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[21833] 【習作】 クリアのアトリエ (トトリのアトリエ・オリ主)
Name: コルネス◆2d774991 ID:593a0955
Date: 2010/09/12 12:09
 この作品についての注意書き

・錬金術等について、作者の独自解釈が含まれる可能性があります。
・時系列をイベントにあわせて変更すると思います。(初日のトトリの冒険が日帰り等)
・オリ主ものですが、現代知識や原作知識はありません。
・一部キャラが空気になるかもです。

 以上が大丈夫な方は下へお進みください。





 大きな釜が2つ置かれた部屋、他にも色々な薬品や器具が置かれていた。一つの釜の前には妹が立ち、それをかき回している。ちなみに俺は、今練金し終わった物をカゴにしまっていた。
 この部屋はとある事件のあとに増設された錬金部屋なんだが、ずっと昔からあるような気がする。まだ作られて1年もたっていないのにそんなことを思うほど、俺はよくこの部屋に居るわけだ。
 そんなとき隣から錬金術失敗の爆発音がして、部屋が派手にちらかった。 昨日もやったばかりなのにと思い、思わず嘆息してしまう。

「昨日俺が失敗したばかりだから姉さん余計に怒りそうだな……」
「うぅ、どこで間違えたのかなぁ…」

 そう話していると扉が開く音がした。姉さんがきたようである。 その表情は心配の色が濃く出ていた。

「二人とも大丈夫!?」
「あ、おねえちゃん」
「ふぅ、今度はトトリちゃんなのね。ケガはしてない?」
「うん、わたしは大丈夫」
「俺も平気」
「そう、よかった……」

 そう言うと姉さんの表情が心配から怒りに変わる。

「もう、一体何回爆発させたら気が済むの!?」
「別に爆発させたくて爆発させたわけじゃ… それにわたしは悪くないもん。ちゃんと教わった通りにやったし」

 確かにその通りなんだよな。トトリ曰わくあれがやりやすいらしいから、こっちもとやかく言えないし。
 あれで成功するのが未だに理解できないが……

「いっつもそんなこと言って。誰が後片付けすると思ってるの」
「おにいちゃん」
「……その通りなんだが普通そう言うか? 」
「クリアもトトリちゃんに甘すぎるのよ。二人合わせたら毎日のように爆発させるし……」

 こっちにも矛先がきた!
 ここの所お互い爆発物が多くて、しょっちゅう爆発させてたのは悪いと思ってるけど……

「今日という今日は怒ったんだから! 二人ともそこに正座しなさい!」
「あ、わたし用事思い出した。また後でね!」
「ちょま、俺を置いて逃げるな!」

 言うとすぐに部屋を出て行くトトリ。普段の行動はのんびりなのに、いざというときはすばやいんだよな。
 おかげで俺1人が矢面に立ちそうではあるが。まぁ丁度材料は切れてたし、取りに行ってくれてると思えばいいか……

「錬金術覚えてからすっかりおてんばになったんだから。まぁ、おかげで元気になったことは嬉しいんだけどね」
「そうだね。その錬金術も俺なんかよりうまくやれてるし」
「そうなの? 爆発の回数はトトリちゃんのほうが少し多いように思えるけど」
「やってることが違うから。俺がトトリと同じ事やったらもっと失敗してるよ」

 そういいつつ掃除の準備を始める。今回の爆発は少し強力だったらしく、掃除には時間がかかりそうだった。
 まぁ材料が切れてたから、丁度いいといえば丁度いいか。

「それじゃ、クリアだけでもお説教ね」
「……見逃してはくれない?」
「だーめ。終わったら手伝ってあげるからこっちきなさい」

 そういわれて連れて行かれる俺であった。
 ちなみに解放されたのはだいぶ後である。




 解放されてから掃除を終えるとすでに夕方なっていた。
 姉さんは途中から夕食の支度に出ていて今はおれ1人しかいない。
 夕食が出来るまで暇だし、錬金術の復習でもしようと思っていると声がかかった。

「お疲れ様、クリア」
「父さんいたんだ」
「今入ってきたんだけどね」

 ……扉が開いた気配しなかったんだけど。相変わらず気配のない人である。
 ちなみに、クリアと呼ばれている俺の名前だが正確にはクリューリア・ヘルモルト。呼びにくいから皆からはクリアと呼ばれている。

「それで、どうかした?」
「ツェツィから伝言。掃除して埃がついてるだろうから、ご飯の前にお風呂に入っときなさいだって」
「りょーかい」

 そう言って風呂に向かい脱衣所の前の鏡と向き合う。
 いつ見ても思うが、男らしくない顔つきだと思う。髪はトトリとかと同じ黒髪、瞳の色は父さんと同じ薄い茶色。ジーノなんかも顔つきでいえば女っぽいんだが、あいつの場合は体つきがしっかりしてるしなあ。
 まぁ、今はそんなこと気にしている場合でもない。すぐに夕食だろうから急いで風呂を済ませてくるとしますか。




 トトリは夕食の時間に帰ってこなかった。準備もせずに出る形だったから夕食はうちで食べると思ったんだが。
 姉さんもトトリの帰りを待って遅くまで起きてたんだが、今はすでに寝ている。
 俺は錬金術で遅くまで起きていることも多く、まだ起きて本を読んでいる。 遅くに帰ってきてだれも起きてないと寂しいだろうし、錬金術の復習をしておきたかったからだ。
 ちなみに、本を読んでいるといっても正確にはノートのようなものだったりする。ロロナ先生からもらった参考書もあるにはあるんだが、表現があいまいだったり長ったらしかったりと俺にはわかりにくかった。
 なのでロロナ先生やトトリにアドバイスをもらいながら、自分なりに書き直してみたわけだ。書き終わったのをロロナ先生に見せたら、元のより図解が多かったりで分かりやすいってほめられたし。
 そうしていると、そっと扉が開く音がしたのでそっちを向く。

「ただいまー…」
「おかえり。遅かったな」
「あ、おにいちゃんまだ起きてたんだ」
「誰かが逃げたおかげで錬金術の復習する時間がなかったからな」
「それは……ごめんなさい」
「まぁいいんだけどな。いい素材は取れたか?」
「うん、ばっちり! それでおねえちゃんはまだ怒ってる?」
「少し怒ってたかな。せっかく作った夕飯が冷めちゃうって」

 俺がそういうと。机に並べてある料理に目を向けるトトリ。
 もう冷めてるはずなのに、まだまだ美味しそうに見えるのはさすが姉さんだ。

「あう、また怒らせちゃった…… あ、今日のご飯おさかなのパイだったんだ」
「食べるだろ? どうする、温めるか?」
「あ、お願い。……明日謝っとく」
「そうしとけ。それじゃ、温めたら俺は寝るけどトトリもすぐ休むんだぞ」
「はーい」

 料理を温めアトリエの本棚に読んでいたものを戻すと、寝室に向かい眠りについた。
 姉さんとかに多少の迷惑もかけつつも、俺はこんな毎日を楽しく過ごしている。



[21833] 第1話
Name: コルネス◆2d774991 ID:593a0955
Date: 2010/09/13 20:04
 朝おきて顔を洗いに行ったあと朝食の準備を始める。うちの家事は基本的に俺と姉さんでやっていて、今日の朝食は俺の番なのである。
 まぁ、朝なのでそんなに手の込んだ物は作らないけど。

「おはよう、クリア」
「おはよう父さん」

 準備をしているうちに父さんが起きてきた。ちなみにトトリはまだ寝ていて、姉さんは洗濯をしている。
 あとはリビングに運ぶだけだったので、それを父さんに任せトトリを起こしに行くことにした。


「トトリ、起きてるか?」

 ノックの後、声をかけるが返事がない。想像通りなのでとっとと中に入りカーテンを開ける。
 すると日の光が入ってきて、それを嫌がるように毛布に包まろうトトリ。仕方がないので毛布も剥ぎ取る。

「ほら、もう意識はあるんだから顔洗って来い」
「うー、昨日寝たの遅いのに……」
「それは自業自得だろ。もう朝食出来てるんだから」

 そういうと、うぅーとかうなりながら顔を洗いにいこうとする。
 俺もその後に続いて朝食を食べに向かうのだった。




 朝食を食べ終え片づけをすると、アトリエに向かう。すると一足先についていたトトリが本を読んでいた。
 ちなみに俺のノートである。

「ちょっと聞いていいか?」
「うん、大丈夫」
「コンテナの仕分けってもう終わってるかと思ってさ」
「昨日のうちにやったから平気だよ」

 コンテナの仕分けってのはその名のとおり、コンテナの種類分けである。俺専用、トトリ専用、共有の3種類があり、ほしいものはあらかじめ専用に取っておくことになっている。
 もっとも、ほとんどのものは共有に入るのであるが。

「復習ばっちり! それじゃ調合開始!」
「俺も始めるとするか」

 今日は基本に帰って中和剤をやることにする。
 使用する素材は……


「やった! かんせーい!」

 あれから1時間と少し、トトリのほうは完成したようだ。
 そして俺の方も……

「こっちも……成功だ!」

 最近じゃまず失敗しなくはなったが、やはりうれしいものだった。
 少し浸っていると姉さんの声がした。

「よかった。今日は失敗しなかったみたいね」
「わ!? お、おねえちゃん見てたの?」

 俺もまったく気づかなかった……
 まぁ錬金術やってる最中は集中してるから仕方ないんだが。

「ええ。爆発しそうになったら急いで止めようと思って」
「わ、わたしだってそんな毎日失敗しないよ。ちゃんと先生に教わった通りにやってるし…」
「教わった通りに、ねえ…… 昨日もそんなこと言ってたけど」

 ロロナ先生の教えか…… かれこれ半年は合ってないんだよな。
 そう思いつつ当時を思い返す。


「よいしょ、よいしょ。こんな感じで平気ですか?」
「うん平気だよ。あとはそのまま、ぐーるぐーるかき混ぜ続けて」
「ぐーるぐーる……ですか?」

 そういわれても良く分からないんですが……
 仕方ないので自分なりにかき回し続ける。

「ああ、違うよ! それじゃぐるぐるぐるだよ! もっとこう、ぐーるぐーるだって」
「うーん…… もう少し遅くすればいいんですか?」
「そうじゃなくてぐーるぐーるって感じなんだけど……」

 それがわからないんけど……
 そんな風に、俺とロロナ先生が苦戦しているとそばで見ていたトトリが声をかけてきた。

「たぶんですけど、棒を下につけてかき回す感じじゃ……」

 試しにその通りにかき回してみる。
 そうすると、今まで感じられなかった手ごたえを感じられるようになる。

「そうそう、そんな感じ! 次はね……」


「横で聞いてて私には何を言ってるのかさっぱりだったけど」

 俺も半分以上わからなかったよ姉さん。
 トトリが横からアドバイスしてくれたからなんとかなったけど、最後のほうロロナ先生落ち込んじゃってたもんな。

「わ、わたしには分かりやすかったもん」
「トトリはあの教え方で理解できてたからな」
「おにいちゃん、私がアドバイスしないとさっぱりだったもんね」

 思わず顔が引き攣るのを感じる。本当にさらっと毒を吐く子である。
 まぁ、たびたび言われるおかげで慣れてきたけど。

「それにしても、変わった先生だったわよね」
「うん、それは否定できないけど……」
「ははは……」

 出会いが家の前での行き倒れだからなぁ。あのときは本当に驚いた。
 その後もいろいろやってくれるし……

「色んな人に錬金術を教えるために旅をしてるって言ってたけど、まだ続けてるのかしら?」
「うーん、どうなのかなあ…… たまには会いに来てほしいけど」
「一応、ロロナ先生が居なくなってから成長したと思うし、見てもらいたいよな」
「うん。元気かなぁ、ロロナ先生」
「元気にはしてるんじゃないか。あの人の元気ない姿って想像つかないし」

 そうこうして話に一区切りがつく。
 するとトトリが言いづらそうな顔で話を切り出してきた。
 
「えっと、おねえちゃん……」

 そういい淀んだあと、吹っ切ったのか姉さんに頭を下げてから言うのだった。

「昨日はごめんなさい!」
「もう……頭あげていいわよ、怒ってないから。トトリちゃんの分までクリアを叱っておいたしね。でも、これからはあんまり心配かけるようなことしちゃだめよ?」
「わかった!」

 こういうときにしっかり謝れるんだだからトトリはすごいと思う。普通怒られるかもしれない話題はあげたくないものなのに。
 それに、改めて謝るのってテレが入って言いにくしな。


「そうそう、二人とも。さっきゲラルドさんが来たわよ」
「ゲラルドさんって酒場の? なんで俺たちいたのに帰っちゃったの?」
「酒場のよ。帰ったのは二人が錬金術やってるって言ったから。急ぎの用事じゃないからあとで来てくれだって。」

 なるほど、気を使ってくれたのか。
 錬金術してるときに手を離すと失敗する可能性があがるからな。

「でも、用事ってなんなんだろ?」
「なんでも、二人に頼みたいことがあるみたい。そろそろお昼だから、食べたら酒場にいってきたら?」
「うん。後で言ってみる」

 トトリの返事にあわせて俺も了承するのだった。




 昼食後、酒場に向かっている俺とトトリ。
 その道中トトリが疑問の声をあげる。

「私とおにいちゃんが呼ばれるって何の用事だろ?」
「錬金術関係じゃないか? てか、そうだとうれしい」
「なんで?」
「依頼がくるってことは、それが必要とされてるってことだろ。それって1人前に近づいたって感じじゃないか」
「あ、なるほど。そうだといいね!」

 そう言ってにこにこ笑い出すトトリ。 本当にそうだといいんだけど。
 そう話しているうちにゲラルドさんのお店が見えてきたようである。近づいて酒場に入る俺たち。

「ゲラルドさん、こんにちはー」
「こんにちはー」

 ここに来るのも久々だが、相変わらず客がいない……
 たまに父さんがいってるみたいだけど、つぶれないか心配になってくる。
 まぁ、昼から酒場が繁盛するのも問題な気はするが。酒のにおいがあまりしないおかげで入りやすいし。

「おお、来てくれたか。適当に座ってくれ」
「はい。それで俺たちに頼みたいことってなんですか?」
「ああ、今から説明する。前々から考えていたことなんだが、今日から新しい仕事を始めることにしたんだ。今の仕事だけではとても食っていけないからな」

 やっぱり客入ってなかったんだ……

「はあ……お客さん全然いないですもんね」

 そしてトトリ、そういうことは思うだけにしとけ。

「そうはっきり言われるとつらいものがあるがな」
「あ、ごめんなさい!」
「まぁいい。その新しい仕事なんだが、アーランドからの依頼を回してもらうことにしたんだ」
「アーランドからの依頼、ですか?」

 考えても仕方ないので、聞いてみることにする。
 でも、口ぶりからして錬金術が必ず必要なわけではなさそうなのが少し残念だ。調合依頼とかならうれしかったんだけど。

「そうだ。アーランドでは住民の依頼を国がまとめて、それを冒険者や有志の人間に斡旋するシステムがあるんだ。そういった依頼の一部をこの村に回してもらうことにしたんだ。アーランドでは手に入りにくいものでも、こういう田舎の村では容易に手に入ることもあるしな。」
「はぁ……それはわかりましたけど、なんでその話を私たちに?」
「そりゃあ、お前たちにその仕事をやってもらいたいからさ。この村にはほとんど冒険者がいないしな」

 ……冒険者の仕事か、あまり気乗りしないな。
 まぁ、もう少し詳しく聞いてみるか。

「俺やトトリで出来るんですか? 冒険者資格もないからいける範囲は限られますし、倒せるモンスターだってぷにくらいしか……」
「大丈夫さ。難しい依頼は最初から断っておくし、なによりお前たちは錬金術士だろ。冒険者じゃ手に入れられないものでも、お前らなら作ることことが出来るだろ」

 錬金術士って言われるとやりたくなるんだよな。
 やっぱり少しでも錬金術士だと思ってくれるなら嬉しいし。

「なら……今まで通りに物を作って、その中から依頼品を納品する感じでもいいですか?」
「あぁ、それでいい」

 正直、そこまで気乗りしないけど依頼ってことはお金がもらえるだろう。
 切羽詰ってるわけではないけど、あって困るものではないし。

「それなら、トトリがいいなら大丈夫です」

 そう言ってトトリの顔を見ると、なにやら決心した顔になっていた。
 これは決まりかな。

「私もやりたい。ゲラルドさん、これからお願いします!」
「いい返事だ。それじゃ、これからは定期的に店に顔を出してくれ。依頼は不定期に入ってくるからな」

 そういうとゲラルドさんは奥に向かっていく。
 まだ何かあるのかと思ってると、なにやら紙も持って戻ってきた。

「早速だが、こなせるものはあるか?」

 そういって見せてくる紙には中和剤とマジックグラスの依頼があった。

「あ、これなら両方あります!」

 そう言ってうれしそうな顔をするトトリ。
 俺もこのくらいなら問題ないなと、気分がほっとする。
 
「依頼達成でいいか?」
「あぅ、家にあるんでとってきてもいいですか?」
「ああ、取って来い」

 そういうゲラルドさんに見送られ、俺たちは店を出て行った。




「おーい、トトリ!」

 店を出るとジーノが声をかけてきた。
 少し見ないうちに、また逞しくなっているのが妬ましい。

「って、クリアも一緒なんだな。やっと冒険行く気になったのか!」
「たまたま酒場に用があっただけだよ。それよりトトリ、依頼品は俺が持っていくからお前はジーノといってきていいぞ。帰るのは1週間後くらいでいいんだな?」
「ありがと。それで大丈夫だよ」
「えー、たまには一緒に行こうぜ。トトリだって平気なんだから大丈夫だって」
「こっちは姉さんの手伝いとかもしないといけないんだよ」
「それにジーノ君、今なら私のほうが強いよ」

 ……確かに錬金術の材料集めるようになってから強くなったよな。
 俺もいかないわけではないけど、トトリが行きたがるし、ぷにとはいえ戦うのが怖いので最近はトトリに任せきりだった。その分、アトリエの掃除なんかは全部俺がやってるんだけど。
 はぁ、いくら言い訳してもさすがに落ち込むな……。

「おい、トトリ。クリアのやつマジで落ち込んでるぞ」
「う、ごめんおにいちゃん。アトリエ掃除してくれたり感謝してるんだよ?」
「事実だから別にいいんだけどさ…… まぁ、気をつけていってこいよ」

 俺がそう言うと、二人は元気よく言うのだった。

「ああ、いってくる!」「いってきまーす!」

 そう言う2人を見送ってから、家に戻り酒場に依頼の品を持っていく。
 少しは体鍛えようかなと思いながら。



[21833] 第2話
Name: コルネス◆2d774991 ID:593a0955
Date: 2010/09/12 12:47
 トトリが冒険に出て1週間たった夕方、俺は姉さんと一緒に夕食の準備をしていた。
 この1週間は錬金術をしたりしていつも通りすごした。クラフトの錬金に失敗してまた姉さんに怒られたりしたが、それは割愛する。またゲラルドさんの酒場にも顔を出したが、依頼は入っていなかった。
 ガチャっという扉が開く音がした。トトリが帰ってきたのだろう。
 普段は1日くらい伸びたりするのに珍しいなと思っていると、声がかかった。

「ただいまー……」

 声からトトリが帰ってきたので正解だったとわかる。
 だが、どうも声のトーンがいつもと違う。まるで何かを伺うような……

「おかえり」
「おかえりなさい。夕ご飯、もうちょっと待っててね」
「う、うん……」

 やっぱりおかしい。予想はなんとなくつくが、聞いてみることにする。
 外れてくれるといいんだけど。

「どうしたんだ? 珍しく大人しいけど」
「え? べ、別にどうもしないよ?」
「そっか、ならいいけど」

 本当に言いたいならそのうち言い出すだろう。無理して聞く必要もない。
 そう思っていると、今度は姉さんが切り出して言った。

「ウソね。トトリちゃんが大人しいのは、悪いことした後か何かおねだりしたいときって決まってるもの」
「そ、そんなことないよ!」

 そう言うと不満そうな顔でうなるトトリ。こういう所がわかりやすいってのに。

「言いたいことがあるなら言ってみなさい」
「……言っても怒らない?」
「怒ったりしないわよ。よっぽどひどいことじゃなければね」

 するとトトリが言いづらそうに切り出した。
 予想、外れているといいんだが。

「じゃあ、取りあえず言うけど。あのね、もしも……もしもだよ? わたしが冒険者になりたいって……」

 その言葉で姉さんの空気が変わる。 今までは普段通り和やかだったのが怒気をはらんだものへと。

「ダメよ!」

 俺はやっぱりという気持ちだった。
 前々から、トトリは冒険者に興味を持っていた。それに加え、ゲラルドさんの酒場で冒険者の仕事を請け負うことになったのが原因だろう。
 断っておくべきだったかもしれない。……いや、それは問題の先延ばしか。

「そ、そんな怖い顔しなくても。だから、もしもって……」

 涙目で訴えるトトリ。反対は予想していたのだろうが、ここまでされるとは思っていなかったようだ。

「もしもでもなんでもダメ! 何をバカなこと言ってるの!」
「バ、バカってひどい! 全然バカじゃないもん!」
「バカよ!あなたが冒険者なんて無理に決まってるじゃない。運動は苦手だし、力仕事は出来ない。頭だってそんなによくないし。
 そんなダメダメなところがちょっとかわいいけど……」
「そ、そこまで言うことないでしょ!? 何も出来なくない、錬金術が出来るもん! おにいちゃんは賛成してくれるよね!?」

 ……トトリには悪いとおもうが。

「俺も反対だ」

 そういう俺にショックを受けたようにしているトトリ。俺は賛成してくれると思ってたんだろうな。
 そう思うのも無理はないかもしれない。依頼を受けるのも了承したし、トトリが冒険者になれば色々な材料が手に入るだろう。そうすれば錬金出来るものの幅は増えるから。
 だが、それでも承諾できない。

「そんな……おにいちゃんも反対なの?」
「ああ、お前には危ないことをしてほしくない。今だってジーノと二人だから出来てるようなもんじゃないか」
「今はそうかもしれないけど…… でも、いつかはお母さんみたいな冒険者になるもん!」

 その言葉につい感情的になる俺。怒鳴るのはダメだと思っていたのに歯止めがきかなくなる。

「じゃあその母さんはどうなったんだよ!」

 その言葉に対してトトリも言い返してくる。そこからは怒鳴り合いのようなものだった。

「お母さんだって、わたしが探してくるよ!」
「探したって見つかるわけがない。もう何年経つと思ってるんだ! きっと母さんはもう……」
「そんなことない! きっと、どこかで迷子になってるだけだもん!」
「ダメといったらダメだ!」
「そうよ、トトリちゃん。ダメなものはダメなの!」

 そう否定する俺と姉さんを睨むトトリ。 それと合わせるように叫んできた。

「二人ともわからず屋! 大嫌い!」

 そして自分の部屋にかけていった。
 その一言で冷静さを少し取り戻した俺と姉さんが呼び止める。

「トトリ!」「トトリちゃん!」

 しかし、振り返る気配はなかった。
 追いかけたいが……、今は逆効果だと冷静になってきた頭で考える。

「……私だって、言いたくて言ってるわけじゃないのに」
「でも、少し言いすぎちゃったな……」

 そう言って落ち込む俺と姉さん。
 そこに声がかかる。

「久しぶりの大ゲンカだったね。だめだよ、家族なんだから仲良くしないと」

 驚き振り向くと、そこに父さんが立っていた。
 ……マジで気配がしなかったんだが。

「大嫌いって、トトリちゃんに大嫌いって言われた……」

 そういって泣き出す姉さん。俺も泣きはしないが大嫌いには堪えた。
 明日、顔合わせずらいな……

「ああ、お前まで泣いてどうするんだ。ところで、今日の夕食は……」
「1日くらい食べなくたって死にゃしないわよ!」

 そういうと、姉さんも自室に駆け出す。
 あえて空気を読まなかったんだろうが、今のはないと思うよ父さん……

「はぁ……作りかけが勿体無いから俺が作るよ。作ったら二人の部屋に持っていってもらっていい?」
「あぁ、わかった」

 気乗りしないが作ってしまおう。それで、食べたらすぐに寝よう。




 翌朝、昨日あんなことがあったにも関わらず俺も姉さんも家事をしていた。姉さんは朝食を作り俺は洗濯をする。そんななか、どうやってトトリと顔を合わせる顔考えるがいい案は浮かばない。
 それが終わりリビングに戻ると、珍しくすでに起きてるトトリと父さんがいた。そのことに一瞬入るのに躊躇するが、入らないわけにも行かない。
 そして、なぜか姉さんがいなかった。トトリには声をかけ難いので父さんに尋ねることにする。

「父さん、姉さんは?」
「多分自分の部屋じゃないかな」

 そういってトトリに目を向ける父さん。それだけでなんとなく理由を察することができる。 ついでに、俺が朝食を作らないとならないことも察した。姉さん、二連続はないよ……
 仕方なく朝食を作ろうとキッチンに向かう。ちょうどトトリのそばを通り過ぎるとき声がかかった。

「あの、おにいちゃん」
「なんだ?」
「昨日はごめんなさい……」

 そう謝ってくるトトリ。……トトリは昨日のことあまり引きずっていないみたいだし、こっちも気にし過ぎちゃだめだな。
 大嫌いだってその場の勢いだって分かってるし。

「俺も方も言い過ぎたよ。昨日は悪かったな」

 そう謝る俺に驚いたようにするトトリ。

「え、それじゃあ冒険者になっても……」
「それはダメだ」

 そう言うと不満そうな顔になった。おそらく、姉さんにも似たようなことを言ったんだろう。いないわけだ。

「どうして? このあたり冒険するのは止めないのに……」
「このあたりの魔物は大して強いのがいないからな。」

 そういい切る俺に、まだ何か言いたそうにしているトトリ。だが、この話題を続けるつもりはない。

「ほら、朝食作るからまた後でな。それともトトリがつくるか?」

 俺がそういうとしぶしぶ席に戻っていく。
 朝食の方は姉さんが途中までやっていてくれたおかげですぐに終わりそうだった。




 それからしばらく、トトリは家にいて錬金術の修行をしていた。
 もっとも、次に冒険にいく準備を兼ねていたらしく、爆弾中心ではあったが。俺もトトリに頼まれて傷薬を中心に作った。冒険の準備だと思うと微妙な気もしたが、傷薬を持たせないわけにもいかない。
 付近への冒険まで制限するのはかわいそうだし。
 そしてトトリが冒険に出てしばらくした日のことだ。アトリエで調合をしていると姉さんの悲鳴が聞こえてきた。
 驚いて悲鳴の元へ向かうと、そこには大きなとかげが佇んでいた。しばらく硬直していると、とかげから声が聞こえてきた。

「驚かせすぎちゃったみたいね。あたしよ、あたし」

 とかげが動くと、その背後からメル姉が現れた。……今度もすごいのも持ってきたものだ。
 そしていつも通りの格好を目にして、相変わらず凄いなと思う。そこを指摘すると、からかわれるのが目に見えるので言わないが。

「はあ、メルヴィか。あんまり驚かせないでよね」
「だからごめんってば。クリアも久しぶりね」
「うん、久しぶり。よくそんなの運んでこれたね……」

 見ただけなのでなんともいえないが、100キロはあると思う。しかもここらには居ないモンスターだ。
 何日運び続けたのやら……

「怪力は私の取り得だからね。それより、さっきトトリ達と会ったわよ」
「トトリちゃん達元気だった?」
「ええ。戦いぶりも少しみたけど、ここらのモンスターなら楽勝だと思うわ」

 そこで一区切りつけ、メル姉は表情をまじめなものに変える。

「でさ、話してるの聞いちゃったんだけど、あの2人冒険者目指してるんだってね」

 その話題で俺と姉さんの空気も変わる。

「ええ、知ってるわ。でもトトリちゃんを冒険者なんかにさせない」

 それを無視してメル姉は続けた。

「あの2人、来月には馬車でアーランドまでいくつもりみたいよ」
「それも止めるわ」

 それに賛同するようなことを俺も続けた。
 それを聞くと、メル姉はため息をつく。俺と姉さんはそれにムッとするが、話は続いた。

「もし止めても、あの子は近いうちにアーランドに行くと思うわ。馬車代くらいなら自力で稼げるだろうしね」

 その言葉に俺も姉さんも反論できなかった。 トトリならやりかねない……そう思ったからだ。
 そんな俺達に声がかかる。

「行かせてあげてもいいんじゃないかな」

 声の主は父さんだった。
 その声にはいつにはない力が籠もっていて……そのまま父さんは続けた。

「あんまり縛っちゃかわいそうだよ。それに……、ギゼラなら笑って送り出すはずだから」

 その言葉にはっとする。そうする母さんが簡単に思い浮かんだからだ。
 
「それに、しばらく私がついていってあげるからさ。それなら安心でしょ?」

 それに続けメル姉が言う。
 そんな2人の言葉に、思わず嘆息してしまう。こっちの気も知らないでと思わないわけではない。
 だがここで送りださなかったら、母さんに張り倒される気がした。それに、俺や姉さんが止めてもトトリは出て行ってしまう。なぜかそう思えてしまった。
 それなら気持ちよく送り出してやるべきなのかもしれない。

「はあ、わかったよ」
「クリア!?」

 驚くそぶり見せる姉さん。だが、その目には先ほどまであった強い拒絶の意志はない気がした。

「トトリが来月まであきらめず努力してたら俺もあきらめる」

 だが、条件を加える。
 そこで区切り姉さんの方を向いて続けた。

「それでさ、もし行くことになったら姉さんも付いていってあげてほしいんだ」
「え?」

 驚いた顔をする姉さん。同様に他の2人も驚いているようだ。かまわず続ける。

「いくらメル姉がついてるとはいっても、何があるかわからない。付いていけなくなることもあるかもしれない。そんな時、姉さんが一緒なら俺も安心だから」
「それならクリアが付いていっても……」
「俺が一緒だからって安心できる?」

 そういうと困った顔をする姉さん。まぁ、心配が2倍になるだけだからな。
 それに対して姉さんは、小さい頃から強かった。母さんの血を強く継いでるのか幼少の頃はケンカで負け知らずだったのだ。
 何より、姉さんは冒険者になりたがってた。
 俺の考えがわかったのか、メル姉と父さんも背中を押す。

「いいんじゃない? 家事だってクリア1人で十分なんでしょ?」
「トトリを頼んだよ、ツェツィ」

 そんな2人の言葉を聞き、姉さんは俺に問い返してくる。

「クリア、本当にいいのね?」

 返事なんて決まっている。俺は笑顔で答えを返す。

「うん。家のことは俺と父さんに任せてくれて平気だよ」

 その言葉に父さんが頷くと、姉さんは苦笑とともに了承する。その表情は、やはりというかうれしそうで。そんな姉さんにメル姉は笑顔で抱きつくのだった。
 この日から旅立ちの日まで、姉さんはメル姉と特訓に励むことになる。そして父さんも俺と家事の特訓をするのだった。



[21833] 第3話
Name: コルネス◆2d774991 ID:593a0955
Date: 2010/09/13 17:47
 あれから一月あまりが過ぎ、今日は馬車出発の前日だった。
 姉さんの訓練は順調に進み、メル姉からもお墨付きをもらっている。現に付近のモンスターと戦ってみた感じ、負ける気がしなかったとか。当然ながら、その特訓はトトリに隠れて行われたわけだが。
 ちなみに、父さんの家事もそこそこ順調だった。料理だけは一朝一夕ではどうにもならないので、俺の担当となったが。
 トトリの方はと言うと、結局あきらめず今日まで頑張っていた。
 今は父さん、姉さんと3人でトトリの帰りを待っている。
 時間は日が傾きもう夜になる頃。普段ならそろそろ帰ってくる頃だ。

「ただいま……」

 扉の開く音とともにトトリの声がし、俺たちはおかえりと返す。
 だが、案の定というか元気がない。10万コールなんてそりゃあ溜まらないよな。
 メル姉によると、ペーターさんが馬車の値段を10万コールと言ったらしい。それを律儀に信じた二人は、頑張って溜めようとしたわけだ。
 少し考えればおかしいと気づきそうなものなんだが、それに気づかないのが抜けてるというか。

「はぁ……」
「どうしたの?元気ないわね」

 その姉さんの問いかけにも返事はない。
 ……メル姉の話を聞いておいてよかったと思う。こんな元気のないトトリは見ていたくない。

「メルヴィから聞いたわよ。冒険者になれなかったのがそんなに悔しい?」

 その問いにも答えはない。目には涙がたまってきていた。

「別に、今回ダメだったからって一生なれないわけじゃないのよ」
「だって……すごくがんばったんだもん。わたしも、ジーノ君も。でも……」

 そう言うと、とうとう泣き出してしまった。泣くほど悔しかったってことなんだな。
 もう告げてもいいんじゃないだろうか。あまり泣かせたままではいたくない。
 同じように思ったのか、姉さんはそれを手渡した。

「もう、しょうがないんだから。はい、これ」

 その中にあるのは馬車代の800コール。トトリと姉さんの分だ。
 
「え……、お金?」

 それには俺が答えた。

「そういうことだ、姉さんと一緒にいってこい。冒険者免許もらったら帰って来るんだぞ」

 その言葉に目を丸くするトトリ。

「いいの……? って、お、お姉ちゃんと!?}

 そう言うと姉さんの方を見る。これには本当に驚いたようで、あわあわと口をパクパクさせ言葉を紡げないでいた。
 本当によく表情が変わる。そんなところがかわいいんだけどな。

「ええ、よろしくねトトリちゃん」

 そう言って微笑む姉さん。そんな姉さんにトトリは表情をほころばせる。

「やった! お姉ちゃん!」

 その言葉の勢いのまま、姉さんに飛びつくのだった。


 少したち、なんとか落ち着きを取り戻したトトリは手渡した袋の中を見た。
 そこで今まで喜びに満ちていた目に、少し影がさす。

「これじゃ、馬車のお金足りないかも……」

 その言葉に苦笑する俺たち。それを代表して父さんは言った。

「それで足りるはずだよ。片道1人200コールだから」

 そう教えても、トトリはまだまだ不安そうだ。

「でも、ジーノ君が10万コールかかるって……」
「きっと、ペーター君にかつがれたんだね」

 かつぐって父さん……10万なんて冗談で言ったに決まってるのに。……ペーターさんに恨みでもあるのか?
 まぁ、姉さんに付く悪い虫とか思っててもおかしくないけど。

「かつがれたってどういうこと?」
「あの子はサボり癖がひどくてね。仕事をしたくない時は、いつも無茶苦茶な金額を言うんだ。村の人間は大抵知ってることなんだが…」
「そうだったの? ひどいよ、わたし本気で落ち込んでたのに!」

 姉さんもトトリがだまされてた形になったのを怒ってるのか、フォローする気配がない。
 さすがにペーターさんがかわいそうなので弁明しとく。

「でも、今回のは冗談だったんじゃないか?」
「え、なんで?」
「かつぐにしても、通常料金の100倍以上なんて誰もやらないよ。普通はおかしいと気づくからな」

 その表情に気まずそうに目を泳がせるトトリ。まぁ、これで学んでくれればいいんだが。
 変な詐欺に引っかかっても困るし。

「多分、最初に冗談で言った金額をジーノが信じちゃったんじゃないか? その誤解を解かなかったのはペーターさんが悪いけどさ」

 まぁ、知ってて教えなかった俺たちの言えた話ではないが。10万コールでも諦めないか見たかったって言う理由があるにはるんけどさ。

「でも、それだったらお金もらわなくても大丈夫かも」
「いいよ、使って。姉さんの馬車代もあるし、冒険者になれば色々必要だろ」

 なおも渋るトトリにいいからと金を押し付ける。いざって時にあって困るものじゃないし、資金不足で怪我しましたとか笑えないから。

「それじゃ、すぐ夕飯にするな。明日は早いんだろうし、食べたらすぐ休むんだぞ」
「あ、その前にジーノ君にも教えてあげなきゃ」

 いってきます!と告げて、外に出て行くトトリ。さっきまでの元気の無さが嘘のようだ。

「すっかり元気になっちゃって、現金なんだから」
「いいんじゃないか。落ち込んでるより、ずっとあの子らしい」

 それは本当にそう思う。一時期はを思うと余計に……

「姉さん、明日からトトリをお願いね。でも無茶もしないで」
「ええ、任しておいて」

 その言葉はとても力強くて。俺を安心させてくれるだった。




 翌朝、旅立ちの準備を終え、家族でペーターさんの馬車に向かい歩いていた。
 空はよく晴れて、気持ちのいい天気だった。絶好の旅立ち日和だ。
 道中はしばらく出来なくなる家族の会話を楽しんでいた。帰ってきたら何が食べたいだとか、アーランドについたらロロナ先生に会えるかもといった他愛もないことばかりを。
 ちなみに、ロロナ先生のことは言われて思い出した。少しだけ行きたかったかもと思ったのは内緒だ。
 そうしていると馬車が見えてくる。ジーノとメル姉はすでにいるみたいだ。

「おーい、トトリー!」

 その声とともに元気よく駆け寄ってくるジーノ。後ろからはメル姉も歩いてきている。
 ちなみにペーターさんは姉さんがいるためか、近づいてきていない。そのせいで勘違いされてるってのに。

「おはよう、ジーノ君!」
「ジーノ君、今日からよろしくね」
「そっか、今日からトトリの姉ちゃんも一緒なのか。へへ、二人とも俺が守ってやるからな!」

 胸を張ってジーノが言う。

「ジーノ、二人を頼んだからな」

 俺の言葉にも「任せとけ!」と威勢良く返してきてくれる。頼もしい限りだが、威勢だけで終わらないことを祈る。
 その会話が聞こえたのか、ペーターさんが近づいてきた。その顔はひどく動揺しているように見える。

「ツェ、ツェツィさんも来るだって!?」

 そういや、知らなかったんだな。まあペーターさんもプロだし、緊張して事故とかはないと思うが……

「ええ、嫌かも知れないけど……お願いねペーター君」
「い、嫌だなんてことは……」

 そう言いよどみ、落ち着きなくキョロキョロするペーターさん。……激しく不安になってきた。

「ペーターさん、緊張するのもいいですけど事故起こさないでくださいよ」
「お、おお。俺の馬車が事故なんて起こすわけないだろ」

 ……ダメだ、マジで不安かもしれない。メル姉も似たような表情してるし。

「……不安だわ、不安すぎる。やっぱりあたしも一緒にいこうかしら」
「わああ、来るな。お前は絶対来るな!」

 そんな風に言い合ってる二人を、どこか羨ましそうに見ている姉さん。昔はペーターさんともよく遊んでいたのによそよそしくなったのを寂しがっていたもんな。

「二人とも、相変わらず仲いいわね」

 その言葉に若干気まずそうに、だがどこか照れたように会話をやめる二人。
 メル姉とペーターさんがなんだかんだと仲がいいってのは俺も同意だ。本当に仲が悪ければあんな風に口を聞けるわけがない。
 そもそも、メル姉は嫌いな人間は無視するタイプだと思うし。

「それで、メル姉は本当についてくの?」
「ついて行きたくなっちゃったけど、食料足りないでしょ? 馬車での移動じゃあたしの出番もないと思うし、やめとくわ」

 4人分の食料しか用意してないはずだからな。メル姉は大食いだから、ついていったら確かに厳しいかも。

「じゃあ早くいこうぜ、ペーター兄ちゃん!」
「そう慌てんなって。もう少しゆっくりしてからでも……」

 やる気無さそうに返事をするペーターさん。だが――

「ペーター君、昼食の都合もあるし早く出ちゃわない?」

 姉さんが言うと、すばやく御者台に向かうペーターさん。先ほどのだらけきった返事が嘘のようだ。
 それに続き馬車に向かうトトリ達。

「それじゃ、3人とも気をつけてな」
「がんばってきなさいよ!」
「無事に帰って来るんだよ」

 そうやって俺たち送り出す。三人はいってきますと笑顔で返し馬車に乗り込む。
 その後も馬車から身を乗り出し、こちらから見えなくなるまで手を振り続けていてこちらも振り返すのだった。

「言っちゃったね」
「寂しそうな顔すんじゃないの。すぐ戻ってくるわよ」

 一月程度だし寂しくなんてないと思っていたんだけど、馬車が見えなくなると無性に寂しくなった。
 陳腐な言い方だが、大事な何かが抜け落ちたというか。でも……

「クリア、帰ろうか」

 ……父さんだっているし、何より寂しいのは父さんも同じなはずだ。そう思うと少しだけ気分があがる。

「そうだね、お昼も用意しないといけないし。メル姉も食べていかない?」
「そうね、ご馳走になろうかしら。おいしい料理期待してるわよ!」

 そのまま俺の家まで3人で歩いていく。
 ちなみにメル姉はその日の昼だけではなく、度々うちに料理を食べに来てくれた。もしかしたらこのために残ってくれたのかも、なんてね。


(あとがき)
 ここまでは展開の都合で原作場面の焼きなおしが多くなってしまいましたが、次からオリジナル場面を増やしていければと思います。
 また、キャラの口調におかしな点や文章の読みづらい箇所などがありましたら、感想の方に書いていただけると助かります。


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