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長妻氏、存在感陰り(その2止) 次官利用、現実路線に

 <1面からつづく>

 ◇長妻氏「こわもて」の半面 「役人は役人の偉い人には従うんだ」

 「野党時代は100個やれと言って、1個与党がやるイメージ。(今は)私が発言すれば基本的にその通り動きますから、慎重にならざるを得ない」

 4日、テレビ朝日の新番組「サンデーフロントライン」に出演した長妻昭厚生労働相は、あっさり堅実路線への傾斜を認めた。

 3月8日、首相官邸であった「新年金制度に関する検討会」でも、長妻氏はそうした考えをにじませた。

 「基本原則を打ち出したい。参院選の前でも後でも」。鳩山由紀夫首相や平野博文官房長官らにそう語った長妻氏の意図は、「年金改革素案の提示は夏の参院選後でもいい」と発言した点にあると受け止められた。参院選前に公表し、アピール材料にしようという政権内の動きに異を唱えたという見立てだ。

 検討会で長妻氏は、制度改革についても「慎重に進めたい」と拙速な議論を戒めた。ところが古川元久国家戦略室長は「5月中をめどに基本原則をまとめたい」と締め、会議は20分で散会した。

 年金を政争に絡めるのを嫌う姿勢は、一言居士・長妻の面目躍如だ。が、それは現行制度を守りたい官僚の支援にもなる。長妻氏が野党時代、声高に主張しながら役人に抵抗された、「消えた年金」を救う法案づくりは今も滞ったまま。保険料は年金給付以外に充てない、という約束も10年度は守れなかった。

 もっとも、長妻氏の官僚へのこわもてぶりに変わりはない。

 大臣室に局長らを集めた際、机の書類が床に落ちたことがあった。「上に立つ大臣は取っちゃいけない。君たちが拾わなきゃいけないんだよ」。長妻氏はそう告げた後、自分で拾いはしたものの、「本当は私とあなた方はそういう関係です」とみなにクギを刺した。

 独立行政法人、福祉医療機構の1日付人事では、外部選考委による再三の続投要請をけり、社会保険庁から天下った青柳親房総括理事(56)を更迭した。

 それが、厚労官僚トップ、水田邦雄事務次官との関係となると、事情は違ってくる。

 政治主導の名の下、原口一博総務相は旧政権時代からの事務次官を切った。しかし、職員数10万人の巨大官庁・厚労省は次官1人代えてもすぐには変わらない--。そう踏んだ長妻氏は水田氏を使うことを選び、省のコスト削減チームの責任者に据えた。

 大臣室と次官室は応接室を挟んで隣り合う。水田氏は最低1日1回長妻氏と会うか、電話を重ね、「ムダ撲滅」の進み具合を逐一報告している。

 「一生懸命やっているよ、事務次官。官僚はオレには逆らっても、次官には逆らえない。役人は役人の偉い人には従うんだ」

 周囲にそう漏らす長妻氏は、人事でも手堅さの片りんを見せる。

 ◇世論意識「ポピュリズム」批判も

 とはいえ、年金記録問題で政府に難題を突きつけ、「ミスター年金」の称号を得た民主党の看板議員の一人だけに、「地味になった」という評は気になるようだ。国会答弁のストレスから後頭部に湿疹(しっしん)もできた。打開策としてテレビ出演を増やしたり、役所用語を平易に言い換えられる専門家を2人採用する人事も練っているが、やはり目線は得意のムダ削減に向かう。

 「仕分けの意識を省内に埋め込む」。厚労省が独自の事業仕分けを始めた12日、長妻氏は会場となった同省大講堂で決意を示した。

 厚労省は政府全体の事業仕分けより先に、単独で独立行政法人に切り込んだ。10年度の社会保障費は27兆円と初めて一般歳出の半分を超えたのに、11年度は子ども手当、年金の国庫負担増、高齢化に伴う社会保障費増の三つでさらに6兆円を要する。独自仕分けには自主的努力を強調し、見返りに所要財源を確保する狙いもある。

 長妻氏は毎週土曜、仕分けの準備段階から幹部に状況を聞いている。でも先月には、水田次官から「仕分けだけでお金を出すのは無理です」と言われ、「うーん……」と黙り込んだ。「増税はどこかでできるのか」「給付に切り込まないとだめか」。長妻氏が休日出勤の幹部を問い詰める姿は、週末の大臣室恒例の光景となっている。

 他に長妻氏が切り札と考えているのは、政策に世論調査を取り入れる手法だ。5人の研究者から活用法を聞き終えた。きっかけは、75歳以上を切り離した後期高齢者医療制度。高齢者から「うば捨て山だ」と批判を浴び、名称も悪評を極めた。官僚たちは医学分野の言葉をあてはめただけと言う。だが、一般の人がどう受け止めるかについてはまるで考慮していなかった。

 「名称への異論は長時間議論しても有識者からも、誰からも出なかったんです」。担当者のそうした説明に、長妻氏は「なるほど」と思った。

 そして考えついたのが、複数の政策案を示し、世論調査で多くの賛同を得たものを導入することだった。まずは後期高齢者医療制度の見直しに使う。これには太田俊明厚労審議官、大谷泰夫官房長ばかりか、信頼する水田次官も「難しい制度を周知するのは困難です」と抵抗した。「十分情報が開示されれば、国民は選択を間違えない」。押し切った長妻氏だが、省内からは「ポピュリズムと紙一重だ」との声が漏れてくる。

      ◇

 佐藤丈一、鈴木直、塙和也が担当しました。

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 ◆長妻厚労相の最近の言動◆

3月13日 日本年金機構の川越年金事務所(埼玉県川越市)を視察後、「サービス業という点からみると課題はまだ大きい」

  17日 母国に子どもを残す在日外国人への子ども手当支給に関し、国会で「11年度に向け要件を検討したい」と見直しを表明

  23日 民主党の生方幸夫副幹事長の解任騒動に対し、記者会見で「党の幹事長室の判断を尊重していくのが我々の立場だ」

4月 6日 記者会見で、参院選マニフェスト(政権公約)について「詳細なプランの提示とか、強化はあると思うが、骨格は衆院選マニフェストに沿った対応をしたい」

  16日 記者会見で、米軍普天間飛行場の移設問題に絡む鳩山首相の進退問題について「5月末の段階で一定の結論が出ると思っている。今の段階でコメントしない」

毎日新聞 2010年4月18日 東京朝刊

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