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[21808] 黒須ちゃんビートする(Angel Beats!×CROSS†CHANNEL)
Name: ウサギとくま◆e67a7dd7 ID:e5937496
Date: 2010/09/13 19:49
CROSS†CHANNELとAngelBeats!のクロス小説です。
主人公は黒須太一。
プロローグ以降は一人称になります。
基本的には本編のギャグ寄りになっていまうす。



[21808] 一話 黒須ちゃん起きる
Name: ウサギとくま◆e67a7dd7 ID:e5937496
Date: 2010/09/13 19:50
――この空が消えてなくなる、その日まで








「……うーん、やめてくれー、曜子ちゃん。そこはっ、そこだけはっ! そこだけは勘弁――っは!?」

ムクリ、とその少年は目を覚ました。
人目を惹く外見である。
女性的な相貌、猫の様に真っ赤な瞳。
そして何よりも老人の様な真っ白な白髪。

「ひ、酷い夢だった……まさか曜子ちゃんがアッチ方面でも超人的だったなんて……」

夢の話である。
少年――黒須太一はあくびをしながら体を起こした。
そして周囲を見渡す。

「……なぬ?」

夜である。
しかし彼の特異な瞳はそれを問題としなかった。
意識することで宵闇の中でも視界はクリアだ。
見知らぬ場所であった。
地面である。
そしてその地面には白線は引いてある。
いわゆるグラウンドであった。
そして見える大きな校舎。
それだけなら別におかしな話ではないと言える。
彼が寝床にしていた祠まで大分距離はあるが、まあ寝ている間にゴロゴロと学校まで転がってきた、その可能性はある。
が、しかし。

「群青……じゃない」

グルリと周囲を見渡す限り、彼が飽きるほど見てきた学園と全くの別物だった。
彼が長い時間をおいた学園の特徴が無い。
檻の様な巨大な門もない。

「どこだ、ここ? うーむ、寝ている間に隣町の学校まで転がったのか?」

ウンウンと唸る。
そしてザワリ、と何かの存在を感じた。
生き物の気配。

「……え?」

ありえない、と思いつつも感覚を鋭敏にする。
感覚を広げる。
気配を感じる。

――いるはずが無い。

しかし彼の卓越した感覚は確かに人の気配を捉えた。

「まさか……いや、そうなのか? 戻ってきた……いや、でも……」

何かおかしい。
長く人と接していない彼だが、人間が待つ気配というものは決して忘れていない。
彼が今感じている気配は、人間とは少し違うのもだった。
近い、だが違和感がある。
この感覚に覚えがあった。

「うむむ」

腕を組み唸る。
分からないことだらけだ。

と、その彼に背後から近寄る人影。
二つにくくった金色の髪は夜の中でも鈍く輝く。
足を忍ばせている。
それなりに訓練された動きだ。
体重移動、音を立てない足行き、可能な限り薄くした気配。
ジワジワと太一の背後に迫る。
そしてそのまま胡坐を組む太一に接近し――

「そこだッ!」

唐突に背中から地面に対して倒れこんだ太一に「ひっ」と小さな悲鳴をあげて驚いた。
彼女にとっては意味不明の行動である。
しかし太一にとっては意味がある行動だった。
近づいてきた少女、スカートは短い。
故に倒れこんだ太一からはその扇情的な布布したものが目に入ったのだ!

「やった! ピンクだ!」

子供の様に目を輝かせて、喜ぶ太一onグラウンド。
対して、シークレット布を見られた少女は、混乱していた。
冷静に思考する。
目の前の少年――彼女は最初その白髪から老人だと思ったが……その少年を。
自体を把握していないのか。
現状に混乱して、この様な意味不明な行動へと至ったのか――そう判断した。

「あの……よろしいですか?」
「わー、いいなー、やっぱり履いてるのじゃないと駄目だよな、うん。一回先輩の家にお邪魔して舐める様に眺めたことあるけど、やっぱり履いているのとはまた別格だなー」
「……」

聞いていない。
ただ、頭上の秘密の布を眺めることだけに従事している。
少女は少し頬を染めつつ、その無表情な顔を僅かに歪め、後退した。
パンツを見られない位置まで。

「に、逃がさんっ!」

しかし少年は寝そべったまま、進行方向へと移動した。
ホバー移動の様な動きだった。
何が彼をそこまでさせるのか。

「……っ!」

再びパンツを見ることが出来る位置まで移動した太一。
少女は得体の知れない恐怖に襲われ、背後へと疾走した。
そして再びズリズリと後を追う太一。
想像してみるといい。
ひっくり返ったゴキブリが自分の後を追う光景を。
今、少女はその様な恐怖を味わっていた。

「……っ! ……っ!」
「はぁ……はぁ……!」

おおよそ人間の動きではないその動きは、大量の体力を消耗するのか、太一の口からは疲労が呼吸となって漏れ出ていた。
でも、追いかけることやめない。
それが彼である。

そしてその追いかけっこは半刻ほど続いた。
グラウンドへと降りるための階段に少女が昇ったため、太一が頭を段差へとぶつけたためだ。

そして頭を抑え転がる太一と、それを冷ややかな目で見下ろす少女、という図式が出来上がった。
少女は僅かに口を吊り上げ、「勝った」と思った。
そして自分がここに何をしに来たかを思い出し、ブンブンと頭を振った。
自分を戒めるつもりで咳を一つ。
目の前の少年を警戒しつつ、

「落ち着きましたか?」
「……ああ、落ち着いた。非礼を侘びよう、先ほどまでの行為、紳士として到底許されざる行為だった」

のそりと体を起こし、パンパンと体から土を叩き落す。
紳士っぽく頭を下げ、丁寧な口調で侘びる太一。
少女はまたしても混乱した。
先ほどまで自分の下着をホラー映画のように追いかけてきた人間とは思えない。

(……頭を打ったせいで)

そう納得することにした。

「私の名前は遊佐といいます。あなたは?」
「愛奴隷……」
「あい、なんですか?」

眉尻を下げ、聞き返す。

「あ、いや、うん。今の無し。今の俺は紳士を極めたジェントリ伯爵――黒須太一」
「黒須太一さんですね」
「出来れば『たいちん』といやらしく呼んでほしい」
「嫌です」

にべも無く断った。

「ここがどこか分かりますか?」
「それなー。うん、もしかして……天国とか?」
「……え」
「……え?」

太一は冗談で言ったつもりだった。
その後「君の様な天使カワイイ女の子がいたからネ!」何てお洒落に続けるつもりだった。
そして相手がツンデレなら「バ、バカ!」と平手打ち、相手が照れ屋なら「……え、そ、そんな……///」となって太一万歳、そういうオチをつけるつもりだった。
しかし目の前の遊佐の反応はそのどれとも違う反応だった。
「どうしそれを?」の様に驚いた反応だった。

「なに、え……そうなの?」
「ええ、はい。死後の世界、という意味でなら」

ポカンと大口を開ける太一。
え、何?俺死んだの?マジで?
そう言いたげな顔である。
そしてそんな馬鹿な、と笑った。

「う、嘘ダー! 冗談キツキツだよ、それ。俺が今履いてる貞操体よりキツイよー、ハハッ」

何故履いているのか。
またしても家を燃やしてしまったからです。
自分専用の下着が無くなったため、仕方なく曜子ちゃんが残した貞操体を履いていたのだ。

「……」

対する遊佐は無言。
慣れているのだろう。
死を突きつけられた人間の反応に。

「そ、そういえば、目の前のガールも七香と同じ気配……」

ふと思い至る。
そして自分の気配も同じ気配を纏っていることに。

「……そんな……嘘だろ……」

ガクリと体の力が抜け、地面に突っ伏す太一。
その姿を見て、何ともいえない哀れな感情を抱いた遊佐は、太一に近づき、地面に肩膝を立て、太一の肩に手を置いた。

「大丈夫です。あなた一人ではありません、ここにはたくさんの仲間達がいます」
「……」
「そして戦っているんです。理不尽な人生を私達へと強いた神と。……太一さん、あなたの力を貸して下さい」

遊佐は目の前の少年に心から同情していた。
目を惹く白髪。
恐らくは生前、その様な髪の色になってしまうほど辛い目にあったのだろう、と。
先ほどまれの奇行は、その時のことが原因で人との接触を絶ったためだろう、と。
そう推測した。
そう考えた。
自分の幸せで無かった人生と共感した。
もう一方の手で、太一の白髪に手を通す。

「もうあなたは一人じゃありません。私が、私達が傍にいます」

遊佐の顔は変わらず無表情だったが、その胸中には確かに慈愛の心があった。
目の前の少年。
目に見えて不幸な人生を送っていただろう少年に対しての慈愛。

「……うぅ」

対する太一。
泣いていた。
ポロポロと涙を。
伏せた顔から落ちた涙は、グラウンドに小さな小さな池を作っていた。

「太一さん……」

それがまた遊佐の心を刺激した。

「こんな、こんな……」

太一の慟哭にも似た声が口から漏れる。
怨嗟の声か。
人生の理不尽さを嘆く声か。

いや、違う。

「こ、こんなっ、こんなっ……ふふ」

笑っていた。
我慢できない笑みで顔が綻んでいた。
伏せたと思われていた、その視線が向かっているのは遊佐。
正確に言えば、ほぼ密着している為、遊佐の顔は見えない。
だが、彼女は今、肩膝を立てている。
つまりはどうだ。

「こ、こんな至近距離で……ピ、ピンクの……バンザーイ! バンザーイ!」

そういうわけだった。
喝采していた。
小さな声で。
知らぬは彼女ばかり。
太一が自分の下着を凝視しているとは露知らず、ただ目の前の少年に感情を注いでいた。

こうして、太一の二度目の人生はスタートしたのである。





[21808] 二話 黒須ちゃん駄弁る
Name: ウサギとくま◆e67a7dd7 ID:e5937496
Date: 2010/09/13 19:50
俺こと、二十世紀最後の砦、黒須太一は死んでしまった。
ああ、しんでしまうとはなさけない。
いや、まあ実際どうなんだろうね。
何で死んだんだろうか。
その辺りが非常に曖昧だ。
確か、いつも通りにしていたはずだ。
いつも通りアンテナ作って、いつも通りDJして、いつも通り飯食って(冬子ん家に潜り込みキャビアおいしかったです)、いつも通り日記書いて、いつも通り自慰に耽って(オカズはflower's)、いつも通り祠のテントで寝たはずだ。
特に外れた行動はしていない。
ありふれた一週だったはずだ。

まあ行動をテンプレ化してしまうと、体が自動的になってしまい思考が鈍くなるので、出来るだけ週ごとに変わったことをしていたわけだが。
たまに全裸で活動してみたり。
たまに車乗ってみたり。
友貴の部屋に忍び込んで、ベッドの下探ったり。
大人のオモチャを一通り部屋に並べてみたり。

まあそれは置いといて。
特に死亡した原因は思い至らない。
……あの世界が終わってしまったのかもしれない。
そして俺は死亡扱い、と。
それならそれでいいさ。
やることはやった。
自分も最後まで保てたし。
言うことは無い。

あとはこの世界でどうするか。
死後の世界。
同じ様な人間がたくさんいるらしい。
その連中と一緒につるむ?
……うーむ。
少し怖い。
もう擬態せずとも普通の人間の中では生きることは出来るはずだ、多分……うん。
俺の中にあった黒い衝動は既に無い。
無くなってしまったか、それとも奥深くに沈み込んでしまったかは分からないが、それがあった場所はポッカリと穴が開いている。
その中に詰め込んでいくのだ。
それが望みだったはずだ。
健全な精神で健全に過ごす。
しかし、いざそうなると怖いなぁ。
今の俺コミュ経験地ほぼゼロだし。

「……何を考えているんですか?」

隣を歩く遊佐っちが、声をかけてきた。
アイロンビューティな表情からほんの少し、こちらを気遣う様な感情が感じられる。

・アイロンビューティ
太一語。アイロンをかけた様なまっさらな無表情を持つ美少女。
ちなみに曜子はロードローラービューティ(淫乱社製)

健全な人間関係なら、こういう時どう返すべきなのか。
普通に返せばいいんだ。
普通普通。

「あ、いやちょっとね。女性が自慰行為を始める年齢について少々考察を」
「……? ……じい?」

童女の様に聞き返された。

「おおう!? ち、違いますです! こ、ここっここの場合のじいとはつまりG! いつ頃からゴキブリを撃滅する行為を行っていたか、という質問ですはい!」
「はぁ」

お、おおう危ない危ない。
常識的に考えてほぼ初対面の相手に自慰行為の開始時期を聞くのはナンセンスだよきみぃ。
ミキミキと話すノリで話ちゃあ駄目の駄目駄目だ。
下手すりゃポリスメンズに取り囲まれるわ。
……いや、いるのかな、ポリスメン。

「ゴキブリ、ですか? そうですね……」
「び、美少女がゴキブリ……何か凄い背徳感を感じちゃうっ」
「……え?」
「あ、いや! ハーイ!トッカーン!ってわけでねっ、黒須太一突貫してまいります!みたいな、ネ!」
「……」

いかんいかん。
少し油断したら、本能的な部分が漏れ出てしまうぞ。

<理性を手放すな!>by太一

うむむ……これはいかんな。
今まで変態的なキャラに擬態することで群青内での適度な距離感を得ていたが……。
擬態する必要が無くなった今じゃあ、素がこんな性格になっているな……。
このままじゃ普通なんてほど遠いんじゃないのアンタ。
自分を戒めねばならぬな。
自戒自戒。
普通の人間関係求む。

「あの……何か私に気を遣っていませんか?」
「むぐっ」

ズバリ言われた。
どうにもこの遊佐っち、かなり洞察力がある。
無表情の奥で、人を分析しているのだろう。
いや、しかし。
ある程度の自重せねば、普通のコミュニケーションなど……。

「いいんですよ。あなたに何があったかは分からないですが、もうここにあなたを縛るものはありません。あなたは自由に生きていいんです」
「……自由に?」
「ええ」

あ、そうか。
そういうことか。
気にする必要なんてないのか。
普通ってのはそういうことなのか。
一々人に合わせて態度を変えなくていいのか。
演技する必要なんて無い。
擬態してきた俺の殻だけど……これを使ってもいいのか。

「じゃあ、いいかな?」
「ええ、何ですか?」

俺は、初めて。
普通になって初めて。
素の自分の、心からの質問をした。


「パンツとブラの色はお揃いなの?」
「……」


返事は腰の入った殴打だった。



††††


「しかし、アレですな」
「……」
「こう全く、死後の世界とは思えんね」

殴打された頬を押さえつつ歩く。
非常に腰の入った一撃だった。
冬子の一撃がリフレインされた。

「……あなたが考える死後の世界とは?」
「こうカワイイ天使が一杯いて、札束の入った風呂でシャンパン飲んだりすんの。で、目の前で女教師ルックの閻魔様が太股を組み替えつつ、俺の罪を数えたりすんの」
「一回死んだ方がいいのでは?」

死んどりますがな。
しかし本当にここは死後の世界とは思えない。
人の気配が違うのを除けば、現実と変わりないように思える。

「では一度試してみては?」
「はて、試すとは?」
「この拳銃で額なりなんなりを撃ち抜いてみてください。既に死んでいるあなたは死にません」
「ギョギョッ!」

拳銃を取り出した遊佐っちを見て、俺はのけぞった。
さすがに拳銃を目の前で見せられると本能的に恐怖する。
反射的にナイフを取り出そうとした俺を止めたのは、徐々にその領域を広げつつある理性だった。
昔なら、拳銃が見えた時点でナイフをスラッシュないしはインサートしていたかもしれない。

「ノーガン! ノーガン!」
「いえ、撃つ気がはありませんが……どうです? 自分で引き金を引いてみますか?」
「俺が引き金を引くのはベッドの上だけさ、へへっ」
「ここをベッドにしましょうか?」
「あひぃ!?」

カチリと引き金を引く音に思わず犬が行う服従のポーズを取ってしまった。
腹を相手に向けて、屈辱を味わう。
ああ、確かにこれは敗北者のポーズだ。
だが、ことこのエリートソルジャー黒須太一に限りこれは勝利のポーズになりえる。
何故ならこの体勢だと、合法的にパンツを見ることが出来るわけだ!
わーい! やったね!

「いえ、冗談ですから。撃たないです、早く立って下さい」

呆れつつも、情けない敗北者を見る目で俺を見る遊佐っち。
ぷぷぷっ、自分の方が敗北者とは思わず、ぷぷっ。


「ちょっと君たち」


とそんなやり取りをしていると、第三者の声が聞こえた。
男の声。
それなりの歳を経た声だ。
視線を向けると、懐中電灯を持った、恐らくは警備員であろう男がそこにいた。

「こんな時間に何をしているんだ? もうすぐ消灯時間だろうに」

巡回か。
まずいな。
何か上手い言い訳を考えないと。

「ちょっと野外プレイを」
「……は?」

警備員はポカンと大口を開けた。
やった、成功だ!
あ、いや違うか。
ポカンとさせるのが目的じゃないんだ。
この場を上手く誤魔化さねばならんのだ。

「……太一さん、行きますよ」

次の言い訳を考えていると、腕が遊佐っちに引かれた。
そのまま道の先へと引っ張られる。

「あえ? で、でも警備員が……」

このままじゃまずいんじゃなかろうか。
普通の学園なら、夜中に生徒を見つけたら、教師に報告をするもんだろう。

「構う必要ありません。アレはNPCですから」
「……NPC?」

また聞きなれた言葉が出てきたなぁ。
NPC?
完全にゲーム用語じゃないか、それ。
要するに人が操作していないキャラだろ。
……ん?
あれ、良く見るとあの警備員、何かおかしいな。
薄い。
ただでさえ薄い俺達に輪をかけて薄い。
まるで機械みたいだ。

「この死後の世界には3種類の存在がいます。まずは私達。これは未練を残したままこの世界に来たものです」

宵闇の中を手を引きつつ、遊佐っちは言う。

「そしてNPC。NPCは元々この世界にいる存在です。話しかければ反応はしますし、攻撃をしかければ自衛しますが、魂がありません。ゲームによくあるNPCと同じものと思ってもらって構いません」
「三つ目は?」
「天使です」

……天使、ねぇ。
ますますもってあの世っぽくなってきたな。
未練を残してここにやってきた人間に天使、か。
こうなんか、アレだな。
ラノベちっくな設定だ。
そして後半に実は死後の世界では無く、ネットゲーム内の出来事だった、とか重大な事実が明かされたりするわけだ。
おお、こ、これは中々いいんじゃないか?
ここには問題を抱えた人間が集まる。
そしてなんやかんやで解決。
現実に戻ってハピハピしたり。
ネチョネチョしたり。

「なんつって」

ありガチ過ぎる。
そんなどんでん返し流行らん流行らん。

「そもそも何だけど……」
「はい」
「俺達ってどこに向かってるわけ?」

グラウンドからの道すがら、全く聞いていなかった。
これはいかん。
新手の勧誘かもしれんのに。
ホイホイついていったら、素人男優としてAVにさせられたり。
ま、まあそれならそれで……

「そういえば言ってませんでしたね。私達が向かっているのはSSSの本部です」
「SSS?」

略称か?

「S(死んだ)S(世界)S(戦線)。神に抗うための人間が集まった組織です」
「(……ネーミングセンス無いなぁ)」

心からそう思った。
全く、つけた人間の顔が見てみたい。
あ、そうか。
今から見に行くのか。
どうせアレだろ。
こんなネーミングセンスの持ち主は、顔にも生き方にもセンスが無いに違いない。
弛んだ頬に黒ぶち眼鏡、勘違いダークファッションにオシャレサンダル。
口癖は「わけわかしまづ」
趣味は少年少女の靴下を採集する様な人間に違いない。
おお、怖い怖い。
新世代のニューセンスを担う俺としては、まず敵対するであろう相手だ。
会った瞬間に襲い掛かるかもしれんね。





[21808] 三話 黒須ちゃん出会う
Name: ウサギとくま◆e67a7dd7 ID:e5937496
Date: 2010/09/13 19:50
「ここです」

遊佐っちに校舎を連れられ、一室の前に来た。
随分と立派な扉だ。
まるで校長室のようだ。
というか校長室だった。

「ここは校長室じゃ?」
「ええ、昔は。今はSSSの本部になっています」

うーむ。
校長室を乗っ取っているのか?
想像していたより無法者の集団っぽい。

「むーん」

室内の気配を探る。
6人……いや、7人かな。
一人猛烈に気配が薄いのがいる。
意図的に薄くしているみたいだ。

「では」

遊佐っちが扉を開け、その後に続く。
室内に入ると、複数の人間の視線が俺に集まった。
あわわ……み、見られてる……!
俺は基本的に人から顔を見られるのが好きでは無い。
初対面の人間が俺に向ける視線は、奇異なものを見る目だからだ。
自分が異端であることは分かっている。
異端は集団から弾かれることも。
でも、俺は集団に入りたかった。
昔のように自分を維持するためじゃない。
今は心からそう望む。
群れたい。
個はもう嫌だ。
交差したい。

「ようこそ、死んだ世界戦線へ」

俺を迎えたのは、机に足を投げ出した勝気そうな少女。
ベレー帽を被っている。
そして室内には他にも数人の少年少女。
俺をここに連れてきた遊佐っちも、壁際に立っている。

「あ、そんなに緊張しなくていいわよ」
「ゆりっぺさん、それは流石に無理かと」

軽く言ったゆりっぺとやらに、遊佐っちが口を挟んだ。

「え、何で?」
「完全に自分の現状を理解していない上に、見ず知らずの人間達に囲まれています。緊張するな、という方が無理かと」
「うーん、それもそうね。……っていうか今日は良くしゃべるわね遊佐さん」
「……」
「いや急に黙らなくても……ま、いいわ」

じゃあ、と言ってゆりっぺは周囲を見渡した。

「黒須君、だったわよね」
「うぃ、うぃー」

俺は緊張していた。
複数の人間、それも普通の人間に顔を見られているのだ。
今までに無い経験だ。
未知の体験は怖い。
思わずストリップショーを始めてしまいそうになる。
で、でもしたらドン引き確定だ。
我慢我慢。
あ、ああ……で、でも顔見られてる……!
醜い顔が見られちゃってるぅ!
ギ、ギブミーガスマスク!

「先にあたし達が自己紹介するわ。まずはあたし、仲村ゆりよ。ゆりっぺって呼んで」

もう呼んでる(心の中で)
しかし美人だ。
かなりレベルが高い。
Aランクフォルダに仕舞っておいて、後でコラっちゃおう。

「この死んだ世界戦線のリーダーをやってるわ」
「えぇッ!? ダ、ダークファッションは!? ださいサンダルは!?」
「いや、何言ってるの? え、っていうか急にどうしたの?」

驚かずにはいられなかった。
俺が予想していたリーダーと目の前のゆりっぺは全く違った。
こ、こんな美少女があのローセンサーだったなんて……!
……い、いや、まあいい、うん。美少女だし。
ここで黒須太一が一言。

<美少女はジャスティス!>

美少女なら何をやっても許されるのだ。
多少センスが残念でも問題は無い、美少女なら。

「い、いえ。少々乱心をば。気にせず続けてたもれ」
「あなた結構わけわかしまづね」
「……え」

そ、それ流行ってるの?

「じゃ、次。日向君」

ゆりっぺがソファに座る青みがかった髪の男を指す。
男は友好的な表情で片手を挙げた。

「よっ、俺日向。ここじゃ結構古株だから、困ったことがあったら俺に相談しな」
「何よそのつまらない自己紹介。『趣味はノーロープバンジーでーす』とかぐらい言いなさいよ」
「何だよその趣味!? 俺が超ドMみたいじゃねーか!」
「え、違うの?」
「違うよ! 何でちょっと意外そうな顔してんだよ!?」
「……とまあ、こんな感じのツッコミ役だから」

続くツッコミをサラリと流してゆりっぺは続けた。
次に差したのは、ほんのり茶髪の少年。
特にこれといって特徴は無い。
特徴が無いのが特徴、みたいな少年だ。
少年は突然自分に振られて、驚いた様子だ。

「え、ぼ、僕!? ぼ、ぼく大山です! えっと、あの……よろしくね?」
「……」

ゆりっぺがとてもつまらなそうな顔をした。
俺もちょっとした。

「え、ええー……しゅ、趣味はその……えっと……ひ、人と話す、こと、かな?」

無茶振りに弱いキャラのようだった。
趣味になっていない。
ゆりっぺはため息をついた。
右手で額を押さえつつ、部屋の隅にいる少女にバトンを回した。
……来た。
この部屋に入った時から、彼女のことは気になっている。
どうしても曜子ちゃんを連想してしまう彼女。
一目見て只者では無いと思った。
まあ見た目からして忍者だったしネ!

「……」

そして無言。
鋭い視線は何を見ているのか。
全く理解出来ない。
……ん、いや待てよ。
気のせいか俺の制服のアップリケ(以前破った際に自分でつけた熊の物)を見ている……気がする。
いや、気のせいか。

「……椎名」

それだけだった。
自己紹介の最下層に存在するであろう自己紹介であった。

「あー、まあいいわ。じゃあ次。そこの、えーと……眼鏡の人」
「高松です」
「ああ、うん。じゃあ高松君」

眼鏡の人は眼鏡をくいと指であげ、俺を見た。
そして自己紹介。
特に取り立てて変わったところの無い、普通の自己紹介だった。
そして俺は何となく、この男は人気が出ないであろう、そう思っていた。
最早眼鏡キャラの宿命だ。

「はいありがとう眼鏡の人。次は――」
「おいゆりっぺ! そろそろ俺に自己紹介させてくれ! 俺の名前は野田だ。いいか? 一つ言っておくがな、俺は貴様をこれっぽちも信用していない。ちょっとでもふざけた真似や、ゆりっぺに色目使ってみろ? この俺のっ! 鍛えた肉体と! ハルバードで――」
「野田君」
「な、何だゆりっぺ?」
「うるさい」
「……」

ハルバードを持ち、直情的と分かりやすいキャラ設定な彼だが、どうやらゆりっぺには頭が上がらないらしい。
ゆりっぺが机のボタンを押すと、突然現れた鉄球により半ば自動的に窓の外へと排出された。
周囲は特に反応していない。
これが日常なんだろう。
俺も適応することにした。

「さっき飛んで行ったのは野田君。ちょっとうるさいけど気にしないで」

他者紹介になっていた。

「そうね。取り合えずはこんなものね。今日は松下五段やTKもいないし……あと岩沢さんもいないわね、これで主だったメンバーは全部、か」
「いやいや! 俺俺!」

長ドスを持った、目つきの悪い男は声をあげた。
正直キャラが薄い、と俺は思った。

「あー……高松君?」
「藤巻だよ藤巻!」
「ああ、そう。ちょっと藤巻君キャラが薄いのよ、ごめんね」

キャラが薄い人間には恐ろしく扱いが悪いようだ。
それで藤巻某の自己紹介は終わった。
最早他者紹介以前の話だった。

「ていうか松下五段達はどこ行ったのよ?」
 
少し苛立った口調のゆりっぺに、遊佐っちが応えた。

「松下五段とTKさんなら、二人で出かけているところを目撃されています。岩沢さんは新曲が浮かびそうらしいので、部屋に篭っています」
「ああ、そうなの……っていうかあれね。松下五段とTK仲良すぎじゃない? もうホモね。きっとそうよ」

なるほど、松下五段とTKはホモ、か。
覚えておこう。
俺って男好きする顔らしいし。

「ま、こんなもんね。言っておくけどキャラが薄い人間はどんどん画面端になっていくから。黒須君もその辺覚悟をしておいてね? ……まあ、見た目である程度はキャラ稼いでるから当分は大丈夫だと思うけど」

俺はその言葉を胸に刻んだ。
気をつけよう。
俺もちょっと世間的にシャイボーイな分類に入る草食系男子なので、他人事じゃない。
個性を押し出していかねば……!
しかし何であの世にまで来て、若手お笑い芸人のような振る舞いをしないといけんのだろうか。
これが普通の人間関係ってやつなのか。

「じゃ、そろそろ本番。黒須君、自己紹介して」
「……」

ついに来た。
自己紹介。
自分の紹介だ。
しかし、どうすればいいんだろう。
今までまともに自己紹介なんてしたことが無い。
ちょっとジョークなどを交えつつ、ウィットに富んだ自己紹介にすべきか。
ガスマスクが無いことが悔やまれる。
あ、いや待てよ。
俺のジョークは少しセンスが高すぎて逆に受け入れられないかもしれない。
ウィットも過ぎるとウィットレスというわけだ(これが言いたかっただけ)
う、うーん。
こ、こうなったら……!
シスコンを司る神、友貴神よ!
今こそ俺に力を貸してくれぇ!
今こそお前のギャグセンスを俺に!

「く、黒須太一です。くろす(暮らし)安心の精神で……まあ、皆さんと仲良く……出来たらいいな……と思っています」

と、友貴神は邪神だ!
見ろ! 何てこったい!
みんながみんな手が顔を覆っているジャマイカ!
『これは酷い……』
ってみんなの心の中が伝わってくるよ!
馬鹿! 友貴神の馬鹿! シスコン童貞! 
呼ぶ神間違ったな、こりゃ。

「……はい、ありがとう。えー、これからもよろしく」
「ど、ども」

ゆりっぺはため息を吐きつつ、やる気の無い声で言った。
ジトっとした目でこちらを見てくる。
残念なものを見る目だ。
そして顎に手を当て、何らかを考えているポーズを取った。

「ちょっとねー、このままじゃ流石にねえ」

その視線の先は俺だ。
盛大にスベった俺にまだ試練を重ねようと言うのか。

「……そうね、黒須君。あなた――何か一発芸をしなさい」
「……っ!?」

その言葉に反応したのは、何故か遊佐っちだった。

「ゆ、ゆりっぺっさん。流石にこれ以上太一さんに苦行を強いるのは、どうかと」
「別に嫌がらせで言ってるんじゃないわよ。流石にここで終わると、黒須君の戦線内での立ち位置があまりにも酷いことになりそうだから、もう一度チャンスをあげるのよ」

さっきの自己紹介、そんなに酷かったのか……。
全く友貴のギャグセンスと来たら、ほんとあの世でも受け入れられないなんて……。
アイツのジョークが大受けするのは、最早笑いキノコを食った人間相手だけじゃないか?

「ここでスベれば弄られキャラ、万が一大受けしたら盛り上げキャラとしての位置を得られるでしょう? 今のままだと彼、最悪空気キャラになるわよ」
「……そ、それもそうですね」

言ってることは間違ってはいないんだが、それを本人の前で言うのはどうか。
俺の胸に次々と言葉の短剣譜が突き刺さっているんだが。

「いい黒須君? 実はこの組織に入る為には一発芸を披露するという通過儀礼があるの」
「俺初耳だぞ!?」
「日向君、黙りなさい。あなたもほら、やってたじゃない。……ノーロープバンジー」
「やってねえよ!」
「ちょっとは空気読みなさいよ! ほら早く!」
「ちょっ、ちょ、おい!? マジかよ!? 今やんのか!?」

日向とやらが、ガンガンと窓のへと追いやられていく。
ほぼ抵抗していない辺り、これが日常に一部であると見られる。
ノロープバンジーを強要される日常か……この世の物とは思えん日常だな……。

「わ、分かったから! 行くから!」
「それでいいのよ。飛ぶ時は何か面白いことを言ってから飛びなさい」
「ここに来てまさかの追加無茶振り!? い、いいよ! やってやんよ!」

日向は窓枠に足をかけ、俺の方を見た。
そして親指を立て、ニコリと笑った。
漢の笑顔だった。

「俺さ、もしここから飛び降りたら……結婚するんだ。オラァーーーーーーーー!!!!」

日向は笑顔のまま窓枠から飛び降りた。
死亡フラグを立て、飛び降りる。
これは中々レベルが高い。
助かろうという意思を感じない。
個人的に中々好きな部類のネタだ。

「……イマイチね」

しかしゆりっぺは厳しかった。
いや、ネタ云々より日向自信に厳しいのかもしれない。
日向はいいやつだ。
ああいう人間と友人になれたら、多分幸せなんだろう。

「じゃ、次そこでガクガク震えてる大山君」
「ええええーーーー!? 何で!?」
「特に理由は無いわよ。ほらあなたも一発芸持ってたじゃない。あのほら……」
「ぼ、ぼく腹話術が出来るんだ!」
「却下よ」
「ええええーーーーー!?」
「それからその『えええーーーーーーー!?』っていうのありきたり過ぎてつまんない」
「えええええーーーーーーー!?」

それに関しては俺も同意だった。
ネタを固着してしまうと、発展性が無くなる。
ここでなら動きをつけるべきだろう。
驚きながら、地面に対して垂直に飛ぶとか。
コミック力場が展開していたなら、月まで飛んでみるとか。

「じゃ、じゃあぼくどうすれば……?」
「そうね。……あなたさっき人と話すのが趣味って言ってたわよね」
「う、うん」
「今から校内中の女性徒に話しかけてきなさい」
「えええ……あ、でもまだ出来るレベルだ」
「全裸で」
「えええええええええーーーーーーーー!?」

ほほう。
そうか。
一発芸ってのはそういう方向でいいのか。
参考になった。
愚息を露出することに抵抗が無い俺だ、それぐらいなら容易い。
しかし大山は抵抗があるようだ。
あまり自信が無いのだろう。

「む、無理だよ! そんなことしたらぼく死んじゃうよ!」
「もう死んでるじゃない」
「もっと死ぬよ!」

もっと死ぬときた。
深いな……(思ってみただけで特に深くは無い)

「ちっ、じゃあ下半身のみ露出でいいわよ」
「そっちの方がより犯罪ちっくだよっ!?」
「あー、うるわいわね! じゃあ上半身だけ裸でいいわよ、全く……死ね!」
「や、やった! な、何で死ねって言われたのか分からないけど! これなら出来る!」

そう言って大山は喜んで上半身裸になり、勇んで部屋から出て行った。
次いで廊下から聞こえる悲鳴。
実に楽しそうだ。

「それから今まさに上着を脱ごうとしている眼鏡の人」
「ふふ、眼鏡の人、ですか。だが、これを見てもまだ、眼鏡の人と――」
「別に見たくないわ」

ゆりっぺが再び机のボタンを押した。
鉄球が眼鏡の人と、何故か藤巻を巻き込んで「何で俺もー!?」と窓の外へと飛び出した。

「さ、これだけ減れば大丈夫でしょう」
「……ひ、酷い目にあった」
「あら日向君、戻ってきたの?」
「おかげさまでな!」

ボロボロの体で日向が戻ってきた。
これで室内は随分と少なくなった。
俺、ゆりっぺ、日向、遊佐っち、椎名。
もしかして気を使ってくれたのだろうか?
シャイボーイの俺のことを。
……心が揺れた。
これは感動、なんだろう。
何気ない気遣い。
こういったものが欲しいんだ。

「……ああ」

満ちる。
ポッカリと空いた場所に何かが満ちていく。
情緒というものなのか。
嬉しい。
期待に応えたい。

「黒須太一……一発芸やります!」

やる気はある。
しかし何をするか、だ。
ゆりっぺはあまり俺に期待はしていないんだろう。
それを見返してやりたい。
あっと言わせたい。
以前の俺には無かった感情だ。

全裸で校内を走る。
いいだろう。
インパクトはある。
しかし大山とやらが既に似たようなことをしてしまった。
正直ネタ被りは寒い。

それなら俺に出来ること。
何をやる。
今俺が出来る何か。
今の俺に出来る最高の一発芸。


――パラシュート・デス・センテンス




[21808] 四話 黒須ちゃん放つ
Name: ウサギとくま◆e67a7dd7 ID:e5937496
Date: 2010/09/15 11:16
――パラシュート・デス・センテンス

俺が放ちうる最高の極技だ。
しかし、最後に人間相手に放ってから長い時間が経った。
鈍っているということは無い。
研磨し続けた。
錬度は高め続けた。
誰もいない世界でも、空いた時間の合間に練習は続けた。
抱き枕にスカートを履かせ、ひたすら研磨した。
故に鈍ってはいない。
それどころか以前より鋭さはましたはずだ。

「さ、黒須君。一発芸よ。言っておくけど温いものだったら容赦なく爆破するわよ?」

ば、ばばばっば爆破!?
ボ、ボンバーされちゃう!

「黒須君ちょっとキャラ薄いからねぇ。ここらで一発凄いことやっとかないと。見た目だけで生きることが出来るほどこの戦線は甘く無いわよ?」

や、やっぱり俺キャラ薄いんかな……。
俺っていわゆるギャルゲー系な優柔不断系前髪ボッサ主人公だからなぁ。
や、やってやんよ!
今世紀最高のパラデを魅せてやる!

「ばんわー! お邪魔しまーす!」

俺が精神を集中させていると、部屋の扉が開く音がした。
視線を向けると、ちんまいピンク髪の全体的に悪魔なファッションでキメた少女がいた。
ゆりっぺが額に手を当て、思案顔で応対。

「え? 誰? あ、そういえば……ガルデモの……雑用の子だったっけ?」
「ええ、まあ雑用には違いないんですけど、そこはアシスタント、と」
「同じじゃない」
「まあ同じっちゃあ同じなんですけど、譲れないものがあるっていうか」
「はぁ……で、何の用?」
「岩沢さんの代理で来ましたです、はい」

ビシリと可愛らしく敬礼をする少女。
一人、増えたか。
まあいい。
進化したパラデ、五人までなら可能!

「まあいいわ。あなたも見て行きなさい」
「はぇ? なんの話です……ってうわ! 超絶美人!」

美人って言われたぜ。
お世辞と言われても、顔が綺麗と言われたら嬉しい。
まあ、本音を言うと「キャ! イケメン! 速やかに抱いて!」とか言われた方が嬉しいんだけどネ。

「え? アレ男の人なんですか? うわー勿体ないなぁ」

勿体無いって言われたぜ。
何が勿体ないか詳しく聞きたいところだ。
まあ、今はいい。
今は奥義に集中せねば。

まずは位置関係の把握。
今いる俺が位置が部屋の中心。
机を挟んで正面にゆりっぺ。
南西の隅に椎名。
東に遊佐っち。
南に新人。
あと日向がソファにいるがこれは除外。

「え、一発芸するんですか? 何で? アホなんですか?」

あ、アホて言った。
ふふふ、貴様には他のヤツより数倍のリキを込めてやる。
俺の精神は限りなく極限まで高まった。
肉体には既に火が灯っている。
肉体は始動を急かすように、今か今かと震えている。
溢れそうになる力を体に押し込めるように、漏らさぬように口を開いた。

「一発芸――パラシュトート・デス・センテンス」
「へー? なに、結構面白そうじゃない。……これでスベったら最悪だけど」
「ですよねー。ここまで格好つけた名前で、もしただの宴会芸レベルの代物だったら、ユイにゃん一生この人指差してバカにしてやんますよっ」

く、言ってくれる。
だがこの妙技。
既に宴会芸レベルなど超越している!
コォォォと息吹。
両腕を前に。
あ、その前に。

「ゆりっぺ、ちょいと椅子からスタンダップ」
「え? 立たなきゃ駄目なの? ま、いいけど」

ゆりっぺが立ち上がり、机の左横に立った。
これで条件は整った。
進路方向に障害物は無い。

――パラシュート・デス・センテンス!

俺は目をカッと開き、前のめりに倒れこむようにしながら、走り出した。
短距離をより高速で駆け抜けるように、爆発的な加速力を得るために。
地を蹴る。
低い体勢で疾走。
一気にトップスピードに。
すぐにゆりっぺの目の前に来た。

「え?」

突然目の前に向かってきた俺に、判断能力が追いついていないのか。
素の表情を浮かべるゆりっぺ。
俺はそのゆりっぺに正面からぶつかる様にして、ギリギリで真横をすり抜けた。
その瞬間。
すり抜ける瞬間に。スカートの端を掴む。
そしてほぼ同時に全身二十四箇所の関節を同時駆動。
超小規模の乱気流をスカート内に発生させる。
爆発が起こったかの様に一気にまくれあがるスカート。

――アケスケー(効果音)

「……はぁ!?」

ゆりっぺが驚愕の声をあげるが、その瞬間に俺は既に駆け出していた。
机を迂回して、東の壁際にいる遊佐っちの元へ。

「ちょっ! な、なによこれ!? ス、スカートが浮き上がって、押さえてるのに!? どうなってんのよ!?」

大混乱に陥っているであろうゆりっぺ。
パラシュート・デス・センテンスによる乱気流はおよそ7秒――いや、特訓によってパワーアップしたその効果は10秒を超え、対象の下着を衆目へと晒し続ける。
一方を押さえても反対側が浮き上がる。
放置すればクラゲ状にスカートが広がる。
今思いついたが、このパラシュート・デス・センテンスによって引き起こされる現象を<モンロー効果>と名づけようと思う。
無論あの超有名女優にあやかってだ。

ゆりっぺの悲鳴を聞きつつ、疾走。
瞬く間に遊佐っちの前に。

「……っ!」

先ほどからのゆりっぺの痴態を見たからか、遊佐っちは俺を警戒して、スカートを既に押さえつけている。
しかし無駄。
無駄なのだ。
この奥義、防ぐことは出来ない。
発動したが、最後スカートを掴んだ時点で俺の勝ちだ。

「ヒャオゥ!!」

伝承者の様な掛け声とともに、スカートをめくりあげた。
遊佐っちはスカートを押さえているが無駄だ。
既に乱気流は発生している。
スカートはモンロー効果により、押さえつけていない部分がめくれ上がった。

「な、なんで……!?」
「ちょっと、こらっ! 何よこれ!? ちょっと日向君!? なにジッと見てんのよ!? 目抉り取るわよ!?」

遊佐っちとゆりっぺの悲鳴がシンクロする。
しかし、ここで満足して立ち止まってはいけない。
まだ標的は二人残っている。
遊佐っちの前を通り過ぎ、ボケーとした顔で棒立ちになっている小悪魔系ファッションのピンク髪少女の下へ。
最高速を超え、体が軋みをあげる。
無視。
ピンク髪少女の正面を通り過ぎるその刹那、

「ジョイヤー!」

剛の拳を股下から一気に振り上げる。
バサリと何の抵抗も無くスカートはめくり上がった。

「はえ? ――な、なんじゃこりゃー!?」

反応が鈍い。
少女は淑女にあるまじき悲鳴「ギャオー!?」とか「ひぎぃ!?」とかをあげつつ、何とかスカートを押さえつけようとしている。

これで三人。
まだ時間にして疾走を始めてから二秒も経っていないはず。
思考だけが引き伸ばされていく。

「……」

視線を最後の一人。
部屋の隅の壁に寄りかかる椎名へ。
椎名はこの惨状を見ても、特にこれといった反応はしていない。
相変わらず腕を組んだまま、黙している。
余裕の現れだろうか。

椎名に接近。
一気に射程距離まで近づく。
至近距離まで近づいても、何のアクションも起こそうとしない。
……試しているのか、俺を?
この黒須太一を。
ならいいさ。
慢心しているうちが一番やりやすい。
確かに目の前の忍者は曜子ちゃんに匹敵する技能を持っているかもしれない。
そういう超越した存在感がある。
だが、この俺の真・パラシュート・デス・センテンス。
曜子ちゃんにも回避されたことがない。

正面から特攻。
無防備なスカートを――

「……なに!?」

掴もうとした。
確かにスカートの端を正面から掴もうとした。
しかし俺の手は空を切った。
遅れてやってくる手の甲への鈍い痛み。

弾かれた、だと?

いや、しかし。
全く見えなかった。
そんな馬鹿な……。

次いでもう一度チャレンジ。

「……っ」

再び空を切る。
真横を半ば転がる様にして突進、すれ違い様にスカートのサイドを持ち上げようとする。
しかし弾かれる。
相変わらず椎名は正面を向き、腕を組んだままだ。
見えない。
パリィが見えない。
恐らくはパラデにリソースを割きすぎているからもあるだろう。
普段の俺なら見えていたはずだ。
しかし、今の俺はパラデという超奥義の発動にほぼ感覚を間接に集中している。
しかしそれがあっても早すぎる。

正面の壁を蹴り、後ろ宙返りをしながら、スカートに腕を走らせる。
弾かれた。
着地と同時に、体を地面スレスレまで倒し、顔面スライディングの体で、下から一気に掬い上げる。
弾かれた。
体を起こす隙をバックステップでキャンセルし、フェイントを混ぜつつ、両腕から十一手放った。
全て弾かれる。
体勢を立て直し、再び椎名の正面へ。

「……あさはかなり」

嘲笑の篭った椎名の言葉。
その表情は俺が室内に入った時から変わらず、獲物を狙う鷹のような鋭い視線だ。
しかしマフラーで隠された口元は愉悦に歪んでいるのだろう。
一泡吹かせてやりたい……!

俺は脳内コンビューター<曜子ちゃんXP>が現状を打倒しうる策を演算した。
そうだ……!
思いついたが即行動。
俺は制服に貼り付けていたアップリケを毟り取った。

「あ……」

椎名の口調からか細い声が漏れた。
切なげな表情でアップリケを見る椎名。
やはりそうだ。
攻防の最中も、彼女はこのアップリケを目で追っていた。
まさかとは思ったが……。
これは使える!

俺は足元にそのアップリケを落とした。
椎名が動き出す。
早い。
一目散に足元のアップリケへ駆け寄って来る。
好機……!
すれ違い様にパラシュート・デス・センテンスを発動。
さっきまでが嘘のようにクリティカルヒットした。
一気にまくれあがるスカート。
太ももにクナイのような物がいくつも見えた。
しかしまだ終わりではない。

そのまま背後に回りこむ。
背中の中心、やや上部分を人差し指で押す。
ミリ単位で指を振動させ、ホックを外す。
そして制服の裾から中に素早く手を突っ込んだ。

「せやっ!」

相手に気づかれる隙も無く、行動は終わった。
腕を引き抜く。

「……っ!?」

ここでようやく自分の痴態に気づいたのか、椎名はスカートを押さえつつ、ちゃっかりアップリケを胸に抱え、部屋の隅へと退避した。
押さえても押さえても、別の場所が膨れ上がるスカート。
何を思ったか椎名は太もものクナイを取り出し、両腕に装備した。
そのまま自分の太もも真横を這う様にクナイを振り下ろした。
クナイはスカートを貫通し、そのまま背後の壁へ突き刺さる。。
なるほど。
クナイでめくれ上がるスカートを昆虫の標本のように壁へ押さえつけたのか。
凄まじい判断能力だ。
あとは正面のスカートを押さえれば問題は無い、と。

「……フ」

不敵に笑みを浮かべる椎名。
勝ち誇っている。
しかし俺もその笑みに負けない様に、不敵な笑みを浮かべた。

「……?」

敗北者たる俺がそんな笑みを浮かべる意味は分からない、という顔。
次いで俺が手にした物を見て、目を見開いた。

――ブラ~ン(効果音)

ブラである。
黒いブラである。
あの一瞬の攻防の間に、ブラを外し抜き取ったのだ。
この黒須太一、その手の技能に関して右手に出る者はいないと自負している。
ブラジャーの抜き取りはその技能の一つだ。

「……っ。あ、あさはかなり……!」

顔を歪め、胸を押さえる椎名。
微妙に頬が染まっている気がしないではない。

「ああああ! もうっ! このスカート荒ぶりすぎでしょ!?」
「……ま、まさかここまで変態だったとは……」
「ぎゃー! 何じゃこりゃー! ユイにゃんのおパンが丸見えですよこれ!? そこのお前見物料払えやー!」
「あさはかなり……!」

室内に響き渡るスカートのはためきの音、そして嬌声。
部屋の中心でその音に耳を傾ける俺。
今の俺はさながらオーケストラの指揮者だった。

「ああもう! っていうか日向君! いつまで見てんのよ!? 死ね!」
「ええ? はは……うぼぇっ!」

ゆりっぺの蹴りにより、日向が窓ガラスをぶち破って外へ飛び出た。
日向は笑っていた。
桃源郷を垣間見たものの顔だった。
とても幸せそうだった。

「ははは、大成功だ」

俺は誇らしかった。
みんな喜んでくれたようだ。
一発芸は大成功。

そして俺は忘れていた。
パラシュート・デス・センテンスの終焉を。
何をもって終焉とするのか。
パラシュート・デス・センテンスは対象の羞恥心を極限まで高めることによって、その後、技を放った人間に対する報復の度合いを引き上げる。
技を錬度を高めれば高めるほど、技の後の報復が増幅することを。
長きに渡り抱き枕相手に練習を行っていた俺は忘れていた。

――その後、俺を襲った報復は、かつてないほど恐ろしいものだった。 


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