【社説】「4億ウォンブランド女」を通じて見る韓国社会

 ケーブルテレビ「M.net(エムネット)」の番組に出演した際、「両親がくれた小遣いで4億ウォン(約2900万円)相当のブランド品を買った」と発言し、「4億ウォンブランド女」と呼ばれ物議を醸したキムさんが、本紙の取材に対し、「でっち上げだった」と主張した。キムさんは「あの発言は、制作者サイドから渡された台本をそのまま読んだものだ。番組はわたしの現実を、10倍ほど誇張した」と話した。これに対し、M.net側は「キムさんが台本をそのまま読んだという話は納得がいかない。キムさんがうそをついたのであれば、われわれも被害者だ」と反論した。

 「4億ウォンブランド女」騒動は国会にまで飛び火し、野党議員はキムさんが演出した「社会的な喪失感やはく奪感」について言及した一方、国税庁長官は「(脱税の有無について)厳正に調査し処理する」と答弁した。実際のところ、今回の事件の登場人物たちは、「喪失感」や「はく奪感」などという大げさな言葉を真顔で口にする対象ではなく、韓国社会の片隅が腐敗しつつあるということを示す、傷口のようなものと見なすのが妥当だ。そこにスポットを当てると、最近「公正な社会」という言葉が話題になっている韓国社会のあちこちに住みつき、根や枝や葉を食いつくして解体に追い込む、病原菌の正体が見えてくる。24歳の若い女性が身に着けていたネックレスを、実際には4000万ウォン(約290万円)だったにもかかわらず、テレビ局は「2億ウォン(約1400万円)」と言わせようとしたのか。そのことをめぐる、テレビ局と出演者の口論を見守る人たちは、吐き気さえ覚えている。

 「4億ウォンブランド女」騒動を引き起こした番組の制作者たちは、少なくとも、一般市民が視聴する番組について、事前に十分な検証をしなかった、という批判を避けられないだろう。制作者たちの主張通り、仮にキムさんがうそをついていたとしても、現場での確認作業を怠ったまま、キムさんの話だけを信じて出演させたというのでは、言い訳にもならない。

 ケーブルテレビ局が増加したことで、各局は最悪・最低の人物を寄せ集め、ただ視聴率を上げるということだけに躍起になっている。虚偽または改ざんした内容の番組に関する疑惑も次々と浮上している。そんなテレビ局や、番組で取り上げられた人々の姿を見ていると、堕落の道をひたすら突き進み、硫黄を浴びて滅亡したという、大昔のある都市の運命や、振り返ってはならない都市を振り返ったとして、その場に立ち尽くしたまま塩の柱になってしまった人物の姿を連想させる。

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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