きょうのコラム「時鐘」 2010年9月12日

 ようやく秋の空、秋の風である。途方もなく長くて厳しかった残暑のせいで、秋の訪れがひときわうれしい

秋の日本酒「ひやおろし」も出回り始めた。早春にしぼられた新酒が、蔵でひと夏を過ごし、熟成されて出荷される。おいしい北陸の酒にも季節の味がある。左党には幸せな秋である

何でも素早く手ごろにという時流だから、たとえひと夏であっても「熟成」というのはありがたい。秋の訪れとともに、すぐに飲みごろとなる早熟がある。秋が深まるにつれて味わいを増す晩成型もある、と教わった。酒にも人にも、物事をなしとげるにも早熟、晩成はある

酒は、貯蔵する前に「火入れ」という低温加熱殺菌をする。出荷前にも2度目の火入れをするのだが、「ひやおろし」は、熟成による風味を損なわないために、それをしない。冷やのまま卸すから、そう呼ばれる

ひやおろしを味わいながら、まもなくこの国の新しい指導者の誕生を見ることになる。苦労して仕込んだはずの新しい酒が、その後、揺すったり、かき回されたり、火入れのような騒動まで起きた。熟成の味など出そうにない。