【萬物相】精神科の診療

 国立ソウル病院は、国が運営する首都圏唯一の精神病院だ。ベッド数960床を備えるこの病院は、1962年にソウル市広津区に開業して以来、ずっと同じ場所を守り続けてきた。建物が老朽化し、1989年に改築をすることになったが、住民の反対に直面した。「嫌悪施設をほかの場所に移せ」という要求だった。自治体の住民代表が参加する葛藤(かっとう)調整委員会が構成され、昨年4月に病床数を減らし、総合医療複合団地の形態で建て直すという案で合意し、「21年間の争い」にようやく終止符が打たれた。

 昨年、ある世論調査で、韓国の成人10人のうち9人は、うつ病などの精神疾患の症状が現れた場合、治療を受けるべきだと回答した。しかし、実際に自分自身にそのような症状が現れた場合、精神科に行くという人は10人のうち3人にすぎなかった。精神科治療に対する否定的な認識や偏見が存在すると答えた割合は、80%にも上った。韓国は、人口10万人当たりの自殺率が21.5人と世界最高だ。専門家らは、精神科診療に対するマイナスイメージと関連があるとみている。

 精神科では、深刻な精神疾患から不眠症、夫婦の不和、神経性消化不良、青少年の不登校、診療相談、アルコール中毒、うつ病まで広範囲に扱う。症状が軽いうちに早期治療を受ければ、症状がひどくなるのを防ぐことができる。サムスン電子で今年4月から、精神科医師が週に1回、器興半導体工場を訪問し、社員の相談と診療を行うようにしているのも、このような理由からだ。

 最近、大統領府(青瓦台)の人事検証強化のために準備された政府高官候補者の事前質問書に、「精神科治療を受けた経験があるか」という項目が含まれているという事実が明らかになり、問題となっている。大韓神経精神医学会と大韓神経精神医師会が共同で声明を出し、「精神科診療に対する社会的偏見を助長し得る」として項目の削除を要求した。

 政府高官になろうという候補者が、精神的に健康かどうかを確認するのは重要だ。しかし、単純に精神科診療受診の有無を問題視するのは、大きな間違いだ。脳に関する研究が大きく進み、多くの精神疾患は治療法が確立している。風邪や腹痛の際に薬を飲むように、簡単な薬物で症状を改善できる場合も多い。精神科診療を受けることを、まるで大変恐ろしい病気にでもなったかのように見るという認識からまず変えるべきだ。症状があるのに精神科に行かずにいること自体が、むしろ精神疾患だという言葉もある。

趙正薫(チョ・チョンフン)記者

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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