平成14年7月25日
医薬品・医療用具等安全性情報179号

医用機器への電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針について

 携帯電話端末等による医用機器への影響については、医薬品副作用情報No.136(平成8年3月号)、No.137(平成8年5月号)及びNo.143(平成9年6月号)において注意喚起を行ってきたところである。
 総務省において、平成12年度より2年間にわたり「電波の医用機器等への影響に関する調査研究」が実施され、今般、携帯電話端末等から発射される電波の植込み型の医用機器(心臓ペースメーカ及び除細動器)及び医療機関内で使用される医用機器に及ぼす影響についての調査がまとめられた。この調査研究の調査結果によると、現在においても平成9年3月不要電波問題対策協議会(現在の電波環境協議会(以下、「協議会」という))において示された「医用電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針」(以下、「現行指針」)は妥当であることが確認されたことから、当該報告の内容について紹介し、改めて医療関係者等に注意喚起を行うこととしたい。

1.経緯

 携帯電話端末等から発射される電波が医用機器に及ぼす影響については、現行指針が、平成9年3月に協議会において策定されており、平成9年3月27日付け医療機器開発課長通知(薬機第48号)及び医薬品副作用情報No.143において関係者への周知を図ってきたところである。
 しかし、その後、(1)新しい方式の携帯電話サービスが開始されたこと、(2)医療機関においても情報化の要求が高まっており、携帯電話などの無線システムを導入する動きが見られること、(3)医用機器自身の妨害電波排除能力が向上していること、(4)植込み型除細動器についても装着者が徐々に増加しつつあることなど、携帯電話端末等と医用機器の双方において状況が変化していることから、総務省において、平成12年度及び平成13年度の2年間にわたり、携帯電話端末等から発射される電波が医用機器に及ぼす影響に関する調査が実施されてきた。
 今般、この調査を委託された(社)電波産業会に設置された「電波の医用機器等への影響に関する調査研究会」の調査報告書がまとまり、総務省より公表されたことから、医療機関、医療従事者、医療機器業者等に対し、当該報告内容について紹介することとした。

 

2.調査概要

 今回実施された調査は、原則として現行指針を策定するに際して平成8年度に実施された協議会における調査(以下、「前回調査」という)の方法を踏襲して行われ、主として以下の2つの検討がなされた。
(1)携帯電話端末等が植込み型医用機器に及ぼす影響
 前回調査で対象とされた植込み型心臓ペースメーカに加え、新たに対象範囲を拡大し、植込み型除細動器についても調査対象とした。これらの植込み型医用機器(心臓ペースメーカ及び除細動器)の新機種について、従来の方式の携帯電話(PDC)及びPHSに加え、新しい方式(W-CDMA及びCDMA/CDMA2000 1x)の携帯電話端末等を用いて、それらから発射される電波が及ぼす影響を調査した。
(2)携帯電話端末等が病院内医用機器に及ぼす影響
 医療機関内で使用される医用機器のうち、前回調査以降に発売された新機種を始めとした現在臨床現場で使用されている主なものについて、携帯電話端末等から発射される電波が及ぼす影響を調査するとともに、病院内での無線システム導入の可能性について検討を行った。

 

3.調査結果の概要

 今回の調査の結果、平成9年3月に協議会において策定された現行指針は、現時点においても妥当であることとされた。
 また、今回初めて植込み型医用機器として除細動器がどの程度影響を受けるかについても検討を行ったが、ペースメーカよりも影響を受ける率は高いものの、干渉距離は短く、総じて影響を受けにくいが、5cm以内の距離で誤動作による放電を起こす可能性が示唆されたことから、一層の注意が必要とされた。具体的な試験成績等は以下の通り。

1)植込み型医用機器への影響について

(1)植込み型心臓ペースメーカ

従来型携帯電話(PDC)
PHS
W-CDMA
CDMA/CDMA2000 1x
800MHz
1.5GHz
1.9GHz
2GHz
800MHz
800mW
800mW
80mW
250mW
200mW
今 回

干渉率

6.5%
1.8%
2.4%
3.6%
3.6%

最大干渉距離

11.5cm
4cm
2.5cm
1cm
1.8cm
8年度

干渉率

19.3%
4.4%
2.6%
-
-

最大干渉距離

14cm
15cm
7cm
-
-
(注1:干渉率は影響を受けたペースメーカの割合を意味する。)
(注2:最大干渉距離は、ペースメーカが影響を受けた最大距離を意味する。)
(注3:PHSはダイポールアンテナによるデータを示す。)

(2)植込み型除細動器

従来型携帯電話(PDC)
PHS
W-CDMA
CDMA/CDMA2000 1x
800MHz
1.5GHz
1.9GHz
2GHz
800MHz
800mW
800mW
80mW
250mW
200mW
今 回

干渉率

19%
9.5%
影響なし
12.5%

最大干渉距離

5cm
1cm
2cm
(注1:干渉率は影響を受けた除細動器の割合を意味する。)
(注2:最大干渉距離は、除細動器が影響を受けた最大距離を意味する。)
(注3:PHSはダイポールアンテナによるデータを示す。)


2)医療機関内の医用機器への影響について

 今回は、従来型携帯電話(PDC)及びPHSではなく、新方式の携帯電話(W-CDMA及びCDMA2000 1x(2GHz)、CDMA/CDMA2000 1x(800MHz))について、医療機関内にある輸液ポンプや人工呼吸器等の医用機器がどの程度影響を受けるかの検討が行われた。

W-CDMA
CDMA/CDMA2000 1x
CDMA2000 1x
PHS
2GHz
800MHz
2GHz
1.9GHz
10mW
250mW
10mW
200mW
10mW

200mW

80mW
今 回

干渉率

4.6%
16.5%
8.0%
27.6%
4.2%

15.7%

6.1%

最大干渉距離

10cm
60cm
16cm
475cm
7cm

70cm

28cm
(注1:干渉率は影響を受けた医用機器の割合を意味する。)
(注2:最大干渉距離は、医用機器が影響を受けた最大距離を意味する。)
(注3:PHSはダイポールアンテナによるデータを示す。)

従来型携帯電話(PDC)
アナログ携帯電話
PHS
800MHz
1.5GHz
800MHz
1.9GHz
800mW
600mW
80mW
8年度 

干渉率

66.1%
8.0%

最大干渉距離

400cm
65cm
(注1:干渉率は影響を受けた医用機器の割合を意味する。)
(注2:最大干渉距離は、医用機器が影響を受けた最大距離を意味する。)
(注3:アナログ携帯電話は、現在、使用されていない。)

 

4.植込み型医用機器を使用している患者に対する注意事項

 今回の調査結果から、前回調査と比べて、携帯電話端末等から発射される電波により植込み型医用機器が影響を受ける最大距離が短くなっている(影響が出にくい)傾向がみられ、また、新たな方式の携帯電話端末による影響も従来型の携帯電話端末に比べて小さい試験成績(影響が出にくい)となっている。しかし、今回試験は(1)携帯電話と植込み型機器のすべての組合せを検証したものではないこと、(2)植込み型医用機器については、最新型について検討されており、実際に使用されている製品については、数年前に植込まれたものが現在もなお使用されている場合もあり、この試験結果を考慮の上、不用意に電波の発射源に接近することのないように、引き続き注意することが必要である。
 また、特に、植込み型除細動器については、植込み型心臓ペースメーカに比べて影響が出始める距離が短い(影響が出にくい)傾向にあるが、5cm以内の距離で、誤動作による放電を起こす可能性が示唆されていることから、現行指針(22cm)を守るよう注意することが必要である。

 

5.医療機関へのお願い

 今回の報告書の内容を踏まえて、新たな方式の携帯電話端末等から発射される電波についても、現行指針(22cm)を遵守するよう患者さんへの指導の徹底を引き続きお願いするとともに、患者が小児の場合には、保護者への指導の徹底も併せてお願いしたい。
 また、医療機関内における携帯電話端末等の無線設備については、施設内の医用機器に影響を及ぼさないよう引き続き適切に管理するようお願いしたい。

 

(参考)

医用電気機器の電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針

(不要電波問題対策協議会 平成9年3月)

I 医療機関の屋内における無線設備の利用
1 携帯電話端末の使用
 これまでに収集した国内の実験データ、海外での文献等を検討した結果、医療機関の屋内においては、携帯電話端末(注1)から発射される電波により、医用電気機器が誤動作する可能性があるため、次のとおり取り扱うことが望ましい。
(1)手術室、集中治療室(ICU)及び冠状動脈疾患監視病室(CCU)等
 携帯電話端末を持ち込まないこと。やむを得ず持ち込む場合は電源を切ること。
 また、これらの部屋の周囲(隣接する上下階及び左右の部屋、廊下等)においても、携帯電話端末の電源を切ること。
(注1)本項でいう携帯電話端末は、(1)800メガヘルツ帯アナログ携帯機(送信出力0.6ワット以下)、(2)800メガヘルツ帯デジタル携帯機(送信出力0.8ワット以下:バースト出力)、(3)1.5ギガヘルツ(1,500メガヘルツ)帯デジタル携帯機(送信出力0.8ワット以下:バースト出力)、(4)800メガヘルツ帯ショルダーホン(肩掛け型携帯電話端末:送信出力2〜5ワット以下)のものをいう。

(2)検査室、診察室、病室及び処置室等(透析室、新生児室を含む。)
 携帯電話端末の電源を切ること。(注2)
 また、検査室、診察室、病室及び処置室等の周囲(隣接する上下階及び左右の部屋、廊下等)においても、携帯電話端末の電源を切ること。
(注2)(3)の(注3)に基づいて、各医療機関が独自に使用者や使用区域を限定して携帯電話が使用できる区域を設定することを妨げるものではない。

(3)その他の区域
 待合室など医療機関側が携帯電話端末の使用を特に認めた区域でのみ携帯電話を使用すること。(注3)
 ただし、病院側が使用を認めた区域においても、緊急時などでは、やむを得ず医用電気機器を使用する可能性があるため、付近で医用電気機器が使用されている場合には、携帯電話端末の電源を切ること。
(注3)医療機関は、携帯電話端末の使用を認める区域を設定する場合には、当該区域及びその周囲(隣接する上下階及び左右の部屋、廊下等)において医用電気機器を使用しないことを確認すること。

 

2 小型無線機(アマチュア無線機、パーソナル無線機及びトランシーバ(特定小電力無線局(注4)のものを除く)等)の使用
 これまでに収集した国内の実験データ等を検討した結果、小型無線機は携帯電話端末と比較して医用電気機器に影響を与える可能性が高いため、医療機関の屋内等及び医用電気機器の周辺には、緊急時・災害時を除き持ち込まないこと。
(注4)特定小電力無線局については、4項を参照のこと。

 

3 PHS(パーソナル・ハンディホン・システム)の使用
 これまでに収集した国内の実験データ等を検討した結果、医療機関の屋内に設置されたPHS基地局等から発射される電波により医用電気機器が誤動作する可能性があるため、医療機関の屋内で設置・使用する場合、医療機関は次の注意事項を遵守することが望ましい。
(1)PHS基地局
 医療機関の屋内に設置されるPHS基地局は、送信バースト出力160ミリワット(平均出力20ミリワット)以下のものに限ること。
 基地局を設置する医療機関は、電波による医用電気機器への影響を医用電気機器製造業者、電気通信事業者等の関係者に確認し、医用電気機器に影響を及ぼすことがないよう管理区域を設けるなどの対策を講じた上で、基地局を設置すること。
(2)PHS端末(デジタルコードレス電話(親機・子機)を含む:送信バースト出力80ミリワット(平均出力10ミリワット)以下のものをいう。)

ア 使用可能なPHS端末の識別

 医療機関内で使用するPHS端末は、携帯電話端末、ハンディタイプのアマチュア無線機、アナログコードレス電話等と容易に識別できるように管理すること。
(例1:PHS端末を医療機関内で使用する場合には、医療機関の許可を受けなければならないこととする。)
(例2:医療機関内で使用するPHS端末には、識別用ステッカーを貼付することとする。)

イ 識別されたPHS端末の取扱い

 PHS端末から発射される電波(出力は携帯電話端末の十分の一以下)による医用電気機器への影響は携帯電話端末と比較して小さいものの、PHS端末を医用電気機器へ近づけた場合に、医用電気機器がノイズ混入、誤動作等の影響を受けることがあるため、アで識別されたPHS端末を使用する場合、医用電気機器にPHS端末を近づけないこと。
 なお、手術室、集中治療室(ICU)及び冠状動脈疾患監視病室(CCU)等においては、人命に直接関わる医用電気機器が多数設備されているため、安全管理上、PHS端末の電源を切ること。

ウ 外部から持ち込むPHS端末の取扱い

 患者等が外部から持ち込むPHS端末について、上記ア及びイのような管理ができない場合には、携帯電話端末と同様に取り扱うこと。

4 構内ページングシステム(注5)の基地局、無線LAN及びコードレス電話(アナログ方式)及び特定小電力無線局(注6)
 構内ページングシステム基地局、無線LAN、コードレス電話及び特定小電力無線局(以下「小電力無線局」という。)から発射される電波による医用電気機器への影響は携帯電話端末と比較して小さいものの、これらの小電力無線局を医用電気機器の間近まで近づけた場合に、ノイズ混入、誤動作等の影響を受けることがあるため、医用電気機器に小電力無線局を近づけないよう注意することが望ましい。
(注5)本項でいう構内ページングシステムは、400メガヘルツ帯の電波を使用する医療機関等が設置した自営の無線呼出(いわゆる「ポケットベル」)であり、「構内無線局」及び「特定小電力無線局」に該当するものである。
(注6)無線局免許を要しない空中線電力10ミリワット以下の無線局(電波法令に合致し、郵政大臣により告示された用途及び周波数等の条件に適合することが必要)であり、医療用テレメータ、テレメータ・テレコントロール、データ伝送、無線電話、無線呼出、ラジオマイク及び移動体識別を行うものなどが該当する。
 なお、医療用テレメータのうち、一般的に利用されている1ミリワット程度のものは殆ど影響はない。

 

II 植込み型心臓ペースメーカ装着者の注意事項
 植込み型心臓ペースメーカは、その近くで携帯電話端末、自動車電話、ショルダーホン、PHS端末、コードレス電話及び小型無線機を使用したときに、電波による影響を受ける可能性がある。実験結果によれば、この影響は一時的かつ可逆的(元に戻る)であるが、植込み型心臓ペースメーカを装着している人は、次の事項を遵守することが望ましい。

1 携帯電話端末
 携帯電話端末の使用及び携行に当たっては、携帯電話端末を植込み型心臓ペースメーカ装着部位から22cm程度以上離すこと。
 また、混雑した場所では付近で携帯電話端末が使用されている可能性があるため、十分に注意を払うこと。

2 自動車電話及びショルダーホン
 植込み型心臓ペースメーカを自動車電話及びショルダーホンのアンテナから30cm程度以内に近づけないこと。

3 PHS端末及びコードレス電話
 PHS端末及びコードレス電話の使用に当たっては、1の携帯電話端末と同様に取り扱うこと。

4 小型無線機(アマチュア無線機、パーソナル無線機及びトランシーバ(特定小電力無線局のものを除く)等)の使用
 小型無線機は携帯電話端末と比較して植込み型心臓ペースメーカに影響を与える可能性が高いため、小型無線機を使用しないこと。

 

III 医療機関以外での医用電気機器の使用
1 在宅医療
 人工呼吸器、酸素濃縮装置等の医用電気機器を在宅医療に用いる場合には、少なくとも医用電気機器が使用されている家屋内においては、アマチュア無線機、携帯電話端末等の電波の発生源の電源を切ることが望ましい。

2 在宅医療以外
 植込み型心臓ペースメーカ以外にも医療機関以外の場所で医用電気機器が使用される場合があるが、これらの機器の使用者は無線通信システムからの電波による影響について、個別に医用電気機器製造業者、電気通信事業者等の関係者に確認を行うことが望ましい。

 

IV 植込み型心臓ペースメーカ装着者及び補聴器使用者への配慮
1 外見だけでは特定できない植込み型心臓ペースメーカ装着者への配慮
 携帯電話端末、PHS端末、コードレス電話又は小型無線機(アマチュア無線機、パーソナル無線機及びトランシーバ(特定小電力無線局のものを除く)等)の所持者は、第II項で示したような植込み型心臓ペースメーカ装着者と近接した状態となる可能性がある場所(例:満員電車等)では、その携帯電話端末等の無線機の電源を切るよう配慮することが望ましい。

2 補聴器使用者への配慮
 携帯電話端末又はPHS端末の所持者は、補聴器を使用している者と近接した状態となる可能性がある場所(例:満員電車等)では、その携帯電話端末又はPHS端末の電源を切るよう配慮することが望ましい。

 

V その他の事項
1 医用電気機器を装着した患者の搬送
 体外型心臓ペースメーカ、人工呼吸器等の医用電気機器を装着している患者を医療機関外へ搬送するため、待合室等を通過する場合には、随伴者は、搬送路周辺において携帯電話端末が使用されていないことを確認することが望ましい。

2 補聴器使用者への注意事項
 携帯電話端末又はPHS端末がごく接近した状況では、補聴器に雑音が混入することがあるため、補聴器使用者が携帯電話端末又はPHS端末の使用に当たっては、補聴器製造業者、端末製造業者あるいは電気通信事業者に確認すること。