海上保安庁は、東シナ海の尖閣諸島周辺の日本領海内で操業し、巡視船の立ち入り検査を妨害したとして、中国トロール漁船の船長を公務執行妨害容疑で逮捕し、9日に送検した。
海保によると、この中国漁船は巡視船に検査のため停船を命じられたが従わず、船体を巡視船に衝突させて逃走を図った疑いがある。巡視船の船体がへこむほど激しい衝突だった。違法操業の疑いもあり、今後も捜査を進める。
外務省は漁船の領海侵入と違法操業について、中国側に厳重抗議した。一方、中国政府は「尖閣諸島は古くから中国の領土」と主張し、現場海域での日本の巡視船の活動停止を要求した。双方の主張は真っ向から対立している。
尖閣諸島は魚釣島を中心とする群島で、日本は明治政府が1895年に閣議決定で領土に編入し、沖縄県の一部とした。その後長年にわたり、日本以外の国は領有権を主張してこなかった。1951年のサンフランシスコ平和条約で日本が放棄した領土にも含まれていない。
しかし、その後、諸島周辺の大陸棚に石油や天然ガスの資源が存在することが分かると、70年ごろから中国や台湾が領有権を主張し始め、中国は92年に領海法を制定して自国領だと明記した。
歴史的な経緯から見ても、尖閣諸島は日本の領土であり、中国や台湾の主張には理がない。日本政府は「そもそも尖閣諸島については領土問題は存在しない」との立場だ。
こうした原則を踏まえれば、日本側が領海内で不法行為をした中国漁船の船長を逮捕したのは正当であり、今後も国内法に基づいて、厳正に粛々と法的手続きを進めていくべきである。
尖閣諸島をめぐって、日本と中国との間でトラブルが発生したのは今回が初めてではない。2004年に中国人活動家が上陸して、日本側に逮捕された。08年には中国の海洋調査船が、日本の巡視船の警告を無視し、諸島周辺の領海内を長時間にわたって航行した。
今回の船長逮捕を受けて、中国では民間団体の活動家が早速、北京の日本大使館前でデモをした。インターネットでは、中国政府に対日強硬姿勢を求める書き込みが急増している。領土をめぐる問題では、双方の国民のナショナリズムが刺激され、強硬な世論が台頭しがちだ。
いまのところ、中国政府も厳しい姿勢は示しているが、経済的な相互依存が深まるなか、この問題で日中関係全体を悪化させるのは避けたいという現実論が優勢のようだ。中国政府や国営メディアは、国民が05年の反日暴動のような過激な行動に走らぬよう、世論をあおらず、抑制的に対応すべきである。
領有権の問題は双方とも譲歩が難しく、短期間に解決するのは困難だ。しかし、そうしたトラブルの要因を抱えつつも、両国関係を安定的に保つ知恵と冷静さが、日中双方の政府に必要だ。
=2010/09/10付 西日本新聞朝刊=