きょうのコラム「時鐘」 2010年9月15日

 代表選の2週間、連日のように笑顔の2人が紙面に載り、映像で流れた。珍しい見ものだった

無口でこわもてのはずが、人が変わったように白い歯を見せた。イラついて突っ掛かる人が目尻を下げて愛きょうを振りまいた。営業用の顔作り。笑いにもいろいろある

落語家の桂文珍さんが金沢の講演で紹介した小話を思い出す。言葉を容易に覚えぬ子がいて、周囲を心配させた。やっと覚えたのが「お母さーん」。喜びもつかの間、母親が翌日死んだ。次に覚えたのが「おじいさーん」。祖父もすぐに亡くなった

ついに「お父さーん」を覚え、父親は覚悟を決めたが、死んだのは隣のオヤジだった。実は不義の子だったという暗い笑いのオチ。代表再選の折に縁起でもない話だが、次々と声が掛かって短命政権に終わるという笑えぬ現実がある。珍しく長期政権だった元首相の決めぜりふは、「自民党をぶっ壊す」。不義の関係を自ら名乗り、命を永らえた。文珍さんの小話に似ている

不思議な政治の世界である。作り笑いは、賞味期限が切れた。高笑い、失笑、追従笑い。別の笑いの芝居が新たに始まる。