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きょうの社説 2010年9月14日
◎増える格安航空 北陸の空港も傍観できぬ
全日空が発表した「ローコストキャリアー」(LCC)と呼ばれる格安航空会社の設立
は、国内参入が相次ぐ海外LCCとの旅客需要の争奪戦や、新会社の拠点となる関西国際空港の再生に焦点が当たるなか、地方空港に及ぼす影響も目を離せない。国土交通省の成長戦略では、航空分野でLCCの参入促進による利用者メリットの拡大 が柱の一つになっている。地方空港でも海外LCCが就航し、茨城−上海4千円(片道)、福岡−釜山1万1900円(往復)など破格の運賃で話題を呼んだ。新潟県などでも誘致の可能性を探る議論が進んでいる。石川、富山県としても傍観しているわけにはいかないだろう。あらゆる可能性を視野に入れ、具体的な対応策を練っておきたい。 全日空の計画では、新会社は「ANA」とは別ブランドとし、運賃は大手の5〜7割程 度をめざす。関空を拠点に2011年度下期に国内、国際それぞれ3〜4路線を運航し、初年度は5機程度、5年目には15〜20機に増やす。 全日空が国内大手で初めてLCCに参入するのは、羽田、成田の発着枠が拡大するなか 、アジア路線で攻勢を強める中国、韓国などの会社に対抗する狙いがある。一方、日航も更生計画案にLCCの設立検討を盛り込んだが、その前に低価格競争で経営が圧迫されるとの見方も出ている。いずれにせよ、成功させるには収益構造を抜本的に変えたビジネスモデルの確立が不可欠である。 空の旅は配慮の行き届いた「フルサービスエアライン」が定着しているが、欧米や東南 アジアでは機内食を有料にしたり、テレビ・音楽サービスを廃止するなどコストを徹底的に削減したLCCが急成長している。国も航空規制の緩和などで参入促進の環境整備を図る構えだが、過度のコスト削減は安全面での懸念も増すだけに監督強化が大きな課題である。 小松、富山空港は北陸新幹線開業で羽田便の利用減も指摘されている。そうしたなかで LCCは新たな航空需要を掘り起こし、空港活性化につながる可能性もある。航空業界の新たな潮流に目を凝らし、新幹線時代に備えた中長期的な空港戦略を考える必要がある。
◎インドと経済協定 「核」の立場の違い超えて
日本とインドが懸案の経済連携協定(EPA)の締結に実質合意した。中国に次いで高
い経済成長を続けるインドとの貿易、投資の拡大は、日本の成長の強力な推進力になる。日本とインドが経済で密接な関係を築くことは、中国の軍事的圧力が強まるアジアの安全保障環境の安定にも寄与しよう。インドとの間では、EPA交渉に並行して原子力協定締結交渉も進められているが、こ ちらは難航必至の状況である。インドは経済成長で急増する電力需要を原子力発電で賄うため、日本の先端技術の導入を望んでいる。日本も原発インフラの輸出を念願しており、インドへの原子力関連技術の移転を可能にする原子力協定の締結で原則一致している。 ところが、核拡散防止条約(NPT)に未加盟のまま核兵器開発を続けるインドと、核 軍縮・不拡散を国際社会に訴える日本の立場の違いから、協定の内容をめぐって溝が生じている。インドが核実験をした場合、協力を停止する旨を協定に盛り込むことを求める日本の主張に、インド側が抵抗しているのである。 それでも、核の立場の違いを超えて、相互に経済利益を得るウィンウィンの関係を築い ていけるはずだ。原子力協定文の対立も解消できないものではない。少なくとも、原子力協定交渉がこじれてEPAの批准、発効が遅れるようなことがあってはならない。 今回の合意によると、EPA発効から10年間で、日印両国間の貿易総額の94%に当 たる物品の関税が段階的に撤廃される。交渉が合意に至った要因の一つは、農業分野でそれほど激しい対立がなかったことであろう。インドもまた国内農業の保護に迫られており、コメや肉類など互いに影響の大きい農水産物は、それぞれの輸出・輸入品目から除外された。 しかし、インド側が求める看護師や介護福祉士の受け入れは決着せず、日本にとって大 きな宿題が残された。インドとのEPAでは韓国が先行しており、関税撤廃を10年間といわず、できるだけ早める努力をしてもらいたい。
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