中国の漁船が沖縄県の尖閣諸島(中国名・釣魚島)周辺で海上保安庁の巡視船に接触した問題で、日中間の摩擦が強まっている。
漁船の船長が逮捕されたことで、中国は態度を硬化させている。東シナ海のガス田開発に関する条約締結交渉の会合を一方的に延期した。
海上保安庁によると、漁船は巡視船が日本の領海外へ出るよう繰り返し警告したにもかかわらず衝突してきた、という。立ち入り検査をしようとした海上保安官の職務執行を妨害した疑いで船長が逮捕された。
日本の領海内で起きたことだ。違法操業の疑いもある。海保の発表通りだとしたら、逮捕も含め、日本の司法手続きに沿って調べを進めるのは当然である。
気になるのは、中国側の反応がどこまでエスカレートするか、分からないことだ。
尖閣諸島は中国や台湾も領有権を主張している。中国のネット上では逮捕された船長を英雄視し、政府に対日強硬姿勢を求める書き込みが相次いでいる。この事件をきっかけに反日感情に再び火が付く恐れもある。
事態の悪化を防ぐため、冷静さが求められる。
東シナ海は尖閣諸島の領有権問題やガス田開発など、双方の主権と権益がぶつかり合う場となっている。中国海軍のヘリコプターが海上自衛隊護衛艦に異常接近したり、中国の海洋調査船が海保の測量船を追い回したりし、そのたびに緊張が高まった。
こうした情勢を受け、鳩山由紀夫前首相と中国の温家宝首相は5月末の会談で、首脳間の「ホットライン」開設を目指すとともに、防衛当局間でも連絡体制を強化する方針で合意している。
日中は互いに、経済面でも国際政治の上でも大事な相手である。中国政府も歴史認識問題などであつれきが生じにくい民主党政権との間で協力関係をより深めたい、と考えているはずだ。
東シナ海を“危険な海”のままにしておくわけにはいかない。対立よりも協力、争いよりも平和の方が互いの利益になることは、自明の理だ。
中国は国民に対し、日本と協力関係を深めていくことの利点についても理解させる努力をもっとするべきである。
主権が絡む問題は一朝一夕に解決できるものではない。ホットラインの実現も含め、トラブルを深刻化させない仕組みづくりに知恵を絞るときである。