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民主党代表選の投開票日を迎えた。私たちはこの選挙について、繰り返し疑問を投げかけてきた。まず、政権交代時代の党首選びとしてふさわしいありようなのか[記事全文]
またひとつ、重い民意が示された。米海兵隊普天間飛行場の移設先として日米が合意した沖縄県名護市。12日投開票された市議選で、受け入れに反対する稲嶺進市長を支持する勢力が大[記事全文]
民主党代表選の投開票日を迎えた。
私たちはこの選挙について、繰り返し疑問を投げかけてきた。
まず、政権交代時代の党首選びとしてふさわしいありようなのかどうか。
20年来の政治改革がめざしたのは、有権者が総選挙を通じ直接、政権党と首相を選ぶ仕組みである。政権党が、民意と無関係に首相の座をたらい回しにする政治との決別を意味する。
今回、小沢一郎前幹事長が勝てば、1年で3人目の首相になる。自民党のたらい回しを批判してきた民主党としては、およそ筋が通らない。
第二に代表選を実施するにしても、小沢氏の立候補は理解しにくい。
わずか3カ月前に政治とカネの問題で、鳩山由紀夫前首相とダブル辞任したばかりだ。強制起訴となるか否か、検察審査会の判断を待つ身でもある。
最高指導者たろうとするにしては、けじめがなさすぎるのではないか。
きょう投票する民主党国会議員は、今回の代表選が置かれた以上のような文脈をよくよくわきまえて最終判断してもらいたい。
そのうえで、菅直人首相と小沢氏との論戦をどう評価するのか、である。
1年前、有権者は政権交代に何を託したのか。厳しさを増す暮らし、将来への不安や閉塞(へいそく)感。経済のグローバル化や少子高齢化の波に適切に手を打てなかった古い政治と決別し、新しい政治を築くことを求めたに違いない。
この点、菅氏の問題意識は明確だ。
公共事業で景気浮揚と地方への再分配を図る「第一の道」でも、市場原理重視の「第二の道」でもなく、「第三の道」をめざす。介護などにてこ入れすれば雇用が生まれ、経済が成長し、財政も好転する。そんな発想だ。
そううまくいくのか、断行する力量があるか、心もとなさはぬぐえない。消費税論議に踏み込みが足りず、どう実現するのか具体性も欠いている。
小沢氏は、マニフェストこそ処方箋(せん)だということなのだろう。「コンクリートから人へ」も、子ども重視の姿勢も、問題を解く手がかりではある。
だが財源の説得力ある説明は聞かれず、無利子国債を財源に高速道路を造るというに至っては、古い政治の体現者ではないのかという疑問がわく。
どちらが、よりましか。確かなのは、腕力のありそうな指導者に任せればそれで済むほど、事態はたやすくないということだ。
少子化でもデフレでも日本は世界の「最先端」をいき、倣う前例がない。無駄の削減であっても、受益者の痛みは避けられない。与野党の議員、官僚、有権者に知恵を求め、試行錯誤を重ねる。丁寧に説明し、ともに考える。そんな姿勢が欠かせない。
新しい政治とは何か。それを突き詰めて考え、投票すべきである。
またひとつ、重い民意が示された。
米海兵隊普天間飛行場の移設先として日米が合意した沖縄県名護市。12日投開票された市議選で、受け入れに反対する稲嶺進市長を支持する勢力が大幅に議席を伸ばし、過半数を得た。
最も身近な地域の代表を決める選挙である。移設への賛否だけで、有権者が判断したわけではあるまい。
しかし、明確に移設反対を主張し続ける市長が、議会で安定した基盤を確保した。菅直人首相は選挙結果を重く受け止めるべきだ。
昨年夏の総選挙の際、沖縄県の4小選挙区すべてで、名護市辺野古への移設に反対する候補者が当選した。
今年1月の名護市長選では、移設容認の現職を破り、初めて反対派の稲嶺市長が誕生した。
基地受け入れの見返りとしての公共事業や地域振興策より、普天間の国外・県外移設を求める――。政権交代を機に火がついた沖縄の民意は、もはや後戻りすることはなさそうだ。
辺野古での滑走路建設には、県知事の公有水面埋め立て免許が必要だ。地元の市長と市議会が反対で足並みをそろえた以上、11月の知事選で誰が当選しようと、免許を出すのは簡単ではない。客観的に見て、日米合意の実現はさらに厳しくなった。
普天間の危険除去のためにも、日本の抑止力維持のためにも、どうしても辺野古移設が必要だというなら、菅政権はそのことを正面から沖縄に問いかけ、少しでも理解を広げる努力をしなければいけない。
現状では、そうした汗をかいているようには見えない。ただ知事選の結果待ちというのでは、無責任にすぎる。
民主党代表選では、小沢一郎前幹事長が、沖縄県、米国政府との再協議を提起した。日米合意の実現が難しいという現状認識はその通りだが、具体的なアイデアは示されていない。代表選の行方にかかわらず、政府与党あげて知恵を絞り、取り組む必要がある。
政府と沖縄県の公式の対話の場である沖縄政策協議会が先週ようやく再開された。政府にとっては沖縄との信頼関係を築き直す重要な舞台だ。
ただ、沖縄振興を決して普天間移設と結びつけてはいけない。沖縄振興の基本は、太平洋戦争で本土の盾として地上戦を戦ったうえ、戦後も長く米軍に支配されたことで、今も残る本土との格差を埋めることだろう。
2011年度末に期限が切れる沖縄振興特別措置法に代わる新法も協議の対象となる。基地の負担軽減はもちろんだが、基地に依存しない自立した経済をどうつくるか、沖縄の将来ビジョンをともに描いてほしい。
信頼回復は言葉だけではできない。ひとつひとつ共同作業を積み重ねるしかない。