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[21386] 【チラ裏から】親馬鹿花妖怪(東方)
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/07 01:13
はじめまして、にんぽっぽと申します。

習作なので未熟な点もありますがお許しください。
ミス、誤字、おかしな文体等のご指摘ありますと助かります。

注意
・東方projectの二次創作です。

・一人だけオリジナル(女)がいます。これ以上は出しません。

・設定など確認していますが、間違っていたら許してください。
 出来る限り修正させていただきます。


・ドタバタ系を目指したいです。
 モヤモヤさ〇ぁ~ず的な流れです。基本ユルいです。

・感想がもらえて本当に嬉しいです。感謝の極みです。

・地の文と会話文のバランスに注意したいです。

・夏編の終わりが見えてきたので、板を移動してみました。
 これからも宜しくお願いいたします。

・無事に第一部に当たる夏編を終わらせることが出来ました。
 感想、誤字指摘など本当に有難うございました。



[21386] 1話目 牧場(まきば)物語
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/09 20:55
「今年も見事に咲いたわね。本当に素敵」

一面に広がる黄色の大地。
空には燦々と照りつける黄色い光。青空と入道雲。
今年も見事に咲き誇る花を見渡し、私は満足げに目を細める。
能力を使えば咲かせるぐらいわけは無いが、やはり必要以上に手を掛けるのは美しくない。
自然が一番など安っぽい台詞ではあるが、私はそう思うのだ。
豊かな土、太陽の光、それに水。これさえあれば十分だ。


それは分かっていても手をかけまくりたい、寝食忘れて世話をしたい花が私にはあるのだ。
目に入れても痛くない、むしろ入れたいくらいだ。

「ねぇそう思わない?貴方が心を込めて、丁寧にお世話をしてくれたお陰よ」

「はい母様。本当に綺麗です・・・・・・」

「今日はここでお昼ご飯にしましょう。お弁当を作ってきたのよ」

いそいそと弁当をバスケットからとりだす。
今日はもう一段と気合を入れて作ってしまった。驚きの重箱仕様だ。
玉子焼き、ハンバーグ、タコさんウインナー、おいなりさん、うさぎ型のリンゴetc・・・
朝早く起きて調理した甲斐もあり、大満足の出来栄えだ。
シートに広がる作品を前に、驚きの顔を浮かべた後に笑みが漏れるのをみて
私は心の中でガッツポーズをとる。

何しろ今日は私たちにとって特別な日なのだから。

「おめでとう美咲。今日は貴方が幻想郷に来てから丁度1年目。
私達にとっての誕生日のようなものね。」




そう今日は我がいとしの娘、風見美咲の誕生日なのだ。
正確には少し違うのだが、細かいことはどうでも良い。
なんという素晴らしい日なのだろうか。幻想郷の記念日として休日にしても良いぐらいだ。
外界では偉い人の誕生日が休日という制度があるらしいじゃないか。
こっちにも早速導入するように妖怪の賢者達に申し入れてみよう。
『風見幽香の娘 美咲の誕生日』
是非カレンダーに載せたいものだ。
というより作ってしまおう。そう決めた。
作ると心の中で思ったなら、行動を起こすそれが決まりだったような?

話が脱線してしまったが美咲は正真正銘、誰がなんと言おうが私の娘である。
細かいことは割愛するが、種族としては半人半妖となるだろうか。
容姿は私をそのまま小さくしたような愛らしさ。歳は花も恥らう8歳だ。
ああ実に可愛いわ。
カリスマ溢れる超クールな母親を目指す私は、超スパルタ教育を施してきたつもりだ。
一人でお花のお世話をさせたり、一人でお風呂にはいったり、一人でトイレにいったり
一人で着替えたりと、涙をぐっと堪えてムチを振るってきた。当然陰から見張っていたが。
その甲斐あって見事に箱入り娘となりました。本当にありがとうございます。

美咲は私に似て穏やかで優しい心をもっているので、
花畑で妖精たちといつの間にか仲良く遊ぶようになっていた。
挨拶をしようと笑顔で近づいたら、妖精たちは泣きそうな顔をして散り散りに去っていったこともあった。

「母様。その笑顔では泣く子も黙ると思います」


などと言われたりして凹んだりしたこともあったが、健やかに平和に過ごしてきたのだ。
・・・・・・そう娘が可愛すぎて生きてるのが辛い状態だったのだが。


「そろそろ私もこの幻想郷を見て回りたいです。色々な人たちとお話してみたい。
飛ぶ練習も一杯してきました。お願いです母様」

「・・・・・・」
お昼を食べ終わりまったりしていた所、娘から真剣な顔で懇願される。
ああアルバムに残しておきたいシーンだわ。
『幽香心のアルバム』に今の光景を残しつつ、私は考える。

問題点はいくつかあるが、一つ目は私に子供がいることを誰にも教えていないのだ。
花畑の妖精たちは3日立てば細かい事を忘れてしまうようで、楽しく遊んだという記憶しかないらしい。
人間たちは人間友好度:最悪の妖怪のテリトリーになど近づかないし。
妖怪たちは私の警戒する空気を感じて、あまり近づいてこない。
それがいきなり颯爽と登場して『私の娘です。コンゴトモヨロシク』などといったら、
『どこで攫って来たんだこの糞妖怪!』などと濡れ衣を着せられかねない。
そんな展開になったら、思わず相手の顔を軽く何回も撫でてしまいそうになるだろう。
厄介そうなのは隙間、天狗、貧乏巫女、人里の教師といったところか。
弾幕ごっこではなくリアルバトルに突入してしまう可能性が非常に高い。
いわゆるルール無用のデスマッチと言う奴ね。

2つ目は何にでも首を突っ込んでる白黒魔法使いと出会う可能性が高いことだ。
万が一にも美咲が懐いてしまい、『だぜだぜ』言うようになったら恐ろしい。
非常に恐ろしい。
『ようおふくろ!今日も絶好調だったZE☆』
とマスタースパークをそこら中に撃ちまくり、

『落ち込んだりもしたけれど、ワタシは元気だぜ!』
などと叫んで箒やらデッキブラシに乗って、黒猫と共に幻想郷を駆け回るのだ。


クラッ


思わず卒倒しそうになる。オラの美咲ちゃんが不良になっちまっただ!と叫びそうになった。
とここまで考えること3秒。
正直デメリットばかりだが私は、娘の願いを聞き届ける以外に道はない。
なぜなら・・・


「・・・・・・良いわ。但し悪い魔法使いには近づいちゃダメよ。後弾幕ごっこの練習もほんの少しだけやりましょう」

「ありがとう母様!いっぱい練習します!」

満面の笑みを浮かべて抱きついてくる美咲。
この笑顔が見れるなら他のことなど些細なことではないか。
私は心のアルバムにまた一枚納めつつ、今度は本当のアルバムを作ろうかと思案するのだった。






風見幽香
花を操る程度の能力






[21386] 2話目 突撃!隣の博麗神社
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/06 18:26

紅い――
私はその瑞々しい肉体に齧り付く。何度も何度も。
滴り落ちる液体が取り返しの付かないことを表していた。
大事に大事に育ててきた結果がこの有様だ。
なぜか私は空虚なモノを感じて空を見上げた。

ああ今夜は、こんなにも月が綺麗だ――




「今日も私のポエムは冴え渡るわね」
収穫したばかりのトマトを齧りながら、ペンをぐるぐる回す。
日常生活にアクセントをつけたクールな日記をつけることが私の密かな趣味なのだ。
ただ娘が収穫した赤く熟れたトマトをおいしく食べました。まる。
ではなんとも味気ないではないか。
絵日記verも試してみたが、なんというか抽象画?になってしまうので断念した。
娘と私を書いたつもりが、おぞましいよくわからないなにかを描き上げてしまったのだ。
そのノートからはチョッチ妖力を感じたので、念のため博麗神社の賽銭箱に投げ入れておいた。
困ったときの巫女頼みだ。普段だらけているのだからお払いぐらいするべきだろう。

「ふーそろそろ寝るとしましょう。明日はいろいろと大変でしょうから」

日課を終え軽く伸びをする。
娘の眠るベッドに入り、目を瞑る。
いよいよ明日ははじめてのおでかけだ。
もしかしたら一騒動あるかもしれないかと思うと
興奮してなかなか寝付けなかった。



「おはようございます。母様」

「・・・・・・おはよう美咲」

・・・・・・結局眠れなかった。
ふらーと立ち上がり身だしなみを整え、朝食の準備をする。
鏡を見たときは、あまりの目つきの悪さに自分でも驚いた。娘も驚いた。

朝食を食べながら注意することを再確認する。

「昨日も言ったけれど、今日でかけるのは博麗神社よ。幻想郷の異変解決を担当する巫女がいるわ。
・・・・・・万が一戦闘になったら貴方はすぐに逃げなさい。いいわね?」
あくびを堪えながらキリッとした顔を作る。
カリスマを維持するのも大変なのだ。

「博麗の巫女様は怖い人なんですか?」

「口よりも先に手が出るタイプよ。異変解決に定評のある、幻想郷において最強の人間でしょうね」
貧乏で賽銭が少ないことにも定評のある博麗霊夢だけどね。

「私の収穫したお供え物もありますから、仲良くしたいです」
しょぼんと下をむく。ああ、可愛すぎて困る。
今日は博麗神社なんか行かないで湖あたりへのピクニックに変更しようか。
なぜ貧乏巫女に娘が大事に育てた野菜をプレゼントしなければならないのだ。

あの子は野菜を育てる能力があるらしく、少し教えただけですぐ覚えてしまった。
その上味も抜群で、私も思わず唸ってしまう出来だ。
これなら至高との対決にも勝てるというのに。
瑞々しい夏野菜達が泣いているわ・・・・・・
私が葛藤を繰り広げている間にテーブルの上は綺麗に片付けられていた。

「そろそろ出かけましょう母様。まだあまり早くは飛べないので頑張りますね」

「心配いらないわ。私が手を繋いでゆっくり飛ぶから大丈夫よ」
妖力は十分あるのだが、まだ上手くコントロールできていないのだ。
弾幕も不味いながらもそれなりに張ることができるようになった。
まぁ闘わせる気など全くないので、人間やら下級妖怪相手に自衛できる程度で構わない。
というか私が目を光らせている限り、そんな心配はないけどね。



・博麗神社

人里から離れた山奥に存在する、幻想郷と下界との境界に位置する要ともいえる存在だ。
私にとっては寂れた、貧乏くさいほったて小屋という認識なのだが。
娘と手を繋いで境内に降り立つ。

「ここが博麗神社よ。貧乏くさい建物でがっかりしたでしょう?」

「いえ、なんだか厳かな空気を感じます。・・・・・・緊張してきました」

「流石我が娘ね。貧乏くさいけど重要だから一応覚えておいてね」
しかし巫女は見当たらないか。どうせ惰眠を貪っているのだろう。
相変わらずのだらけ巫女だ。娘の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいところだ。

丁度良いので例のブツをもう一冊始末させてもらうことにしよう。
上達を目指して書いた絵日記2である。またチョッチ妖力を感じるので困っていたところだ。

「ではお賽銭がわりにコレをいれておきましょう」
笑顔とともにソレを賽銭箱にいれようとした時、


「ちょっと! そんな呪われたもの賽銭箱にいれんじゃないわよ!」
馬鹿でかい声と共に腋巫女Aが現れた! コマンド?

「この前の呪い絵もアンタの仕業だったのね。なに? 私への挑戦状かしら。受けて立つわよ糞妖怪!」

「違うわよ。ちょっと妖力を感じたからお払いしてもらおうと思って」

「ふざけんな。ちょっとどころか忌しすぎて眩暈がしそうだったわ。
更に具現化しようとしてて、調伏するのにどれだけ手間取ったと思ってんのよ!」
青筋を立てて怒る巫女。友好的に会話していたのになぜか険悪なムードに。
このままではいけないわね。

「そんなにいきり立っていてはお話もできないわ。お茶でも飲んで落ち着きましょう」
ささっと湯のみを差し出す。こんなこともあろうかとさっき用意しておいたのだ。

「アンタ、それウチのお茶じゃないの!」

「細かいことは気にしないで。さぁグッといってグッと」

「ハァ・・・・・・もういいわよ。なんか疲れてきたわ。それで何の用な訳? 賽銭入れる気はないようね」
湯飲みを受け取りながら、縁側に腰掛けてため息を付く巫女。
幸せが一匹逃げていったわね。

やりとりを唖然とした顔で見ていた娘を呼び寄せる。

「ええ。実はこの娘に幻想郷案内をしていたのよ。まずはここからと思ってね」

怪訝な顔でこちらを見る巫女。

「・・・・・・同じ服装みたいだけど、その子供は一体なに? 分身?」

「さぁ美咲、ちゃんと挨拶をして。練習したとおりにね」
肩に手を置いて促す。頑張れ頑張れと心の中で旗を振る。

「・・・・・・はじめまして風見美咲です。風見幽香の娘です。今後ともヨロシクお願いします」
ワンダフル! まさにパーペキ。グッド!
100点満点の大はなまるをつけてしまおう。赤ペン先生も納得するわね。


・・・・・・
ヒューと一陣の風が境内に吹いた。巫女はなんともいえない表情のまま固まっている。
娘もなにか失敗してしまったかと不安気な表情を浮かべたまま固まっている。
私はというと、初めての挨拶のシーンを心のアルバムにしっかりと刻み付けるのだった。





博麗霊夢
空を飛ぶ程度の能力





[21386] 3話目 神社のぬし釣り
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/06 18:27


チリンと風鈴の音が聞こえ、部屋に入ってくる一陣の風に夏の風情を感じていると、
その後に一斉に響く、ジージーやらカナカナやらミーンミーンといった大合唱が私のイライラを増幅させる。
イライライライラ。

「なぁ。そんなにイライラしてどうしたんだ? 珍しい客なんだからなんか話せよ」

ニヤニヤと笑いながら軽口を叩いてくる金髪娘。
生意気そうな頬を抓りたくなる衝動になんとか耐える。
別に我慢するひつようなどないのだが、あまり無様な姿をみせるわけにはいかない。
カリスママザーたるもの、常に威厳溢れる姿勢を保たねばならないわ。

「別にイライラなんてしていないわ。放っておいて頂戴」
机を人差し指でドンドンドンドンと連打しながら返事をする。
ああ、早く戻ってこないかしら。

「それで結局、お前はなんでここにいるんだ」
呆れたような表情で問いかける白黒。

「・・・・・・貴方はお茶でも飲んでなさい」

さっきからこの繰り返しである。大体10回くらいだろうか。
なぜこうなったかというと、話は30分くらい前に遡る。




完璧すぎる挨拶の後、とりあえずと居間に通された私たちは
美味しくない湿気た煎餅と、そこそこ飲めるお茶でもてなされたのだ。
巫女はよっこらせと座布団に座り、机に肘をついて湿気た煎餅をバリバリと齧りつく。

「・・・・・・で、この子がアンタの娘っていうのは本当なわけ?」
強い疑いの目を向けてくる貧乏巫女。
とりあえず疑ってかかるタイプなのだ。この女は。


「さっき挨拶したでしょう? 本当も何もそれ以外何があるっていうの」
胸を張って言い切る。豊かな胸を強調するように。
一瞬だけ殺意の篭った視線を感じたがすぐ元に戻る。
胸で女の価値は決まらないわよ博麗霊夢。これは持ちたるものだけが言える台詞ね。

「里から攫ってきた、と言われたほうが現実味があるわ」

里から攫って、知らない子供を育てて何が楽しいのか教えてもらいたいところだ。
今私は自分のプリンセスをメークするのに全力を尽くしているというのに。
ところで育ての親と結ばれるというのは道徳的にどうなのだろう。
私としては超おk!ともそれは引くわという気持ちのフィフティーフィフティーだ。
心のライフラインを使ってお友達のメディスンにでも聞いてみるとしよう。

『ねえメディスン。育ての親と結ばれるENDはありかしら? 30秒以内に答えるように」

『超おkだよ!』

『そうありがとう。助かったわ』

3秒で答えが返ってきた。ディモールト良い!
結論がでたところで現実に戻ってくる。

「そんなわけ無いでしょう。
第一、そんな物騒な真似をしたら里の守護者やらが黙っていないわよ」

「じゃあ父親は誰なのよ。そもそも妖怪なの?半人半妖?
妖力を感じるから人間とは思わないけど」

「秘密よ」

「いつからアンタのとこにいるのよ。流石にその歳まで隠れて育てていたとは考えにくいわ」

「フフ、教えてあげないわ。絶対に教えてあげない」
大事なことなので2回繰り返してみた。
満面の笑みで。

「つまりアンタの娘で、名前は風見美咲ってこと以外は秘密なワケ?」

「Exactly(その通りでございます)」

巫女はガバッと立ち上がると、笑いながら怒るという器用なことをしながら親指を外に向ける。
「ちょっと表にでなさい。やっぱりちゃんとお話しないとダメなようね。主に身体に」

「そんなに怒ってはシワが増えるわよ。さぁお茶でも飲んで落ち着いて」
ササっと湯飲みを差し出す。

「だから私のお茶だって言ってるでしょうが!!」

私は美咲に視線を向ける。仕方ないのでアレで釣るしかないでしょう。

「あ、あのこれ私が育てた野菜です。よ、よかったらどうぞ」
おずおずと小さな手で満杯の籠を差し出すMY娘。
籠いっぱいにはいった夏野菜。キュウリやらトマトやらナスやらピーマンだ。
そして夏の代名詞ともいえる萃香、いや西瓜もついでに渡す。
なんとも手刀で叩き割りたくなる素晴らしい形をしているではないか。
家に帰ったらさっそく冷やしておいた萃香を叩き割りましょう。

巫女も振り上げたこぶしを下ろして両手で籠を受け取り、西瓜を足で確保する。
まるで蹴球でもはじめそうなポーズである。
『レイム、蹴球好きか?』

「・・・・・・最初からそういう態度ならこんな面倒なことにならないのに。
こういうものは早く渡しなさいよ全く」
思わずこぼれる笑みを全く隠せていない。

「美咲よく見ておきなさい。物で釣るというのはこういうことを言うのよ。
魚釣りのことじゃないのよ。理解できたでしょう?
そして釣られた人間の顔はコレよ。勉強になったわね」
百聞は一見に如かずと言うけれど本当ね。
 
「は、はい母様。頭ではなくこの目でしっかりと理解できました」
にっこりと可愛らしい笑顔を浮かべる我が娘。ベリグ!
親指を立ててよく出来ましたと褒める。
娘も親指を立てて応える。
褒めて育てるのが風見流よ。

「・・・・・・アンタらやっぱり親子だわ」



そんなこんなでだらだらと雑談していたら
「母様。・・・・・・ちょっとだけ博麗の巫女様とお話したいことがあるのですが」

「み、巫女様って。幽香・・・・・・アンタ素晴らしい教育をしているわね。
思わず感心させられたわよ。
それで何かしら。厄介ごとは勘弁願いたいわね。面倒だから」

「いえ、その、・・・・・・ちょっとあっちでお話してもいいですか?」

「仕方ないわね。まぁいいわ。
野菜ももらっちゃったし、当分飢えなくてすむし。
幽香、多分もうすぐ魔理沙が来ると思うからお茶だしといて」

立ち上がって奥の部屋に去っていく巫女様と娘様。
・・・・・・あれれー?
ありのままに起こったことを話すと、そして誰もいなくなった。私以外。
というか巫女様って。突っ込むタイミングを忘れるほど唖然としてしまったわ。


――そして冒頭へ。




・夏野菜とは
野菜の中での特に夏期に収穫されるものをいい、
キュウリ、ナス、トマト、ピーマン、オクラ、
トウモロコシ、ニラ、カボチャ、ズッキーニなどが代表的である。
wiki先生より






[21386] 4話目 時報を聞いたらサヨウナラ
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/06 18:29

『それであの娘はどうだったかしら?母親に似ず、素直で良い子だったでしょう』
『アンタまた覗いてたわけ。まぁ姿はそっくりだけど、性格は正反対ね』
『あの風見幽香が親馬鹿妖怪になるとはね。年月は妖怪をも変えるのかしら』
『ババ臭い台詞ね』
『それだけ長く生きてきたということよ。私も、あの子もね』






二人が居間に戻ってきた後、
娘を見て驚きの表情を浮かべる霧雨魔理沙。
それを無視して、私たちはささっと博麗神社を後にした。
しかし白黒に美咲の顔を見られてしまったのは失敗だったわ。
あいつは好奇心の塊だからいずれ必ずちょっかいを出しに来るだろうし。
更にうっとおしいのが、ゴシップ記事ばかり書いている天狗だ。
神社にいる頃から気配がしていたので、今頃トンデモ記事を嬉々として作成しているはずだ。
見出しは『花の妖怪に隠し子発覚!? 博麗神社での謎の密会を激写!!』
あたりか。見つけしだい全て焼却処分にしてやるわ。
ついでに不埒な悪行三昧を裁いてやりましょう。

「それで巫女と何を話していたのかしら。教えてくれるわよね?」

手を繋いで飛びながら、ニッコリと笑顔で娘の方を向く。
できるだけ優しくエレガントに聞き出さなければ。

もしくは取って返して、あの巫女に強引に吐かせるかだ。
流石に博麗霊夢相手は、しんどいので却下である。
弾幕ごっこというルールの中であれば、あの巫女は最強だと私は考えている。
肉弾戦に持ち込めば負ける気はしないが、美しくない。
美しい魔闘家風見としては、戦いの中にも優雅さを追求し、極めるべきだ。


「ごめんなさい母様。今は秘密です」

「・・・・・・どうしても?」

「はい」

「私がお願いしても?」

「ごめんなさい」


こうなってはテコでも動かないでしょうね。
この娘はとても強情で頑固なのだ。誰に似たのかしら。
だがこのように意地を張る姿も、心のアルバムに残しておきたい一品である。

アルバムで思い出したが、実は使い捨てカメラとやらも裏ルートから手にいれてあるのだ。
1個では全然足りないと思ったので箱買いしてしまった。
店主にお願いしたら格安で売ってくれた。私の笑顔が見れたのだから安いものだろう。
一度こっそり撮ってみたのだが、勘が良いのかこちらを振り向いてしまう。
それではダメなのだ。やはり被写体は自然体でなければ・・・
仕方ないので記念撮影をして、写真立てに入れて部屋に飾ってある。
笑顔がぎこちないのが残念なところね。厳しく評価して90点といったところか。


そういえば逆に私を撮影してもらったら、とんでもないものが撮れたのよね。
全ての写真がぐにゃーっと歪んでいるのだ。誰だか判別出来ないくらいに。
あのカメラだけ不良品だったのかしら。流れ物だから仕方ないけれども。
なんとなく見てると気分が悪くなるので、人里のとある場所に置いてきた。
きっと拾った人にひとときのサプライズをプレゼントできるわね。

「そうわかったわ。いつか話してくれるのを楽しみにしているわね」

「はい。頑張ります!」

「じゃあ今日は家に帰りましょう。もうお昼の時間だし、メディスンが遊びにくるかもしれないわよ」

何を頑張るかを聞くのは野暮というもの。空気の読める女、風見幽香は動じないのだ。
しかし何を頑張るのかしらね。歌のレッスンやらダンス・・・?
歌って踊れる妖怪を目指すのも悪くはないわ。
夜雀やら幽霊楽団とともに幻想郷デビュー。そして仲間との別れ、ソロ活動への道。
華々しく活躍する娘をみつめ、私は嬉し涙を流すのだ。


「家に着きましたよ母様。私は冷やしておいた野菜をもってきますね」

それなりに板についてきた飛び方で小川の方に向かっていく。
劇場版「うたう!大幻想郷」を一時停止して、娘を視線で追う。
あの調子ならそのうち自由自在に空を飛びまわれるでしょうね。
それに比べ私は、飛び回ったりするのは億劫であるのは否めない。
そんなことだからどっかの本に、花の近くから動き回ることはないなどと書かれるのだ。


「はぁ・・・・・・どこかのお子様閻魔にも言われたけれど、少し長く生き過ぎたのかしらね」
幸せが逃げていくようなため息をつき、家のドアを開ける。

「やぁ。遅かったじゃないか。待ちくたびれたぜ」

ガチャン

すぐにドアを閉めて、青く広がる空を見上げる。
もう一度盛大にため息をついてしまう。逃げた幸せはあの子が一杯掴めばいいわ。



霧雨魔理沙
魔法を使う程度の能力



[21386] 5話目 タワーリング・いんふぇるの
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/06 18:31
文々。新聞 号外
『花の妖怪に隠し子発覚!? 博麗神社での謎の密会を激写!!』
 突然ではあるが1面に掲載した写真を見ていただきたい。
幻想郷でも指折りの実力者と評される花畑の妖怪風見幽香氏と、
容姿をそのまま小さくしたような女の子の2ショットである。
このスクープ写真は、たまたま博麗神社付近を飛んでいた本紙記者が撮影に成功した。
本人に突撃取材を試みたところ、

「取材費は貴方の命で構わないわよね?勿論先払いよ」
と恐ろしい台詞が返ってきたため、這々の体で逃げ出してしまった。
真実を追究する新聞記者として全くお恥ずかしい限りである。

この件については、さる筋の情報によると、
『長く生きた妖怪は、口から卵を吐いて自分の分身を作る』
『擬態が得意な妖怪を手下にしたのだ。本体はアメーバ形状のはずだ』
『魔法の森の人形遣いに作らせた精巧な人形だろう。能力により操作しているのだ』
ということである。
もし貴方が真実を追い求めるのであれば、本人に尋ねてみるのも良いかもしれない。
但し、何があっても本紙では責任をとることは一切ないので悪しからず。
(射命丸 文)



――――――――――――――――




可愛らしい花柄のカップを手に取り、その馨しい香りを堪能する。
やはりコーヒーはブラックに限る。上質を知る女は一味違うというわけよ。
職人による焙煎、挽き、その淹れかた。全ての英知がこの一杯に詰まっているのだ。
ペーパードリップだけどね。
とにかく砂糖やミルクを入れるなど邪道よ邪道。

「母様、お砂糖とミルク使いますか?」
「あらありがとう。気が利くわね」
ああ娘の心遣いが身に沁みるわ。
心に沁みるこの甘さ・・・これぞ至高の一時ね。

「魔理沙さんはどうされますか?」
「私はブラックでいい。砂糖とかミルクは邪道だぜ?」

ふふん、分かってない小娘だ。
少しずつ調節していくのが玄人というものなのに。
それにしてもなぜ我が物顔で、人の家に居座っているのだこいつは。

「寛いでる所悪いのだけど、貴方何しにきたの。というより勝手に家に入るのは泥棒よ」
「細かいこと気にしてるとシワが増えるぜ」
「いいから要件を話しなさい。殴るわよ?」

減らず口ばかり叩く生意気娘め!
美咲の教育に悪いから近づけたくなかったものを・・・

「いやいや。お前に娘がいたと小耳に挟んで、ついつい遊びにきてしまったのさ。
お前らがタラタラ飛んでる間に追い越してしまったので、失礼していたというわけだぜ」

なぁ、と笑顔を美咲の方に向ける。いつのまにか自己紹介まで済ませていたらしい。
巫女やら、人形使いやら、図書館女、河童など手広くちょっかいを出してる癖に
まだまだ足りないらしい。恐ろしい女だ。
 
この女、魔法使いとしては平凡だが、弾幕ごっこルールの中では
その速度を活かしつつ、大出力の魔法でかなりの勝率を納めている。
人間でも強力な妖怪に勝てるのがスペルカードルールとはいえ、小憎らしい。
更に憎たらしいのが私の魔法を平然とパクリやがったことだ。

「そう、じゃあ満足したわね。お帰りはあちらよ」
ドアの方に視線を向ける。さっさと帰ってもらいましょう。

「慌てるなよ。実はお前とゲームをしようと思ってさ」
ドンと机の上に大き目の袋を置く白黒。全く意味が分からない。

「なぜ貴方とゲームをしなければいけないのか、まるで理解できないわ。
さっさと帰りなさい」
 
「フフン、負けるのが怖いのか?」
「そんな安い挑発には乗らないわよ。顔を洗って出直してきなさい」
そんな挑発に乗るのは知力30以下の猪武将だけよ。

「おい聞いたか美咲。お前の母ちゃん負けるのが嫌で、逃げ出すらしいぞ。情けないなぁ」
「そ、それでいったい何で勝負するのかしら。仕方ないから付き合ってあげるわ」


「弾幕ごっこ・・・・・・と言いたい所だが、それは次の機会だ。
今日の勝負はこれだぜ!」
 
ジャジャーンという効果音と共に袋から、妙な円盤が何枚かついた塔の模型が現れた。


「こ、これは・・・!?」
隣で見ていた娘が驚きの声を上げる。

「知っているの?美咲」

「はい母様。古代イタリア、ピサの斜塔にて行われた処刑方法をモチーフにしたといわれる・・・・・・」

「そう知る人ぞ知る、ぐらぐらゲームだぜ。ちなみに対象年齢は6歳以上だ」
そう言いながらカラフルな人形を並べはじめる白黒。

「この色つきダイスを振って、出た色と同じ色の人形を同じ色の階層に交互に乗っけていく。
24体の人形が先になくなったほうが勝ちだぜ。
バランスを崩したらアウト。人形は落としたやつが引き取るんだ。簡単だろ?」
 
「・・・・・・先攻は私で良いのかしら?貴方、遊んだことあるでしょうから当然良いわよね」

「ああ勿論だぜ。ちなみに負けた方はひとつだけ言うことを聞くってのはどうだ?」

「構わないわよ。勝負を終えた後の貴方の顔が楽しみね」

・・・・・・掛かったなアホが!
この風見幽香に精神的動揺によるミスは決してないわ。
つまり単純に人形を置くなどという作業に、負けはありえない。
幻想郷の精密殺人機械と呼ばれた私からしたら超easyレベルね。
ちなみに命令は既に決まっているわ。おまけに悔しがるこの小娘の顔を見れるなんて一石二鳥。
既に見えた勝負の結果にほくそ笑んでいると、

「っと、美咲こっちに来いよ。お姉さんと一緒に遊ぼうぜ」

「わ、私が一緒で良いんですか?」
「見てるだけなんてつまらないからな。さぁ来い我が妹よ」
美咲を膝の上に乗せて、私と相対する霧雨魔理沙。
は、話が全然違うわ。この構図には決定的な過ちがあるじゃない!

「ちょっ、ちょっと待ちなさい! 私と一緒に遊びましょう。さぁこっちへいらっしゃい!」
両手を広げてアピール。血は水よりも濃いのだ。

「えっとその・・・・・・」

「おいおい嫉妬か? いいから早くダイスを振れよ。さぁさぁ」
強引にダイスを私の手に握らせる白黒。・・・後で覚えておきなさいよ。



―――少女遊戯中―――



流石に22ターン目まで来ると、かなり微妙で絶妙なバランスになってきたわ・・・・・・
いつ崩壊してもおかしくないように見える。
しかしながら私に敗北の二文字はありえないのだ。

「さぁ貴方の番よ。後2つ乗せたら私の勝ちが自動的に決まると言う訳ね
言い訳の準備は宜しいかしら?」
ニッコリと微笑んで睨んでやる。もちろん魔理沙だけをガン見だ。
視線で人を殺せるならば、こいつは100回ぐらい閻魔の顔を見ていることだろう。

「おおこわいこわい。さぁ美咲ドンと良い目を出してくれよ」
娘の頭を撫で撫でしやがる。さっきからやたらとスキンシップをしている気がしてならない。
このタラシめ、女なら種族も年齢も気にしないというの!

「はい魔理沙さん。頑張ります!」

ここは我慢よ・・・・・・安い挑発に乗ってはいけないわ。心頭滅却心頭滅却。

「ほいっと、さぁお前の番だ。そろそろ何かが起こりそうな予感がするぜ」
この白黒、崩壊しそうだというのにホイホイと人形を置きやがる。
しかしながら先攻はこの私だ。ミスしない限り私の勝ちは絶対に揺るがない。

「ふふ、動揺を誘おうとしても無駄よ。年季が違うのよ貴方とは」
ひよっこが心理戦を仕掛けるなど100年早いわ。


ダイスを振り、手先に神経を集中させ人形を塔に乗せる。
左手は添えるだけよ。
そーっと揺らさないように・・・・・・そーっとよ
さぁ後は指を離すだけ・・・・・・


「きゃっ! ま、魔理沙さんそこは駄目です!」
「ふふ、まぁ固いこと言うなよ。そらそら」

「あアアアアアアンタっ何してんのっ!!!!!!」
し、しまった!手に思わず力がっ!!


アッー





塔方花映塚
人生の勝利者 霧雨魔理沙&風見美咲
負け犬    風見幽香



[21386] 6話目 逆転のない裁判
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/06 18:33
・是非曲直庁?

トンネルを抜けると、そこは裁判所だった。

「・・・・・・それでは被告人、風見幽香に対する判決を申し渡します。
って人の話をちゃんと聞いていますか?」

偉そうに人を見下ろす子閻魔。何を言っているかさっぱり意味不明だわ。
大体ここはどこなのよ。白黒と勝負した後の記憶があやふやで何が何だか。
とにかく私の家でないことは確かみたいね。
さっさと帰るとしましょう。晩御飯の準備をしなくてはいけないわ。


「なんだか良く分からないけれど、ご高説は結構よ。早速で悪いけど私は家に帰らせてもらうわね。
 お説教はまた100年後ぐらいにお伺いするわ」

「貴方は今までの話を全く聞いていなかったのですか? 
死んだものが一体どこに帰るというのです。
長く生き過ぎてさらにおかしくなったのですか」
元からすこしおかしかったから、仕方のないことかもしれませんと呟き、
呆れた視線で私を更に見下ろすお子様。

「一生そこで妄言を吐いていなさい。それでは、御機嫌よう」
ふうっと溜息をついて飛び立とうとするが、脚がまるで鉛のようになったかのように微動だにしない。
一体どういうことだ。自分の体の一部ではないような感覚だ。
何らかの攻撃でも受けているのか。

「貴方の行き先はもう決まっているのだから、自由に飛べるわけがないでしょう。
既に白黒はついてしまっているのです。
己が死んだことも忘れているようですし、もう一度体験させてあげます」
特別の特別ですよと、ニッコリと人差し指を立てる子閻魔。実に憎たらしい。
閻魔が手に取り出した鏡から光が溢れ、私の体を包んでいく。

ああ、光が見える。


――――――――――――――――――




「さてさて、敗者はひとつだけ、勝者の言うことをきかなくちゃいけないはずだったよな。
 恥ずかしい話でも暴露してもらおっかな~、それとも王道の焼き土下座かな~」
ニヤニヤ微笑みながら、勝利宣言を行う白黒。
グゥの音もでない。あんなみえみえの罠に嵌ってしまうとは。

悔しさと恥ずかしさで机に突っ伏したまま、顔を上げることができない。
手には赤の人形を握り締めたままだ。
たかが人間の小娘ごときに不覚を取るとは、一生の不覚ッ!
思わず心の中で二度繰り返してしまう。


「なーんてな。要求は単純、シンプルこのうえない話だ。
この夏の間、美咲をウチで預からせてもらうぜ」

えーと、なになに? このなつのあいだ、みさきをうちであずかる。
預かる?

ガバッと起き上がる。何をほざいてやがるのだこの不良娘は。
冗談はその時代錯誤の魔女服だけにしなさい!
「そんな命令呑む訳がないでしょうッ! 良く考えて物を言いなさい!!」

思わず顔を真っ赤にして、家中に響くぐらいの大声を上げてしまう。
手が出なかっただけでも自分を褒めてあげたい。
娘の見ている前で暴力はいけないわ。くっ、鎮まれ私の右腕よ!

「おいおい、そういきり立つなよ。これは美咲のお願いでもあるんだぜ? なぁ美咲」
えっ・・・?と疼く右腕を押さえつつ、視線を我が娘の方に向ける。

「は、はいお願いします、母様。しばらくの間だけ許してください」
いいい、いくらなんでもそのお願いには応えてあげることは出来ないわ。
ぜええええっったいにNOよ。私はNOと言える妖怪なのよ。


「ダメに決まってるでしょう! ・・・・・・美咲、貴方少し疲れているのよ。
さぁ今すぐベッドで一緒に休みましょうね。子守唄を歌ってあげるわ」
美咲の手を握り寝室の方へ向かおうとする。
一休みすれば気持ちもリフレッシュするに違いないわ。
もう二度と未確認飛行物体なんか見ることの無いように、私がいつまでも隣にいてあげる。

「違うんです母様。私が魔理沙さんに、弾幕ごっこの特訓をしてくれるようお願いしたんです」
今まで見たことがないくらい真剣な目で私の目を見つめてくる。
こ、心のアルバムにいれなくてはいけないが、そんなことをしている場合ではない。

「だ、弾幕ごっこなら私が教えてあげてるじゃない。何を言っているの」

「お前こそ何を教えてきたんだ。あんなもの『弾幕』じゃないじゃないか」

「そんなもの張る必要ないわ。私が教えたスペルだけ使えればそれでいいのよ。
敵がきたら私が出て行ってコテンパンに叩きのめしてあげるわ」
腰に手を当てて言い切る。
流石に常に私が付きっ切りというわけにもいかないわけで。
万が一の場合に備えて、スペルカード 花妖「風見幽香」を使えるように教えたわ。
大きな弾を空高く打ち上げて、大きな一輪の花を咲かせる美しいスペル。
別名打ち上げ花火とも呼ぶらしいわね。
それを見た私がどこにいても、超高速で駆けつけるという寸法よ。

「・・・・・・餡蜜にハチミツをたっぷりかけて、さらに砂糖をぶちまけたぐらいにゲロ甘だぜ。
お前は物事を教えるのに全くもって向いていないな。
このままじゃ無菌超箱入り娘一直線だぜ」
 
「それで基礎からちゃんと弾幕ごっこを勉強しようと思って、
ルールを考案したと言われる博麗の巫女様に相談したんです。
そうしたら私は面倒だから、代わりに向いているやつを紹介してやると言われて」
 
「私が呼ばれたというわけさ。ちなみに報酬はきのこ養殖の手伝いと、新鮮な野菜だぜ。
それじゃさっそく行くとするか。善は急げってな」
娘の手を引いてドアから出て行こうとする魔理沙。

ままま、待って!私の言うことを聞いて頂戴!
今度からきちんと厳しく・・・・・・

「・・・・・・本当にごめんなさい。母様は優しすぎるから」


バタン





――――――――――――――――――


眼前に起きた光景が信じることができずにぼけーと立ち尽くす私。

「思い出しましたか? 貴方は親馬鹿すぎてついには死んでしまったのです。
最期は愛する娘に愛想を尽かされて、捨てられてしまうなんて可哀想に」
光が鏡に納まっていく。さっきまでのは幻だったのかしら。
そんなことより! 

「ちょ、ちょっと待ちなさい。人はそんなに簡単に死んだりしないでしょう?
あんな幻影なんかみせて私を騙そうとしたって、そうはいかないわよ。
早く私を元の場所に帰しなさい!」
 
「このまま生き続けてもろくな事にならない。あの時言った通りの結末になりましたね。
独りよがりな愛情はもはや罪です。貴方は業が深すぎる。
賽の河原で永遠に、色付き人形を斜塔に積む作業を繰り返すと良いでしょう」
 
ポチッとボタンを押す子閻魔。パカっと開く床。ヒューと落ちる私。
これはいわゆる落とし穴という装置ね。
今起きていることが夢であることを確信しつつ、私は更に深い闇の中に堕ちていくのだった。





親馬鹿花妖怪  第一部 完!


四季映姫・ヤマザナドゥ
白黒はっきりつける程度の能力





[21386] 7話目 TANPOPO
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/06 18:34
第一部 完! とかこの前言ったわよね。ごめんなさいあれはウソだったわ。
もうちょっとだけ続くのよ。
だからお願い。早くこの悪夢から、誰か覚まして頂戴。


・賽の河原?

ひとつ積んでは娘のため、ふたつ積んでは娘のため、みっつ積んでは・・・
目の前の河を虚ろな瞳で見つめて指を動かす。
また今日も意味もなく、人形を斜塔に乗せまくる作業が始まるわ。


「おーい、ブツブツ独り言呟いてないで
さっさとその人形を塔に積むんだ。さぁさぁ」
 

 
酒臭い息を吐き散らしつつ、私に命令してくる子鬼。
というかなんで、こいつがここにいるのよ。
意味がわからないわ。同じ鬼とはいえおかしいでしょう。
貴方はお山の鬼さんじゃない。

「いやなに、面白い妖怪がここにいるって紫に聞いてさ。短期アルバイトってやつさ」
ハッハッハッと豪快に笑いながら私の肩をバンバン叩く、泥酔2本角。
ってそんなに揺らすと塔が倒れるじゃない!

「親馬鹿が酷すぎて地獄行きって。ププっ前代未聞だよ本当。
聞いた瞬間、息もできないくらいに大笑いさせてもらっちゃったよ。
天狗も馬鹿笑いしながら、新聞を狂ったように配っていたよ!」
そんなことを聞いても全然嬉しくない。
恥ずかしくて、もう外を歩けないじゃない。
 
「アンタの娘は元気に暮らしているから、心配しないでドンドコ積んでおくれよ。
魔理沙や霊夢が妹みたいに可愛がっているからさ。わたしもこの前西瓜を食べさせてもらったよ」
萃香が西瓜を食べるって! 共食いかよ! と親父ギャグで腹を抱えている。
私は腸が煮えくりかえりそうだ。
 
 
「だからアンタはどんどん、どんどんその塔に積んどくれ。
何の意味もなく、その色つき人形を、ゆっくりあせらず、それでいて正確に素早くね!
ハハハ。やっぱり親が無くても子は育つってね! 人間も良いことを言うもんだよ」
瓢箪をラッパ呑みして、陽気にはしゃぐ馬鹿鬼。

「まぁ幽香もさ。子離れする良い機会だと思ってみなって。
もう2度と会うことはないだろうけどさ!! ワハハハハ!」
ハハハこやつめ!と私をさらに思いっきり叩く。もうこれでもかというほど。
こ、この鬼!悪魔!

 
「ちょっ、ちょっと揺らさないで頂戴! また最後の一体で崩れ落ちるわッ!!」

『・・・香! 幽香起きて!』

「うるさいわね! 今集中しているんだから放っておいて!」

『いつまで寝ぼけているの。 いい加減目を覚ましなさい!!」
・・・え?



――――――――――――――――――

・・・え?

「・・・え?じゃないよ幽香。3日間も魘されながら寝てるなんて、頭おかしいよ。
人形がとか、塔が崩れるだとか、鬼のような形相で呟いてて鳥肌が立ちそうだったわ」
あれが鳥肌が立つという感覚なのねと頷いている毒人形。
台詞にもさりげなく毒が混じっているわ。

ああ、ここは天国かしら。鈴蘭香る我が友人の声が聞こえるわ。
いっぱいいっぱい人形を積み上げたから、きっと天国に繋がったんだわ!
これから私は鈴蘭畑の真ん中で穏やかな眠りにつくのよ。
ごめんなさい、メランコッシュ。私、少し疲れたんだ。

再び瞼を閉じようとした瞬間、首根っこをつかまれて引き起こされる。

「起きたらまず顔を洗って歯を磨く。子供じゃないんだから」
ふらふらと立ち上がり洗面所に向かう。
私は自由? もう二度と積まなくていいのね? フリーダム万歳!

「あと置手紙があったよ。美咲からみたい。
しばらく魔理沙の家に泊めてもらうから、後はよろしくって」

えーっと。
みさき、とめる、まりさ、だんまく、とっくん、じごく、ねんじろ!
幽香はまいそうされました。気合で這い上がってきました。

うがあああああああああああああ!!
お、思い出したあああああっ!!
こんなことしている場合じゃないわ。今すぐ救出にむかわなければ!!
早くしなければ、むむむ娘がタラシの毒牙にっ!

「・・・・・・行き先は聞かなくてもわかるけれど、ごはんを食べてからね」

「え、ええ、そうね。貴方の言う通りだわ」
瘴気を発しながら、近づいてくるメディスンに思わずうなづいてしまった。
腹が減っては戦はできぬと言うものね。
あといつかあの閻魔泣かす。ついでに子鬼もよ。



伊吹 萃香
密と疎を操る程度の能力
密度を操る程度の能力

メディスン・メランコリー
毒を操る程度の能力
毒を使う程度の能力






[21386] 8話目 踊る毒人形
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/06 18:35
『到着っと。ここが霧雨魔理沙邸だぜ。遠慮せず入ってくれ』
『は、はい。でも母様大丈夫でしょうか。目を覚ましたら、びっくりするんじゃ・・・・・・』
『なぁに大丈夫さ。ちゃんと世話役を手配してあるんだぜ。
今頃は良い夢を見ているはずさ。これから3日間くらいな』




メディスンが用意してくれたご飯を食べ終えて、私は一息つく。
黄金の一時、コーヒーブレイクというやつよ。
背もたれに寄りかかり、コーヒーを飲みつつ、後片付けをしているメディスンを見詰める。
業火のように燃え滾る怒りを押さえつけ、冷静に物事を考えることにする。
すぐに娘のところに向かわなければならない。当たり前のことだ。
だがその前にひとつだけ、確認しなければならないことがある。


「ねぇメディ。貴方が起こしてくれた時、
ものすごい勢いで、私の顔を叩いていなかったかしら」

「そんなことするわけないじゃない。やだなぁ幽香。
ちゃんと優しく声を掛けて起こしたよ。心配したんだからね」
ニッコリと微笑みかけてくる。天使みたいな笑顔ね。
いえ堕天使だったかしら。

「あらそう。勘違いかしらね、私の額に赤い痕があるのは。
まさか貴方が叩いていた、なんてことはあるはずないわよね。ねぇメディ」

「寝転がったときについた跡だよ、きっと! うん間違いないよ」
そう言って、そそくさと食器を台所に持っていくメディスン。


私は音を立てないように後を追い、毒人形の背後にそっと立つ。
ついでに可愛らしい頭を、リボンの上から鷲掴みにしてあげる。
驚いた拍子に毒の瘴気が漏れてくるが、私には全く通用しない。

「ねぇメディスン。何ともないのに、3日間も寝続けるなんておかしいと思わないかしら。
私はおかしいと思うわ。とても奇妙に思うの。
あなたは変に感じない? 奇妙に思わない? ねぇ、聞いてる?」
ギリギリと少しずつ万力のように力をこめていく。

「い、痛いよ幽香! ほ、本当に私は何も知らないよ。本当だよ!」

「私は変じゃないかと聞いているのよ。質問に答えなさい」

「ゆ、幽香最近疲れてたから。全然不思議じゃないよ! だから手を離してっ
これ以上やるなら美咲に言いつけるからね!」
ジタバタと暴れる毒人形。毒がものすごい勢いで噴出される。往生際の悪い。
掴んだ手の力を更に強めて、顔をこちらに向けさせる。


「私が優しく笑っている間に全て話しなさい。今なら普通のお仕置きで済ませてあげるわ。
後5秒以内に吐かないと、貴方が花畑を滅茶苦茶にした時と同じお仕置きをする。
一晩中、延々と実行するわ。貴方が泣いても叫んでも喚いても、絶対に許さない」
満面の笑みを毒人形に向ける。

「あ、アレは嫌だよ! お、お願い許してっ」

「5」

「ほんのちょっとだけ魔がさしただけ。ね?」

「4」

「カ、カウントするのをやめて! 全部話すからっ!」

「3」

「こ、これを使ったんだよ! ごめんなさいいっ」
ポケットに慌てて手を入れ、震えながら私に小瓶を差し出す。
黒い丸薬が3粒入っている。・・・何かの毒薬かしら?

「・・・・・・誰に頼まれたの。霧雨魔理沙かしら?」

「う、うん。でも魔理沙はこっちの赤い方を数粒飲ませてくれって。
良い夢が見れるから、気分がスッキリして疲れが吹っ飛ぶって」
そう言うと、反対のポケットから赤い丸薬が一杯詰まった小瓶を取り出す。

「それで、疲れて気絶してる幽香に飲ませてあげようとしたの。そしたら紫がいきなり出てきて。
こっちの黒い薬の方が幽香は喜ぶって。だ、だから私は本当によかれと思って」
 
どうやら叩いたのはただの悪ふざけで、この薬を飲ませたのは、本当に私を心配してくれてのことらしい。
問題はこの薬の正体だ。魔理沙の『良い夢を見られる』という台詞から推測すると、
この赤い丸薬は『胡蝶夢丸』と呼ばれるものだろう。数粒で良い夢を見ながら眠りにつくことが出来る。

ではあの不愉快な隙間婆の渡した、この黒い丸薬はなんだろうか。
まぁ大体の予測はついている。だが念のために確認しておこう。
勿論実際に使って。

「良く話してくれたわね、メディ。本当に偉いわ。
・・・・・・ところで貴方、この黒い薬をどれくらい飲ませてくれたのかしら。
赤い方は瓶一杯に入っているのに、黒い方はもう3粒しかないのよ。
数粒で効果は出るのでしょう? 不思議ねぇ」
話しかけながら、小瓶を開け黒い丸薬を手にとる。

「沢山飲ませたら、もっと効果が出ると思って。
紫もそれは良い考えねって言ってたよ! だから、もうこれでもかというほど詰め込んだ!」
 
「そう。じゃあ貴方にも私と同じ幸せを味わってもらおうかしら」

黒い丸薬を強引に、毒人形の口に放り入れて飲み込ませる。

「うう、いきなり酷いよ幽香・・・ちゃんと謝ったのに」
涙目の毒人形メディスン。
ほんのちょっとだけ罪悪感に襲われるが、済んでしまったことは仕方ないわ。
未来志向で生きなければ駄目よ。

「もう許したわ。驚かせて本当にごめんなさいね。少し休憩しましょう。
ほら、なんだか眠くなってきたんじゃないかしら? さぁベッドに行きましょうね」
メディスンの手をとり、寝室に連れて行く。
お仕置きとしては温いけれど、今回はこれくらいで許してあげましょう。
私の可愛い妹分みたいなものですからね。悪戯ばかりするけれど。


――――――――――――――――――


激しく魘されているメディスンにタオルケットを掛け、私は出撃の準備を整える。

クローゼットの奥の方に隠してある、細長い箱の鍵を開け得物を手に取る。
これは優雅な装飾のついた日傘ではなく、相手を撲殺することを目的に作成した特注の日傘だ。
遥か昔、数多くの人妖に血の花を咲かせてきた逸品である。
当然娘に見せたことなどない。知らなくて良いこともある。


準備を終え勢い良くドアを開けると、紫リボンのついた巨大な隙間が私を出迎えた。
あちらもどうやら私とじっくりお話がしたいらしい。

「フフッ。丁度私も貴方に用があったの。
ゆっくりとお話したかったのよ? ゆっくりとね」
 
日傘をクルンと回転させ、隙間の中に飛び込む。
この落とし前は必ずつけさせてもらうわよ。





胡蝶夢丸
胡蝶になった自分を楽しむという意味で名付けられた赤い丸薬。
寝る前に数粒飲むと悪夢を見ることなく、楽しい夢を見ることができる。


胡蝶夢丸ナイトメアタイプ
スリリングな悪夢を見て魘されることが出来る黒い丸薬。

 







[21386] 柘榴の娘 見習い魔女誕生
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/06 18:36
文々。新聞 号外
『風見幽香氏、危篤状態!? 関係者に直撃取材を敢行!!』
 連日お伝えしている風見幽香氏に関連するニュースだが、急報が入った。
関係者の話によると霧雨魔理沙氏との一戦後、危篤状態に陥っているというのだ。

記者も事実を確認しようと、風見氏の自宅を訪ねたのだが
全く反応がなく、手がかりを掴むことはできなかった。
流石に自宅に侵入するのは躊躇われたので、
事情を良く知ると思われる人物を、急遽尋ねることにした。

風見氏と親しい毒人形のM氏によると
「・・・・・・幽香はね、ちょっとだけ眠っているの。
良い夢を見てると思うからそっとしておいてあげて」
と悲しそうに語ってくれた。
風見氏の大親友だと自称する、妖怪の賢者Y氏は
「今頃せっせとお人形を積んでいるころじゃないかしら。フフフ」
と意味深な台詞を残し、去っていった。

風見氏の娘と目される人物の行方も現在の所分かっておらず、事態は混迷としている。
我々としては、一刻も早い風見氏の回復を祈るばかりである。
(射命丸 文)



――――――――――――――――

・霧雨魔理沙邸


「よし、まずは服を取り替えるとするか。何事も形から入らないとな。
私のお古があるから、暫くそれを着ていてくれ」
 
ほれ、と私の方に黒い魔女服を放り投げる。
とんがり魔女帽もセットだ。凄い、はじめて見た。

「あ、ありがとうございます魔理沙さん。
ちょっと着替えてきますね」
 
奥の部屋に行き、ササッと着替える。
いつもの母様とお揃いの服は、丁寧にたたんで手提げカバンにしまっておく。
鏡を覗くと、背丈は小さいが絵本で読んだ通りの魔女が映っていた。


「おおー似合ってるじゃないか。これで立派な見習い魔女の出来上がりだぜ。
今度魔女同盟を結成して、お茶会をすることにしよう」
そう言うと、私の頭の上にポンと特徴的な帽子を乗せてくれた。

「うふふ、私似合ってますか? うふふふふふふふ!」
何故かは分からないが微笑が自然と浮かんでしまう。うふふ。
これが魔女娘効果なのだろうか。なんだかテンションが上がってきた。

「そ、その笑い方はあまり宜しくないんだぜ。頼むから、いつも通りにもどってくれ」
何故か引きつった顔を手で抑えて、机にもたれかかる魔理沙さん。
何か嫌なことでも思い出したのだろうか。
仕方ないので、テンションをダウンさせる。

「そんなことより。後で魔力を込めた箒かデッキブラシも作ってやるぜ。
まだ飛ぶのに慣れてないみたいだし、補助輪代わりになるしな」

「ほ、箒は分かりますが、デッキブラシで空を飛ぶんですか?」

「由緒正しい見習い魔女は、デッキブラシでも空を飛ぶんだぜ。
その場合、赤いリボンは必須アイテムだな」
そ、そうなんだ。流石は魔理沙さん、魔女の道に通じている。

「じゃあ早速、座学から始めようかといいたいところだが・・・・・
ひとつ、聞きたいことがある」
さっきまでとは違い、真剣な表情で私を見つめてくる。
なんだか緊張して、思わず背筋を伸ばしてしまう。

「な、なんでしょうか?」

「なんだってそんなに弾幕ごっこの特訓をしたいんだ。
あいつだって超親馬鹿とはいえ、少しずつ教えてくれるはずだ。
わざわざ人間の霊夢に頼むことなんかないんじゃないか?」
あの巫女様が教師役なんて、天地がひっくり返っても無理だぜと手を大袈裟に振る。
 
「・・・・・・弾幕ごっこなら勝てるかもしれないから」

「ん?なんだって」

「力の弱いものでも対等に闘える弾幕ごっこなら、
私でも、母様に勝てるかもしれないから!」
椅子から立ち上がり、力の限り叫ぶ。
そう。私は母様に勝って、認められたいのだ。

「成る程、母親を乗り越えたいか・・・・・・熱いねぇ。嫌いじゃないぜ。
そういう話は、私は大好きだ」
腕を組んでうんうんと頷いている。

「母様は強くて、優しくて、綺麗で、料理も上手なんです。
お花達のお世話も上手で、私に野菜の育て方も教えてくれたし、
服も自分で作れるし、とにかく凄いんです。
怒ったときはほんのちょっとだけ怖いけど、後で抱きしめてくれるし、
でも里の人達からは、最恐の妖怪と呼ばれるほど凄いんです!!」
 
「そ、そうか。良くわかったから、冷たいお茶でも飲んで少し落ち着こう。な!」
魔理沙さんの差し出してくれた冷たいお茶を、グイっと一気飲みする。
空になったグラスを机にダン!と叩きつける。

「それに弾幕は華麗で優雅だし、頭にくると日傘を振り回してぶん殴りに行くところや、
出会い頭に一発、マスタースパークをぶっ放すところなんか特に凄いです!」
天狗の記者さんを一撃で粉砕したのを目撃したときは、興奮して一日眠ることができなかった。
私もいつかあんな風になりたい!

「ふーむ。じゃあその凄い母様に教えてもらえばいいじゃないか。
今の意気込みを伝えれば、手取り足取り訓練してくれるはずだぜ」
つんつんと私のおでこを突付いてくる。痛いです。

「そ、それでは追い抜くことはできません。
近づくことは出来ても、母様に勝つことはできないんです。
だ、だから・・・・・・」 
 
「ま、まさか熱血系娘だったとは。熱くて溶けそうだぜ。
やっぱりちゃんと話してみないと、人は分からないもんだな」
やはりあの親にして、この子ありだなと呟く魔理沙さん。
 
「お願いです魔理沙さん、私に弾幕を教えてください!」
しっかりと90度に頭をさげた拍子に、とんがり帽子が転げ落ちる。

魔理沙さんは、帽子を拾うとパンパンと叩いて私の頭にヒョイっと乗せる。

「返事は前にしたはずだぜ。もう一度再確認しただけさ。
まぁ私も紅白巫女様を這い蹲らせるために、まだまだ修行中の身だけどな。
お互い目標達成のために頑張ろうぜ!」
手を差し出してくる白黒の魔女。
私もギュッと握り返す。
さぁ一日でも早く追いつけるように、これから一生懸命努力しよう。
そして、良く頑張ったわねと認めてもらうのだ。
私の大好きな母様に。


「じゃあ早速授業にするとしよう。そのうち自称都会派の魔女と、
図書館の引き篭り魔女を紹介するからな。個性的で愉快な奴らばかりだぜ」

風見美咲、見習い魔女頑張ります!



柘榴
ザクロとはザクロ科ザクロ属の落葉小高木、また、その果実のこと。
花言葉は優美、円熟した優美、優雅な美しさ

柘榴の神話
釈迦が、子供を食う鬼神「可梨帝母」に柘榴の実を与え、人肉を食べないように約束させた。
以後、可梨帝母は 鬼子母神として子育ての神になった。
柘榴が人肉の味に似ているという俗説は、この伝説より生まれた。

wiki先生より




[21386] 9話目 本当は怖い、まだ蕾。
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/06 18:37

隙間を通り抜け、見知らぬ大地にゆっくりと降り立つ。
見渡す限り荒野で、生きている物の気配はしない。
辺りを注意深く見回し、警戒態勢をとる。
・・・・・・さっきから何故かは分からないが、嫌な予感がしてならないのだ。
なんというか、既に取り返しのつかない事態が進行しているような。
蟲の知らせというやつであろうか。
いずれにせよ、嫌がらせに精を出す『怪異ムラサキババァ』をさっさと成敗して、
娘のもとに向かうとしよう。
誘いに乗って、隙間に突入したのは訳がある。
無視して、魔理沙の元に向かおうとした所で必ず邪魔が入るはずだ。
ならばこちらから乗り込んで、さっさとケリを付けたほうが早い。


重量のある日傘を肩にトントンと当て、いよいよ歩き出そうとした瞬間。
背後から、胡散臭い口調で声を掛けられる。
一切の気配を漏らさず登場するあたり、相変わらずの化け物だ。


「ハァイ、ゆうかりん。この3日間良い夢が見れたかしら。
ハラハラドキドキ出来たでしょう? 高かったのよアレ」


問答無用で振り向き様に鈍器を、相手の顔目掛けて、
思い切り薙ぐように叩きつけるが、潰した手応えがない。
紫の顔面付近に生じた隙間でガードされたようだ
強引に叩き潰してやろうと、ギリギリと日傘に妖力を籠める。

その隙に乗じて、背後に複数の隙間を展開するスキマ妖怪。
ぬめりと異質に開いた空間から、ウジャウジャと蠢く触手のようなものが現れる。
使役する妖怪の性格が現れているかのように、混沌として実に不愉快だ。

「いきなりご挨拶ね。そんなことでは良いお母さんになれないわよ。フフッ。
それより酷いわ幽香、あんな可愛い子を隠しておくなんて。
後でちゃんと紹介して頂戴ね?」
隙間に腰掛け、口元を扇子で隠して優雅に微笑んでくる。


それに答えることなく、私はバックステップで直ぐに距離を取る。
左手を地面に思い切り叩き付け、能力を発動させる。

「八つ裂きにして、綺麗に消化してあげるわ。さっさとおっ死ね」

大地を割り、轟音を上げながら召還される魔界の食虫植物。
蕾の先が歪に割れて、鋭利な牙が見え隠れする。
目のような物は虚ろに光り、ゆらゆらと不気味に揺れている。
こいつは雑食だから何でも食べる。妖怪だろうが人間だろうがお構いなしだ。
早速目の前にいる妖怪を、綺麗に片付けるように命令を下す。

「そんなものを呼び出したりしてはいけないわ、幽香。
私の愛する、穏やかで平和な幻想郷には似合わないもの」
 
そう言い放ち指をパチンと鳴らす。
瞬間、展開していた隙間から一斉に触手が伸びてくる。
幾重にも張り巡らせ、食虫植物を絡め取ろうとする。
こちらも、唸り声を上げ、引きちぎりながら前進しようとするが、
その度に隙間から触手が伸びてくる。埒があかない。


「何を考えて、あんな薬を飲ませてくれたのかしら。
おかげで、素晴らしいナイトメアを楽しむことができたわよ。
お礼をしてあげないといけないでしょう? ・・・その身体にたっぷりとね」
さらに植物を召還する準備を整える。次はあの婆の左右と背後だ。
四方から喰いついて一気に終わらせてやる。
どうせ殺すことは出来ないだろうが、胃液まみれのぐちゃぐちゃにしてやる。

「フフッ。怖い目ね。あの娘が見たら何て言うのかしら。
やっぱり柘榴の実がないとダメみたいね。幻想郷の鬼子母神さん」
優雅に扇子を煽ぐ紫。余裕綽々の表情を浮かべている。
・・・今すぐにその綺麗な顔をズタズタに引き裂いてやる!

「別に深い意味はないのよ。昔馴染みとの素敵なお喋りを楽しもうと思って。
あの薬は、ちょっとしたイタズラみたいなものよ。ごめんなさいね?」
まるで悪びれる様子もなく謝罪してくる。
こいつは昔からそうだった。意味ありげな行動や台詞を吐いて、煙に巻こうとする。
相手にしないのが一番の対策なのだが、今回はそういう訳にもいかない。

「これが最後よ。私の邪魔をしないでくれるかしら。
お願いじゃなくて命令よ」
 
「・・・・・・それでも角がとれて丸くなったかしら。
かつての貴方なら人の話など、聞く耳など持たなかったもの。
歳を経て落ち着いたのね。それは素晴らしいことよ」
 
「アンタはいつまで経っても人の話を聞かないわよね。
長く生き過ぎて、耳が遠くなったのかしら。お婆ちゃん?」
ついつい毒気を抜かれてしまう。紫の言う通り、私は丸くなったのだろうか。
昔ならば確かに、戦闘中に私から話しかけたりすることはなかった。


「本当なら、ここで一献傾けて昔話に花を咲かせたいところなんだけれど。
色々とお忙しいみたいだし、ひとつゲームをしましょう。
もし貴方が勝ったら邪魔はしないと約束するわ」
・・・・・・げ、げげゲーム? ま、まるで意味が分からない。
全然理解できないわ。だって殺し合いの最中なのよ。

「な、なんでそこでゲームが出てくるのよ。二度と私はやらないわよあんなもの!
それに今は殺り合ってる最中じゃないの!」
私には似合わないのよ、あんな安っぽい遊びは。
もっと高級で優雅なものじゃないと。
というかチャンスだわ。今呼び出せば確実にグチャグチャに・・・

「負けるのが怖いのゆうかりん? 私は悲しいわ。
それじゃあ仕方ないわね。臆病者のことなんかどうなろうが知らないわ。
ありのままに起きたことを、美咲ちゃんに伝えるとしましょう」
これでもかというほど面白可笑しくね!と嬉しそうに微笑むゴスロリババァ。

こ、この糞野郎ッ!
どうせあることないこと、娘に吹き込むに違いないのだ。
昔からそうだ。
私が人妖総合友好度最低ランキングNO.1(文々。新聞調べ)に輝いたのも、
半分以上はこいつのせいなのだ。後は天狗の捏造だ。
しかも2年連続って。

紫が何を言おうが娘は信じない。多分信じないと思う。
信じないんじゃないかな。ま、ちょっと覚悟はしておけ。
って、なんたら宣言を歌っている場合じゃないわ。
これは挑発に乗るんじゃない。敢えて乗って上げるのよ。
私は常に冷静よ。

「わ、分かったわよ。やってあげようじゃない。
それで何で勝負するのかしら。変なのは嫌よ」
 
「実はね、相手をするのは私じゃないの。
貴方とどうしても遊びたいって子がいるのよ。
その子と仲良く遊んであげて頂戴。私は審判役を務めてあげるわ」
扇子をパタンと閉じてスッと合図する紫。

「・・・古代中国において、あまりの過酷さ故に
時の皇帝が禁止したとも伝えられる、伝説の遊戯」

上空に巨大な隙間が現れ、一人の伝説の妖怪が颯爽と荒野に降り立つ。
荒野にというか、私の可愛い食虫植物の上にドスンと落ちてきた。
あれでは再起不能だ。なんということをするの。
角の生えた伝説の妖怪は腰に手を当て、不敵な笑みを私に向ける。


「その名も、超リアル鬼ごっこさ!」
 
なにそれ、こわい。

 


人妖総合友好度最低ランキング
人間、妖怪にアンケートをとり、
幻想郷で最も恐れられる人物を選出する。


八雲紫
境界を操る程度の能力


マダツボミ
こうおん たしつの とちを このむ。
ツルを のばして えものを とらえる ときの うごきは とても すばやい。




[21386] 10話目 渡る世間は鬼だらけ
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/06 18:39
「やぁやぁ幽香。賽の河原以来だね。中々面白い物を見せてもらったよ」
食虫植物の成れの果てからヒョイと飛び降り、プププと笑う子鬼。


「あれはこのスキマが無理やり見せた夢のはずよ。なぜ貴方がそれを知っているのかしら」

「なぁにちょっとだけあんたの地獄とやらにお邪魔しただけさ。
それに、どこまでが夢かなんてどうでもいいじゃないか。
人生なんて胡蝶の夢みたいなもんさ。なんてね」
我ながら上手いことを言うなぁとガブガブと酒を呑む。

「それに今起きていることも夢かもしれない。
本当のあんたはまだ寝ているのかも。それとも無間地獄に落ちたのか。
はてさて、どうだろうね」
 
「馬鹿も休み休み言いなさい。鬼の寝言など聞きたくないわ。
それより早く勝負の内容を教えなさい。
夏らしく、西瓜割りなんかどうかしら。もちろん西瓜役は貴方よ」
 
「くふふ。まぁまぁそう慌てなさんな、鬼が笑うよ」

「鬼は貴方でしょうに。超リアル鬼ごっこですって?
ここで仲良く追いかけっこでもするつもりかしら。馬鹿馬鹿しい」
本当に馬鹿馬鹿しい。そういうのは妖精達とやっていればいいのよ。
脳内お花畑でキャッキャッと飛び回っていなさい。

「んー簡単に言うとそうだね。ただし鬼はあんただよ。
逃げる私をガッチリと捕まえればあんたの勝ち。触れただけじゃ駄目だ。
そんで力尽きて、あんたが諦めれば私の勝ちさ。ただし反撃はするよ」
 
「・・・・・・なんで貴方が鬼じゃないのかしら。全然リアルじゃないじゃないの」

「いやいや、これからあんた鬼になるよ。間違いない。
私は嘘をつかないんだ」


そう言うと萃香は紫に視線を送る。
それに答えるようにパチンと指を鳴らし、鏡くらいの大きさの隙間を展開する。
しばらくの間、水面のように波打っていたが、段々と落ち着き始め映像を写し始める。

そこに映っていたのは。楽しそうに魔理沙達とお茶を飲んでいる美咲。

「そうあんたの愛する娘だよ。
賭けるものはそれだ。人攫いは鬼の本分。それが妖怪だろうが関係ない。
泣き叫び、悲嘆にくれるあんたを肴にして飲む酒は、さぞかし美味だろうねぇ」

「あの娘に手を出したら、本気で殺すわ」


「いいねぇ、ゾクゾクしてきたよ。あんたときたら私が喧嘩を申し込んでも、
まるで相手にしてくれないからね。一芝居打ってみたってわけさ。
鬼は嘘をつかない。お前が諦めたら必ず攫う」
 
「フフフ、素敵ねぇ。娘を助けるために鬼と鬼が勝負するなんて。
萃香じゃないけど、私も年甲斐もなくドキドキしてきちゃったわ」
扇子で煽ぎながら、高みの見物を決め込む隙間妖怪を横目でジロリと睨む。
 
「攫ったらどうしようかね。じっくりと甚振りながら、喰ってやろうか。
まだまだ幼くて、実に柔らかそうだ。さぞかし美味いだろうね・・・・・・っと!」
 
言い切らせる前に距離を詰め、日傘を上段から振り下ろす。
鬼は左腕でそれを弾き返すと、右でカウンターの拳を入れてくる。
轟っと唸りをあげる鉄拳。まともに食らったら致命傷を負いかねない威力だろう。
私はすんでのところで回避し、渾身の力を込めた突きを放つ!


「・・・ッ!流石にやるねぇ」
腹部に直撃させ、吹っ飛ばすことに成功したが、
まるで堪えた様子が見えない。流石は鬼といったところか。


「最初はさ、本当に軽く追いかけっこでもするつもりだったんだよ。
でも気が変わった。弾幕ごっこもあれはあれで面白いが」
そう言って一息付くと、両拳をバンっと叩き付ける鬼。

「単純な殴り合いも私は好きだね。実に分かりやすい!
特にあんたみたいに、本気で殺しに来る相手が一番楽しいよ!!」
 
「そんなに単純だから、毎回人間にしてやられるのよ。
大江山の出来事をもう忘れたのかしら?
恥を知ったら、他の鬼みたいに地底に引き篭もっていなさい」
悟られないように会話を交わしつつ、少しだけ右後方に移動する。
そう少しだけ。

「私はあいつらみたいに、ウジウジしているのが大嫌いなんだ。
さぁ、もうお喋りはお仕舞いだ。楽しい喧嘩を再開しようじゃないか!」
私目掛けて、ブンブンと拳を回し直線に突進してくる馬鹿鬼。
既に、最初に自分で言ったルールを忘れているらしい。


ふふふ・・・・・・計算通りよ!

「掛かったわね。必ず直線上に突っ込んでくると思っていたわよ。
馬鹿がつくほど分かりやすいからね。貴方たち鬼というのは」
日傘をドン!と地面に突き刺し、一斉に下僕を呼び出す。

現れたのは紫戦において、地中に展開しておいた食虫植物3体だ。
こんなこともあろうかと、密かに移動させておいたのだ。
後は私が位置を微調整すれば下準備は完璧。
幻想郷の今孔明を名乗れるかも知れないわね。



・・・・・・というわけで哀れな子鬼は、食虫植物の蔓によってグルグル巻きにされている。
3体による拘束なので、それはもうすごいことに。

「うぐっっ! なんだこれ千切れないぞ!
たかが植物の蔓如き、真なる鬼の力をもってすればっ」

我が左手に封じられし鬼よ、今こそその力を示せ!
と意味不明な叫び声を上げるが、実に無駄無駄無駄無駄。
 
「無駄よ。力だけでは簡単には引き千切れないわよ。
頭を使わないとね。頭を」
スタスタとグルグル状態の子鬼の方へ近づく。

「馬鹿を言いなさんな。私が本気をだせばこんなもの・・・こんなものッ!
って、おかしいな。なんだか力が入らないぞ。
それになんだい、このヘンテコリンな粉みたいなのは」
顔が濡れてしまって力がでないよ的な、情けない表情を浮かべる子鬼。
残念ながら、新しい顔は届かないのよ。残念ね。
 
「勿論、さっきから強力な痺れ粉を撒いているのよ。貴方は特別にいつもの3倍よ。
心配しなくても大丈夫。命には関わらないわ。
・・・・・・さぁ『鬼さん捕まえた』わよ。これでゲームはお仕舞いね」
 
「そ、そんな汚いぞ! こんな不完全燃焼じゃ全然納得行かないよ。
まだ始まって10分も経っていないじゃないか!
おい紫、もう一度仕切りなおすから助けておくれよって、いねぇええええええ!」

出口らしき隙間を開いたまま、怪異ムラサキババァは姿を消していた。
相変わらず勘の良い女だ。

「・・・・・・ところで、貴方さっき、面白いことをほざいてくれてたわよね。
なんだったかしら。良く思い出せないのだけれど」
ポンポンと子鬼の頭を軽く叩いた後、ゆっくりと撫でてあげる。思い切り力を込めて。
 
「ハハハ。冗談に決まってるじゃないか。
ちょ、ちょっと盛り上がるように、演じてみせただけだよ。
嘘じゃなくて、お芝居ってやつさ!」
引っ掛かったねハハハ、と引き攣った笑みを漏らす子鬼。
 
「あらあらそうなの。迫真の演技で思わず信じてしまったわ。
幻想郷一の役者ねぇ。恐ろしい子ねぇ」
両手で萃香の顔を優しく、包むように撫で回してあげる。ふふふ。
 
「そ、そうだろう? だから早く開放しておくれよ。
急いでいるんだろうし、こんなことしてる場合じゃないはずだよ」

「・・・・・・あの悪夢から目覚めたときね。貴方を必ず泣かすと誓ったのよ。
賽の河原では随分と好き勝手やってくれて、どうも有難う。
私はね、言った事は必ず守るようにしているの。
だから、ゆっくり苛めてあげるわね」
そう宣告し、両手で子鬼の柔らかそうな頬を思いっきり引っ張る。
ぐいーっと、それはもうものすごい勢いで。


「い、痛てててててててっ!! 何するんだ! この鬼ッ!」
少しだけ涙をこぼしてしまう可哀想な子鬼。
本当に可哀想で心が痛んでしまうわ。フフフッ。
ダメよ幽香。笑ったりしてはいけないわ。
これは躾なのだから。

「まだまだ元気が有り余ってそうね。この次はウメボシに、
デコピン100発のフルコースよ。楽しみにしていなさい」
そう。悪い子にはきちんと、骨身に染み入るまで、
トラウマになるくらいのお仕置きをしなければいけないわ。


「わ、私のそばに近寄るなあぁーーーーーーーッ」

「だがお断りよ。ごめんなさいね?」





邪拳「ウメボシ」
両手の拳を相手のこめかみにあて、グリグリと動かすことにより
恐ろしいほどの激痛を与える、禁じられた技。
一説によると死人が出たとも伝えられる。

恐ろしい子
ガラスの仮面より月影先生
 



[21386] 11話目 『氷』の微笑
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/06 18:40
・やみのなかにいる


「ククク。『鬼』の伊吹萃香がやられたようね!」

「アレは我ら四天王の中でも最弱」

「でも萃香をいれたら5人だよね」

「ルーミア、それは言っちゃダメだよ。
 後、意味もなく闇を展開しないで。本当暗いから。
 それとチルノにミスティア。
 そのワイングラスとマントは一体何?」
 
「何って。魔理沙が最強たるものは常にいげんを持てって。
いげんって何か良く分かんないけど」
グラスを指でチンと鳴らし、一気に飲んで空にする。
この葡萄ジュース美味しい!もう一杯飲んじゃおう。


「まぁいいんだけど。それより本当にやるの?
幽香は本当に強くて怖いよ。昔酷い目にあったんだから」
ブルブル震えるリグル。情けないなぁ。それじゃあ四天王失格よ!

「そのために一杯練習したじゃない。『アレ』が決まれば
絶対に勝てるよ!」
歌うように宣言するミスティア。さすが怖いもの知らずね!

「そ、そうだよね。私達4人が力を合わせれば敵はないよね!
ゴメンみんな。なんだか嫌な予感がしたけれど、気のせいだったよ」
元気を取り戻すリグル。やはりあたいが選んだ最強メンバーなだけはある。
もっと元気がでるように、特製マントを着けてあげた。
背中には髑髏マークに蓮の花。すっごい歌舞いてる!


陽が落ち始めてきた空を、思わず見あげる。
7つ星の脇に、赤くピカピカ輝く綺麗な星が見えた。
あれがいわゆる勝ち星ってやつね! 天もこの戦いを祝福しているわ。

「みんな空を見てよ! お星様もあたい達を祝福しているよ!
もはや勝ったも同然ね!」
おおーと皆が目を輝かせるが、ルーミアだけがなぜか青ざめていた。
お腹でも痛いのだろうか。


そんなことをしていたら、天狗のうるさい射命丸がバタバタとやってきた。

「みなさーん準備はいいですか? 幽香さんがこっちに向かって来ていますよ。
機嫌は見る限り最悪ですから、死なない程度に頑張ってくださいね!」
親指をビッと上げ、高度を取って撮影準備に入る射命丸。
この勝利が幻想郷中に伝われば、あたいの最強の座がかっこたるものになると言うわけよ!


4人で視線を交わし合い頷くと、グラスをポイッと地面に叩きつける。
クルッとマントを翻し、夕闇を切り裂いて飛んでいく。

今日からあたい達の最強伝説がはじまるわ!



――――――――――――――――――



「こんばんは元気な子供達。私は急いでいるのだけど、何か御用かしら?」
一見優しそうな顔で微笑む幽香。ふふん、笑っていられるのも今だけよ!

「今日でアンタの最強伝説は終わり! 
これからはあたい達みたいな、ナウでヤングの時代が始まるのよ。
アンタみたいなバァさんは用済みよ!」
腰に手を当て、指をビシッとむける。
幽香の額にビシッと青筋が浮かぶ。

「フ、フフフ。良い覚悟ねチルノ。
リグル、まさか貴方まで私と闘うとか言い出さないでしょうね」

「お、脅かしても怖くないぞ! 今日は皆がいるからね。
あのときの屈辱、今こそ晴らす!」
リグルもマントを翻し、ビシッとポーズを取る。

「あらそう。じゃあ手加減してあげるから、とっととかかってきなさい。
怪我しても知らないわよ?」
くいっくいっと手招きする幽香。ふん、余裕ぶれるのも今のうちよ。
 
「あの風見幽香を打ち倒した、
伝説の八目鰻屋台としてこれからは客引きするわ。
さぁさぁ鳥目にしてあげる!」
スペルカードを取り出し、鳳凰の構えをとるミスティア。

「ルーミアも何かビシッと言ってやんなさい! ・・・・・・っていない!?」

「最初からいなかったわよ。貴方、寝ぼけているの?」

「う、うう・・・あ、あたいの完璧な作戦が。
で、でも大丈夫! 3人でも勝てるわ!
リグル、ミスティ! 幽香にアレを仕掛けるよ!」
 
「「了解!!」」

3人で乱雑に素早く飛び回り、通常弾をばら撒いて幽香を翻弄する。
動きが鈍いってあの本にも書いてあったし。そこが狙い目!

ミスティアが夜雀『真夜中のコーラスマスター』を発動させ、視界を遮る。
さらにリグルが蠢符『ナイトバグストーム』で退路を塞ぐ。

そして、最後にあたいが大技をぶっ放す!

「喰らえ! 半径20m、パーフェクトフリーズ!!」
これは絶対に避けられない。作戦通りよ!
氷の礫を目標に、これでもかと連続で叩き込む!

リグルとミスティアも一拍遅れて妖弾を連発する。

もの凄い破裂音と共に、煙と氷の欠片がキラキラと舞う。
この最強合体攻撃に耐えられる妖怪なんているもんか!


「や、やったの!?」
リグルが叫ぶ。ミスティアもスペルを解除して、固唾を飲んで見守る。

「あったりまえじゃん。楽勝よ! あたい達の勝利ね!!」
勝利を確信して、仲間達にVサインを送る。
友情パワーを結集すれば怖いものなんかないのよ!




――――――――――――――――――




「なかなかやる・・・・・・と言いたい所だけど。
少しばかり、踏み込みが足りなかったようね」

爆煙が晴れると、ピンピンしている幽香がいた。
いつも持ってる日傘を開いて防御したらしい。
なんであれを傘だけで防げるのよ!

「な、なななんで効いてないのよ。傘でガードするなんて、そんなのズルい!」

「ズルい? 3対1で襲い掛かってくる方が卑怯じゃないかしら」

「う、ううう。で、でもあたいはどうしても最強に!」

「手段を選ばずに勝ち取った称号に、どれだけの意味があるのやら。
それよりも、まだやるの? 今度はこちらから攻撃させてもらうわよ」
傘を畳んで、鈍色に光る凶器をこちらに向けてくる。
こ、怖いけど絶対に負けたくない!
震える手を押さえて、スペルカードを取り出す。

覚悟を決めて、勝負を再開しようとしたら
空気の読めない紅白が降りてきた。


「はいはいはいはい。そこまでよ悪戯妖怪ども。
こんなものは、弾幕ごっことして認められないわ。
どうしてもやりたいなら1対1で仕切り直しなさい」
 
「私はどちらでも構わないわ。
・・・・・・それで、先に進んでも良いのかしら。
貴方とも闘うのは面倒なんだけど」
 
「いいからさっさと行きなさい。
丁度良い感じに夜も更けてきたしね。
私は先に神社に帰ってるから」
 
「そう。何を企んでるかは、この際聞かないことにするわ。
リグルにミスティア。貴方たちには、じっくりと聞きたいことがあるの。
後で必ず遊びに行くわね」
リグルとミスティアに般若のような笑みを向ける鬼。

「それとチルノ」

「な、なによ。あ、あたいは別に続けても構わないんだから!」
ファイティングポーズを取って、威嚇してやる。
あたいはまだ負けてない!

「そういうの、私は嫌いじゃないわ。
今度は娘と遊んであげて頂戴。きっと喜ぶわ」
 
あたいの頭をそっと撫でて、先に進んでいく幽香。

く、悔しいけど、いつか必ず勝ってやるから!
マントで涙を拭い、震えているリグルとミスティア、笑顔のルーミアの元に向かう。

さぁ元気をだして博麗神社に向かおう。
悲しい顔のままじゃ皆に笑われちゃう。


私達の伝説はこれからだもの!





幻想郷四天王(命名チルノ)

『氷』のチルノ
冷気を操る程度の能力


『歌』のミスティア・ローレライ
歌で人を狂わす程度の能力


『蟲』のリグル・ナイトバグ
蟲を操る程度の能力


『闇』のルーミア
闇を操る程度の能力


『鬼』の伊吹萃香
密と疎を操る程度の能力
密度を操る程度の能力



[21386] 柘榴の娘 白黒と七色と見習い娘
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/06 18:41
・アリス・マーガトロイド邸


「どうだ美咲。なかなかイケるだろうこの紅茶。
味にうるさい奴も黙ると評判なんだぜ」

コーヒーやお茶も良いが、紅茶もいける。
美味けりゃ何でもOKが私のポリシーだ。
ソファーに腰掛け、優雅に香りを楽しむ。
お茶請けのクッキーも中々美味い。
恐らく手作りだろう。この完璧超人め。


「なぜ貴方が威張っているのか、意味がわからないのだけど。
特に用が無いなら、それを飲んでさっさと帰って頂戴」
まるで興味なさそうに、本に目を落とすアリス・マーガトロイド。
人形と魔法だけが友達の凄い奴だ。
私もちょっとぐらいは友達のつもりだけれども。

「相変わらず愛想がないなぁ。自称都会派魔法使いさんは」

「でも本当に美味しいです。ア、アリス・マーガトロイドさん」
舌を噛みそうになりながら、アリスを褒める美咲。
・・・・・・パチュリー・ノーレッジも噛みそうな名前だな。

「・・・・・・アリスでいいわよ。褒めてもらって、悪い気はしないわ。
さぁクッキーも遠慮せずに食べなさい」
空になったカップに、人形を操作して注ぎ足す。
本当に器用なもんだ。まさに職人芸だ。
・・・・・・自爆させたりもするけど。

「子供には甘いんだな。新しい一面を発見した気分だぜ」

「貴方も十分に子供だから心配いらないわ。
はい、キャンディーをあげましょう」

「いらん! 私は子供じゃないからな。ほれ美咲、有難く受け取れ」
私の分と合わせて美咲にポイっと渡す。

「あ、ありがとうございます。魔理沙さん」
包みを開けて、口に頬張る。可愛いやつめ。
ツンツンとほっぺをつついてやる。

「相変わらず堅苦しいなぁ。同じ釜の飯を食べて、
一緒に風呂に入って、同衾した仲なのに。
そこは親に似ず生真面目なのかな」
 
「・・・・・・貴方、やっぱりそういう趣味があったのね。
しかもこんな年下相手に。まさに外道ね。
これ以上罪を重ねる前に、私が楽にしてあげるわ」

ジロリと氷のような視線を向けてくる、七色馬鹿。
包丁を持った人形が、ゆらりゆらりと近づいてくる。
呪いの市松人形みたいに、髪がヤバイことになってる。
夜見たら悲鳴を上げること間違いなしだ。

「何を盛大に勘違いしているかは知らんが、程々にしておけ。
子供が見ているぞ」
 
「冗談よ」

人形が再びポットに持ち返る。
未だ凶器を隠し持っているところが恐ろしい。
しかも髪が戻っていない。

「お前の冗談は笑えないんだ」

「それは御免なさいね」

「・・・・・・お二人は本当に仲が良いんですね。見ていて全然飽きません!
これが腐れ縁ってやつなんですね。母様が言っていました」
 
「貴方、大人しそうな顔して結構言うわね。
母親似かしら」

「ああ、こいつはこう見えて熱血娘だぞ。
魔女になる素質はばっちりだ。妖怪だけど」
 
「それでお古の魔女服を着せてあげたのね。
ウフフ、可愛いところあるじゃない」
 
「う、うるさいな。その笑い方はやめろ」
誰にでも触れられたくない過去はある。所謂黒歴史だ。


「まぁいいわ。それで結局何の用なの。
愛弟子を連れての挨拶周りかしら?」
 
「まぁそれもあるんだけどな。
お前の人形捌きは見ているだけでも楽しいからな。
美咲にゆっくり見せてやりたかったのさ」

ふと横を見ると上海人形を抱いて、ソファーでうたた寝をしている魔女っ娘。
今日は朝から座学に、弾幕実習、きのこ栽培とハードだったしな。
子供にはちょっときつかったか。

気が付くと、アリスが真剣な目をしてこちらを見詰めていた。

「・・・・・・ひとつ質問して良いかしら。
なぜこの子を弟子にとったの。
貴方、自分の修行で一杯一杯だったじゃない。
それとも今後の成長に見切りをつけたの?」

「いや、私は常に目標に向かって邁進している。
今も昔もこれからも変わることはない。
・・・・・・ただ」
 
「ただ?」

「なぁにそんな複雑な話じゃない。
ちょっと前、私が幽香と弾幕ごっこで勝負してる時、
こいつと目が合っただけさ。そんときは誰かは分からなかったし
すぐに幽香の奴に吹っ飛ばされたからな」

あいつ、いきなり取り乱したかと思ったらマスパ連続でぶっ放しやがって。
相当娘を見られたくなかったらしい。
どこまで箱入りにするつもりだったのやら。

「目が合っただけで、貴方は弟子にとるの?」

「違う。 闘ってる私達を羨ましそうな顔で、
食入るように見てたから印象に残っただけだ」
その時は、本当にただそれだけだった。

霊夢に呼び出されて、直接話を聞いて。一生懸命頼み込む姿を見て。
魔法に焦がれて家を飛び出した、私とどこか似ていると感じてしまった。
まぁ立場は全然違うけれど。
同情が無かったとも言わないし、余計なお世話だとも自覚している。

「そう。まぁいいわ。やるからにはちゃんと教えてあげなさいよ。
途中で投げ出す程、性質の悪い物はないわ」
 
「へいへい。分かりましたよ、アリス先生」
優しいんだか冷たいんだか、相変わらず良くわからん奴だ。
無関心を装う癖に、意外に首を突っ込んでくる。


「返事は一回よ、魔理沙先生。
さぁそろそろ良い時間だし、晩御飯にしましょう。
今日は二人とも食べていくと良いわ。
新鮮な野菜も貰ったことだし、腕によりをかけて作るわ」
手をパンと叩き、人形を引き連れて台所に向かうアリス。
私も美咲を起こすとしよう。
中途半端に寝てしまうと、夜寝付けなくなるからな。




――――――――――――――――――


今日はいつにも増して、豪勢で本当に美味しかったな。
アリスの奴、良い主婦になるなきっと。

「さぁ美咲。そろそろ帰るとするか。
ちゃんとアリスにお礼するんだぞ。教えた通りにな」

「は、はい。魔理沙さん」

「そんなに改まらなくても良いのよ。
遠慮せず、子供らしく振舞いなさい」
苦笑しながら美咲の頭を撫でているアリス。

ククク、お前実は子供好きだろう。
人里で人形劇をやったりしているしな。
こいつは間違いなく、子供の世話を焼くのが好きなタイプだ。


「今日は有難うございました!アリスお姉さま!!」

ピシッと笑顔のままアリスが固まる。

「・・・・・・魔理沙に言われたのね?
大人をからかってはいけないわよ
あと、コイツの言うことは疑ってかかりなさい」

「とか言いながら顔がニヤついてるじゃないか。
アリスお姉さまとやら」
ケケケと意地悪く笑ってやる。
いつもの仕返しだぜ。

「うるさいわね。私は貴方みたいに捻くれていないのよ。
それよりも、ちょっとだけ抱かせてもらっても良いかしら」
ヒョイと、美咲を抱えあげようとするアリスを全力で止める。

「ア、アリスお姉さま?」

「お前は何を考えているんだ。
 少し冷静になれ」
 
「そ、そうね。私は都会派ですものね」

「それは全然関係ないぞ。
まぁいい。私達は帰るからなアリス。
また遊んでやってくれ」
 
「ええ、気が向いたらね。
2人とも気をつけて帰りなさい。もう外は暗いから」


 

アリス邸を出て、美咲を箒に乗せて飛び上がる。
私が抱きかかえる態勢だ。
ふふ、本当に妹が出来たみたいだ。
いつか私も姉さんと呼んでもらおうかな。

おっと、下らないことを考えてる場合じゃない。
星空を全速力でかっ飛ばして帰るとしよう。
寝る子は育つってね!




アリス・マーガトロイド
人形を扱う程度の能力



[21386] 柘榴の娘 紅白黒と鬼と見習い娘
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/06 18:43
・博麗神社




「いやー今日も暑いなぁ。っていうかマジ暑い。
霊夢、冷たいお茶をくれ。私は麦茶でいい」
胸元をパタパタやりながら手で汗を拭う。
本当に暑い。今弾幕ごっこなんかやったら死ぬ。

美咲も暑そうだ。流石に黒い魔女服はこの灼熱ではキツい。
今度夏服verも作ってやらなければ。
アリスにお願いして。
持つべきものは友人だ。
 
「寝言は寝てから言いなさい。
たまにはお賽銭でも入れてみたらどうなの。
もしくはお土産を持ってきたりね。主に食べ物とか」
縁側に突っ伏してる紅白巫女。
腋が出ているくせに、暑さには弱いらしい。
 
「それはこの前、美咲が渡していたじゃないか。
まだ残っているんだろう?」
 
「半分は塩漬けにしたわ。保存食よ。
備えあれば憂いなしってやつね」
なんという悲しい性だ、思わず涙が出る。
それでも賽銭は入れないが。ご利益無さそうだし。
逆に金運が落ちそうだ。

「よ、良ければ一緒に畑を耕しませんか?
美味しい物が食べ放題ですよ。
色々と手間はかかりますけど」
晴耕雨読、良い言葉だ。
ウチにいる間も早朝コッソリ帰って、畑の世話をしているらしい。
なんという頑張りやさん。

 
「嫌よ。面倒くさそうだし。
持ってきてくれるのは、いつでも大歓迎よ」
・・・・・・本当に駄目だこいつは。

こんな体たらくながら、異変となるとガラリと変わる。
訳の分からない鋭い勘と、鬼のような戦闘能力。
スペルカードルールの考案者にして、妖怪退治の専門家。
まさに楽園を守る素敵な巫女って奴だ。
そして、私の打ち倒すべき目標だ。

ちょっと褒めすぎたな。やっぱり腋巫女で十分だ。

「なんだいなんだい、若い連中が昼間っから情けないねぇ。
もっと元気に、清清しく生きてみたらどうだい」
いつもと変わらず、酒に溺れている鬼。
本人が言うには、酒は飲んでも呑まれたことはないらしい。

「真っ昼間から、酒を飲んでる奴に言われたくないぜ。
・・・・・・ああ、それにしても暑い」
 
「ふふん。この萃香様が良いものを持ってきてあげたのに、
 そんな態度で良いのかな」
 
「良いもの? なんだそりゃ」

「ジャジャーン。夏の定番、果物の王様だよ!」
緑の球体を両手で、自慢げに掲げる萃香。
なんとかの伝説みたいなポーズだ。
実にお子様っぽい。

「それはアンタのじゃなくて、私の西瓜でしょ。
水につけて冷やしておいたのよ」
倒れ伏したまま、顔だけ上げて自分のものだとアピールする。
だらけるのもここまで来ると尊敬に値するな。

「しかし持ってきたのは美咲だろう。
という訳で、皆で仲良く頂こうじゃないか」
 
「霊夢ーこれ割っていいかい? この伊吹萃香が西瓜を割るんだ。
まさに西瓜割りだ。 ワハハハ!」
 
・・・・・・一瞬だけ冷気が吹き抜けたぜ。
おそらく何万回と言ってきたんだろうなぁ。
このダジャレ。
そしてこれからも記録を伸ばしていくのだろう。
思わず目頭が熱くなるな。色々な意味で。

「何言ってんのよ。中身が落ちちゃうじゃない。
ちゃんと切らなきゃ駄目よ!
もちろん、私が一番大きいやつよ」
 
「じゃ、じゃあちょっと切ってきますね。
台所をお借りします」
西瓜を持ってヒョコヒョコと台所に向かっていく。


「うーん。意外に働き者ねえ。
私の所で預かれば良かったか。
それに畑も作ってくれそうだし」
ようやく起き上がり、伸びをしながら小さい背中を見送る霊夢。
 
「ふふ、もう手遅れだぜ。
あいつはこの魔理沙さんがちゃんと面倒みるからな。
お前はそこでグーたれてな」
 
「あの花の大妖の娘なんだって?
そのまま、小さくしたような感じじゃないか。 
実に興味深いねぇ。ちょっと攫ってみようか。
あいつ全然相手にしてくれなくてさー」
くふふと洒落にならないことを言う。
酒が相当回ってるな。

「やめとけやめとけ。
とっても怖い母親が目を光らせてるからな。
今は強制的に眠ってもらってるが」
 
「・・・・・・アンタのほうが、立場危ないんじゃない?
目覚めたら、物凄い勢いで突っ込んでくるわよ。
私は関知しないから巻き込まないでね」
 
「本当にヤバそうなら、一目散で神社に避難するからな。
まさに異変ってやつだ。おーこわいこわい」
 
「人の話を少しは聞きなさいよ。
まぁ美咲に説得してもらえば大丈夫よ。勘だけど」
まるで他人事だ。必ず巻き込んでやるぜ。
困ったときの巫女頼みだ。
と、噂をすればなんとやらで、西瓜が到着したようだ。


「お待たせしました。
ちゃんと、霊夢さんが一番大きくなるように切ってきました」
はいどうぞ、と切り分けられた西瓜を渡していく。
うーむ、冷えてて実に美味そうだ。
スプーンなんか使っちゃダメだぜ。
やはりかぶりついて食べないとな。


――――――――――――――――――

「ごちそうさまでした」
行儀良く手を合わせる美咲。
本当に礼儀正しい奴だ。

「はい、お粗末様」
何故か威張っている巫女様。

「お前が何かしたわけじゃないけどな」

「アンタだって同じじゃない。
あーお腹が膨れたら、なんだかまた眠くなってきたわ」
バタッと座布団を枕に、倒れるだらけ巫女。
こんなんで巫女様と呼ばせようとは、恐ろしい程厚い面の皮だ。


「ハァイ。皆さんお揃いかしら?
あらあらちょっと来るのが遅かったみたいね。
ご相伴に預かれなくて残念だわ」
神出鬼没の隙間妖怪まで現れた。
相変わらずの混沌空間だぜ、この神社は。

「なんだ紫か。美味しいお酒でも持ってきてくれたのかい」
瓢箪を掲げて、挨拶する鬼。

「違うわよ。ちょっと悲しいお知らせを持ってきたの。
・・・・・・魔理沙、貴方幽香に『胡蝶夢丸』を飲ませるように仕組んだでしょう」
扇子で口を隠し、伏目がちになる紫。

きっと碌でもない知らせだ。主にこいつが何かやらかした系の。
被害を受けるのは、今回はどうやら私らしい。

「あ、ああ。メディスンに頼んでちょっとな。
で、なんでお前がそれを知っているんだ」
 
「・・・・・・ちょっとした手違いですり替わっちゃったのよ。
『胡蝶夢丸ナイトメア』と」
 
「お、おい! どういう手違いでそんな話になるんだよ!
そんなもん飲ませたら、寝起き最悪確定じゃないか」

目を爛々と光らせて、両手をだらんと前に垂らし、
どこまでもどこまでも追いかけてくる花妖怪。
きっと家のドアをドンドン!と一晩中叩き続けるんだ。
ノックが止んで、そっとドアを開けるとそこには・・・・・・
ホラーなんか目じゃない。まさに惨劇だ。
キリサメがなく頃に。冗談じゃない。

「まぁ済んでしまった事はどうでもいいじゃない。
私も色々と忙しいのよ。という訳で今日はお暇するわ」
言うだけいって隙間に潜り込む紫。
 
「そこの可愛いお嬢さんとは、また今度お話させてもらうわ。
萃香は私と一緒に来て頂戴。面白いものが見れるわよ。
それでは皆様、御機嫌よう」
萃香の手を強制的に掴んで引きずりこむと、連れ立って亜空間に消えていく。

「魔理沙さん、胡蝶夢丸ってなんですか?」
私の袖を引っ張る美咲。

「一粒飲んでぐっすり寝ると、最高にハイになれる魔法の薬だぜ。
 別に危ないもんじゃないから心配いらないぞ」
 
「そうなんですか。今度良かったら、私にも飲ませてください」

「ああ、機会があったらな」
あれは高級品だから難しいかもなとも誤魔化しておく。

胡蝶夢丸は確かに、良い夢を見れるだろう。
・・・・・・ただナイトメアは多分やばい。
試したことなど勿論ないが。
自分から悪夢を見よう、なんて物好きいるわけがない。
製作者の腹黒い性格が良く現れてるぜ。
絶対嫌がらせの為に作ったはずだ。


「しかしまずいな。良い夢を見て、機嫌が良くなってる時に
ちゃんと許可を取ろうと思ったんだが」
思わず腕を組んで唸ってしまう。うーむ。
 
「小手先の策を弄するからよ。
正攻法でいきなさい、正攻法で。
そのほうが楽よ」
知力50が何か言っているが気にしない。
 
「まぁちょっと対策を考えるとするか。
美咲、お前にも手伝ってもらうぜ。
頑固な母ちゃんを説得するんだ」
 
「きちんとお願いすれば分かってくれます。
母様は優しいですから」

「そうかそうか。じゃあ惚気も聞いたし、今日は帰るとするか。
困ったらまたここにくるとしよう」
 
「はいはい。今度はお土産持ってくるのよ」
転がりながら、手をひらひらとする霊夢。



今日はそれぞれ箒に乗って、家路に着く。
飛行練習も大事な授業の1つだ。
いつかは幻想郷最速師弟を目指したいものだ。


それにしても如何するかな。
紫の奴が余計なことをしたせいで、話が滅茶苦茶だ。
ちょっとした冗談だったということにして、笑って誤魔化してしまうか。

・・・・・・あいつが笑って誤魔化されるようなタマだろうか。
どちらかというと、ケタケタ哂って襲い掛かってきそうだぜ。
い、一杯飲んで、灰色の脳細胞で考えることにしよう。




―――惨劇に挑め。







[21386] 12話目 Rising Sun Flower
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/06 18:44
文々。新聞 号外
『幻想郷四天王、暁に散る! 風見氏侵攻開始!』

速報だ。危篤状態と思われていた風見幽香氏だが、
地下に潜り、密かにクーデターを画策していた模様。
私兵を率い、幻想郷の要『博麗神社』へと侵攻を開始した。

いち早く情報を入手した記者は、侵攻ルートに先回りすることにした。
そこには幻想郷の平和を守る、幻想郷四天王が既に防備を固めていたのだ。
四天王筆頭のチルノ氏に話を聞いた所、
「大ちゃんと遊ぶ約束をしているのよ。だから私達は必ず勝つわ!」
と、我々を励ます力強い言葉を残してくれた。

それがチルノ氏の最後の言葉となるとは、このときの私は考えもしなかった。

風見氏との交戦を前に、『鬼』と『闇』の2人が戦線を離脱。
既に崩壊しかけていた戦力を率い、
彼らは勇敢に戦ったが、奮戦空しく力尽きた。

噂によると最終防衛線において、残存戦力を結集中とのことである。
また、人型決戦巫女『博麗霊夢』も投入される予定だ。
記者も幻想郷の一員として、最後の時まで注視して事態を見守りたい。
果たして、幻想郷に光は差すのだろうか。
(射命丸 文)







・魔法の森上空



「・・・・・・・・・・・・」

数多の障害を潜り抜け、ようやく目的地に辿り着いた。
チルノ達の所までは、なんとか我慢できたけれどもう限界よ。

即刻あの女のハウスを探し出して、炙り出してやる。
伝承に残る魔女狩のように。
燃え滾る業火に、罪深い白黒を放り込もう。
ついでに辺り一面、火の海にしてやる。
面倒だから、今すぐ森ごと焼き払ってやろうか。
火の七日間だ。クケケ。

・・・・・・いけないわ幽香。そんな短絡的に物事を考えてはいけない。
それでは私の可愛い娘まで、巻き込んでしまうじゃない。
全然エレガントじゃないわ。もっと華麗で優雅にいきましょう。
まずは取り戻してから。
そうそれから、思い切り焼き払うとしましょう。
綺麗さっぱり焼畑農法。

今日も頭が冴えてるわね。自分を褒めてあげたいわ。
さぁ、早速パーティの準備をしましょう。
まずは巨大なキャンプファイヤーが必要ね。
松明に着火して、と。



「おいおいおい、松明と怪しげな筒を山程持って、
お前は一体何をしようとしているんだ。
ここで花火でもやるのか?」
背後から、小憎らしい声が聞こえてきた。
クルッと、思いっきり首を回転させる。
箒に乗った白黒魔法使いを確認、ロックオン。

「泥棒猫の霧雨魔理沙、かしら? ようやく見ツケタわ。
私の可愛い可愛いあの娘を、どこに連れ去ったの?
今すぐに答えなさい。答えろ」

腕を幽鬼の様に魔理沙へ向け、ダラリと垂らす。
傘やら松明やら、爆薬がボロボロ落ちるが、もうどうでも良い。
キャンプファイヤーは血雨が振るので中止だ。これからは死の鬼ごっこよ。
どこまでもどこまでも追跡して、必ず取り戻す。
ギリギリギリと歯軋りする。呼吸が苦しい。
美咲分が足りない。一刻も早く摂取しなければならない。
3日間も引き離されるなんて、有得ない事態よ。
誰のせいだ。目の前にいるこいつだ。
フーっと大きく息を吐き出す。
 
「こ、怖っ! 目が逝っちまってるぞ、おい。
それとその物騒な牙を隠せ。
落ち着いて冷静になって話し合おう。な?」
 
「フフ、私は冷静よ。冷静なのよ。
魔理沙、殺しはしないけれど、半殺しよ。
妖怪を、甘く見てはいけないということを、その身に刻み込んでやる。
クケケケケケケケ!」
ケタケタと笑いがとまらない。ああもうすぐの辛抱よ。
腰を落として、飛び掛る態勢に入る。
勢い余って、喉元に喰いついてしまいそうだ。
 
「本当に怖っ! 誰が見ても泣き出すぞ。
こ、ここはひとまずスタコラサッサだぜ。
あばよとっつぁーん!」
箒を反転させ、物凄いスピードで飛び去って行く魔理沙。

・・・・・・逃げ切れるかしらね。

森に急降下して、落ちた日傘を拾う。
思い切り大地を蹴って、風を切り裂いて飛び立つ。
普段は動くのが好きではないだけで、別に鈍い訳ではないのだ。
只の魔法使い如きが、妖怪に挑もうなどと1000年早い。

前方の黒い影を捉えたまま、全速力で追い続ける。
貴方の魔力が尽きた時が、人生のタイムリミットよ。
フフフ。







・博麗神社上空



・・・・・・神社に逃げ込むとは考えたわね。
と、言いたい所だけど、甘いわよ魔理沙。
博麗霊夢ともども粉砕してあげるわ。
今日のレベルはLunaticなのよ。
絶対にコンティニューは認めない。
障害は、全員叩き潰してやる。

まぁ、一応勧告してみるとしよう。
面倒は少ないに越したことは無い。

博麗神社全体に聞こえるように大声を出す。

『霧雨魔理沙。後10秒以内に出てこないと、神社ごと吹き飛ばす。
脅しじゃないのよ?』
 
境内に傘を向けて、一発砲撃を叩き込む。
物凄い爆音と共に地面が削ぎ取られていく。
破片が賽銭箱に当たり、見るも無残な形に。
案の定中身は空だった。

みすぼらしい神社が、更に哀れな様になってしまったわ。
実に愉快爽快ね。

しばらくすると、箒に乗った白黒魔女が飛び上がってきた。


「いきなり何てことするんだ。後で霊夢の奴が怒り狂うぞ。
あんなに馬鹿デカい穴あけちまいやがって」

警戒しながら一定の距離を取って、私に相対する魔理沙。 
・・・・・・私の宝物を抱えるように乗せて。

「貴方こそ娘を乗せて、一体どういうつもりなの。
今すぐにその娘を放しなさい!
そ、それにその格好は・・・・・・」

魔理沙はどうでも良いのだ。
問題は一緒に箒に乗っている美咲だ。
く、黒い魔女服に、とんがり帽子。
ななななんということを。最も恐れていた事態がッ!!
私の悪夢が現実に・・・・・・

思わず眩暈がして飛行状態を解いてしまう。
あっ―


「母様! 大丈夫ですか!」

その声で、間一髪持ち直して、元の場所に戻る。
危ない危ない。闘わずして墜落するところだったわ。

「え、ええ大丈夫よ。そ、それよりもその格好は・・・・・・」

「魔理沙さんから頂いたんです。似合ってますか?」

似合っている、似合っているがッ!
写真も撮らなければいけないぐらい、似合っている!
だがしかし、その状況は頂けない。実に頂けないわ。
だ、だからあれだけ近づいてはいけないと言ったのに。

そのうち語尾に『だぜ』をつけて話し出すに違いない。
そしてカントリー○ードを歌いながら、私の元から旅立っていく・・・・・・
もう帰れない日々。さようなら夏の日。


い、嫌よ。まだ間に合う。間に合うはずだ。
そんな未来は美咲には必要ないのよ。
おしとやかで、健やかに育ってくれれば私はそれで良い。
だから魔女になったり、弾幕の練習をする必要はまるでない。
そう。闘う必要など、ない。

「美咲、今すぐに一緒に帰るわよ。
良い子だから、こっちにいらっしゃい。
怒ったりしないから」
 
「あの時、美咲の言った事をもう忘れたのか?
ウチでしっかり勉強してるんだから、見守ってやれよ。
それが親ってもんだぜ」
口を挟んでくる白黒泥棒猫。すっこんでなさい!
 
「魔理沙、貴方は黙っていなさい。
 お前は後で、じっくりと料理してやるわ」

「ごめんなさい母様。その言う事は聞けません。
で、でも頑張りますから」

ああ、どうすれば分かってくれるのかしら。
こうなればころしてでも奪い取るか。そうしよう。
実に分かりやすい。

「そういうときは、幻想郷ではこうするのが決まりだろう?」
スペルカードを取り出し、美咲に手渡す魔理沙。

「弾幕ごっこで決めるというの?
ま、まさか私と貴方達じゃないわよね?」
それは異議ありだ。魔理沙だけにしよう。そうしよう。
 
「そのまさかだぜ。
今回はハンデ戦だ。私が回避を担当して、攻撃は美咲だ。
経験がお前とでは段違いだから、サポートもするがな」


「で、でもそれは」
私が娘に手を上げるということじゃない!
そんなことできないわ。絶対に。

「母様。私はまだまだ未熟ですけれど、全力でいきます!」
スペルカードを掲げ、私に向かって声を上げる娘。
き、聞こえないわ。貴方が何を言っているか分からないの。

「合意とみてよろしいかしら?
ジャッジは私がしてあげるわよ。
フフフ、面白いことになったわね幽香」
すっこんでろお節介隙間ババァ!!
式神まで引き連れて、実に楽しそうに微笑んでいる。
人の不幸は蜜の味とでも言いたげな面してるわ。
忌々しい!

「ご、合意なんてしていないわ。誰がそんなこと」
ダメ、絶対。


「良い大人がグダグダと五月蝿いわねぇ。
じゃあ用意はいいかしら? 始めるわよ」
 
数字の映った謎の隙間を展開し、カウントを勝手に開始する紫。
その後ろには、実に嬉しそうな顔でシャッターを押し捲る射命丸。
フラッシュが、眩しい。

ば、馬鹿な。どうしてこうなったの。

魔理沙&美咲の魔女コンビは戦闘体制を既に整えている。
や、やるしかないというの。
どうする。どうするの私。




射命丸文
風を操る程度の能力



[21386] 13話目 とある妖魔の破壊光線(マスタースパーク)
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/06 18:46


月明かりが辺りを照らす中、色彩鮮やかな弾幕が咲き乱れる。
なし崩し的に始まった弾幕勝負。
魔女コンビは即席とは思えない動きで、軽やかに弾幕を描いていく。
ふと地上を見れば、野次馬根性丸出しの、
妖怪やら宇宙人やらの百鬼夜行が、いつの間にか境内に集まっている。
貧乏巫女はといえば口をへの字に曲げて、神社の惨状を見つめていた。



「おい、なんで反撃してこない。やる気ないのかお前!」
痺れを切らした魔理沙が私に声をかけて来た。

「母様、何故撃ち返してこないんです! 私達は真剣に戦っているのに!」


「・・・・・・」

確かに、この弾幕勝負が始まってから私は一発も撃ち返していない。
ここまでの間、全て回避に注力していた。

魔理沙の指摘する『やる気』というのが、戦う気持ちであるならばそれは正解だ。
私は娘と戦う気持ちなど一切持っていない。
わざと被弾して、負けても良いかとも思っている。
別にこの勝負が何かを変えると言うわけでもないのだから。
私にとっては弾幕ごっこなど、その程度の遊びにすぎない。

ただ、それだけでは無いというのも事実だ。
私は思わず見とれていたのだ。
娘の作り出す弾幕の色彩に。

美咲の放つ通常弾は密度が薄く、また当てずっぽうに撃ちまくるだけで、
まるでプレッシャーを掛ける事が出来ていない。
わざとカスらせる余裕が幾らでもある。
またこの3日間で作り上げたと思われるスペル、
青果『青林檎殺人事件』もスペルネームのセンスは良いが、まるで構成が練られていない。
気味の悪い、一つ目青リンゴを単純に追尾させるだけの攻撃だ。
速度は魔理沙が担当してるだけあり相当なものだが、どうみても美咲が足を引っ張っている。

残念ながら、私を相手に戦うには力不足が過ぎる。
基礎を学んでから3日程度のヒヨッ子が、いくら頑張ろうと無理なものは無理だ。


だがしかし、さっきから、弾幕が酷く掠れて見えるのだ。
光が滲んで見える。
この視界を奪う攻撃は、魔法によるものなのだろうか。
それにこの目から流れ落ちる熱い液体。
どうしても止めることができない。
ああ、一体何故なのかしら。


「す、凄い。ら、藍様。あの人泣きながら戦ってます!」

「私にはとても良く気持ちが分かるよ。あれが『親心』というものだよ、橙。
思わず胸が締め付けられるな」
 
「私も良くわかるわぁ。藍ったら最近は全然構ってくれないものね。
とっても寂しいわ」
 
「まぁそれは置いといて」

「これだもの。昔は素直で可愛い子狐だったのに」

「紫様は昔からツンデレ世話焼き婆でしたね」

「・・・・・・後で御仕置きよ、藍」


くだらない戯言を隙間達が喋っているが、私の頭には入っていかない。

な、なんという立派な姿なの!
たった3日見ない間に、これだけの攻撃を放つことが出来るなんて。
うう、感極まって、溢れる涙を抑えることが出来ない。
愛する子供が、偉大なる親に立ち向かうシチュエーション。
こ、こういうのもあるのね。今まで考えたこともなかったわ。
竜騎将やパ○スの気持ちが、今ようやく理解できたわ。
いや○パスは息子と戦っていないじゃない。落ち着くのよ幽香。

「おい親馬鹿妖怪! 泣いてないで撃ちかえして来い!
手加減されて勝った所で、嬉しくもなんともないだろ!」
高速移動する箒を制御しながら、通常弾を更にばら撒いてくる。
わざと当たっても良いかと一瞬思ったが、すんでのところでグレイズ。

「うう。貴方の様な小娘には、私の気持ちは理解できないわよ!」

左手から火吹食人花を召還する。
土管から這い出る、配管工殺しに定評のあるアイツだ。
掌サイズの、自然に優しい省エネタイプだが。

挨拶代わりに火炎弾の嵐をお見舞いする。
小型だが威力はお墨付きだ。


「おおっと。ようやくやる気になったか。
美咲、アイツの隙を狙って大技をぶちかませ!」
ジグザグに箒を巧みに操り、火炎弾を回避する魔理沙。
流石にこの程度では落とせないか。

それに、何やら切り札をもっているらしい。
ならば堂々と受け止めてやろう。
それが親というものだ。
火吹花をポイッと放り投げる。さらばエコ仕様。

最早戦闘を回避する必要もない。
命のやりとりではない、誰にでも勝つ可能性がある。
それが弾幕ごっこだ。

様は私の気持ちの問題だったというだけの話だ。
だって、今まで手を上げたことが無いんだから仕方が無いじゃない。
それ程可愛くて、とても良い子なのだから。


「これ以上、小手先の技を幾ら使っても、私には絶対に届かないわ。
だから美咲、今貴方が持っている最高のスペルを使いなさい。
わ、私も全力で受け止めてあげる。・・・・・・う、ううっ」
嗚咽を堪え涙を拭い、真剣に娘を見詰める。
泣いてはダメよ。私は大人なんだから。

こうなれば、わざと被弾して勝ちを譲るのは止めだ。
もうそのつもりはない。

とてつもなく高い、ぶ厚い壁となって娘の前に立ちはだかろう。
『地獄の壁』となりて、長きにわたり、打倒されるべき最強の敵となろう。
それもひとつの愛ではないだろうか。
そしていつか私を乗り越えていくのだ。
実に素晴らしい。
打ち倒されたそのとき、私は晴れやかな笑顔を浮かべているはずだ。


・・・・・・いけないわ、またいつもの妄想が。
そもそも『地獄の壁』ってなによ。
打倒されるべき敵って。私は魔王か何かか。


「魔理沙さん、アレを使います。これ以外で母様を倒すことは出来ません!」

「よーし、魔力をチャージしろ。この八卦炉に全ての力を回すんだ!
照準は私がつける。お前はタイミングを計ってぶっ放せ!!」
 
「はいっ!」

「即席コンビなど、魔力を溜めるまでも無いわ。
抜き打ちで相手をしてあげましょう。今回は特別よ?」
 
本来ならそんな隙を見逃す訳は無いが、それは無粋というもの。
力を抜き、日傘を構える。
そしてミニ八卦炉を構える魔理沙と美咲をジッと見る。
まるで演劇の1シーンの様ではないか。
なんという凛々しい姿なの。後で天狗から写真を全て頂くとしよう。

「チャージ完了です! いきます母様!」

「来なさい。全てを受け止めてあげる」


「魔砲『マスタースパーク』!!」

おびただしい魔力を帯びて、轟音と共に大出力の砲撃が私目掛けて放たれる。
成程、流石は私の娘だけはある。
照準や魔力のコントロールを魔理沙に任せてるとはいえ、
中々の威力を持っていそうだ。
しかし、それでは私には及ばない。

「それは元々私の魔法なのよ。美咲、貴方には言っていなかったかしらね」

一瞬手加減してしまいそうになるが、それはしてはならないことだ。
手加減して、勝ちを譲られて一体何になる。

魔力を一気に解き放ち、砲撃態勢に入る。


「これが本家のマスタースパークよ。受け取りなさい!」

日傘から、抜き打ちで極白色破壊光線を放つ。
後一歩で私に直撃するはずだった、光線を飲み込み押し返す。
魔理沙と美咲の元へと、極大の魔力光が殺到する。

「あ、ああ・・・・・・」

「美咲、力を振り絞れ! まだまだこれからだ!」

「は、はい!」
魔理沙の掛け声と共に、力を振り絞る娘。
恐らく魔理沙が手助けしているのだろう。
でなければ押しとどめることなどできはしない。
ギリギリの所で、破壊光線を抑えている。

「中々粘るわね。そういうのを火事場の馬鹿力というのかしら」

「ド根性って言うんだよ!」

「そう。じゃあもう一人作り出しちゃおうかしら」

能力を使い、分身を作り出す。
当然ながらトリックなどではなく実体だ。
世間ではドッペルゲンガーとでも言うのだろうか。
最近は余り使ったことが無い。よって私が使えるという事を知るものも少ない。

切り札は先に見せてはいけない。見せるなら更に切り札を持て。
そう偉い妖怪も言っていた。

「ぶ、分身!」
「な、なんてインチキな!」

「ごめんなさいね? 人生って意外に厳しいのよ」

分身に魔力を籠めさせ、マスタースパークを発動させる。
拮抗を保っていた光線のぶつかり合いに、勢い良く加勢させる。
爆音を放ち、懸命に戦っていた娘達を眩い光が飲み込んでいく。


・・・・・・おわりね。





――――――――――――――――――


地面に倒れ伏している、煤やら埃まみれの美咲と魔理沙の下に降り立つ。
殺傷目的ではないから当然生きている。
が、初めて娘に対し手を上げてしまったという事実が
私の胸を締め付ける。
本当にこれで良かったのだろうか。


「なーにしんみりした顔してんのよ。たかが弾幕勝負じゃないの。
勝ったり負けたり、勝負は時の運と少しの実力よ」

博麗霊夢がひょいと隣に降り立つ。
慰めにでも来たのだろうか。似合わないことを。

「貴方に、私の気持ちは分からないわよ」

「別に分かりたくないけど。
とりあえずこいつら神社に運ぶから手伝いなさい。
ウチを壊した件は、後でゆっくり聞かせてもらうから」
アンタは娘を背負いなさいと言い、魔理沙をよいしょと背負う霊夢。

私はその言葉通り、美咲を抱きかかえる。
顔中泥と汗まみれ、魔女服もボロボロだ。
こんなに小さい体で、とても頑張った。
本当に良く頑張ったと思う。

「ほらほら、他の連中も早く酒飲ませろって騒いでるから早くいくわよ。
いつのまにかゾロゾロ集まってきちゃって」

「そんなだから、普通の人間が寄り付かないのよ」

「うるさいわね。放っておいて頂戴」
プイッと横を向いて、空中に浮かび上がる巫女。


さぁ私達も行くとしよう。
相も変わらず騒がしい、あの馬鹿者達の所へ。



 






ガップリン
1つ目の気持ち悪い青リンゴ。
仲間に加えることができる。


パックンフラワー
魔法によって意思を持った凶暴な人喰い植物。
火を吐いたり、棘弾を放ったりする。


地獄の壁
USN陸軍戦車師団特機中隊前線都市防衛部隊特殊小隊第64機動戦隊



[21386] 14話目 酒と泪と女と女
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/06 18:48
・博麗神社 宴会場


「それでは、風見幽香とその娘、風見美咲ちゃんの初弾幕バトル終了を記念して・・・・・・
 乾杯!!」
 
 「「「乾杯!!」」」
 
なぜか私達の戦いが、いつの間にか宴会の動機付けにされていた。
酒が飲めればこいつらはどうでも良いのだ。 

乾杯の掛け声と共に花火が連発で打ち上がる。スターマインだ。
河童あたりが用意したのだろうか。風情があって実に素晴らしい。
ナイアガラも好きだけど、ド派手に打ち上げるのは最高だ。
 

ちなみに先程、音頭を取ったのは、八雲紫だ。
美味しいところだけもっていくのは相変わらずな奴だ。

ムシャクシャしたので日本酒をグイッと一気飲みしてやった。

「ほらほら幽香。杯が空じゃあないか。
娘の目出度い門出の日だというのに、それは頂けないねぇ」

酔っ払い鬼がドスドス近づいてきて、瓢箪から私のグラスに酒を注ぎ足す。
額にはデコピンの痕が痛々しく残っている。

「・・・・・・いつの間にこんな宴席を準備したのよ。
私が乗り込んできたときは、いつもと変わらなかったのに」
 
「紅魔館のメイドが一瞬で用意してくれたわよ。
便利な能力ねぇ。ウチにも一人欲しいわ」
紫が隣に腰掛ける。

「紫、アンタが今回の騒動の仕掛け人てわけ?
ここにたどり着くまでに、やたらと妨害されたけど」
 
「まぁね。ちょっとした異変風味だったでしょ。
楽しんでいただけたかしら」
いけしゃあしゃあと言ってのける隙間。

「まぁ紫はこういう奴だからねぇ。
諦めた方がいいよ。それより、アンタの娘は将来有望だねぇ。
そのうち私も色々と特訓してあげるよ!」
こいつまでとんでもないことを言い出してきた。

鬼の教育・・・・・・だっちゃだのダーリンだの言い出して、
ビリビリと雷を放つのだろうか。服装はアレか・・・・・・
ちょっと見てみたいかも。
しかし貴方を殺します系は勘弁だ。

「幽香さん。貴方の親心、しかとこの目で見届けさせて頂きました!
不肖八雲藍、思わず感動してしまいましたよ」
一升瓶を左手に持って、既にデキあがっている狐。
隣には化け猫が心配そうに寄り添っている。


まぁそれはどうでも良いことで。
そんなことより私の娘は何処よ。
グルグルと辺りを見回すと、妖精やら宇宙人やら童妖怪に囲まれて、
酒の肴にされて、目を回している美咲を発見する。
物珍しさからか、引っ張りだこだ。
ちょっと気になるのが、人里の教師、上白沢慧音まで何やら語りかけていることだ。
なんだか嫌な予感がヒシヒシする。
主に熱血教師ビンビン的な意味で。

心配で心配で仕方ないが、今無理やり引っ張るのは大人としては頂けないか。
遠目でチラリと見やり、再び酒をあおる。
今日はやけに胸に染み入るわ。



「よう。今日は私達の負けだったな。
本気で戦ってくれて、美咲も感謝してたぞ」
グラスと酒瓶を持って、私達の輪に加わる魔理沙。

「・・・・・・言いたいことは色々あるけれど、
もういいわ。久々に心が躍ったのも確かだし」
ぐいぐい酒を飲み干す。半人半霊庭師がやってきて、酒を注ぐ。
主人は料理に夢中で、暇をもてあましているらしい。

「それで、アイツが魔法の勉強をするのを許してやってほしい。
負けた私達が言えることじゃあないが。
美咲は真剣なんだ。だから、頼む」
珍しく真剣な顔を浮かべる、白黒魔法使い。

「幽香、認めてあげたらどうかしら? 凄い頑張ってたじゃない。
泣きたくなるほど、寂しいのはわかるけど」

「べ、別に寂しくなんかないわよ!
ちょ、ちょっと目にゴミが入っただけよ!」

うう、こんな早くに娘を嫁に出すことになるなんて。
ヨメ?ヨメって何よ。ヤ、ヤックデカルチャー。

「ち、橙はまだまだお外に出なくていいんだよ?
これからも、いつまでも私の式でいておくれ」
 
「もちろんです藍様!」

「ああ、橙!」
意味不明なことを喚いて、抱き合ってる馬鹿式神達。
なんという親馬鹿。見ていて恥ずかしいわ。

「まぁこんな風に手遅れになる前に、
少しだけ手綱を緩めてみなって。もう遅そうだけどさ。
子供の成長は早いぞー!私もウカウカしてられないね」
と、どうみても子供にしか見えない萃香がグビグビやっている。

「ま、魔理沙」
意を決して、白黒に声を掛ける。

「な、なんだよ。地獄の底から呻く様な声を出したりして。
驚くじゃないか」
 
「み、美咲を・・・・・・よ、宜しくしてあげて。
一人前のレディに・・・・・・うっ、うううううううう」
ブワッと溢れ出す涙君。さよなら涙君、また会う日まで。
こんな晴れの日に泣いてはダメよ。
そ、それでも溢れ出すのを止めることができないわ。

「お、大袈裟なんだよお前は。たかが夏の間じゃないか。
その後は家にちゃんと返すって。後は自宅から・・・って聞いてるか?」
つまり合宿みたいなもんなんだよと説明する白黒。

「無駄よ魔理沙。全然耳に入っていないもの。
また騒ぐと面倒だから、酔い潰してしまうとしましょう」
私の口に無理やり酒を突っ込んでくる隙間妖怪。
く、苦しい!

「な、なんてことするのよ! 窒息するじゃないの!」
酒が口から溢れ出てくる。死ぬかと思ったわ。

「ハハハ、親馬鹿妖怪も形無しだねぇ。
そらそらこっちのも飲んでもらおうかい!」
瓢箪まで突っ込んでくる馬鹿鬼。

そ、そんなに入れたら壊れちゃうわ。らめぇ!
って、本当に死ぬわボケども!
グイっと萃香と紫の頭を掴んで、シンバルのように思いっきりぶつけ合う。
ああ良い音が鳴ったわ。
角が刺さったような鈍い音がするが、私は気にしない。
倒れ伏せる2人を、養豚場の哀れな豚を見るような目で見詰めて、
さらに酒をガブ飲みする。うーん実に美味しいわ。


そうだ。そういえばひとつだけ遣り残したことがあったわね。
すっかり忘れていたわ。いけないいけない。
酔って完全に忘れてしまう前に潰しておくことにしましょう。ヒック。




――――――――――――――――――



「フフフ、今日はもうとんでもない写真が一杯とれましたよ。
霊夢さん達のおかげですね!」
愛用のカメラをチェックしてご満悦の射命丸文。
 
「私は特に何もしてないけど、感謝してるなら金一封くれてもいいのよ」

「それはまた次の機会に。さぁ早く帰って記事にしなければ!
私のペンが暴れまわりたくて、ウズウズしていますよ!!」
ご機嫌にペンをクルクル回している天狗。
ペン回しの腕だけは中々のものだ。書くものは全くアレだが。
 
「あっそ。それじゃあね」
スタスタと酒の席に戻っていく紅白巫女。

「ええ、それではまた!! ジュワッチ!」
勢い良く羽ばたき、飛んで行こうとする捏造新聞記者の足をガシッと捕らえる。
その勢いで、地面に叩きつけてやる。
顔から地面に、思いっきりダイブ。ダイブトゥアース。
クククざまぁないわね。
更にゲシゲシと背中を踏んづけてやった。ダウン攻撃って奴ね。

「ひでぶっ! だ、誰ですかこんなことをするのは!」

真っ赤になった鼻を抑えて、こちらを振り返る天狗。


「こんばんは、ご機嫌な天狗さん? 私はとっても不愉快だけれど」

「あ、ゆ、ゆゆ幽香さんじゃないですか! さっきのバトルは感激しましたよ。
私も思わず貰い泣きしてしまいましたよ!
で、では私はこれで!」
スタスタと逃げようとする射命丸の肩をグイッと掴む。

「・・・・・・貴方の素敵な新聞記事、さっき全部読ませて貰ったのよ。
なかなか、愉快な記事を書くのねぇ貴方。
そのお礼をしてなかったと思って」
 
「ほ、報道関係者に暴力はいけませんよ! 落ち着いてください!」
ジタバタと暴れる天狗。往生際の悪い。


「大丈夫よ。別に暴力を振るったりしないわ。
ただちょっと素敵な夢を見てもらおうと思って」
先ほど調達した黒丸薬を一瓶丸ごと、天狗の口にごぼごぼと飲ませる。


「い、今のは胡蝶夢丸ナイトメア!!!
あああああ、貴方という人はなんてことを! い、今すぐ吐き出さなくてはっ!」
這うようにして、水場に駆け込んでいく。


・・・・・・ただの征露丸なのに。大袈裟ねぇ。臭いで分からないかしら。
しばらくお腹の調子が愉快になるぐらいでしょうに。
これに懲りて暫くは大人しくなると良いわね。

無理か。




――――――――――――――――――



魔理沙に頼んで、今日一晩だけウチに返してもらうことになった美咲。
これからも、1日1回は必ず私に顔を見せることを条件に、
弟子に出すことを渋々認めた。
魔理沙がおふざけではなく、真剣だということが分かったからということもある。
そこまで考えてくれるならば、娘にとっても悪いことではあるまい。
口癖だけにはきっちり目を光らせる必要があるが。
最悪、魔理沙を再教育してお嬢様に仕立てあげてしまうという手もある。

そんなことを考えながら、私は家路に付く。
すっかり疲れ果てて眠り込んでいる娘を背負い、夜空を駆ける。
本当に良く頑張った。そこまで真剣だとは思っていなかった。

「良く頑張ったわね、美咲。さぁお家に帰りましょう。
貴方の弾幕、本当に驚かされたわ」

「・・・・・・母様」
ムニャムニャとつぶやく我が愛娘。

「さぁゆっくり眠りなさい。今日は疲れたでしょう?」

これからどんな風に成長していくのだろう。本当に楽しみで仕方が無い。
あの時、この子を手にしたときから、毎日驚かされることばっかりだ。
まだまだ芽を出したばかりのこの子が、どんな花を咲かせるのか。
私はこれからも見つめ続ける事にしよう。










『文々。新聞 休刊のお知らせ』
大変申し訳ありませんが、都合により暫くの間お休みさせて頂きます。





第一部完 夏の終わり



[21386] 閑話 白黒危機一髪!
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/06 18:49

午前の修行を終えて、私と美咲ともう1名は太陽の畑に向かっていた。
なんでも幽香が、昼飯をご馳走してくれるらしい。
食費も浮いて助かる私としては、
ホイホイと招きに応じることにしたのだった。

「それにしても変わるもんだなぁ。お昼のランチにご招待してくれるとは。
あの時の幽鬼と、同一人物とは思えないぜ」
 
「魔理沙さん、母様と何かあったんですか?」

「いやいや、あの弾幕戦の前だけどさ。
本当に恐ろしい目に遭ったんだぜ。
今思い出すだけでもゾッとする」

「私、母様が本気で怒ったところ見たことないんです。
だから想像できません・・・・・・」
 
「ああ、子供がみたらトラウマ確定だからな。
あんなもの見ないほうが幸せさ」
うむ。見たら確実に夢にでること間違いなしだ。


それにしても、すっかり箒姿が板についてきた。
服装は今日は白い魔女服だ。所謂白魔道士って奴だな。
アリスお手製の、綺麗な細工のついた魔法衣だ。

「その服、中々似合うわね。夜なべして作った甲斐があったわ」
・・・・・・澄ました顔して、夜なべって。
いつの時代の母ちゃんだよ。

「なんでアリスも一緒にくるんだ。
美咲、お前が招待したのか?」

「はい。母様にこの服を作って頂いたと言ったら、
お礼がしたいから一緒に連れてきなさいって」
 
「そういうこと。別に押しかけるわけじゃないわ。
ちゃんとご招待頂いたのよ」
上海人形を使って私の頬をツンツンしてくるアリス。
うっとおしい。

「へいへい。どうせ私は押しかけ魔法使いですよっと」

「何をむくれているの。
貴方のあげた魔女服は、夏には向かないと言っていたじゃないの。
まさか、私に嫉妬しているのかしら」

上海に美咲の頭を撫でさせている。すっかり妹扱いだな。
おまけに今聞き捨てなら無い台詞を吐きやがった。
 
「SHIT! どうしたらそういう発想になるんだ。
私はそんなに心が狭くないぞ」
お古の魔法衣は、前回の戦いでボロボロになったから、修繕中だ。
別に黒から白になったからって嫉妬なんかしない!

「両方とも宝物です。だから、どっちも大事にします」
純真な目でこちらを見詰めてくる美咲。
こ、心が洗われる。
浄化されてオーラロードが開かれてしまうじゃないか。
・・・・・・それは関係ないな。

「本当に良い子ね。今ズギューンと胸に来たわ。
美咲、貴方素晴らしい姉キラーになる素質があるわ
一緒にこれから特訓しましょうね」

一体何を特訓するんだよ。
思わず突っ込みそうになるがグッと堪える。
意味不明な事を言っている時の、コイツは放っておくに限る。
下手に関わると、アナザーディメンションで異次元に飛ばされるからな。


と、くだらないことをダベリつつ、
そんなこんなで風見幽香邸に到着したのだった。



「母様、ただいま帰りました!」

「お帰りなさい、美咲。今日も超素敵よ。
さぁ、まずは手を洗ってきなさい」
エプロン姿で出迎える幽香。
悔しいが、似合っている。若奥様的な感じだ。
私のエプロンとは一味違う。
 
「はい!」
トコトコと手を洗いに奥に進んでいく我が弟子。
その後に続いて、私達も室内に入る。

「お邪魔するぜ。今日はお客様って奴だな」

「お邪魔するわ。この前の宴会以来かしら。
中々センスの良い造りね」

「2人ともいらっしゃい。それなりに歓迎するわよ。
いつも娘がお世話になってるわね」

今日は凄いまともな母親だ。
本当に同一人物だろうか。
あの時と比べると、二重人格かと思うぐらいだ。
すっかり綺麗な幽香状態だ。

「何事にも、一生懸命取り組む良い生徒だぜ。
周りが見えなくなるところが珠に瑕だな」
 
「貴方が言えた台詞じゃないわね」
アリスが茶々を入れてくる。

「余計なお世話だぜ」

「はいはい。じゃれ合っていないで、席に着いて頂戴。
コーヒーで良いわね?」

淹れたてのコーヒーをそれぞれの席に置いていく。
こいつが中々美味いんだ。酸味と苦味の絶妙なバランス。
どこで豆を手に入れていることやら。
今度教えてもらうことにしよう。

味わいのある香りを楽しんでいると、
手洗いを終えた美咲が戻ってきて席に着く。

そこに幽香が袋に入った謎の物体を机にドスンと置く。
・・・・・・な、なんなんだ一体?


「実はね、食事をする前にちょっとだけゲームをしてほしいのよ。
魔理沙、貴方に勝負を挑みたい」

ゲーム? まさか前のぐらぐらゲームの一件をまだ根にもっているのか。
噂によると、人形に血がついて全部赤色に染まる程の特訓をしているとか何とか。
天狗の話だから、全く信用ならないが。

「ほー。まぁ余興には良いかもな。それで何をやるんだ」
折角だから付き合ってやろう。
別に何かを賭ける訳でもないしな。

「ぐらぐらゲームと貴方は思っているでしょうけれど。違うの。
香霖堂で手に入れた新型遊戯機、これよ!」
ジャーンと袋から取り出した、謎の樽。
ところどころに隙間のようなものが空いている。
なんだこりゃ。

「その名も白黒危機一発よ!」

「こ、これは!」
驚きの表情を浮かべる美咲。

「美咲、貴方知っているの? この謎のタル型機械」
アリスが声を掛ける。

「はい。本で見たことがあります。
大航海時代の海賊の処刑方をモチーフとし、
危機一髪なのか一発なのか惑わせることに定評があり、
更に人形が飛び出たら負けなのか、勝ちなのかさえ
遊ぶ者によって違うと言う闇のゲームです!」
 
「そうなの。説明口調でありがとう。
 美咲は物知りなのね」
美咲の頭を撫で撫でしているアリス。
・・・・・・なんか腹が立つな。
幽香の目つきも心なしか細くなっている。
殺意を隠せていないぞ。

「それで、こいつで遊ぶのか? 
人形が飛び出るとかいう話らしいが。
樽に何も入っていないじゃないか」
 
「そんなに慌てないで魔理沙。ルールを説明するわ。
この剣を交互に樽にブッ刺していって、人形を飛び出させたほうが負けよ。
とても簡単でしょ?」
どこからか、銀色の小型の剣をバラバラと取り出して机に置く。

・・・・・・これ本物か?

「おい。この剣、オモチャじゃなくて本物じゃないか」
手に取ってみる。やはり本物だ。
しかも儀式用っぽい細工がしてある。

「え、そうだったかしら。
まぁ細かいことはどうでも良いじゃない。
それで人形はこれを使うわ」
袋からヒョイと白黒人形を取り出し、樽にセットする幽香。
非常にわざとらしく白々しい。

・・・・・・しかも、どうみても私を模した人形じゃないか。
何考えてるんだコイツ。

「・・・・・・その人形、何か良くないモノを感じるんだけど。
簡単に言うと、恐ろしい負のオーラが出ているわ。
今すぐ御払いするべきよ」
アリスが目を細めて、警告を発する。
私から見ても、禍々しいオーラを感じることができる。

「なぁ。まさかとは思うがこのゲーム、黒魔術の一種じゃないよな。
ターゲットに銀剣を刺させる事で発動するタイプの」
そんな魔術聞いたことは無いが。
 


「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」


沈黙。


「これはまた次の機会に遊びましょう」



そっと袋に戻していく幽香。
・・・・・・図星だったとは。恐ろしい女だ。

「何華麗にスルーしようとしてるんだ。
一体何を考えてるんだお前は!」
 
「ちょっとしたジョークよ。it'sジョーク。
別に前に負けた仕返しを企んでいるとか、そういうことじゃないのよ。
ちょっとだけ痛い目に遭わせてやろうとか、そんな事考えたことないもの」
簡単に自白する馬鹿親。

「また今度ぐらぐらゲームで勝負してやるから、
もうこんな物準備したりするな。この大馬鹿!」
席を立ち、樽のはいった袋を奪い取る。
物騒だから、しっかりと処分しないと駄目だな。
どんな効果を発生させるか分かった物じゃない。
 
「私のせいじゃないわよ。
香霖堂の主人に、ハラハラドキドキできるゲームはないかと聞いたら、
これをオススメされたのよ。
人形は私なりのアレンジよ。良く出来てるでしょう」
 
「やかましいわ」

香霖め。とんでもない物を、とんでもない奴に売りつけやがって。
今度しっかり言っておかないとダメだな。

「白黒人形は私が預かりましょう。
ちゃんと御払いすれば、大丈夫よ。
人形に罪はないものね」
白黒人形をちゃっかり回収するアリス。美咲も興味津々で見ている。


「と、こんなことをしている場合じゃないわ。
もうご飯の準備はできているのよ。
さぁ、今仕度するから待っていて頂戴」
 
今までの事をなかったことにして、台所にひっこんでいく花妖怪。
そのうち又何かやらかしそうだから、気をつけないとダメだな。





出てきたご飯は別に異状はなく、普通に美味しかった。
痺れ薬か眠り薬でも入っているかと思ったが杞憂だった。
ちなみに野菜のカレーライスだった。美咲の好物の1つだそうだ。
今度ウチでも作ってやることにしよう。
霧雨特製キノコカレーだ。


食後はトランプで4人で遊んだ。
殺伐とすることもなく、非常に和やかな時間だった。
なんか家族が出来たみたいで、ちょっとだけ感傷的になってしまった。
アリスに指摘されて言葉に詰まってしまい、死ぬほど恥ずかしい目に遭った。
きっと顔は真っ赤だっただろう。

気分を晴らすために、『革命』で幽香を嵌めてやったら色々と台無しになってしまった。
一度大貧民に落ちると、勝ち上がるのは至難の業だからな。
また勝負事での恨みを買ってしまった気もする。

もう少し素直になっても良かった気もするが、この方が良いだろう。
馬鹿騒ぎしているぐらいの方が私達にはお似合いだ。





黒ひげ危機一発
剣を刺していって飛び出させた人が負け。



[21386] 紅魔館へようこそ 紅い林檎には罠がある
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/06 23:27
・霧雨邸 寝室

シャンプーの香りが漂う、自慢の金色の髪を乾かしながら、
現在、泊まりこみ中の美咲に声をかける。
ちなみに美咲は、既にベッドの上で寝る態勢に入っている。
パジャマは可愛らしい白地に黒猫柄だ。実に素晴らしいセンス。
選んだのはこの私だ。魔女たるもの、形も重要なのだ。
私には子供すぎるから着れないけれど。

「明日は、とある紅魔館に遊びに行こうと思う。
いわゆる課外実習ってやつだな」
 

「え、永遠に幼き紅い月が君臨するという、あの伝説のですか!」

「ああ、それは自分で名乗ってるだけだから気にしないで良いぞ。
なかなか面白い奴らが揃っているし、本も借り放題だ」

「す、凄いです! 楽しみです」
目を輝かせて、興奮した声を上げる美咲。

「ただ、ちょっとばかり戦闘もしたりするかもしれない。
だから油断しちゃ駄目だぜ。
後、バナナはおやつに入るから持っていって良いぞ」
 
「わかりました魔理沙さん。
ちゃんと、忘れないように持っていきますね」
恐らく本当に持っていくのだろう。
真面目だからな。

「よろしい。それじゃあ明日に備えて寝るとするか」



灯りを消して、よいしょと一緒のベッドに入る。
だって一人暮らしだったから仕方が無い。
布団も1個しかないし、サイズもシングルだ。
枕は、家から持ってきたようだ。
どうやら、マイ枕にこだわりがあるらしい。

部屋は魔法道具で温度を調節しているから、寝苦しいことはない。
ちょっとばかり面倒な作業が必要だけどな。
一度この快適さを味わったら元には戻れない。
人間ってそういうもんさ。

ちなみに、今の私はネグリジェ姿だ。
色気とやらを出したくなるお年頃なのだ。
前に猫柄パジャマをアリスに見られたからとか、
そういうことでは決してない。

うつらうつらと船をこぎ始める見習い魔女。
美咲の頭を胸に抱えて、私もゆっくりと瞼を閉じる。
なぜだか分からないけれど、こうすると落ち着くんだ。
こいつと一緒に寝るようになってから、心地よく眠れる。

これが人肌が恋しいって奴かな。
・・・・・・少し違う気もする。

まぁ良いか、今日も安らかに快眠を貪るとしよう。



――――――――――――――――――



どんよりとした曇り空。生憎の天気だが、遠足は決行だ。
箒を駆り、紅魔館から少し離れた所まで飛ばし、ゆっくりと降下する。
そして紅魔館付近で徒歩に切り替え、門番に見つからないように様子を窺う。

・・・・・・

見た感じ、まだ気づかれてはいないな。
しかも居眠りしないで、珍しく真面目に働いているな。
やはり今日は正攻法ではなく、秘策を使うことにしよう。
この知力90の霧雨魔理沙に掛かれば、全てが思うがままさ。
後ろに控える美咲にそっと声を掛ける。

「美咲、準備は良いか?
打ち合わせ通り、作戦Aで行くぜ」
ちなみにBは戦略的転進だ。

「は、はい魔理沙さん。でも上手くいくでしょうか」
心配そうに私を見つめてくる。
安心させるように、肩に手を置いて元気付ける。

「大丈夫さ。絶対に引っ掛かる。
それに万が一失敗しても、喰われたりしないからドンと行ってこい」

「分かりました。じゃ、じゃあ行ってきます!」
そう言って、トコトコと門番の方に近づいていく黒魔女。

うーむどこからどうみても、完璧にお子様魔女だ。
完璧すぎるぜ。そのうち杖も持たせてみようか。
ペラペラ喋るタイプのアレだ。
砲撃魔女ならば必須な気がする。
私は要らないけどな。なんかうるさそうだし。

ちなみに今日の格好は、私が気合で直した正当な黒い魔女服だ。
直すのにかなり苦労したが、その甲斐はあった。
やはり魔女は黒に限る!
白はシスターだよな。そして杖はリライブ。
それが決まりなんだ。

お子様魔女の手には、バスケットと真っ赤なリンゴが沢山盛られている。
所謂、白雪姫的な魔女を演出してみた。
中々に似合っている。
カメラがあれば、幽香にも見せてやれたのに残念だ。
仕方がないから私だけで楽しむとしよう。



「・・・・・・何か御用かしら、そこのお嬢さん。
ここは悪い吸血鬼の住む怖いお屋敷だよ。
良い子は早く帰りなさい」
お姉さんぶった美鈴が、偉そうに美咲を引き止める。

「お勤めご苦労様です、綺麗なお姉さん。
良ければ、美味しいリンゴをお一つどうぞ」
はいどうぞ、と真っ赤なリンゴを手渡す美咲。
実に自然な動作だ。御伽噺通り。

「き、綺麗なお姉さん! 嬉しいことを言ってくれるわね。
じゃあ有難く頂くよ、可愛らしいお嬢さん。
さぁ、気が済んだらもうお家に帰りなさい」
頭を撫でて、帰るように促す門番。
・・・・・・ふふん、まんまと掛かったな。

「そ、それでは失礼しますね。また今度持ってきます」

門番に小さく手を振って、こちらに戻ってくる美咲。
良くやった、まさにパーフェクトだ。



「上出来だ。なかなか良かったぞ美咲」
親指を立てて、仕事を褒める。

「そ、そうでしょうか。心臓が飛び出そうでした」

「さぁ最後の仕上げだ。起爆スイッチを景気良く、ポチッと押してみようか」

「はい! ポチッといきますね」

左手で耳を押さえ、右手でボタンを押す仕草を取るお子様魔女。
ボタンは実際には持っていない。エアーボタンだ。
起爆させることに全く躊躇がないのは親譲りだな。

目で合図を送ると、私も両手で耳を押さえる。
対衝撃、閃光防御OK。
第一の爆弾を発動させるんだ!


「じゃあいきます! えいっ!」
ポチッ。起爆スイッチが入る。
その瞬間、門の方から物凄い爆音が響き渡る。

派手に見えるが、別に殺傷力はないから心配はいらない。多分。
光と音を最大限まで強化した『改良型山びこ山』のような物だ。
いわゆるコケ脅しってやつさ。
それでも暫くは行動不能になることは間違いないだろう。
2人で協力して作成した自信作だ。
そのうち霊夢にも試してみるとしよう。

「さぁて。ではでは正々堂々と門から入るとしようか。
行くぞ、美咲!」

「はい!」

ピヨピヨとヒヨコが頭を飛び回り、目を回している美鈴を尻目に、
私達は堂々と紅魔の門を突破する。
そういえば、弾幕以外で侵入するのは久々だな。



「ちょっと待ちなさい」

屋敷のドアを開けようと手を掛けた所で、落ち着いた声で引き止められる。
どうやら、小煩いメイド長に見つかってしまったらしい。
爆音に気付いて、時を止めてやって来たのだろう。

「なんだよ咲夜。サボってないで仕事しとけよ」

「その仕事を、今まさに増やしてくれた人達に言われたくないわね」
腕を組んで睨んでくる。怖い怖い。

「ご、ごめんなさい。咲夜さん」

美咲が頭を下げて謝る。
咲夜とはあの宴会の時に、少しだけ話をしていたらしい。
とても瀟洒な人だったと尊敬していたしな。
レミリアやフランとは話す機会がなかったようだが。


「貴方も師匠は選ばなきゃダメよ。
このままいけば、本泥棒がもう一匹増えるだけですもの」
 
「い、いえ魔理沙さんは悪い人じゃ」
 
「おいおい泥棒呼ばわりは酷いぜ。私は借りてるだけだ。
死んだらちゃんと返すぞ。死んだらな」
しっかりと説明する。誤解を招いたままなのは、良くないからな。

「全く、仕方のない娘ね。
・・・・・・美鈴、貴方大丈夫なの?
なにやら埃まみれだけど」
私達の後ろを見やる咲夜。
ハッと振り向くと、そこにはピンピンとした門番の姿が。


「いやー咲夜さん。死ぬかと思いましたよ。
この帽子がなければ即死でしたね。ハハハ」
帽子を手で整えて、私達に笑いかけてくる。
流石は妖怪だ。なんともなかったらしいぜ。

「もう、遊びに来たなら最初からそう言いなさいよ。
あの時、お嬢様も歓迎しているわよ、と伝えたでしょうに」
首をやれやれと振るメイド長。
眉間に深い皺が寄っている。
普段から苦労しているんだろうな。
主にわがままご主人様の相手に。
私も少しばかり、迷惑をかけているような気もしないこともない。

「本当だよ。いきなり爆破してくれたりして。
別にお客様を追い返すような真似はしないよ」
腰に手を当てて、プンプン怒っている美鈴。

一応妖怪なのにあまり怖くないな。
怒らせると怖いのは咲夜の方だ。人間なのに。
本当に人間なのか怪しいが、聞いたら怒りそうだし。

「じゃあ正式に招待してくれるのか?
今更弾幕で勝負するのも、気分が乗らないしな」

私は別に構わないが、何だか盛り上がらない。
どうせやるなら、また門からスタートしなおさなければ。
それがここでのお約束だ。

「良いわよ別に。お嬢様のお許しも出ているから。
それに今日は、特別な催しもあるのよ。
じゃあ、まずは大図書館から案内しましょうか」
 
そう言って、洋館のドアに手を掛ける瀟洒なメイド長。
一々動作が様になっている奴だ。

「・・・・・・・・・・・・ようこそ紅魔館へ。
幻想郷の夜を統べる永遠に紅い幼き月。
レミリア・スカーレットが治める、呪われた館へ」
 
ギイッと嫌な音を立てて、両開きのドアが開かれる。
妙な寒気を感じて、両肩を思わず抱きしめる。
なんだ、この違和感は。
美咲も私の袖をぎゅっと握り締めている。
通いなれた屋敷のはずが、なぜだか今日は違って見えた。



・・・・・・気のせいかな。





改良型山びこ山
鉄人を相手に大活躍したと言われるひみつ道具



[21386] 紅魔館へようこそ 『紅魔館の殺人』
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/09 20:55
・紅魔館 図書館



「それではパチュリー様。
可愛いお客様ともう一匹の案内をお願いします。
申し訳ありませんが、私は仕事がありますので」
一礼して退室するメイド長。
本当に忙しい奴だ。

「盗んだ本をようやく持ってきたのかと思ったら、
接待しろときたわ。まさに居直り強盗ね」
早速嫌味が炸裂する。
こいつの嫌味と皮肉を聞いていたら、
一日があっという間に終わってしまう。

「今日は吸血鬼様に招待された『賓客』だぞ。
さぁ、せっせとおもてなしして良いんだぞ」
椅子にふんぞり返ってやる。

小悪魔が机に紅茶を置いていく。
サービスの行き届いた、漫画喫茶・・・・・・じゃなくて図書館だな。
だからここには良く通うんだ。
魔術書は一杯あるし、紅茶は美味い。
さらに暇つぶしになる、動かない大図書館様もいるしな。

「まぁ良いわ。静かにするなら勝手にしてて頂戴。
但し、暴れたりしたら叩きだすわ。
ちなみに貸し出しは受け付けるわよ。そこの鼠以外は」

失礼にも私を指差してくる。
誰が鼠だ。ハハッ。
私は黄色い鼠のほうが好きだな。
黒い方はなんか色々と危険だ。

「本当に凄いですね。本が一杯・・・・・・というより、まるで迷路みたいです」
驚きの表情を浮かべて、辺りを見渡す美咲。
確かに最初見たときは驚くよな。
私も驚きのあまり10冊ほど持って帰ってしまった程だ。

せっかくだから見て回って来たらどうだと言うと、
興味津々に本の森に飛び込んでいく。実に素直で宜しい。
パチュリーが本から顔を上げて、その後姿をジッと見つめる。

「・・・・・・あの娘が、風見幽香の? そっくりというより生き写しね。
本人をそのまま幼くしたとしか思えないわ。
実に興味深いわね」

眉を少しだけ上げて、何か考える仕草をとるパチュリー。
本の虫が興味を抱くとは。
気になる事でもあるのだろうか。
見当外れのことを言うこともあるが、博識なのは確かだ。

「お前幽香と会ったことあるのか?」
この引き篭もり魔女と接点があるとは思えないが。

「別に直接会わなくても、知ることは出来るわ。
情報というのはそういうものよ。
それが正しいか、間違っているのかは自分で判断しなければならない。
鵜呑みにするだけならば、お猿さんでも出来るわね」

「まーたご高説が始まったぞ。しかも止める奴がいないときたもんだ」

「安心しなさい。貴方の場合、馬の耳に念仏という奴よ。
私もそんなに暇じゃないの」

「へいへい。今日も相変わらずの、いつも通りだな」
お手上げポーズを取ってやる。やれやれというやつだ。

また何か言い返してくるかと思ったら、黙っている。
珍しいな、こんなに早く呆れるなんて。
もう少し言葉のラリーを楽しみたかった所だ。



「・・・・・・いつも通り。いつも通りねぇ。
この館に入ったとき、貴方は本当にそう感じたのかしら。
『いつも通りの紅魔館だ』と」
今まで読んでいた本をパタンと閉じ、
視線を合わせてくる七曜の魔女。

「な、なんだよ急に。確かに少し違和感は感じたけど」


「それはそうでしょうね。だって今この館には魔法が掛かっているから」

「・・・・・・何を企んでやがる。また異変を起こしたら、今度こそボコボコにされるぞ。
巫女様は意外と気が短いからな」
また紅い霧でも発生させるつもりか?

「別に幻想郷に対して、私達が何かをしようとしている訳じゃない。
今回の標的は、貴方達だもの」

な、なんだってー!!
一人で思わず驚いてしまったが、人に迷惑を掛けるのが大好きな吸血鬼だしな。
あり得る話だ。

「標的ね。私達を捕らえて食べるつもりなのか? 怖い怖い。
だがそう簡単にやられると思うなよ」

懐のスペルカードにそっと手を忍ばせる。

一通り図書館を見物した美咲も戻ってくる。
万が一戦闘になったとしても、こいつだけはしっかり守ってやるつもりだ。
だから心配はいらない。というか何かあったら鬼母が飛んでくるし。

「・・・・・・レミィは、貴方達が今日この館に訪れることを、運命で読んでいたのよ。
そうしたら普通に歓迎するだけでは面白くない、と言い出してね。
そこで、ある催し物を思いついたのよ」

「も、催し物ですか?」

「そう。ところで貴方、推理小説は好きかしら」
美咲の方を向いて、質問を投げかける魔女。

「えーと、少しだけ読んだことはあります。ホームズとか」

「私はあまり読まないなぁ。どちらかというと直感を信じる方だからな。
細かいことを積み重ねて、追い詰めていくのを面白いと感じないんだ」

と天邪鬼を装い否定してみたが、実は娯楽小説としては大好きだ。
全員揃ったところで、偉そうに犯人を指名する。
あのカタルシスときたら最高だ。
欲を言えば、崖の上のシチュエーションが望ましい。


「別に直感でも構わないわ。見破ることができれば良いだけだもの」

「・・・・・・で、結局何をさせようって言うんだ。殺人事件でも起こすのか?
紅魔館殺人事件、メイド長は見たってタイトルはどうだ」

紅魔館の殺人。ちょっと面白そうだな。
完全犯罪をたやすく出来る能力持ちがいるから、実にアンフェアだが。

「2人とも、『フーダニット』って知っているかしら?」
質問に質問で返してくる。実に良くない。

「ふーだにっと? 知らないなぁ」
「私も聞いたことがありません」

「『誰が犯人なのか』という意味よ。
まだ何も起きていないから、犯人探しと言うには語弊があるけれど」
一旦紅茶を口に含むパチュリー。

「でも、もしかしたら何かが起きるかもしれない。
今夜はとても素敵な満月が出る筈だもの。
・・・・・・ごめんなさい話が逸れたわね。本題にいきましょう」

空になったカップに、小悪魔が紅茶を注ぐ。
折角なので私もお替りを頂くことにする。

「現在、紅魔館には『ニセモノ』が存在する。
どういう意味でニセモノなのかはご想像にお任せするわ。
誰がニセモノかは、私達はお互いに知らされていない」
淡々とした口調で、説明を再開する魔女。

「そいつを探し出して、当てれば良いのか。簡単じゃないか」
所詮紛い物は紛い物。良く観察すれば絶対にボロを出す。
というか本物はその間どこにいるんだ?
変な話だ。

「貴方の言う通り、ニセモノを見事に当てることができれば勝ちよ。
但し、この館には『疑心を強める魔法』を掛けているわ。
貴方達には、誰も彼もが疑わしく見えるはずよ」

「そ、そんな魔法があるんですか?」
私も聞いたことが無い。こいつ出鱈目を言っているんじゃないのか。

「さぁ。本当にそんな魔法あるのかしら。ブラフかも知れないわ。
だって、私が『ニセモノ』かもしれないもの」
フフフと薄ら笑いを浮かべる魔女。
・・・・・・パチュリーが怖く見えたのは初めてかも知れない。

「ま、魔理沙さんどうしましょう・・・・・・」

「なぁに、そう深く考えることはないさ。
所詮ゲームだ。怪しそうな奴に、お前がニセモノだ!って言ってやればいいのさ」

「先に一つだけ言っておくわね。
貴方達は正真正銘『本物』よ。入れ替わったりなどしていないわ。
・・・・・・フフ、私の言うことを信じる? それとも信じたフリをするのかしら」


・・・・・・嫌な事を言う奴だ。
確かに本を見て回ってる間に、美咲がニセモノと入れ替わった可能性は考えられる。
逆に美咲の側から見れば、私が入れ替わっているという可能性もある。

「ううう、こ、怖いです。魔理沙さんは、ほ、本物ですよね?」
手をギュッと握り締めてくる。
私も強く握り返す。

「馬鹿だな、本物に決まってるだろう。
さぁ、お喋りはここまでだ。
暇を持て余した化け物たちの余興につきあってやるとしよう」

まずは適当に館内散策でもするかな。
パチュリーの発言はブラフだろう。
自分の興味のあること以外は、滅多に動かない奴だからな。

「頑張ってねお二人さん。私はここでいつも通り本を読んでいるから。
何かあったら、尋ねてきても良いわよ」
再び、本を開いて、目を落とすパチュリー。

まだ出題編だからな。こいつがニセモノかどうかはおいて置こう。
一通り、話しを聞いて回らないと推理も出来やしない。

さてさてまずは誰の元に向かうかな。
もう一度咲夜、美鈴と話してみるか。
それともレミリア、フランと会話するか。

一番怪しいのはレミリア、咲夜コンビだけどな。
美鈴あたりは除外して良さそうな気はするが。

・・・・・・最悪なのは全員がニセモノだってオチだ。
これは反則だよな。
後は、ニセモノなんか居ないよ、引っ掛かったな!的なのもズルい。
というかニセモノって何だろうか。
見つけられないとどうなるんだろう。
そこらへんも曖昧だぜ。

考えても仕方ないな。危なそうなら逃げれば良いし。

・・・・・・では、いよいよ例の台詞を叫ぶとするか。
これがないと推理物は始まらない。
点睛を欠いてはいけない。

「美咲、こういう時には必ず言わなければならない、定番の台詞があるんだ。
忘れると、全てが台無しになるほど重要だ」

「そ、そうなんですか? 是非教えてください!」
じゃあいくぞと目で合図する。

「この事件は私が解く。普通の魔法使い『霧雨魔理沙』の名に掛けて!」


・・・・・・

「どこかで聞いたことがあるような」
「それは言わない約束だぜ」


「それと、思いついたことがあったら『よし、分かった!』と言うのも忘れるなよ」
「そ、それも重要なんですか?」
「ああ、とても重要なんだぜ」






『Mr.wikiからの手紙』
フーダニット (Whodunit = Who (had) done it)
誰が犯人なのか

クローズド・サークル
なんらかの事情で外界とは隔絶された状況下で事件が起こるストーリー。
過去の代表例から「嵐の孤島もの」「吹雪の山荘もの」などとも呼ばれる。
作者が大好きなテンプレ。




[21386] 紅魔館へようこそ 『Yの悲劇』
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/11 00:47



「一つ聞いても良いかしら」

「今忙しいから後にしてくれ」

「じゃあ聞かないから、さっさと出て行ってくれないかしら。
とっても邪魔なのよ」
笑顔で怒っているメイド長。器用な奴だ。
目は笑ってないけど。

「今は捜査中だぜ。素人はひっこんでな。
おいワトスン君。こんな所に怪しげな樽を見つけたぞ」

「はい魔理沙先生! 確かに怪しいです。
事件の臭いがしますね!」
メモをすかさず取る助手。実に優秀だ。

「それはどうみてもワイン樽じゃないの。素人探偵さん達」

今の私達の格好は完璧な探偵スタイルだ。
私はこの真夏にコートを着用し、虫眼鏡装備。
美咲はブレザーに、探偵帽子、伊達メガネの少年探偵だ。
流石に半ズボンは無かったので諦めた。

うーむ、少女が少年の格好をするのも中々良いな。
こういうのもあるのか。
新しい分野を切り開くことができそうな。

ちなみにこれらのブツは紅魔館貯蔵の衣装から失敬したものだ。
一体こんなもの、誰が着ているんだろうか。
実は咲夜の趣味だったりして。
レミリアに無理やり着せて喜んでるとか。
・・・・・・ま、まぁいいか。嗜好は人それぞれだしな。

「やれやれ、メイド長が五月蝿いから厨房に行くとするか。
噂によるとダイニングメッセージがあるらしいぞ。ワトスン君」
調理道具や材料で構成された謎の暗号。それこそがダイニングメッセージ。

「今は仕込み中だから、厨房は関係者以外立ち入りは禁止よ。
ナイフを頭に飾り付けられたいなら、止めないけれど」

恐ろしいことをサラッと言ってのける。
仕方がない、ここの調査はこれにて終了だな。
丁度良いから咲夜の事情聴取と行こう。

「ところで、咲夜もこのイベントに参加しているのか?」

「私も詳しくは知らないのよ。知っていたとしても教えないけど」

「流石は忠誠心溢れるメイド長だ。感心するぜ」

「褒めても何も出ないわよ。それよりさっさと食料庫から出て行って頂戴。
ディナーまでもうすぐなんだから、ツマミ食いは駄目よ」


「仕方ないな。じゃあご主人様に会いにいくとするか。
この館の、最重要人物だしな」

「は、はい。緊張しますね。
本物の吸血鬼と会うのは初めてです」

「そんなに期待するとガッカリするぞ。
上げたハードルを、半分くらいまで下げとくんだ」

「・・・・・・失礼な真似はしないようにね。
と言ったところで、貴方には無駄だろうけど」

作業を始めた咲夜を残して、私達は貯蔵庫を後にする。
そうだ。大事な事を忘れていた。

「美咲、その前にちょっと庭にいかないか。良いものがあるんだ」

「はい。構いませんけど、何があるんですか?」

「そいつは行ってからのお楽しみさ」

きっと喜ぶぞ。私も最初に見たときは圧倒されたからな。


――――――――――――――――――


庭に通じる扉を開けて、外に出る。
どんよりとした雲は晴れて、今は夕陽が射している。
中々良いシチュエーションだ。


「うわぁ、凄いですね。こんなに沢山の薔薇見たことがありません!」

庭一杯に広がる、真っ赤な薔薇。
スカーレットを象徴するかのように見事なほどに真っ赤だ。
紅魔館に来たなら、一度は見るべき名所だな。
幻想郷ウォーカーにも載せておくべきだ。


「そうだろう? お前の母ちゃんの向日葵畑も凄いが、
こいつも中々に素敵だと思うぜ」

「本当に素敵です・・・・・・本当に」

しばし観賞タイムだ。
本当に良いものに言葉はいらない。
背中で語る。それが漢ってやつらしい。
拳で語るのは、宿敵と書いて友と呼ぶ間柄だ。


ぼーっと花達に見とれている美咲の元を離れ、すぐ側にあるベンチに腰掛ける。
ふー、しかしこのコートは殺人的に暑いぜ。
夏にコートって。ありえん。
我慢できずに脱いで、ベンチにポイッと放り投げる。
いつもの白黒エプロン服にクラスチェンジ。
ようやく生きた心地がした。ノリで何でも着るもんじゃないな。
ボヤキつつ先ほど手に入れた、高級な戦利品を取り出そうとポケットに手をいれる。


「・・・・・・ねぇ、魔理沙さん。一つだけ聞きたい事があったんです」

薔薇の方を向き、座り込んだまま私に声をかけて来る美咲。
その表情を窺うことは出来ない。
ちなみに伊達メガネは既に外している。

「なんだなんだ。遠慮せずに言ってみたまえワトスン君」
ポケットから手を出して、腕組みをする。
ああ、戦利品が溶けてしまう。


「どうして、魔理沙さんは私に優しくしてくれるんですか?
私は妖怪で、貴方は人間なのに」

「なんだそりゃ。もしかして、パチュリーの言ったことを気にしているのか?
ありゃブラフだから、気にするだけ無駄だぞ」

真面目だから信じやすい。もうすこし人を疑うことを知らなきゃ駄目だ。


「いえ、そうじゃありません。そうじゃないんです」

「じゃあなんだ。スパッと言った方が楽になるぞ。
さっさと真実を吐いてしまった方が良いな」
真実は常に1つだぜと、おどけて答えを返す。


「なんで母様が、私を外に出したくなかったか、不思議に思いませんか?
その存在すら隠しておくなんて、おかしいと思いません?」

スッと立ち上がり、私に視線を向ける美咲。

その瞳は虚ろで、私を見ているという感じではない。
・・・・・・本当にこいつは美咲か? まるで人形の瞳だ。
やはり図書館で、いつの間にかニセモノと入れ替わっていたのか?
いやいやそんな筈は無い。今までは違和感を感じなかったのだから。


「ただの親馬鹿だろ。それ以外ないじゃないか。
お前を隠しておいたのも、ちょっかい掛けられたくなかったからさ」
アホらしいと手を振って、答える。


「・・・・・・本当にそうなんでしょうか。私は違うと思います」

淡々とした口調で否定する。
こんな声をこいつは出せただろうか。
感情が篭っていない。


「ねぇ魔理沙さん。親子だから似ていると皆さん言いますが、
私と母様は、あまりにも似すぎているでしょう。本当にそのまま幼くしたみたい。
まるで生き写しです。自分でもそう思います。
・・・・・・実に、実に薄気味悪いでしょう?」

・・・・・・一体何を言い出すんだ。
幽香が聞いたら吐血して、卒倒するぞ。
本当に居なくて良かった。絶対に白目を向いてぶっ倒れる。
確実に閻魔様ご対面コースだ。


「何を言っているんだお前は。話が飛躍しすぎだぞ。
暑いから少し惚けているんじゃないか」

「自分に似た存在が、勝手に幻想郷を飛び回る。
風見を名乗り、好き勝手に動き回るんです。
花の大妖怪には耐えかねる、屈辱ではないでしょうか。
でも母様はお優しいから、私に本当の事を言うことができない」

クスクスと笑い出す妖怪。こいつはやはり妖怪だ。
私の知る、可愛らしい見習い魔女じゃ、ない。


「だけど、私は自由にこの世界を飛んで見たかった。
皆と弾幕ごっこをしてみたかった。
そして、母様を何か一つ上回ることで、存在を認めて欲しかったんです。
母様に勝てば、皆私を見てくれるでしょう?」


「おい、いい加減にしろ。催眠術でも掛けられてるのかお前!」

「でも私では勝てない。風見幽香にはどう足掻いても勝てない。
この前の戦いで、それが嫌と言うほど理解できました。
ああ、一体どうすれば良いのか。このままでは誰も認めてくれない。
お願いします。教えてください魔理沙さん」

私の方にゆらゆらと近づいてくる美咲。
どう見ても、正気じゃない。


・・・・・・駄目だな、これは。紅い薔薇の瘴気に当てられたか。
素早く『睡眠』の術式を組んで発動させる。
あまり気は乗らないが仕方が無い。


「・・・・・・・・・・・・」

靄のようなものが生じ、美咲を覆い包み込む。
ガクリとその場に倒れる落ちる美咲を、急いで受け止める。
無事に効いた様だ。だがこのままではまずいな。
咲夜に頼んで客室を借りるとしよう。少し休ませないと。

私は美咲を抱きかかえ、館に戻り咲夜を探すことにした。



・・・・・・

「あら、どうしたの魔理沙。その娘、なんだか調子が悪いみたいだけど」
階段の前で、下ってくる咲夜と出会うことが出来た。
まさにナイスタイミングと言う奴だ。

「ちょっと暑さにやられちゃってな。少し寝かせてやりたいんだ。
悪いが、客室を借りても良いか?」

「それは大変。すぐに案内するわ。
ついでに水分も取らせないと駄目よ」
妖精メイドに命令し、手配を整えるメイド長。

「この娘は、私が責任をもって連れて行くわ。
・・・・・・実はお嬢様が貴方の事を呼んでいるのよ。
だから悪いけど、向かってくれるかしら」

「い、いや私も一緒に」

「大勢で騒いでも仕方ないでしょう。
ここは私に任せなさい。さぁ行った行った」
私から強引に美咲を受け取り、廊下の奥へと去っていく咲夜。

やれやれ、こうなっては仕方が無い。
レミリアお嬢様の元に向かうとしよう。
2人の姿が見えなくなるまで見送った後、私は階段をゆっくりと上る。




――――――――――――――――――

・レミリア・スカーレットのお部屋



「やぁ、魔道を追い求める探求者にして、我が友よ。
随分な顔をしているじゃないか」

ニヤニヤと楽しげに、ワインを飲んでいるお子様吸血鬼。
生憎、ワイワイと皮肉を楽しむ気分じゃないんだが。

「なぁに、誰かさんの思いつきのせいで苦労しているだけさ。
ニセモノだなんて、何考えてるんだお前は」


「フフ、今日は満月だからねぇ。心も疼くというものさ。
ちょっとした悪戯ぐらい見逃してくれても良いだろう。
・・・・・・時に、愛らしい見習い魔女は大丈夫かい?」

「・・・・・・まさか見てたのか?」

「ここは私の終の棲家だよ。全てが私の思うまま。
鼠一匹だろうが手に取るように分かるさ」
仰々しく手を広げてみせる吸血鬼。

いつにも増してハイになっていやがるな。
なんかムカついてきたぜ。

「そうかいそうかい。じゃあ私の行動も全て見ていたんだな?」

「勿論だとも。私は全ての運命を見通すことが出来る。
そこに例外は存在しない」
ワインをクイッと傾ける。カリスマが溢れ出す。


「ほー。それは良いことを聞いた。
じゃあお楽しみは夕飯までとっておくか。
ネタばらしが、2人だけじゃなんとも寂しい」

「・・・・・・何を企んでいるの。
たかが普通の魔法使い如きが、私を出し抜こうとでも?」
さっきまでとは違い、不愉快そうに睨んでくる馬鹿吸血鬼。

「そう慌てなさんな。じゃあまた夕飯時に呼んでくれ。
私は美咲の所に戻ってるからな」

返事を待たずに、『レミリア』の私室を後にしようとする。
あー念のために一応確認しておくか。

「なぁ、フランの奴はどうしてるんだ?」

「あの娘なら、今日は地下室から出てきていないよ。
何か用があるなら伝えてあげましょうか?」

「いや別にいい。それじゃあ、また後でな」

手を振って退出する。
はー、それにしてもなんだか疲れたぜ。今日は色々ありすぎだ。
大きくため息を漏らしてしまう。

しかし、さっきのアレはなんだったんだろうか。
パチュリーの言ってた『疑心を強める』という奴のせいか?
私が見たのは、美咲に対する疑心が生んだ幻覚だったのか。
美咲は以前『母様に勝ちたい』、確かにそう言っていた。


その勝ちたい理由、あれこそが美咲の本心なのだろうか。
だとしたら余りにも悲しいすれ違いだ。
幽香の気持ちが、娘に届いていない。
美咲の気持ちが、親に届いていない。


・・・・・・考えすぎだな。
引き篭もり魔女の陰険な魔法のせいだ。
きっとそうだ。そうに違いない。
私は両頬を強く叩くと、美咲のいるであろう客室へと足を向けた。





『Mr.wikiからの手紙』

ダイニングメッセージとダイイングメッセージ

(滲んでいて、読むことが出来ない)







[21386] 紅魔館へようこそ(完) 『スカーレット家の一族』
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/12 01:24


紅魔館のとある客室。
私は、未だ目を覚まさない見習い魔女と共に居る。
そんなに強い効果を持つ魔法じゃないから、もうすぐ目を覚ますはずだ。

喉の渇きを覚え、メイド長が置いていった水を口にする。
・・・・・・さて、なんと言って声を掛けようか。
無かったことにしてしまうのが一番なんだが。


「・・・・・・ん。こ、ここは」

さぁ、眠り姫がお目覚めだ。
無理やり笑顔を作り、努めて軽い口調で挨拶をする。

「お目覚めですかな、眠り姫。
急にぶっ倒れるから、吃驚したんだぞ」

ポンポンと軽く頭に手をやる。
実に撫でやすい形をしている。

「私、何で・・・・・・」

「多分、日射病だろ。急に太陽に当たったからな。
それにここは一応吸血鬼の棲む館だ。
知らないうちに、緊張していたんじゃないか」

「・・・・・・・・・・・・」
俯いて、何か考える仕草を取る美咲。
やはり覚えているのか?

「おいおい、何を深刻な顔してるんだ。
これから楽しいショーが始まるっていうのに」

「・・・・・・魔理沙さん。私、何か変な事を言いませんでしたか?」

「別に言ってないぞ。気にしすぎだぜ」

「ほ、本当ですか?」

やれやれ。今日はなかなか粘り強い。
例の魔法のせいかは知らないが。
止むを得ない、奥の手を使わせてもらおう。

「んー、あんまりしつこい奴はこうだぜ!」

美咲の頭を抱きしめて、私の『豊満な』胸に押し付けてやる。
子供を黙らせるにはこれが一番だぜ。

「ま、魔理沙さん! や、やめてください、苦しいです」

苦しそうに、むがむがともがいている。
あーしかし柔らかくて、実に抱き心地が良いな。
もう少し堪能するとしよう。


コンコン
ガチャ

ノックの音がすると共に、ドアが開かれる。
格好よく言うと、ヘブンズドアが開かれた的な。

「調子はどうかしら。夕食の準備が・・・・・・
整ったけれど、お邪魔だったみたいね。
どうぞごゆっくり」

冷静に去っていくメイド長。
なんだか恐ろしい誤解をされそうな気がする。

「お、おいちょっとまて! 何か勘違いしていないか」

美咲から手を離して、急いで咲夜を呼び止める。

「別に貴方がどんな趣味をしていようと、私には関係ないもの。
この百合ペドたらし外道女! なんて、全然考えていないわ。
でも、TPOは少し弁えるべきとは思うけれど」

さらっとキツイ毒を撒き散らす馬鹿メイド。
自分のことを棚にあげて良く言うぜ。

「誰が、百合ペドたらし外道女だ。
ちょっと元気付けていただけだぜ。
純真な子供の前で、爛れた妄想を垂れ流すんじゃない」

「それは失礼。私の勘違いだったかしら。
そうそう、夕食の準備が整ったから呼びに来たのよ。
フランドールお嬢様以外は、全員食堂に集まっているわ」

「そうか。丁度お腹も空いてきた頃だしな。
美咲、体調が良ければ、そろそろ行こうと思うんだがどうだ?」

「はい、私はもう大丈夫です。ご心配おかけしました」
ベッドから起き上がり、こちらを向く美咲。

とりあえずはいつもの調子を取り戻したみたいだな。

「よし、じゃあ豪華なディナーを楽しむとするか。
ついでにニセモノの顔も拝んでやろうじゃないか」

「わ、分かったんですか!? 一体誰なんですか?」

「ふふん。この私を誰だと思っているんだ。
幻想郷のコロンボとは私のことだぜ」

○畑でも良いけど。

「はいはい。じゃあコロンボさんと可愛い助手さん、
用意ができたら食堂に向かって頂戴ね。スープが冷めちゃうから」

退出していく咲夜。いつかギャフンと言わせてやるぜ。


「じゃあ私達も行くとするか、ワトスン君」

「はい先生! 名推理楽しみにしてますね!」


推理というか、罠に嵌めて自供にもっていくパターンなんだけどな。
前にも言ったとおり、論理的証拠を積み上げていくのは面倒で嫌いなんだ。
つまり、今回の推理は全て直感頼りということだ。
実に私らしくて良い。

さぁ、ニセモノにとっての最後の晩餐に向かうとしようじゃないか。




――――――――――――――――――
・紅魔館 大食堂



「霧雨魔理沙、風見美咲、今日は良く来てくれたね。
紅魔館の主として、二人を盛大に歓迎するよ。
しかも今日は満月だ。実に素敵な忌まわしい夜。
この呪われた晩餐に乾杯しようじゃないか!」

超ノリノリでカリスマを撒き散らす吸血鬼。
テンションが高すぎるぜ。

長方形の無意味にでかいテーブルには、スープと前菜のオードブル。
咲夜がテーブルを回り、ワインを注ぎ始める。

「さぁ、ワインは行き渡ったかな? 
年代物だからね、是非味わって飲んで欲しい。
これが熟成されるまでにどれだけの時間が・・・・・・」

途切れることなく、薀蓄が語られる。
原材料から解説を始めそうな勢いだ。
誰かあのソムリエもどきを止めてくれ。

「レミィ。スープが冷めてしまうわよ。
自慢話はそこそこにして、乾杯しましょう」

「そうですよお嬢様! もうお腹ペコペコですよ。
久しぶりに豪華な食事にありつけそうなのに」

ひもじい美鈴。門番稼業も楽じゃないらしい。

「実に情けない。紅魔館の住人たるものが、目の前の餌に惑わされるとは。
もう少し威厳というものを身に着けるべきだ」

「レミィ。私が乾杯の音頭を取っても良いのかしら?」

「駄目に決まっているだろう。
・・・・・・ふぅ、わかったよパチェ、さぁ皆グラスを手に取ってくれ」

グラスを手に取る。実に長い前置きだった。

「コホン。では、この記念すべき、忌まわしき夜に乾杯!」

「「「乾杯!」」」

各自がワインを口にする。さすが年代物、味わい深い。
中々飲める代物じゃないからな、ガブガブ頂くとしよう。
・・・・・・やるべきことをやった後でな。


「さて、お待ちかねの紅魔館フルコースにあり付きたいところだが、
片付けるべき課題があったよな?」

「何だい魔理沙。私の持て成しにケチをつけるつもりかい」
ジト目で睨んでくるが全然怖くない。

「いやいや。例の『ニセモノ』探しだよ」

「ああ、それで分かったとでもいうつもり?」

さぁいよいよ決めるべき時が来た。
テーブルをバン! と叩き、立ち上がる。

「もちろんだとも。・・・・・・紅魔館住人のニセモノ、
いや、『紅魔の鏡面鬼』はこの中にいる!!」

キマった。


「「「!?」」」




「・・・・・・というか『紅魔の鏡面鬼』って何なのよ。
それにアンタたちも『!?』なんて、一々驚かないで良いわよ」
容赦なく突っ込んでくる吸血鬼。


「レミィ、お約束は大事なのに。空気は読まなきゃ駄目よ」
「そうですよお嬢様。そこは驚かなくてはいけません」
逆に突っ込みを入れる美鈴、パチュリーコンビ。
ナイスだ。

「申し訳ありませんが、ちょっと大事な物を取ってきますね」
退出していく咲夜。いよいよだな。


「さて、霧雨魔理沙。ニセモノが分かったと言ったが、嘘ではないだろうね。
外れていたら、恐ろしいことになるよ」

「だ、大丈夫ですか? 魔理沙さん」

「任せておけ美咲。
さて、レミリアだっけか? お前、私の行動を全て見ていたと言ったよな」

「勿論だ。吸血鬼は詰まらない嘘など吐かないよ」

「ほー。じゃあ一つだけ謝ることがあるんだ。
お前から伝えておいてくれるか」

ポケットから、例のブツを取り出す。

「一体何を言っている。簡潔に言いなさい」
トントンとテーブルを叩いて、イラつきを隠せない吸血鬼。

「実はさ、これ食べちゃったんだ。
お前の妹のだろ? メンゴメンゴって伝えておいてくれ」

空になった○ーゲンダッツ限定版をテーブルに置く。
ちなみに赤い字で『フランのアイス! 食べたら殺ス!!』
と書いてある。


「あああああああああああああ!!!!!!!
わ、私の○ーゲンダッツ ヘブンリースプーン ダージリン味が!!
なななな、なんて事を!!!!」


ザザーンと波の音が聞こえてきた。
これがないと始まらない。
大体1時間30分ぐらい経ってからの見せ場だからな。

「おやおやおや。今なんと仰いましたか『レミリア』お嬢様。
いや、『紅魔の鏡面鬼』ことフランドール・スカーレット!」

ビシッとレミリアもどきに指をさす。やはり気持ちが良いな。
一度やったら病み付きになるのも分かる。

「な、何を言っているの。私はレミリア・スカーレットよ!
そ、それより何で私のアイス勝手に食べてるのよ!
限定品で、超高級品なのに!!」

ザザーン。ザザーン。
崖に波が叩きつけられる音。実に心地よい。

「おいおい落ち着けよフラン。
もう吐いちまえって。お前ら姉妹は嘘が吐けないんだからさ」

「う、うるさい!
それに咲夜! その波の音を今すぐに止めなさい!」

ざるを動かすのを止めるメイド長。
ざるの中には小豆が一杯。
それを大きく動かすことで、波の音が出るんだぜ。
豆知識だ。

「しかしフランドールお嬢様。
お嬢様がこれを用意しておけと仰ったのでは?」

「私は『レミリア』でしょ! この馬鹿メイド!」

「申し訳ございません。では片付けて参ります」
すごすごと、ざるを片付け始める咲夜。

パチュリーは口元を手で押さえて、笑いを堪えている。
だが肩が思いっきり震えていて、涙が滲んでいる。
美鈴は遠慮なくテーブルを叩いて、馬鹿笑いしている。
美咲は目を丸くしている。
小悪魔は転げまわって、腹を押さえている。

「ま、魔理沙! 何か証拠でもあるのかしら。
当てずっぽうなんて、そんなの認めないわ!」

「いや証拠なんて特に無いぞ。
というか、お前ら姉妹のどちらかなのは間違いないと思ってな。
カマをかけたのさ」


「じゃ、じゃあ失格ね。 証明する事ができなければ意味が無いわ!」

「・・・・・・その羽根や容姿。お前、魔法で誤魔化してるだろ。
今から『解呪』を掛けてやる。
それで一発解決さ」

指を『レミリア』に向ける。

「ちょ、ちょっと待って! そんなのズルい!」

「うるさい。これでも喰らえ!」

私のゆびから、いてつくはどうがほとばしる!
レミリアにかかっているまほうのききめがなくなった!
なんと、フランドールがあらわれた!


「ううううう。折角、色々と考えた推理イベントだったのに。
台詞やポーズやBGMも一杯考えたのに。
こ、こんな強引に解決されるなんて、うううううう」

がっくりと膝をつき頭を垂れるフラン。
私はフランの肩に手を置く。
BGMは『魔女たちのララバイ』だ。
演奏はプリズムリバー三姉妹。一体何時の間にやって来たんだろうか。

「なんで、こんなことを」

エンドロールが流れる中、私は優しくフランに問いかける。

「お姉さまが夏バテでダウンして、寝込んじゃったから。
それで貴方達が来るから、どうしようって悩んでいたの。
・・・・・・でも一番の理由は、暇だったから」


「・・・・・・悲しい事件だった。こんな解決しかなかったんだろうか」
私は思わず上を向く。シャンデリアが眩しい。

「事件も解決したことだし、ディナーを再開しましょう。
さぁ妹様も席に戻って」

さらっと事件を過去のものにした七曜の魔女。
美鈴は既に食事を開始している。
小悪魔は仕事に戻った。

「う、うん。じゃあ改めてディナーを再開しようか。
美咲のことも色々聞きたいしね!」

さすがお子様、元気を取り戻すのが早い。
美咲とお喋りを開始するフラン。良い友達になりそうだ。

しかし、吸血鬼が夏バテって。相変わらず面白い奴だぜ。
後で見舞いに行って、存分に笑ってやるとしよう。

「ところで、『疑心を強める魔法』ってのは本物だったのか?」

前菜をパクつきながら、一番気になることを尋ねてみる。

「そんな便利な魔法あるわけないでしょ。常識で考えなさい」

あっさり否定するパチュリー。
やっぱりブラフだったか。そんな魔法ある訳が無い。




・・・・・・じゃああれは、一体なんだったんだろうか。





――――――――――――――――――
・レミリア・スカーレット寝室


「お嬢様。お具合はいかがですか?」

「見て分かるだろう。非常に宜しくない」

「これからは、冷たいものばかり食べるのはご自重下さい。
それと涼しい部屋に、引き篭もってばかりではいけません」

「分かっているよ。まぁ今回はフランに花を持たせてやったのさ」

「ただ単に、吸血鬼が夏バテ(笑)などと思われるのが嫌だったのでは」

「全然違うわ、馬鹿メイド!」

「そうですか、申し訳ありません」

「それに、あのままだといずれ暴発する運命だったからね。
すこし種を蒔いて置いたのさ。どんな花が咲くことやら」

「何か仰いましたか、お嬢様?」

「ううう、気持ち悪い、体がだるい。薬取ってくれ」

「はい、お水とお薬です」

「今日はもう良い。寝る」

「では私も添い寝を」

「いらんわ!」









○ーゲンダッツ ヘブンリースプーン ダージリン味
1個1000円限定販売。カカオ味もある。


魔女(聖母)たちのララバイ
火曜サスペンス劇場エンディング曲。
名曲です。



[21386] 15話目 銀髪怪奇ファイル ~二つの顔を持つ教師~
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/14 20:37



「これが林檎を門番に渡したときの写真、
こっちが望遠で撮影した少年探偵風の写真です」

天狗が机の上に、美咲の写真を置いていく。
私は食入るように、幾つかの写真を手に取りジーっと見詰める。
可愛らしい魔女姿の美咲に、少年探偵風の美咲が写っている。


「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

「き、気に入らないようなら持って帰りますよ。
御代も結構ですから」

天狗が机の上の写真をかき集めて、片付けようとする。


「待ちなさい。誰が気に入らないと言ったの。
全てのネガと写真を買い取りましょう」

用意しておいたジュラルミンケースを取り出し、
机の上で蓋を開ける。
ケース一杯に詰まった札束。見る者を圧倒させることは間違いない。

「こ、これは?」

目をまん丸にする射命丸。

「貴方への報酬よ。まさにパーフェクトな仕事だったわ。
今ここで、現金で支払いましょう」

「い、いいんですか幽香さん? ちょっと大袈裟なような」

「構わないわ。私にとってこんなものは紙屑みたいなものだから」

外でも紙屑だけど。

「で、では有難く頂戴します。これで新型のカメラを調達することにしますよ!」

ケースを受け取り、満面の笑みを浮かべる天狗。
使い捨てぐらいなら調達できるかもしれないわね。

「また機会があったらお願いするわね」

「任せてください! ではではこれで失礼しますね」

鼻歌を歌いながら、ケースを大事そうに抱えて飛び去っていく天狗。
・・・・・・そんなに嬉しいのかしら、あの札束が。
所謂『ゴート札』なのに。この前花畑でうっかり見つけてしまったものだ。
どうしましょうと思っていたので、丁度良かった。

ちなみにカドの方に、本物のお札を一枚乗っけて置いた。
私もそこまで鬼ではないもの。
ちゃんと報酬は支払うわ。


「それにしても良く撮れているわね。早速アルバムに入れて永久保存するとしましょう」

この夏の間、気になって気になって仕方がないので、
射命丸に依頼して、時々撮影してもらっていたのだ。
まさか紅魔館を訪れているとは思わなかった。
白黒のまねをして、本を盗んだりしないと良いが。

アルバムに1枚ずつ丁寧に綴じていく。うーむ素晴らしい。
心のアルバムも良いが、形あるものも素敵だ。
また宝物が増えてしまったわ。



「・・・・・・これは何かしら」

一枚だけ、とんでもない写真を見つけてしまった。
窓を挟んで撮影されたものらしく、表情までは見えない。
だが、明らかに私の娘と魔理沙が抱き合っている写真だ。
ど、どういうことなの。意味不明なシチュエーションよ。
お、おのれ霧雨魔理沙。いよいよその魔手を伸ばし始めたようね。
私の目が黒いうちは好きにさせないわよ。

後できっちり白黒を問い詰めるとして、コレをどうするべきか。
捨てるのも勿体無いし、取っておくのも見逃しがたい。
・・・・・・仕方が無いので、『X-FILE』とシールが貼られているファイルに綴じる。
これは色々と、人には見せることができないブツが収められている。
とにかくヤバイので絶対に誰にも見せない。隠し場所もベッドの下だ。
更に暗号式の鍵も付けてある。


「さて、と」

カレンダーを見る。
もうすぐ8月も終わりだ。ようやく長く苦しかった夏が終わる。
9月の頭にはでっかい花丸をつけてある。
嗚呼、本当に長かったわ。
一応魔理沙には面倒を見てもらったということで、
夕食をご馳走するつもりだ。

そこで、そのための食材やらを人里に調達しに行かなければならない。
よっと立ち上がり、外出準備をする。
『よっこらせ』と言うようになったら色々と終りらしい。
まだまだ私はヤングなマザーなのよ。



――――――――――――――――――
・人里



上空から、華麗に人里に舞い降りる。
門からだと見張りが付いて、色々と五月蝿いのだ。
ささっと用事を済ませて撤収するのが賢い。
何しろふざけた本により、友好度最悪などと書かれてしまったからだ。
さっくり買い物するとしましょう。


「そこの妖怪。ちょっと待て」


いきなり後ろから、声が聞こえてくるが無視する。
何やら暑苦しいツノツキのような気がするからだ。
長々としたお説教を聞く気は全然ない。

「おい、聞こえていないのか。待てと言っている」

あーあーきこえないきこえない。


「待てと言っているだろう! 何回言わせるんだお前は」

ガシッと肩を掴まれてしまった。
はぁ、本当に五月蝿いわね。


「この暑いのに五月蝿いわね。何か御用かしら?」

「お前みたいな危険で、力のある妖怪がウロウロしていたら、
警戒するのは当たり前だ」

こいつは上白沢慧音。口うるさい熱血教師だ。
GTKを目指しているらしい。
言いたいことも好きなだけ言えるこんな世の中じゃ。ポイズン。

「ただ買い物に来ただけよ。私が里で暴れたことなど、一度もないでしょう?」

私は善良な妖怪なのだから。
わたしはわるいようかいじゃないよ。ぷるぷる。

「・・・・・・どの口がそんな事を言えるんだ。
毎回毎回、呪われた人形やら写真をポイポイ里に捨てているのは誰だ!
その度に大騒ぎになって、妹紅と私がどれだけ苦労していることか」

「ごめんなさい、貴方が何を言っているか良く分からないの」

「この前、歪んでいる写真を里にばら撒いただろう。
お前を見たという目撃者が何人もいるんだ。
その写真が夜中に一斉に具現化して、とんでもない騒動になったんだぞ!」

目を吊り上げて怒り出す半人半獣。
カルシウムが足りてないんじゃないかしら。

「どうどう、落ち着いて。怒ると寿命が縮まるわよ」

まるで暴れ牛のよう。きっと赤いものを見たら突撃するわね。

「誰が怒らせているんだ!!」

大声を張り上げるから、周りが一斉に注目し始める。
実に恥ずかしいわ。

「ふぅ、わかったわよ。
話だけ聞いてあげるから、何処か落ち着ける場所に連れて行って頂戴。
できれば美味しいお茶も飲みたいわね」

「・・・・・・では私の家に来るが良い。今妹紅も来ているからな。
色々と話を聞かせてもらおう」

「ちゃんと後で買い物させてもらうわよ」

「分かっている。別に悪さをしなければ、とやかく言うつもりは無いんだ」

グチグチとぼやき始める。はー、厄介なのに捕まってしまった。
平日に来るべきだったわね。寺子屋があれば、こいつに会うことはなかった。
本当失敗だわ。


「さぁ上がってくれ」

「はいはい。お邪魔するわよ」
質素な造りの家に上がりこむ。

「お帰り、慧音・・・・・・って。なんでお前がいるんだよ」

「うるさいわね竹林根無し草」
手でヒラヒラと追いやる仕草を取る。

モンペ姿が実に似合っている女だ。
その名も藤原モコー。モコモコと言ったら怒られた。
ノコノコみたいで素敵なのに。

「相変わらず失礼だね。おい慧音、何で幽香がいるんだ」

「往来で不審な行動をしていたからな。職務質問後、事情聴取という奴だ」

「私が何時何処で不審な行動を取ったのかしら」

「ハハッ、お前の場合歩く災害みたいなもんだからな。
見つかり次第、確保されるのも仕方がないよ」
笑いながらズズーッとお茶を啜る妹紅。

コイツの場合、殺しても死なないので殺り甲斐がない。
相手にするだけくたびれ損だ。
無視してちゃぶ台の側に腰掛ける。

「それにしても、この家は客にお茶も出さないのかしら。気が利かないわね」

「まぁ待っていろ、今用意するから。但し大人しくしているようにな」
台所の方に下がっていく慧音。

不死の銀髪娘と二人きりになる。
見かけは小娘だが、中身は平安生まれの貴族崩れだ。
『そこのおじゃる丸、元気でおじゃりまするか』とからかってやったら
デカい炎の玉を投げつけられた。とにかく洒落の分からない女なのだ。

と言うわけで、私から話を振るつもりは全く無かったのだが。



「実はさ。この前の宴会でお前の娘と話す機会があったんだが、大きくなったなぁ。
私はこれ以上成長することはないけど、やっぱり感慨深いものがあるよな」

気軽に話しかけてくる。この前の『火の玉』の仕返しに無視してやりましょう。

「・・・・・・・・・・・・」

「お前も見事な親馬鹿になってしまって。見ていて恥ずかしいぐらいだよ」

「・・・・・・・・・・・・」

「あの時、あの子を虫けらみたいに扱っていたのが、今となっては信じられないな。
なぁ、一体どういう心境の変化だ? 是非とも伺いたいね」

「・・・・・・妹紅。それ以上喋り続けたら、顔を潰すわ」

「過去を無かったことにするつもりか?
お前は娘と違って成長がないなぁ。長く生きてる妖怪のくせに」

横に置いてあった日傘を取り、垂直に全力で振り降ろす。
手加減は一切していない。化け物相手に加減など必要ない。
グチャっと鈍い音が部屋に響く。


「い、痛ってー!! おおい! 不老不死でも痛みはあるんだぞ。
全く何度言えば分かるんだよ」


「五月蝿いのよ。蓬莱の呪いに犯された『生ける屍』の癖に」

腕で咄嗟にガードしたらしい。普通ならばもう腕は使い物に成らない。
だがこいつら蓬莱人は化け物だ。見る見るうちに再生していく。
粉微塵にしても再生してくる。相手にするだけ馬鹿馬鹿しい。
完全に潰すとしたら精神を殺るしかないが、果たしてどうだろうか。
もう既に狂っているのかもしれない。
でなければ、永遠に生き続けることに耐えられるわけが無い。

「・・・・・・私を屍呼ばわりするのは許さないよ。今すぐ取り消せ」

「フフ、お断りよ。冗談はそのふざけた服装だけにしておきなさい。
また骨まで粉微塵にされたいのかしら」

「不尽の火から生まれるは、何度でも甦る不死の鳥。
この鳳凰星座の妹紅に、同じ技は二度と通用しないよ!!」
最早常識! と叫びつつ両手を曲げて、鳳凰の構えをとるフェニックス妹紅。
最近妙な漫画にハマり出したらしく、小宇宙がどうとか騒いでいた。


部屋の温度が急上昇して、対峙しているだけで体力を消耗する。
とりあえず、破壊光線で綺麗に吹き飛ばしてやろうと手をかざす。
里で暴れてはいけない? これは軽い喧嘩の様なものだから問題ないわ。
だから問答無用で吹き飛ばそう。眩い閃光が部屋を包み込む。
妹紅の体からも不死鳥の炎が迸り、天井を焦がす。
面白い、所詮は人間の癖に。



「・・・・・・ちょっと目を離したらコレだ。この大馬鹿者ども!!
人の家で暴れる奴があるか! しかも天井が焦げているじゃないか!!」

お盆にお茶を乗せた慧音が、呆れ顔でお説教を始める。
挑発してくるコイツが悪いというのに。
仕方ないので発射態勢を解除する。
長くなりそうなので、お盆からお茶を勝手に取って啜る。
うん、まぁまぁね。

「わ、悪かったよ慧音。ちょっと昔話をしていただけだよ。
だ、だから頭突きだけは許しておくれよ」

頭を押さえて平謝りする妹紅。
不死鳥を気取る癖に情けない奴だ。

「うーん中々美味しい粗茶ね。それなりに良い葉を使ってるのかしら」

だが私は謝らない。

「・・・・・・客が粗茶と言うのは間違っている。それは持て成す側が謙遜して使うものだ。
言葉と言うものは、正しく使わなければいけないぞ」
腕組みして、さりげなく授業を始めるワーハクタク。
お前は国語の先生か。

「一々うるさいわね。そんな事だからハゲるのよ」

「は、ハゲていない! この帽子はハゲを隠す為じゃないぞ!」
帽子を両手で押さえて反論してくる。

「慌てるところが怪しいわね」

「全然怪しくない! 変な噂を広めるんじゃない!!」
顔を真っ赤にして怒り出す。
からかうと意外に退屈しないのだ。

「け、慧音落ち着いて。素数を数えて冷静になるんだ」
慧音の肩を掴んで座らせる妹紅。
いつものことなのだろう。阿吽の呼吸だ。

「わ、分かっているよ妹紅。幽香と話していると、血圧が上がりっ放しでな」
スーハーと深呼吸を始める教師。
隣でヒッヒッフーと呼吸をしている妹紅。
もうすぐ出産するのだろう。
実にお目出度い奴等だ。主に頭が。


「おい幽香。慧音をあまりからかわないでやってくれ。
こいつが真面目すぎるのは、お前も良く知ってるだろう」

「はいはい、ご馳走様。末永くお幸せにね」
惚気など聞きたくもないわ。さっさと用事を済ませて帰りたい。

「それで一体何の話をするつもりだったかな。
お前達が騒ぐから忘れてしまったぞ」

「おいおい、幽香が里に迷惑を掛けている件じゃないのか?
まだボケるには早いよ慧音」

「ああ、それは言っても無駄だからもう止めた。
世の中には、何回言っても無駄な奴もいるということを最近学ばせられたよ」

・・・・・・地味に失礼なことを言う奴だ。一発殴ってやりたい。

「じゃあそろそろお暇しても良いかしら。貴方達みたいに暇じゃないのよ」

「まぁ待ってくれ。実はお前の娘に渡したいものがあるんだ」
棚から、二冊の分厚いノートらしきものを取り出し、私に差し出してくる。

「何よこれ。教科書?」

「いや、『ドリル』というものだ。取り敢えず、算数と国語を用意してみた。
私が丹精込めた手作り品だ」

「・・・・・・誰がこんなものを用意してくれといったかしら。
ウチは間に合ってるわよ。妹紅にでもやらせたらどうかしら」

「何で私が今更、算数や国語を勉強するんだよ!」

「・・・・・・この前美咲君に直接、『通信教育』をやってみないかと尋ねたら、
是非やってみたいと言っていたぞ。子供の自主性は重んじるべきだ」

「い、いつの間に。でも何で通信教育なんて始めなきゃいけないの」

「流石に、人間の子供達と一緒に寺子屋で勉強するのは難しいからな。
その点この通信教育ならば何も問題はない。
それに上手くいけば、病気がちの子供達にもと思ってな」

「外の世界でも流行ってるらしいよ。真剣蝉とか言うやつなんだって。
永琳もアホ輝夜の漢字教育に使ってるって言ってたぞ」

・・・・・・姫が漢字ドリルで勉強って。長く生きるというのも考え物ね。

「一週間毎に一冊ずつ順番に回収するから、ちゃんと勉強させてやってくれ」

「なんだかズッシリと重いんだけど。こんなに気合入れて作らなくてもいいじゃない」

「私がしっかりと添削して返すからな。必ず将来役に立つはずだ。
努力は決して嘘をつかないんだ」


あ、暑苦しいわ。しかも人の話を聞いていない。
妖怪には宿題なんていらないのに、ゲゲゲ的に。
しかし一流のレディになるには一般常識も必要かしら。
それならば利用してやるのも良いだろう。
何よりタダだし。

「・・・・・・分かったわよ。仕方ないから預かってあげる。
でも感謝はしないわよ」

「ククッ素直じゃないな。まぁいいや、そのうち私が取りに行くから。
ちゃんとお持て成しの準備をしておいてくれよ」

「じゃあ今日はもう帰っていいぞ。くれぐれも里の中で騒ぎを起こしたりしないように。
厄介なモノは全部、博麗神社に奉納するようにしてくれ」

キッチリと念を押してくる慧音。仕方ない、暫くは博麗神社に投げ入れるとしよう。


お茶のお礼だけ言って、慧音の家を後にする。
そういえば私は何しに里に来たんだっけ。

・・・・・・そうだ、食材を買いに来たんじゃないの。
全く、とんでもない寄り道になってしまったわ。
あのワーハクタクときたらクドい、ウザい、暑苦しいの三拍子揃ってるからね。
実に厄介な奴だ。


さーて、気を取り直して、来るべき日に向けて献立を考えるとしよう。
超豪勢にいかなきゃいけないわね。母の味が恋しくなっている頃でしょうし。
久々に奮発するわよ!






上白沢慧音
歴史を食べる程度の能力
歴史を創る程度の能力


藤原妹紅
老いることも死ぬこともない程度の能力


鳳凰星座の一輝
青銅聖闘士最強。
他の聖衣とは異なり強い自己修復機能を持っており、
破壊されても一握りの灰さえあれば完全に甦る。



[21386] 柘榴の娘 真・Red Line
Name: にんぽっぽ◆534cd6b0 ID:0a30a55a
Date: 2010/09/16 20:40
・紅魔館作戦司令部


館内にスクランブル警報がけたたましく鳴り響く。
咲夜の指示を受けたメイド妖精達が、慌しく動き回り騒然としている。

パチュリー、小悪魔の両名は通信機らしきものを握り締め、各機に指示を出す。


「美鈴、聞こえるかしら。所属不明機が紅魔館に接近中。
作戦司令部は『敵』と断定したわ。
貴方は直ちに紅中隊を率いて迎撃しなさい。以上よ」

<<こちら紅01、メイリン。了解しました>>
<<紅中隊全機配置完了。接敵まで待機します>>


「お嬢様、ここは危険です。直ぐにシェルターに避難してください」

傍に控える咲夜が避難を促してくる。だがそれに乗るわけにはいかない。
私はこの館の主なのだから。長たるもの最後の瞬間まで持ち場を離れてはいけない。
・・・・・・というかシェルターって何なのよ。また勝手に館を魔改造したんじゃ。
それにコールサインまで付けたりして、皆やる気一杯じゃないの。



<<こちら紅03、敵機視認!!>>
<<大変だメイリン! 敵はリボン付だ!>>
<<慌てるな、これは魔女の罠だ>>


パチェが指を鳴らすと、大鏡に映像が映し出される。
確かに赤いリボンを着けた魔女が、こちらに全速力で侵攻中だ。
一見魔理沙に見えないことも無いが、特徴的な緑髪で判別できる。

「何を浮き足立っている!今すぐに叩き落しなさい。
紅魔館最精鋭の力を示す、良い機会だろう」

私は両手を顔の前で組んで部下を叱咤する。
いわゆる碇スタイルだ。この前勉強した甲斐があったというもの。
隣には咲夜が手を後ろに組んで待機する。

ちなみに作戦司令部が置かれているのは図書館だ。
この日の為に、全面的に改良しておいたのだ。
終わったら皆で元にもどす。企画したのはパチェなのに理不尽極まりない。


<<紅中隊 交戦!>>

「館内より支援攻撃を開始する。各機注意せよ」

小悪魔が謎のボタンを押すと、
館の上部に取り付けた対空砲から、敵機目掛けて誘導弾が弧を描いて飛んでいく。
・・・・・・こんな仕掛けばかり作っているから、家計が火の車なのだ。
もう親の遺産も残り少ないというのに頭が痛いわ。


それはともかく、やはりデジタルは違うわねぇ。
弾幕が色鮮やかにクッキリと映っている。なんでもデジタルミラーと言うらしい。
奮発して40型の大鏡を買って正解だったわね。

リボン付きが華麗に弾を回避すると同時に、師匠直伝の星型弾幕をばら撒く。
あれは『スターダスト・レヴァリエ』か。
攻防一体の中々優れたスペル。
避けきれなかった紅ピクシー達がボロボロと墜落していく。
・・・・・・あれ、今でっかい奴がやられたような。


<<ああ! メイ・リンがやられた!>>


紅ピクシー03番から連絡が入る。
はやっ! いくら手加減してるからって早すぎるわ。
まだ3分も経ってないじゃない!
子供だからって油断しすぎよあの馬鹿門番!
1週間昼飯抜き決定ね。

「落ち着きなさい。紅魔館防衛隊は正門前に全機集合、集中砲火で陥とすのよ!
小悪魔、支援砲撃が薄くなってるわよ!!」

パチェがマイクを握り締めて、怒鳴り声を上げる。
小悪魔もボタンを名人張りに連打する。
あの子、以外とこういうの好きなのよね。
クラスに1人はいるでしょう? 三国志の授業になるとやけに薀蓄を語りだす奴。
パチェはあのタイプなのよ。

<<あの魔女一匹に何機やられたんだ>>
<<紅中隊は何をしている!>>
<<誰かリボン付を落せ>>

ピクシー達も弾幕を集中させるが、まるで当たる気配が無い。
なるほど、そこそこ速度には自信があるらしい。
魔理沙が上手いこと教えてるみたいね。

<<こちら紅魔館地上部隊。制空権を奪われました!>>
<<リボン付は館内に侵入>>

・・・・・・あの見習い魔女、中々やるわね。
紅魔館防衛隊がほぼ壊滅よ。流石は風見幽香の娘といったところか。
しかしあのリボンで暴れられると、なんかムカつくわ。
あれはそういう映画じゃなかったじゃない。これじゃ紅のピッグよ。


「こ、紅魔館防衛隊、紅中隊全滅です!」

「た、たった10分で、紅魔館門番隊が壊滅だというの!
あ、ありえないわ」

非常にわざとらしく、オロオロとうろたえ始めるパチュリー小悪魔コンビ。
その手にもってる台本はなによ。

「お嬢様。最早これまでです、腹をお召しになりますか?」

銀の短刀を手渡してくる馬鹿メイド。ちなみに刺すと刃が引っ込むドッキリナイフだ。
というかさりげなく、ハラキリ勧めてきたわよこのメイド。

「なんで私が腹を切るのよ! まだ門が突破されただけじゃない。
紅魔館住人たるものが、オロオロとうろたえるんじゃあない。見苦しいわ」
短刀を引ったくり、ゴミ箱に思いっきり投げ入れる。

まだ慌てるような展開じゃないわ。
面白いのはこれからじゃないの。

「失礼致しましたお嬢様。思わず取り乱してしまいましたわ。
紅魔館のマジノラインと恐れられる、我々メイド隊にお任せ下さい」

「そうだろうそうだろう。さぁ早く歓迎の準備を始めるんだ。
紅魔館の真の力を思い知らせてやれ。
パチェ、お前も勿論出てくれるんだろう?」
ドロンと消える咲夜を見送り、パチェをジロリと見る。

「当たり前じゃないのレミィ。私達は親友だもの。
貴方の為なら例え火の中、水の中・・・・・・ゴフッ」

草の中、森の中と続けようとして吐血するパチェ。
赤いものが辺りに散乱する。
吐血した瞬間、本に掛からないようにしていたのを私は見ていた。

「パ、パチュリー様! 大丈夫ですか!!」

「うう、ごめんなさい、レミィ。私はどうやらここまでのようね。
こ、ここにきて、喘息が悪化するとは、実に無念よ・・・・・・」

「パチュリー様、お気を確かに!」

「小悪魔。貴方にも迷惑を掛けっぱなしだったわね。
私が死ねば、契約が切れる。貴方は自由よ」

小悪魔の手を取りニッコリと微笑むパチェ。口からは血がダラダラと流れている。

「パ、パチュリー様、私は貴方に仕えることが出来て幸せでした」
パチェの為に涙を零す小悪魔。先程目薬をさしていた気がするが。

「レミィ。我が友よ。貴方の進む道に栄光がありますように。
・・・・・・グッドスピード・レミリア」

パタッと息絶える私の親友。その顔は安らかで思い残すことはないかのようだ。
なんという感動的な三文芝居。別の涙が出そうよ。
そっと近づき、私は流れ出る血を舐める。


・・・・・・これはいわゆるケチャップという奴ね。マスタードではないわ。
死んでしまったアホは放っておいて、さっさと玉座に向かうとしましょう。


「・・・・・・小悪魔。しっかりと後片付けお願いね。後は私達で迎え撃つから。
ついでに、そこのアホをベッドに叩き込んでおいて頂戴」

「は、はい、了解しました閣下!」
敬礼で見送る小悪魔上等兵。閣下って何よ。
どうせならクイーン・レミリアと呼びなさい。
プリンセス・レミリアではちょっと可愛すぎるわね。


――――――――――――――――――


「中々やるじゃないの。最初の頃に比べると随分上達したわ。
それにあのリボン、とても素敵ね」
設置された大鏡を覗きながら紅茶を飲むアリス・マーガトロイド。
残念ながらこの鏡はまだアナログなのだ。

「そうだろう? 私も教え甲斐があるってもんさ。
うかうかしてると私達も危ないぜ。ちなみにリボンは私のお古だ」
ワハハと笑いながら、お茶菓子をパクついている霧雨魔理沙。
しかも私が取っておいた、お気に入りのバームクーヘンだ。

「貴方達、ここは私の私室なんだけど。
これから華麗にメイクアップするから、とっとと出て行って頂戴」

「・・・・・・お姉さま無理はいけないわ。ありのままの方が素敵よ。
さぁ、グズグズしてないで謁見の間に向かって」

なぜかフランまで観客席に加わっている。
いつの間にかあのリボン付と仲良くなってしまったらしい。
『性根が歪んでいる』のが気に入ったとかなんとか。
我が妹ながら訳がわからない。


妹に押し出されるようにして、部屋を追い出される。
・・・・・・今戦況はどうなっているのかしら。
多分咲夜とメイド妖精隊が、迎撃している頃だと思うけれど。
まぁ謁見の間でのんびりと待機することにしましょう。
喉も渇いたことだし。お茶が飲みたいわ。
血のように赤いのが良いわね。




という訳で謁見の間で、超豪勢な玉座に腰掛けている私。
無意味に金ピカで、パチェがどこからか持ってきた物だ。
周りからはモワモワと、無意味にスモークが湧き出ている。
荘厳なメロディーは霊の三姉妹。この前から紅魔館と契約したらしい。



・・・・・・そういえば、なぜこんな訳の分からない事態になっているかというと。
フランが風見美咲を紅魔館に招待した。
魔理沙が弾幕戦in紅魔館を企画した。
パチェが暇つぶしに台本を書き上げた。
以上の三点よ。ちなみに私は意見を言う機会が無かったわ。
どういうことなのよ。

まぁ私も直接会ったことは無かったから、
一度くらい顔を見せてやっても良いかなーと、ちょっとだけ思ったのだ。
その甘さがこの有様を招いたのよ。誰がこんなに大規模にしろと。


「お嬢様、失礼します」
コンコンとノックが鳴る。

メイド長のご帰還だ。流石に咲夜を抜くことは出来なかったか。
何しろ人間ではほぼ最強クラスだからねぇ。
紅魔館のマジノラインは伊達じゃないわね。
残念だけど演劇はここまで。さぁ自分の部屋にもどってダラダラしましょう。

「随分と早かったじゃないか。紅魔館の誇る番犬、十六夜咲夜。
侵入者はちゃんと骨まで始末したのかい」
カップを手に取り、口にする。

「はい、館内で迷っていたようなので、ここまで案内してきました。
今そこの扉の前でスタンばってます」

・・・・・・何を言っているのかしら。
叩き潰せと言った筈なのに、何でここまで案内しているんだろう。
本当に不思議な咲夜ちゃん。

「・・・・・・ねぇ咲夜。私は貴方に、案内しろと命令したかしら。
私の記憶が確かなら、侵入者を迎え撃てと言ったわよね」

「困ってる人を見過ごせない、それが紅魔館メイド隊の宿命です。
申し訳ありませんお嬢様」

「り、立派な心掛けね。その調子で精進なさい」

「有難き幸せですお嬢様。それでは今お客様をお呼びしてきます」
扉に颯爽と向かっていく咲夜。
・・・・・・やる時はやるのだが、天然なのか計算なのか未だに掴めない。
これが計算されたボケというものか。

「・・・・・・失礼します」

リボン付が部屋に入ってきた。
いけないカンペの用意をしなければ。
いざというときに役に立つ。


「良く来たね、歓迎するよ『風見幽香の娘』。妖怪の癖に魔女見習いだとか」

「・・・・・・私の名前は、風見美咲です」

「餓鬼の名前などどうでも良い。まるで興味がないし、知る必要も無い。
お前の存在価値など、『風見幽香の娘』であることだけだ」

ここはアドリブだ。ちょっと怒らせて見るとしよう。
本気でやらないと遊びも面白くない。

「・・・・・・・・・・・・」

「おやおや怒ったのか。ハハハ、フランの言った通り、実に歪んでいるな。
私はそういう奴が大好きだよ。気に入ったぞ風見の娘」

言葉の代わりに、手をこちらにかざして来る。
いきなり大魔法をぷっ放してきそうな勢いだ。
ここでそんなことをされては館の修理が大変だ。
それに高価な壷やら絵画が一杯あるのだから。

指を鳴らして、咲夜に合図する。
どうせ闘るなら、月明かりに照らされた外の方が気分が良い。


「えっ!?」

いきなり館外に連れ出されて驚きの表情を浮かべる小娘。
それはそうだろう。かくいう私も少しだけ驚いた。

「ククク、驚いたか? 私は闇を統べる化け物レミリア・スカーレットだ。
おまえなど、瞬きしてる間に10回は殺せるよ」

本当は咲夜が時を止めてる間に、よっこいしょと外に連れ出してくれたのだ。
いわゆる演出という奴だ。ついでにククク笑いも忘れてはいけない。

「だが心配するな小娘。
圧倒的実力差があっても闘えるように『スペルカードルール』がある。
私も幻想郷の一員として、そのルールは守る。
さぁ全力で掛かってくるが良い!」



「・・・・・・母様を超える為ならば私は何だってする。
『スカーレットデビル』、貴方には私の養分になってもらう」

歯を剥き出しにして、ニタリと微笑むリボン付少女。
親譲りの物騒な笑顔に、ちょっとだけカリスマ負けしてしまう所だったわ。
いけないいけない。こんな時の為にカンペがあるんじゃない!
カリスマパワーを集中させるのよ。私は自在にカリスマをコントロールできる!!


「ククク、面白い。やってみるが良い、未来の化け物。
なにゆえもがき生きるのか? さぁ我が腕の中で息絶えるが良いわ!」

どっかの魔王のパクリだけどバレなければ問題ないわ。
カンペの最後に『ぐふっ』とか書いてあったけど、きっと気のせいよ。





レミリア・スカーレット
運命を操る程度の能力


紅魔館防衛部隊正門守備隊所属戦闘航空団
通称:紅中隊
隊長:紅美鈴


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