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【放送芸能】

新たな映像表現創出 活用広がる一眼ムービー

2010年9月18日 朝刊

 テレビや映画、CMなどの撮影で、「デジタル一眼ムービー」と呼ばれるカメラの活用が広がっている。もともとは、写真撮影用のスチール(静止画)カメラに付属する動画機能にすぎなかったが、その映像表現力の高さに、国内外の多くのクリエーターが着目している。 (岡博大)

 「主人公の複雑でデリケートな感情を映像でどう表現するか。作品の性格上、今回初めて試してみたんです」

 こう話すのは、映画監督の西川美和さん。NHKのテレビドラマ、太宰治短編小説集3「駆込み訴え」(衛星(2)、27日午後10時35分)で脚本・演出を担当。キヤノンのデジタル一眼カメラ「EOS 5D MarkII」を撮影に使って、太宰作品の実写ドラマ化に挑戦した。

 ユダの心のうちを一人称で描いた原作の舞台を、現代の女子高生の物語に置き換えた。「一ミリずれると違ってくる繊細な感情のブレが、5Dの“ぼけ足”(被写界深度の浅さ)を使って表現できた」と西川さん。今回、あえて完全にはピントを追わなかったという。

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 デジタル一眼カメラにハイビジョン動画機能が搭載されたのは、二〇〇八年のニコン「D90」が最初。だがその活用に火を付けたのは、同年続いて発売されたキヤノン「5D」だ。35ミリフルサイズの大型イメージセンサーを搭載し、グラビア写真がそのまま動きだしたような新たな映像表現が可能になり、国内外のクリエーターが飛び付いた。その後、各メーカーで多様な機種が登場している。

 一番の特長は“ぼけ足”。対象にピントを合わせ、前景や背景を大きくぼかすことができる。低コスト、省スペースであることも魅力。かつて数百万円以上の撮影機材でしか表現できなかったものが、数十万円で可能に。コンパクトで機動性もあり、ある編集スタジオでは、持ち込まれる映像の四割が5Dで撮影された素材だという。

 だが、課題もある。そもそも写真用に開発されているカメラ。処理能力の問題で発熱が起き、連続撮影時間が短い。例えば、5Dでは最大十二分間(最高画質)。音声も貧弱。オートフォーカス機能も弱い。

 ソニーは今月、一眼ムービーの良さを取り入れたレンズ交換式ビデオカメラ「NEX−VG10」を発売。長時間録画などが売りだ。事業戦略を担う永井敏雄氏は「カメラの使いやすさよりニーズが上回った。お客さまの使い方とのせめぎ合い」。

 昨年十月から5Dを使うテレビ朝日「世界の街道をゆく」の技術プロデューサーで、テレコムスタッフの宮内文雄さんは「使う側の技術が試されるカメラ。機材は、ちょっと不便なくらいが、多様な表現が生まれ、面白い」と指摘する。

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 現在、テレビ業界では、テレビ東京の「モテキ」、フジテレビの「東京リトル・ラブ」など深夜の短編ドラマを中心に次々と活用が進む。TBSも今秋、深夜ドラマで活用予定。日本テレビは「職のプライド」(放送終了)などで既に使っている。CMでは資生堂、トヨタなど、ミュージックビデオではAKB48の「10年桜」なども。

 短編映画「愚か者は誰だ」などでも活用され、渡辺裕子監督は「非日常のペラペラした感じがハードボイルドっぽくて作品に合っていた。これからは超低予算で誰でも高度な撮影が可能に。内容で勝負するしかない」と話す。

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 いま、写真と映像の垣根が“ぼけて”、新生「活動写真」が生まれようとしている。月刊写真誌「コマーシャル・フォト」(玄光社)編集部の川本康さんは「元は映画も映像も写真から生まれた技術。テクノロジーと表現の変化は表裏一体。これからどんな作品や表現者が出てくるのかワクワクする」と話す。

 一眼ムービーを使用した作品は増加の一途だが、中には“ぼけ足”を多用し過ぎたものも。

 是枝裕和監督の短編ドラマ「後の日」(NHKハイビジョン、8月放送)で5Dを使った山崎裕カメラマンは「大事なのは、柔らかアタマと好奇心。弘法は筆を選ばず、選ぶ。両方の視点を持ち合わせないとダメ」と指摘。「ぼけ足も、過度に多用するとうるさい。何も足さない、何も奪わない映像が理想」という。

 

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