福岡市の博多湾で同市博多区の会社員、諸賀(もろが)礼子さん(当時32歳)の切断遺体が相次いで見つかった事件は、15日で最初の遺体発見から半年となる。県警は捜査員延べ約7000人を投入、交友関係を中心に約3500人から事情聴取したが、事件につながるトラブルは見当たらず容疑者は浮上していない。一方、自宅アパートの状況などから、一度帰宅したように偽装された可能性も検討するなど、捜査幹部は「あらゆる可能性を念頭に原点から捜査を見直す」と話す。【島田信幸、近松仁太郎】
諸賀さんは3月5日午後7時ごろ、勤務先の福岡県筑紫野市の製薬卸会社支店を1人で退社し行方不明になった。捜査の最大の壁は物証の乏しさ。県警は最後の足取りから洗い直している。
捜査関係者によると、通勤に使っていた社有車は博多区の支店に駐車されていた。支店からアパートまで約500メートル。玄関ドアは施錠されており、室内にバッグや財布などが残されていた。ところが、当日着ていたとみられるスーツと玄関のキーが見当たらず、帰宅経路や自宅周辺での目撃情報や防犯カメラの映像もなかった。
県警はこれまで、車を支店に止めて歩いて帰宅後、顔見知りに連れ出されて殺害されたとみていた。しかし、こうした自宅や周辺の状況などを詳細に再検討。犯人が襲撃後に、財布などをアパートに置いて、一度帰宅したように偽装した可能性も視野に入れて捜査している。
切断遺体は、3月15日に福岡市西区の能古島で下腹部が見つかり、4月15日までに博多湾内でポリ袋に入った両腕や、首の下から腹部までの胴体、頭部が浮かんだ状態で次々と見つかった。県警はアパートを検証したが、殺害や遺体切断の形跡を示す血液反応は出なかった。ポリ袋も全国に流通している量産品で手がかりになる可能性は低いという。
昨年11月の交通事故でトラブルになった男性や、失そう直後に諸賀さんの腕時計を質入れした男性らも捜査線上に浮かんだが、いずれも事件には関与していないとみている。
捜査幹部は「殺害、遺体の切断現場が特定できれば物証が出てくるはず」と話す。
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◆博多湾死体遺棄事件の経過◆
3月 5日 諸賀さんが福岡県筑紫野市の勤務先を退社
6日 同僚が福岡市博多区の諸賀さんの自宅アパートを訪ねるが不在
7日 親族が県警に捜索願
15日 能古島の海岸で切断された下腹部が見つかる
18日 アパートを死体遺棄・損壊容疑で現場検証
4月 9日 同市中央区の福岡競艇場内の海上でポリ袋に入った両腕見つかる
14日 同区の博多湾で首の下から腹部までの胴体が見つかる
15日 同区の博多湾で頭部が見つかる
28日 諸賀さんの腕時計を質入れした男(32)をテレビを盗んだ別の窃盗容疑で逮捕。「時計は質店前で拾った」と供述
5月20日 質入れの男を窃盗罪で起訴。諸賀さんと面識はなく、事件への関与はなしと判断
毎日新聞 2010年9月14日 西部朝刊