2010年9月18日5時2分
パートや派遣として働く若い非正規労働者が交通事故で亡くなったり、障害を負ったりした場合、将来得られたはずの収入「逸失利益」は正社員より少なくするべきではないか――。こう提案した裁判官の論文が波紋を広げている。損害賠償額の算定に使われる逸失利益は「命の値段」とも呼ばれ、将来に可能性を秘めた若者についてはできる限り格差を設けないことが望ましいとされてきた。背景には、不況から抜け出せない日本の雇用情勢もあるようだ。
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論文をまとめたのは、交通事故にからむ民事訴訟を主に担当する名古屋地裁の徳永幸蔵裁判官(58)。田端理恵子裁判官(30)=現・名古屋家裁=と共同執筆し、1月発行の法律専門誌「法曹時報」に掲載された。
テーマは「逸失利益と過失相殺をめぐる諸問題」。若い非正規労働者が増える現状について「自分の都合の良い時間に働けるなどの理由で就業形態を選ぶ者が少なくない」「長期の職業キャリアを十分に展望することなく、安易に職業を選択している」とする国の労働経済白書を引用。こうした状況を踏まえ、正社員の若者と非正規労働者の若者の逸失利益には差を設けるべきだとの考えを示した。
具体的には、非正規労働者として働き続けても収入増が期待できるとはいえず、雇用情勢が好転しない限り、正社員化が進むともいえないと指摘。(1)実収入が相当低い(2)正社員として働く意思がない(3)専門技術もない――などの場合、若い層でも逸失利益を低く見積もるべきだとした。
そのうえで、逸失利益を計算する際に用いられる「全年齢平均賃金」から一定の割合を差し引いて金額を算出する方法を提案した。朝日新聞は徳永裁判官に取材を申し込んだが、名古屋地裁を通じて「お断りしたい」との回答があった。