北九州市の病院で07年6月、認知症の入院患者2人のつめをはがしたとして、傷害罪に問われた元北九州八幡東病院看護課長、上田里美被告(42)に対し、福岡地裁小倉支部は30日、懲役6月、執行猶予3年(求刑・懲役10月)を言い渡した。田口直樹裁判長は「ケアであることを忘れてつめ切りに熱中した。患者の痛みや出血に配慮せず、楽しみとして切った」と、上田被告側の無罪主張を退けた。被告側は控訴する方針。
1年以上の公判前整理手続きで、争点は傷害の故意があったか、正当な看護行為だったかなどに絞られた。
田口裁判長は、患者2人(当時70歳と89歳)のつめを深く切り軽度の出血を生じさせたとし「患者の苦痛や出血を避けるなど配慮して切った看護行為ではない。多少の痛みや出血は構わないと考えた」と述べ、「故意」を認めた。傷害罪の成立要件に関し「看護行為の一環として患者のつめのケアをする際、指先より深い個所まで切っても直ちに傷害罪の構成要件に該当しない」と判示した上で、上田被告のつめ切り行為について「患者家族、上司に虚偽の説明をした。看護行為ではない」と断じた。
さらに動機については「自由に体を動かすことも話すこともできない患者であることを良いことに、痛みや出血に配慮せず、楽しみとして切った」と認定した。上田被告側は「浮いたつめを切っただけの看護ケアだった」と主張していた。
判決によると、上田被告は07年6月、意思表示が困難な認知症の女性患者2人の右足親指のつめを医療用つめ切りで切除するなどし、けがをさせた。
北九州市の第三者機関、尊厳擁護専門委員会は同7月「意思表示も抵抗もできない患者に不必要な措置をした」として虐待と認定したが、日本看護協会は同10月「虐待ではなく看護実践から得たケアだ」とする見解を出していた。
上田被告は同7月に懲戒解雇されたため、病院側を相手取り、地位確認と賃金支払いを求めて福岡地裁小倉支部に提訴し係争中。
福岡地検小倉支部は「量刑に関し若干の不満はあるが、全体的には妥当な判決だ」とのコメントを出した。【佐野優】
2010年9月16日