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[21899] 【ネタ】魔法少女リリカルスペランカー【逆行 なのは魔改造】
Name: 槍◆bb75c6ca ID:2ebf79bd
Date: 2010/09/16 02:02
「〝パラドックス〟?」

「うん、それがそのロストロギアの名前」

 時空管理局ミッドチルダ地上本部のとある通路にて、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンは次の任務について話を広げているところだった。
 
 高町なのはの次の任務。それはパラドックスという名のロストロギアを現地から回収し、本部へ輸送すること。

「最近遺跡から発見されてたんだけど、一緒に発掘された文献を解析してみたらなんでも〝因果律〟を操るとか〝時空〟に影響を与えるとか、物騒なことが書かれていたらしいの。
 だから私が出張ることになったんだ。未知の危険物だし、いつまた誰かに強奪されでもしたらJS事件の再来になるかもしれないしね」

「……気をつけてね、なのは。本当なら一緒に行きたいんだけど私も任務があるし……」

「にゃはは、大丈夫だよフェイトちゃん。慎重に運べば危険なんてきっと無いよ」

「……うん、無事に帰ってきてね」

「この任務が終わったらヴィヴィオを実家に連れていく約束をしてるし、ちゃんと無事に帰ってこないとね」

 そんな何かのフラグ立ちそうなことを言いながら、あはははと笑いなのはとフェイトは別れた。

 次の任務の準備を始めるためにフェイトは自室に向かっていると、ふと足に違和感を感じて、うつむいてみる……靴紐が、切れていた。何故か、全て。

「……大丈夫、だよね」

 一抹の不安を感じずにはいられないフェイトであった。



 二日後の正午。高町なのはがロストロギア『パラドックス』の輸送中、異常な魔力反応を発生させ〝消滅〟したという連絡を受け、不安の的中したフェイトはショックの余り意識を失うことになるのだが、それはまた別のお話である。



 魔法少女リリカルスペランカー プロローグ『二度目の人生はスペランカー』



 『不覚』。アタッシュケースから溢れる光に飲み込まれる直前、なのはの思ったことはそれだった。

 さすがのエースオブエースも、なんの予兆もなく一瞬にして発生した巨大な魔力の前にはなんの抵抗もすることが出来なかったようだ。

 仮に抵抗出来たとしても、結果は変わらなかっただろうが。

 光が収まり、暗んだ目が視力を取り戻していくと、なぜかなのはの目線の先には見知った天井。

「――――あれ? なんか、知ってる天井……って、ロストロギア!」

 ガバっとかけ布団を取っ払いながら起き上がるなのは。いつのまにベッドに運ばれていたのだろうと疑問を頭に残しながら周りを見渡すと、いやに懐かしい風景がそこにはあった。

「……ここ、私の、実家の部屋!?」

 思わず声を上げる。それは仕方のないことだろう。先ほどまでこの世界とは別のずーと離れた別の世界にいたのだ。

 それが、なぜかいまは懐かしさも感じるこの場所にいる。

「というか……お母さんいつのまに私の部屋の模様替えしたんだろう……。昔みたいになってる……」

 可愛らしいヌイグルミなどが飾られた小学生だった当時のような部屋。中学校、高校と歳を重ねるごとにそういったものは押入れにしまったはずだったのに。

「……駄目だ、状況がわからない。とにかく誰かに話を聞かなくちゃ……」

 混乱が渦を巻く頭を無理やり落ち着かせながら、ベッドから飛び出そうとするなのは。

 だが、何故か思い通りに体が動かず、バランスを崩しベッドから転げ落ちそうになってしまう。

「うわっと――――」

 地面に身体を打ち付ける前に片足を床に突きつけてバランスを取ったその瞬間。

「っ!?」

 『ゴキッ』っと骨が不気味な音を鳴り響かせ――。

「い、痛ったああああああああああああああぁ!?」

 足、折れた。



 ■■■



「なのはちゃんまたベッドから降りようとして骨折ったん? 今月二度目やで? 学習せなあかんて何度もいうてるやんー」

「ウン、ソウダネはやてチャン。トイウカ〝今月〟デ二度目ナンダネ、ベッドカラ降リヨウトシテ骨折ルノ」

 死んだ魚のような目をしながらブツブツと廃人のように片言で返事を返すなのは。

 そのなのはに話をかけていたのは、横の病室のベッドで寝そべっている〝小学生時代の八神はやて〟その人であった。

 あの後、足が折れたなのはの悲鳴を聞きつけ現れたのは、まったく歳を取っていない家族達。親友の月村すずかの姉と結婚しお婿にいったはずの恭也もいた。

 突然折れた足。歳を取っていない家族。迅速に病院へ慣れた手つきで運ばれたこと。

 そして何よりも、与えられたベッドの横で、親友の八神はやてが小学生時代の容姿でそこにいたこと、病室の鏡に写った自分の姿が、同じく小学生時代の容姿だったことでなのはの頭は完全にショートした。

(わからないわからない意味がわからない……これは、あれなの? タイムスリップって奴? ロストロギアが発動したせいで精神を過去に飛ばされた?)

 何とか現状に起こったことを論理的に説明付けようとするが、如何せんまったくなんの情報もないので確証がもてない。

 そもそも例え本当に過去に飛ばされたとしても――。

(私、ベッドから降りるだけで骨折るような貧弱じゃなかったよね!? たしかにあの頃は運動神経悪かったし体もそこまで強い方じゃなかったけど……)

 ということである。本当に過去に飛ばされたのなら、小学生時代の高町なのははここまで貧弱ではなかったはずなのだ。そして現在は小学2年生らしいのだが、この時点では八神はやてと知り合っているはずがない。

 だが、この世界では高町なのはは実際に病弱で、八神はやてとは知り合いどころか遥か昔に病院で知り合い、今では親友であるという。

 なのはの担当医という人からさりげなく聞いたがこの高町なのは、驚くほどに貧弱で病弱だった。筆頭するのは骨粗鬆症もびっくり、マッチ棒の方がまだ硬いとさえいわれる骨の脆さ。

 激しい運動をしようものなら全身骨折を覚悟しなければならないらしい。過去には指パッチンを練習していて指の骨を折ったり、柔軟体操で骨が折れたり、酷い時には何をしていなくても骨を折ったことがあるという。

 脆い、あまりにも脆すぎる。日常生活でさえ困難なので普段ははやてと同じ電動車椅子で行動しているとか。

(……SFはあまりよく知らないけど、〝別の世界〟の過去の私に意識がトリップしたってこと? ロストロギアパラドックスは〝因果律〟を操り〝時空〟に影響を与える〟って話だったけど……それならありえない話じゃない、のかな)

 ロストロギアは、はっきりいってしまえば〝なんでもあり〟という現象を起こしてしまえるものが多い。

 それは過去に封印したジュエルシードしかり。ミッドチルダでも時間移動や森羅万象の魔法は研究されているらしいが、いまだに一歩すら進んでいないのが現状だというのに、ロストロギアはそれをいとも簡単に実現させてしまう。無論、それ相応の危険はあるが。

 ならば、違う世界のありえたかも知れない高町なのはに、別の高町なのはが乗り移ってしまってもありえない話ではない。なのはは、とりあえず現状をそう理論付けることにした。

「なのはちゃん、どうしたん? そんなに考えこんで……」

「……あ、ごめんね。ちょっと色々思うことがあって」

「……元気だそう、なのはちゃん! 骨が弱いのがなんなん! 病弱なのがなんなん! 他の人にはない自分だけの個性だって考えれば不思議と愛着わくで?」

「嫌だよ骨がポキポキポッキーみたいに折れるアイデンティティーなんて!? 痛っ!?」

「ああ、大声だしたら怪我に響くで」

「うううぅ、なんか昔の事故を思いだすよ……」

「事故? どの? なのはちゃんの足の骨が折れるなんて日常茶飯事やったからぱっと思いだせんなぁ……」

「……なんでもない、ぐすっ、なんでもないよ……」

 折れた足をさすりながら涙目になるなのは。そしてはぁーと深い溜息をつく。

(これからどうしよう……もしかしてこのままこの世界で病弱なまま暮らしていかなきゃ駄目なのかな……元の世界はどうなってるんだろう。ヴィヴィオやフェイトちゃん、皆に心配かけちゃってるのかなぁ……ん? あっ!?)

 ここで、大切な人達の名前を考えて、重要なことに気がついた。

(もしこの世界も元の世界と同じようにPT事件や闇の書事件が起きちゃったら、私どうしよう!?)

 もちろん、また過去と同じようにユーノを助け、フェイト達と出来れば関わり合いたい。

 例え世界の違う別人だとしても同じ親友なのだ。元の世界と同じような人生を歩んでいるのなら、是が非でも助けたい。

 そして、できることならば助けることの出来なかったプレシアを助けたい、リインフォースだって助けたい。

 でも……。

(こんな走るのものままならない状況じゃ、何も出来ないよー!)

 走ったら、折れるという脅威の骨を持ったこの高町なのはでは、フェイトと互角の勝負どころか同じ勝負の土俵にすら立つ前に負ける。確信できる。レイジングハートとバルディッシュをぶつけ合ったら両腕の骨が砕けること間違いない。

(……いや、待ってよ? そういえばこの〝私〟は魔法を使えるのかな)

 深呼吸をして、前の自分の体と同じ要領で自分の中の魔力の素であるリンカーコアを探す。

(……あった! 魔力は全然変わってない……というか寧ろ多い!? 凄い、ユニゾンしたはやてちゃんより多いかも)

 意外な嬉しい誤算。前の体よりも魔力だけは圧倒的に多かった。これほどの魔力があるのならば前よりも遠くから砲撃が出来る、前よりも強い砲撃が出来る。

(今の私がフェイトちゃんやヴィータちゃん達に勝ってるのは〝魔力量〟と〝情報量〟そして〝経験〟。この3つを駆使すれば、なんとかなるかもしれない!)

 見えた一筋の光明。助けることが出来るかもしれない大切な人達を思い浮かべる。

(……やろう。皆を、助けたい! 元の世界に返る方法は後から探す。この世界の大切な人達を助けてみせるんだ! ごめんね、ヴィヴィオ、フェイトちゃん……ちょっと寄り道していくよ……)

 はやてに気がつかれないようにこっそりと手のひらを重ねつぼみ状態にして、その中に小さな一個の魔力弾を形成する。

(……出来る! 身体もなんともない! よーし、いまは小学二年生だっていってたから、猶予はあと一年くらいだ。それまで魔法の練習をして戦いにそな)

「ごぼはっ!?」

 血がなのはの口から噴出した。それはさながら噴水のように見事に。

「うわあああああああぁ!? なのはちゃんが血吐いたー!? 先生ー! 石田先生ー! 誰か! 誰か先生呼んできてえええええぇ!?」

 ごぼごぼ血を流しながらぴくぴくと痙攣するなのは。どうやら魔法もアウトらしい。

 血を垂れ流しながら、心の中で涙の滝を流しながら、なのはは心の底から思った。

 これは『詰んだ』、と。



[21899] 残機×1個目『豆腐の角に頭ぶつけたら冗談じゃなく死ねる』
Name: 槍◆bb75c6ca ID:b0987ab9
Date: 2010/09/18 20:36
 なのはが盛大に病院で血を吐いてから数週間後、そこには元気に走り回るなのはの姿があったらよかったのだが無論そんなわけはなかった。

 だが持ち前の不屈の精神で血を吹きだしながら回復魔法を無理やり使用して骨折の治りを早め、晴れて退院できることになり二度目の小学校へ通うとしているのだが。

「ねぇ……本当に大丈夫? もう2、3日様子を見て学校を休んだほうがいいんじゃない? お医者さんも驚くくらい早く骨折は確かに治ったけど……」

「大丈夫だよお母さん。骨折くらい慣れたものでしょ?」

「それはそうだけど……でもなのは、病院で吐血したなんて久しぶりじゃない。お母さん心配だわ……」

「……過去にしたことあるんだ……本当にどれだけ病弱なのこの体……」

「え?」

「あっ!? な、なんでもないよ? 大丈夫、大丈夫! 具合が悪くなったらすぐに早退するから!」



 魔法少女リリカルスペランカー 残機×一個目『豆腐の角に頭ぶつけたら冗談じゃなく死ねる』



「あ! なのは!? もう平気なの!?」

「大丈夫なのはちゃん? 今回は血も吐いたって聞いたけど……」

「うん、もう大丈夫だよアリサちゃん、すずかちゃん。それに吐血したっていってもほんのちょっとだよ!」

 最終的にペットボトル一本分が駄々漏れたのを〝ちょっと〟というには余りにも控えめだったが、それは友人に心配をかけたくないなのはの思いやりであった。

 しかし、前の世界と全然変わらない友人2人を見てなのはは安堵する。どうやらこの世界、自分の体が弱いこと意外余り変わっていないようだ。

「今回は何が原因で骨折したのよ? また転んだの? また躓いたの? それともまたタンスの角に足をぶつけた?」

「……もしかしてそれ、全部骨折したの? 私……」

「なに言ってるのよ? 過去になのはが実現させたことじゃない」

「……よ、弱ぁ……」

「あはは……元気出してなのはちゃん。でも今回は早く治ってよかったね」

「で! な・ん・で骨折したの!?」

「えっと、ベッドから降りようとして、ゴキっと……」

 それを聞いて、アリサは目を点にしてぷるぷると振るえだす。なのはは思う。『あ、キレてる』と。

「……またぁ!? もう! 私何回も言ってるわよね!? あんた低血圧なんだから朝は特に気をつけなさいって!」

「ご、ごめんね……」

「私に謝ってどうするの! もう!」

「うう、すずかちゃーん……」

「まあまあアリサちゃん。なのはちゃんもワザと骨折したくて骨折してるわけじゃないんだから」

「本っ当に! なのはは初めて出会ったときから怪我ばっかりして! 心配するこっちの身にもなってよね!」

「だからごめ……え? 初めて出会ったときから?」

 思わず聞き返す。以前のなのはとアリサ、すずかの出会いは確かに喧嘩にはなったが怪我はしなかったはずだが、この世界のなのはの出会いはどうやら違うらしい。

「そうよ! 一年生くらいだったわよね。私がまだ我ままなガキで、すずかを虐めちゃってたとき」

「あー、あれは衝撃的だったよ。私がヘアバンドを取られて泣いてる所に割って入って、アリサちゃんにビンタして骨折したんだよね」

「今でもあのときのなのはのセリフを一字一句間違わず言えるわ。
 『痛い? でも、大切なものっ……をとられちゃった人の心はっ……! もっともっ……とっ……痛い、んだよ! ……ごめん、腕折れた……救急車呼んで……痛くて泣きそう……』。
 もう教室中大パニックよ。なのははありえない方向に腕が曲がってるし、すずかはそれを見て気を失うし、私も私で人を骨折させたのなんて初めてで泣きそうになったし!」

(ええええええええええ!? 弱すぎるよこの世界の私っ!? ビンタで腕が折れるって!?)

 良くそれで前の世界みたいに仲良くなれたの!? と心の中で突っ込みをいれながら、なのはは土下座したくなりそうな気持ちで、心の底から、

「……何かもう、本当にごめんね……」

 と謝った。



 ■■■



 その後はつつがなく授業を終え、迎えに来た父親である士郎と一緒に帰宅する。

 この世界のなのははバス通学ではなく、車で実家から送り迎えして貰っているようだ。塾にも通っていない。

 車に揺られながら、なのははこれからのことを考えていた。

(とにかく、この体じゃいくら魔力が多くても戦うのは無理。多分最初のジュエルシードの暴走体に勝つのも難しいよね……。となれば、やっぱり誰かに頼るしかないんだけど……)

 だが、現時点でこの地球に魔導士の味方はいない。なのはの父である高町士郎と兄である高町恭也、姉の高町美由希は御神真刀流という剣術を鍛錬しており、未来の成長したなのはから見ても一般人とは次元が違う強さを持っているのはわかっているが、それでもジュエルシードやヴォルケンリッター達と戦えるかは怪しいところだ。

 魔法を抜かせば互角以上だろうが、やはり空を飛んだり砲撃してくる魔導士には分が悪い。

(うーん……あ、ロッテさんやアリアさんに話せば手伝ってくれないかなぁ)

 遠くない未来に出会うことになる人達。闇の書に復讐を誓う、本当は心優しき御仁。ギル・グレアムとその使い魔であるリーゼ・ロッテとリーゼ・アリアという猫姉妹。

 ほぼ前回の世界と変わらないのならば、今も闇の書の主に選ばれた八神はやてを監視しているはずである。

(……でも、それだったら前の世界で、この街の異変に気づかなかったわけがないんだから、手伝う気があったら手伝ってくれたはずだよね……。これは望み薄かなぁ。それになんていえばいいのかわからないよー)

 別の似たような世界から意識を飛ばされて来ました。もうすぐロストロギアがこの街に落ちてくるので探すのを手伝ってください。ついでにはやてちゃんを氷付けにする計画も止めてください。

 なんていってしまったら怪しい人なんてレベルではない。下手をすれば不穏分子として消される可能性もぜロではないのかもしれない。

(……こうなったら、ヴィータちゃん達を無理やり起こすしかない、かな。プレシアさんの計画が成功しちゃったら次元振でこの世界が吹き飛んじゃうし……未来が変わるなんて四の五のいってられないよ)

 どうにかしてヴォルケンリッター達を起こして一緒に戦ってもらう。それがなのはのだした結論だった。

 色々危うくはあるし、本当に他人頼みだが、現状なのはにはそうするほかないのである。それにこの時点でヴォルケンリッター達と面識を持っておけば、闇の書事件では前の世界より優位な段階で事件解決にあたれるメリットもあるのだ。

(よし、これでいこう。明日は土曜日だからはやてちゃんの家にいってそれから……)

「なのはー。着いたぞー」

 運転席から士郎がそう言った。考え事をしている間に時間がかなりたっていたらしい。

「はーい! ありがとうお父さん」

 ドアを開ける。そしてぴょんと車から飛び出したとき、『はっ!?』と自分の行ったミスに気づいた。

「あー、なのは段差に気をつけ――」

(――言うのが、遅いよお父さん……)

 およそ膝の高さくらいだろうか。このなのは、たったそれだけで、致命傷だった。

 『ゴキッ!』っと再び、嫌な音が鳴り響く。

「――っ!? ふっ、ぐぐぐっ……!」

 唇をかみ締めながら痛みを必死に我慢する。ここで叫んではいけない。骨折したとバレたらまた皆に迷惑をかけてしまう。その思いだけで、なのはは耐えた。

(痛い痛い痛い痛いっ――! だ、大丈夫! このくらいなら回復魔法で治る……あ)

 前の世界の癖で、なんの躊躇いもなく思わず使ってしまった魔法。

 なのはの連続した致命的なミスの原因はただ1つ。〝この体に慣れていない〟ただそれだけだった。

「うわらばっ!?」

 ぶしゃーとどこぞの暗殺拳を受けたような叫び声と血しぶき上げ、なのは、再び病院送りになったのであった。

 健康って、本当に奇跡的な宝物なんだな、となのはは気絶する寸前まで、そう思ったのだとか。



[21899] 残機×2個目『私呪われてない?』
Name: 槍◆bb75c6ca ID:b0987ab9
Date: 2010/09/18 20:38
「どうしたん? 急に私の家に遊びに来たいなんて。いや、私は大歓迎なんやけど、身体大丈夫なん? 二連続で吐血するなんてここ最近なかったのに……」

「ああ、ほら……最近入院しっぱなしで気分が憂鬱だから、大好きなはやてちゃんに慰めてもらおうと思って! その方が身体にもきっといいよ!」

 ヴォルケンリッター達を起動させたいので家に上げてください、ともいえないなのはの言い訳はそんな感じだった。しかし九割以上は本心だが。

「い、いややわぁ、なのはちゃん! あんましからかわんといてやぁ!」

 と言葉とは裏腹に頬を染め嬉しそうにはにかむはやて。自分以上に病弱なのに、自分以上に〝強い心〟を持つ大好きな親友――そんな親友以上の感情を寄せる彼女に頼られるのははやてにとってこの上ない喜ばしいことなのだった。

 はやての花のような笑みに少しの罪悪感を胸に秘めつつ、成功か失敗か、いづれにしてもこれから先の運命が大きくゆり動くことになるであろう高町なのはの守護騎士起動大作戦が、今始まる。



 魔法少女リリカルスペランカー 残機×2個目『私呪われてない?』



「13」

「ダウト」

「……1」

「2」

「ダウト」

「……なのはちゃん、やっぱり2人でダウトは無理あらへん?」

「……ちょっと思った。別のことしよっか」

 いそいそとなのははトランプを片付けはやての机の中にしまう。そしてさり気なく「何か面白いものないかなー」と呟き本棚に向かった。

(……あった! 闇の書! この鎖が巻きついた本は間違いないの)

 本を手に取る。封じられたように鎖に巻かれたその本は、過去、そして未来へと悲しき事件を繰り返す運命を背負ったロストロギア・闇の書。

 そしてこの中には、強敵であり、後に頼もしき友となる者たちが眠っている。

「うん? なのはちゃん、その本がどうかしたん? えらい真剣に見てるけど」

「え? いや、あの……この本鎖に巻かれてて、珍しいなと思って。鍵付きの本なんてはやてちゃん持ってたっけ?」

「あー、その本なぁ。なんか知らんうちに部屋にあったんよ。多分どこかの中古本まとめ買いしたときに買ったの忘れたんかな?
 鍵が無いから開けれへんし読めへんしで困ってたんや。欲しいならあげるで? アンティークなインテリアとしてしか使い道ないやろうけど」

「いやいやいや駄目だよはやてちゃん!? この本絶対誰かにあげちゃ駄目だからね!? 捨てるのも駄目だからね!?」

「え? な、なんで?」

「にゃ!? え、えっと……あれ! この本きっと凄い価値があるの! 私の観察眼にビビっと来た! なんでも鑑定団とかに持ってたら北原照久さんが『私が買い取りたいくらいです』とか言っちゃうくらいの価値があるの!」

「なのはちゃんいつのまに鑑定士に!? ……まあなのはちゃんがそういうなら大事にする」

「うん! うん! それがいいよ! きっと将来凄く役に立つから!」

 はやてのこの本に対する関心が全く無いことにビビリつつ、どうやら大事にしてくれるようなので心の中で安堵をつくなのは。

(あー、ビックリした。この時点じゃこの本の重要性なんて知るわけないもんねはやてちゃん。……なら、それに気づかせてあげちゃうよ)

 なのはが考えた守護騎士システムの起動条件。それはやはり〝魔力量〟に関係してると睨んだ。

 本来なら守護騎士達は八神はやてが9歳の誕生日である6月4日の午前0時に起動する。ではなぜその時期に起動するのか?

(魔力量を起点に考えれば可能性はいくつかある。1つは、はやてちゃんから吸っていた魔力がはやてちゃんの誕生日に起動条件分溜まったから。
 つまり守護騎士システムを速めに起動させるには闇の書に魔力を注ぎ込むことだと思うんだよね)

 しかしこれ実行するには数々の問題があった。1つはどうやって闇の書に魔力を注ぐかということである。

(うーん……私の魔力をどうにか分けてあげられればいいんだけど……どうやるんだろう? とりあえずコップに水を注ぐ感じでやってみようかな。
 あ、でも闇の書って主以外がアクセスしたら即暴走して転生するんだっけ……。だ、大丈夫だよね? 魔力を注ぎ込むだけでアクセスするわけじゃないし……)

 不安はある。だが、このまま何もせずに〝この〟なのはがフェイト達と戦うことと、守護騎士達がフェイト達と戦うこと、どちらが希望を見出せるだろうか?

 フェイトがクロノ達が来る前にジュエルシードを全て集めてしまったら、この世界や近接した世界も全て次元振によって崩壊するのである。100%負ける戦いか、1%の確率で心強い味方を得るか。

 当然、なのはにとってもなのはの大事な人たちにとっても、後者の方が断然良いだろう。

「はやてちゃん、ちょっとトイレ借りるね」

「うん。あ、なのはちゃんくれぐれも段差に気をつけてや?」

「わかってるよー」

 部屋から出て行くなのは。その手には闇の書。本当に大丈夫かなーとなのはを心配するあまり、そのことにはやてが気づかなかったのは運がよかったに違いない。



 ■■■



「さてと……はやてちゃんの家を血で汚しちゃ不味いからね……」

 というわけでトイレである。ここならいくら吐こうが汚そうがボタン1つで綺麗さっぱり。もしも起動に成功したら守護騎士達が最初に目覚めたのはトイレというシュールなことになるだろうが、そこは我慢してもらいたいなのはであった。

「いざ!」

 手のひらに魔力を集める。それはグルグルと螺旋を渦巻きまるで小さな台風のようだった。

 そして同時に胃から登って来る嘔吐感に耐え切れず、

「まヴらぶっ!?」

 とあいとゆうきのおとぎばなしのタイトルのような奇声を上げつつばしゃーとお決まりの吐血。

 ビリビリと身体が痙攣する。魔力を多少放出しただけでこの満身創痍状態。真っ赤にそまった便器ってなんかだ物凄い不気味なんて場違いな感想を思い浮かべつつ、なのはは魔力の渦を闇の書に叩き付けた。

(お願い……! 起きてヴィータちゃん!)

 瞬間、眩く光始める闇の書。強大な魔力が動き始めたのが肌で感じる。

(……やった! 成功した!?)

 ドクン、ドクンと闇の書の動脈が聞こえる。血を吐いた代償は安くなかった。いまここに最強の守護者達が現れ――。

「……? あれ……光が消えちゃっヴォハッ!?」

 なかった。光が消え、動脈がも聞こえなくなってしまった瞬間、ダムが崩壊したように、叩き付けたなのはの魔力が土石流のように〝逆流〟した。

 それは〝異物〟を排する為のプロテクト。現代でいうのならファイアーウォールが働いたのだ。魔力を蒐集する為のロストロギアといえども、守護騎士やその主を経由しないどこの毒ともしれぬ魔力はお断りらしい。

(ひっぎいいいいいいいいいいいいいいいぃ!? 痛い! 超痛い! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬこれは死ねる!?)

 トイレで血を吐きながら痛みにのたうち回る美少女。下手なホラーよりよほど怖かった。

 しかも、骨がマッチ棒よりも弱いという事実がここに来てさらになのはを襲う。のたうち回っているうちにゴツ! っとそれなりの強さで右腕強打。

 常人ならば「痛たたた……」と擦る程度で済むダメージは、この貧弱少女にとっては致命的。『ボキッ』と聞きなれた音がトイレという小さな個室に響きわたる。

「ぎにゃあああああああああああああああああああぁ!?」



 数十秒後、なのはの悲鳴を聞いて駆けつけたはやてに一生物のトラウマを植え付けつつ、なのはは無事に、とは言いがたいが最悪の結果を迎えることなく、再び病院送りになったのであった。

 これこそまさに、踏んだり蹴ったり。この少女完全に呪われている。



 ■■■



 入院って慣れれば別荘に泊まるような感じで案外楽しいかも。

 既に指定席と成りつつある血まみれだったシーツが新品に張りなおされた病室のベッドの上で、そう思い始めたなのははもう末期なのかも知れない。

 今回ははやては入院していないので話し相手もおらず、1人優雅に差し入れとして持ってきて貰った本を読むその瞳は死んだ魚の目をしていた。

 今回の闇の書の起動に失敗し、得たものは重傷のみという結果に終わったことで、少女の心は深く深く傷ついていた。

(はぁー。もう本当に踏んだり蹴ったりだよ……闇の書は起動出来なかったし、はやてちゃんを怖がらせちゃうし、また私は入院だし……えへへ……もう止めよっかな魔法少女……)

 本を読みながら涙ぐむ少女。不憫というほかない。

(……それはそうと、私の部屋から持ってきて貰ったはずなんだけど、この本読んだことない……この世界の私ははやてちゃんみたいに読書好きだったのかな?)

 一冊を読み終え、次の本に手を伸ばす。どうやらこの世界のなのはは読本家らしい。過去に読んだことの無い本ばかりだった。そういえばこの世界の部屋は過去の自分の部屋より本棚が多かったな、となのはは思い返す。

(ん、この本……表紙、というより全体がなんかもの凄く禍々しいんだけど……うわ! これ外国の本だ! 中身全部英語――じゃないな、なんだろうこの文字。
 うーん、ドイツ語でもないし、フランス語でもないし、アラビア語でもないし……アルファベット表記でも漢文でも無い……何これ?)

 謎の言葉が詰まった本を思わず見回す。表紙もページも真っ黒。そしてそのページに書かれた文字の色はまるで血のように赤かった。

 綺麗、というよりおぞましいという言葉がよく当てはまるだろう。この世界の自分は一体何を読んでたんだと少し不気味になるなのはであった。

(あ、背表紙に英語っぽいのが書いてある。んん? これ、ひょっとしてラクガキ? 字が妙に子供っぽいし……この世界の私が書いたのかな。
 Celaeno Fragments……セ、セラエノフラグメンツ? 訳すとセラエノ断片ってことだよね。この本の名前? どういう意味だろう……)

 禍々しく、何か不思議な引力を感じるその本。後に〝この世界の〟高町なのはの運命を大きく狂わせる、否、すでに狂わせている〝原因〟であることと知るのは、まだ先の未来。

 その本の真の名は『セラエノ断章』。本来は存在しない、存在してはいけないクトゥルフより生まれし〝架空の魔導書〟である。


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