[尖閣沖接触事故]事態の悪化防ぐ知恵を

2010年9月9日 09時51分この記事をつぶやくこのエントリーを含むはてなブックマークLivedoorクリップに投稿deliciousに投稿Yahoo!ブックマークに登録

 双方が領有を主張しているホットな海域だけに、小さな事故であっても処理の仕方を誤れば、両国の領土ナショナリズムを刺激し、事態が思わぬ方向に発展しないとも限らない。

 尖閣諸島周辺の日本領海内で7日午前、操業中の中国トロール漁船が、警戒中の海上保安庁の巡視船2隻と立て続けに接触。漁船の船長(41)が8日未明、公務執行妨害の疑いで逮捕された。

 海上保安庁によると、石垣海上保安部の巡視船が、網を張って違法に操業していた中国漁船を発見、領海外に退去するよう警告した。

 中国船は網を船に引き上げ、巡視船に接触してそのまま逃走。別の巡視船が中国船を追跡し、再三にわたって停船を命じた。停船命令に従わず急にかじを切ったため、この巡視船とも接触事故を起こしたのだという。

 接触事故の発生から逮捕までにかなりの時間を要しているのは、日本政府が事態を重視し、慎重に対応を検討したからだ。

 外務省は「漁船が日本の領海に入り、違法に操業した」と程永華駐日大使に強く抗議した。中国外務省も「尖閣諸島は昔から中国の領土」だと主張し、丹羽宇一郎駐中国大使に抗議した。

 外交チャンネルを通しての抗議の応酬はいわば「定番の反応」とも言うべきものだ。

 事態をこれ以上こじらせないためには、何よりも、冷静な対応と細心の注意が求められる。日中双方が知恵を絞り、種火が燃え広がらないようにしてほしい。

 問題をこじらせたくないという気持ちは日中両政府にあると思う。問題は、振り上げた拳をどうおさめるかという、その次の対応である。

 しかし、日中双方とも、事態が悪化する要素を抱えており、決して楽観はできない。

 中国でインターネット上の対日批判がエスカレートすれば、中国政府としても対応が難しくなる。弱腰の対応に終始すれば、批判の矛先が日本ではなく自国の政府に向かう可能性がある。

 日本政府だってそうだ。東シナ海における中国軍の動きが活発なこの時期に、弱腰の姿勢で対応すれば、国民がどう反応するか。

 日米関係が冷え込んでいるときだけになおさら、民主党政権に対する不安感が広がる恐れがある。

 日本政府が船長逮捕の判断を下したのは、そのような背景があるからだと思う。

 「弱腰でもなく、かといって強腰でもない」という冷静な姿勢が必要ではないだろうか。最も警戒すべきなのは、日中両国の軍事的緊張を招き寄せることである。

 中国漁船の日本領海での操業と、中国海軍の活発な活動を結びつけて中国に対する警戒感をかき立て、中国の脅威をことさら強調することによって結果として冷戦時代への逆戻りを許してしまう―そのようなことがあってはならない。

 沖縄の漁業者の不安にも耳を傾け、事態の悪化を回避する手だてを尽くしてほしい。

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