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[21991] 【ネタ完結】魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/18 21:09
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 作品同士をクロスさせるというものを書いたことがないので、Arcadiaを利用させて頂きました。
 以下、このSSの主要な注意事項になります。

 ・魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 です。
 ・両作品に思い入れのある方は、読むのに苦痛を感じるかもしれません。
  原作の有名なセリフを適当に散りばめてあるためです。
 ・戦わない魔法少女達。
 ・あまり変身しない魔法少女達。
 ・原作を読んでも分からないところは、作者側の独自解釈が横行します。
 ・ストーリーは、IFを入れるため、有り得ないことが多数発生します。


 …


 最後に……。

 また、お世話になります。
 読む時も書く時も、非常に重宝しています。
 このサイトを管理運営してくれている管理人さんに感謝を致します。
 本当にありがとうございます。



[21991] 第1話 赤いジャケットの泥棒
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:34
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 山岳地帯の森の中にある小さな研究施設。
 そこには風変わりの研究者が住んでいた。
 研究しているものが今一分からず、世間では変人扱いされている。
 そして、深夜にそこの研究施設に一人の泥棒が入り込んだ。



  第1話 赤いジャケットの泥棒



 研究施設の一番奥。
 怪しい機械に囲まれた部屋で、モニターに向かい、ひたすらにキーボードを打ち続ける老人。
 老人は、モニターに向かいながら言葉を発する。


 「何の用だ?」

 「泥棒です。」


 老人の背後に音もなく現れた泥棒と名乗った男は、赤いジャケットの内ポケットから煙草を出すと火を点け、一息吸い込み吐き出す。


 「既にご存知だと思うんだけっども?
  わざわざ予告上まで出して、『泥棒します』って教えて置いたんだから。」

 「…………。」

 「何か言ってくんない?」


 老人は、その泥棒に何かを投げた。


 「欲しいのは、これだろう。
  さっさと持って行け。」


 泥棒が、頭を掻く。


 「ちょっとは、抵抗して欲しいんだよな……。
  とっつぁん振り切って、ここまで来たんだから。」

 「それのデータが取れたら、また来い。
  ワシは、データだけが欲しくてな。
  その機械にも、お前さんが探そうとしているものにも、何の興味もない。
  ・
  ・
  いいか?
  データだけは、持って来い。」


 泥棒が、溜息を吐く。


 「俺、何しに来たんだろ……。」


 泥棒は、煙草を床に投げて足で火を消す。
 律儀に吸殻を拾い上げて携帯灰皿の中に仕舞うと、溜息と共に手に入れたお宝を持って研究施設を後にした。


 …


 研究施設の外では、ダークスーツにソフト帽を着用した泥棒の相棒が、黄色のベンツSSKの助手席で煙草をふかしていた。


 「お宝は、手に入ったのか? ルパン?」

 「まあな……。」

 「お宝が、手に入ったってのに
  ご機嫌斜めだな。」

 「運転しながら話すわ。」


 ルパンと呼ばれた赤いジャケットの泥棒は、ベンツSSKの運転席に座るとエンジンを掛けて車を走らせる。
 ソフト帽の相棒が、先ほどの話の続きを促す。


 「で?」

 「ああ……。
  向こうから、投げて寄こしやがった。
  お陰で、気合い入れて忍び込んだのに
  肩透かし喰らっちまった。」


 ソフト帽の相棒が、声をあげて笑う。


 「そいつは間抜けな話だな。
  ・
  ・
  それで、一体、これは何なんだ?」


 ソフト帽の相棒が、手に入れたお宝を上下左右に持ち替えて見回す。


 「大事に扱えよ、次元。
  そいつは、お宝を探す大事な機械なんだからな。」

 「機械なのか?」

 「ああ。
  説明書まで付いてるぜ。」


 次元と呼ばれた相棒は、『ハァ!?』と声をあげると四角い箱のような機械に挟まる紙を引っ張り出した。


 「なになに……。
  ①探索…②この箱に収まる感じで収納四つまで…③データの解析…④詳細な探索・四つの能力を記憶させ使う……。
  随分と大雑把な説明書だな……。
  何の使い方なんだ?」


 ルパンは、運転しながら煙草を咥えると、隣の次元が自分の咥えていた煙草を差し出す。
 それに近づけて、煙草に火を点けるとルパンも一息吸い込む。


 「そいつはよ……。
  お宝を探し出す機械なんだよ。」

 「これがお宝じゃないのか?」

 「ああ。
  あの爺さんは、エネルギー体を研究するエキスパートでな。
  そのエネルギー体を見つける装置を作ったんだ。
  それで、そいつを盗んで、俺がお宝を見つけようってわけだ。」

 「なるほどな……。
  ただエネルギー体って、何だ?」

 「さあな。」

 「さあなって……オイ!」

 「また、オーパーツの類なんかじゃねーかと思うんだけどな。」

 「お宝が何かも分からないで盗んだのか……。」

 「その方が、浪漫があるだろ?」

 「毎度のことながら、呆れて物も言えんね。」

 「そう言うなって。
  ・
  ・
  早速、使ってみてくんない?」

 「信用出来るのか?」

 「使ってみれば、分かるべ?」


 次元が機械のスイッチを入れると機械は、漠然とした位置をはじき出した。


 「反応あったか?」

 「ああ。」

 「場所は?」

 「近いな。
  地図で合わせると……。」


 次元は、ダッシュボードから地図を取り出して確認する。


 「……海鳴市って、ところだな。」


 二人の乗る車は、一路海鳴市へと向かって走り出した。



[21991] 第2話 少女と泥棒①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:35
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 ベンツSSKは、夜の間中走り続け、夜が明け切る前に海鳴市へと入った。
 そこで再び、ルパンは、機械にスイッチを入れてお宝の在り処を確認する。


 「…………。」


 沈黙するルパンに次元が質問する。


 「どうした?」

 「それがよ……。
  お宝の反応が、あっちからもこっちからもすんだよ。」

 「……は?」


 車の中を妙な沈黙が支配した。



  第2話 少女と泥棒①



 ルパンの手の中で、機械が反応を示す。
 次元が、機械のモニターを覗き込む。


 「壊れたんじゃないのか?」

 「何もしてないのに?」

 「じゃあ、偽物を掴まされたか?」

 「いや……そんなはずはねーな。
  爺さんは、データを欲しがって、俺にこの機械を渡したんだ。
  データを回収する前に偽物を渡す理由が見つからねーよ。」

 「じゃあ、どういうことだ?」

 「コイツの示している情報が、本当だってことだろうな。」

 「しかし、こんなんで見つけられるのか?」

 「そこなんだけっどもよ……。」


 ルパンは、付属されていた説明書を取り出し、一点を指差す。


 「この『③データの解析』と『④詳細な探索・四つの能力を記憶させ使う』が、
  問題解決になるんじゃないか?」

 「分からんな。」

 「つまり、お宝の一つをこの機械に入れてデータを取ると、
  他のお宝の探索が詳細に出来るってことだよ。」

 「なるほど……待て!
  そうするとお宝は、一つじゃないってことか?」

 「多分な。
  この機械の反応がそこら中に出てるってことは、
  お宝が海鳴市に散らばってるってことだろ。」

 「何で、こんな街にそんなもんが散らばってんだ?」

 「知らねーよ!
  あ~! も~! どうすればいいんだってばよ~!」


 ルパンが、大声をあげて頭を抱える。
 そんなルパンを見た次元は、素知らぬ顔で『いつものことだ』と後部座席を漁る。


 「何やってんだよ?」

 「最近、釣りに凝っててな。
  この街は、海が近いんで朝釣りに行くんだ。」


 次元は、釣り道具一式を取り出した。


 「ちょっと……手伝ってくんねーのかよ?」

 「釣りが終わったら、新しい寝ぐらを探してやるよ。
  お宝が見つかったら、電話しな。
  迎えに行ってやるから。」


 次元は、ルパンを無理に車から降ろすと運転席に座り、釣り道具を助手席に置く。


 「じゃあな。」


 ルパンを置き去りにして、車は走り出す。


 「つめてーなぁ……。
  バッキャロー!
  お宝見つけても分けてやんねーからなぁ!」


 ルパンは、走り去る車に叫ぶと機械をジャケットのポケットに入れ、ズボンのポケットに手を突っ込むと人の多そうな街へと歩き出した。


 …


 機械の反応を頼りに街の中をあっちこっちと彷徨う。
 しかし、お宝の反応に近づくと別のお宝に反応して位置が切り替わる。
 これの繰り返しで、結局、夕方になってしまった。
 ルパンは、ファーストフードの店でアイスコーヒーを前に機械を眺めていた。


 「結局、一日中、バス乗ったり歩かされただけかよ……。
  まあ大体、この街の地理は、頭に入ったからいいけどよ……。
  ・
  ・
  でも、何で、お宝の情報が書き換わるんだ?
  何かに反応して、お宝の発する電波に強弱でもついてんのかね?」


 ルパンは、目の前で、またお宝の位置を切り替える機械を見ると溜息を吐く。
 アイスコーヒーを一気にグイッと飲むと、紙コップを備え付けのゴミ箱に捨て店を出る。


 「そろそろ、次元に電話入れっかな……。」


 何気なく散策し、夜になり掛けた路地を進む。
 そして、公園に差し掛かる。


 「時間切れ……。
  お家に帰ろう……。」


 胸のポケットから携帯電話を取り出し、手頃に腰掛けられるベンチを探して公園を見回す。
 しかし、見つけたベンチには先客がいた。


 「あれま……。
  こんな夜に女の子だ……。」


 ベンチには、黒い服を着た女の子が大きな犬を連れて座っていた。
 ツインテールの長い金の髪が、とても特徴的だった。
 ルパンは、少し寂しそうな雰囲気を漂わせる女の子のいるベンチへと向かう。


 「こんばんは、お嬢さん。」


 女の子は、近づいて来たルパンが声を掛けるまで気付かずに、手の中の何かを見つめていた。
 女の子が顔をあげると目の前にしゃがみ込んだルパンの顔があった。


 「あの、何か……。」

 「いや~、ちょっとベンチ探してたら、
  君を見つけちゃってさ。
  可愛いから、思わず声を掛けちゃった。」


 女の子は、首を傾げた。


 「一人かい?」


 女の子は、首を振る。


 「アルフがいる……。」


 ルパンは、女の子の近くに控えている大きな赤毛の犬に目を移す。


 「君の犬か……。
  随分と大きいな。
  ・
  ・
  よろしくな、ワンくん。」


 ルパンの差し出した右手にアルフは、噛み付いた。


 「いて~~~!」

 「アルフ!」


 女の子は、自分の犬を叱り付ける。


 「うわ~~~!
  イタイイタイイタイイタイ!」


 ルパンが、慌てて離れる。


 「うわ! 手がない!」

 「え!?」


 女の子が、ルパンの右腕の袖から先がないのを見ると青ざめる。
 そして、飼い犬の口には、しっかりと手が咥えられている。
 この状況に飼い主の女の子より、飼い犬のアルフの方がオロオロと慌てる。


 「クククク……あ~はっはっはっはっ!」


 ルパンは、大声をあげて笑うと左手で右腕の袖を引っ張り、右手を見せる。


 「にせ…もの……?」


 女の子と飼い犬のアルフが大きく息を吐き出す。
 そして、一呼吸おいて、アルフがルパンに飛び掛かった。


 …


 公園で一段落するとルパンが自己紹介をする。
 右手を握って差し出すと女の子とアルフが警戒する。
 ゆっくりと開かれる手の中には、さっきのファーストフードの店の紙ナプキンで作った小さな折り紙の花があった。


 「今は、これが精一杯。」


 女の子とアルフは、何処から出したか分からない小さな折り紙の花から目が離せない。


 (外したかな?
  クラリスには、うけたんだけどな……。)


 女の子の口から、言葉が漏れる。


 「魔法……。」

 「ん? そうそう、魔法!」

 「あなたも魔法使いなの?」


 ルパンは、二カッと笑うと答える。


 「いいえ、泥棒です……。
  俺、ルパン三世。
  以後、お見知り置きを……お嬢さん。」


 これが、二人の出会いだった。
 そして、ルパンは、自分のマジックがうけたと安心して聞き逃していた。
 女の子は、『あなた”も”』と言っていたことを。



[21991] 第3話 少女と泥棒②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:35
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 切っ掛けは小さなものだったが、打ち解けるには十分だった。
 女の子の顔から、寂しさは消えていた。
 そして、ルパンの手の中の小さな折り紙の花に興味津々のアルフ。
 尻尾がブンブンと凄い勢いで振られている。
 ルパンは、折り紙の花をアルフの前まで持って行くと再び手を握る。
 今度は、折り紙の花が折り紙の犬に変わった。
 それをアルフの前に置くとアルフは、しきりに見つめ続けていた。
 ルパンが、女の子に声を掛ける。


 「隣に座ってもいいかな?」

 「どうぞ……。」


 ルパンは、女の子の隣に座ると先ほどの折り紙の花を差し出す。


 「これは、君の分。」


 女の子は、握り込んでいない方の手で折り紙の花を受け取る。


 「……ありがとう。」


 久々に口にする感謝の言葉に女の子は、少し笑みを浮かべる。
 そして、ルパンは、女の子の握り込んでいる反対の手のものが何なのか気になりだした。



  第3話 少女と泥棒②



 ルパンは、折り紙の花を見つめている女の子に質問する。


 「名前、聞いてもいいかな?」

 「フェイト……フェイト・テスタロッサ。」

 「フェイトか……。
  フェイトは、こんなところで何をしてたんだ?」

 「え、えっと……。」


 フェイトは、俯くと何と言っていいか思案する。
 自分の抱えている事情は、少し話しづらい。
 ルパンは、言い難そうにしているフェイトを察すると自分から話を切り上げる。


 「言い難いんだったら、断わってもいいんだぞ。
  おじさんは、フェイトを困らせたいわけじゃないんだから。」

 「…………。」


 フェイトは、少し押し黙った後で、ルパンに質問をする。
 ルパンの答えを聞いてから、少し話せることを話そうと決めた。


 「あの…ル……。
  おじ……。」


 質問しようとしたフェイトだったが、ルパンを何と呼べばいいかで止まってしまう。
 ルパンは、可笑しそうに笑いながら話す。


 「何でもいいさ。
  ルパンでも、おじさんでも。
  フェイトの好きなように読んでいいんだぜ。」

 「あ、うん。
  じゃあ、おじさんで……。
  おじさんは、何処から来た魔法使いなんですか?」

 「俺?
  う~ん……あまり長いところに居付かないからなぁ。
  色々だ。」

 「色々?」

 「そう、色んなとこに行って色んなものを盗んだり、
  時々、盗んだものを返したり。」


 フェイトは、ルパンの回答が理解出来ず、逆に判断材料が減った気分になる。
 それでも、質問を続ける。


 「おじさんは、どんな魔法使いなんですか?」

 「何でも出来ちゃう。」

 「何でも?」

 「ああ。
  フェイトが願えば、空だって飛べるぜ。」

 「それは知ってる……。」

 「へ?」


 今度は、ルパンが首を傾げる。
 何か会話が噛み合っていない。


 「え~と……。
  フェイトは、空飛べるのか?」


 フェイトは、頷いて返事を返した。


 「…………。」


 ルパンの頭の中で、過去の記憶が次々と蘇える。
 このパターンは、前にも経験した気がする。
 ルパンは、これまで色んな体験をしているのだ。
 例えば、自分のクローンを作られたり……。
 例えば、脳の中身を他人と入れ替えたり……。
 はたまた、タイムマシンで過去や未来に行ったり……。
 そして、さっきからフェイトが口にしている言葉……『魔法』というものにも少なからず関った経験があったりする。


 (あ~んま、いい予感はしないわな……。)


 ルパンは、苦笑いを浮かべてフェイトの次の言葉を待った。


 「おじさんは、この世界の魔法使いなんですよね?
  この街には、何しに来たんですか?」


 ルパンは、誤魔化そうかとも考えたが、会ったばかりのフェイトを騙すようなことをするのを嫌った(既に幾つか嘘をついているが)。
 女の子に優しく出来ないのは、ルパンの流儀に反すると自分の中の本能に従い、正直に話すことにした。


 「ホント言うとな。
  お宝を探しに来たんだ。
  ・
  ・
  オーパーツっていうヤツ。」

 「オーパーツ?
  ロストロギアじゃないんですか?」

 「いや。」

 「じゃあ、ジュエルシード……。」

 「どっちも聞いたことないな。」

 (もしかすっと、それがオーパーツの正体か?)


 フェイトは、ルパンの言葉に少し安心する。
 嘘をつかれているかもと少し疑ったが、目の前のルパンは、そんな感じがしない。
 今の話が本当なら、求めるものは別のもので、争うことはない。


 (あの子と争うように……。)


 フェイトは、ジュエルシードを求めてぶつかった白い服の女の子を思い出した。
 一方、フェイトの口から出た『ロストロギア』と『ジュエルシード』の言葉について、ルパンは疑問を持つ。


 「ところで……。
  その『ロストロギア』と『ジュエルシード』って、何だい?」


 フェイトは、思い出すのを中止して、少し困った顔をする。
 それは自分が集めているもので、それの重要性を知れば敵が増えるかもしれないからだ。


 「私の……集めてるもの。」


 それだけを言うのが精一杯だった。
 ルパンはルパンで、そういうことかと額に手を乗せる。


 (今度のお宝は、諦めるっきゃねーかもな……。
  こんな子から、奪い取ることは出来ないわ……。)


 ルパンは、今回のお宝を諦めるようと密かに決意する。
 そして、あることを確かめるためにフェイトに質問する。


 「やっぱり、大事なことなんだよな?」

 「……うん。」

 「何で、集めてるんだ?」

 「……言えない。」

 「悪いことに使うわけじゃないよな?」

 「……多分。」

 「…………。」


 フェイトの顔は、また寂しそうな顔に戻っていた。
 ルパンは、事情は分からないが、フェイトに協力しようと思う。
 何故なら……。


 (こんな顔の女の子は、ほっとけないかんな……。
  それに分かんないことは、調べればいいさ。
  いつも通りに……。)


 ルパンは、フェイトの肩にポンと手を置く。


 「元気出せ。
  おじさんが、探すのを手伝ってやるから。」

 「え?」

 「で、そのロストロギア?
  ジュエルシードってのは、どんなんだ?」

 「こ、これ……。」


 フェイトは、勢いに乗せられて握り込んでいた手を開いた。
 そこには、ひし形の綺麗な石があった。
 ルパンは、その石を凝視する。


 「触ってもいいか?」

 「……少しだけなら。」


 ルパンは、ジュエルシードを受け取ると少し真剣な表情で睨む。


 (何か臭うな……。
  この石から嫌な感じ……。
  いや、嫌な予感みたいなのを感じるぜ。)


 ルパンは、ポケットから例の機械を取り出すと蓋を開けて収納する。
 機械は、データを収集するために動き出し、やがて結果を出す。


 (やっぱり、コイツが原因だ……。
  モニターに詳細な位置が現れやがった……。
  今のうちに正確な位置を二ヶ所記憶して……。)


 ルパンは、位置を二ヶ所記憶すると機械からジュエルシードを外す。
 機械は、参考にするデータ対象を失うと、また大雑把な位置だけを示す。
 ルパンが、ジュエルシードをフェイトに返す。


 「ありがとな。
  明日も、ここで会えないかな?」

 「え?」

 「時間は、今ぐらいで、どうかな?」


 フェイトは、また勢いに呑まれて頷く。


 「それじゃあ、何か食べ行こうか?」

 「え?」

 「お腹空いただろ?
  おじさんが、好きなもの食べさせてあげるから。」

 「で、でも……。」

 「ワンくんも霜降り肉食べたいよな?」


 アルフの耳と尻尾が直立する。


 「ちょ、ちょっと! アルフ!」


 この時、アルフからフェイトに念話という心の会話があったのだが、ルパンは気付かずにフェイトの肩を抱く。


 「じゃあ、行こうか!」


 ルパンは、フェイトとアルフを引き連れて街へと消えた。


 …


 次元は、新たなアジトである小さなアパートで、ルパンの連絡を待っていた。


 「ルパンの奴……。
  いつになったら、連絡を寄こすんだ?」


 次元は、本日の釣果である魚の生け作りに箸を伸ばし、日本酒を飲みながら連絡を待つ。


 「あ、酒飲んじまった……。
  お迎えはなしだな。」


 次元は、ルパンから連絡があっても、住所を伝えるだけにすることを決めた。



[21991] 第4話 夕飯の後で……
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:35
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 理由は、よく分からなかった。
 いつも一人で食事をしていたわけでもない。
 側に信頼出来るアルフもいた。
 それなのにこのおじさんと食事をしているだけで、いつもよりも食が進む。
 そして、そのおじさんの携帯が鳴った。


 「おお~! 次元~!
  ・
  ・
  え? 今?
  ・
  ・
  デートの真っ最中~!」


 首を傾げる主人とは別に、アルフは吹いた。



  第4話 夕飯の後で……



 フェイトの前に唸りながらアルフが身構える。
 そして、ルパンは、店の中でもお構いなしに大声で話し続ける。


 「これがまた、すんごい可愛いんだわ。
  俺の好み! ムフフフフフ!
  ・
  ・
  え? 迎い?
  いいって。
  勝手に帰るから。
  ・
  ・
  場所?
  おお、分かった分かった。」


 ルパンは、携帯電話を切るとアルフの視線に気付く。


 「冗談。
  冗談だって。
  ・
  ・
  言葉が分かるのか?」


 ルパンは、レストランの時計を見る。


 「時間、大丈夫か?」

 「今日は、もう探せない……。」

 「毎日、あれを探してんのか?」


 フェイトは、頷く。


 「でも、俺と会った時は、夜だったけど……。
  ・
  ・
  もしかして、朝から?」


 再びフェイトは、頷く


 「ダ~メだって、無理しちゃ。」

 「でも、母さんが……。」

 (母さん?
  集めてんのは、フェイトじゃなくてフェイトの母親の方か……。
  そして、このくらいの子が学校も行ってないのか……。
  ・
  ・
  でもって、そこを突いちゃダ~メだ。
  フェイトは、それでも頑張ってんだから。)


 ルパンは、フェイトの頭に手を置く。


 「フェイト、偉い!」

 「え?」

 「もう、偉いったら偉い!」

 「え? えっ!?」

 「おじさん感動しちゃった!
  明日、絶対にその石見つけて来るから!」

 「でも、この石は簡単には……。」

 「約束!」


 ルパンが、小指を差し出す。
 フェイトは、驚きながら小指を見続ける。


 「?」

 「指きり知らない?
  この指にフェイトの指も絡ませて……。」


 ルパンの小指に小さなフェイトの小指が絡まる。
 それを元気よく振る。


 「指切りげんまん!
  嘘ついたら、針千本飲~ます!
  指切った!
  ・
  ・
  これで約束は完成……。」


 ルパンは、二カッと笑う。
 フェイトも、つられて微笑む。


 「どうする?
  まだ、食べるかい?」


 フェイトは、首を振る。


 「じゃあ、出ようか。」


 ルパンの後ろにフェイトも続く。
 お会計を済ますとレストランの前で別れることになった。


 「迷わないで帰れるか?」

 「はい。」

 「フェイトを頼むな、ワンくん。」


 アルフは、無言で頷く。


 「じゃあ、また明日な。」


 ルパンは、手を振ると去って行った。
 残されたフェイトが、アルフに視線を向ける。
 アルフは、周りに人間がいないのを確認すると犬から人型に姿を変える。
 そこには、十五、六歳の長い赤い髪の少女がいた。
 ただし、犬耳と尻尾がついている。


 「不思議な人だったね……。」

 「うん。
  それより、フェイト。」

 「ん?」

 「アイツ、魔法使いじゃないよ。」

 「え? でも、魔法を……。」

 「あれは、私も原理は分からないけどさ……。
  アイツにリンカーコアの反応を感じなかったよ。」


 フェイトは、今になって思い出す。


 「……そうだね。
  話し過ぎちゃったかな……。」

 「その心配はないと思うけどね。
  アイツが魔法使いじゃないなら、
  私らの言ったことは信じないだろうし。
  まして、普通の人間にジュエルシードを見つけることなんて無理さ。」

 「…………。」

 「きっと、約束は守れないよ。」

 「……うん。
  それでもいい……。
  今日は、とても楽しかったから。」

 「……それは認めるよ。」

 (私もフェイトの笑った顔を見たのは久しぶりだから……。)


 フェイトとアルフは、その場を後にした。


 …


 一方のルパンは、機械の示した場所へと向かっていた。
 街の狭い路地を入り、裏道と呼べるようなところを歩く。
 そして、立ち止まって機械のスイッチを入れる。


 「た~しか、ここら辺だったと思ったんだけど。」


 今度は、機械が一点を示す。


 「な~るほどね。
  ここまで近づけば、他のジュエルシードの反応に邪魔されないのか。
  となると、やっぱりここら辺に……。」


 ルパンが辺りを見回すと小道の脇に何かが光る。


 「み~っけた!」


 ルパンは、それを拾い上げる。


 「間違いねーな……。
  フェイトに見せて貰った石と同じだ。
  ・
  ・
  だけど、何かこっちのは光を放っているような……。
  まあ、いっか。」


 ルパンは、機械にジュエルシードを収める。
 機械は、再びジュエルシードのデータを解析すると正確な場所を示し出す。


 「よしっと。
  後は、明日の約束用にもう一個見つけて置かないとな。」


 ルパンは、機械のモニターを見て、ジュエルシードの位置を確認する。
 すると動いているジュエルシードがある。


 「これは、フェイトだな……。
  くっつき過ぎて分かんないな。
  二個? 三個か?
  何個か、もう集めてんだな。
  ・
  ・
  ん? もう一つ動いてる。
  ってことは、フェイト以外にも、
  ジュエルシードを集めている奴がいるってことか……。」


 ルパンは、頭を掻く。


 「面倒臭いことになりそうだ……。
  ま、仕方ねーな。
  さっさとあと一個を見つけて、
  明日の午前中にあの爺さんのところへ行ってみるか。」


 ルパンは、その日、近くにあるジュエルシードをもう一つ回収すると次元の手配したアパートへと戻った。



[21991] 第5話 ジュエルシードの情報
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:46
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 翌朝……。
 次元は、ルパンが帰って来ているのに気付いた。


 「いつの間に帰って来たんだ?」


 ルパンは、ガーガーとイビキをかいている。


 「ったく。
  お宝は、見つかったのか?」

 「か~く~!」

 「ダメだこりゃ……。」


 次元は、今日も朝釣りをしようと用意を始める。


 「ん?」


 クーラーボックスに何か張り付いている。
 次元は、それを見る。


 『今日は、俺が車を使うから、
  朝釣りには徒歩で行くように。

  P.S. 鮪が食べたい。』

 「そんなもん釣れるか!」


 次元は、徒歩で海岸を目指した。



  第5話 ジュエルシードの情報



 次元が、釣りに出掛けて二時間後……。
 ルパンは、大欠伸をして目を覚ます。


 「ふぁ~~~……。
  腹減った……。」


 部屋の中を物色して、食パンを見つける。
 そして、中古で買ったと思われる冷蔵庫の中をゴソゴソと漁る。
 卵とハムを発見する。
 ルパンは、フライパンを火に掛けると、早速、調理を開始した。


 …


 ルパンは、少し遅い朝食のハムトーストと目玉焼きを食べる。
 そして、テレビをつける。


 「特にこれといったニュースはねーな……。」


 ルパンは、機械の中のジュエルシードを見る。


 「この機械……何なんだろーな。」


 ルパンは、機械の蓋を開けて、中からジュエルシードを外すとジュエルシードは光を発する。
 そして、嵌め直すと光が治まる。


 「これが『②この箱に収まる感じで収納四つまで』か……。
  個数に制限があるってのが、何かを押さえつけている証拠だな。」


 ルパンは、冷蔵庫まで行って、コップに牛乳を注ぐとグイッと一気飲みする。


 「さて、爺さんとこに行くか……。」


 台所で歯を磨いて顔を洗う。
 そして、いつものジャケットとズボンを着込むとアパートを後にした。


 …


 ベンツSSKは、再び山岳地帯の森の中にある小さな研究施設を目指す。
 往復して話を聞いたとしても、フェイトとの約束の時間に間に合う。
 そして、研究施設に到着すると呼び鈴を押した後で、返事が返って来るのを待たずにドアを開けて研究施設の奥へと向かった。


 「やいやいやいやいやい!
  この機械、一体何なんだ!?」


 老人は、向かい合っていたモニターの画面から目を離し、ゆっくりと立ち上がるとルパンの前を横切る。


 「……何処、行くんだよ?」

 「今日は、客なんだろ?
  不味いインスタントコーヒーを
  淹れてやろうと思ってな。」


 ルパンは、溜息を吐く。


 「調子狂うぜ……。」


 老人が、カップを二つ持って現れると小指で隣の部屋を指差す。
 ルパンは、隣の部屋への扉を開けると老人が中に入り、ルパンも後に続いた。
 中は、応接間のような作りで小さなテーブルを挟んでソファーがある。
 老人が座るとルパンも反対側のソファーに腰を掛けた。


 「さて、何が聞きたいんだ?」

 「俺も、何処から話せばいいのかね?
  とりあえず、目的のもんは手に入れた。」

 「そうか。」

 「ところがだ……。
  お宝は、一つじゃない。
  全部で二十個近くあるみたいだ。」

 「やはりな……。
  予備を作っといて、よかったわい。」

 「これが、何なのか分かるか?」


 ルパンは、ジュエルシードを機械に収めたまま差し出す。
 老人は、機械を手に取る。


 「コイツはな。
  エネルギー体を回収する機械だ。
  名前を聞けば分かると思うが、取り扱うのがエネルギーだからな。
  安定しているとは限らん。
  だから、エネルギーを解析して知りうる限りの知識で反転させて安定させている。」

 「それでか……。
  謎の一つが解けたぜ。
  その機械から出すと光ってたからな。」

 「そうなのか?
  ……ふむ。」

 「どうしたんだ?」

 「いや、その話が本当なら、
  お前さんの見つけた石は、安定していない。
  そんな状態で散らばっているというのは……。」

 「いうのは?」

 「危険だな。」

 「オイオイ……。」

 「まあ、コイツを調べてみないと
  最終的な結論は出ないがな。」

 「直ぐに分かるかい?」

 「厳しいな。
  だが、データを見るとエネルギー体としては極上。
  そして、コイツは、何者かに作られたものだな。」

 「作られた?
  また、どっかの大国が作った兵器か何かかよ。」

 「そんなもんじゃないと思うがな。
  まあ、この機械を使って、
  本来の能力を幾つか使えると思うぞ。」

 「そいつはすげーな……。」

 「だが、それも何の力か分からんと使いこなせない。」

 「全くダメじゃないの……。
  ・
  ・
  いや、待てよ……。
  確か魔法とかって言ってたな。」

 「魔法?」

 「ああ。
  そいつを集めてる子に会ったんだ。
  名前は、『ジュエルシード』で『ロストロギア』と呼ばれるものらしい。」

 「聞いたことないな。」

 「なあ、これをヒントに使えないか?」

 「……難しいな。
  例えばだ。
  電気ってあるだろう。
  そのエネルギーって説明つくか?
  我々は、そのエネルギーに電気という名前を与えて、
  同じエネルギーを電気として使用しているんだ。」

 「それで?」

 「同じ様に。
  このジュエルシードと呼ばれるものから発せられるエネルギーを
  魔法……エネルギーで言うなら魔力か。
  そう、エネルギーに魔力という名前を与えている。
  そして、そのエネルギーを使う方法が魔法なんだろう。
  ・
  ・
  つまり、魔法というものをこの機械に覚えさせなければ、
  ジュエルシードから、魔力を取り出して使えない。」

 「なるほどな……。
  魔法の使い方を教えて貰わないと使えないのか。
  でも、そいつが発するエネルギーが魔力だとして、
  その魔力を使ってジュエルシードは、何をするものなんだ?」

 「それをこれから調べるんだよ。」


 老人がしゃべり疲れて、コーヒーを口に運ぶ。
 ルパンも、コーヒーを口に運んだ。


 「インスタントにしては、いい味出してんじゃない。」

 「そうか……。」


 老人が端末を一つ取り出すと、機械と配線を繋ぐ。


 「今、データのダウンロード中だ。
  ダウンロードは、直ぐに終わるが、
  解析までは、時間が掛かる……どうする?」


 ルパンは、腕時計を見る。


 「悪いっけども、約束があるんだ。」

 「そうか……女か?」

 「おお、とびっきりの美女だぜ。」


 ルパンは、二カッと笑う。
 そして、ダウンロードが終わるまでコーヒーを楽しんだ。



[21991] 第6話 少女の事情①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:36
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 ルパンが研究施設を出ると、老人が玄関でルパンに声を掛ける。


 「忘れもんだ。」


 ルパンは、投げられたそれを右手、左手とキャッチする。


 「また、あの機械かよ。」

 「数があるんだろ?」

 「そうだった。
  ・
  ・
  足りなくないか?」

 「全部、集める気なのか?」

 「危ないんだろ?」

 「多分だがな……。
  機械が足りなくなったら、また来い。
  それまでに量産しといてやる。」

 「助かるぜ。」

 「まあ……こっちは、必要なデータを全部貰ったからな。」

 「え?」

 「ああ、何でもない。」


 ルパンは、首を傾げると機械を助手席に置き、車を出した。



  第6話 少女の事情①



 約束の時間よりも、少し早い時間……。
 約束した公園で、フェイトは、アルフとベンチに腰掛けていた。


 「フェイト……。
  アイツは、きっと来ないよ。」

 「うん……。
  でも、約束しちゃったから……。」

 「どうして、待つんだい?」

 「どうして……。
  どうしてだろう……。
  ・
  ・
  争わなくていいから……かな。」

 「それって、この前会った子のことを
  気にしているのかい?」


 フェイトは、少し押し黙る。


 「……大丈夫。
  ちゃんと戦えるから……。
  母さんが求めているものだから……。
  ・
  ・
  でも、今は、信じていたい……。
  約束は守られなくても、
  もう一度、会って話をしたい……。」

 「フェイト……。」


 アルフは、フェイトに近づくと顔を摺り寄せる。


 「付き合うよ……。
  今日は、ジュエルシードを見つけられなかったから、
  最後の望みに期待するのも悪くないよ。」

 「アルフ……。
  ありがとう……。」


 フェイトは、アルフの毛をそっと撫でる。
 そして、近くの街灯に明かりが灯る頃。
 待ち人は、現れた。


 …


 待ち人は、手を振りながら近づいて来る。


 「フェイト~!
  ごめんな~待たせて。
  女の子を待たせるなんて、
  おじさんは、紳士として失格だな~。」

 「そ、そんなこと……。
  私が、早く来過ぎただけだから。」

 「お詫びにこれあげるから、許してくれよ。」


 ルパンがポケットから取り出したものに、フェイトは、釘付けになる。


 「ほ、本当に見つけたの……?」

 「ひっどいな~……。
  おじさん、フェイトとの約束は、
  絶対に守るって言っただろう?」

 「あ……。
  ……ごめんなさい。」


 ルパンは、ベンチに座るフェイトの目の高さに合わせてしゃがみ込むと微笑む。
 そして、今は、分からないことだらけのこともあるのと、落ち込んだ目の前の少女のために嘘をつく。


 「な~んてな。
  偶々、見つけて拾っただけ。」


 フェイトは、「え?」と声を出すとつられて微笑む。


 「だけどもよ。
  な~んか、この石……ピッカンピッカン光ってんだよな?」

 「「!」」


 フェイトとアルフは、ジュエルシードが封印されていないことにハッとする。


 「フェイト!
  まだ封印されてないよ!」

 「分かってる!
  ・
  ・
  おじさん!
  それは願いに反応するの!
  何も考えないで!」

 「あはは……。
  それ大得意。
  あったま、かっぽらぽっけにすればいいんだろ?」


 ルパンは、ジュエルシードを持ったまま無心になる。
 フェイトは、自分のデバイスである愛杖を取り出すと命令する。


 「バルディッシュ!
  ジュエルシード封印!」

 『Yes Sir.』


 ルパンの前でガチャガチャと姿を変形させるフェイトのデバイス。
 そして、発せられる金色の閃光。
 ジュエルシードは、封印されるとバルディッシュに吸い込まれた。
 ルパンは、目の前の出来事を驚いて見ている。
 それに気付くとフェイトは、伏せ目がちに声を絞り出す。


 「……驚かせたかな?」

 「ああ……。」

 「…………。」

 (これで嫌われ…るかな……。)


 フェイトが不安そうな目でルパンを見ると、ルパンは呟いた。


 「犬がしゃべった……。」

 「……え? そっち?」

 「フェイト!
  その犬、しゃべった!」


 今度は、アルフがフェイトに『どうしよう!?』という目を向ける。


 「え、えっと……。」

 (どうしよう?)

 「あ、あの、おじさんも魔法使いだから知ってるよね?」

 「フェイト!
  そいつは、魔法使いじゃないって話したじゃないか!」

 「そうだった……。」

 「また、しゃべった!」

 「しまった!」


 混沌とする公園のベンチ。
 とりあえず、全員が落ち着くのに十分ほど掛かった。


 「え~と……。
  そのワンくんは、しゃべれるのか?」

 「うん……。
  アルフは、私の使い魔だから。」

 「へ~。」


 ルパンは、アルフを凝視する。


 「何さ?」

 「いや、言葉が分かんないと思って、
  ワンくんって、言ってたんだけど……。
  アルフって、呼んだ方がいいのかな?」

 「そうしておくれよ。
  私は、女なんだから。」

 「そうなのか……。
  じゃあ、『くん』付けで呼んでたのは嫌だった?」

 「まあ……。」

 「そうか。
  悪かったな。」


 自分の使い魔とルパンの会話が終わるとフェイトは、別のことが気になり質問する。


 「魔法を見ても驚かないんですね?」

 「だって、フェイトは、魔法使いだって言ったじゃない。」

 「普通、信じるかい?」

 「俺、女の子の言うことなら、
  皆、信じちゃう。」

 (ただのスケベなんじゃないんだろうか……。)


 アルフは、溜息を吐く。


 「しっかし、魔法使いのお供なら、
  黒猫だと思ってたんだけどもな。」

 「黒猫?」

 「間違ったイメージかな?」


 フェイトは、首を傾げた。
 そして、それはさて置きとルパンが話し掛ける。


 「さて、今日は、何を食べようか?」

 「でも、昨日も……。」

 「行ってくれないのか?
  おじさんは、フェイトとご飯を食べたくて、
  一生懸命にジュエルシードを見つけて来たのに……。」

 「私と?」

 「うんうん!」


 フェイトは、アルフを見る。
 そして、念話を飛ばす。


 『どうしよう?』

 『どうって……。
  コイツ、本当にそれだけを理由に探して来たみたいだよ。』

 『じゃあ、無下に断わるのはよくないかな?』

 『まあ、断わっても許してくれると思うけど?』

 『……行こうか?』

 『いいのかい?』

 『正直、どういう対応をしていいか分かんない……。』

 『……そこは同感。』


 フェイトは、ルパンの方に振り向くと頷いた。
 ルパンは、二カッと笑うとフェイトの肩を抱く。


 「ほんじゃ、まあ!
  今日は、昨日と違う店に行こう!」


 苦笑いを浮かべるフェイトとアルフを連れて、ルパンは、再び街に姿を消す。
 そして、その途中……ルパンは、そっとフェイトのリボンに盗聴器を仕掛けた。


 …


 二度目の楽しい夕食が終わる。
 そして、帰り際にフェイトは、ルパンに話し掛ける。


 「とても楽しかったです……。
  でも、もうこれで最後に……。」

 「ん?」

 「あのジュエルシードは、とても危険なんです。
  もし、暴走したら大変なことになるから……。」

 「心配してくれてんのか?」


 フェイトは、頷く。


 「そうか……。
  じゃあ、見つけた時に知らせるよ。」

 「……どうやって?」

 「携帯持ってるか?」


 フェイトは、首を振る。


 「困ったな。
  まあ、いっか。
  おじさんが、フェイトに会いに行くから。」

 「それこそ、どうやってだい?」

 「愛の力で。」


 アルフは、疑った目でルパンを睨んだ。
 ルパンが、フェイトの頭に手を乗せる。


 「多分、直ぐには見つからないと思うからな。
  暫く会えないっけども、元気でな。」

 「はい。」

 「おじさんが、ジュエルシードに襲われたら助けてな。」

 「それ、女の子に言うセリフかい?」


 アルフの言葉に皆が微笑む。


 「じゃあな。
  あんまし頑張り過ぎんじゃないぞ。」


 ルパンは、昨日と同じ様に去って行った。
 フェイトが、少し俯く。


 「今日で最後だね……。」

 「ああ……。
  でも、これで良かったと思うよ。
  ジュエルシードを探すのは危険だからね。
  悪い奴じゃないし。
  ジュエルシードを探させて、怪我をさせたくないよ。」

 「うん……そうだね。
  おじさんのお陰で元気が出たから、
  ここからは、また二人で頑張ろう。」

 「うん。
  これで四個目だ。」

 「明日は、母さんに報告に戻らないといけないね。」

 「もうか……。
  報告だけなら、私が行って来れればいいんだけど。」

 「母さん、アルフの言うこと……あんまり聞いてくれないもんね。
  アルフは、こんなに優しくていい子なのに……。」

 「まあ、明日は、大丈夫さ。
  こんな短期間にロストロギア……ジュエルシードを四つもゲットしたんだし。
  褒められこそすれ、叱られるようなことはないもんね。」

 「うん……そうだね。」


 会話が終わるとフェイトとアルフは、自宅のマンションへと帰って行った。


 「明日か……。
  少し寝て、フェイトちゃん家の家庭の事情を探らねーとな。
  とりあえず、フェイトの母さんが何を望んでいるのかをな。」


 ルパンは、フェイトとアルフの盗聴を終了すると帰宅の途に着く。
 そして、帰るコースを少し変えて、帰り際にジュエルシードを一つ確保する。
 現在、ジュエルシード……。
 フェイト 四個。
 ルパン 二個。
 もう一人 五個?


 …


 少し遡って、同日の午後三時頃……。
 次元は、海岸沿いの堤防で釣りをしていた。
 釣ってはみたものの雑魚ばかりが掛かり、リリースを繰り返していた。
 そして、また雑魚を釣り上げて舌打ちをした。


 「あ~っ!」

 「何だ!?」


 次元が振り返ると、白い制服を着た栗毛の女の子が指を差している。


 「何だい? お嬢ちゃん?」

 「あの…その……。」


 次元は、辺りを見回すが特に気になるようなものはなく、間違いなく指差されているのは自分である。


 「ひょっとして、ここでの釣りは禁止か?」

 「そうじゃなくて……。
  その魚ください!」

 「ん?」


 次元は、手の中の雑魚を見る。


 「こんなのが欲しいのか?」

 「えっと……はい!」

 「ふ~ん……こんなものがねぇ。
  まあ、いいか。
  ・
  ・
  ん?
  変なものが付いてるな。」


 次元は、それを雑魚から剥がすと投げ捨てようとする。


 「あ~っ!」


 また、女の子が叫んだ。


 「そ、それをください!」

 「ん?
  ・
  ・
  ああ、こっちが欲しかったのか?
  多分、ガラスだぞ。」

 「そ、それが欲しいの!」


 次元は、引き剥がしたそれを女の子に渡す。


 「魚は、どうするんだ?」

 「えっと……。」

 「はは……。
  いらないよな。
  女の子だから、そっちの方が気になったんだよな。」

 「はい……。
  ありがとうございました。」

 「じゃあな。」


 女の子は、お辞儀をすると走って行った。
 そして、走って行った先で何か光る。
 次元は、気にも留めずに釣りを再開する。


 「魚が釣れずに女の子が掛かるとはな。」


 栗毛の女の子……ジュエルシード六個。



[21991] 第7話 少女の事情②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:37
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 翌日……。
 ルパンは、朝からフェイトのマンションを見張っていた。
 昨日、盗聴した『母さんに会いに行く』という言葉から、フェイトの後を付けて母親の居場所を探し出すためだ。
 ルパンは、例の機械のモニターでフェイトのジュエルシードの場所を確認する。


 「おっと、動き出した。
  ・
  ・
  ん? 上に移動している……屋上か。」


 ルパンは、フェイトを追って泥棒ならではの動きで足音静かにフェイトの住むマンションの屋上を目指した。



  第7話 少女の事情②



 マンションの屋上に続く階段から、そっとフェイトを除き見る。
 近くには、人型のアルフがいる。


 「あれま。
  あのワンくんは、女の子にもなれるのか。
  ・
  ・
  歳は、俺の許容範囲内かね?」


 ルパンは、余計なことを考えながらも様子を伺う。
 フェイトは、持ち物を再確認している。


 「おみやげは、これでよしと。」


 フェイトの持つ可愛らしい紙の箱をアルフが摘まんで観察する。


 「甘いお菓子か……。
  こんなもの、あの人は喜ぶのかね?」

 「分かんないけど、
  こういうのは気持ちだから。」

 「ふ~ん……。」


 そして、移動の準備に入ると地面に魔法陣が輝く。


 「何!?」


 ルパンは、焦る。
 移動手段は、徒歩か車だと思っていたからだ。
 様子から見て、フェイト達は、魔法による移動をしようとしている。


 「次元転移…次元座標…876C 4419 3312 D699 3583 A1460 779 F3125。
  開け誘いの扉……。
  時の庭園、テスタロッサの主の下へ!」


 激しい光の閃光と共にフェイト達の姿が消える。


 「……どうすんべ。」


 ルパンは、フェイト達のいた屋上に向かうと頭を掻く。


 「まいったな……。
  俺、魔法なんて使えないぞ……。」


 そして、ポンと何かを思い出したように手を叩くと、ポケットから例の機械を取り出す。


 「コイツが、さっきの魔法をラーニングしてくれていれば……。」


 フェイトの世界の魔法には、実は少し特徴がある。
 魔法は、発動させるプログラムに近い。
 デバイスと呼ばれる杖に幾つかの魔法のプログラムが入っており、これを使用して魔法を起動したり、術者の補助をしたりするのがデバイスになる。
 つまり、デバイスに魔力を通して魔法が発動する。
 もちろん、中には詠唱や特別な条件化で発動するものもあるが、ある程度の魔法を一つのプログラムのように収めることが出来るのは事実である。
 老人から頂いた機械には、ジュエルシードを嵌めこむことで『④詳細な探索・四つの能力を記憶させ使う』が発動可能である。
 そして、その条件をクリアしたことで、目の前で起きた魔法をしっかりラーニングしていた。


 「おお! ありがてぇ!
  しっかりと覚えてくれてんじゃないの!
  ・
  ・
  でも、今、使うとフェイトと鉢合わせになっちまうな。
  少し、お宅を拝見させて貰うか。」


 ルパンは、機械で割り出してあったマンションのフェイトの家に向かう。
 そして、鍵をあっという間に開錠して中に入る。


 「お邪魔しま~す。」


 しかし、入って直ぐにルパンは、言葉を失くす。
 あまりに物がない。
 まるで、何かのセットのように整然としている。


 「これがあのくらいの女の子の部屋か?
  でも、ドッグフードは、ふんだんにあるな……。
  ・
  ・
  母さんの手掛かりはなさそうかな? ん?」


 辺りを見回していたルパンは、高いところで背を向けている何かに気が付いた。
 そして、それに近づく。


 「写真立てか……。」


 ルパンは、写真立てを手に取る。
 中には優しそうな女性と微笑む小さなフェイトがいる。
 ルパンは、それを見ると軽く笑う。


 「これが母さんか……。
  頑張っちまうよな……。
  ・
  ・
  そうだ。
  記念に一枚。」


 ルパンは、ネクタイピンに仕込まれている小型カメラで写真の写真を撮る。


 「よしと。
  他は、手掛かりになりそうなものはないな。
  ・
  ・
  今度、会う時は、デパート行って、
  手に持ちきれないぐらいの品物を買い込んでやりたいな。」


 ルパンは、フェイトの家を出ると鍵を閉め直し、再び屋上へと向かった。


 …


 ルパンは、フェイトのマンションの屋上で機械のスイッチを入れる。
 『間違いないよな?』と手順を確認しつつ、フェイトの起動した魔法が発動することを祈ってボタンを押す。
 ルパンの足元でジュエルシードと同じ色の青い魔法陣が起動する。


 「上手くいってくれよ……。」


 ルパンは、フェイトを追って別の次元へと転移した。


 …


 ※※※※※ 魔法の発動について ※※※※※

 原作の方で、ユーノが初めてなのはに魔法を使わせた時、デバイスに幾つか魔法がプログラムされていることを言っていた様な気がします。
 インターネットで、wikiなどを調べてみましたが、解釈で後付のものなどもあり(日付を見比べてみると)、正直、解釈は微妙です。
 よって、このSSでの作者の解釈としては、デバイスに幾つかの魔法がプログラムされていた。
 故に初心者であるなのはは、レイジングハートのバックアップを受けて、魔力を通して魔法を起動したと解釈しました。
 後々に彼女がユーノも使えないような色んな魔法を使うことが出来るようになったのは、ユーのにはない魔法を使える適正があり、それを発動出来る魔法プログラムをレイジングハートが備えていたと解釈しました。
 そして、なのはがA's編でデバイスを使わずに空き缶に魔法を当てていた訓練は、プログラムなし……つまり、自分自身での魔法プログラム生成の訓練であったと解釈します。
 きっと、この訓練を経てStS編のティアナ撃墜のモードリリースの砲撃が実現されたと思います。

 そして、このSSでの謎の機械は、魔法プログラムをラーニング出来るという設定になっています。
 これは、フェイト達の使う魔法が、プログラムに近いというものから発動パターンを読み取ったことになります。
 苦しい解釈を入れるのであれば、A's編でエイミィがヴォルケンリッターの結界を解析しようとしていたことから、この世界の魔法は、プログラムであり解析可能であると……。
 都合で苦しい方法を取っていますが、寛大な心で許して頂きたく思います。


 ※※※※※ フェイトのマンションについて ※※※※※

 よく分からないフェイトのマンション。
 原作を見ると光ってます……何故?
 後半になり、フェイトの居場所を探そうとする管理局のエイミィの話から、居場所を分からせないようなジャミング機能があることが分かりました。
 しかし、もう一つの謎が……。
 このマンションは、海鳴市にある実物のマンションに結界を張ったのか?
 魔法で、一から作った創作物なのか?
 今一、分かりません。
 とりあえず、後者だと逆に丸分かりのような気がするので、前者の海鳴市のマンションと思っています。



[21991] 第8話 少女の事情③
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:37
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 ルパンは、転移した場所に思わず絶句する。
 荘厳な作りの城のような場所なのだが……。


 「まるで魔王の城みたいなんだけど……。
  これ、本当にフェイトの母さんの家なのか?」


 機械のスイッチを入れ、フェイトの居場所を探す。
 そして、ルパンは、転送された部屋を抜け、フェイトの居場所を示す場所へ向かうために長い廊下を進む。


 「か~。
  すんごいなぁ。」


 辺りの大きな柱やエントランスを見ると泥棒の癖が出る。


 「思わずお宝を探したくなっちまうな……ん?」


 廊下に窓がある。


 「げ。」


 そこに見えたのは、理解出来ない空間の歪みが醸し出す外の風景だった。



  第8話 少女の事情③



 ルパンの転送した場所は、高時空内にある『時の庭園』と呼ばれる場所だった。
 ルパンは、お宝物色への欲求を抑えて、フェイトを探す。
 広い時の庭園内を歩いて来たルートを頭に入れつつ、機械の指し示す場所へ向かう。
 そして、曲がり角を曲がろうとして慌てて隠れる。


 (っ! アルフがいた!)


 そっと、中を伺う。
 ここも神殿のように大きな部屋の作りになっている。
 その壁に持たれてアルフは、必死に耳を塞いでいる。
 聞こえて来る扉の奥からは、鞭を叩く音がする。


 「まさか……。」


 ルパンは、室内を見回し、扉の奥に続くスペースはないかと確認する。


 「見あたらねーな……。
  だが、この手の建てもんの作りは、大体同じもんだ。」


 ルパンは、別の部屋から天井へと上がり、通風口を何度か右折左折を繰り返すと鞭を叩く音の響く部屋の天井へと辿り着いた。


 …


 ルパンは、部屋の中をそっと覗く。


 「フェイト……。」


 鎖に繋がれたフェイトが鞭で叩かれている。
 ルパンは、奥歯をギリギリと噛み締めると叩いている人物を見る。


 (あれは……。
  どういうことだ?)


 鞭で叩いていたのは、フェイトの部屋で見つけた写真に写っていたフェイトの母親に他ならない。
 ルパンは、直ぐにでも飛び出したい気持ちを抑える。
 理由は、状況がまるで分からないこと。
 様子を伺えば、フェイトの母親の目的が分かるかもしれないこと。
 そして、一番の理由……ここ二日で感じたフェイトの印象から、フェイトが、きっと他の人間に今の自分の姿を見られたくないと感じたから。

 フェイトは、いつも誰かを気にしていた気がした。
 話していてもルパンに遠慮する。
 アルフにも遠慮をする。
 いつも自分を後回しにする。
 そんなフェイトは、自分の傷ついた姿を見せて、他人が悲しむのを嫌がるに違いない。
 事実、アルフが扉の外で必死に何かに耐えていたのは、今の考えが少なからずあるからではないだろうか。
 もちろん、フェイトに優しい彼女は、自分が出て行って母親に掴み掛かる姿を見て、フェイトが心を痛めるのを避けるために我慢しているとも考えられる。

 やがて、鞭を叩く音が止むと声が響く。


 「たったの四つ……。
  これは、あまりにも酷いわ。」

 「はい……。
  ごめんなさい……母さん。」

 「いい? フェイト。
  あなたは、私の娘。
  大魔導師プレシア・テスタロッサの一人娘。
  ・
  ・
  不可能なことなど、あっては駄目……。
  どんなことでも……。
  そう、どんなことでも、成し遂げなければならないの。」

 「はい……。」


 …


 天井裏で、ルパンは、怒りを抑え付けつつ頭を働かせる。


 「まず、母親の名前は分かった……プレシア・テスタロッサ。
  しかし、本当に同一人物なのか?
  写真に写ってたプレシアと今のプレシアの容姿が全然違う。
  写真に写っていたプレシアは、何処にでもいる母親の姿だった。
  だけど、今、目の前にいる人物は、まるで魔女みたいな服装に化粧だ。
  そもそも、この住居からして、
  何で、こんな魔王の城みたいになっちまったんだ?
  ・
  ・
  分かんねーことだらけだぜ……。
  とりあえず、今のプレシアの姿を写真に一枚収めとくか。」


 ルパンは、少し遠めだが、ネクタイピンの小型カメラの倍率を最大に上げてプレシアを一枚撮る。
 そして、もう少し様子を見ることにした。


 …


 「こんなに待たせて置いて、上がって来た成果がこれだけでは……。
  母さんは、笑顔であなたを迎えるわけにはいかないの。
  ・
  ・
  分かるわね? フェイト。」

 「はい……分かります。」

 「だからよ、だから、覚えて欲しいの。
  もう二度と母さんを失望させないように……。」


 …


 ルパンは、フェイトの様子が気になる。


 「何で、フェイトは、逆らわないんだ?
  何で、あの母親のことをここまで慕うんだ?
  分からねー……。
  素直に言うことを聞いて……。」


 …


 「ロストロギアは、母さんの夢を叶えるために
  どうしても必要なの……。」

 「はい……母さん。」

 「特にあれは……ジュエルシードの純度は、
  他のものより遥かに優れている。
  ・
  ・
  貴女は、優しい子だから、
  躊躇ってしまうこともあるかもしれないけど。
  邪魔するものがあるなら潰しなさい。
  どんなことをしても……。
  貴女には、その力があるのだから……。」


 プレシアが、フェイトの頬をそっと撫でる。


 「行って来てくれるわね? 
  私の娘……可愛いフェイト。」

 「はい……。
  行ってきます……母さん。」

 「暫く眠るわ。
  次は必ず、母さんを喜ばせて頂戴。」

 「はい……。」


 鎖の束縛から解放され、母親が姿を消すとフェイトは、フラフラと立ち上がる。
 そして、見向きもされずに残されたおみやげを見ると俯いた。
 ルパンは、少し悲しい顔をすると見ていることしか出来なかった自分の不甲斐なさに呟く。


 「ごめんな……。」


 ルパンは、フェイトの母親であるプレシアを追って、時の庭園の内部へと入り組んだ通風口に姿を消した。


 …


 ルパンは、奥へ奥へと消えて行くプレシアを追って、時の庭園の中を進む。
 通風口から抜け出し、柱の陰に隠れて尾行する。
 そして、ある扉の前に辿り着く。
 中にプレシアが入るとそっと扉を少し開け、中の様子を盗み見る。


 「!」


 プレシアが手を翳す大きなシリンダーのようなものの中に女の子がいる。
 それは、フェイトのマンションで見た写真の中の歳と同じぐらいのフェイトだった。


 「ああ……。
  アリシア……。」

 (アリシア?
  一体、あの子は……。)


 プレシアは、暫く愛でる様にシリンダーを撫でた後、何かの端末を使用した。
 するとモニターが立体映像のように浮かぶ。


 (あれが端末を起動するスイッチで、
  叩いているのがキーボードみたいなもんか……。
  くっそ~……。
  ボタンに何の印もついてないから、
  何を打ち込んでんだか分からねー……。
  仕方ねー。
  打った位置を全部覚えるっきゃねーな……。)


 ルパンは、プレシアの打ったボタンを全て記憶していく。
 そして、プレシアは、何かのデータを閲覧するとポツリと呟く。


 「また、何の変化もないのね……アリシア。」


 そして、暫くデータの確認をするとプレシアは、一番最初に押した端末のボタンを押して端末を閉じた。
 扉へと近づいて来るプレシア。
 ルパンは、慌てると扉の上の壁にピッタリと張り付いた。
 プレシアは、振り返ることをしなかったので、ルパンに気付かずに去って行った。


 「ふへ~……。
  あ~ぶね~。
  ・
  ・
  さて。」


 ルパンは、音もなく床に降り立つと問題の部屋へと入る。
 シリンダーに浮かぶアリシアと呼ばれたフェイトに似た子供を暫く眺めるとプレシアの起動した端末にスイッチを入れる。
 そして、画面に浮かぶ文字を見て項垂れる。


 「見たこともねーような文字が、
  沢山羅列されてらぁ……。
  ・
  ・
  まあ、さっきの手順で打ち込んでみるか。」


 ルパンは、さっきプレシアの手が動いた順にキーボードと思われるそれに打ち込んでいく。
 そして、何かを入力する画面が出る。


 「パスワードか?
  え~と……。
  上上下下左右左右チョンチョン……っと。」


 画面が次に進む。


 「ムフフフ……大正解。」


 そして、ここからは、手順を覚えてなくても分かる。


 「データの閲覧か……。
  コイツが読めればいいんだけどな。
  ・
  ・
  仕方ねー……。」


 ルパンは、データを十字キーを示すボタンで切り替える度に、ネクタイピンに付いている小型カメラで写真に収めていく。


 「最近の電化製品のメモリは、馬鹿んなんないっかんな。
  まだまだ撮れちゃうぜ。」


 閲覧出来るデータを全て小型カメラに収めるとルパンは、端末のスイッチを切る。


 「いい爺さんと知り合いになったもんだ。
  もう一回会って、今度は、コイツの文字を解析して貰わんとな。
  ・
  ・
  しかし、こんな意味の分かんない文字を解析出来るか?
  あの爺さん、エネルギー体の専門だったよな。」


 ルパンは、頭を掻くと『まあ、いいか』と呟き、謎の残る部屋を後にした。


 …


 ルパンは、少し急いで来た道を引き返していた。


 「すっかり忘れてたけど……。
  フェイト達、まだ帰ってないよな?
  フェイト達が帰っちまったら、
  帰りの魔法を記録させられないで、ここに取り残されちまう!」


 ルパンは、再び機械にスイッチを入れる。


 「セ~フ……。
  まだ居る……。
  ・
  ・
  でも、急がねーとな。」


 ルパンは、機械を仕舞うと走り出した。



[21991] 第9話 眠る少女の秘密
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:37
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 少女とその使い魔は、まだ、さっきの部屋の前にいた。
 ルパンは、ほっと安堵の溜息を吐いて、二人が自分のいた世界に戻るのを待つ。
 人の少ない時の庭園でフェイトとアルフの会話は、何も遮らずに声を反響させる。


 「フェイト……ごめんよ。
  大丈夫?」

 「何で、アルフが謝るの?
  平気だよ……全然。」


 謝る涙目の自分の使い魔にフェイトは、気丈に微笑んで返した。


 「だってさ。
  まさか、こんなことになるなんて……。
  ちゃんと言われたものを手に入れて来たのに、
  あんな酷いことをされるなんて思わなかったし。
  知ってたら、絶対に止めたのに……。」

 「酷いことじゃないよ。
  母さんは、私のことを思って……って。」


 必死に母親を庇うフェイトの言葉にアルフの言葉が強くなる。


 「思ってるもんか! そんなこと!
  あんなのただの八つ当たりだ!」

 「違うよ……。
  だって、親子だもん……。
  ジュエルシードは、きっと母さんにとって凄く大事なものなんだ。
  ずっと不幸で悲しんで来た母さんだから……。
  私、何とかして喜ばせてあげたいの。」

 「だって……。
  でもさ……。」

 「アルフ、お願い……。
  大丈夫だよ……きっと。
  ジュエルシードを手に入れて帰って来たら、
  きっと、母さんも笑ってくれる。
  ・
  ・
  昔みたいに優しい母さんに戻ってくれて、
  アルフにもきっと……優しくしてくれるよ。
  だから、行こう。
  今度は、きっと……失敗しないように。」


 フェイトは、自ら歩き出す。
 前に進む強い意思の主人に惹かれる様にアルフも歩き出す。
 ルパンは、二人の後をそっと付けながら決意する。


 「おじさんが、絶対に何とかしてやっからな……。」


 フェイトとアルフが魔法で移動した十分後、ルパンも手に入れたデータを持って移動した。



  第9話 眠る少女の秘密



 ベンツSSKは、猛スピードで山岳地帯の森の中にある小さな研究施設を目指す。
 荒い運転でブレーキを掛けて研究施設の前に止めると、ルパンは、老人のいるはずの奥の部屋へと走る。


 「爺さん、頼みたいことがあるんだ!」


 勢いよく開けられたドアに面倒臭そうに老人が振り返る。


 「今度は、何だ?
  もう、お前さんには、用はないんだがな。
  機械も、まだ出来ていないぞ。」

 「そんなもんは、どうだっていいんだよ!
  これを読めるようにしてくれ!」


 ルパンは、ネクタイピンに仕掛けてある小型カメラから、メモリーを向き取ると老人に見せる。
 老人は、溜息を吐くとメモリーを受け取る。


 「何が入っているんだ?」

 「見たこともねー文字だ。」

 「ワシの専門は、エネルギー工学だぞ?」

 「っんなこと言ってもよ。
  爺さんも古代人とかそういった関係の文書から、
  研究材料を探したりすんだろ?
  データベースの文字を照合して確認してくれよ。」


 老人は、再び溜息を吐く。


 「駄目かも知れんが、やるだけやってみるか……。」


 老人は、メモリーを端末に接続するとパソコンから幾つかの文字をスキャニングする。
 そして、その文字を自分のデータベースにある収拾した古代文字などと比較し始める。
 数分後、モニターには『I do not agree.』の文字が浮かぶ。


 「一致せんな。
  これは、地球の言葉なのか?」

 「……そこも分かんねーんだよな。」

 「何とも曖昧だな。」

 「こうなったら、Googleで片っ端から……。」

 「Googleに画像認証機能なんてあったか?」

 「……だよな。」


 ルパンは、溜息を吐く。
 老人は、パソコンのURLに何かを打ち込んでいく。


 「何やってんだ?」

 「少し待ってろ。
  ワシらのコミュニティーが運営しているサイトにアクセスしてやる。」

 「何だそれ?」

 「世間のはみ出し者の科学者が集まるサイトだ。
  どいつもこいつも素性が割れると困る奴等だから、
  128文字のIDと256文字のパスワードを入れんと入れん。」

 「なんて不毛な集まりだ……。
  頼りんなるのか?」

 「さあな。
  自己主張の塊みたいな連中だからな。
  自分の研究の成果を二四時間語りっぱなしだったり、
  意見と意見が衝突してほとんどが荒れておる。」

 「マジかよ……。」

 「試しに適当な掲示板を見てみるか?」


 ルパンは、掲示板を見ようとタイトルを確認するが、どのタイトルもスレが三百を超えている。


 「いい……。
  もう分かった……。
  言葉を研究している奴にアクセスしてくれ。」

 「わかった。
  ・
  ・
  今日は、少ないな……。」

 「五人か……。
  ハンドルネームは……『BJ』『AGG』『JS』『KUP』『LIAN』。
  どいつが、有名なんだ?」

 「分からんな。
  兎に角、今は、この五人しか使っとらん。」

 「さっき、スキャンした文字を掲示板に貼り付けて、
  知ってるかどうか聞いて見たら、どうだ?」

 「直ぐ反応が返ってくればいいがな。」


 老人が、さっきの文字を二、三個貼り付けて『情報求む』と書き込む。


 「日本語でいいのかよ?」

 「アイツらは、言葉の専門家だ。
  地球に存在する言葉なら、勝手に理解するわい。」


 ルパンは、感嘆の溜息を漏らす。
 そして、『JS』という人物から回答が返って来る。


 『その言葉は、知っています。
  翻訳ソフトも、持っています。』

 「おお! やったな!」

 「そう簡単にいくか。
  こっから、交換条件を出して来る。」

 「何~!?」

 「そら、来たぞ。」

 『四年前に調べていた省電力化の構想が、
  そろそろ成果を出したんじゃないですか?
  その研究結果と交換で、どうでしょう?』

 「四年前?
  そんな前のことを覚えてんのかよ?」

 「そういう連中の集まりだ。
  まあ、いい。
  今は、エネルギーを発生させる仕組みについて研究していて、
  あんなものは、もう興味もないわい。」

 「怖い連中だね……。」


 老人は、データを相手の専用フォルダに置いた。


 「盗まれないのか?」

 「まあな。
  このサイトは、ワシらみたいな連中が作っとるから、
  データの暗号化も日数単位で変わっとる。
  今は、カオス暗号X-3824とかいう訳の分からん暗号鍵で、
  データが暗号化されとる。」

 「……もう付いていけねーよ。」


 そして、老人の専用フォルダに翻訳のソフトが届いた。


 「なあ、爺さん。
  あんたは、ジュエルシードのデータを研究中なんだろ?
  空いてるパソコンとここのサイト使って、
  俺が、データを解析してもいいかな?」

 「ああ、構わんぞ。」

 「あんがとな。
  さ~て、いっちょやるか。
  まずは、この画像データをこのソフトに
  突っ込める文字コードに変換しないとな。
  ・
  ・
  え~と……。
  なになに……。」


 ルパンは、老人のフォルダに置かれたReadmeのテキストベースの説明を読みながら、プレシアのところで手に入れたデータの翻訳を開始した。


 …


 翻訳ソフトの使い方を理解するのに二時間。
 翻訳ソフトのフォルダに付属されていた画像データから文字コードに変換するツールの使用方法を理解するのに一時間。
 そして、画像データから文字コードに変換するのに一時間。
 現在、翻訳ソフトが翻訳を始めて三十分が経とうとしていた。
 ルパンは、貸し与えられた机の上に突っ伏していた。


 「しんど~……。
  何がしんどいって説明書……。
  これ自分に酔って書かれてっから、
  余計な説明が盛り沢山でやんの……。」


 老人が、ルパンの突っ伏す机にコーヒーを置く。


 「大変だったろう?」

 「ああ……。
  でも、後は、翻訳待ちだ。」


 ルパンが、老人の淹れてくれたコーヒーを啜る。


 「相変わらず美味いな。」

 「そうか?」

 「ああ。」

 「そのデータは、一体、何なんだ?」

 「まあ、大方の予想はついてんだけどな。
  俺も、似たようなことを体験したし……。
  あん時は、別人の俺が死刑になっちまったんだよな。」

 「?」

 「気にすんなって。
  お? そろそろ翻訳が終わりそうだ。」


 翻訳ソフトの実行を表す%は、99%まで進んでいた。
 そして、100%になると別フォルダの中に翻訳されたデータがずらっと並んだ。
 ルパンは、翻訳したデータを読み始める。


 「やっぱりだ……。」

 「ん?」

 「クローンの文字が何個か出てる。」

 「クローン?」

 「こっちの方面は、ちょっと勉強しててな。
  細かいとこまでは無理だけど、
  さわり程度なら、俺でもある程度理解出来る。
  そして、大抵こういう研究を纏めたもんは、
  最初に概要がくっ付いてっから、
  それを読めば大まかに分かる。」

 「大したもんだな。」

 「な~に、泥棒がお宝を手っ取り早く盗むテクニックの一つさ。」

 「それで?」

 「ん? ああ……。
  コイツは、大まかに分けて二つの研究成果と
  その研究成果のデータを纏めたもんだ。
  一つは、使い魔を超える人造生命の作成の研究。
  もう一つは、死者蘇生の研究。
  『プロジェクトF.A.T.E』って、名前がついているが、
  どっちかの名前なのか総称してそう呼ぶのかは分かんねー……。」

 「随分、大それた研究だな。」

 「まあな。
  だが、クローン技術ってのは、
  随分前から研究されていて、結構な実用や成功例がある。
  さっきも言ったが、俺のクローンを作られたこともあっからな。」

 「お前さんも、大概にして
  まともな人生を歩んでおらんな。」

 「うるへー!
  ・
  ・
  で、だ。
  問題は、死者蘇生なんだが……こっちは、どうにもな。
  昔、ミイラ男や吸血鬼なんかとは会ったことはあんだけども、
  あれは、科学とかそういう外の範疇だからな。」

 「……次の研究対象は、お前さんにするかのう。」

 「やめてくれよ。
  ・
  ・
  それで、この概要を読んで分かっちまったのが、
  死んじまった子ってのがアリシアで、
  作られたクローンがフェイトってことだ。」

 「分からん名前だな?」

 「そりゃそうだ。
  俺が会ってた女の子の名前だからな。」

 「そうなるとお前さんは、
  クローンの女の子と会ってたのか?」

 「そうなるな。
  もう少し読み進めてみるわ。」

 「ああ。
  完全に専門外だ。
  分からない技術や単語は、
  さっき教えたサイトの狂人達に相談しろ。」

 「そうするわ。」


 ルパンは、画面に映し出されたプレシアの研究成果を読み始めた。


 …


 ルパンは、椅子に持たれ掛かると窓を見て大きく息を吐く。
 窓の外は、すっかり暗くなり深夜になっていた。


 「嫌なことが分かっちまったぜ……。」

 (アリシア・テスタロッサ。
  彼女は、既に死んでいて、それを生き返らせようと
  プレシア・テスタロッサは、死者蘇生の研究を始めた。
  そして、次に使い魔を超える人造生命でクローニングした素体を作り上げた。
  コイツにアリシアの遺伝子を組み込んで姿を似せ、
  アリシアの記憶を定着させて作り出されたのがフェイトだ。
  ・
  ・
  だが、分からねーことがある。
  フェイトを作ったこととフェイトが生かされている理由だ。
  データを読む以上、フェイトが作られたのは数年前。
  その時、フェイトを作った理由がアリシアの新しい体だったとする。
  記憶を定着させてアリシアを蘇らせようとした……考えられなくはない。
  だが、それが明らかに偽物なのは、聡明なプレシアが気付かないはずがねー。
  そして、その時点で失敗と分かっているなら、フェイトは廃棄されてしまうはずだ。
  しかし、していない……何故だ?
  仮にジュエルシードを集めるためとしても、
  ジュエルシードが散らばったのは、ここ最近だ。
  とてもじゃねーが、それを予想してフェイトに魔法の訓練をしたとは思えねー。
  ・
  ・
  更にアリシアが、未だに蘇生していないところから考えると、
  プレシアは、アリシアを蘇生させるために
  ジュエルシードを集めていると考えられる。
  こんなエネルギー体なんかを集めて、
  蘇生させる手助けになるとは考えられねー。)


 ルパンは、腕組みをして体勢を変える。


 (後、この死者蘇生の研究……。
  本当に成功していないのか?
  ・
  ・
  クローンを作る技術があるってことは、
  無から有を作り出す技術があるってことだ。
  例えば、対象者が大怪我をして何かを失ったとしても、
  新たに作り出せる技術を持っていたことになる。
  心配されるのは、脳へのダメージ。
  心肺蘇生の遅れから、脳に酸素が十分に行き渡らず、
  機能障害を起こす事例……。
  しかし、これはないと考えられる。
  何故なら、アリシアの記憶を取り出すことは正常に出来ていて、
  それをフェイトの記憶に定着させるところまで出来ているからだ。
  プレシアの技術で、完全に修復が出来ている。
  足りない技術はないと思われる。)

 「……となると。
  進み過ぎた科学力で置き去りにされるもの……。
  アリシアの心……。
  アリシア自身が目覚めるのを拒んでいるとしか思えねー。
  ・
  ・
  でも、何で、アリシアは、目覚めることを拒むんだ?
  フェイトは、あんなに母親が……。」


 ルパンは、ハッとする。


 「分かって来たぞ……。
  フェイトには、アリシアの記憶が基礎に定着している。
  つまり、アリシアとフェイトの好みは非常に似ているはずなんだ。
  そして、フェイトが執拗に執着して求めるもの……。
  ・
  ・
  ずばり、母親だ。
  ・
  ・
  アリシアも、母親が好きで好きでたまらないんだ。
  じゃあ、何で、起きないのか?
  答えは簡単だ……母親が変わっちまったからだ。
  きっと目も耳も機能しない状態でも、
  俺達と違って魔法を認識出来るアリシアは、第六感が働くように分かっちまうんだ。
  ・
  ・
  後は、裏づけだ。
  プレシアの研究結果に間違いがないことを証明して、
  俺の仮説を実証出来る説明をサイトの狂人に導き出して貰う。
  今夜は、寝れねーな!」


 ルパンは、サイトの中の住人と話を繰り返して、研究の確証と心の因果関係を纏め始める。
 何故かプレシアの研究成果の確証は、『JS』が再び手を貸してくれた。
 心の因果関係については、興味はないらしく別の狂人を頼ることで何とか確証を得ることが出来た。
 そして、狂人達のアドバイスにより、老人が量産している機械の作成をやめさせて、ジュエルシードの願いを叶える力を利用して対象にイメージを送る機械を作成して貰うように依頼した。


 「爺さんの機械が出来次第、また、あそこに行かないとな。
  後は、この実証結果に例の細工を試みて終了だ。
  ・
  ・
  余った時間は、またジュエルシードを探すか……。
  フェイトにゃ悪いけど、
  あれを集めて母さんに持ってくのは、少しやめて貰いたいんでな。」


 ルパンは、プレシアに会うべく下準備を始めるのであった。



[21991] 第10話 泥棒と大魔導師
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:38
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 ルパンは、小さなリュックサックを片方の肩に引っ掛けている。
 中には、携帯のDVDプレイヤーと例のサイトの住人と作成した実証に基ずくデータを収めたDVD-R(プレシアの世界の言語版)が入っている。


 「さ~て、行きますか。」


 ルパンは、ポケットから例の機械を取り出すと次元を移動する魔法を起動した。



  第10話 泥棒と大魔導師



 高時空内にある時の庭園……。
 ルパンは、例の機械を使用する。
 ジュエルシードの反応はない。


 「よ~し。
  フェイトはいない。
  あれからフェイトは、ジュエルシードを見つけてないだろうな。
  後、もう一方の誰かも……。
  俺が、地上にあるジュエルシードは、み~んなゲットしちゃったかんな。」


 フェイト 四個。
 栗毛の女の子 六個
 ルパン 七個。

 ルパンは、『ムフフフ』と笑うと時の庭園内をズンズンと進んで行く。
 プレシアの居場所は分からずとも、必ず現れる場所なら分かる。
 ならば、そこで待てばいい。
 ルパンは、アリシアの眠る部屋の前で壁に持たれて待つことにした。


 …


 ルパンが待ち始めて、それほど長い時間が経たない頃……。
 静かに足音が近づいて来る。
 そして、足音が曲がり角を曲がって来る。
 プレシアとルパンが対峙した。
 プレシアは、無言で右手をルパンに翳すと魔法による攻撃を放った。


 「うわ!」


 ルパンは、器用に狭い通路を縦横無尽に走り回る。
 その後ろをプレシアの魔法が追い掛ける。


 「ちょ、ちょっと待てって!
  話し合いがあって来たんだから!」

 「私にはないわ。」

 「こんの分からず屋!」


 ルパンは、壁を蹴上がり、プレシアの背後を取るとワルサーP38をプレシアの背中に突きつける。


 「美人は撃ちたくねーんだ……。
  話を聞いてくんねーか?」

 「甘い男ね……。」


 プレシアの背中で魔法障壁が発生するとルパンは、壁まで吹き飛ばされた。
 そして、追い討ちを掛けるように魔法の奔流がルパンに向かう。


 「それが魔法による攻撃と防御ってヤツなんだな……。」


 プレシアの視界の先の煙の中から声がする。
 プレシアは、少し警戒心を強めた。
 何故なら、魔法を放った男からは、魔力を何も感じなかったからだ。
 煙が晴れるとルパンは、例の機械を片手にプレシアからラーニングした魔法障壁を展開していた。


 「いっくらでも攻撃してくれて構わねーぜ。
  なんせ魔力ってヤツは、枯渇する心配がねーからな。」


 プレシアが翳していた右手を下ろす。


 「ちょっと、話だけでも聞いてくんねーかな?」

 「……いいわ。」

 「出来るなら、ここじゃなくて、
  お客さんを持て成してくれるお部屋なんかに
  案内してくれっと嬉しいんだけども。」


 プレシアは、珍妙な客に何処か毒気を抜かれた気分になる。
 溜息を吐くと『付いてらっしゃい』と言葉を掛けて、先に歩き始めた。


 …


 案内された客間は、また豪華で広い部屋だった。
 ガラスで作られた大きなテーブルを挟んでソファーが二つある。
 プレシアは、その一つに腰掛けるとルパンも反対側のソファーに腰掛けた。


 「一体、誰なの?」

 「ルパ~ン三世。」

 「ルパン?
  聞いたことのない名前ね……。
  何処かの魔導師かしら?」

 「泥棒です。」


 ニカッと笑うルパンに対して、プレシアは、眉間に皺を寄せて溜息をついた。


 「で、その泥棒が何の用なの?」

 「まずは、コイツを見て貰いたくてな。」


 ルパンは、降ろしたリュックサックの中から一枚の紙を取り出し、プレシアに渡す。
 プレシアの顔が、一瞬で険しくなった。


 「一体、これを何処で手に入れたの……。」

 「さっき、襲われた部屋さ。」

 「……そういうこと。
  この前、フェイト達が来た時のノイズは、貴方だったのね?」

 「そういうこと。
  ・
  ・
  あんたほどの科学者だ。
  もう、分かんだろ?」

 「……科学者?
  そちらの世界では、そういう呼び方が正しいのかしら……。
  ええ、分かるわ。
  私の作ったデータの間違いを指摘したこれを見ればね。」

 「ああ。
  でも、それは無視しても全然いいものだ。
  だから、あえて放置してたんだろ?」

 「じゃあ、何のためにこのデータの指摘を?」

 「簡単だ。
  あんたのデータを、俺が理解しているって分からすためさ。
  回りっくどい説明をするよりも、一回で分かんだろ?」

 「……ええ、そうね。」


 プレシアは、まだ目的の見えないルパンに警戒が解けない。


 「実は、本当に見せたいものはこっちなんだ。」


 ルパンは、携帯のDVDプレイヤーとDVD-Rを取り出す。
 そして、携帯のDVDプレイヤーにDVD-Rを入れると再生する。
 そこには、プレシアの研究結果に失敗がないことの裏づけが流れていた。


 「……何よこれ?」

 「実はな。
  あんたの研究を俺の世界の人間の科学者に見て貰ってよ。
  そこに間違いがないかを検証して貰ったんだわ。」

 「?」


 プレシアの顔に疑問と動揺が浮かんでいる。


 「ビデオ形式に纏めてるから、じっくり見てくれ。」

 「……何で、データ形式じゃないのよ。
  使えるデータがあったら、
  全部入力し直さないといけないじゃない。」

 「尤もなんだけどもさ。
  あんたらの世界と機械の形式が違うから、
  仕方なくこの方法になったんだよ。
  あんたらの言語に直すんだって、すんごい苦労したんだから、
  そこは許して欲しいな。」

 「……そう、仕方ないわね。
  それで、他に何が入っているの?」


 ルパンは、軽く笑うと続ける。


 「俺達の世界は、あんたらの世界に比べたら、
  随分と遅れているんだわ。
  この資料もそういうことが出来たとしての
  判断材料で検証してある。」

 「じゃあ、見る価値はないわね。」

 「だけど……。
  その分、学者的な数値以外のアプローチが
  今も続けられている。」


 プレシアの眉がピクリと動く。


 「後で見てくれていいから、
  とりあえず、次の説明まで飛ばすな。」


 ルパンは、DVDのシーンを飛ばす。


 「こっからが、俺達の世界で辿り着いた
  アリシアちゃんが目を覚まさない原因。」


 ルパンは、またDVDのシーンを飛ばす。


 「そんで、次がそれに対するアプローチの方法。」


 プレシアの顔つきが変わり、モニターに見入っている。


 「悪いけど、原因のところから見せてくれない?」

 「ああ。」


 ルパンは、DVDのシーンを戻す。
 それから、プレシアは、食い入るようにDVDを見続け。
 二回ほど、DVDを見直した。


 「なるほどね……。
  心に対するアプローチ……。」

 「ああ。
  つまり、アリシアの望んでいるものを
  与えて呼び戻すんだ。」

 「……この機械、借りて行っていいかしら?」

 「返さなくていいぜ。」

 「感謝するわ。」


 そこには、確かに母親の顔があった。
 ルパンは、ニカッと笑う。


 「それ電気で動いてんだけど、
  電池が切れると動かなくなるからよ。」

 「ええ。
  この程度のものなら、魔法で何とでも動かせるわ。」

 「そうか。
  じゃあ、話は、これで終わりだ。
  俺は、帰るぜ。」

 「ちょっと、それだけのために来たっていうの?」

 「ああ。
  俺は、世界を跨いでも女の味方だからな。」

 (……よく分からない理由ね。)

 「見送るわ。」

 「よせよ……。
  勝手に入って来たんだから、勝手に出て行くさ。」


 ルパンは、手を振るとプレシアを残して客間を後にした。
 そして、最初に転送された場所へと向かって歩き出す。


 「プレシア・テスタロッサ。
  後は、あんた次第だ……。
  このままフェイトに酷いことをする母親を続けるか……。
  昔の優しい自分を取り戻すか……。
  ・
  ・
  時間は、あまりないんだろう……。」


 ルパンの表情は、いつものおちゃらけたものではなく厳しいものだった。


 …


 ルパンの持って来たDVDをプレシアは、その日、何度も何度も見続けた。
 そして、頭の中では、今までなかったアリシアに対するアプローチの仕方が形成され始めていた。
 いけるかもしれない……。
 今までと違うこの方法なら成果を出せるかもしれない……。
 そして、色々な期待を込めて最後の最後で顔色が絶望に変わる。


 「思い…出せない……。
  一番肝心なアリシアの一番好きなものが……。
  思い出せない……。」


 プレシアは、必死に思い出す。
 しかし、好きな食べ物や色を思い出せても、一番が思い出せない。


 「アリシアは……。
  アリシアは、一体、何を……。」


 プレシアは分からないまま、その日は、眠りについた。


 …


 プレシアは、夢を見ている。
 久々に見る夢では、アリシアが笑っている……。
 そして、悲しい目をしている……。


 (違う……。
  これは、アリシアじゃない!
  フェイトよ!)


 そして、繰り返される。
 笑うアリシア……。
 悲しむフェイト……。

 そして、最後に現れるのは、己自身。
 優しかった頃の自分の姿……。
 今の魔女のような格好の自分の姿……。


 (何なのこれは!?
  自分なんて見たくない!
  フェイトなんか見たくない!
  私は、アリシアだけを見ていたいの!)


 だけど、夢は、プレシアの願いを聞き入れない。
 また、同じ場面が繰り返す。

 プレシアは、目を覚ました。


 「なんて……。
  なんて夢なの……。」


 目を閉じれば、ありありと夢の内容が思い出される。
 笑うアリシア……。
 悲しむフェイト……。
 過去の自分……。
 今の自分……。


 「最悪だわ……。」


 夢は、眠った瞬間に何度も繰り返された。


 …


 次の日……。
 ルパンの持って来たDVDを見ながら、新たなアプローチをするための準備を始める。
 最後の答えは出ていないが、出来るところまでを進める。
 しかし、その作業中も脳裏には夢の映像が流れ込む。


 「何なの…これは……。」


 声を荒げ、息を切らす。
 しかし、不快に思っていた映像をいつしか考え込むようになる。
 アリシアは、何故、笑っていたのか?
 フェイトは、何故、悲しんでいたのか?
 過去の自分が、何故、穏やかな表情をしていたのか?
 今の自分は、何故、こんなにも険しい顔をしているのか?


 「アリシア……。
  フェイト……。
  私……。」


 暫く沈黙する。
 そして、ゆっくりと言葉を呟く。


 「アリシアが笑っているのは……。」


 思い出されるのは、小さな花畑……。
 花を編んで作った冠を渡す場面……。


 「そうね……。
  嬉しかったから……。
  私が微笑んでいたから……。」


 そして、また沈黙する。


 「フェイトが悲しんでいる……。」


 鞭に打たれる姿……。
 それでも、言いつけを守ろうと立ち上がる姿……。


 「何で?
  フェイトは、アリシアの様に笑わないじゃない……。
  だから……。
  ・
  ・
  違う……。
  笑えないのよ……。
  どうして……?
  ・
  ・
  私が微笑まないからだ……。」


 フェイトに対して、今までなかった感情が芽生え始める。
 そして、それは大事なことを思い出す原因に繋がる。
 プレシアは、自分の両手を見て自分の姿を見る。


 「何なの…この格好は……?
  これじゃあ、アリシアは…笑ってくれない……。」


 額を押さえる。
 記憶の中で、少しずつアリシアが大好きだったものが影を見せる……。
 少しずつアリシアが大好きだったのが誰だったか影を見せる……。


 「アリシアが大好きだったのは……。
  一番大好きだったのは……。」


 プレシアの目が開かれる。


 「大好きだったのは…私だ……。
  こんな格好じゃない私だ……。」


 呼吸が荒い。
 頭痛もする。
 そして、答えを得たはずなのにまだ納得していない。


 「何故、他には何もないはずなのに……。
  何故、思考が止まらないの……。」


 プレシアは、端末の上に両肘を付き、両手で頭を抱える。
 フェイトの悲しい顔が浮かぶ。


 「後悔している……?
  私は、後悔している……。
  何で? フェイトは、ただ作られた存在なのに……。
  私が作った、ただの人形なのに……。」


 頭が割れるように痛い。
 そして、何かのビジョンがフッと蘇る。


 「そうだ……。
  フェイトを作った……違う!
  フェイトを生み出したのには理由があったのよ!
  ・
  ・
  思い出せ……。
  思い出しなさい……。
  思い出しなさい!」


 苦しむプレシアに誰かが囁いた気がした。
 もちろん、部屋の中にはプレシアしかいない。


 「幻聴でも、何でもいいわ……。
  さっきの声は、アリシアだった……。
  もう一度……。
  もう一度、母さんに囁いて……。」


 プレシアは、ゆっくりと目を閉じる。
 そして、それは確かに聞こえた。


 『私ね……。
  妹が欲しい……。』


 プレシアは、ゆっくりと目を開けた。
 アリシアが目覚めない理由が分かり始める。


 「私が変わってしまったからだ……。
  そして、アリシアが望んでいた妹を
  私が叩いているからだ……。
  ・
  ・
  私は、あの時……。
  フェイトを生み出した時から……。
  心の何処かで、それを覚えていたから、
  フェイトを捨てられなかったのに……。」


 プレシアは、がっくりと床に手を突くように座り込む。
 そして、咳き込む口を押さえると手に血が滲む。


 「時間もないわね……。
  少し冷静になったら、
  大事なことも思い出したわ……。
  ・
  ・
  こんな体でアルハザードに向かって、
  アリシアを蘇らせることが出来ても……。
  私が死んで、アリシアは、一人ぼっちだわ……。
  こんなのいいはずがない……。
  結局、私は、アリシアもアリシアの妹のフェイトも傷つけただけだった……。」


 涙が点々と床を叩く。


 「だけど……。
  諦めきれない……。
  ・
  ・
  母親として、最期まで諦められない……。」


 プレシアは、口を強く結ぶと冷静になった頭でルパンの持って来たDVDを睨む。
 そして、その映像を録画したものを時の庭園にある自分の端末でコマ送りで再生する。


 「……やっぱり。
  こんな使い古された手に引っ掛かるなんて……。」


 コマ送りされる何百秒分の一にアリシアの顔が映っている。
 プレシアは、そういった映像を抜き出すと『アリシア』『フェイト』『過去の自分』『今の自分』が出て来た。


 「深層心理への刷り込み……。
  あの男は、私に罰を与えたかったのかしら……。」


 しかし、最後の抜き出しを見て、プレシアは微笑んだ。


 『もし、アリシアとフェイトのために
  頑張る気があるなら、いつでも手伝うぜ。

  ここが俺のアジト:
  海鳴市XXX-XXXX

  ルパン三世。』

 「……ええ。
  母親として行くわ……。」


 プレシアは、自分の部屋に行くと化粧を落として服を着替える。
 そして、鏡台の前であらためて化粧をする時……。
 あの時と同じ様な薄い化粧だけをした。



[21991] 第11話 そして、娘のために姉のために……①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:38
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 ルパンのアジトで、ルパンは、スキューバダイビングの用意をしていた。


 「あれから二日か……。
  プレシアは、どういう答えを出したのか……。
  ・
  ・
  ジュエルシードは、後、海の中の四つだけなんだけどな。
  連絡場所をアジトにしちゃったから、
  出るに出れねーよ……。
  場所じゃなくて携帯の番号書いとくんだったな。
  どっちにしろ、携帯も電話も持ってないか……。
  ん? でも、フェイトは、こっちで生活している以上、
  こっちの世界の常識は知ってるか……。」


 ルパンが、ぶつぶつと独り言を言っているとアパートのドアを誰かがノックした。



  第11話 そして、娘のために姉のために……①



 ルパンが、アパートのドアを開けると普段着のプレシアがいた。
 ルパンは、フェイトのマンションで見たプレシアの写真を思い出すと微笑む。


 「そっちの方が、ずっといい女だぜ。」

 「そ、そう?
  こういう服を着るの久しぶりで……。」

 「お宅と比べたら小さい部屋だが、
  あがってくれ。」

 「ええ。」


 ルパンのアパートに上がるとプレシアは、小さなちゃぶ台の前で正座する。
 ルパンは、コーヒーを淹れるとプレシアのいるちゃぶ台の上に置く。


 「最近、このインスタントコーヒーに凝ってんだわ。」


 そして、砂糖と牛乳を置く。


 「これ、多く淹れた方がいいだろう?」

 「貴方……。
  私の病状を知ってるの?」

 「あん? まあな。
  女のことは、何だって分かるんだよ。」

 「この前も、そんなことを言ってたわね……。
  本当は、ただのスケベじゃないの?」

 「違うっつーの……。
  ・
  ・
  それで、今日は、何しに?」


 プレシアは、コーヒーに牛乳を少し大目に入れながら、ルパンに目を向ける。


 「分かっているクセに……。
  メッセージを入れたのは、貴方でしょ?」


 プレシアは、牛乳を置くと頭を下げた。


 「アリシアとフェイトのために……。
  頑張りたいの……。」


 ルパンは、微笑む。


 「あんた、本当にいい女だぜ……。」


 ルパンは、背中の後ろに置いてあった機械と説明書をプレシアの前に置く。
 プレシアが顔をあげると目の前の機械に目が移る。


 「これ、この世界の説明書をあんたの世界の言葉に直したヤツ。
  初めから作るよりも改造する方が楽なはずだろ。」

 「これは……。」

 「DVDにあった最後の端末だ。
  ジュエルシードを機械に入れて、
  ジュエルシードの願いを叶えるって力を
  相手にイメージを送るものに変えるんだよ。
  あんたの作った装置にそれを付ければ、
  アリシアに、より鮮明にイメージが流れ込むはずだ。」

 「……ありがとう。」

 「だけど、気を付けな。」

 「え?」

 「ダイレクトにイメージが通るんだ。
  嘘や偽りも、全部流れ込む。」

 「……わかったわ。」


 ルパンは、コーヒーを一口啜る。


 「ところで、アリシアの一番の願いは分かったのかい?」

 「ええ……。
  『お母さん』と『妹』よ。」


 ルパンは、予想外の言葉に首を傾げる。


 「妹? 母親だけじゃないのか?」

 「違うわ……。
  貴方の刷り込みのせいで、
  もう一つ、大事なことを思い出したの……。」

 「それが『妹』なのか?」

 「ええ……。
  フェイトは、アリシアが蘇生した時に
  妹となるために私が生み出した。」

 「それでか……。」

 「何?」

 「いやよ。
  一つ腑に落ちない点があったんだ。
  フェイトが、ジュエルシードを集めてたのは知ってたんだけどよ。
  あんたの記録を見ると誕生が数年前になっているんだ。
  当然、当時は、ジュエルシードがばら撒かれるなんて知らないだろ?
  つまり、あんたは、必要のないフェイトを
  破棄するなり捨てるなり出来たはずなんだ。
  だけど、しなかった……。
  何でかなって思っていたんだ。」

 「その言い方だと、
  私が、フェイトにしていた仕打ちも知っているのね?」

 「ああ……。
  俺が、あんた達に関わる切っ掛けになったのは、
  あの子に会ったからだからな。
  勝手にあの子を付けて、お宅訪問した時にな……。
  ・
  ・
  だから、辛いとは思ったが、
  昔の記憶を無理に思い出させる方法を取ったんだ。
  少しばっかり、あんたも苦しまないと不公平だと思ってよ。
  それに……あの子の願いは、あんたが変わんないと叶わねーからな。」

 「……いい薬だったわ。
  これから、もっと苦い薬を飲み込むつもりだけど……。」


 ルパンは、プレシアを直視する。


 「直ぐには埋まらねー溝だぜ?」

 「そうね……。
  あの子の使い魔は、私の本当の気持ちも見抜いていたし、
  今更、母親面するのも、どうしていいか……。」


 プレシアが、コーヒーを啜る。


 「本当に美味しいわ……。」

 「だけどな。
  スーパーで安売りのなんだわ。」

 「信じられないわね。」


 ルパンは、一呼吸置くと少し厳しい表情でプレシアを見る。


 「……少し辛いことを聞いていいか?」

 「ええ……。」

 「あんた、何があったんだ?
  何で、フェイトにあんな辛い思いをさせたんだ?」


 プレシアは、少し俯くとスカートの裾を強く握り、悶々としていた負の感情を吐き出し始めた。


 「……母親であることを忘れていた。
  理不尽な事故で失くした命を
  理不尽な方法で取り返そうとした……。
  アリシアと同じ顔を持つあの子が、
  アリシアと同じ行動を取れないことに苛立った……。
  死を自覚した時、アリシアを助けることだけを考えていた……。
  あの事故の原因を作った……。」

 「もういい……。
  悪かった……。」


 ルパンは、スラスラと自分の悪いところを言えるプレシアに静止を掛けた。
 悪いところを言えるということは、プレシアがしっかりと自分の罪を認識していたことを表わすからだ。
 罪を認めている人間に追い討ちを掛けるようなことは、ルパンには出来なかった。
 しかし、プレシアは、どうしても言って置きたい言葉を続ける。


 「……もう少しだけ、言わせて。
  何をしてでもとフェイトを責めた……。
  あの子にしたのは、理不尽な八つ当たり……。
  ・
  ・
  そして……フェイトの母親になろうと思った今でも、
  アリシアのことの方を多く考えて……私は、平等に愛せないでいる。」


 ルパンは、反転してしまったギャップは、アリシアに対しての深い愛の裏返しだと感じる。
 それと同時にフェイトに対しては、何も始まっていないのだと感じる。


 「正直だな……。」

 「……もう、包み隠して置く時間もないから。」

 「なあ……。
  アリシアを助ける作業さ……。
  フェイトとやったら、どうだ?」

 「え?」

 「包み隠さずに全部話してよ……。
  アリシアの代わりじゃないフェイトとして認めてさ。
  フェイトに一緒の思い出を作ってやりなよ。
  フェイトの記憶の大部分は、アリシアの記憶を元にしているんだろ?」

 「……ええ。」

 「一緒に思い出を作れば、
  傾いていた天秤が、少しは水平に近づくかもしれない。
  ・
  ・
  そしてさ。
  時間があるなら、プレシアとアリシアとフェイトの三人で思い出を作りな。
  残される姉妹に絆を作ってやれるのは、
  母親であるあんたしか出来ないことだぜ?」


 プレシアは、自分でやろうとしていたことを言われるとその重要性を再認識する。


 「まずは、フェイトとの関係をしっかり修復する必要があるな。」

 「ええ……。
  でも、そこが分からなくて……。
  何で、フェイトにあんなに辛く当たってしまうのか……。」

 (何で、俺は、生活相談員の役割みたいなことをさせられてんだ?)


 ルパンは、溜息を吐くと自分の見解を述べる。


 「多分だけど……。
  あんたのフェイトに対するコンプレックスっていうのは、
  フェイトとアリシアを
  同一視しようとするところにあると思うんだよな……。」

 「同一視……?」

 「なまじ外見を同じにしちまったから、全部比べっちまうんだよ。
  ちゃんと感じてあげなよ。
  性格なんて、違って当然なんだぜ。」

 「……でも。」

 「よく考えてみろって。
  世界中の人間が、全員同じ思考で同じ行動を取ってみろよ。
  気持ち悪いじゃねーか。」

 「そんな極端な例を出されれば……。」

 「あんたにもいるだろ?
  気に入らない人間の一人や二人?
  そいつらを頭ん中で増殖させてみなって。」


 プレシアは、口を押さえた。


 「違った方がいいわね……。」

 「だろ?
  俺だって、世界中の男がとっつぁんだらけになったら、
  どうしようもないかんな。」

 「とっつぁん?」

 「あはは……。
  こっちのこと……。」

 「でも、そうね。
  まず、フェイトを一個人として認めないと。」

 「ああ。
  あんたがアリシアと違うと感じてた不快感は、
  フェイトの個性だよ。
  それを一人の人間の長所として認めんだよ。」

 「個性……。」

 「悪い個性じゃないと思うぜ?
  確かに躊躇したりするのは、
  イラッと来ることもあるかもしんないけど。
  年頃の女の子なら、可愛いじゃねーか。」

 「そ、そうね……。」

 「気丈で一途で真っ直ぐでさ。
  俺、フェイトのこと食べちゃいたいもん。」


 プレシアのグーが、ルパンに炸裂した。


 「うちの子に手を出さないで!」

 「はは……。
  ちゃんとお母さん出来てんじゃない……。」


 プレシアは、ハッとする。


 「まだ、親子……やり直せると思うぜ?」


 ルパンは、プレシアにウィンクする。
 プレシアは、自分の行動とルパンにしてやられたことで、頬を少し染めると機械と説明書を持参したバッグに突っ込み立ち上がる。


 「お帰りかい?」

 「ええ。
  折角、機械を貰っても、
  フェイトにジュエルシードを預けたままじゃ、使えないから。」

 「ああ、その通りだ。
  成功することを祈ってるよ。」


 プレシアは、最後にもう一度『ありがとう……』と呟くとルパンのアパートを出た。
 ルパンは、プレシアに叩かれた頭を撫でながら呟く。


 「今、思うとあのプレシアの魔女みたいな格好は、
  内面から出た優しさなのかもな……。
  わざわざ化粧をしたのは、
  病魔に冒されているのをフェイトに気付かせないため。
  あの意地の悪い態度は、もう直ぐ別れる母親との決別をさせるため。
  ・
  ・
  考え過ぎか……。」


 ルパンは、ちゃぶ台に乗るコーヒーに手を伸ばすと一気に飲み干した。



[21991] 第12話 そして、娘のために姉のために……②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:38
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 ルパンのいたアパートを勢いよく出たものの、フェイトのいるマンションまで来ると足が止まる。
 何から話せばいいか?
 いきなり訪ねて行くのは、どうなんだろうか?
 今までは一方的だったが、フェイトが受けて入れてくれなかったら、どうしよう?
 アリシアに拒否されたと想像するだけで足が震える。
 それをフェイトに置き換える……やっぱり、足が震える。
 『うちの子に手を出さないで!』自分の叫んだ言葉が、自分を母親だと強く認識させた。


 (……認識して弱くなった?)


 プレシアは、遅めの反抗期ならぬ、久々の母性本能を発生させていた。



  第12話 そして、娘のために姉のために……②



 考える時間が欲しいとエレベーターを使わずに階段を上って時間を稼ぐ。
 体調が悪いのに一体何をしているんだと自己嫌悪をしているとフェイトの家の前まで来てしまった。
 インターホンに指を伸ばす。
 しかし、押せない。


 「お土産を買って来るべきかしら……。」


 この期に及んで、まだ時間を稼ごうとする。
 そして、インターホンを押そうと指を伸ばしたまま一分が過ぎた頃、ドアノブがゆっくりと回った。
 目が合う。


 「…………。」


 赤い瞳が驚いている。
 プレシアは、未だ指を伸ばしたままだ。


 「……あの…その。」

 「え、えっと……。」


 どちらも言い出せない。
 本当は、少し似ているのかもしれない。


 「……ごめんなさい。」

 「え?」

 「まだ、ジュエルシードを見つけられなくて……。」


 フェイトは、俯いた。
 しかし、プレシアは焦っている。


 (違う!
  謝らせたいんじゃないの!
  ・
  ・
  私は……。
  私は……。)


 プレシアは、言葉に出来ない分、力一杯、フェイトを抱きしめた。
 言いたいことは、浮かんで来ない。
 でも、決してフェイトに謝らせたいわけじゃない。
 だから、謝らないでと抱きしめた。

 フェイトは、分からない。
 分からないから、混乱する。
 でも、何か必死なものだけが伝わる。
 そして、分からないけど……嬉しい。


 「フェイト。
  ジュエルシード探す準備出来たよ。
  ・
  ・
  え?」


 奥から現れたアルフが固まる。
 何か分からないけど、プレシアとフェイトが抱き合っている。
 アルフは、しゃがみ込んで頭を抱える。


 「一体、何が……。
  そもそも、何で、あの女がここに……。」


 分からないことだらけだった。


 …


 アルフが声を掛けるまで、プレシアとフェイトは抱き合ったままだった。
 そして、ようやく引き剥がした第一声が『謝って欲しいんじゃないの!』という必死に訴えるプレシアの一言だった。
 その後、プレシアは、赤面すると何も言えなくなり、フェイトの案内で家の中へと入って行った。
 そして、フェイトとアルフを前にして、今に至る……。
 もう、十分も何も言ってない。
 プレシアのこの態度に、普段、心底嫌っているアルフですら皮肉の一つも言えなかった。
 そして、沈黙を破ったのはフェイトだった。


 「母さん……。
  来てくれて嬉しい……。」


 プレシアは、顔を上げる。
 そこにある顔は、いつもと少し違う。


 「その服……。
  とっても似合ってる……。」


 プレシアは、感じる。


 (笑顔が柔らかい……。
  たった、服が違うだけなのに……。)


 よく考えれば、あの服装は、子供に対して威圧的だった。


 「その……。
  ジュエルシードは、まだ一つも見つからないんだ。」

 「ええ……。」

 「母さんの望んだものだから、
  見つけないとって、思っているんだけど……。
  広域探索の魔法にも引っ掛からなくて……。」

 「ええ……。」

 「だから、ごめんなさい……。」


 プレシアは、少し口を強く結ぶ。


 「だから! 謝らないで!
  ・
  ・
  違う……。
  そうじゃなくて……。
  謝らなくちゃいけないのは、私で……。」


 プレシアは、額に手を置く。
 自分が、こんなに脆いと思わなかった。
 今の言葉でフェイトも俯いてしまう。
 アルフは、ダークな気を漂わせる親子に溜息を吐く。


 「どういう心境の変化か分かんないけどさ。
  あんた、何しに来たんだい?」

 「…………。」

 「黙ってちゃ、分かんないよ。」


 プレシアが呟く。


 「ちゃんと…謝らないと……。」

 「えぇ? 何だって?」


 プレシアは、大声で叫ぶ。


 「ごめんなさい!」


 フェイトとアルフが、大音量にビリビリと反応する。
 そして、驚いたまま動けない。
 プレシアは、俯いて顔に掌を当てると言葉を溢す。


 「謝りたかった……。
  謝りたかった…だけなのよ……。」


 上手く言えない自分の不甲斐なさに涙が零れる。
 一言が言えない。
 上手く感情を伝えられない。
 しかし、それはある意味当然だった。
 それだけの仕打ちをしたのだから。

 プレシアは、情けない姿を見られたことに打ちひしがれる。
 それを今は受け入れる。
 情けなくても、どんな目で見られようとも……。
 例え許されなくても……。

 そして、そんな母親を見てフェイトがゆっくり囁く。


 「母さんが謝ることないよ……。
  私が、母さんの期待に応えられなかったんだし……。
  謝る理由なんて……。
  ・
  ・
  でも、分からないけど……。
  母さんが許して欲しいなら……。
  私は、何度だって許すよ。」


 時々、見せていた困ったような笑顔。
 自分より、他人を優先した時によく覗かせていた。


 (あ……。
  フェイトは、本当に優しい……。
  こんなに優しい……。
  何で、気付かなかったの?)


 今更ながらに腹が立つ。
 曇っていた自分の心に腹が立つ。


 「…………。」


 目の前には、フェイトから差し出されたハンカチがあった。
 プレシアは、ゆっくりと手を伸ばす。


 「……あり…がとう。」


 この言葉を口にするのは、今日、何回目だろうか?
 プレシアは、ハンカチで涙を拭い、少し落ち着くとフェイトに話し掛ける。


 「大事な話があって来たの……。」


 フェイトは、ゆっくり頷く。


 「でも、話す前に言わせて……。
  どんな真実があっても……。
  どんなことがあっても……。
  貴女は、私の娘だから。」


 フェイトは、プレシアの温かい言葉を嬉しく思う。
 そして、同時にこれから話されることが辛いことだと理解した上で頷く。


 「貴女は……。
  フェイトは、私がお腹を痛めた子じゃない。」


 しかし、プレシアの言葉にフェイトとアルフは、言葉を失った。


 …


 プレシアから出た言葉にフェイトは、小さく俯く。
 だけど、直ぐに顔を上げた。
 アルフは、心配そうにフェイトを見ている。
 フェイトは、ゆっくりと口を開く。


 「もしかしたら……って、思うことがあったんだ。
  夢を見るんだけど……。
  その時、母さんは、私を『アリシア』って呼ぶんだ……。
  でも、私は……優しい母さんが好きだから、
  それで、いいのかなって思ってた。」

 「フェイト……。」

 「私は……。
  ううん……私の記憶は、その『アリシア』って子のものなんだよね?」


 プレシアは、静かに頷いた。


 「私の記憶は……。
  何処から、私のものなの?
  母さんを好きなのも嘘なの?」

 「……いいえ。
  アリシアの記憶を与えて、
  フェイトの記憶が作られているのは事実だけど、
  フェイトの感じていることに偽物は一つもないわ。」


 プレシアは、少し視線を落とす。


 「私が、フェイトに酷いことをしていたことを覚えているでしょう……。
  あれは、私の理不尽な八つ当たりのせい……。
  アリシアの姿をしているのに
  アリシアと違う性格をしている貴女を許せなかったから……。
  ・
  ・
  つまり……貴女は、もう一人の人間。
  アリシアの記憶は切っ掛けで、
  それを糧に成長したのは……フェイト、貴女自身よ。」

 「そうなんだ……。
  でも、そうすると私と母さんの思い出は、少しなんだね……。」


 少し寂しそうにフェイトが俯くとプレシアは、フェイトの手を掴む。
 許して貰う相手に頼みごとをすること。
 母親であろうと思い直したこと。
 その思いが合わさって手を握る行動に出た。
 しかし、相変わらず、顔は緊張しっぱなし……。
 行動に出たはいいが、久しく母親を忘れていた稀代の大魔導師は、混乱気味だった。


 「こ、これから!
  これから作りましょう!
  思い出!」

 「え?」

 「私は、アリシアを助ける研究をしているわ。
  そのためにフェイトにジュエルシードを集めさせていたけど、
  別の方法を見つけたから……。
  その…今から、数がなくても取り掛かれるわけで……。
  でも、決してアリシアのためだけってわけじゃなくて……。
  ・
  ・
  フェ、フェイトが……手伝ってくれるなら、
  一緒に研究をしたい……の。」


 『母さんは、どうしてしまったのだろうか?』と、フェイトは困った顔を浮かべるが、直ぐに笑顔に変える。


 (私は、まだ必要とされているんだ……。
  それに……。
  優しい母さんに戻ってくれるかもしれない……。)


 フェイトは、はっきりした声で答えを返す。


 「私に手伝わせてください。」

 「……ええ。」


 フェイトは、プレシアの握り返す手が嬉しかった。
 そして、アルフは、一人複雑な顔をしたままだった。



[21991] 第13話 そして、娘のために姉のために……③
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:39
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 フェイトが承諾したその日のうちにプレシア、フェイト、アルフは、時の庭園へと戻った。
 そして、プレシア達が時の庭園に戻った後、栗毛の白い服の女の子に出会いがあった。


 「時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。
  詳しい事情を聞かせて欲しい。」


 クロノ・ハラオウンと名乗った黒髪で黒い防護服を纏った男の子との出会い。
 遂に時空管理局が動き出した。



  第13話 そして、娘のために姉のために……③



 一方のルパンは、次元と共にクルーザーを用意して海へと繰り出していた。
 次元は、クルーザーから釣り糸を垂らしてのんびりと釣りを楽しみ、相棒のルパンは、海に潜ってジュエルシードを回収する。
 そして、ルパンは、海面に顔を出すと次元に話し掛ける。


 「ぷ~は~……。
  これで、ここいら一帯のジュエルシードは、
  ぜ~んぶ回収してやったぜ。」

 「ご苦労なこったな。
  何だか分からない石を拾い集めるなんて。」

 「仕方ねーだろ。
  ほっぽっとくと危ねーんだからよ。
  ・
  ・
  梯子下ろしてくれ。」


 次元は、クルーザーから縄梯子を投げる。
 ルパンは、海から上がるとクルーザーの甲板に大の字になり日光浴する。
 そのルパンを背に、次元が話し掛ける。


 「一体、その石は、どんなお宝なんだ?」

 「エネルギー体としては、破格な存在らしいんだけっどもな。
  扱うのに苦労するんだわ。
  爺さんの機械だと安定させっちまうから、大した事出来ないし、
  使える能力も制限付きだからな。」

 「つまり、貴重だけど扱い切れないお宝か。
  どうしようもないな。」

 「まあな。
  でも、ほっぽっとくと
  ドカーンって、ことにもなり兼ねねーんだとよ。」

 「いつから、ボランティアをするようになったんだ?」

 「好きでやってるわけじゃねーよ。
  ・
  ・
  でも、コイツは、魔法を使える連中には貴重なものらしいぜ?」


 ルパンが、例の機械からジュエルシードを外して次元に見せる。


 「ん? それどっかで……あーっ!」

 「どうした?」

 「それがお宝なのか!?」

 「そうだけど?」

 「俺、それを海から釣り上げて、あげちまったぞ!」

 「なぬー!?」

 「大変だ!
  まだ小さい女の子だったのに!」


 ルパンは、ジュエルシードを機械に収めるとスイッチを入れる。
 ジュエルシードは、フェイトがいなくなったため、二ヶ所だけを示す。
 一つは、ルパン。
 もう一つは、次元の言った女の子になる。


 「……次元。
  その子の特徴分かるか?」

 「確か小学生の真ん中ぐらいで……。
  栗色の髪を二つ結ってたな。」

 「そうか……。
  多分、その子も魔法使いだな。」

 「魔法?
  さっきも、そんなこと言ってたな。
  お前さん、またやっかいごとに
  首を突っ込んでんじゃないだろうな?」

 「あら、分かる?」

 「か~……やっぱりか。
  俺は、知らねーぞ。」

 「いつも最初から手伝ってくれねーじゃねーか。
  まあ、いいさ。
  危なくなったら、巻き込むからよ。」

 「お前な……。
  それこそ、いつも通りじゃねーか……。」


 ルパンは、機械のスイッチを切る。


 (反応から予想するとフェイトは、
  プレシアと出掛けたみたいだな……。
  しっかり頑張れよ……。
  ・
  ・
  もう一人の女の子か……。
  今のうちに会って確かめとくか……。)


 これでジュエルシードは、全て誰かの手の内にあることになった。
 フェイト 四個。
 栗毛の女の子 六個
 ルパン 十一個。


 …


 数日後の時の庭園……。
 アリシアのいる部屋でプレシアとフェイトとアルフが、作業を開始していた。
 プレシアは、ルパンから与った端末を自分の世界の装置に組み込めるように調整中。
 フェイトは、アルフと一緒にデータの整理中。


 「母さん……。
  ごめんなさい……。
  この資料の纏め方が分からなくて……。」


 フェイトは、遠慮がちに端末をプレシアに見せる。
 そして、プレシアは、溜息を吐きたいのを我慢する。
 我慢したのは、フェイトの不甲斐なさではなく、フェイトが先に謝ってしまったこと。
 自分のせいでフェイトは、自己主張が出来なくなったと感じたからだ。


 「フェイト。
  謝らなくていいわ。
  最初から、分かる人はいないの。
  知らないことは分からなくて、当然。
  ・
  ・
  しっかり覚えてね。
  フェイトの作る資料は、丁寧で分かり易いわよ。」

 「……はい、母さん。」


 フェイトは、少しはにかみながら、プレシアの説明を聞いていた。
 そして、アルフは、尻尾を振りながら、プレシアを見て分析していた。


 (いい傾向だね~。
  フェイトが嬉しそうだよ。
  ・
  ・
  そして、少し分かっちゃったよ。
  あの人、実は、かなりの親馬鹿だ。
  アリシアって子とフェイトを別の子供と理解した途端に
  あの変わりようだもんね……。
  プレシアは、気付いてないけど、
  フェイトが質問すると凄く嬉しそうな顔になってる。
  本当は、娘に構いたくてしょうがないんだ。
  ・
  ・
  前、不機嫌だったのって、これも原因かね?
  フェイトは、絶対に自分の弱みを見せないから、
  構う事が出来ないもんね……。
  そして、魔法を使うことなら、兎も角、
  こっちの方は、知らないと分からないから、頼らざるを得ない……。
  フェイトは、必ず聞きに行く……。
  ・
  ・
  また、にやけてるよ……。)


 アルフは、フフンと鼻を鳴らすと作業を再開した。


 …


 プレシア一家が海鳴市を離れたことで、ジュエルシードを探索する女の子は、何の妨害もなく探索に精を出す。
 しかし、ジュエルシードは、一向に見つからない。
 時空管理局執務官の少年の力を借りて、人手を増やし、アースラという時空間を渡る船に装備されているシステムを使用しても見つからない。
 この結果には、件の女の子ばかりか、協力関係になった少年も頭を抱えていた。
 場所は、海鳴市の公園……。


 「ジュエルシードを運んでいた時空艦船のデータとユーノの証言から、
  数まで特定出来たのに……。
  どうなっているんだ?
  肝心のジュエルシードの反応を捉えられないなんて。」

 「うん。
  それにジュエルシードを集めているフェイトちゃんにも、
  あれ以来、一度も会えてないし……。」

 「そのフェイトって黒衣の魔導師が、
  全て集めてしまったとは考えられないか?」


 女の子の肩に乗るフェレットが、少年に話し掛ける。


 「それはないと思うよ。
  あの子も、ジュエルシードの反応を辿って探していたし。
  漠然とした位置を見つけると魔力流を流して、
  ジュエルシードを発動させてから捕獲していたから。
  同じ方法を取れば、発動したジュエルシードの反応で、否でも分かるよ。」

 「そうか。
  兎に角、探索は続けよう。
  それとなのはは、そろそろ戻った方がいい。
  協力してくれるのは有り難いが、何の進展も見られない今の状況で、
  家庭を離れるのも、学校を休み続けるのも、いいこととは言えない。」

 「でも……。」

 「もし、ジュエルシードの情報が入ったら、必ず連絡する。
  その時は、また協力してくれないか?」

 「うん……そうだね。
  私は、今日から家に戻るよ。
  ユーノ君は?」

 「僕は……。」

 「一緒に来る?」

 「いいのかい?」

 「うん。」

 「じゃあ、お言葉に甘えて……。」

 「決まりだな。
  艦長の方には、僕から伝えて置く。」

 「うん。
  じゃあ、リンディさんにもよろしく。
  クロノ君、情報が入ったら絶対に呼んでね。」

 「約束するよ。」

 「じゃあ。」


 そこで、少年と女の子は別れた。
 女の子は走って行き、少年は、魔法陣が光ると何処かに転移した。
 木の陰から、ルパンが姿を現わす。


 「この機械……凄いのな。
  ジュエルシード持ってて、全然バレないや。
  ・
  ・
  それにしても……。
  なのはちゃんにクロノ君にユーノ君にリンディ艦長だっけか?
  話を聞いてると俺の嫌いな警察みたいな役割を感じるよな。
  ほ~んと、ど~しよ……。」


 ルパンは、プレシアかフェイトに何かの動きがあるまで、静かに待つ事にした。


 …


 更に一週間が過ぎる……。
 フェイトとアルフは、プレシアの側に控えている。
 プレシアが、ルパンから与った端末を取り付ける日が来たのだ。
 しかし、いきなり大容量の情報を与えると負荷が掛かるし、何があるかもわからない。


 「……まず、別の機械で試すべきよね?」

 「全部、セットしてから、
  何を言ってんのさ……。」


 プレシアは、赤くなると咳払いをする。


 「天才だって、失敗する時もあるのよ!」

 「失敗じゃなくて、ドジったんだろ?」

 「いいから、取り外す準備をして。」

 「へいへい……ん?」


 アルフが、端末を見て首を傾げる。


 「ちょっと、スイッチ入れたのかい?」

 「入れてないわ。」


 フェイトも首を振る。


 「でも……。
  何か出てるんだけど?」


 プレシアとフェイトが、端末を覗き込む。


 「「ずるい?」」


 プレシアが、出力先を確認する。


 「アリシアから出ている……。」


 その日は、アリシアから出力された言葉の時間の前後のデータ収集と、ルパンから与った端末を別の機械に繋いでの実験データの収集に終始した。


 …


 次の日、プレシア、フェイト、アルフは、悩んでいた。
 まず、アリシアから出力された言葉は、端末を取り付け終わる前に出力されていた。
 つまり、端末を付けるまでもなく、アリシアに回復の兆しが見えたことになる。
 だったら、端末を取り付ける意味はあるのか?
 そして、何よりも大きな問題は、『ずるい』という言葉である。


 「一体、何がずるいのかしら?」

 「この前、アリシアの前で昼食を
  皆で食べたからかも……。」

 「でも、アリシアの好物ではなかったはずだけど。」

 「…………。」


 アルフは、眉間に皺を寄せて眉を吊り上げている。


 「私さ……。
  フェイトは、兎も角。
  プレシアは、天然じゃないと思っていたんだけど。」

 「アルフ……酷い。」

 「じゃあ、分かるの?」

 「当たり前さね。
  どう考えたって嫉妬じゃないか。」

 「「嫉妬? 誰に?」」

 「あんた達に決まってるじゃないか!
  フェイトは、私のご主人様なのにベタベタベタベタと!
  アリシアは、プレシアが大好きなんだから、
  フェイトにベタベタしてたら嫉妬するじゃないか!」


 プレシアは、顎に当てる。


 「それもそうね……。
  今、アルフで、それは実証されたわけだし。」

 「さり気なく人を実験材料にしたことを認めたよ……この女。」

 「そうなると私に対しても
  嫉妬したかもしれないわね?」

 「何で、知りもしないフェイトを材料に嫉妬するのさ?」

 「アリシアは、妹を欲しがっていたのよ。
  妹として生み出したフェイトを取られたと嫉妬したとも……。」

 「ちょっと、待った~!」

 「何よ?」

 「アリシアは、妹が欲しかったのかい!?」

 「言ってなかったかしら?」

 「「言ってない(よ)!」」

 「…………。」


 プレシアは、別の機械で実験したルパンの端末の実験データを見る。


 「問題なさそうね……。」

 「母さん!」
 「無視するな!」


 アリシア復活の日も近いかもしれない……。



[21991] 第14話 そして、娘のために姉のために……④
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:39
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 気丈に振舞って、初めて馬鹿なことをやってみたり……。
 その日々が少しずつ宝物に変わっていって、今まで尽くせなかった分だけ尽くしてみたいと願う……。
 病魔に冒された体の痛みを強靭な精神力で誤魔化しても、衰えていく体力が自分の死期を知らせ始めている。


 「もう少し……。
  もう少しだけ時間を頂戴……。
  残されていく娘達の絆を築く時間を……。」


 プレシアは、フェイトとアルフと共に作った研究の成果を今日こそ実現するため、しっかりと母親となってアリシアの下に向かった。



  第14話 そして、娘のために姉のために……④



 プレシアは、ルパンから与った機械を次のように改造して使用していた。
 ルパンから渡された機械は、対象に端末から打ち込んだ言葉の思いをジュエルシードの願いを叶える力を利用してイメージを送ることしか出来ない。
 更に使用者の思いと打ち込んだ言葉に差異があるとイメージが送れない。
 しかし、それでは詳細なイメージを送れない上に使い勝手も悪い。
 そこで、魔法というプログラム技術を持つ世界ならではの方法に改造した。
 端末にデバイスのようなAIによる理解出来る機能を持たせ、端末を握った者が流し込む魔力からイメージを読み取り、対象(アリシア)にイメージを送るというものだ。
 そして、ジュエルシードが純粋な願いを叶えるロストロギアという理由から、使用する者の嘘が弾かれるのは、改造を施しても変わらない。

 成果は、徐々に出始めていた。
 何も返さなかったアリシアの心が、一つ二つと言葉を返し始めている。
 最初は、一日に三つ。
 次の日に五つ。
 日を追うごとに増えている。
 最近では、プレシアが休んでいる時にフェイトとアルフが、かわり番こでイメージを送り続けている。
 昼も夜も……。
 そして、アリシアの返す気持ちも段々と強くなっている。
 『母様に会いたい』『妹のフェイトに会いたい』『アルフに会いたい』と……。


 「え?」


 端末を持っていたフェイトが、プレシアに声を掛ける。


 「母さん!」


 その声にプレシアとアルフが反応する。


 「アリシアが、前を見てって。」


 三人は、アリシアの浮かぶ装置の側へと駆け寄る。
 そして、アリシアは、ゆっくりと目を開けるとチョンチョンと透明なガラスを叩いて見せた。
 プレシアは、装置の中の液体を抜き、フェイトは、バリアジャケットの中のマントを取り出すと装置の中のアリシアの肩に掛ける。
 アリシアは、確かに自分の声で話し出していた。


 「呼ぶ声が聞こえて……。
  帰って来ちゃった……。
  ・
  ・
  母様、ただいま……。
  フェイト、アルフ……初めましてなのかな?
  ずっと、聞こえてたよ。」


 アリシアは、三人に笑って見せた。
 目覚めは、突然で、都合なんて考えていない。
 だから、最初に言おうとしていた言葉を忘れさせた。


 「変なこと、言っちゃったかな?」


 フェイトは、直ぐ側で呼吸に合わせて上下する肩に安堵する。
 そして、声を掛ける。


 「初めまして……。
  お姉ちゃん……。」


 屈託のない満面の笑顔。
 確かにこの笑顔は、自分に出来ないかもしれないとフェイトは思う。
 その後ろで、プレシアが声を掛ける。


 「アリシア……。
  おかえり……。」


 アリシアは、また笑う。
 アルフは、少し困っている。


 「私は、どうすればいいんだろ?
  母親でもないし、妹でもないし、フェイトの使い魔だし……。」

 「ありがとう。」


 アリシアの方から、声を掛けた。
 アルフは、少し照れ笑いを浮かべると答える。


 「どういたしまして。
  そして、これからよろしく……アリシア。」


 アリシアは、アルフにも笑顔を送った。
 プレシアは、微笑むとフェイトとアルフにお願いする。


 「……アリシアをお風呂まで連れて行ってあげて。
  装置の中の薬液を洗い流すの。
  それと、久々に体を使うから、思うように動けないと思うわ。
  手伝ってあげて。」

 「わかったよ。
  ・
  ・
  アリシア、洗いっこだ!」

 「え!? わ!?」


 アルフが、アリシアを抱きかかえる。
 フェイトは、お風呂に必要なものの準備をしようとする。
 そして、その途中でプレシアに話し掛ける。


 「母さんは?」

 「……データを見るわ。
  何かあったら大変だから。」

 「そう……。
  後で、手伝います。」

 「ええ……。
  お願いね。
  でも、アリシアは、少し我が侭だから、
  しっかり洗ってあげてね。」

 「はい。」


 フェイトも、部屋を後にした。
 そして、プレシアは、直ぐに蹲くまり口を押さえ、なるべく音を立てないように咳き込む。


 「あと少し……。
  ここまで来れたんだから……。
  アリシアを一人にしないように……。
  フェイトを一人にしないように……。
  ・
  ・
  こんなの我慢出来るわ。
  やっと母親を始められたんだから。」


 プレシアは、データを端末に移す。
 そして、咳き込んだ時に付着した洋服の袖を見ると、それを隠すために自分の部屋へと急いだ。


 …


 プレシアは、部屋に戻ると急いで服を脱ぎ、染みになる前に洗い流す。
 そして、服を着替え、気休めとも言える薬を飲み込む。
 少し荒い息を吐きながら、端末のデータをチェックしていく。
 同年代の女の子のデータと比較しながら、大きな差分のあるものを確認する。


 「……よかった。
  筋力が少し弱いぐらいだわ。
  アリシアは、ちゃんと運動をしてくれるかしら?
  大丈夫よね……。
  フェイトがいるんですもの。」


 プレシアは、後、何が出来るかを考える。


 (アリシアとフェイトを本当の姉妹にしてあげること……。
  遠い未来で不自由なく暮らしていけるようにすること……。
  ジュエルシードを集めてしまったから、
  管理局も、何とかしないといけないわね……。
  二人をここにいつまでも居させるわけにもいかないし……。
  ・
  ・
  転移魔法は、もう使えない……。
  いいえ、きっと大きな魔法も使えない……。
  この大事なことを伝える相手と手段は……。)


 プレシアは、二人の娘へは言葉と行動で伝えると心に誓う。
 それ以外に自分で出来ないことを手紙で伝えることに決めた。
 そして、後は、信じて頼ることにした。
 一つは、時空管理局へ。
 もう一つは、自分を変える切っ掛けを与えた泥棒へ。



[21991] 第15話 母親である最期①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:40
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 アリシアとフェイトの絆を深める時間も必要だったが、プレシアには、どうしても、して置かなくてはいけないことがある。
 時空管理局へ宛てた手紙は、自分の死後でも構わない。
 しかし、泥棒への手紙は、生きているうちに届けなければいけない。
 そこで、ルパンから与った端末を箱に詰め、それと一緒に同封する。
 住所は、既に分かっているから、後は送るだけで問題ない。


 「……問題は、ルパン三世と名乗っていたあの男の名前を
  そのまま書いて届くかってことよね?」


 プレシアは、住所と宛名をメモして送料を用意するとフェイトを呼んだ。



  第15話 母親である最期①



 プレシアは、フェイトを自分の部屋に呼び寄せると早速、お願いをする。


 「フェイト、お使いをして欲しいのだけど、
  お願い出来るかしら?」

 「はい、母さん。
  ・
  ・
  小包み?」

 「ええ。
  アリシアに使っていた機械……。
  実は、借り物なのよ。」

 「そうなんだ……。」


 プレシアは、機械から外したジュエルシードを掌で広げる。


 「大事なものだから、
  貴女のバルディッシュの中に入れといて。」

 「はい。」


 フェイトは、バルディッシュを取り出し、起動するとしっかりとジュエルシードを収めた。
 そして、プレシアから、メモが渡される。


 「あちらの世界では、何処で出しても次の日に荷物が届くわ。
  海鳴市より少し遠い場所に転移して、
  そこから荷物を出してくれる?
  ひょっとしたら、海鳴市は、管理局の警戒が強いかもしれないから。」

 「わかりました。」


 フェイトは、メモを見て動かなくなる。


 「どうしたの?」

 「この…この宛名の人……。」

 (そう言えば、顔見知りって言ってたわね。)

 「その人が、私を母親に戻して、
  機械を提供してくれたのよ。
  そして、その機械は、役目を終えたから、
  その人に返すの。」


 メモに涙が当たる。


 「おじさんだ……。
  分からないけど、おじさんだ……。
  おじさんは、私に…私を……。」


 プレシアは、立ち上がるとフェイトをそっと包む。


 「ええ……。
  思っていてくれてた……。
  そして、フェイトだけじゃない。
  私にも、手を差し伸べてくれた。」

 「……うん。
  ありがとう……って伝えたい。」

 「伝えられるわ……きっと。
  でも、今は、アリシアのことを優先させて。
  お姉ちゃんと仲良くしてあげて。
  ・
  ・
  機会は、きっと作るから。」

 「……はい。」


 プレシアは、しゃがみ込むとハンカチを取り出し、そっと、フェイトの涙を拭ってあげる。


 「お願いね。」

 「はい。
  いってきます……母さん。」


 フェイトは、小包みを持ってプレシアの部屋を出た。
 そして、プレシアの心には、ルパンに対する感謝の念が残った。


 …


 次の日……。
 次元の釣った魚を食べながら、ルパンは、溜息を吐く。


 「こう毎日、魚ばっかだと飽きるな……。」

 「贅沢言うな。
  まだ、ホイル焼きにしたりして、
  食べ方を工夫すれば、幾らでもいける。」

 「そん頃には、一流の料理人になっちまうよ。」


 そして、部屋を誰かがノックする。
 ルパンは、魚地獄を脱するためにドアへと向かう。


 「お荷物をお届けに参りました。」

 「はいよ。
  お荷物受け取ります。
  ・
  ・
  サインでいいか?」

 「結構です。」


 ルパンがサインをすると、宅配業者の人は帰って行った。


 「誰からだ?
  フェイト?
  何で、フェイトから?
  ・
  ・
  はは……。
  こっちの世界の字には、まだ慣れてないみたいだな。」


 ルパンは、少しおかしな字の書き方に微笑むと小包みを開ける。
 箱に収められている機械を見て、プレシアのお使いだと判断する。
 そして、同封した手紙を取り出す。


 「はは……。
  読めねーや……。
  ま、爺さんとこから、ソフトだけはUSBに入れて来たから、
  ここにあるスキャナーとパソコンで変換するか。」


 ルパンは、早速、手紙の翻訳に入る。
 翻訳には、結構、時間が掛かかる。


 「あの爺さんのパソコンは、
  メモリをどんだけ積んでんだ?
  俺のノートパソコンだと、
  やたら時間が掛かるんだけど……。
  ・
  ・
  お、出来たか。」


 ルパンは、翻訳された手紙の内容を読み始める。
 すると真剣な顔になり、例の機械を掴む。


 「次元、出掛けて来る!」


 ルパンは、アパートを出て、ベンツSSKに飛び乗ると海鳴市を出る。
 そして、車を止めると、そこで機械に収められている転送魔法を起動した。


 …


 ルパンが、時の庭園に転送されると、転送ゲートの先でプレシアが待っていた。
 プレシアは、そっと指を差して隣の部屋へと導く。


 「来てくれて助かったわ。
  もう、自分じゃ魔法も使えないから。」

 「そこまで病状が悪化しているのか?」

 「正直に言えば、
  痛みで、今にも気絶しそうだわ。」


 しかし、言葉と裏腹にそんな風には見えない。


 「貴方にお願いがあって、来て貰ったの……。」

 「何でも言いな……。
  何でもしてやるから。」

 「悪いわね……。
  最初から最期まで貴方に頼り切った形になって。」

 「それがいい男の条件ってもんだ。
  そして、素直に打ち明けてくれるのがいい女の条件さ。」

 「ありがとう……。
  貴方になら、気兼ねなく話せるわ。
  ・
  ・
  私は、もう直ぐ居なくなるわ。
  でも、解決出来ない問題がある。
  私のせいで、フェイトがジュエルシードを集めていたから、
  時空管理局にフェイトが目を付けられている可能性が高い。
  それを何とかしないとフェイトが犯罪者になってしまう。」

 「時空管理局……聞いたことねーな。
  ただ、少年探偵団みたいな子達が、
  ジュエルシードを探してんのは見たぜ。
  その子達は、多分、魔法使いだ。」

 「間違いなく管理局の魔導師ね……。」

 「それで、どうなることが
  ベストな解決方法になるんだ?」


 プレシアは、困った顔を覗かせる。


 「そこが少し面倒なことになっていて……。
  アリシアとフェイト、そして、使い魔のアルフ……。
  この三人の将来を託すのは、時空管理局になると思うのよ。」

 「何だぁ!?」

 「時空管理局は、様々な次元世界を管理しているの。
  そして、私達が使う魔法という技術を中心にしている。
  だから、あの子達を保護するなり、養子に出すなりは、
  時空管理局の力が必要になる。
  貴方が、あの子達の面倒を見てくれるなら、別だけど?」

 「無茶言うなよ。
  俺に預けたら、全員泥棒になっちまうぜ。
  ・
  ・
  でも、内容は理解したよ。
  保護して貰う対象に嫌疑も掛けられてるってこったな?」

 「ええ……私のせいで。」


 ルパンは、苦笑いを浮かべる。


 「そんで、あんたのプランだと、
  どうなるんだ?」

 「時空管理局には、私が死んだ後、
  アリシア達に手紙を持たせる予定よ。
  ・
  ・
  手紙の内容は、こう。
  ジュエルシードがばら撒かれたのを知って、
  暴発する危険があったから、フェイトに集めさせた。
  フェイトの話では、その時に別の魔導師がいたから、
  正体が分かるまで会話も控えさせた。」

 「あんたが、管理局に連絡を取らなかったことを
  管理局は、疑うんじゃねーか?」

 「それは、問題ないわ。
  都合よく私の体は、病魔に冒されていたから……。
  私自身が前線に出れなかったことにもなるし。
  連絡にフェイトを使わなかったのも、
  フェイトが、私に付きっ切りになっていたから、
  海鳴市で接触出来なかったことになるから。」

 「よく考えてんな……。」

 「ええ。
  ただ、フェイトが戦闘をしているから、
  これだけの証言で信じてくれるかが問題なのよ。
  手紙にしか残っていないことだから、
  嘘だって疑われればお終いだわ。」

 「なるほどね。
  管理局の信頼を確実なものにして、
  保護をして貰いたいわけか。」

 「ええ。
  私の研究の成果とこの時の庭園の駆動炉を提供すれば、
  あの子達は、将来困らないはずだしね。
  駆動炉は、ジュエルシードと同系のロストロギアだから、
  それの見返りで暮らしていけるはず。
  管理局を信じて、あの子達が成人したら、
  財産を受け渡して貰うわ。」


 ルパンは、プレシアを見て微笑む。


 「短い間なのに、いい母親になったな。」

 「貴方のお陰よ……。
  アリシアを蘇生させることが出来たし……。
  何より、娘が三人に増えたみたいで、
  今は、とっても幸せ……。」

 「そうか……。
  じゃあ、フェイトとアルフとアリシアが幸せになれるように
  こんな方法は、どうかな?」


 ルパンは、ポケットから例の機械を三つ出す。


 「コイツん中には、残ったジュエルシードが全部入っている。
  数で言うと十一個だ。
  と言っても、機械が反応したものしか回収出来てねーから、
  数があっているかは分かんねーけどな。」

 「よく集められたわね……。」

 「もしかしたら、魔法ってのがない分だけ、
  どっかしらこっちの世界の方が
  優れているところがあるのかもな。
  ・
  ・
  でな。
  俺が、これを集めてる悪い奴だって、
  管理局に知らせてくれねーかな?
  そして、フェイトを管理局に協力させて、
  俺からフェイトにこれを渡すからよ。
  そうすれば、フェイトの嫌疑は晴れるさ。」

 「待って!
  それじゃ、今度は、貴方が悪者に……。」


 ルパンは、笑う。


 「気にすんな。
  俺は、泥棒だ。
  そういう扱いには慣れているさ。
  俺は、逃げる人追われる人だ。」

 「ルパン……。」

 「初めて名前で呼んでくれたな。
  認めてくれたってことかな?」

 「感謝の言葉もないわ……。」

 「報酬は、これで十分……。」


 ルパンは、プレシアを引き寄せると唇を奪った。


 「じゃあ、俺は行くぜ。」


 ルパンが部屋を出るとプレシアは、そっと唇に手を当てる。


 「馬鹿……。」


 その一言には、色んな思いが込められたいた。
 そして、プレシアは、ルパンの気持ちに微笑んだ。


 …


 ルパンが時の庭園から出るとプレシアは自分の部屋に戻り、管理局への手紙を書き直す。
 そして、残り少ない時間は、娘達に残すことにした。
 一緒に料理を作る。
 一緒に食事をする。
 一緒に本を読む。
 一緒に魔導の勉強をする。
 出来ることは、何でもした。
 そして、一番気になっていた姉妹の絆……。
 活発で元気な笑顔を見せるアリシア。
 控えめで優しい笑顔を湛えるフェイト。
 対照的な二人は、大丈夫か心配だった。
 しかし、考えることもなかった。

 アリシアとフェイトが、手を繋いでいる。
 最初は、活発なアリシアが手を差し出す。
 そして、そっと照れながらフェイトが手を添える。
 心配することはなにもない……?
 見た目は、姉と妹が逆転していることが心配と言えば心配か?


 「…………。」


 プレシアは、その様子を嬉しそうに眺めている。
 アルフは、プレシアに目を向けて話し掛ける。


 「な~に、遠い目をしているのさ?」

 「ちょっと……嬉しくてね。」

 「は?」

 「しっかりと目に焼きつけときたいから……。」

 「イヤだねぇ……。
  年寄りみたいに……。」

 「……そういう意味の言葉じゃないわよ。
  アリシアも、フェイトも、あの歳でいられるのは、
  今しかないからよ。」

 「そりゃそうだね。
  うちのご主人様の可愛い姿は、
  永久保存して置きたいしね。」


 トン……。


 「ん? ちょっと、なに寄りかかってんのさ?」

 「……ごめん。」


 アルフは、プレシアの汗の量が尋常じゃないことに気付く。


 「ちょっ……。」


 プレシアは、アルフの口を塞ぐ。


 「大丈夫だから……。
  大声を出さないで。」

 「大丈夫って……。
  あんた……。」

 「少し疲れただけ……。
  でも、汗が気持ち悪いから服を替えたいわ……。
  私の部屋まで連れて行ってくれると有り難いんだけど……。」


 アルフは、ちらりとアリシアとフェイトを見るとそっと肩を貸す。


 「部屋の入り口までは、
  しっかりと歩きなよ。」

 「ええ……。」


 アルフは、プレシアを部屋の外まで連れ出すと直ぐに抱きかかえて走り出した。


 …


 プレシアの部屋でアルフは、机の上にある薬に目をやる。


 「これ……何の薬なんだい?」

 「もう、必要ない薬よ。」


 アルフは、ズカズカとプレシアに近づくとプレシアの頬を撫でる。
 手に付くファンデーションを見る。


 「少し……厚いんじゃないかい?」

 「……安くないのよ、それ。
  でも、汗ぐらいで落ちるようじゃ駄目ね……。」

 「汗の量がおかしいんだよ!」

 「…………。」

 「あんた……死ぬのか?」

 「……ええ。」

 「……いつ?」

 「いつかしらね?
  長くはないと思うわ。
  宣告された時間なんて、とっくに過ぎているから。」

 「どういうことだよ……。
  どういうことなんだよ!」

 「結論は、貴女が言ったじゃない。」

 「そうじゃなくてさ……。
  そうじゃなくて……。
  何で、隠すんだよ!」

 「そんなの……私が、母親だからに決まってるじゃない。」

 「母親?」

 「そうよ。
  フェイトに辛い思い出しかあげられなかったから、
  200%に濃縮した思い出を、今、あげるの。
  アリシアに眠っていた分の幸せを、今、あげるの。
  いらないって言っても、
  未来に詰め込むはずだった私の幸せをあの子達に詰め込むの。
  私の辛い姿なんか見せてあげない。」

 「あんたは……。
  あんたの幸せは……。」

 「この日々にしっかり貰っているわ。
  誰にも負けないぐらいの宝物よ。
  誰も持ってないぐらいの幸せよ。」

 「でも……。
  でもさ……。」


 プレシアは、アルフの頭に手を乗せる。


 「もちろん、貴女にも……貴女からも……。
  あげるし頂くわ。
  だから、最期まで私に母親をやらせて……。」

 「……うん。」


 プレシアの目が、優しいものから少し吊りあがる。


 「約束したわよ。
  きっちりと私に従いなさいよ。」

 「へ?」

 「正直、しんどくなってたのよ。
  一人で、この体を誤魔化すのは……。
  いい手伝いが出来たわ。」

 「…………。」

 (やっぱり、この女とは相容れない……。
  私は、あらためて、この女が嫌いだと自覚したよ……。
  ・
  ・
  でも……。)

 「わかったよ。
  手伝ってやるよ。
  フェイトの悲しい顔なんてみたくないし。」

 「ええ……。
  お願いね……。」


 プレシアは、振り返ると洗面所へと消えて行った。


 「こんな意地の悪い女は、見たことないよ……。」


 アルフは、自分に何が出来るかを考え始めた。



[21991] 第16話 母親である最期②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:40
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 あの日以来、犬猿の仲でありながら、プレシアとアルフは、色んな作戦計画をよくやっている。
 そして、本日は、アルフの写真作戦……。
 それは、プレシアとアルフが少し前に考えた計画だった。


 「フェイト、アリシア、写真撮らないかい?」

 「どうしたの? アルフ?」

 「どうしてなの? アルフ?
  呼んだ時にフェイトの名前が先なのは?」

 「あんた達、同じ様な顔して同じ様な質問を返すけど、
  内容が全然違うのは、どういうわけなんだい?」


 アリシアとフェイトは、顔を見合わせると微笑んだ。



  第16話 母親である最期②



 アルフは、パタパタと手を振る。


 「いやね。
  折角、アリシアが元気になったのに
  記念撮影をしてないじゃないか。
  ここは一発、凄いのを撮って置こうと思ってね。」

 「凄いって……。」

 「私は、賛成!」


 アルフは、プレシアを見ると念話を飛ばす。


 『ほら、お膳立てはしてやったんだから。』

 『下手な誘導ね……。』


 アルフは、カチンと来るがカメラを構える。
 プレシアは、アリシアとフェイトを両手で抱きかかえている。
 フレーム越しでは、力が衰えているようには見えないぐらいにしっかりと。
 シャッターを押すと笑顔の親子が写る。


 「今度は、アルフも!」

 「でも、私は、カメラマンだから……。」

 「タイマーにすればいいじゃない。」

 「うん……。」


 プレシアがアリシアを膝に乗せ、アルフがフェイトを膝に乗せる。
 アルフは、隣のプレシアを見ると少し俯く。
 それに気付いたプレシアが、アルフの鼻をピンと指で叩いた。


 「あいた!」


 その声にフェイトが上を見上げ、アリシアは、斜め上を向く。
 そして、プレシアがそっぽを向いて誤魔化した時にシャッターが降りた。


 「「「「あ。」」」」

 「ちょっと、何すんのさ!
  変な顔で写っちゃったじゃないか!」

 「知らないわよ。
  誰のせいよ。」

 「う~……。」


 アリシアとフェイトが笑うとプレシアもつられて笑う。
 アルフも半ば諦めたように笑みを溢す。
 そして、シャッターが降りる。


 「「「「あ。」」」」

 「何で、連続の設定にしているのよ。」

 「アルフ、一回止めよう。」

 「そ、そだね。」

 「私が止める。」


 アリシアが、カメラに近づく。
 そして、シャッターが降りる。
 アリシアは、振り向くと頭に手を置く。


 「ごめん、止め方分からない。」

 「「「え?」」」


 また、シャッターが降りた。
 結局、なかなか止まらないカメラのせいで、そのまんまのプレシア一家の写真が大量に出来上がってしまった。


 …


 その夜……。
 大きなベッドではプレシアを挟んで、アリシアとフェイトが眠りにつこうとしていた。
 アルフは、ベッドの近くで犬形態で丸くなっている。
 プレシアは、アリシアに話し掛ける。


 「アリシア……。
  フェイトのこと好き?」

 「うん、大好き。
  母様は、ちゃんと約束を守ってくれた。」

 「そうね。
  ・
  ・
  フェイトは、アリシアと仲良く出来る?」

 「はい。
  ただ、お姉ちゃんって呼びにくくて……。
  アリシアって呼びたいかな。」

 「そう。
  アリシアは、どう?」

 「私の方が、背が低いから、
  呼び方だけでも、お姉ちゃんって認識させて欲しい。」

 「みたいよ、フェイト。」

 「……じゃあ、お姉ちゃんのままで。」


 アリシアは、にっこりと微笑んだ。
 そして、アリシアとフェイトは、静かな寝息を立て始めた。
 プレシアは、二人の娘を強く抱きしめる。


 「アリシア……。
  フェイト……。
  大好きよ……。」


 明方……。
 プレシアは、アリシアとフェイトが目覚める少し前にゆっくりと呼吸を止めた。
 アリシアとフェイトが目覚めた時、プレシアの穏やかな顔と残る体温に二人は、プレシアの死に気付かなかった。
 プレシアは、それぐらいいつも通りで、最期まで母親を貫き通したのだった。


 …


 時の庭園に声が響く。
 アリシアの大きく泣く声……。
 フェイトの大きく泣く声……。
 そして、アルフも涙が止まらなかった。

 アルフは、いつも我慢するように遠慮がちにしか泣けなかったフェイトの変化を見て、プレシアが母親として変えていった大きなものを感じた。
 数日の間、耳に飛び込んで来た憎まれ口が、何処からも聞こえないと胸にぽっかりと穴が空いたようだった。
 しかし、いつまでも泣いていられない。
 アルフは、アリシアとフェイトよりも少しだけ早く涙を止めると、アリシアとフェイトに伝えられていないプレシアの言いつけを思い出す。
 手紙とアリシアとフェイトを時空管理局の誰かに届けなければいけない。
 プレシアから、海鳴市に時空管理局がジュエルシードを探して潜伏していることを聞かされていたため、行く場所は分かっていた。


 「アリシア……。
  フェイト……。
  お母さんを送ってあげないと。」

 「いや……。
  折角、母様と会えたのに……。」

 「私も……。
  母さんは、やっぱり優しい母さんだったのに……。」


 アルフは、辛い気持ちを抑えながら声を絞り出す。


 「二人は、それでいいのかい?
  プレシアは、きっと自分の死を知っていて、
  二人のお母さんであり続けたのに。
  頑張ったお母さんを送ってあげないのかい?」

 「だって……。」

 「辛いのは分かるよ。
  大事な人を亡くしたんだから。
  でも、一生懸命頑張ったお母さんだから、
  二人でしっかりと送らないといけないんじゃないか。」

 「アルフ……。」

 「立派だったよ。
  最期までアリシアを愛して。
  最期までフェイトを愛して。」

 (自分は、痛いのを我慢して……。)

 「二人に微笑んでた。」

 (辛い顔なんて絶対に見せないで……。)

 「だから、二人で頑張ってよ。」


 アリシアとフェイトが、アルフをそっと抱きしめる。
 声を張っているのに、一番涙を止められないで流し続けていたのはアルフだった。


 「ごめんね……アルフ。」

 「頑張るから……。」

 「うん……。
  じゃあ、出掛ける用意だ。」


 アルフは、涙を拭う。
 そして、アリシアとフェイトが、アルフに目を向ける。


 「何処に行くの?」

 「海鳴市……。
  時空管理局の人と接触するんだよ。」

 「アルフ……。
  どうして、そんな事を……。」


 アルフは、少し視線を落とす。


 「プレシアに頼まれてた……。
  最後までお母さんをするから、
  アリシアとフェイトには黙ってて……って。
  ・
  ・
  プレシアは、一秒も無駄にしないで
  お母さんであり続けたんだ……。
  そして、その先も……アリシアとフェイトの未来も考えてた……。
  私は、プレシアと仲良くなかったけど、
  その気持ちは分かるから……。
  だから……。
  だから……。
  今は、プレシアの言いつけを守って頑張るんだ……。」


 フェイトは、アルフの頬に手を添える。


 「アルフも辛いんだよね……。」

 「……フェイト?」

 「ごめんね……。
  我が侭言って……。
  ・
  ・
  お姉ちゃん……。」


 フェイトが、アリシアの手を握る。


 「行こう……。
  母さんの思いを私達で果たそう……。」

 「……うん。
  そうだね、フェイト……。
  ・
  ・
  アルフ、私も頑張る……。
  だから、アルフだけ頑張らないで。」


 アルフは、頷く。
 そして、アルフがこれからの成り行きを説明した後、三人は、海鳴市へと向かった。



[21991] 第17話 未来のための作戦①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:41
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 フェイト達は、海鳴市に転移魔法で転移する。
 これだけでも時空管理局の網に引っ掛かり、静かだった海鳴市は、俄かにざわめき出す。
 アルフが、アリシアとフェイトに作戦の確認をする。


 「いいかい?
  プレシアは、時空管理局の信頼を勝ち取ろうとしていたんだ。
  ジュエルシードをアリシアとフェイトの手で返すのが、
  作戦の重要なポイントだよ。」


 アリシアとフェイトが頷く。


 「あまり動揺しちゃいけないよ。
  そして、プレシアからの最後のアドバイス。
  私は、正直、お勧めしないけど……。
  あの人らし過ぎるし……。」


 アリシアとフェイトは、疑問符を浮かべてアルフの次の言葉を待つ。


 「どうしても誤魔化しきれそうにない時は、
  泣いたフリをして誤魔化すように……だって。」

 「「え?」」


 アルフは、溜息を吐く。
 プレシアは、女の涙という最終手段が使えないのが分かっていたので、子供の涙を最終手段として用意していた。
 アルフは、あの腹黒女らしいと思いつつ、仕方なく伝えた。
 しかし、その言葉で緊張が解けたのは確かだった。


 「私、やる。」

 「お姉ちゃん?」

 「何か面白そうだから。」

 「…………。」

 (アリシアは、間違いなく
  あの女の血を引いているね……。)


 アルフは、アリシアがプレシア二世になったらどうしようかと額に手を置いた。



  第17話 未来のための作戦①



 フェイトが、魔力を放出し続ける。
 何処にいるか分からない時空管理局の人間を見つけるよりも、こっちから呼び出す方が早いためだ。
 そして、直に白いバリアジャケットに身を包んだ女の子が降り立った。


 「フェイトちゃん……。
  あなたにお話があって……え?
  ・
  ・
  ふぇ~!?
  ちっちゃいフェイトちゃんが増えてる!?」

 「え、え~と、それは……。」

 「よりにもよって、
  場違いな子が来ちゃったね……。」

 「誰?」


 白い服の女の子……時空管理局の手伝いをしている魔導師は混乱し、フェイトは困惑する。
 そして、アルフは項垂れ、アリシアは首を傾げるのだった。


 …


 白い服の女の子が、肩に乗るフェレットを掴むと質問する。


 「ユーノ君!
  増えてる!
  増えてるよ!」

 「なのは、落ち着いて……。」

 「でも、だって!」


 白い服の女の子の頭から知恵熱による煙があがる。


 「あの……。
  ちょっと、いいかな?」

 「…………。」

 「君は、管理局の魔導師?」


 白い服の女の子は、フェイトを見ると首を振った。
 フェレットが注意する。


 「なのは。
  管理局の魔導師じゃないけど、
  手伝いをしているんだろ。」

 「あ、そうだ。
  ごめんね。
  その、完全に管理局の魔導師というわけじゃなくて、
  お手伝いをしているの。」

 「そう。
  私達は、管理局の人に会いに来たんだ。」

 「そ、そうなんだ……ん?」


 白い服の女の子は、蹲って頭を抱える。


 「ユーノ君……。
  私、頭がおかしくなっちゃったかも……。
  この前に会ったフェイトちゃんが増えて、
  クロノ君が警戒してって言ってたフェイトちゃんが、
  自分から管理局に会いに来ちゃった……。」

 「分からなくはないよ……。
  少しずつ聞いてみたら?
  あの子は、デバイスすら起動していないよ。」

 「……そうだね。」


 白い服の女の子は、ゆっくりと立ち上がるとフェイトの方に向き直る。


 「ごめんね。
  少し混乱しちゃって。」

 「大丈夫。」

 「え、と……。
  私のこと覚えてる?」


 フェイトは、頷く。


 「高町なのは……。」

 「ありがとう。
  覚えていてくれたんだね。
  嬉しいよ。
  ・
  ・
  それでね。
  あの時は、お話も出来なかったけど、
  ちゃんとお話をしたいんだ。」

 「うん……。
  私も話をしようと思って来たんだ。
  出来れば、管理局の人に直接話を聞いて貰いたい。」

 「そっか……そうだね。」

 『リンディさん! クロノ君!』


 高町なのはと呼ばれた女の子の魔導師は、念話を管理局の艦船アースラにいる二人に飛ばした。


 『フェイトちゃんが管理局の人と
  お話をしたいそうです。』


 …


 艦船アースラでは、艦長であるリンディと執務官であるクロノが、モニター越しで様子を伺っていた。


 「随分、予想と違う行動ね。」

 「でも、これで謎が解けるかもしれない。
  テスタロッサの名を持つ彼女と
  この街にあるはずのジュエルシードが
  確認出来なくなった理由が……。」

 「そうね。」

 「ただ……。
  モニター越しに写るあのフェイトと呼ばれる魔導師と
  そっくりの彼女が、何者なのかが分からない。」

 「そうなのよね。
  プレシア女史のことは、
  本局から幾らか情報が入って来たんだけど……。
  研究していた内容が内容なだけに
  迂闊な予想を立てられないのよね。」


 しかし、そこで執務官補佐のエイミィから横槍が入る。


 「艦長。
  警戒する必要はあまりないみたいですよ。
  その女の子から出ている魔力量は、決して多くありませんから。」

 「どういうことかしら?
  『プロジェクトF.A.T.E』で生み出された存在なら、
  色んな意味を含めて魔力量が高いと思うんだけど。」

 「そうですよね。
  現地で、なのはちゃんと戦闘をした以上、
  新たな戦力を送り込むなら、
  魔力量が多いに越したことはありませんからね。」

 「別の理由があるのかもしれないわね。」


 二人の会話を聞いていたクロノが結論を出す。


 「どっちにしろ。
  会って話を聞いてみれば分かることだ。
  なのはに頼んで、ここに連れて来て貰おう。」

 「それが早そうね。
  エイミィ、ゲートを開いて。」

 「分かりました。」

 「クロノは、なのはさんに連絡を。」

 「了解。」


 こうして、フェイト達は、なのはに案内されて艦船アースラへと向かうことになった。


 …


 艦船の中に案内され、簡単に言えば敵の懐に入ったとも言える状態。
 人数で言えばフェイト達は完全に負けている。
 持って来た手紙を渡すだけだが手紙の内容を指摘されれば、この人数では上手い言い訳も出来ない。
 それにフェイトにしても、アルフにしても、人を言いくるめられるような舌は持ち合わせていない。
 しかし、有利なこともある。
 それは、アリシアがいることである。
 どう考えても艦船内で彼女より、幼い子はいない。
 幼い子を質問攻めで攻め立てるようなことは、管理局が次元世界の安定を保つ集団である以上、絶対に出来ないからである。
 案の定、アルフがプレシアから託された手紙をリンディに渡して、手紙を読み終わっても質問出来ないでいた。
 リンディを幼いアリシアの目が見ている。
 この子の前で、亡くなった母親のことを聞く?
 出来るわけがない。


 「どうしようかしら?」


 困った顔で声を漏らすリンディに、クロノが声を掛ける。


 「手紙には、何て書いてあったんですか?」

 「それをこの場で言えれば、
  苦労しないんだけどね……。
  ・
  ・
  とはいえ、このままにもして置けないし……。
  自己紹介をすると、その場で混乱が起きそうだし……。」


 アリシアの名前が出れば、場は確実に混乱する。
 アリシアは、死者蘇生の研究成果の成功例だからだ。
 それを手紙で知ったが故に自己紹介も出来なくなってしまった。


 「とりあえず、この場には私だけ残ります。
  クロノ達は、別室のモニターで会話を聞いてくれる?
  小さな子がいるのに大勢で囲むわけにもいかないから。
  そして、諸々の質問は、後で纏めて伺います。」

 「分かりました。
  行こう。
  エイミィ、なのは、ユーノ。」


 クロノ達が退室すると部屋には、フェイト達とリンディだけが残された。


 「初めまして。
  この船の艦長を務めるリンディ・ハラオウンです。
  読ませて貰った手紙で、大方の事情は分かりました。
  そこで、ちょっと確認したいのだけど……貴女。」


 リンディは、アルフを指差すと手招きする。
 アルフは、リンディの側まで歩いて行く。
 リンディは、小声で話し掛ける。


 「多分、貴女が年長者だと思うのだけど、
  あの子達にプレシア女史の話をしても大丈夫かしら?」

 「う~ん……。
  多分、思い返して泣き出すんじゃないかな?」

 「そう……。」

 「それと私は、フェイトの使い魔だから、
  年長者かと言われれば違うんだけど。」

 「そこも、また微妙ね。
  じゃあ、あのフェイトさんが年長者になるのね。」

 「……いや。
  フェイトは、アリシアの妹で……。」

 「複雑過ぎるわね……。
  一体、誰に話を聞けばいいのかしら?」


 アルフは、ちらりとフェイトを見る。


 「やっぱり、私かな……。
  プレシアの死んだ後の話をしていたのは私だから……。
  でも、ご主人様を差し置いて、
  使い魔が説明するって、どうなんだろう?
  プレシアも、大変な仕事を残してくれたよ。」

 「事情が複雑なのは理解しました。
  貴女に直接聞くことにします。
  フェイトさんとアリシアさんには、クロノ達に相手をさせます。」


 リンディは、スピーカーのスイッチを入れるとクロノに話し掛ける。


 「聞こえてたわね?
  お願い出来る?」


 しかし、クロノは、眉間に皺を寄せて返した。


 「僕にそんな小さな子の相手は無理だよ……。
  それに話を聞けるなら、
  僕も、そちらに行って話を聞きたい。」

 「それもそうね。
  じゃあ、エイミィ、なのはさん。
  二人で、お相手をしてくれるかしら?」

 「はい、艦長。」
 「わかりました。」


 リンディは、スピーカーのスイッチを切る。


 「何度も申し訳ないわね。
  もう一回、入れ替えるから。」

 「はあ……。」


 …


 一方、通信を終えた別室では混乱していた。


 「クロノ君。
  今、アリシアって言ってたよね?」

 「その子って、確か亡くなっているんじゃ……。」

 「そうだよ!
  本局の情報では、そういう連絡を受けているよ!」

 「僕も混乱しているよ。
  彼女が、アリシア・テスタロッサ本人なら、
  プレシア・テスタロッサは、死者蘇生に成功したことになる。
  もしくは、フェイト・テスタロッサと同じ様に生み出されたとも考えられる。」

 「頭がぐるぐるするよ……。」

 「兎に角、彼女達をここに連れて来るから、
  彼女達を傷つけないようにそれとなく聞いてみてくれ。」

 「さり気なく難しい要求だね……。」

 「分かっているけど、
  それをするしかない。」


 クロノは、ユーノを見る。


 「何?」

 「君は、フェレットモドキに変身してくれないか?
  そっちの方が油断するだろう。」

 「そうだね……って、誰がフェレットモドキだ!」

 「じゃあ、後を頼むよ。」


 クロノは、部屋を退室して行った。


 「アイツめ~~~!」

 「ユーノ君、抑えて……。」


 別室では、なのは達がユーノを宥めていた。


 …


 リンディのいる部屋と別室のメンバーが入れ替わる。
 リンディの部屋:リンディ、クロノ、アルフ。
 別室:なのは、ユーノ、エイミィ、アリシア、フェイト。

 リンディの部屋で、アルフへの確認と質問が始まる。


 「それじゃあ、あらためて。
  こっちは、執務官のクロノ・ハラオウン。
  ・
  ・
  まず、アルフさん。
  貴女達の関係を教えてくれるかしら?」

 「ああ、分かったよ。
  この前、亡くなったプレシア。
  その娘のアリシアとフェイト。
  そして、私は、フェイトの使い魔だよ。」

 「その関係が分からないんだ。
  僕達は、なのはのデバイスに記録されていた
  なのはとフェイトの戦闘データから、
  プレシア・テスタロッサの存在に辿り着いた。
  そして、本局から取り寄せた資料によると
  アリシア・テスタロッサは、
  五歳の時に魔導実験の事故に巻き込まれて死んでいる。
  ・
  ・
  しかし、あのフェイトに似ている少女はアリシアだという。
  どういうことだ?」

 「どうもこうも……。
  あれは、アリシア本人さ。
  プレシアと一緒に私達でアリシアを助けたんだ。」

 「と、いうことは、プレシアは死者蘇生に成功したのか?」

 「そうなるのかね?
  詳しくは分からないんだ。
  なんせ、私達が手伝った時には、
  アリシアの体は既に復元されていて……。
  心を起こす? 取り戻す? 兎に角、
  そういった作業を手伝ったんだ。
  詳しい実験結果は、時の庭園にあるから、
  それを調べておくれよ。」


 クロノは、腕を組む。


 「信じられないな。
  死んだ人間を生き返らすなんて。」

 「少し考え方が違うのかもしれないわ。
  アルフさんの話だと無から生き返らせたわけじゃないわ。
  再生させる……もしくは、回復させる体はあったんじゃないのかしら?
  つまり、私達が医学的には死と呼ばれる状態にある境界を
  一歩超えたところからの蘇生に成功したのよ。」

 「なるほど……。
  僕達が死と呼んでいるところが、
  プレシアにとっては仮死だったのか。
  それを完成させたのなら分かる気がする。
  そして、それを利用すれば、
  今まで助からなかった命も救えるかもしれない。」

 「う~ん……。
  でも、そんなに上手くいくかな?
  アリシアを目覚めさせるのは、凄く大変だったんだ。
  例えるなら、寝たきりで見放された患者を
  起こすのに成功したような感じだったから……。」

 「リスクも大きいな……。
  もし、一生目覚めなければ残された者は、
  いつ目覚めるともしれない時間を過ごし続けるのか。」

 「どっちが正しいとは言えないけど、
  プレシアは、諦めずに娘の蘇生に尽力したんだよ。」

 「母の愛ね……。」


 リンディは、話の途中でお茶をお願いする。
 暫くしてお茶が三人分運ばれて来た。
 それを三人は、一口啜って一息つく。


 「もう一つの謎。
  アリシアとフェイトの立場が逆なのは?」

 「それは簡単だよ。
  フェイトは、プレシアがアリシアの妹として生み出した。
  アリシアが妹を望んでいたからね。
  え~と……。
  フェイトのことは、何処まで知ってるの?」

 「ほとんど知っているよ。」

 「じゃあ、私より詳しいね。
  私は、作られたってことぐらいしか分からないから。」

 「これで全部繋がったわね。」


 リンディが手紙を取り出す。


 「プレシア女史の手紙には、
  自分の死後の娘達と使い魔のことが書かれていたの。
  管理局で保護して欲しいって。
  そして、自分の研究と時の庭園の駆動炉を提供することで、
  彼女達が生きていくのに困らない生活をさせて欲しいって。」

 「……プレシア・テスタロッサって、
  そういう人だったかな?」

 「……元に戻ったのさ。
  母親に戻ったんだよ。」

 「そうね。
  この手紙は、そういう内容のものだわ。」

 「女じゃない僕には、分からないことか。」

 「そんなことないわよ。
  私の愛を感じているでしょう?」

 「な、何を言っているんだ!?」

 (この二人、親子なんだ……。)


 クロノは、咳払いをすると質問する。


 「親子関係は分かった。
  でも、ジュエルシードのことがある。
  フェイトは、なのはと戦ってまでして、
  ジュエルシードを奪っているんだ。
  それは、どう説明するんだ?」


 アルフが困った顔を浮かべるとリンディが手紙の内容から補足する。


 「それね。
  ジュエルシードが、この世界にバラ撒かれたから、
  危険と感じて回収したそうよ。」

 「危険って、そんなのがどうして……。」

 「さっき話しにあった時の庭園の駆動炉。
  あれもジュエルシードと同系のロストロギアなんですって。
  だから、私達より先にフェイトさんに回収させたみたい。」

 「なのはとの戦闘については?」

 「それは警告の形になっていたわね。」

 「警告?」

 「え~と、なのはさん本人には言えないけど、
  どうも、なのはさんが得体の知れない回収者と判断されたみたい。」

 「それは言えないな……。
  そうか……。
  その時期は、まだなのは達は、
  僕らと接触をしていなかったんだ。」

 「多分、管理局を名乗らなかったから、
  プレシア女史が、なのはさんを警戒してしまったのね。
  そして、回収したジュエルシードは、
  フェイトさんのデバイスの中に収められているそうよ。」

 「数は?」

 「四つ。」

 「足りない……。
  数が足りない!」

 「ええ。
  それが大問題ね。」


 クロノがアルフを見る。


 「君達、何個か隠しているんじゃないか?」

 「そんなことしないよ!
  隠す意味なんてないじゃないか!」

 「それはそうだが……。」

 「クロノ、落ち着いて。
  アルフさんも。
  残りの所在は半分分かっているって。
  そして、その探索にフェイトさん達も参加させてって。」

 「半分? 協力?」

 「プレシア女史は、随分と用意周到のようだわ。
  多分、フェイトさんに協力させて、
  私達の疑いを完全に晴らさせるつもりなんでしょうね。」

 「それで協力か……。
  ジュエルシードの所在は?」

 「この世界の泥棒が集めていたっていう情報まで掴んだって。」

 「そこまで掴んでいて、
  何故、連絡しなかったんだ?」

 「死期が近づいて管理局への連絡より、
  娘達に思い出を残すためだって……。
  管理局に関わるとかなりの日数を取られるから……。
  連絡が手紙によって、今来たのは、
  プレシア女史が息を引き取ったから……。」

 「それは……責められない。」

 「そうね。
  それにしても……。
  泥棒ねぇ……。
  ・
  ・
  何者かしら?
  ルパン三世って?」


 リンディ達の会話は、ここで一段落ついた。


 …


 そして、別室……。
 アリシアは、フェレット形態のユーノを見て興味津々になっている。
 そして、その隣ではフェイトとなのはが、久々の会話をしていた。
 エイミィは、そんな様子を見守りながら、『自分の役目はないかな?』と溜まっている仕事を処理する。


 「あれから、ずっと会えなかったから、
  気になってたんだ。」

 「色々あったから……。」

 「ねぇ……。
  何かあったの?」

 「どうして?」

 「その……。
  上手く言えないんだけど、
  前とは違う感じで悲しそうに感じたから……。」

 「君は、前もそんな目で私を見てたね。」

 「うん……。
  ちょっと寂しそうな目をしてるなって。
  最初は、分からなかったんだけどね。
  私も少しだけど、寂しい思いしたことがあって……。
  その時は、そんな目をしていたのかなって……。
  そうしたら、気になっちゃって。」

 「そう……。」

 「だから、あの時、私を支えてくれた人達と
  同じ様にしてあげたいんだって分かったの。
  会えない時間だけ考えたから、きっと間違いない。
  ・
  ・
  私は、あの時、フェイトちゃんと友達になりたかったんだ。
  友達になって、一緒に悲しんで励まして、
  辛い気持ちを分け合いたかったんだ。」


 フェイトは、俯く。


 「ありがとう……。
  だけど、私、友達のなり方……分からない。」

 「フェイトちゃん……。」

 「そんなの簡単!」

 「お姉ちゃん?」
 「アリシアちゃん?」

 「力一杯、こう! 握手!
  私は、これでユーノと友達!」


 ユーノを握り締め、天を突くアリシアの手。
 ユーノは、アリシアの手の中で、くの字でもがいている。


 「うわ!?
  やり過ぎ!
  やり過ぎだよ!」

 「ユーノ君、泡吹いてるよ!?」

 「あれ?」


 アリシアは、手の中のユーノを見る。


 「スキンシップが強過ぎたみたい。」

 「絶対間違ってるよ!
  それ、握手のやり方じゃないよ!」

 「最初は、名前を呼ぶだけでいいんだよ!」

 「ううう……。
  ごめんね、ユーノ……。」

 「大丈夫だよ……アリシア。
  これで友達だから……。」

 「ありがとう、ユーノ!」


 フェイトとなのはは、苦笑いを浮かべる。


 「私達も友達になろう。」

 「うん……なのは。」


 なのはが微笑むとフェイトも微笑んで返した。
 彼女達の絆は、これから深まっていくことになるのだった。
 そして、ユーノは、『アリ……』から始まる名前には警戒するようにと心に誓うのだった。



[21991] 第18話 未来のための作戦②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:41
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 時空管理局のアースラスタッフによるルパン捕獲作戦が始まろうとしている。
 しかし、当の本人を探すには、どうするべきかが問題だった。
 問題のターゲットは、時空管理局のレーダーにも掛からない方法でジュエルシードを所持して、探し出すことが出来ないからだ。
 そこで、この世界にあるルパンの情報から、ルパンに対するエキスパートを呼び出すことにした。
 招かれたベージュのバーバリー製トレンチコートと同色のソフト帽を被った男は、姿勢を正して敬礼をするとこう答えた。


 「ICPOの銭形警部であります!」


 その大きな声に全員が驚き、一歩後退した。



  第18話 未来のための作戦②



 一同を代表して、艦長であるリンディが銭形警部に手を差し出す。


 「ご協力感謝します。
  我々だけでは、行方を掴むことが出来なくて。」


 銭形警部が、リンディの手を握り返して話を続ける。


 「いえ、こちらこそ。
  貴重な情報を提供して頂き、感謝しております。
  早速ですが状況をお伺いしても、よろしいでしょうか?」

 「……あまり驚かれませんね?」

 「慣れていますんで。」

 「…………。」

 (この世界に慣れるような文明はなかったと思ってたんだけど……。)

 「どうしましたか?」

 「あ、いえ、何でもありませんわ。」


 …


 銭形警部とリンディの話を聞いて、ユーノがなのはに質問する。


 「あの人の言ってること、本当かな?」

 「え~と……。
  どうなんだろう?
  少なくとも私の周りでは、
  慣れるような不思議な現象は起きなかったよ。」

 「そうだよね。
  僕も、なのはの家に行ったけど、
  魔法もなかったもんね。」


 この世界の住人であるなのはの話を聞いて、クロノ達は、少し不安が増した。


 …


 リンディが、海鳴市の地図をモニターに映す。


 「回収したジュエルシードの位置は、ここになります。」


 モニターの地図が点滅する。


 「これが参考になるかしら?」


 銭形警部は、一点を指した。


 「ルパンは、この付近にいる!」

 「…………。」


 場は、沈黙する。
 銭形警部は、ジュエルシードの位置を一切、見ていない。
 場の空気が言っている。


 ((((((((この人、勘で言っている!))))))))


 銭形警部は、意気揚々と出発しようとしている。
 当然、異を唱える。
 クロノが、静止を掛けた。


 「ちょっと、待ってくれ!
  そんな説明もなしに納得出来ない!」

 「うん? 何だぁ、君は?
  子供が意見をするもんじゃない!」

 「僕は、執務官だ!」

 「執務官?
  冗談はいかんなぁ……。」

 「冗談じゃない!
  貴方の勘の方が冗談でしょう!」

 「勘?
  ちゃんと根拠はある。」

 「それは、何なんですか?」


 銭形警部が、懐から写真を二枚出す。


 「こっちがルパン。
  こっちが相棒の次元だ。
  そして、私の掴んだ情報では、
  次元は、最近釣りに凝っている。
  そこで、海岸線の近くを指したのだ。」

 「じゃあ、海岸線の多いこの町から、
  その一点を指摘した理由は、何なんですか?」

 「勘だ。」

 「やっぱり、勘じゃないか!」


 掴み掛かる勢いのクロノをエイミィが押さえる。
 一方で、なのはが、銭形警部の写真を見て止まる。


 「あの~……。
  警部さんの言ってることの半分は、嘘じゃないかも。」


 クロノ達が、なのはに目を移す。


 「その黒い帽子の人。
  釣りしてました。」

 「……本当なのか?」

 「だから、言っただろう。」

 「ただ……。
  その人にジュエルシードを貰っちゃった……。」


 また、話がややこしくなった。


 「何で、捕まえる対象の仲間から、
  ジュエルシードを貰うんだ!?」


 冷静なはずのクロノが混乱している。


 「本当にそのルパンが犯人なのか!?」

 「間違いない!
  今回の事件には、ルパンが関わっている!」

 「根拠は!?」

 「勘だ。」

 「こんな不確かな情報で捜査なんて出来るか!」


 リンディが、複雑な顔で命令を伝える。


 「と、兎に角。
  ここは、銭形さんの指示に従って、
  行動を起こしてみましょう。
  こちらは、何の手掛かりもないんだから……。
  ね、クロノ。」

 「艦長の命令なら従いますけど……。
  僕は、絶対に見つからないと思います。」


 リンディは、乾いた笑いを浮かべる。
 リンディも見つからないと半分思っていた。


 …


 作戦が開始される。
 一台のワゴン車の運転席に銭形警部。
 助手席にクロノ。
 後ろの席になのはとユーノ。
 その後ろにアリシア、フェイト、アルフ。
 アリシアは、一人残されるのを嫌って、大泣きしたための強制参加だったりする。
 銭形警部が予想をつけたアパートに拡声器を使って怒鳴る。


 「ルパン! 逮捕だ~!」


 クロノが、激しく項垂れた。


 「間違ってる……。
  この方法で犯人が中にいるのを
  確認するのは間違ってる……。」


 人格者のクロノは、大ダメージを受けていた。
 その後ろでなのは達も、フェイト達も、苦笑いを浮かべるしか出来なかった。


 …


 しかし、クロノの予想と反して、アパートの中では、ルパン達が脱出の準備を始めていた。


 「はは……。
  とっつぁんを連れて来たか。」

 「まあ、俺達の居場所を掴むなら、
  間違った判断じゃないな。」

 「じゃあ、行きますか。」

 「行かれますか。」


 ルパンと次元は、アパートを飛び出すとベンツSSKに飛び乗った。


 …


 一台の車が、クロノ達の乗るワゴン車の前をドリフトで駆け抜けた。
 その車に乗っているのは、間違いなくターゲットの男だった。


 「本当にいた!?」

 「当然だ!」


 銭形警部がアクセルを踏み込もうとするのをクロノが止める。


 「待ってくれ!
  ここから二手に分かれる。
  僕とフェイト達が降りるから、
  なのはとユーノは、銭形警部と一緒に行動してくれ!」

 「「え?」」


 半ば強引にチームを分けるとワゴン車から、クロノとフェイト達が降りた。
 ワゴン車は、猛スピードでベンツSSKの追跡を開始しした。
 ワゴン車の中でユーノが呟く。


 「まさかとは思うけど……。
  クロノ、あの人と行動をしたくないから、
  あんなこと言ったんじゃ……。」

 「はは……。
  まさか……。」


 ((ありえるかもしれない……。))


 …


 クロノが、フェイト達に振り返る。


 「空から追い掛ける。」


 フェイト達は、頷く。
 そして、アルフから質問が出る。


 「何で、アリシアまで降ろしたんだい?
  アリシアは、空を飛べないよ。」

 「あんな乱暴な運転の人の車に
  こんな幼い子を乗せていられない。」


 フェイトが、遠慮がちに質問する。


 「あの……。
  なのはは?」

 「……あ。」

 「ひょっとして忘れてた?」

 「あの車から早く脱出したくて、
  うっかり忘れてた……。
  ・
  ・
  ま、まあ、あの魔力で編まれたバリアジャケットなら、
  事故が起きても怪我はしないだろう。」


 アルフが、溜息混じりに声を漏らす。


 「指揮官とは思えない発言だね……。」

 「仕方ないだろう!
  あんな常識がズレた人となんて、
  一秒とだって居たくなかったんだから!」

 「あれは、あんたの天敵だねぇ。
  まあ、分からなくはないけどさ。
  ・
  ・
  しかも、位置を当てられたのが、
  余計に意味を分からなくするからね。」

 「……全く持って、その通りだ。」


 クロノは、ズーンと黒い気を放って項垂れた。
 しかし、直に責任感から自分を立て直す。


 「兎に角、空から追おう。」


 フェイト達は、頷く。
 フェイトは、バルディッシュを起動して服を漆黒のバリアジャケットに換装する。
 クロノを先頭にアルフが続く。
 フェイトは、アリシアを抱きかかえると空へと舞い上がった。


 …


 一方、海岸沿いの道をベンツSSKとワゴン車がカーチェイスをする。
 車の往来が少ないため、両者の車は、猛スピードで鬩ぎ合っている。
 しかし、暫くするとベンツSSKがスピードを落としてワゴン車の横につけた。


 「とっつぁん。
  久しぶり。」

 「ルパン!
  神妙にお縄に付け!」

 「それは出来ないな。
  ところで、何で、俺は、追われてるんだ?」

 「時空管理局というところから情報があった!
  また、宝石を盗んだようだな!」

 「ちゃんと聞いたのか?
  俺が盗んだのは、下手すると
  『どっか~ん』するものなんだぜ?」

 「何~!?」


 後部座席から、なのはが銭形警部に声を掛ける。


 「本当です!
  とっても危ないの!」

 「そんなものを集めてたのか。」


 そして、再びルパンが銭形警部に声を掛ける。


 「そんでな。
  俺は、そろそろ用があるから、
  銭形のとっつぁんには、ここで消えて貰おうと思ってな。」

 「何?」


 ルパンは、ニカッと笑うとなのはに叫ぶ。


 「お嬢ちゃん!
  しっかり捕まってろよ!」


 ルパンが、ワルサーP38でワゴン車のタイヤを打ち抜いた。
 ワゴン車は、がくんとスピードが落ちるとベンツSSKから、どんどん離されて行く。


 「これでよしと。
  後は、フェイトとの待ち合わせの場所に行けばOKだ。
  次元、少し寄り道すっからな。」

 「ああ、好きに……。」


 バックミラーを見た次元が固まった。


 「どったの?」

 「ル、ルパン……。
  とっつぁんが飛んでる!」

 「へ?」


 ルパンが後ろを振り返ると、空を飛ぶなのはに吊るされる形で、銭形警部が追って来る。


 「ルパン! 逮捕だ~!」

 「相変わらず、しつっこいな!
  とっつぁんは!」


 ベンツSSKは、スピードを上げるが、曲がり角を無視して飛んで来るなのは達に直ぐに追いつかれる。


 「どうすんだ? ルパン?」

 「しょうがない……。
  奥の手を使いましょう。」


 ルパンは、内ポケットから例の機械を取り出し、中に収められているジュエルシードを三つ取り出す。
 そして、大きなカーブに差し掛かったところで叫ぶ。


 「とっつぁん!
  大事なもんを返すぜ!」


 ルパンは、ジュエルシードを海に向かって投げた。


 「「あ!」」


 なのはとユーノが、飛ぶ方向を変える。


 「こら~!
  方向を変えるんじゃない!」

 「ここで発動しちゃったら、大変だから!
  銭形さん!
  それを捕まえて!」


 なのはは、銭形警部を両手で掴んでいるため、上手くキャッチ出来ない。
 その役目を銭形警部に頼む。
 銭形警部は、仕方ないと両手に一個ずつジュエルシードを捕まえた。
 そして、直ぐ近くで、ユーノも一つ捕まえる。


 「なのは!
  このジュエルシードは、封印がまだだ!
  直ぐにレイジングハートで封印して!」

 「わかったよ! ユーノ君!」


 なのはが、一度、陸地に下りようとすると銭形警部が叫ぶ。


 「こら~! ルパンを追わんか!」

 「ちょ、今は、それどころじゃ!」

 「ルパン! 逮捕だ~!」

 「あ、暴れないで!
  暴れないでよ!
  ・
  ・
  ふぇ!?
  にゃあぁぁぁ!」


 暴れる銭形警部が、なのはのバリアジャケットのスカートに潜り込んだ。


 「何で、こうなるの!?
  暴れないで!
  暴れないでったら!」


 そして、その願いがジュエルシードを通して最悪な形で叶えられる。
 銭形警部の手で、二つのジュエルシードが閃光を放った。



[21991] 第19話 未来のための作戦③
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/19 20:41
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 なのは達を追っていたクロノ達の前に有り得ないものが目に写る。
 三頭身の巨大なのはが叫んでいる。


 「暴れないで!
  暴れないで!」


 そして、もう一体……。
 巨大化した銭形警部が叫んでいる。


 「ルパン! 逮捕だ~!」


 クロノは、激しく項垂れた。


 「僕は、悪い夢でも見ているのか……。」


 クロノは、事態を把握するために、なのはのいる場所へと向かうのであった。



  第19話 未来のための作戦③



 涙目で説明をするなのはと困った顔で補足をするユーノ。
 二人の話で、ジュエルシードの発動した状況がわかった。
 まず、巨大なのはについて。
 これは、ジュエルシードが、スカートの中で暴れる銭形警部をやめさせようとする、なのはの願いを叶えたもの。
 ただし、なのはを取り込んだわけではなく願いだけを取り込んだもの。
 そして、巨大銭形警部。
 これは、銭形警部自身を取り込んで、ルパンを捕まえようと巨大化させてしまった。


 「あの人、連れて来たの間違いじゃないのか……。」


 クロノは、激しく項垂れる。


 「でも、この騒動で泥棒さんを見失っちゃったから、
  また、銭形さんに頼んで見つけて貰わないと……。」

 「っ! まず、銭形警部を元に戻さないといけないのか……。」

 「どっちにしろ、このままにしていたら大変だ。」

 「そうだな。
  役割を決めるよ。
  ユーノは、ここいら一体に結界魔法を頼む。」

 「わかった。」


 アルフが、前に出る。


 「それは、私も手伝うよ。」

 「助かるよ。
  銭形警部となのはが別方向に動き出しているから、
  結界が二つ必要だった。
  ・
  ・
  次に封印する人間だが……。」


 なのはが、手を上げる。


 「自分の封印は、自分でするよ。
  早くなんとかしないと、
  明日、学校でアリサちゃんやすずかちゃんに何て言われるか……。」

 「私情が入っているが、
  今回は、目を瞑ることにするよ。」

 「ありがとう。
  ユーノ君!
  急いで結界張って!」

 「はは……。
  わかったよ……。」


 なのはに引っ張られるようにユーノは、巨大なのはの下へと向かった。
 フェイトが、アリシアを抱いてクロノに近寄る。


 「私は?」


 クロノは、アリシアとフェイトを見て、少し考え込んだ後で命令を出す。


 「僕が、銭形警部を封印するから、
  フェイトは、ルパンを追ってくれないか?
  アリシアを抱いたまま、戦闘なんて出来ないだろう?」

 「……うん。」

 「見つけたら、後を追うだけでいい。
  こっちが片付いたら、
  ボク達も応援に行くから。」

 「わかった。」

 「じゃあ、アルフ。
  手伝いを頼む。」

 「あいよ。」


 こうして、空で別々の目的に向かって分かれた。


 …


 フェイトは、アリシアを抱いてルパンを追う。
 しかし、飛んで行く方向に迷いがない。
 アリシアは、フェイトに質問する。


 「どこに行くの?」

 「公園……。
  おじさんと初めて会った……。
  きっと、そこにいると思う。」

 「ふ~ん……。
  どんな人なの?」

 「どんな?
  ・
  ・
  上手く表現出来ない……。
  でも、一緒にいると何か温かい気持ちになるんだ。」

 「そう……。
  母様みたいね。」

 「……うん、そうだね。」


 フェイトが目的の公園に降り立つと目的の人物は、あの時と同じベンチで待っていてくれた。
 フェイトは、アリシアの手を引いてルパンに近づく。


 「おじさん……。」

 「やあ、フェイト。
  久しぶりだ。
  ・
  ・
  本当に魔法使いなんだな。」


 ルパンは、フェイトのバリアジャケットを見て、そう呟いた。
 そして、アリシアの前にしゃがみ込む。


 「初めまして。
  君がアリシアかな?」


 アリシアは、頷いた。
 ルパンが、フェイトとアリシアに声を掛ける。


 「二人で会いに来たってことは、
  プレシアは、亡くなったんだな……。」

 「……はい。」


 二人は、プレシアを思い出して悲しそうな顔をした。


 「プレシアに任されててな。
  ジュエルシードをフェイトに返すようにって。
  ・
  ・
  本当は、ジュエルシードを集めてたフェイトに
  プレゼントするために頑張ってたんだけどな。」

 「おじさん……。
  ありがとう……。」

 「いいさ。
  プレシアは、優しいお母さんに戻ったかい?」

 「はい。」

 「思い出を残してくれたかい?」

 「はい。」

 「……よかったな。」


 フェイトは、プレシアとの短い思い出が込み上げると頷いた。
 そして、ゆっくりとルパンの手を取った。


 「おじさんのお陰……。
  母さんが、優しい母さんに戻ったのは……。」

 「そんなことないさ。
  フェイトの思いが通じたのさ。」


 フェイトは、首を振る。


 「途中から、おじさんじゃないかって思ってた……。」

 「ん?」

 「母さんが、アリシアを救おうとしていたときの機械……。
  最初におじさんと会ったときに見た機械にそっくりだった……。」

 「そうか……。
  ちゃんと覚えてたんだな。」

 「忘れない……。
  忘れないよ……。
  おじさんとの大事な思い出だもん。
  ・
  ・
  そして、小包みを出すときにおじさんの名前を見て……。
  そうしたら、嬉しくて……。
  ただ嬉しくて……。」

 「フェイト……。」

 「そして、お礼が言いたかった……。
  おじさん……。
  ありがとう……。」


 ルパンは、その言葉で満ち足りた気分になった。
 しかし、フェイトは、直ぐに俯いた。


 「だから、悔しい……。
  おじさんは、私のために
  こんなに頑張ってくれたのに……。
  私は、お礼を言うことしか出来ない。
  おじさんにありがとうの気持ちを、もっと伝えたいのに。」


 ルパンが、フェイトの頭に手を乗せる。


 「十分だよ、フェイト。
  フェイトが幸せなら、
  おじさんも嬉しいさ。
  ・
  ・
  それに頼っていいんだぜ。
  フェイトは、まだ子供なんだから。
  頼って、おじさんにカッコつけさせてくれよ。」

 「おじさん……。」


 フェイトが、ルパンに抱きついた。


 「しっかりな。
  お母さんが色んなものを残してくれた。
  アリシア……。
  アルフ……。
  思い出……。
  フェイトの宝物だ。
  俺が、唯一盗めない宝物だ。
  大事に大切に仕舞って置いてくれよな。」


 フェイトは、頷いた。
 ルパンは、アリシアを見る。


 「アリシアには、何にも残してあげられないな。」


 アリシアは、首を振る。
 そして、フェイトに抱きつく。


 「短い間だったけど、
  私もフェイトに負けない思い出を貰ったよ。
  そして、妹のフェイトを貰った。」

 「い、妹!?
  ・
  ・
  はは……。
  フェイトも大変だ。」


 ルパンは、姉妹の頭を撫でた後、ポケットから機械を二つ取り出す。
 それを一個ずつ、フェイトとアリシアに渡す。


 「これで、俺の役目は終わりだ。
  プレシアとの約束も果たした。
  それをちゃんと時空管理局に返して、
  新しい人生を歩むんだよ……。」

 「私……。」

 「大丈夫さ。
  アリシアもいる……。
  アルフもいる……。
  ・
  ・
  それでも、不安かい?」

 「……ううん、大丈夫。」

 「いい子だ。
  フェイトもアリシアも、
  困ったことがあったら、言いな。
  おじさんは、違う世界にだって、直ぐ飛んで来てやるからな。」

 「うん……。」

 「あ、そうだ。」


 フェイトが、ルパンを見る。


 「いい女になれよ。
  困ったことがなくても、会いに行くからよ。
  十年後かな?」

 「うん、母さんみたいな女の人になるよ。」

 「私も!」


 ルパンは、嬉しそうな笑顔を浮かべながら公園を出る。
 そして、次元の待つベンツSSKに乗り込んだ。


 「フェイト、アリシア、達者でなぁ! さいならー!」


 手を振るルパンにフェイトとアリシアも手を振った。
 そして、積極的にフェイトからアリシアの手を握る。


 「行こう。
  お姉ちゃん。」

 「うん!
  いい人だったね!」


 笑顔のアリシアにフェイトも微笑んで返した。


 …


 その頃……。
 海岸沿いの巨大なのはと巨大銭形警部を、なのは達が結界内で封印しようとしていた。
 ぶんぶんと手を振って『暴れないで!』を連呼する巨大なのは。
 それに攻撃をしようとして、なのは本人が項垂れる。


 「ユーノ君……。
  この子にディバインバスター撃つとするよね?」

 「うん。」

 「暴れてんのは、私になるのかな?」

 「……違うと思うよ。
  ・
  ・
  向こうを見なよ。
  クロノは、手加減なしだよ?」


 巨大銭形警部に魔力光が幾つも炸裂しているのが見える。


 「相当ストレス溜まってたからね……クロノ君。
  狙いが顔面に集中してるのが怖いよ……。」

 「あそこまでしろとは言わないけど、
  市街地に入る前にさっさと封印しよう。」

 「わかった……。
  でも、今回は、全力全開で撃たなくてもいいよね?
  というか……撃てないよ。」


 ユーノは、自分に向けて砲撃する状況を想像して苦笑いを浮かべる。
 そして、数刻の後に巨大なのはと巨大銭形警部は封印され、元のジュエルシードに戻った。
 ちなみに……。
 後日、新聞の片隅に現地の住民からの投稿で巨大なのはの後頭部が掲載され、隠蔽は、失敗に終わっている。


 …


 その後、ルパンの行方を時空管理局は、捉えることが出来なかった。
 ジュエルシード封印の際の魔力による貫通ダメージにより、銭形警部は失神。
 一時間以上、目覚めることがなく、ルパンの追跡をするのは不可能になった。
 この事件をクロノは、人生最大の失態の一つと後に語っている。
 そして、フェイトとアリシアが取り返したということになっているジュエルシードを管理局に届けることで、一応の決着を見る。

 このIFの物語では、フェイトとアルフがハラオウン家の養子になるのは変わらない。
 大きく違うのは、アリシアもハラオウン家の養子になることと二人の姉妹の思い出の根幹に母親の愛があること。
 そして、フェイトとなのはに築かれる友情も少し違う経路を辿ることになる。
 その中にアリシアも含まれることで、また大きな変化を齎すのは間違いない。
 未来は、一人の泥棒の介入で、少しだけ方向が変わったのであった。



[21991] あとがき
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:93abeeca
Date: 2010/09/18 21:07
 == 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ==



 「世界は、いつだって……。
  こんなはずじゃないことばっかりだよ!
  ずっと昔から、いつだって誰だってそうなんだ!」



  あとがき



 「魔法少女リリカルなのは」というタイトルから、ずっと見るのを敬遠していました。
 しかし、ArcadiaのSS投稿掲示板において、常に上がり続けるこのタイトル。
 男達は、一体、何に引かれたのか?
 このタイトルが示すアニメは、一体、何なのか?
 正直、分かりませんでした。

 とりあえず、参考になるかと思って、SSを何個か物色。
 主人公の女の子が撃ちまくっています。
 それはもう、どっかんどっかんと……。
 撃ってるのも銃なんてチャチなものじゃありません。
 「砲撃」って書いてあります……大砲?
 謎は、深まっていきます……。

 読み進めることで、大分、分かって来ました。
 撃っているのは、魔法だったのです。
 SSならではの書き方に驚いて、タイトルに魔法少女が入っているのを忘れていました。
 そう、魔法なのです。
 そして、撃っているのは、かめはめ波みたいなものらしい。
 謎は、深まっていきます……。

 更に、ライバルというか敵役がいます。
 この子についても謎が多い。
 漠然としたイメージは、もの凄い早さで動く。
 そして、どうも内気な女の子らしく、そういった描写が多い。
 謎は、深まっていきます……。
 何故なら、控えめの女の子が敵役で、どっかんどっかんとかめはめ波を撃っているのが主人公だからです。
 一体、どういったライバル関係なのか、分からなくなっていきます。

 しかし、多くのSSを読んで来たから分かることも……。
 ギャグ系のものの中には、原作とのギャップを楽しむものも多々あるからです。
 そういった意味を踏まえて、至って、シリアス展開しているSSを読めば解決するはずです。
 
 台詞を飛ばして、流し読んでみました……。
 そして、変わらない……。
 やっぱり、かめはめ波を撃っているのが主人公で、控えめの女の子が敵役です。
 謎は、深まっていきます……。

 もう、原作のアニメを見るしかありませんでした。
 SSだけじゃ分かりません。
 そして、見た感想。
 SSの内容は、間違いではなく、かめはめ波を撃っているのが主人公で、控えめの女の子が敵役でした。
 だけど、内容は、凄くよかったです。
 ちゃんと会話を聞けば納得出来ます。
 全13話と短めなのも、SSの題材として選ばれる理由なのかもしれないと勝手に結論づけました。

 ……と、SSとそのアニメを見て思ったのが半年~1年前ぐらい。
 そして、ここ最近、テレビで再放送するルパン三世のテレビスペシャルを見続けたのがいけなかったみたいです。
 軽い気持ちで書き始めたSSは、当初の思惑と外れて在らぬ後方へと脳内でストーリーを捻じ曲げて……。
 初めて書くクロス物に「魔法少女リリカルなのは」と「ルパン三世」を選んでしまったのも、今では後悔の極み……。
 しかも、書き貯めしていたら、今までギャグ調のものばっかり書いていたのに少し毛色が違う方向になって来てしまいました。

 そして、浮かんだのが一番最初のクロノの言葉。
 本当に「こんなはずじゃないこと」になってしまいました。

 何というか難しいです。
 「魔法少女リリカルなのは」のフェイトという女の子。
 性格が掴みきれない。
 無印版とA's版で性格も口調も全然違います。
 そして、StS版では、A's版の性格を引き継いだように感じます。

 無印版の時は、意志の強さも重要な要素のため、言葉が結構しっかりしています。
 しかし、A's、StS版では、初めてのことに戸惑い照れまくっている感じです。
 書き手としてこれほど困ることもありません。
 特に無印版では大人との会話が少なく、この子は、一体、どういうしゃべり方をするのか見極められないのです。
 クロスさせるルパンは大人だから、どういう会話になるのか?
 とりあえず、A's版の大人と会話するものを参考にしてみましたが、どうもしっくり来ません。
 それが顕著に出るのが疑問系。
 このSSでは、A'sでリンディと会話する時に敬語になっていたので、それに合わせています。
 しかし、無印版では、なのはとの会話がメインになるので、敬語というよりは普段の会話が多いため違和感が出ます。
 例:ルパンに対して……。
 「魔法を見ても驚かないんですね?」
 「魔法を見ても驚かないんだね?」
 どちらにしようか迷ったあげくに前者を採用しています。
 そのような状態で書いたため、無印版とA's版のフェイトがごちゃごちゃになっています。

 そして、「ルパン三世」。
 言わずと知れた日本アニメの名作。
 しかし、書き手にとっては迷作でした。
 ルパン独特の話し方は、「文字」よりも「言葉」。
 声優さんの独特なしゃべり方によるアドリブで形成されたところが強いのです。
 あれをSSに組み込むことは、まず無理でした。
 書き手だけじゃなく読み手の脳内変換能力に多大な負荷を掛けるしかありません。
 時々、読んでて分からなくなる言葉が出てくるかもしれませんが、もう読者の方の変換能力の優秀さに頼るしかない状態です。

 何で、こんなことになってしまったのか?
 再び、クロノの言葉が頭を過ぎります。
 「こんなはずじゃないことばっかりだよ!」
 私の中で、この言葉は、今年を表わすセリフNo.1に決定した感じがしました。

 そして、迷走して変なSSが出来てしまいました。
 ・戦わない魔法少女達。
 ・あまり変身しない魔法少女達。
 こんな「魔法少女リリカルなのは」を許してくれるのか?
 テレビスペシャルで感じた「ルパン三世」の良さは、ちゃんと出ているのか?
 このSSで、テレビスペシャルの「ルパン三世」の匂いと散りばめられたセリフの懐かしさを少しでも感じてくれたなら、幸せです。


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