2010年09月13日

躁うつ病患者の暴力犯罪、アルコールや薬物乱用の合併がなければ増加はわずか。

スウェーデンで1973−2004年に躁うつ病(双極性障害)の診断で2回以上の退院歴がある15歳以上の患者3,734人が、その後暴力犯罪(殺人や暴行など)で有罪判決を受けるリスクを、一般住民の比較群37,429人と比べたところ、アルコールや薬物の乱用を合併している場合のリスクは6.4倍と高かったが、合併していない場合のリスクは1.3倍とわずかな増加に留まった。論文はArchives of General Psychiatry 2010年9月号に掲載された。

研究は、スウェーデン全国民をカバーする入院登録や犯罪登録などの複数のデータベースを、それぞれの国民に一つ与えられているID番号(国民総背番号)を使いリンクして行なわれた。

1973−2004年に、躁うつ病の診断で2回以上の退院歴がある15歳以上の患者を3,743人特定した。退院後に患者が暴力的犯罪(殺人、暴行、強盗、放火、性犯罪、脅迫など)で有罪判決を受けたか否かを、犯罪登録を使って調べた。スウェーデンでは15歳以上で刑事責任が問われ、精神疾患の有無に関わらず有罪判決を受ける場合があるという。

比較群として、患者と性別・年齢を合わせた躁うつ病での退院歴がない一般住民37,429人を無作為に選び出したほか、患者の兄弟姉妹4,059人を特定した。

その結果、暴力犯罪で有罪判決を受けた者の割合は、躁うつ病の患者が8.4%、患者の兄弟姉妹が6.2%、一般住民が3.5%だった。患者がアルコールや薬物の乱用を合併している場合に暴力犯罪を犯す割合は21.3%と高く、一般住民の6.4倍、兄弟姉妹の2.8倍だった。一方、アルコールや薬物の乱用を合併していない場合の暴力犯罪の割合は4.9%と低く、一般住民と比べ1.3倍とわずかな増加に留まり、兄弟姉妹と比べると1.1倍と誤差範囲の結果に留まった。

著者らによると、今回の研究は、躁うつ病患者の暴力に関する最大規模のデータで、過去の8件の研究の患者数の合計よりも、今回の患者数のほうが多いという。

著者らはまた、患者の兄弟姉妹の暴力犯罪の割合が一般集団より高く、患者がアルコールや薬物の乱用を合併していない場合のリスクは兄弟姉妹と変わらなかったことから、躁うつ病そのものではなく、患者が兄弟姉妹と共有する遺伝要因や環境要因が、暴力犯罪のリスク上昇に関わっている可能性を指摘している。

著者らはさらに、躁うつ病患者の暴力のリスク評価は現行のガイドラインでは推奨されていないが、アルコールや薬物乱用を合併している患者に対してはその必要があることを結論的に指摘している。

⇒著者らは2009年に統合失調症患者の暴力犯罪についても今回と同様の研究を行い、患者がアルコールや薬物の乱用を合併している場合のリスクは4.4倍と高いが、合併していない場合のリスクは1.2倍に留まるという、今回とよく似た結果を報告している。躁うつ病や統合失調症の患者の暴力に対処する上で、アルコールや薬物乱用の影響を考慮し治療することが重要だろう。

論文要旨


ytsubono at 06:00論文解説  この記事をクリップ!
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ