No.7
2008年(平成20)11月10日発行
中国ブロック選出・山口県弁護士会
日弁連 副会長 田川章次

第7回理事会
2008年10月20日・21日
日弁連17階会議室

多くの議題が審議され、報告も多くなされましたが、今回は、2日目午後より代議員会があることから総会の議題を主として審議がありました。
中国ブロックの会員にお伝えしたいのは、次のような点です。


レッド・パージによる解職に関する人権救済申立事件救済勧告書

前回、理事会に提出され継続審議となっていた議案であるが、今回賛成多数で可決された。この事件は古い事件であるが、人権侵害があるにもかかわらず救済されない事案に対して、これまでも日弁連は人権救済をしてきた歴史から、今回政治的視点ではなく人権救済の観点から救済の勧告を行うことになった。


新61期修習生の就職内定状況について

小寺本部長代行より、9月実施の調査によると、未定率8%。総数は1,808名。
未定者は121名程度となっており、新60期の場合8月で8%であったので、かなり良いところまできたのではないかと報告があった。


第51回人権擁護大会富山大会

第51回を迎えた今年の人権大会は、富山市で10月2日、(1)日本国憲法の今日的意義、(2)安全で質の高い医療を受ける権利、(3)労働と貧困という三つのテーマでシンポジウムがあり、それを踏まえて、3日の大会で、二つの宣言と一つの決議が採択されました。
 私は、第3分科会担当副会長として冒頭挨拶を行い、大会ではこの決議が満場一致で可決され、実行委員会の皆さんと喜び合いました。
各宣言、決議の詳細は、日弁連のホームページをご覧下さい。


1.平和的生存権および日本国憲法九条の今日的意義を確認する宣言
 近年、政党をはじめ各界から改憲案が公表され、昨年5月には日本国憲法の改正手続に関する法律が成立し、2010年から憲法改正の発議が可能となました。
この宣言は、憲法改正が現実の問題となりつつあるという状況の下で出されました。
日弁連は、97年の第40回大会において「国民主権の確立と平和のうちに安全に生きる権利の実現を求める宣言」(下関宣言)を、05年の第48回大会において、「立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を求める宣言」(鳥取宣言)を採択しているが、そのうえで、憲法九条改正論の背景と問題点の検討を重ね、本大会において、平和的生存権および憲法九条が、次に述べる今日的意義を有することを確認するというものである。
2.安全で質の高い医療を受ける権利の実現に関する宣言
 現在の日本における医療の現状は、重大で差し迫った人権問題であり、これは、安全で質の高い医療提供体制を確保する責務を負う国が最優先で取り組むべき課題である。このような意識から、国に対し4つの事項の実現を求めた。
3.貧困の連鎖を断ち切り、すべての人が人間らしく働き生活する権利の
  確立を求める決議
 働いても人間らしい生活を営むに足る収入を得られないワーキングプアが急増し、年収200万円以下で働く民間企業の労働者は1,000万人を超えた。
ワーキングプア拡大の主たる要因は、構造改革政策の下で、労働分野の規制緩和が推進されたことに加えて、元々脆弱な社会保障制度の下で社会保障費の抑制が進められたことにある。
 労働分野では、規制緩和が繰り返され、経費節減のため雇用の調整弁として非正規雇用への置換えが急激に進められた結果、非正規労働者は今や1,890万人に及び全雇用労働者の35.9%と過去最高に達した。
 人々の暮らしを支えるべき社会保障制度も、自己負担増と給付削減が続く中で十分に機能していない。
そのため、いったん収入の低下や失業が生じると社会保障制度によっても救済されず、「貧困の連鎖」の構造が作られている。
そこで、日弁連は、人間らしい労働と生活を実現するため、国・地方自治体・使用者らに対し、8つの諸方策を実施するよう強く求める。

国際人権規約委員会 リボス委員長の最終発言

 同委員長は、審査終了に当り、次のようなまとめの発言をされた。

 二日間の審査を終え、委員会のメンバーはフラストレーションを感じたと思う。前回審査で指摘されていた多くの点が、改善されたり、進展がもたらされていないためである。
誠意と協力の精神に基づく対話が継続する限り、現在直面している問題を克服し締約国としての責務を十分に全うすることを期待している。
 前回勧告で懸念が表明され、なお解決されていない問題についてコメントしたい。

第一に、最も大きな懸念の一つは、裁判制度の問題である。

代用監獄の問題は、規約14条に合致するものでない。取調べ、自白の偏重・長期間の勾留・留置施設・裁判官関与後の勾留延長・強大な警察権力などが懸念材料である。

第二に、女性に対する法律上の差別問題とその他の差別問題

女性の再婚期間の問題・非嫡出子の特に相続権の問題については、継続して取り上げていく問題であり、アイヌ人・在日朝鮮韓国人の問題でも、まだ懸念が払拭されない。

第三に、独立した国内人権機関の設置も重要な課題である。

これが設置されれば、警察・刑務所における人権侵害の有無を監視できるので、被疑者や刑事施設収容者の人権保護にとって非常に重要な問題である。

第四に、特に考慮していただきたいのは、死刑が適用される犯罪の減少である。

死刑廃絶を求めてきたが、国際人権規約は死刑を明確に否定していないが、締約国として、重大犯罪にのみ死刑が適用されるようにし、その数を減少させることが要求される。

第五に、個人通報の選択議定書の批准を真剣に考慮していただきたい。

九州弁護士連合会 定期大会

 九州弁護士会連合会は、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄の各県弁護士会8単位会からなっています。
10月23日は正副会長会議がなく、各人自由に大分に向かいました。
その夜は、宿舎の別府杉の井ホテルからバスで1時間もかかる臼杵の老舗割烹での懇親会でした。
現地実行委員会委員長が、どうしても大分のフグと肝を食べて貰いたいとの拘りから計画されたということです。
確かに、フグは豊後水道の天然もので美味でした。そして、極め付きはフグの肝です。
本場下関は摂食禁止で絶対に味わえないものです。これまた珍味でした。
 翌24日は、別府の県立国際会議場で、午前中はシンポジウムがあり、午後は大会がありました。
シンポは、「しょう害者の権利の確立をめざして」と題するものでした。
今回は、正副会長会もなく、シンポもすべて聞くことができました。
午後の大会は、このシンポの結果を踏まえた宣言案が審議、採択されました。
充実した良い大会だったと思います。


中国地方弁護士大会

 今年の中国弁護連の大会は山口市であり、中国地方各地から会員にお集まり頂きました。10月9日には前夜懇親会が松田屋ホテルであり、日弁連執行部全員と全国の弁連関係者に出席頂き盛況でした。
10日午前は、山口県弁護士会会員が総力を結集したICT社会に関するシンポジウムがありました。
私は、午前中、日弁連の正副会長会議があり、お昼には記者会見があったためこのシンポには参加できませんでした。
この日の朝、全国紙に国選弁護人の接見費用の架空請求事件がトップ記事で掲載されたため、その対応を論議していたからです。
午後の大会は、中弁連らしい白熱した論義が続き、やはり地元に帰って来たという実感を持ちました。
他の弁連大会は、いずれも討論ほとんど無しのシャンシャン大会だからです。
会長を始め中弁連大会に出席した日弁連執行部や各弁連代表達も大変面白かったと喜んでくれました。
夜の懇親会も山口県弁のもてなしの心が良く表れ、素晴らしいものでした。
また、今年の40年表彰者の方たちのパフォーマンスも、江田参議院議長も入いられ和気あいあいで、来年は私達の番なのにあんな具合に行けるのかと不安を覚えました。
私は、この懇親会を中座しジュネーブ出張の準備のため下関に帰りました。



国際人権自由権規約委員会 第5回政府報告書審査始まる
日弁連、他のNGOと
活発なロビー活動を展開

国際人権自由権委員会とは

日弁連代表団16名は、10月15、16の両日、10年ぶりにジュネーブで行われた国際人権自由権規約委員会による第5回政府報告書審査において、13日からロビー活動を始めました。
「自由権規約」とは、66年の国連総会で採択、76年発効の「市民的及び政治的権利に関する国際規約」を指します。
これは、48年の「世界人権宣言」を、国際的に拘束力ある規範にするためにつくられたもので、日本は79年6月に批准しています。
 この規約の内容は、日本国内で憲法とともに高位の人権規範としての法的効力をもつものです。
 今回の審査は、政府報告書の提出が3年も遅れ10年ぶりに行われるものですが、その政府報告書とNGO(非政府組織、日弁連はその最大の組織です。)から提出された報告書などに基づき建設的会話がなされ、人権基準の実施を促進し、改善するために行われます。

ロビー活動開始

最初の仕事は、パレナシオンでのレジストレーション(受付)です。
会長の委嘱状とパスポートの提示等、長蛇の列に並んで首からかけるIDカードを全員が貰うのに2時間もかかりました。
 その後、ロビーで日本のマスコミ記者へのレクチャーを行い、この定期審査が重要で日本国民の人権状況改善に画期的な影響を及ぼすとアピールしました。
その甲斐あってか、NHKが委員会始まって以来初めてという委員会会場へのテレビカメラ持ち込みを許され、審査状況が日本でもニユース放映されました。
また、この日は翌日のNGOブリーフィング(公聴会)にむけ他のNGOの方々と連絡調整を行いました。
 14日午前、早くよりレマン湖畔のパレウィルソンで打合せを行い、12時からNGOブリーフィングに備えました。
昼休みの2時間、サンドイッチや飲み物を用意して、関心のある規約委員や事務局の参加を呼びかけ、それぞれの訴えを聞いて貰うのがNGOブリーフィングなのです。
そして、出席してくれた委員から質問があり、それに会場で答えます。
答えられない場合や、不十分な場合には翌日に書面で回答するのです。
そこで、力を発揮するのが、我がタスクフォースの若手弁護士です。7時間早い時差の日弁連にメールで問い合わせて判例等を検索して返事を貰い、それから徹夜で英文作成し、翌朝には文書を委員会に届けるのです。
若い団員の皆さんの活動は特筆すべきもので、新しい日弁連の活動の芽が育っているなと感動しました。
 その日の夕刻、団長、副団長ら5名が、ジュネーブの日本代表部に表敬訪問し、上田人道人権大使や、公使、外務省課長らと面談し、審査での協力を約しました。


志布志事件映画の上映

 その日の夕方、ジュネーブ旧市街中心部での「志布志事件」の映画上映の会場に駆けつけました。60名位かなと思っていた参加者が100名を超え、用意した食べ物やワインが足りない、と嬉しい悲鳴が上がっており、最後には参加された規約委員会シラー副委員長より感動的な発言もあって団員一同感激しました。


定期審査とNGOブリーフィング

 15日お昼に、パレウィルソンでNGOブリーフィングがあり、3時からパレナシオンでの定期審査でした。
NGOの参加者が多いため広い会場に変更になったのです。私の和服でお茶席のロビー活動はコーヒータイム欄に述べたとおりです。
 3時からの定期審査は、日本政府代表部の報告が終わった後、規約委員からの質問は鋭く的を射たもので、目が新たに見開かれるほどに感激しました。
翌16日は、10時から13時の予定でしたが、異例にも、15〜17時の審査が追加されました。この日の審査でも、委員会の日本政府に対する厳しい質問は続き、最後にリボス委員長からの総括の発言がありました。その内容は、別項(1面)で述べています。