長崎市で、市内の同和問題を学ぶ動きが広がりを見せている。まちを歩いて差別の歴史を考えるフィールドワークを、同市の中学校が初めて実施。教員の任意団体は授業での指導案をまとめた。「寝た子を起こすな」という論理から敬遠されがちだった問題に真正面から取り組む姿を追った。
9日朝、長崎市の坂道に、同市立滑石中学校の3年生15人が集まっていた。輪の中心にいたのは、部落解放同盟県連合会書記長の宮崎懐良(よりなが)さん(30)だ。
「ここは江戸期に、差別された町があった場所です。町は時代を経て転々とさせられます」
立っているのは、映画のロケ地にもなった石畳の道や階段が続く長崎らしい場所だけに、生徒たちは驚いたような顔で話に聞き入った。
ツアーは約2時間かけて市内各地を回り、江戸期のキリスト教徒弾圧の歴史を学びながら、輸入牛皮を扱った差別された町の変遷を考えた。
宮崎さんは「海外交易や原爆など、長崎の歴史と被差別部落は密接にかかわっている。史実を学んで差別に理由がなかったことを知ってほしい」と話す。ツアーを案内するボランティア養成の新講座も11日に始まった。
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ツアーは、同市のNPO法人「長崎人権研究所」が企画。滑石中の生徒たちは総合学習の時間を利用して参加した。
同校は現在、1857年に岡山藩で被差別部落の人たちが差別的な藩政改革に反発して起こした「渋染一揆」を題材にした劇にも取り組んでいる。
指導する人権教育担当教員の大渡順子さん(55)は赴任する学校ではこの劇を演じさせているが、地元の同和問題を取り上げるのは始めて。「この問題に触れないまま人権教育を終えてしまえば、差別を許す大人になりかねない。正しい知識を身に付け、差別が現代の問題でもあると認識してほしい」
生徒たちは長崎での被差別部落問題を初めて知った。永田沙織さん(15)は「劇では差別された人を演じるけど、差別した側の人のことも考えながら表現しなければ」と意気込んだ。
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同和教育を研究する教員たちの任意団体「長崎市人権教育研究会」に登録する教員は増加しており、会員は10年前の3倍以上の約千人に上る。同会は昨年3月、市内の被差別部落の歴史を取り入れた教材「人権・同和教育指導案」を作成。市教委が発行して市内の全教員に配布した。初めて地域の問題に踏み込んだ格好だ。
だが、同研究会によると、実際に授業で取り上げられたのはごく少数。同和教育に関する関心は高まってはいるが、平和教育に比べて身近に思われておらず、指導する教員が十分に育っていないのが課題という。
同研究会研究局長の馬場務さん(46)は「足元の歴史や現代の問題を積極的に取り上げながら、教育の場に広げていきたい」と話す。
=2010/09/12付 西日本新聞朝刊=