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【社説】

尖閣違法操業 船長を「英雄」にするな

2010年9月9日

 海上保安庁が尖閣諸島周辺の日本領海で違法操業していた中国漁船の船長を逮捕し中国政府は抗議している。危険な行為で逃走を図った船長を領土対立の英雄にしない知恵が両国に問われている。

 海上保安庁の発表によると、中国のトロール漁船は七日午前、巡視船から退去警告を受け船首を巡視船の船尾に接触させ逃走した。その後、追跡を受けた別の巡視船にも船体を衝突させて逃げた。

 四時間近くも逃走した後、ようやく停船命令に応じた。政府は対応を協議した上、八日未明に船長(41)を公務執行妨害の疑いで逮捕した。

 中国政府は尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権を主張し周辺海域も自国領海としている。中国外務省は「日本の巡視船が釣魚島海域で法の執行はできない」と丹羽宇一郎駐中国大使を呼び抗議し船長の解放を要求してきた。

 八日の中国各紙は「日本の巡視船が中国漁船に衝突」(新京報)など日本を非難し、北京の日本大使館前では抗議活動もあった。

 中国は近年、日本が実効支配している尖閣諸島に対する領有権の主張を強めている。二〇〇八年十二月には日本の海保に当たる海監総隊の巡視船が周辺の領海を九時間も航行する事件が起きた。

 政府が「法令に基づき厳正に対処していく」(仙谷由人官房長官)としているのは当然だ。

 ただ、中国政府も漁船や抗議船が尖閣周辺に進入しトラブルを起こすことは規制してきた。今回は一部の漁船による偶発的事件の可能性が高い。問題の漁船は巡視船への衝突などシーマンシップにもとる危険な航行を繰り返した。

 中国側がこうした行為を「領海」の権益を守る行動と正当化し、船長を英雄のように扱うなら国際的な共感は得られまい。

 中国側には紋切り型の主権主張にとどまらず事件の客観的な評価も踏まえて、日中関係の全体に影響を与えることのない理性的な対応を望みたい。

 日本側にも冷静な対応が問われている。〇四年三月、尖閣諸島に中国人活動家七人が上陸した事件で、政府は小泉純一郎首相の靖国神社参拝で緊張した日中関係に配慮して送検を見送り強制送還した。

 当時と異なり日中関係は現在では落ち着きを取り戻している。しかし、政府は事件の内容や司法手続きについても十分に説明を行い、中国側の過剰な感情的反発を防ぐ手だてを考えるべきだ。

 

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