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正平調

2010/09/06

「10年後、何をしていたいですか」。そう問われた20代の記者たちが答えに窮した。インターンシップ(就業体験)の学生との懇談会でのことだ◆若手記者は人と出会い、その思いを伝える楽しさや難しさを語った。しかし、自分の10年後については「考えたことがない」と苦笑した。取材したいテーマならある。力量も磨きたい。でも、肩書などの形を求めているわけではない◆翌日、学生が感想を話してくれた。「将来が分からないのが不安だったけど、それを面白いと思うこともできるのですね」。映画「私をスキーに連れてって」の脚本家、一色伸幸さん(50)が同じようなせりふを映画の締めに使ったことがあった。「分からねえから、面白いんだ」◆一色さんはうつ病になり「消えてなくなりたい」と苦しんだ経験を持つ。仕事を休み、治療した。周囲に見守られて病気を克服した。そしてそのせりふを書いた。療養の間、分からないことが不安だった◆著作「うつから帰ってまいりました」で、一色さんは「うつ病は心のがん」と表現する。自らの命を奪いかねない病気だから、完治まで治療を続けなければならない。一方で、強調する。やっかいだが、正しく対処すれば回復する。患者本人に、そして、気をもむ周囲の人に知ってもらいたい◆今を積み重ねれば、あしたがある。一色さんは本の最後に、誰にとっても大切な3文字を記した。「つづく」と。

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