民主党の代表選で小沢一郎前幹事長が無利子国債に言及し、その余波が広がっている。冷静になって考えてみたい。
利子が付かない購入者側のマイナス要素を、相続税免除という恩典を与えることにより埋め合わせるというのが、無利子国債の仕組みだ。
相続税を回避するため世の中には巨額の現金がため込まれている。無利子国債によってこのお金を集め景気対策に使えば、たんす預金が生きたカネに変わるというのが、推進論者が強調する点だ。
一方、脱税目的の資金を政府が救済するに等しく、一度限りと政府が言っても、再度の救済を期待しアングラマネーを増殖させることになりかねないという批判もある。
可否をめぐっては、さまざまな論議があるが、普通の国債が支障なく発行できている状況で、あえて無利子国債を出すメリットが、果たしてあるのだろうか。
日銀は市中に出回っている現金に見合った形で国債などの資産を保有している。無利子の現金を発行して、金利の付く国債などを購入しているわけで、それによって得られた利益は国庫に繰り入れられている。無利子国債の発行で現金が減れば、通貨発行による利益も、減少する。
一方、無利子国債を買う側からすると、失われる金利収入を上回る相続税免除のメリットがないと意味はない。国とたんす預金の保有者のどちらが損をするのかというと、利払い費を上回る相続税収入を失いながら、通貨発行益も減少する国の方ということになる。
無利子国債の発行は、国に不利に働く。それなら、普通の国債を発行すればいいということではないか。
国債の市中消化が難しいなら、損を覚悟で無利子国債の発行も考えられる。しかし、相続税免除のメリットがあるからといって、そんな状況下で積極的に購入する人がいるだろうか。
もうひとつ指摘したいのは、無利子国債論の根底にある考え方だ。資産家層を多少優遇したとしても、そこから出てくるお金で景気がよくなれば、一般の人たちも恩恵を受けられる。小泉政権下で金融・経済財政担当相の竹中平蔵氏が推し進めた構造改革の考え方と似ている。
この無利子国債導入論は、前にも論議が行われたが、急速にしぼんだ。小沢氏自身も10日の公開討論会で「相続税免除の非課税国債は基本的に賛成ではない」と、否定的な見解を示している。
奇策で臨んでも、問題を先送りするか悪化させるだけというのが歴史が教えるところだ。今回も賢明な判断が行われることを期待する。
毎日新聞 2010年9月12日 2時31分