チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[21841] 【習作】復讐鬼【真・恋姫無双、オリ主】(内容追加しました)
Name: らくさ◆491058f1 ID:d686609c
Date: 2010/09/11 22:59
農民の朝は早い。
朝早くから田畑を耕し、生い茂る雑草をむしり、丹念に畑の様子を見てやる。
丸一日精一杯汗水垂らして働き、やっと一杯の酒を飲む事が出来るといった具合に。

農民の位でいえば、下の上といった所。
畑の土がもっと肥え太っていれば、中の中くらいの収穫は見込めただろうに。
それでも日々を暮らすには問題ないほどの暮らしを送る事が出来た。

「――ふぅ」

一人の若者が草をむしる手を止め、麻布の服の袖で額に浮かぶ珠のような汗を拭う。
サンサンと降り注ぐ日差しに目を細めて、今年は雨がふらないなと困った顔で笑った。
彼もまた少し廃れた農村で働く一人の若者の一人だ。

彼の性は淩 統(りょうとう)。字は公績(こうせき)。真名は勲(いさむ)。
普通の若者であれば都に行って一旗揚げたいと少しでも思うものだが、彼は自分の住む村が好きだった。
食うに困るわけでもないし、先祖代々から受け継いた田畑を受け継ぎたいという強い思いもある。

彼を知る人物からすれば面白みがないが、人当たりがよくお人好し。
それでいて働き者なので、気のいい若者といったのが他者からの評価だ。
彼自身その評価が間違っていないと思うし、まさしくその通りだと思う。

「勲! そろそろきりのいいところで終わって、昼餉をたべよう」

「父上。もうそんな時間ですか。丁度いい時間なので一緒に行きましょう」

畑の米がいい具合に育っているなと悦に入っていると、父親に話しかけられて彼は仕事をやめて食事をするため立ち上がる。
勤勉な彼は既に自分に割り当てられた仕事の半分を終えているので、後は日差しが強い時間を避けても終えられる仕事量を残すのみ。
父親の呼びかけにニコリと笑って返事をする彼は満ち足りた毎日を送っていた。

###########################

しかしそんな毎日を過ごす彼の心にも影を落とす事があった。
農業に不満があるわけではなく、人間関係に問題があるわけでもない。
あえて言うとするならば、この時代だからこそという問題だった。

「約束の期日もついに明日になりましたか。
父上。僕はお勤めを果たして来ますので、その間田畑をお願いします」

「そうか、もうそんなになるか…畑の事は私に任せておきなさい」

食事中。
ごく少量の塩で味付けしただけの粥を食べながら、二人は暗い顔でこれからを話しあう。
決められた義務とはいえやりきれない。そんな感情を口にはしないが、彼等二人から漏れていた。

「戦なんてなければいいけど、仕方ないですよ。
僕も15。大人と認められる年齢だし、戦努めはこの国で暮らす者の義務。
それに大丈夫ですよ。僕みたいに臨時で徴兵される兵はそんなに前線へとやられないはず」

「そりゃそうだ。お前みたいな臆病者がまともに戦えるはずがない。
村の中でさえ、相当弱いんだから。お前には鍬を持って田畑を耕すのが性にあっているさ」

それはそうであればいいという願いも込めての言葉だった。
親を心配させないために屈託ない笑いでそう話す勲に、彼の父親はそれに気付きながらも笑いながら返答する。
徴兵前に暗くならないように、違いないと二人して笑いあった。

「そういえば母上は何処へ? もう食べられてしまったですか?」

「ああ、あいつはな…お前用に新しい武器を見繕ってやるんだと意気込んで町に行ったよ。
一応お前たちにも国から武器を貰えるらしいが、随分くたびれたものらしいじゃないか。
お前は力もないし、技術もない。だから母さんはお前でも扱える武器を買ってくるとよ」

「そんな…家にそんな余裕、ないでしょうに」

「なに。お前が無事に帰ってきてくれるなら、それでいい」

ふとした疑問に思わぬ答えが帰ってきて困惑する勲だが、ありがたい両親の心意気を謹んで受け取る事にした。
確かに彼は武術の腕がからっきしで、虫も殺せないほどにへっぽこなのだ。
そして何より彼は人を殺すという行為に非常に忌避感を持っていた。

「ありがとう。絶対に僕、帰ってきますから」

「それだけで充分だよ。お前が五体満足、無傷で帰ってくれば。
手柄なんて立てようと思わんでええ。ただ元気に帰ってきてくれれば」

父親の真摯な言葉に、彼は胸が熱くなる思いで何度も頷く。
絶対にこの自分の愛する村に、家に帰ってこよう。
彼は強くそれを願い、決意し、思いを新たにした。

############################

徴兵の前日。
明日に徴兵され、自分がこの国の都へと連れていかれて兵士になる。
そう思うと眠れなくなってしまった勲は夜こっそりと抜け出し、一人で木刀を振るっていた。

しかしその訓練とは言い難いへっぴり腰の素振りは余りに滑稽。
誰が見ても剣を振るい、戦場を駆け抜ける戦士でないのは一目瞭然。
こりゃ駄目だと勲はぽいっと木刀を捨てて、近くにある木に腰掛けて休憩を取ることにした。

「はぁ…やっぱり僕には闘う事なんて無理だ。敵前逃亡にならない程度に逃げ回ろう」

それは自他共に認める弱気だった。嫌だ、厭だ、怖い、恐い、畏い。
徴兵される前日にすっかり怖くなってしまった勲だった。

―――――――――しかしある意味、この逃避こそが彼を生かした

「もう戻ろう。…………あれ? どうしたんだろう」

汗も少し流したので眠れるだろう。
そう思った勲はよっこいしょと腰を上げ、村に戻ろうとする。
だがそんな勲の目に写ったのは ぼう…っと赤色に染め上がる空だった。

「まさか火事!? 大変だ、早く村の皆に報せないと!」

火事が起こってしまったと思った勲は全速力で村へと駆ける。
時間はもう夜遅く、朝も早い農民は既に寝てしまっている人間が殆どだろう。
早く報せなければ隣の隣家に火が燃え移ってしまい、大災害と成りかねない。

――――――――――それが悪夢の始まり






「え………――――――――――――?」






目が知覚する。
鱠斬りに切り刻まれた初恋の女の子。
臓物をぶちまけ、仰向けに倒れた酒屋の親父さん。

鼻が知覚する。
人間の体が焦げる匂い。
地面一面に染みた赤黒い染みからは酸鉄の匂いが。

耳が知覚する。
轟々と燃え上がる地獄の業火。
既に悲鳴の声はなく、業火以外の音は消えてしまったかのよう。

触覚が知覚する。
じゃぶりと血溜まりに脚が浸かり、生暖かい血を感じる。
これはなんだ? 手の感覚は麻痺してしまい、震えが止まらない。

嗚呼。アア。ああ。
これは一体なんだ?

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ■■■■、■■■!!! ■■■■■■■■■!!!!」

――――奪われた
                                奪われた――――
――――奪われた
                                奪われた――――

                 【奪われた】

何者かはわからないが、勲の全てはこの時奪われた。
村を、家を、自分の居場所を。その全てを破壊されたのだ。

声にならない絶叫を上げながら勲は燃え盛る村を走る。
何処へ? わからないが、行かなければいけない。思考停止する頭とは裏腹に体は動く。
瞳からはダラダラと血の涙を流し、涎を口から垂れ流しながら村を走る。

そしてやがて辿り着く。
そこはかつて勲の家だった場所。
今は炎に包まれ屋根が大きく焼け落ちて半壊してしまっている。

「ああ、ああ、あああああああああああああああああああ!!!!」

狂ったかのように焼け落ちた家屋の破片を手で掴み、投げ飛ばす。
ジュウジュウと掌が焼ける。それがどうした。既に痛みを感じる器官は麻痺している。
水ぶくれが破れ、重度の火傷になりつつあるのもお構いなしに破片を投げ飛ばす。

そして見つけた。
それはかつて父親であったもので、今はただの肉塊と成り果てた物。
体は火事によって半分以上黒く炭化してしまっていて、息はなく胸も上下していなかった。

絶望に頭中が真っ暗になる。
それをかろうじて勲を繋ぎ止めたのは母親の存在だった。
父が母親を火事の熱から庇ったおかげで彼の母親はなんとか生きていた。

しかしそれも虫の息。
顔色は余りにも蒼白で、今もなお血が絶え間なくその体から漏れ出してしまっている。
血を失いすぎていた。もう目も見えないのか、勲を前にしても彼女は反応しなかった。

「母上!! 母上!!!!」

「その声……いさ、む……?」

「そうですよ、母上! 勲です! しっかりしてください!! 一体どうしたというのですか!?」

こぼれ出る命の輝きを止められない。
勲は血を吐くような思いで母親に呼びかけ続ける。
頭の何処かでもう駄目だと理解しているが、心がそれを拒否し続けていた。

「袁術様の、兵が…‥この村に、間者が…いると……。
いるはずが、ない……のに…ね……?」

「袁術様の兵が!?」

掠れた声で起こった事実を告げる母親。
村を襲った袁術とは―――――彼が徴兵される先であり、この地を治める者の名前だった。

「そう…村長が、答え、たら……兵士が、村に、火を…。
抵抗したけど、皆、殺された……間者、が…いるかもしれない、と、逃げる…者、まで…。
もう…兵士は…いない、ね……?」

「いない、いないです!! だからもう大丈夫ですよ、母上!!
ですから目を開けて下さい!! 死なないで、僕を一人にしないで下さい!!」

もう限界なのだろう。
母親はごぶりと血を吐き、最後の力を振り絞って服の中に手を入れる。
しかし碌に力の入らない手では掴んだ物を取りこぼしてしまい、カランと地面に落してしまった。

「どうか、逃げて…それで、幸せに………」

それは小刀だった。
力のない勲でも扱えるようにと。死なずに村に帰ってきて欲しいと。
そんな思いが込められた一振りの小刀。火事のせいで柄が薄汚れてしまっている。

「元気で、ね……………」

「母上‥? どうしたのです、母上?
いやだな、何か言って下さいよ母上。どうして何も仰らないのですか?」

「…………」

「母上? 母上? 母上? 母上?
はは―――――――――――――――――――――――うえ?」

するりと、勲の大事な物が手をすり抜けていった。
頭の中が黒い闇に覆われる。心にぽっかりと大きな穴が開く。
穴の続く先は奈落の底。勲の人としての情緒が奈落の底へと削ぎ落とされていく。

「■■■■■■■■■■――――――!!!!!」

獣の咆哮。
何故だ。何故村の皆が、両親が死ななくてはならないのか。
憎悪で全てが塗り潰される。

認められぬ。
許せぬ。
許容できぬ。

こんな理不尽、許されるはずがない。
ただ善良な民草が間者であるという無実の罪で裁かれて良かろうはずがない。
だが残酷な運命の翻弄に抵抗する力は勲にはなかった。

「忘れぬ」

今は力がない。
仇を取る力も、武力も、地位も、全てが足りぬ。
それ故忘れない。この絶望を、憎悪を、復讐心を、憤怒を。

「この恨み、忘れぬ!!!!!」

母親が落とした小刀を手に取り、一人の男が立ち上がる。
今は全てが足りない。力も、精神も、地位も、全てが。
ならば捨てよう。それらを得るために常識を、通念を、理念を、想いを、人間性を。

「袁術ゥゥぅぅゥううううう!!!」

小刀の先端で額を切り裂き、真一文字の傷跡を作る。
この感情を未来永劫忘れぬように。額を触れる度に思い出すように。
絶望と憎悪に赤黒く染まった瞳の一匹の鬼が誕生した。

#############################

――――――三年後――――――

地獄の阿鼻叫喚とでもいうのだろうか。
官軍である事を示す鎧を着込んだ喉を裂かれた兵士が死屍累々と転がっている。
およそ人の考えうる地獄絵図がそこには繰り広げられていた。

「クカカカカカカカカカカカカ!!!」

息絶えている兵士の頭をガシガシと踏み砕きながら狂笑をあげる男が一人。
最低限鍛え上げられた上半身とは大きく違い、異常なほど発達した下半身。
あまりにも発達しすぎた下半身はゆったりとした服の上からでもはっきりと見て取れる程に隆起している。

「火をくべろ!!! 天の国まで届く程の業火を!!
油と燃料はここら辺にたっぷり転がっていやがるしな!!!」

その男は周囲の部下に官軍の詰所であった場所を燃やすように命じる。
部下たちは次々に火打石で油布に火を灯し、詰所へと投げつけた。
どんどんと燃え移る炎を眺めて更に男は楽しげに大声を上げる。

「カーッカッカッカッカッカッカ!!!
これは狼煙だ!! いつかてめぇの喉笛を噛みちぎり、四肢を切り落とし、死ぬまで生かし続けてやるからよ!!
簡単には殺さねぇ!! 畜生道、餓鬼道、地獄道、三悪極全ての責め苦を味あわせるまでな!!」

最近メキメキと頭角をあらわして来た盗賊団の首領である男。
盗みはぶくぶくと肥え太った金持ちの家からのみ。けして殺しはしない。
だが官軍を襲う時のみ金銭を奪わず、皆殺しにする盗賊団。

その頭領の額には大きな真一文字の刀傷があった。





###################################






夢―――それは無意識下に見る、記憶の整理。
今日あった出来事を纏める。今日思った意思や感想を統合する。
それは何も今日起こった出来事だけに留まらない。

『俺達は間者なんかじゃない! 本当だ!』

過去――――忘れ難い、悪夢。
脳が整理しようとしても、本人の強靭な意思で繋ぎ止める物。

『待て、この者達は本当に間者なのか!? もう一度袁術殿に確認を!』

『ふんっ、孫家から回されて来た厄介者が何を言う。
貴様が何を言おうと指揮権は私にある。ならばそこで見ておくがいい。
我が主、袁術様にはそのように伝えておく。孫家は何も役に立たかなったとな』

『くっ……』

かつて江賊として幾つもの戦いを潜り抜けてきた。
騙し討ち、奇襲、軍師に従い多少卑怯とも思える戦いもした。
しかし―――――無抵抗の、女子供を殺した事はこの時だけ。

信念と矜持が許す事柄ではない。
だが弱体化している孫家を叛意ありと潰されるわけにはいかない。
目の前で繰り広げられる虐殺を見逃す他、彼女に道はなかったのだ。

『お前は何をじっとしている。殺せ。それが我が主の命だ』

恐怖で一度と震えた事のない躰が震える。
殺すのか? 自分は、無関係と思われる。十中八九無関係の民草を。
そんな事、出来るはずがな―――――――――

【ええ、思春なら何も問題ないわ。見事その任務を果たしてくれる】

『――――――――――』

一生の主と決めた少女の顔がちらつく。
今、自分が信念を曲げねば、彼女の道が途絶えてしまうかもしれぬ。

『――恨むなら、恨め。生き延びたのなら、私を殺しに来い』

剣が煌めく。
腕が飛ぶ。脚が飛ぶ。首が飛ぶ。
無抵抗の者は殺さないが、震えながら農具を構えて攻撃して来る者の命を奪う。

『孫家復興の暁には―――私は喜んで、お前達の刃を胸に受けよう』

それは忘れられない罪。
戦いではなく、ただ虐殺をしただけの記憶。
誇り高い彼女が唯一己の信念を曲げた屈辱の日。

その記憶は彼女の中にだけ眠る。

#############################

「…思? 思春? ねぇ、思春?」

「―――はっ!?」

まどろみから目が覚める。
眼前にはこちらを心配そうな眼差しで見つめる、主君となるべき御方。
思春と呼ばれた彼女―――甘寧は自分がうつつねをしていたのに気付き、自分を恥じた。

「も、申し訳ありませんっ!」

「ふふっ、思春の寝顔なんて初めて見たわ」

がばっと豪快に頭を下げる甘寧に女はくすりと笑った。
あなたらしくないわね、と。

あの惨劇から三年。
あの村の真相を知るのは孫家では甘寧のみ。他の孫家の軍師、重鎮達は他の地方にいるためだ。
仕方ない事だと彼女以外は割り切ったが、彼女の中では重く、深い所に沈んだまま。

されど止まるわけにはいかない。
自分のエゴで殺した人間の命を無碍にしないためにも。
この身は主のための一振りの剣であるべきなのだから。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.00366711616516