菅直人首相の圧勝に終わった十四日の民主党代表選。首相が総ポイントの約四分の一を占める党員・サポーター票で、小沢一郎前幹事長に予想外の大差をつけたことに加え、小沢氏が優勢といわれた国会議員票でも上回ったのが勝因となった。ただ、数字からは小沢氏の底力も見えてくる。代表選の投票行動を分析した。 (原田悟)
■国会議員票
「いろいろ考えたが、最後は菅首相に投票した。国会運営を含め、菅首相の方が改革を前に進められる」。当選一回の今井雅人衆院議員は代表選後、こう表明した。
今井氏は、最後まで態度を明らかにしていなかった中間派議員の一人。三十人とも四十人ともいわれた中間派議員の大部分が最終的に首相支持に回ったとみられている。
小沢陣営は中間派議員の取り込みに当初、自信を持っていたが、思ったようには浸透できなかった。最大の壁となったのが小沢氏の政治とカネの問題だった。国民世論は、この問題を抱える小沢氏に批判的。これが中間派議員の判断に影響した。また、選挙戦終盤、首相リードの見方が強まった結果、中間派に勝ち馬に乗りたいとの気持ちが広がった。
ある若手議員は「政治とカネの問題を超えて、有権者に小沢氏と書いたと説明できる理由がほしかった」と指摘した。
国民世論の影響は中間派ばかりではなく、小沢、鳩山グループの一部にも出た。
首相の支持基盤は非小沢系勢力の集合体で、多く見積もって約百二十人。党内最大のグループを率いる小沢氏の勢力は、第二の鳩山由紀夫前首相のグループも加わって約二百人に膨らみ、小沢氏の基礎票での優勢は明らかだった。首相陣営の幹部は当初、「負けている」と認めるしかなかった。
しかし、実際はそうではなかった。小沢陣営の幹部は「国会議員票で五十人以上の差をつける」との強気な発言を繰り返していたが、小沢グループと目された新人議員の一部が首相支持に走ったほか、鳩山グループにも「造反」が出た。陣営をまとめきれなかった小沢氏に対し、首相が基礎票を手堅くまとめ、消極的支持層を取り込んだ。「首相が勝ったというより、小沢氏が負けたということだ」(中堅)と冷めた見方も出ている。
■党員票
三百小選挙区に一ポイントずつ配分された党員・サポーター票は、首相二百四十九ポイント、小沢氏五十一ポイントと決定的な差がついた。この数字だけなら党員・サポーターも世論と同様、小沢氏に厳しい評価を下したとみることができ、首相支持の渡部恒三元衆院副議長は「民主党は国民の党だとはっきりした」と胸を張ったが、内情は違う。
党員・サポーター票は、選挙区ごとに勝利した候補がポイントを獲得する「総取り」方式のため、一かゼロしかない。全国の得票総数は、首相約十三万八千票、小沢氏約九万票。得票率は六割対四割で、小沢氏の善戦ぶりが浮き彫りになる。
得票数に応じてドント方式で配分される地方議員票でも、首相六十ポイントに対し、小沢氏は四十ポイントを獲得。全体では国会議員の半分と、地方議員、党員・サポーターの四割は小沢氏を支持した計算になる。
小沢氏に近い山岡賢次副代表は「逆風の中の結果であり、大きな意味がある」と強調。ポイント上は圧勝した首相だが、見かけほど小沢氏を圧倒したわけではない。
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