そこは錬金術と剣の力が支配する世界。
人々の間には、「ノア・ストーン」と呼ばれる石の伝説が語り継がれていた。
すべての魔法の力は、そのノア・ストーンから生まれ出てくる。
ノア・ストーンの力を手にした者には、地獄の災いか、神の恵みか、いずれかが与えられる。
しかし誰もが、その存在は空想の産物に過ぎないと信じていた。
ただの夢物語に過ぎない、と・・・
”ダイアロス”
外海の果てに、周囲を巨大な竜巻に囲まれた島があった。
いや、島なのか、未知の大陸の一部なのかも定かではない、辺境の地であった。
止むことなく吹き荒れる暴風雨は、島に近寄るもの、をことごとく沈めてしまうという。
沈んでいく・・・。
海の底へと沈んでいく・・・。
薄れゆく意識の中で誰かの声が耳に――
ぱちり、と目を開ける。
目に入ってくるのは知らない天井、というわけでもなく見慣れた自分の家の天井。
「夢・・・か・・・・・・」
いたって普通の日本人である自分が何の因果かMMORPGであるMaster of Epicの舞台、ダイアロスに流れ着いたときの記憶。
Master of Epicは数あるMMORPGの中でも完全スキル制という珍しいタイプのものだ。
筋力、生命力といったスキルや刀剣、素手といった戦闘系のスキルから伐採、採掘、木工、鍛冶のような生産系のスキル、
そして落下耐性や死体回収といった何これ?と思うような数々のスキルから合計850の枠に収まるように育てるのである。
スキル値の合計が850になっても、不要なスキルを下げて必要なスキルを上げるといった事ができるため自由度が高い。
初心者を見たら囲んだりツアーと呼ばれる複数PTで行くダンジョン探索でも若葉マークのついた初心者がいれば全力で守るツアーとなったり、
戦闘力のない人やいわゆるネタ構成と呼ばれる人がいても、われわれの業界ではご褒美ですと言ってしまうような雰囲気が好きでどっぷりとやっていた。
あのころはまさか自分がダイアロスに流れ着くなんて思ってもいなかったなぁと考えて苦笑する。
しかし、流れ着いて数年経ったが、あの時の事を夢で見るのは初めてだ。
何か良くないことが起こる予兆か、と考えて首を振りその考えを打ち消す。
そんなことを考えても詮無いことだ。
さて、今日はどうするかな・・・。