――最初にITエンジニアになろうと思ったきっかけを教えてください。
並河 父親が理学療法士だったんです。中学、高校と世の中すごく不景気でしたから、父親のように腕一本で食べていける仕事がしたいなというのが漠然とありました。
高校3年のときに、大学進学の進路選択を決める必要がありますよね。仕事に対するイメージがわいていなかったこともあって、どんな企業にも進める有利な選択をしたいと思ったんです。新聞を見ていると、いろいろな企業がホームページを持ち始めていた。それで、「どの企業もホームページを作る人というのがいるんだ。ならコンピュータを勉強してみるか」と思ったんです。今思えばとても単純な発想でした。
――子供の頃にプログラミングで遊んでいたとか、そういう経験はなかったんですね。
並河 初めて我が家にPCがやってきたのが、中学の終わりか、高校の始めの頃でしたが、ゲームやワープロをする程度でした。
大学でもプログラミングはあまり得意ではありませんでした。ホームページ用の掲示板とかも人が作ったCGIスクリプトを見つけてきて、ちょっといじってみるぐらい。授業でも基礎は何とかなりましたが、応用は友達に教えてもらって、何とか単位を落とさないようにしていました。卒業研究のシミュレーションプログラムを作った際に、初めてプログラミングの楽しさを覚えました。
大学院に進んで、大学生のティーチンググアシスタントでプログラミングを教えなければならなくなったんで、そのときはさすがに必死に勉強しました(笑)
――そうでしたか。でもIT業界に就職された。
並河 大学の研究室でネットワーク管理の担当になったんです。50名ぐらいの学生がいる研究室だったので、メールサーバやWebサイト、DNSなどインターネットで使われている一通りサービスを自分たちで構築していました。だから、やることがいろいろとあった。先輩が就職活動などでも使っているメールサーバが落ちたりすれば、夜中に駆けつけて復旧したり。これが大変でしたが、とても楽しかったんです。
1つの研究室の中だけでしたけど、企業の情報システム部がやっているようなことをしていた。そういう縁の下の力持ちみたいな役割が自分の性格にあっているみたいで。
――現在はTIS/SonicGardenのCTOともいえるポジションですが、「SKIP」に関わるまではどんな仕事を?
並河 最初、最新技術を検証する「基盤技術センター」という部署に配属されて、Javaの「Tapestry」というフレームワークを実際の現場に取り込めるのか、勉強も兼ねて評価したりしていました。
本当は、ネットワークの構築などインフラをやりたかったんですけど、アプリケーションのエンジニアになった。でも、これはアプリもインフラも分かるスーパーエンジニアになれるチャンスだなと前向きでした(笑) そこにいながらプロジェクト支援に参加したりして、3年目の途中ぐらいまでに、ITのプロジェクトの全体を実際に経験していったという感じですね。
――社内SNSの「SKIP」というのは興味深いですね。TISのような大手SIerが手がけているとは思いませんでした。
並河 TISは今では3000人規模の企業なんですが、急に人が増えると社内の情報共有が難しくなってきます。特に部署が縦割りになってしまい、横の連携を取りにくくなってきた。それを何とかするといったミッションで始まったんですね。
私が参加したときは2、3人のプロジェクトでした。だから、インフラをやりたいということで参加したものの、プログラミングもしたし、何でも屋さんという感じ。多くの人に使ってもらうために、社内のインフルエンサーに使ってもらったり、メールマガジンを出したり。社内ユーザの要望を取り入れながら、週1で機能をリリースしてきました。
――SKIPはRuby on Railsなんですよね。オープンソース化もされている。
並河 そうですね。最初に作りはじめたのはSonicGardenのカンパニー長の倉貫なんです。彼は元々Javaを得意とするエンジニアだったのですが、マネージャ業務が多かったこともあり、もう一度プログラマに戻るなら若手に負けない新しいことをと考えて、技術検証も兼ねてRudy on Railsでやろうと決めたみたいです。
オープンソースにしたのは「オープンソースがビジネスにつながるか」というチャレンジでもあるんですが、社内運用の段階でエースプログラマが別プロジェクトに引き抜かれるなどの経験があった。そうした突発事項への危機感もオープンソース化して事業化したいという背景にあるんです、実は(笑)
――Amazon EC2を使ってSaaS型でサービス提供もされています。クラウドをビジネスで活用するというのはとても興味深いですね。
並河 SKIPの導入支援や活性化支援だけでなく、SaaSの事業を始めようということで、そのインフラとしてEC2を選びました。
EC2は、初期投資が圧倒的にかからないのがいいところです。SonicGardenはベンチャーですから、金銭的な余裕はありません。データセンターにラックを借りてとなると、サーバを購入して構築したり、電源確保したり、とお金も時間もかかる。既にいろんなSNSのホスティングサービスが立ち上がってきていましたから、いち早くサービス展開したかったんです。
顧客にとっても使っているアプリケーションがたまたま米国で動いているというだけで、何も違いはないですし。
――ほかのサービスとも比較されたのですか?
並河 基本的には仮想専用サーバ(VPS)と呼ばれているものを前提に、国内のホスティング業者や米国では「GoGrid」などと比較しました。ちょうど「Google App Engine」も発表されたころだったのですが、SKIPが載らないものだったので、見合わせました。
――インフラエンジニアとしてEC2を使っていて気になるところはありますか?
並河 ネットワークの遅延ですかね。あとは、日本からだと支払いがクレジットカードになってしまうというぐらい。システム的な制約はそんなにないですね。
EC2にした理由の1つに、もともと社内のSKIPを仮想化技術の上で運用していたというのもあるんです。単純にチャレンジだったのですが、仮想化技術上でのインフラ構築・運用は、便利なところが多くあって感銘を受けました。ただ、トラブルが発生したときに、仮想レイヤよりも下の層との切り分けが必要。運用するにはそれなりのスキルがいります。その面倒な部分をどこかにお任せできないかと思っていたら、EC2がそれにぴったりだったんです。
でも逆に、そこを任せてしまうと、問題があったときに、あるレイヤより下がブラックボックスになってしまう。しかも情報が少なくて調査しきれないので、どうしてもサポート任せにならざるを得ない。オープンソースを使っているのも最後にソースを追えばなんとかなるという担保があるからなんですが、EC2は便利な半面、覚悟して使わないといけない。
――トラブルは多いんですか?
並河 ないことはないですが、非常にまれですね。自動で復旧する場合もあるし、しない場合もあります。サービス上大きな支障をきたしたケースはありません。
――今、ほかにも注目されているクラウドのサービスはありますか?
並河 最近、注目しなおしたのは「heroku.com」。Ruby on Railsのアプリケーションを運用してくれるPaaS(Platform as a Service)です。昔は、開発環境の一環で、ブラウザ上でコードを書いたらデプロイして動かしてくれるサービスだったのですが、最近は運用メインになっていて、「git」で管理されているところから、そのまま運用環境にデプロイして使える。サーバリソースをボタン1つでスケールできるので、いいですよ。
――並河さんは多趣味なんですね。車に、ラーメン屋めぐりに、ビリヤードと。週末は愛車のRX-7でラーメン屋に乗り付けるという感じですか?
並河 はは、そうです、そうです(笑) 車に乗るのもいじるのも好きなんです。疲れたときにRX-7に乗ると、すっきりするんですよね。
車もサーバの運用も同じだと思っているんです。どちらも、そのままほっとくと、ガタがきたりちゃんと動かなくなる。定期的に油を差してあげたり、パーツを交換したり。アクセスが多く来たときにサーバをチューンするのと同じですよね。
ビリヤードは、学生の頃にはまったんですが、集中力を鍛えてもらいました。ビリヤードって、ボールをポケットに入れるために、正確なポイントを適切な強さで突いてコントロールしなきゃいけない。サーバの本番環境に触れるときって、集中する必要がありますよね。
自分はおっちょこちょいと言われることがないのですが、それはビリヤードで鍛えた集中力のおかげなんです(笑)
――最後にエンジニアになってよかったですか?
並河 性格上夢中になれる職業なので、とても楽しいですね。一日8時間働くとなると、3分の1を仕事に費やしているわけです。それが楽しいというのは一番ですよね。