余録

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余録:きょう民主代表選

 「根は枯れじ筒井の水の清ければ心の杉の葉は浮かぶとも」は戦国武将の筒井順慶の辞世だ。日和見を表す「洞(ほら)ケ峠(とうげ)」で有名な順慶だが、歴史探偵の半藤一利さんによるとこの歌、自分への悪評に対する抗議の色あいもあったようだ(「名言で楽しむ日本史」平凡社ライブラリー)▲明智光秀と羽柴秀吉の山崎の合戦を洞ケ峠で形勢観望したという順慶だ。だが史実では恩義ある光秀の加勢の求めに応じず、大和で籠城(ろうじょう)して静観を保った。その順慶の動静を見ようと洞ケ峠に進出したのは光秀の方だ▲恩義や友情と時の勢いとの板挟みといえば、権力をめぐる争いで古今よくある話である。しかも前首相の「恩義がある」発言で火ぶたを切った民主党代表選だ。ちょうど同じような板挟みをかこつ議員もいるかもしれない▲小沢一郎前幹事長と菅直人首相とで党を文字通り二分してきた代表選は、態度未定の議員への両派の激しい働きかけと共に投票日を迎えた。国会議員では拮抗(きっこう)しつつも小沢氏がわずかにリード、地方議員や党員・サポーターでは菅氏優勢との下馬評がもっぱらである▲本来は主権者である国民が自ら1票を行使したい一国のリーダー選びだ。その権能の大半を多数党の国会議員に委ねるのは選ばれた者の識見を信頼してのことである。それが党という小集団の義理や人情、一身の打算などの板挟みに足をとられていては話にならない▲グローバル競争と地域の疲弊、膨れ上がる社会保障費と財政赤字--などなど挙げれば数知れない。首相選びの洞ケ峠から真剣に見渡してもらいたいのは、今日の日本が直面している板挟みである。

毎日新聞 2010年9月14日 0時07分

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