きょうの社説 2010年9月17日

◎学生の合宿誘致 文化系に絞った戦略もいる
 年間延べ1万人の合宿誘致の実績を挙げた七尾市の事例が示すように、学生の合宿は今 や、交流人口拡大が着実に期待できる有望分野である。県内の自治体では宿泊費助成などで優遇策を競い、今夏も各地で合宿が盛況だったが、学生をさらに呼び込むには、スポーツにとどまらず、文化系サークルや大学ゼミなどに的を絞った戦略があっていい。

 穴水町では今夏、海老名香葉子さんとの縁で林家一門の「三平堂塾」と連携し、学習院 大の落語研究会を誘致した。高齢者施設で学生が落語を披露するなど、体育会系とは違った地域との交流風景が描かれ、町ではこれを機に落語合宿誘致を本格化させる。能登町でも首都圏の大学ゼミを招き、経営学部や経済学部の学生による地域活性化研究の素材を提供した。文化系ではこのように活動テーマに沿ったフィールドワークの適地としての売り込みが考えられよう。

 金沢市も修学旅行やコンベンションと同様、合宿誘致にも、より積極的に取り組んでは どうか。市内に多い茶室は茶道サークル誘致に有利であり、工芸や芸能の伝統を生かした取り組みも考えられる。演劇や音楽を含め、金沢の文化土壌は合宿を呼び込む潜在力としては申し分ない。やる気になれば開拓の余地は十分にある。

 七尾市では今年、サッカー合宿推進協議会が発足し、今月には合宿拠点となる和倉温泉 多目的グラウンドも完成した。合宿者数については、2011年度に昨年度の4倍となる延べ4万人の目標を掲げ、新たに文化系の団体を受け入れる組織づくりも検討している。

 七尾市が他の自治体に先駆けて合宿者数を大幅に伸ばしたのは、和倉温泉など宿泊施設 の充実や旧1市3町の合併で体育館、グラウンドなどの施設が増えたことが大きいが、担当者が全国の大学などを訪れ、合宿環境を積極的に売り込んだ努力も見逃せない。

 修学旅行ほどの大人数は見込めないかもしれないが、学生の合宿は工夫次第で地域の活 性化につながり、地域の個性をより際立たせることもできる。魅力的な合宿プログラムやもてなしの工夫など官民一体で知恵を絞りたい。

◎銀行の資本規制強化 地域金融機関の対応は
 国際業務を行う主要銀行に対する新しい自己資本規制が決まった。国際決済銀行(BI S)のバーゼル銀行監督委員会がまとめた新規制は2013年から段階的に国際基準行の大手行に導入されるが、地銀など地域金融機関の自己資本規制を国際基準の強化に伴って見直すのかどうか、政府の判断を示さなければなるまい。地域経済にとっては、むしろそのことの方が重要である。

 現在のBIS規制では、銀行の健全性維持のため、大手行は自己資本比率を8%以上確 保しなければならない。バーゼル委員会は08年の世界的金融危機を教訓に、この基準を据え置く一方、狭義の中核的自己資本(普通株と利益剰余金)の比率を現行2%から実質7%に引き上げることにした。

 自己資本の質を高めて銀行の安定性を高めるねらいだが、地域金融機関やその融資を受 ける中小企業関係者らの気掛かりは、国際基準に準拠して現在、最低4%となっている国内の自己資本比率の基準がどうなるかであろう。

 このことに関連して、亀井静香前金融担当相は昨年、中小企業金融円滑化法の施行を念 頭に、国内基準の弾力的な運用を説き、必要な融資活動を行うなかで一時的に4%割れに陥っても容認する考えを示したことがある。

 自己資本比率を高めるため金融機関が融資に消極的になったり、「貸しはがし」といわ れるような回収が行われてはならない。場合によって自己資本比率が低下しても、すぐに業務改善命令を出すような四角四面の対応はとらないという趣旨である。

 自己資本比率より、必要な中小企業融資を優先する考えは理解できる。ただ、自己資本 規制強化の国際的な流れに逆行するともいえる亀井氏の姿勢が、国際基準の8%を目標としてきた多くの地域金融機関に戸惑いを与えたのも事実である。金融担当相は交代し、金融庁は地域金融機関の監督方針として、自己資本の充実を促しているが、今回の国際基準の強化に応じて、国内基準の取り扱いをどうするのか、政府方針を明確にする必要があろう。