで、我が方と中国大陸は釣魚台問題における動きで「何も関係はないし、何も関わりはない」と強調した。
章計平はまた、沈政務次長が今井代表に会った際、今井代表は「非常に遺憾である」と述べただけで、我が方に「抗議を行うことはなかった」という。(略)

日本の記者が外交部と衝突:中国と台湾はいっそ統一すれば (中国時報/強調は引用者)


3紙とも同様に取り上げている(ただし中国時報は単独の記事ではなく、一連の記事の一部で)点が気になりますね。個人的な感想としては、こりゃ異常事態なんじゃないかと。いずれにせよ、記者会見がかなり殺伐とした状況であったことは間違いないようです。
これが載った15日以降、日本のメディアでこれを報じた記事が無かったので(そりゃ書きませんよ)、「じゃ立てようかな、ブログに書こうかな」と思っていたら、意外なところから日本に伝わる展開に。

2010年9月14日、台湾紙・聯合報によると、台湾外交部が同日開いた記者会見の最中、尖閣諸島問題をめぐる日本人記者の質問に台湾記者が噛みつく場面が見られた。15日付で環球網が伝えた。
記事によると、台湾外交部は事前に記者会見の要旨を「釣魚島(尖閣諸島の台湾での呼称)問題に関して声明を発表する」としていたため、会場には大勢の日本メディアが集結。日本の記者が質問の際、「我々の尖閣諸島」と発言すると、台湾記者から「お前たちのではない!我々のだ」とヤジが入るなど緊迫したムードの中で進められた。
日本の記者から「尖閣諸島を台湾領土だとする根拠は?」との質問を受けた同部の章計平(ジャン・ジーピン)副報道官も態度を硬直化させ、「関連資料や歴史的データに全て記されている。ご自分で探されたらどうか」とだけ答えた。
会見終了後、章副報道官を取り囲んだ日本の記者団から、「中国本土の漁船が尖閣諸島沖に侵入しても抗議しないのに、なぜ日本にだけ抗議するのか?」と質問が飛ぶと、同副報道官は「中台問題に関しては行政院大陸委員会の管轄だ」と返答。記事によると、これに対し日本の記者団から、「訳が分からない」「中台は統一してしまえ」などの声が上がったという。

尖閣問題めぐる日本人記者の質問に台湾記者がヤジ=外交部の記者会見で―台湾紙 (レコードチャイナ)


おおおおお。って、意外でも何でもないですよ。最近だって「今さら菅談話の話でも。」の時にやられてるじゃないですか。菅談話の時と異なり、っていう言い方をすると怒られそうですけど、聯合報→環球時報→レコチャイでも記事の内容は特に変わっていません。あ、環球時報の該当する記事は、「日媒涌进发布会质疑钓鱼岛"主权"遭台记者狠批」ですね。こちらでは中国時報の記事の一部も引用しています。

すると当然の事ながら東亜+でもスレが立つわけで。しかも伸びるわ伸びる。
 【日台】 日本記者「我々の尖閣諸島」→台湾記者「お前たちのではない!我々のだ」とヤジ...外交部の記者会見で [09/16]
 http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1284637405/
 【日台】 日本記者「我々の尖閣諸島」→台湾記者「お前たちのではない!我々のだ」とヤジ...外交部の記者会見で [09/16]★2
 http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1284650148/

さて、近隣諸国が日本に対して好意的ではない発言をすると忌み嫌い、メディアをことごとく叩く東亜+の皆さんはどちらの味方をするのかな、と穿った視線で見てみると......。

2 名前:<丶`∀´>(´・ω・`)(`ハ´  )さん 投稿日:2010/09/16(木) 20:44:32
>これに対し日本の記者団から、「訳が分からない」「中台は統一してしまえ」
>などの声が上がったという。

どうも、臭うな・・・。

【日台】 日本記者「我々の尖閣諸島」→台湾記者「お前たちのではない!我々のだ」とヤジ...外交部の記者会見で [09/16] (東アジアnews+板)


って、そこかよ!
見ていると、どうも「こんな事が本当にあったのか疑わしい」とか「『なぜ中国に抗議しないのか』という質問は核心を突いている」みたいなレスが目立ちますね。あ、お決まりの「本省人どうこう外省人どうこう」「親日がどうこう反日がどうこう」は別にして。
そりゃ記事の中身を妄信しないのは大事だとは思いますけど、その根拠を「中国メディアだから」「日本のメディアが報じていないから」って、おいおい。普段あれだけ日本のメディアをけなしておきながらそれはないでしょうよ。
また、「なぜ中国に抗議しないのか」というのは突っ込みどころではあるけども、「抗議する」にしても「抗議しないことを明確にする」にしても、いずれも両岸関係に大きく影響を与えるわけですから、そりゃ逃げるでしょう。北方領土にロシアビザで渡航しようとする民間人に対し「自粛」を要請するのと同じようなものでしょうか。なので、ある意味教科書通りの返答なのですから「中台は統一してしまえ」というのは「どうかなあ」というのが正直な感想。

領土が絡むとあって双方譲れない立場があるのはわかるんですが、ここまでエキサイトしたということに、台湾の主要3紙に少なくとも「そう取られた」という事に、なんとなく「おや?」と思わざるを得ません。何かボタンの掛け違いというか歯車の噛み合わなさというか、空気にあてられてしまったように見えるんですね。なんとなく。
もともとメディアの世界ではそういう空気だったのかもしれませんが、やはり「どうしてそうなった?」と感じずにはいられません。台湾の人の日本観に影響を与えないといいなあと思うと同時に、その状況が多くの日本人に伝えられていない事にも少しだけ懸念をしてみたり。

例によって無駄に長くなったので、簡潔に事の顛末を把握したい方は、「Zhenyan部落格」の「日本メディア、台湾での記者会見中「いっそ、中台が統一すればいいだろ」と発言、台湾で物議。」でどうぞ。いい加減、他のブロガーさんを頼らず書きたいものです......。

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このページは、◆YAUCHInowAが2010年9月19日 01:53に書いたブログ記事です。

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