2009年03月11日
夜更け 完成版
男が一人、デッキチェアに座り葉巻を吹かしていた。男はもう、若くはないだろう。七十歳ぐらいだろうか、いくつもの皺が顔や手に見て取れた。折り重なった皺のしたに隠れた彼の目には暗い海面が、そしてそこにぼんやりと浮かぶ月がただただ、映っていた。
そう、ここは南の島の夜なのだ。
じっととした空気。野猿の声。虫達が騒ぎ、波が響く。熱い、熱帯夜だ。その中で葉巻を思い出しては口に運び紫煙をくゆらす外、微動だにしない男はまるで置物ようだった。いや、事実そうであった。男の精神は肉体から離れ、思考していた。
男は考えていた。考えるために此処へ来た。もう何年も男は振り返っている。自らの人生について。
男は小説家であった。
男はいくつもの作品を書き上げ、次々に発表した。作品は世間に認められ、いくつもの名立たる賞を受賞した。もちろん、中には前衛的過ぎるといわれるものがあり、駄作だといわれるものもあり、情緒的すぎるものも存在した。しかし、男の作品は一貫して一歩先の未来をリアルに書き上げ我々読者に警句を発することに徹していた。
男は作品を発表することで世界を救いたかったのだ。
彼の作品を書く動機はただ一つ。多くの人々の笑顔を社会から奪い返すこと。
多くの作家がそうであるように小さい時から厭世的であった。しかし、男はある時こう思った「小説家や研究者、政治家になればこの世の中を少しでも変えられる。そうすれば、少しは自分や周りの人々が笑っていられるような世界になるのではないか」
そして、男は小説家になった。彼の小説は発表するたびに売れた。社会現象を巻き起こした。ある一作は小説を語る上、歴史を語る上で無くてはならない傑作にまでなった。
彼は世界を小説というもので席巻した。
しかし、男は突然作品を書くことを止め、この南の島へ隠居した。
多くの雑誌や出版社、果ては影響を受けた作家から友人まで男を血眼になって捜し、この島へたどり着いたが、彼の姿を見た途端、皆、帰っていった。男からは今までのようなエネルギーが一切感じられなかったのだ。二、三言葉をかけていった者も居たが男は何も答えることはなく、ただじっと海を見つめるばかりだった。
お話は此処迄です。彼の身に何が起きたのか、具体的事象を述べるのも良いでしょうが、彼の感情を書き出すのにそれは必要の無い部分でしょうと思い書き足すのを止めました。 曖昧なぼやっとした空気を楽しんで戴けれ幸いです。
そう、ここは南の島の夜なのだ。
じっととした空気。野猿の声。虫達が騒ぎ、波が響く。熱い、熱帯夜だ。その中で葉巻を思い出しては口に運び紫煙をくゆらす外、微動だにしない男はまるで置物ようだった。いや、事実そうであった。男の精神は肉体から離れ、思考していた。
男は考えていた。考えるために此処へ来た。もう何年も男は振り返っている。自らの人生について。
男は小説家であった。
男はいくつもの作品を書き上げ、次々に発表した。作品は世間に認められ、いくつもの名立たる賞を受賞した。もちろん、中には前衛的過ぎるといわれるものがあり、駄作だといわれるものもあり、情緒的すぎるものも存在した。しかし、男の作品は一貫して一歩先の未来をリアルに書き上げ我々読者に警句を発することに徹していた。
男は作品を発表することで世界を救いたかったのだ。
彼の作品を書く動機はただ一つ。多くの人々の笑顔を社会から奪い返すこと。
多くの作家がそうであるように小さい時から厭世的であった。しかし、男はある時こう思った「小説家や研究者、政治家になればこの世の中を少しでも変えられる。そうすれば、少しは自分や周りの人々が笑っていられるような世界になるのではないか」
そして、男は小説家になった。彼の小説は発表するたびに売れた。社会現象を巻き起こした。ある一作は小説を語る上、歴史を語る上で無くてはならない傑作にまでなった。
彼は世界を小説というもので席巻した。
しかし、男は突然作品を書くことを止め、この南の島へ隠居した。
多くの雑誌や出版社、果ては影響を受けた作家から友人まで男を血眼になって捜し、この島へたどり着いたが、彼の姿を見た途端、皆、帰っていった。男からは今までのようなエネルギーが一切感じられなかったのだ。二、三言葉をかけていった者も居たが男は何も答えることはなく、ただじっと海を見つめるばかりだった。
お話は此処迄です。彼の身に何が起きたのか、具体的事象を述べるのも良いでしょうが、彼の感情を書き出すのにそれは必要の無い部分でしょうと思い書き足すのを止めました。 曖昧なぼやっとした空気を楽しんで戴けれ幸いです。