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[21401] 【習作】題名未定(Angel Beats!×Fate)
Name: saitou◆d579bf0e ID:3e74f817
Date: 2010/08/23 19:44
                 WARNING!

・この作品は文才がないどうしようもない阿呆が、勢いに任せて書いた処女作品です。
・多少の自己解釈自己設定があります。
・キャラがぶれているかも知れません。
・不明な点や駄目だと思う点は感想板へお願いします。
・更新は不定期です。勢いに任せて書いているので終われるか分かりませんが、少なくとも終わらせるつもりです。

初めて書いた作品なので思い切り叩かれるところはあると思いますが、どうぞよろしくお願いします。



[21401] プロローグ 一、
Name: saitou◆d579bf0e ID:3e74f817
Date: 2010/08/29 22:04
男子寮室内



ふっと目が開く。

寝起きだからだろう、よく頭が働かない。

横にあった時計を見る。午前五時。まだ大分早い。

二度寝しよう。そう思い、毛布をかけ直す。

やはり布団と言うのは魔性のアイテムだ。

そんな事を考えながら、眠気に身をゆだねようとする。

が、ふと意識が覚醒する。


おかしい。此処は何処だ?何故こんなところで寝ている?


疑問は膨らみ、止まる所をしらない。

机の上の手鏡が目に入る。

少し赤茶けた髪、やや童顔で中肉中背。

コレは、誰だ?

そう思った瞬間、頭の中のピースが全てかみ合わさる。

ああ、そうか。





俺は、死んだんだった。





学園大食堂内



俺には記憶がない。


名前も持っていた持ち物に書いてあったからわかったようなものだ。だけど、まったく無い訳じゃない。

そもそもの話、記憶がまったく無ければ赤ちゃんの様なものだ。何もできやしない。

欠けていたのは俺自身に関する記憶のみ。

自分は何者で、何処から来て、何処へ行くのか。どこに住んでいたのか、恋人はいたのか、友人関係はどんなのだったか、何も覚えてやしない。


けど、記憶喪失というのはよくある事らしい。

しかし記憶がないと言うのはやはり不安な物だ。

そんな気持ちを察してくれたのだろうか、慣れない内はサポートしてくれる人を付けてくれるという。

今日はその人が校内を案内してくれる予定で、今はその相手を待っているところだ。

名前は確か…

「お早う御座います」

「うぉ!?」声がした方を見ると見知らぬ女性がいた。

びっくりした。この人無駄に気配を消してやしないか?

「失礼ですが、貴方が衛宮士郎さんですか?」

「ええ。そうですけど…」

そういう事を聞くという事は…

「じゃあ、君が遊佐さん?」

「はい。申し遅れました。遊佐といいます。今日から貴方の一時的なサポートをするようにと、ゆりっぺさんから言われました。呼び方はどうぞお好きなように」

ツインテールというのだろうか、長い髪を両サイドでくくっていて、ほかの生徒と違う戦線の制服を着ている。

「ありがとう。じゃあ、俺も好きなように読んでもらって構わない」

「そうですか。わかりました。それでは衛宮さんとお呼びします。それで早速校内ツアーの事なのですが…」

と言いつつ、遊佐は手持ちのバッグから校内パンフレットの様なものを取り出し、俺に渡してきた。

「とりあえず、今日は日頃使う所、それから衛宮さんが見てみたい所を二つ三つ見ようと思いますが、何処が見たいですか?」

言われてパンフレットをパラパラと見てみる。

「あ~、そうだなぁ。………………………じゃあ、この二つでどうかな?」

と言いつつ遊佐の方にパンフレットを見せる。

「弓道場と……調理室…ですか?参考までに、何故ここにしたのか聞いてもよろしいですか?」

「いや、何となくだよ。本当。ただちょっと行ってみたいかな、なんて。駄目かな?」

自分のことながら、本当に何で弓道場と調理室何だろうか。

生前俺は弓道や料理をやっていたのかもしれない。

「そうですか。ここからだと……調理室が近いですね。では、そちらから先に回りますか?」

「ああ。そうしてくれるならありがたい」

「いえ、これも仕事の内ですので」

そういうと遊佐はくるりと向きを変え、こちらです。と俺を案内し始めた。

これは何かお礼を考えないと、そんな事を考えながら、俺たちの校内ツアーは始まったのであった。





調理室内



「ここが調理室か」

まず最初に案内されたのは、一番近いという調理室だった。

現在使っている人はおらず、無人だったが手入れはされているのだろう。

料理用の器具は清潔に保たれているし、包丁などもきれいに研がれている。

「衛宮さんはどのような料理を作るのですか?」

無言で器具を確認していると、手持無沙汰になったのだろうか、遊佐が話しかけてきた。

「あ~、たぶん和食」

「たぶん?」

「ああ。俺って記憶がなくてさ、だから生前自分が何をよく作ってたか、なんて全く覚えてないんだけど、材料とか見てると和風な食べ物のレシピを多く思い出すんだ。だからそう思った。何なら、何か軽いものでも作ろうか?もう十二時くらいだろう?」

時計を見つつそう言う。

「というか、ここの材料は勝手に使っても良いのか?」

根本的なことを忘れていた。材料がなければ料理は作れない。

「ええ。ここにある物はすべて使用可能です。材料も気がつけば補給されていますから」

「ならよかった。それで?何が食べたい?俺が作れる物で、ここにある材料でできるなら作るけど」

「そうですね…」

そう言って少し考えた後、

「では、和風サンドウィッチで」等と仰った。

「和風サンドウィッチ?」

何だろうそれは。

「そうです」

「なんでさ?」

「和風料理が得意と仰っていたので、おむすびでも良かったのですが…何となく今はサンドウィッチな気分なので」

………………どんな気分なのだろう、それは。とにかく、お題を出されたからには相手を満足させるものを作らねばなるまい。
こう、何だろう。料理人魂の様な物が俺を掻き立てる!……気がする。

「あーっと、材料は…こんなもんでいいか。すぐに済むから、ちょっと座って待っててくれ。」

材料は揃い、装備も万端。こうして俺の死後初の料理が始まったのであった。
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「よし。出来た」

「正にあっという間でしたね」

内容は卵辛子サンドに味噌カツサンド、それに即興で作ってみた衛宮特製和風しめ鯖サンド。

しめ鯖なんてサンドウィッチにしてもいいのか、と思うだろうが、こいつは一味違う。

本格的に鯖を締めるには時間がかかるので鯖カンで代用したが、工夫を凝らすべきところは他にもある。

まず醤油で…(略 次に中の具材に…(略 そして最後に…(略 する事によってできる俺特製の品物だ。

即興とはいえ結構自信作でもある。

とりあえずあるだけの材料を使って作ったので、少し量が多くなり過ぎてしまったかもしれない。

まあ、誰かにあげればいいか。



「しかし料理ができたのはいいけど、飲み物が欲しいな。何か買ってくるよ。何がいい?」

「いえ。サンドウィッチを作っていただきましたし、飲み物は私が買いに行きます」

「いや、いいよ。サンドウィッチは案内してくれているお礼みたいなものだし、自販機の場所を覚えておきたい」

「そうですか。分かりました。では…正午の紅茶のレモンティーをお願いします」

「わかった。レモンティーだな。すぐ行ってくる。あ、それと道は右に行って真っすぐだったよな?」

ええ、と頷く遊佐を横目に、俺は調理室を出た。








[21401] プロローグ 二、
Name: saitou◆d579bf0e ID:3e74f817
Date: 2010/08/26 03:44
自販機前



「えーっと、レモンティーは…こいつか」

遊佐に頼まれていたレモンティーを買う。

それにしても意外に飲み物が揃っている。

ジュースからスポーツ飲料、メジャーと思われる物から聞いた事のないマイナーな物まで大体の飲み物がある。

うーん悩むなぁ。

Keyコーヒーにするか、型月茶にするか、敢えてニトロソーダーにしてみるべきか…いや待てよ。

サンドウィッチに合うものじゃないといけないんだからソーダーは無いな。

だとすると遊佐と同じ正午ティーにするべきか………。





そんな事を考えていたからだろうか、俺は人が来ている事に気が付かなかった。

そして彼女も、集中していて俺がいることに気が付かなかった。

もし、どちらかがほんの少し周りに注意を払っていたら、きっと違う結末になっていたのだろう。

だからこれは、運命なんだと思う。






俺は、この時、この死んだ世界で、運命に出会った。






「「あ」」


ゴチンと、鈍い音を立ててぶつかる。


考え事をしていたせいか、俺は見事に尻もちをついた。


自然と、相手を見上げてしまう形となる。


彼女は茫然とこちらを見ている


こちらも茫然と相手を見ている。


相手が落としたのだろう。


紙が周りに散らばり、バサバサと音を立てている。


廊下から入る太陽の光が、彼女の姿を照らし出す。


「――――――」


声が出ない。


ただ視界には彼女の姿だけがあった。





その光景は、とても神秘的だった。





いくらの時間がたったのだろう。一分だったようにも、一時間だったようにも思える。

永遠にも思える時間が過ぎ、相手が口を開く。

「なあ」

その一言で、意識が覚醒する。

柄にもなく少し見とれてしまっていたようだ。

でもそれだけじゃない。




俺は、前にもどこかで同じような光景を見たことがある………?




思考にノイズが走る

視界が割れる/聴覚が狂う

体中が悲鳴を上げる

吐き気がする/頭が割れる

頭の中で撃鉄が起きる。

あれは何だろう。





そう、 確か、 俺は、 彼女に。





「なあ、おい。おいってば。大丈夫か?」

思考に邪魔が入る。

はて?さっきまで俺は何を考えていたんだろうか。
とても重要なことだったと思うのだが。

「あ、ああ。大丈夫。すまん。ちょっと呆としてた」

「ならいいんだが…」

まだ少し納得はしていないという顔。

「あんたNPC…じゃあないよな、行動が変だし」

「変って……まあ、いいけどさ」

腰の埃を払いつつ立ち上がり、彼女に向き合う。

肩に下げたギターケース。周りに落ちている楽譜から想像するに、音楽家だろうか。

「それで、えーっと。その、ゴメン。ぶつかって。俺は、衛宮士郎。最近こちらに来たばかりなんだ」

「へぇー。新入りか。じゃあ今日の会合で話す案件っていうのは、その事かな?」

「たぶんそうだと思う。知らないけど。それで、その、あんたは誰だ?」

「ん?ああ。ゴメン。紹介遅れたね。あたしは岩沢。たぶん今日の会合で説明があると思うけど、陽動部隊のリーダー」

「陽動部隊?」

聞きなれない言葉だ。

「ああ。その説明もきっと今日の会合で話されると思う」

「ありがとう。けど、本当にゴメン。ちょっと飲み物買うのに迷っててさ、その、周りに注意を払ってなかった」

「いや、それを言うならあたしもさ。新曲を書いていてね。ちょっと、集中してた」

「いやいや、俺が注意してればよかったんだし、そっちが謝ることじゃない」

「いや、むしろこっちから突っ込んだんだから責任はあたしにあると思う」

いいや俺だ。いいやあたしだ。

そんなことを言い合ってにらみ合う。



「「……………………ハハッ」」


同時に噴き出す。

「どうしてあたしたち、こんな事でにらみ合ってるんだろ」

「ああ。まったくだ」

たがいに笑いあいながら話を続ける。

「じゃあこの話はもう終わり。お互いに不注意だった。それでいい?」

「ああ。お互いに不注意が重なった。それだけだ」

「いいね。……っと。そろそろ時間だ。あたしはそろそろ行くよ。じゃあね新入り」

「ああ。いってらっしゃい。…ああ、ちょっと待った」

そう言って自動販売機でスポーツドリンクを買う。

「はいコレ。お近づきの印」

スポーツドリンクを彼女の方に投げる。

「ん。いいの?コレ」

「ああ。これからもよろしく。岩沢さん」

「岩沢でいいよ。じゃ、また会合でね」

ああ、と頷くと、岩沢はどこかへいった。

きっと打ち合わせか何かあるのだろう。

「さぁて、俺もそろそろ…」

時計を見る。調理室を出てから20分はたっている。

「やばい。すっかり忘れてた…っ!」

急いで頼まれていた正午ティーと、自分の分の型月茶を買う。

やばい。こんなに時間がたっているのなら焼きたてのトーストはもう冷めているだろう。

それに遊佐が怒っていないか心配だ。

むしろ既に食べだしてるかも…

俺は買ってきた飲み物を片手に、急いで調理室に行くのであった。





[21401] プロローグ 三、
Name: saitou◆d579bf0e ID:3e74f817
Date: 2010/08/28 18:40
弓道場前



酷い目にあった。

結局遊佐は食べだしてはいなかったもの、黙して語らず食事が始まるまで不機嫌だった。

サンドウィッチも冷めてしまい、本来の風味を損なってしまったがそれでも及第点だと思う。

遊佐に感想を聞きたかったが、無表情ながらも一心不乱な食べ様を見て聞くのは止しておいた。


そんなこんなで色々あって、俺は頼んでいたもう一つの場所、弓道場前に来ていた。

「それにしても、これは中に入らせてもらえるのか?」

「それは…」

遊佐が何か言おうとした時、突然背後から声がかかってきた。

「よう、遊佐っち!」

「今日は、部長」

知り合いなのだろうか、気安く挨拶をする二人。

「相も変わらず、無愛想だなぁ遊佐っち。
それで?そこの隣の彼は誰?は!まさか遊佐っちの彼氏?」

「違います」

即答。僅かの間もなく切って捨てられた。

「ふぅん。と、言ってるけど、本当の所はどうなのさ、色男」

と言って俺に流し眼を送る部長さん(仮)

「どうなのさって言われても…
彼女は仕事で俺を案内してくれているだけですよ」

「ふぅん、へぇ、ほぉ。ま、とりあえずそういう事にしておいますか。

ああ、申し遅れたね、あたしは松任谷。

そこの弓道部の部長をやらせてもらってて、そこの遊佐っちとは旧知の仲って奴?」

「違います」

「うぅ。やっぱり遊佐っちは冷たいなぁ。だがそこがイイ!」

………テンションの高い人だなぁ。

まあ、それはともかく、少し聞き捨てのならない事があった。

「部活って、やってると消えてなくなるんじゃ…?」

この世界に来た時にゆりから最低限の事は聞いていた。

曰く、この世界は死者の世界である。

曰く、この世界には天使という物がいて、俺たちを排除しにかかる。

曰く、天使の言いなりになって、日常生活を送ると消えてしまう。

部活動という物は、高校生生活の中において日常的行為と言っていい筈だ。

それを続けていくという事は、消えてしまうという事ではないだろうか。

「ああ。まともな部活動を続けていたら、まあ、消えちまうだろうさ。

けど、それはまともな部活動を続けていたらの話。

あたしを含めた戦線のメンバーは半分幽霊部員の様なものさね。

授業に出ていてもまともに受けなければ消えないだろ?

同じようなものさ」

だろ?と言われても、授業を受けた事がないので分からないのだが…

「はい。講義の時間はここまでです。

そろそろ会合の時間が近づいてきていますのでさっさと見てしまいましょう。

いいですよね、部長?」

「ああ!新入部員は大歓迎さ!」

「では行きましょか、衛宮さん」

「衛宮?」

と、どこか不審げな顔で部長は呟いた。

「あ、悪い。自己紹介がまだだった。

俺は衛宮士郎。ここには来たばっかりですけど、よろしく」

「あ、ああ。よろしく。けど、衛宮。衛宮かぁ」

「どうかしたのか?」

「いいや。何でもない。たぶん気のせいさ」

と言って、納得していないと言う顔で

「それじゃあ行こうか。部長なんだから、案内くらいはちゃんとできるよ」

といって弓道場内に入って行ってしまった。



[21401] プロローグ 四、
Name: saitou◆d579bf0e ID:3e74f817
Date: 2010/08/30 23:02
弓道場内



「へぇ。外観からでも想像できたけど、やっぱり広いな」

「ええ。超巨大マンモス校ですから。人口に合わせて大きさも大きくなったのでしょう」

「それに形も普通じゃない」


通常、弓道場というものは遠的場と近的場が分かれて存在する。

近的場は通常28m遠的場は通常60mであるが、

この道場は二つの道場をくっつけた感じの道場で、

ちょうど凸の字型になっている。


「そうなんですか、部長?」

「ああ。衛宮君の言う通りさ。

そら、ちょうど道場が卓球のラケットみたいな形になってるだろう?

本来、弓道場ってのは短いのと長いのがあるんだが、ここのは合体してるんだ。

変な形だけど、こっちは移動しない分楽だから誰も気にしないのさ」

へぇ、と気の無い台詞を呟き、話を俺の方に向けてきた。

「ところで衛宮さん。

この弓道場来たかったと言うことは、一本撃っていきたいと言う事ですか?」

「え?いや、そんな事悪いだろう。

皆まじめにやってるのに部外者がしゃしゃり出てくるなんて」

「いや、いい考えだ。ちょっと一手でも良いからやって見給え。

というかやってみてくださいお願いします」

急に打って変わったように頼み込む部長さん。

「いや、弓も無いですし」

「道具なら貸すから。お願い!」

「…はぁ。そもそも俺は、自分が弓を引いていたかどうかも覚えていない男ですよ?」

「それでもいいよ。一連の動作は覚えてるんだろ?

だったら大丈夫。頭で忘れてても体が覚えてるって!」

どうしたんだろう。何か企んでいるんだろうか。

「どうしたんですか、急に。

いつもならもっとふざけているのに」

「いやぁ、衛宮君がどのくらい出来るのかちょっと見てみたいかなぁ。

なぁ~んて……思っちゃったり…」

「で、どうするんですか衛宮さん?」

「どうって言われても……」

周りのNPC達もさっきからの遣り取りを見てか、こちらに注意を向け始めた。

このまま長引けばそちらの方が迷惑だろう。

「頼む!一手だけでいいから」

「はぁ…分かりました。じゃあ一手だけ」

「よぉし!いやぁ、君ならやってくれると思っておりましたよ!

あ、礼とかは、てきとーでいいよ!」

………本当にテンション高いなこの人。









SIDE:遊佐


「ゴメン。予備は木製しかないけどカーボンじゃなくてもいいかい?」

「ええ。むしろ木のほうが好みです」

ひゅ~。渋いねおたく。という部長達の遣り取りを聞き逃しつつ、質問する。

「ところで、どういうつもりですか?部長」

「ん~?どう言う事ってどう言う事さ、遊佐っち」

あくまで白を切るつもりだろうか。

「普段の貴方なら、一度断られたらそれ以上薦めることはまず無いです。

それなのに衛宮さんにはしつこく薦める。

何か裏があると考えるのが当然かと」

「え~。裏なんて無いよ。ただ…」

「ただ?」

「…………いや、見ていたら分かるよ。そら、そろそろ衛宮君が矢を放つぞ。
静かにしていないと」

部長の話が気にならないわけではなかったが、実際に衛宮さんの射が始まろうとしていた。



流れるような動作で本座から射位へと足を踏みしめ、体を安定させる。

弓を上に持ち上げ、引く。

その目は鷹のように鋭く、的を狙う。

一瞬、場が凍りついたかのように静まる。

そして矢が放たれる。風を切り裂き、飛翔する。

続けてもう一射。自然な動作。無駄の無い動き。

まるで、ただ弓を射るためだけの投擲兵器。

ここからは遠くて見えないが、何故か私はあの矢が外れているとは思えなかった。

弓道に関して全く無知と言って良い私をして、そう思わせる。

それほどの技量が衛宮さんにはあった。

私は部長に先の話を問いただす事も忘れ、ただただ先の弓技に思いをはせるのであった。






SIDE:衛宮


「ふぅ。こんなもんか」

やはり俺は弓道をしていたのだろう。部長の言う通り、体がかってに動いた。

何と言うか、勘を取り戻したといった感じだ。

遊佐達の所へ戻り、弓やその他雑多な装備を返す。

「部長?」

どうしたのだろう。何か呆けている。

どうかしたのかと、遊佐に問おうとすると、遊佐もまた呆けていた。

「おい遊佐、遊佐ってば」

肩を突いて揺り起こす。

「ふぇ?」

「は?」

何やらかわいらしい声が聞こえたような……

「ぁ……衛宮、さん?えっと……何でしょう」

「あ、ああ。次はどこへ行くのかなって」

「え、ええ。其の事でしたら、もうそろそろ定例の会合がありますので、

一先ずゆりっぺさん達と合流しましょう」

「分かった。あ、部長さんご苦労様でした」

「え?あ?あのあの、えと、その…」

?どうかしたのだろうか挙動が不審だ。

「衛宮さんはどうぞ先に行っててください。

私は部長と話がありますので」

「え?うん。分かったけど…」

腑に落ちない。何を話そうと言うのだろう。

「ぇ?いや、ちょっと、遊佐っち、」

「校長室の場所は分かりますね?教員棟の一番上です。

すぐに私も向かいますので、行って下さい」

「いや、けど…」

「い い か ら 行 っ て 下 さ い」

「ハイ、ワカリマシタ」

アレは駄目だ。

何と言うか…ああなった女性に反抗する事は無駄だと俺の生存本能が叫んでる。

というわけで、部長を見捨てて校長室に向かうのであった。





[21401] プロローグ 五、
Name: saitou◆a8b45997 ID:3e74f817
Date: 2010/09/09 22:38
SIDE:遊佐


「さ。衛宮さんもいなくなった所ですし、知ってることを洗いざらい喋ってもらいましょうか」

「いや…いなくなったって言うよりどっか行かせたって言う方が近いような…」

「何か違いが?」

「いえ、なんでもないです」

変な部長。

「ではまず、彼は何者ですか?」

「え~そんな事から聞いちゃうのぉ?まったく遊佐っちは空気が読めないなぁ。

こういうのは、こう、しょぼい事から聞いていって、最後に大きいことを聞くのがお約束って………いえ、何でもないですゴメンナサイ」

本当に変な部長。何をそんなに怯えているのだろう。

「いやでも、遊佐っちには悪いけどあたしもたいして彼の事を知ってるわけじゃないんだよ」

「部長が知っている限りのことでかまいません。話してください」

「うん。まぁ、別にそれはいいんだけどさ。

一つ聞いていいかい?」

「答えられる範囲でしたら」

「なんで遊佐っちは彼にそんな興味を示しているんだい?

察するに彼と会ったのはそんなに長い訳でもないんだろう?

なのに遊佐っちは彼に興味を抱いてる。何故だろう。

そいつを教えてくれたら、あたしも快く知ってる情報を教えようじゃないか」

「興味……?」

これは興味なのだろうか?今彼に抱いてるこの気持ちは。

そう言われればそうかもしれない。

「私の仕事は衛宮さんに学校を案内すると共に、その適正を見分けゆりっぺさんに報告する事です。

それには彼の情報が不可欠」

でも、そういう任務とは別に個人的にも興味を感じていることは事実だ。

何故だろう。

「ですので、貴女の情報が必要なのです。部長」

「はぁ。まぁ今回はそういうことにしてやってもいいか。

まだまだ時間は腐るほどあるんだからね」

手を頭にあて、やれやれと首を振る。

その分かってないなぁ見たいな態度に少しイラッと来るが、これでも一応情報提供者。

落ち着いて対処しないと。

「それで本題です。彼は何者ですか?」

さっきも聞いた問いを再び問いかける。

「彼は…………そうさなぁ、そう……伝説みたいなものだったよ」

「伝説?」

まぬけに問い返す。

「そう、伝説。彼は公式の試合で一度も的の中心から外したことのない人なのさ」

「は……ぁ?」

公式試合で…一度も?

「勿論いろいろな噂が飛び交った。弓に細工してるとか色々ね。

でも彼の弓には細工なんて施されてなかった。

それに一度でも彼の射を見た人は誰もそんな事言えやしなかった。

そのくらい彼の射は完成されたものだったんだ」

えらく実感のこもった声だった。

「実はあたしもその無責任な噂を流してた口でね。

当時は色々いったもんさ。

彼の家の保護者が実はやくざな所の孫娘でね。

しかもその人が弓道部の顧問ときてる。

だから裏からやくざが手を回してる…………とかね」

当時を思い出したのだろう。苦笑いが顔に張り付いている。

「今から思えばあれは嫉妬だったんだろうね。新人の中では勿論彼は飛びぬけていた。

一年にして既にエース。その才能に誰もが驚き、恐怖した。

でも彼は弓道をやめてしまったんだ」

「え?」

そんなに才能があったのに?

「学校が違うから良く分からなかったけど、何でも事故にあって利き手を壊したらしい」

「………………」

それはどんな気持ちだったのだろう。

そんな成績を出すという事はそれ相応の練習を積み重ねてきたのだろう。

そんなにも頑張っていた弓がほんの一瞬で出来なくなる。

全ての努力が否定されたようなものだ。

「まさか彼はそれを苦に………?」

「どうだろう……でも、この世界に自殺者はいない。そうだろう?」

だがそれは今までの話だ。これからもそうだとは限らない。

でもいたずらに部長に気を遣わせるわけにも行かない。

「そう…………ですよね。きっとそうです」

「ああ。きっとそうさ。ぱっと見た感じ彼はそんなにやわじゃないよ」

ああきっとそうに違いない。あんな射を打つ人がそう簡単に死ぬわけが無い。

「でもそういう話を聞くと、衛宮さんのイメージが変わってきてしまいますね」

「ああ。あたしも一回だけ見たことあったけどそん時は射に心を奪われていたからね。

本人をあまり見ていなかったんだ。

だから本当に彼が衛宮なのか確証が持てなかったんだけど、あの射を見て確信したよ。

彼は衛宮だ。間違いない」

「そうですか………貴重な情報ありがとうございます」

そう言ってそろそろゆりっぺさん達の所へ行こうとすると、部長が呼び止めた。

「あのさ、遊佐っち。彼は今記憶が無いんだよね?」

「ええ。そう伺っています」

「だったら…………いや、やっぱりいいよ。

うん。やっぱりこう言う事は自分でしないと」

?まぁ自己解決しているのならいいでしょう。

「ありがとうございました。それではまた、部長」

「ああまたな遊佐っち。それと衛宮んにあったらまた来てくれと言っておいて」

「衛宮ん?」

「あたしの考えた彼のあだ名。どう?良い感じでしょう。

使いたくなったらいつでも使っていいよ」

「使いません。伝言の方は伝えておきます」

「ちぇっ。遊佐っちはのりが悪いなぁ」

後ろから聞こえる雑音を無視し、私はゆりっぺさん達の所へ向かうのであった。



[21401] プロローグ 六、
Name: saitou◆a8b45997 ID:3e74f817
Date: 2010/09/11 22:54
裏山中腹


SIDE:衛宮


「やばい。迷った」

この学校は広い。それこそ事前の知識がないと迷子になってしまうほど。

しかし校長室には一回行ったことがあるし、地形把握能力は有る方だと自負している。

ならば何故迷子になったのだろうと自問自答する。

実に簡単なことだ。

困っていた人を助けていたら見知らぬ場所にいた。ただ、それだけの事。

何故だろう。NPCとは聞かされていても困っている人を見ると助けたくなる。

そうして人助けをしていたら見知らぬところにいた。

たぶん裏の方にある山だと思うが………

どうしてこうなった………っ!

やばい………っ!たぶん迷子なった事が遊佐に知れたら…っ!

………恐ろしい……考えるだけで恐ろしい……っ!

幾つもの言葉が頭の中に渦巻く。

いやでもホントは一人でも行けたんだけど人助けが無ければ簡単な事だったんだけど人が困ってるのにそのまま放って置くのもなんか駄目だと思うし人助け自体は悪い事じゃないしNPCとはいえすごく困っていそうだったしNPCと普通の人の違いもいまいちよく分からないしそもそもの話遊佐に無理矢理追い出されただけで自分から出て行った訳じゃないしいやでもそれが信頼の証だとするなら俺は裏切っていることになる……………???

やばい混乱してきた。とりあえず落ち着け俺。平常心。平常心。

しかし、俺はいったいどうやってこんな所に入り込んだんだ?

「はぁ………なんでさ」

「……誰か居るのか?」

突然声が聞こえてきた。こんな裏山に?幻聴だろうか?

「お~い誰も居ないのか?」

「いや、待ってくれ!」

まずい!ここで逃しては次にいつ人に会えるか分からない。

少なくとも校舎までの戻り方は聞かないと………っ!

声のした方へ駆け足で向かう。

胴着を着た人影が見える。薄目で、空手か柔道経験者を思わせる、がっしりした体付き。

足音を聞きつけたのだろうか、こちらを向く。

「おぉ。本当にいたのか」

「いや、悪い。いろいろあって道に迷ったんだ。だから、校舎までの道のりを教えてくれないか?」

「いやそれは別にかまわんが……」

そう言うと彼はこちらを探るように一瞥して問うてきた。

「こんな所にいるって言う事はNPCじゃないよな………

しかしお前みたいな奴は見た事が無いぞ」

「ああ。見たことないのも無理はないさ。昨日この世界にやってきてたんだ。

俺は衛宮士郎。よろしく」

手を差し出す。

「む。そういう事か。そういえば、ゆりっぺが今日新人の紹介をすると言ってた様な気がするが、お前のことか?」

「たぶんそうなんじゃないか。」

「そうか俺は松下。こちらこそよろしく」

手をぐっと握り返される。握力も強い。

「それはそうとなんでこんな所に?」

「見て分からんか?日課の練習だ」

言われてみれば松下は背負い投げの練習をしていたのだろうか、帯を木に括り付け肩に乗せていた。

「それにそれはこちらの台詞だぞ。昨日来たというならなおさらの事こんな所に来る事はないだろう」

「いや、色々あってさ……」

返事をすると共に苦笑いをする。

「ふぅん。まあ、俺も人のことを言えんが、変わった奴だな。

まぁいい。それで校舎までの道のりだったな。俺もそろそろ帰るところだったからそのついでに案内しよう」

「すまん。助かる」

そう言って俺達は山を下り始めた。

こうして俺は新しく戦線のメンバーと知り合ったのであった。


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