「柔道世界選手権最終日」(13日、代々木第一体育館)
100キロ超級で屈辱的な初戦敗退を喫した鈴木桂治(30)=国士舘大教=が、無差別級で銅メダルを獲得した。準決勝で金メダルを獲得した20歳の上川大樹(明大)に一本負けしたが、外国勢相手に戦った3位決定戦まですべて一本勝ち。進退は保留したが、引退覚悟からの逆襲で、12年ロンドン五輪に望みをつないだ形となった。女子無差別級は78キロ超級を制した杉本美香(26)=コマツ=が優勝し、日本女子史上初の2冠。全日程を終えて日本は史上最多の金メダル10個を獲得した。
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失いかけた希望は、わずかにつながった。「柔道は勝たないとダメ。メダルを取って、万歳じゃない」。鈴木に笑顔はない。それでも「(進退は)ゆっくり考えたい。今は五分五分。怖さもあるし、やりたい気持ちもある」と、冷静に今の思いを口にした。
「引退」の2文字が、ずっと脳裏をよぎっていた。大会初日の100キロ超級は初戦一本負け。08年北京五輪も初戦敗退。「もう一度世界チャンピオンになる」というアテネ五輪覇者の再挑戦だった。「限界かなと思った」。一度はあきらめた。
ラストチャンスは篠原監督から与えられた。敗戦翌日「(無差別級に)出るか?」との打診に「このままじゃ引退すると思います」と訴えた。「この間のような試合はできないぞ」。百も承知だった。「しっかりやります」と告げた。
井上康生コーチに「お前はまだ戦える。逆境を乗り越えろ」と送り出された。初戦から準々決勝、3位決定戦は一本勝ち。足技に、絞め技とあらゆる技術を駆使した。「この相手はこうだから、こう攻めようと頭が回転した。体は現役を続けたがっている」‐。
首脳陣も再評価だ。吉村強化委員長は「久しぶりにアイツのキレのある技を見た」。篠原監督は「やらせますよ」と現役続行を断言した。
惨敗からこの日まで、中3日。「意地にならずにすんなり辞めた方がいいのかとずっと考えた」。自問自答を続けた。運命をかけた戦い。畳に上がる前には、涙が流れた。万感のこもった銅メダル。ただ、すぐには結論は出せない。「肉体的にはいける。気持ちがどうか」。悩み抜いて結論を出す。