PSYCHOTHERAPY AND
HOMEOPATHY
ホメオパシーにみられる心理治療
A Clinical Psychology
Masters Paper
臨床心理学修士論文
Presented to the Faculty of
the
Clinical Psychology Masters
Program-Japan
アライアント国際大学カリフォルニア臨床心理学大学院(AIU/CSPP)
臨床心理学修士日本プログラム
In
Partial Fulfillment
of the
Requirement of the Degree
Master
of Arts
修士課程必修課題の一部として
By
Keiko
Takahashi
高橋佳子
August 2006
2006年8月
© Copyright by Keiko Takahashi, 2006
All Rights Reserved
PSYCHOTHERAPY AND HOMEOPATHY
ホメオパシーにみられる心理治療
This Masters paper by Keiko Takahashi
has been approved by the committee members signed
below who recommend that it be accepted by
Alliant International University/California
School of Professional Psychology, Clinical
Psychology Masters Program-
MASTER OF ARTS IN CLINICAL PSYCHOLOGY
この高橋佳子による修士論文がアライアント国際大学カリフォルニア臨床心理学大学院臨床心理学修士日本プログラムの修士論文審査委員会により下記の学位取得必修課題として承認されたことをここに記します。
臨床心理学修士号
Masters Paper Committee:
修士論文審査委員:
Akiko Ohnogi, Psy.D. Date
Primary instructor 日付
大野木嗣子, Psy.D.
指導教官
Yoko Tanaka, Ph.D. Date
Second reader 日付
田中葉子, Ph.D.
副査
TABLE
OF CONTENTS
目次
Page
引用文献
表
LIST OF
TABLES
Table
Page
1.抑うつ研究のまとめ――抑うつが主診断................................................... 74
2.抑うつ研究のまとめ――抑うつが副診断................................................... 75
DEDICATION
人生最大級のわがままを受け入れてくれた
夫と子供たちへ
ACKNOWLDGEMENTS
完成まで沢山の方々に大変お世話になり心より感謝しています。
最後まで粘り強く的確で細やかなご指導をして頂き,いつも良き理解者として励ましてくださった主査の大野木嗣子先生,副査の田中葉子先生に,感謝の気持ちを表せない程にお世話になりました。このテーマで修士論文を書くとは思ってもみなかった私に,勇気ときっかけを与え背中を優しく押してくださった和田さゆり先生のおかげで,本論文は誕生しました。心理治療とは,治療者とは何かについて教えてくださった斎藤学先生,この大学院に入るきっかけを作ってくださった西尾和美先生のおかげで,この3年間,厳しい中も乗り越えてきました。ホメオパシーについて,および人とは何かについて根本的に教えてくださった由井寅子先生,何度もくじけそうになる私を適切に援助してくださった片桐航先生,貴重な資料をご提供してくださった川瀬裕子先生に感謝の意を表したいと思います。また,年齢や職業を超えてお互い励まし合い受け入れてくれた同級生の仲間たちがいなければ,本論文の完成には至らなかったと思います。最後に,大橋正子さんは実務面で全面的に支援していただきました。ここでお名前を書ききれない方々へも感謝しています。
心よりお礼の言葉をお伝えしたいと思います。あたたかいご指導とご支援を本当にありがとうございました。
PSYCHOTHERAPY AND
HOMEOPATHY
Keiko Takahashi
Clinical Psychology Masters Program-Japan
Although
homeopathy is less well-known in
Keywords: homeopathy, clinical psychology, complementary
and alternative medicine, depression
ホメオパシーにみられる心理治療
高橋佳子
アライアント国際大学カリフォルニア臨床心理学大学院
臨床心理学修士日本プログラム
海外での知名度に比べ,日本におけるホメオパシーはあまり知られていないが,最近徐々に広がりをみせている。ホメオパシーとはドイツの医師Samuel Hahnemannによる自然療法であり,代替医療の中でも科学的論争が繰り広げられる中のひとつであるが,その心理治療における可能性について,日本においても無視できないところにきている。本論文によりホメオパシーの概要について述べ,海外および国内で多く見られる先行研究や文献を通し,ホメオパシーにおける心理治療に関して取り上げ,理解し検討した。その結果,従来の手法では心理治療におけるホメオパシーの有効性が正確に反映されておらず,科学的にその効果を正しく計測するためには有効な尺度作りが必要であり,また,心理治療へのホメオパシーの適用によって,精神疾患における薬物療法やほかの心理治療で効果がみられない事例を進展させ得る可能性が十分に示唆された。そして心理治療へ適用するための可能性や留意点,および今後の課題について考察した。
キーワード: ホメオパシー,代替医療,臨床心理,抑うつ
ホメオパシーにみられる心理治療
この章では,人々の代替医療への関心,代替医療におけるホメオパシーの位置づけ,および本論文の目的について述べる。
代替医療への関心 ある調査によれば,米国成人において,ホメオパシーも含む代替療法/代替医学(complementary
and alternative therapy/ medicine; 以下,代替医療)16種類の中で1つでも利用している割合が,1990年の34%から1997年には42%へと上昇している。そして,代替医療専門サービスに対する推定支払額は,1990年から1997年の間で45.2%も増加している。1997年におけるその推定支払額は,控えめにみても約210億ドルで,約12億ドルは自費によるものであり,これは医療機関への自費による支払額を超えていることがわかった(Eisenberg, Davis, Ettner, Appel, Wilkey,
Rompay, & Kessler, 1998)。
また,1990年には抑うつ状態にある5人に1人が近代西洋医学以外の療法を利用しているという調査結果もあり,その利用頻度が高い者は,高学歴および高収入である25-49歳の非黒人で,慢性病および生命にかかわる,あるいは重症の病気治療のために代替医療を利用していた。興味深いことには,72%が代替医療を利用していることについて医師には伝えていなかった。そして,代替医療への年間来訪回数は4億2 500万回で,医師を訪れた回数である3億880万回よりも多くなったということが報告されている(Eisenberg, Kessler, Foster,Norlock, Calkins, & Delbanco, 1993)。このように,近年における代替医療への関心は急速に高まってきている。
代替医療の種類とホメオパシー 代替医療には,日本において馴染みのある漢方,気功,鍼灸,指圧,カイロプラクティックをはじめとして以下に挙げる,ホメオパシー,オステオパシー,植物療法,アロマセラピー,クレニオセイクラルセラピー,ヒーリング,ヒプノセラピー,マッサージ療法,自然療法,栄養療法,リフレクソロジー,レイキ,ヨガ療法等の多岐にわたる(Pinder, Pedro,
Theodorou, & Treacy, 2005)。これらの代替医療のうちで世界的に主流の1つであるホメオパシーは,海外ではその存在が広く知られており,近代西洋医学である従来の伝統的医学とは別体系の伝統医学として扱われ,多種多様な研究が進んでいる。ちなみに,根本(2005)によれば,別体系の伝統医学には歴史上,中国医学,インド医学(アーユルヴェーダ),アラビア医学,チベット医学,およびエジプト医学等が古くからある。また,漢方は中国医学が日本に伝わり,それを基礎にして日本で独自の発展を遂げた医学であると述べている。
対比して日本におけるホメオパシーは,最近その名前が急速に知られるようになってはきたものの,まだ一般的であるとはいいがたい。そしてホメオパシー理論は,従来の伝統的医療の概念とは異なるため,近代医学・近代科学を学んだ者には理解が容易ではないともいわれているが(津谷,1996),ホメオパシー臨床上においては長年,臨床心理学分野の問題を多数扱っており,ホメオパシーにみられる心理治療に焦点を当てていくことに意義があると考える。
そこで本論文により,ホメオパシーの概要について述べ,次にホメオパシーでみられる心理治療に関して国内および海外で多く見られる先行研究報告や文献を通して検討し理解することで,心理治療へ適用するためのさらなる可能性,および今後の課題について考察した。その結果,たとえば薬物療法やほかの治療方法等で効果がみられないような難治性の臨床心理事例を心理面接とホメオパシーの適切な連携によって進展させ得る可能性が高く,検討することは有意義である。
この章では,先行研究におけるホメオパシーにまつわる流れ,人々が代替療法へ関心を持ちはじめた理由について,および現代における諸問題について述べる。
近年までの流れ ホメオパシー(同種療法)とは,18世紀末にドイツの医師Samuel Hahnemann(1755-1843)によって考案された自然療法で,ギリシャ語のhόmoios(όμοιος)=同種,páthos(πάθος)=病気・苦痛を組み合わせて造語し,Homeopathy(=Homoeopathy)と名づけられた(由井,2002a;
Wikipedia, 2006a)。その後,ホメオパシーを用いる多くの臨床家により,Hahnemannがみいだした理論を基礎として,さらなる研究が続けられてきた。
臨床上では,事例報告研究,およびその有効性が数多く確認されてはいるものの,evidence based medicine(以下EBM)にて,その理論についての解明,および有効性については,現在の科学では厳密に理解できておらず,未だベールに包まれている点が多い。服部(1997a)は,欧米の医学界で,その効果の成否をめぐって,200年以上にわたり論争が繰り広げられてきたと述べている。
有効性を得られた多くの事例報告に比べて,津谷(1996)は,通常,非近代医学は方法的妥当性の高い臨床試験がまだ少ないために,メタ分析を行うと,結論が灰色になることが多いと述べている。このことからも,有名無名を問わず多くの場面で,長年論争が繰り広げられている(Bonne, Shemer, Gorali, Katz,
& Shalev, 2003; Linde, Clausius, Ramirez, Melchart, Eitel, Hedges, &
Jonas, 1997; Reilly, Taylor, Beattie,
Campbell, McSharry, Aitchison, Carter, & Stevenson, 1994; Shang, Müntener,
Nartey, Jüni, Dörig, Sterne, Pewsner, & Egger, 2005)。
その中でも画期的なことに,Dayenas, Beauvais, Amara, Oberbaum, Robinzon,
Miadonna, Tedeschit, Pomeranz, Fortner, Belon, Laudy, Poitevin, & Benveniste(1988)は,ホメオパシーがどのように機能するのかについて,水の記憶という観点を通して科学的枠組みの中で証明した。さらに,津谷(1996)は,灰色になったメタ分析の結論からホメオパシーは有効ではないと解釈することは,数が少ない無作為化比較試験(randomized controlled trial; RCT)のみを対象とすることで,過去に蓄積されてきた多くの臨床経験による情報を用いていないという逆のパブリケーション・バイアスが生じる可能性について述べている。
また,Pilkington, Kirkwood, Rampes,
Fisher, & Richardson(2005)は,公開または非公開されているうつ病に対するホメオパシー研究を包括的に検索し,ホメオパシーによる抑うつ治療の効果に対する研究のエビデンスを,系統的に検討するためMED-LINEやPsycINFO等,主要となる生物医学的データベースによる検索を実施した。それによりTable 1-2(Appendix)にあるホメオパシーによる抑うつ治療の研究をまとめた。Table 1(Pilkington et al., 2005, p.159)は,抑うつが主診断で,Table
2(Pilkington et al., 2005, p.160)は,抑うつが副診断である。その結果,臨床研究からの単発の事例報告および研究報告の出現頻度が一番多く,RCTは2つだけ確認され,これらのひとつは予備調査で,プライマリ・ケアにおける患者募集の問題を証明していた。さらにいくつかの観察研究においては,患者の満足度が高レベルであるという肯定的結果が得られた。しかし,統制群の不足という欠点があり,多くの調査研究報告の中で方法的妥当性の高い臨床研究は見つけられなかった。
同じPilkington et al. (2005)のホメオパシー治療における患者の満足と体験の研究では,量的研究は見つからなかったものの回答形式の研究で,Thompson
& Reilly(2002)およびThompson & Reilly(2003)の研究が患者からのアウトカム測定を用いた満足度を示していたことがあきらかになった。Thompson
& Reilly(2002)は,75%の患者はホメオパシー治療が助けになる,あるいは,とても助けになると回答したという結果になった。そして,Thompson
& Reilly(2003)の研究では,全く不満足(0)から,とても満足(10)とした際に,90%の患者は,10段階尺度上の7以上で満足を示した。67%の患者は,ホメオパシー治療が助けになる,とても助けになる,きわめて助けになると回答し,21%がホメオパシー上の問題について回答したと報告している。
このように長期間にわたる論争の継続はあるものの,ホメオパシーに全くの治療効果がないと片付けるのは不可能である。そして,臨床上における治療効果を得られた数々の報告からも,その心理治療部分の大いなる可能性について,もはや無視できないところにきている。
現代における諸問題と課題 代替医療に対する一般的関心が増加した背景については,1970年代後半から,西ドイツの社会では,自然に戻ろうとする傾向が強く見られるようになっており,その流れは今までの社会体制とは別の社会を求める代替運動の広がりとも一致していた。そして,医師も患者も,人間の生命維持のために備わった自然治癒力を生かす自然療法に興味を持つ機会が増え,自然療法の主流であるホメオパシーの流行は,ひとつの医学改革運動のようにもとらえられた。さらに,処方箋で回復できなかった人々,またその副作用に対する不安,恐怖を抱く人々が,自らで医療を見直しはじめたという経緯がある(宮本,1988)。
近代西洋医学は,病院の診療科名からも理解できるように,人間の身体を細分化して考えるため各診療科の専門性が高まる一方で,専門外の病気については全く知らないという弊害が起こった。一方の代替医療は身体全体のバランスを取ることにより患部の状態を回復させようとするもので,近代西洋医学がミクロの医学であるのに対し,代替医療はマクロの医学であるとたとえられる(根本,2005)。近代西洋医学のカルテを見ると,年齢,体重,身長,予防接種歴,病名は記載されているが,たとえば十代における失恋,家族の死,親の離婚,ペットの喪失,引越し,転校,友人との離別,先生からの屈辱的扱い,親からの虐待,および憤り等の,人生を歩んできた人間としての患者に関するエピソードは,何も記載されていない(Luc, 2005)。
副作用の影響 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(2006)の調査によれば,医薬品副作用被害救済制度に基づき,障害年金や医療手当て等を受けた被害者を対象にアンケートを実施し,744人が回答した結果,西洋薬の副作用で3割が退職を余儀なくされており,患者本人だけでなく,家族にも重い負担がかかっている実態があきらかになった。健康被害を受けたことによる本人の仕事への影響(複数回答)で,収入が減った(30.5%)と答えた人が最も多く,以下,仕事を辞めた(27.7%),欠勤するようになった(22.0%)の順で結果が得られた。家族への影響は,患者の介護による収入の減少(23.0%),欠勤や休暇を挙げる人(21.5%)といずれも2割を超えた。そしてこれらの理由により,家族全体として収入が減少したと答えた世帯が6割程度に及び,8割以上減収という回答が7.4%あったことから示されるように,患者のみならず家族への影響力は非常に大きい。また,治療状況について過去1年間に入院,あるいは通院した者が支払った月平均の費用は,交通費は5
570円,医療費自己負担は12
060円,保険外治療費は6
272円,保険外治療雑費は12
276円となり月額負担額は単純計算で約36
000円に上った。
ホメオパシーは,薬物の副作用を快く思わない患者,あるいは薬物治療をすることができない患者に対し選択される場合がある。また,子供に対しても使用されており,患者が症状を訴えてはいるものの,従来の伝統的医療ではどこも悪いところが見つからない場合にも用いられている(Pinder et
al., 2005)。従来の伝統的医療には,その効果の有無に関わらず,しばしば憂慮すべき副作用があり,このことは人々が副作用のないホメオパシーを受け入れることに一役買ったのではないかと考えている者もいる(Perez & Tomsko, 1994)。
ここ数十年で,近代西洋医学の分析的な手法が行き過ぎてしまい,病気を全体的に見ることができなくなった結果,様々な問題が生まれてきた。そして,副作用の問題,機械的な検査や治療に不安を感じている患者の存在,およびアレルギー,リュウマチ,癌等の免疫性疾患や原因のわからない慢性病に対して近代西洋医学があまり効果を挙げていないことがわかってきた(根本, 2005)。21世紀に入り,近代科学の成果が環境問題悪化の引き金となり,人々の健康も蝕みはじめていることが明るみに出ると,近代医学が使用してきた化学合成の医薬品に対する不信,検査結果にあらわれた範囲でしか病気の存在を認めず,データにあらわれない痛みや症状の存在をとらえきれないこと,および病気という部分を診て人という全体を診ない方法への不満も人々の間で徐々に強まってきた(巻口,2002)。
人々の関心とニーズ Morrison, Galin, Kralovec, & Meier(2005)の研究によれば,2000年から2003年間で,米国で緩和ケアプログラムを取り入れた病院は67%も増加した。それに伴い,認定された医療従事者(1 892名,2005年7月),および看護師(5 500名,2005年3月)も増加し,2000年から2005年の間で,連動して緩和ケア教育機関は17団体だったものが53団体となった。これにより関連するほかの訓練プログラム,学術誌,出版物,およびこの分野に焦点を当てた研究数についても増加させる結果となった。Morrison et al. (2005)は,このような緩和ケアに関する提供者,臨床場所,および教育プログラム増加傾向は,米国のMedicare(高齢者向け医療保険制度)での慢性疾患を持つ患者数増加,および医療費の高額化も要因ではないかと述べている。米国ではMedicareは,医療費の高額化と政府の財政支出削減を理由に,財政的に破綻寸前の状態にあり,医師への診療報酬の減額が続き,近年では医師が診療を拒否する事例が多発し大きな社会問題となっている。さらに,Morrison et al. (2005)は,緊急,および慢性疾患の患者に対し,痛み,別の症状,および治療目標についての十分なコミュニケーション等が個別に配慮されていないという苦情が多くメディア報道がそれを繰り返しているという認識を,もうひとつの要因として挙げている。また,米国や諸外国では,緩和ケアに対してOpen Society
InstituteのプロジェクトとしてThe Robert Wood Johnson Foundationから,この分野の成長のために少なくとも何億ドルもの投資がされていることも,要因となっているのではないかと述べている。
代替療法・代替医学の定義と分類 CATとは,Complementary
and Alternative Therapyの略で,日本語では代替療法,そして,CAMとは,Complementary
and Alternative Medicineの略で,代替医学と訳され,両者は代替医療と同義語として使用されている。White(2000)は,(a)従来の伝統的医療における正統派な生物医学的モデルよりも,より健康と病気に関して理解した代替医療パラダイムを基本とする包括的医療システム,あるいは(b)生物医学的視野からの部分/全体の理解で,米国における標準的な医療/臨床心理からなる治療の代替方法を提供する医療システム,と代替医療を定義し,これは医学文献において,代替(alternative),相補/補完(complementary),統合(integrative),従来の伝統療法ではない(unconventional),ホリスティック,自然,およびエネルギー等に医学を組み合わせた形で,様々な用語で使われていると述べている。
米国の国立補完代替医療センター(National Center for Complementary
and Alternative Medicine; NCCAM)(2002)によれば,代替医療は,もはや従来の医療の一部分ではなく,別の医療・健康管理体系であると説明されている。そして,いくつかの代替医療においては科学的な証拠が存在するものの,安全性および有効性については,適切に計画された科学的な研究を通じて結果が得られることが鍵となると述べている。
また,1992年には,国立衛生研究所(National
Institutes of Health; NIH)によって,はじめての代替医療に関する会議がバージニア州Chantillyで行われた。そのワークショップで使われた以下に挙げる6つの分類,(a)心身インターベンション(mind body interventions),(b)生体電磁気学アプリケーション(bioelectromagnetics applications),(c)代替医療システム(alternative
systems of medical practice),(d)手技によるヒーリング方法(manual
healing methods),(e)植物療法(herbal
medicine),および(f)食事栄養療法(diet
and nutrition)が初期のCAM標準分類となった。その後,NCCAMは,(e)植物療法,および(f)食事栄養療法を生体学的療法(biologically based therapies)に含めた(Jacqueline,
2005)。そして,現在においてNCCAは,以下に挙げる改良した5つの分類,(a)ホメオパシー,自然医学,中国医学,およびアーユルヴェーダ等の伝統医学を含む代替医療システム(alternative
medical systems),(b)現在では主流となっている集団療法や認知行動療法もかつてはここに含まれており,瞑想,祈り,イメージ療法,精神療法,芸術療法,音楽療法,ダンス療法等の心身医学を含む心身インターベンション(mind-body interventions),(c)ハーブ製品や科学的に証明されていないが健康に良いとされている健康食品・サプリメント等の摂取を含む生体学的療法(biologically
based therapies),(d)カイロプラクティック,オステオパシー,マッサージ等の整体や身体を元にした方法(manipulative and body-based
methods),および(e)気功,レイキ,セラピューティック・タッチ等のエネルギー療法(energy therapies)を用いている(NCCAM,2002)。
この章ではホメオパシーの概念,海外事情と日本における歴史と現況,および実際のホメオパシー相談について述べる。
ホメオパシーの理論 ホメオパシーとは,病気というバイタルフォースの滞りを開放することによって,根本的に治していく副作用のない治療法である。そして,バイタルフォースとは,人間が持つ生命力および自然治癒力で,その流れの滞りが病気であるとホメオパシーでは考えている(由井,2004)。ホメオパシーは,西洋の漢方にもたとえられ(服部,1997b),喘息,湿疹,関節炎,慢性疲労症候群,頭痛,偏頭痛,月経問題,更年期問題,過敏性腸症候群,クローン病,アレルギー,再発する耳,鼻,喉,胸の感染,尿感染,抑うつ,および不安のような慢性病に対して最もよく使われている。また非常に重要な点は,従来の伝統的医療である診断治療とは異なり,仮に同じ病名の患者が2人いたとして,各人が異なる症状を持つ場合には,ホメオパシーでは種類の異なる処方をする(Pinder et
al., 2005)。
ここで,Hahnemannがどのようにホメオパシーを生み出したかについて述べたい。1779年にHahnemannは医師資格を得て診療を行ううちに,当時の正統派医学である瀉血,下剤,あるいは毒投与といった人体に有害なだけで効果の得られない治療に限界を感じており,そのために医師を辞め翻訳業で生計を立てていた。ある時Cullen(1789)が書いた薬効書を翻訳している際に,キナの皮がマラリアに効果があるという記述を見つけた。彼は半信半疑でキナの皮を煎じ試してみたところ,マラリアに似た悪寒,発熱,および脱水症状等が起こった。それから家族や村人を集めて同様に実験したところ,彼と同じような症状が起こった人々,および既にマラリアにかかっている人々が元気になったという2つの群に分かれた。その後,Hahnemannは多種多様な実験を繰り返した結果,同種の法則および超微量の法則等を基本にしたホメオパシーを作り出したのである(Gumpert, 1945 熊坂訳 2005)。
ホメオパシーの原理 ホメオパシーは,同種が同種を治す(like cures like)という同種の概念を持ち,同じ原物質が実際に高濃度で与えられた場合に引き起こされた症状と同じ症状を,超微量の希釈物質が治癒に導くと考えている(NCCAM, 2003)。このことからホメオパシー原理として代表的かつ根本的な法則に,同種の法則および超微量の法則の2つがある。ホメオパシーではこれらの法則を基本に,患者の症状を既にあきらかになっている原物質のドラッグ・ピックチャー(薬像)と合致させることによって,患者とホメオパシー薬との波動医学的な一致を得ることができる(Gerber, 1996 真鍋訳 2000)。
実際のホメオパシーでは,植物,鉱物,および動物等からなる原物質を超希釈振盪したものからなるホメオパシー・レメディと呼ばれるものを摂取する。多くのホメオパシー・レメディは超希釈振盪されているため,原物質の分子が1つも入っていない。そしてホメオパシー・レメディの形状は,砂糖玉や液体の場合もある(NCCAM, 2003)。
例を挙げると,蜜蜂からなるApis mellifica(エイピス・メリフィカ)はラテン語で表記されたホメオパシー・レメディ名で,省略名でApis(エイピス)と呼ばれる。Ullman, Ullman, & Luepker(2005)によれば,このApisは蜜蜂に刺された時の痛み,炎症,および腫れを緩和する重要なホメオパシー・レメディであり,これは健康な人が蜜蜂に刺された場合に起こる症状と全く同じで,ほかにもこれらと同じような症状を持つ,結膜炎,アレルギー反応,関節炎,あるいは膀胱感染症にも効果があると述べている。
そして,Hahnemannの弟子で,米国ホメオパシーの父と呼ばれるConstantine Hering(1800-1880)が作ったHering治癒の法則がある(Whole
Health Now, 2006)。これは合致させたホメオパシー・レメディを患者が摂取することによる治癒過程を表す(Vieira, 2004)。次にこれらの法則について以下に詳しく述べる。
同種の法則 紀元前450年に古代ギリシャのヒポクラテスが述べた,“Similia similibus curentar”(同じようなものが同じようなものを治す)は同種の概念であり,この時代には既に同種療法の元となる考え方があった(巻口, 2002; Ullman et al., 2005)。また,紀元前から明治維新前まで日本には和法という中国医学や漢方とは異なる日本固有の医学で生薬療法が存在し,この中にも同種の概念が見られる(伊沢,2005)。そして和法の概念を一部受け継いだ過去の日本における伝統民間療法は,その多くが同種の法則を基本としていた。
同種の法則をより詳しく述べると,似たものが似たものを治す,それは症状を起こすものはその症状を取り去ることができる,というものである。日本古来の伝統的な療法から例を挙げると,風邪をひいた時に生姜湯を飲むことは,普段元気な時に摂取すればひりひりするものが,風邪をひいて喉がひりひりしている時には,自然治癒力を高め風邪の治癒に導くというようなことと同様である(由井,2004)。
超微量の法則 もうひとつの原理である超微量の法則は,症状を起こすものを非常に薄めて使うことにより,原物質から起こり得る副作用といった悪影響を心と身体へ与えることなく,問題となっている症状だけを取り去るというものである。また希釈振盪の程度をポーテンシーといい,効果的ポーテンシーが歴史上経験的に確立されている(由井,2002a)。
Hahnemann(津谷, 1996より引用)は,先述した同種の法則に基づき,薬効作用のある原物質が人体に取り込まれると,自然に発生する病気に似た症状を生み出すことを見出し,そして,患者にぴったり合う薬を投与すると,最初に症状が激しく悪化した後,患者は完全に回復するとした。ただ一時的にせよ,症状が悪化するのは好ましくないので,投薬量を調整し,ごく微量を使うようにしたところ,一時的な悪化はほとんど目立たなくなった。このように誘発作用と触媒作用を備えた動因として働くという臨床結果で,超微量の法則が生まれた(津谷,1996)。
Rudolf Arndt(1835-1900)およびFriedrich Schulz(1853-1932)は,Hahnemannの超微量の法則に続いて,物質による刺激が,微量では生命の活動を促進し,少量ではその活動を抑制し,大量ではその活動を止めるというArndt-Schulzの法則を証明した(Shulz, 1887)。坂口(1956a)は,この法則により,当時,ホメオパシーが科学として参入する資格を得たと述べている。しかし,当然のことながら科学的な視点からは,この超微量の法則が物議を呼び,長年にわたる多くの科学的論争が継続している。一方,ホメオパシーの考え方では,長期間に同じ原物質を多く摂取し続けると,その原物質による作用の影響により,逆に副作用といった悪影響があり,その原物質そのものが原因である症状が起こると考える(坂口,1961)。例を挙げるとコーヒー豆は眠気を払い,神経を興奮させる作用を持つが,コーヒーを過度に飲みすぎると,興奮,感覚過敏,不眠,痛み等が起こる。しかし,ホメオパシーで使用すると,適応する症状は,まさに先述の症状と同じで,神経が興奮して眠れない時に自然な眠りをもたらす。もちろんこのコーヒー豆のホメオパシー・レメディひとつが全ての不眠を治すというものではなく,不眠だけでもホメオパシー・レメディは約500種類以上あり,さらに細かい分類が続く(由井,2002a)。
治癒の法則 治癒の法則とは,Hahnemannの弟子でドイツから米国へホメオパシーを持ち帰ったHeringが発見した法則で,ホメオパシーにおける原理の柱のひとつである。そして,(a)上から下へ,症状が手足等の末端へ移行している場合,(b)中から外へ,身体内の症状が身体外の症状へ移行している場合,(c)重要な器官からより重要でない器官へ,見えない臓器から見える臓器へ移行している場合,(d)逆順序の法則,以前患っていた症状が戻ってきている場合,(e)心から身体へ,心の症状が身体の症状へ移行している場合に示される(由井,2002a; 由井,2002b)。
精神レベルにおける治癒の法則 Vieira(2004)は,ホメオパシーを使用した場合の精神レベルにおける治癒の法則として,先述のHering治癒の法則が精神レベルにも該当することを証明し,臨床事例評価の変数を示す試みをしている。それによると,(a)上から下へでは,患者はかつて理想の自分自身,人生,目標を高く設定したところへ再びつながる,(b)中から外へ(深い部分から表層へ)では,患者は防衛機能の繰り返しから迅速に離れ,より深い感情を見つめるようになる,(c)最初の症状が最初に消える,(d)古い症状の逆戻りで,現在あらわれている症状から以前の問題へとさかのぼって治癒が進むとし,実際にこれら該当する事例報告を挙げている。
海外事情 海外事情を見てみると,ヨーロッパ,米国,イスラエル,インド,パキスタン,スリランカ,オーストラリア,および南アフリカをはじめとする80カ国以上で使用されている。また,英国,フランス,ドイツ,ノルウェー,ギリシャ,インド,イスラエル,およびオーストラリアでは,医療保険制度が使える。ホメオパシーを別体系の医学として認知しているインドでは,120のホメオパシー医学学校と10万人以上いるホメオパシー専門家(以下,ホメオパス)が,結核,腸チフス,マラリア,ハンセン病,肝炎,およびエイズのような重症な病気に対してホメオパシー的アプローチをした治療を試みている(Ullman et al., 2005)。ホメオパシー発祥の地ドイツだけでも,ホメオパスは6千人いると推定される(Deutsche Welle, 2006)。
国によって差はあるものの,ドラッグストア,スーパーマーケット,および健康食品店等に行けば,切傷,刺傷,軽度の火傷,打撲,あるいは軽度の症状に対するファーストエイドに対応したホメオパシー・レメディの小さな砂糖玉が,値段も日本円で一瓶数百円程度からの安価で手の届く陳列棚に並んでいる。そしてホメオパシー薬局では,自分に適したホメオパシー・レメディについて,ホメオパスから簡単なアドバイスを元に購入することができる(Pinder et al., 2005; Ullman & Ullman, 2002)。たとえば不安あるいは恐怖といった心理面を援助するためのホメオパシー・レメディを一般人は気軽に購入することができる。
代替医療の盛んな英国では,皇室主治医はホメオパスであり,皇室はホメオパシー治療を受けている(Morrell, 1999)。そして英国では,4千人のホメオパスが活躍しており,ロンドンには,ロイヤル・ホメオパシー病院があって,英国内に国立ホメオパシー病院は数箇所ある(巻口,2002)。英国では医師のうち約42%が国民健康保険適用下にあるホメオパスへ患者を紹介している(Ullman & Ullman, 2002)。またフランスでは,ホメオパシーは代替医療のうちで一番人気があり,従来の伝統的療法を用いている約70%の医師にも認められていて,ほとんどの薬剤師は,ホメオパシー薬理学およびホメオパシー医学の訓練を受け,国営医療サービス制度がその訓練費用を全額負担している(Ullman & Ullman, 2002)。米国でもホメオパシーは現在最も急成長している代替医療のひとつで,アリゾナ・ワシントンをはじめとした12州で,診断・治療を行う自然療法医の免許を発行している(Eisenberg et al., 1998)。また,ホメオパシー学位を授与できる大学院を有する大学が複数存在する(巻口,2002)。
先述したインドのほかにも海外でのホメオパシー教育機関は多く存在する。たとえば英国では,4年制のホメオパシー専門大学は28校存在し,ホメオパシー博士号を授与する資格のある大学院も存在する(巻口,2002)。そして,ロンドン内で少なくとも4つのホメオパシー専門大学があり,英国内で20校が存在する(Morrel,
1999)。ホメオパスになるための認定コース期間は,最低パートタイム4年間,あるいはフルタイム3年間であり(The Society of Homeopaths, 2006),それに準拠した認定ホメオパシー専門大学および大学院が多くみられる(Homeopathy Home, 2006)。カリキュラムは,ホメオパシーの理論,哲学,ケーステイク等について学ぶほかにも,面接技術,臨床訓練,およびスーパーバイズがあり,歴史や心理学も学ぶ。生化学,解剖学,生理学等も必須授業である(Morrel, 1999)。2006年6月現在,ヨーロッパ20ヵ国で22のホメオパシー協会からなるホメオパシー評議会(European Council for Classical
Homeopathy; ECCH)では,ホメオパスの規範,倫理規定,およびホメオパシー教育のためのガイドライン等を作成している(ECCH, 2006)。
米国では,ホメオパシー・レメディは米食品医薬品局(Food and Drug Administration; FDA)管轄下にある。ホメオパシーは歴史上,非常に長く使用されているという理由からその安全性が認められ,1938年に,ホメオパシー・レメディを処方箋なしの店頭でカウンター越しに買えるもの,いわゆるオーバーザカウンター(over-the-counter; OTC)と同様の規則によりFDAにより位置づけるということが,米国議会で承認された。これは,専門家による処方箋がなくても一般人が薬局等でホメオパシー・レメディを直接購入できるという意味である。それと対比して薬物療法における従来処方薬とホメオパシー・レメディではない新規OTC薬は,販売される前に治験した上でFDAの認可が必要とされるが,ホメオパシー・レメディには認可の必要がないというほどに安全なものとして認識されている。ホメオパシー・レメディは,強度,品質,純度,および梱包において一定の法的基準が必要とされるため,1988年にFDAは,全てのホメオパシー・レメディが医療問題を扱うためにラベルに用途を明示するようにし,また,内容,希釈度,および使用方法についても明示するということを決定した。
さらにホメオパシー・レメディのガイダンスには非政府系NPO法人の作成した公式ガイド・オンライン・データベースThe Homeopathic Pharmacopoeia
of the United Statesがあり,新しいホメオパシー・レメディの研究や臨床的効果の検証がなされている。そして,このデータベースには臨床試験からの科学的証拠集めよりも,むしろ歴史的な使用に基づくものが書かれている(NCCAM,2003)。
ホメオパシー・レメディは安価であるにもかかわらず,ホメオパシー薬局世界大手企業のBoironグループは,世界中で連結売上高が2004年度には約3億5千ユーロ,2005年度には約3億6千ユーロで,フランスだけでも売上高が2004年度および2005年度で,各々約2億3千ユーロであったと報告している(Boiron
group, 2006; Ullman et al., 2005)。この人気の高さは,自然の素材を使用し,長い伝統の中で試行錯誤を経て洗練されてきた製造法に基づくホメオパシー・レメディを使用し,また病巣部分のみならず,患者の全体像を観察し診断するホメオパシーに,人々が徐々に関心を持つようになって来たからといえる(巻口,2002)。
日本における歴史と現在までの流れ 津谷(1996)は,江戸期に吟涅満(Hahnemann)による忽没越阿巴智(Homeopathy)として漢語が当てられ,日本に紹介されたものの,訳本が出版されるまでには至らず定着したとはいえなかったということを報告している。その理由のひとつには,日本の蘭学受容において,西洋における医学思想の理解が不十分であったために,翻訳に相当の労力が必要だったためである。また日本にホメオパシーが定着しなかった別の理由に,日本の医学そのものは元々が,先述したような和法を基礎とする植物性の薬物内服を中心とした緩和な医学であったため定着しなかったのではないかと推測される。一方,当時のヨーロッパでは,瀉血,下剤,あるいは水銀摂取等を用いた侵襲性の強いヨーロッパ医学が広まっており,その批判から,ホメオパシーはheroic medicine(英雄医学)とも称され,より緩和な医学としてヨーロッパに普及をもたらした一因となったこととは,日本は正反対であった(津谷, 1996)。
とはいうものの,大正中期にボストン大学医科へ留学した際に(日本ボストン会,2006),ホメオパシーについて学んだ得田(1933)は,昭和初期にホメオパシーの使用法を紹介しており,“近時歐洲各國に於いてもホメオパシーは専門家及び一般知識階級より多大の關心を持たれるに至り治療界に一のセンセイシヨンを興へつゝある時に當り今囘合名會社福音公司に依て,ハーネマン博士在世當時設立されてより百年間の歴史を有し世界的に名聲と信用を博せるボエリツク,タフエル社より我邦に初めてホメオパシー藥劑を輸入され…”(得田,1933,pp.1-2)と,米国ホメオパシー薬局Boericke&Tafel社から日本にはじめてホメオパシー・レメディが輸入され,大阪で2ヶ所,東京,奈良,静岡,岡山,満州の計7ヶ所にある薬局で販売および通信販売していたと述べている。その後の日本の文献では,年代順で,小川(1943),小川(1964),Shryock(1947 大城訳 1974),川喜多(1977)が,西洋医学史について述べる中で,歴史の流れの中に,数行から数頁にわたりホメオパシーについてふれているものの,単なる紹介にとどまるか,あるいは批判的見解を述べつつも,欧米ではかなり広まっていると報告している。そして,Shryock(1947 大城訳 1974)は,同種療法は元来,ほかの体系学説と同じように,正規の医学の一部で,その当時は学会でも公認されていたと述べている。
また,今沢(1955)は,ドイツ医学は変わっているとして数頁にわたりホメオパシーについて超微量の法則等を報告している。第一次大戦でドイツから亡命し,神戸で牧師をしていたドイツ人ホメオパシー研究家が,牧師のかたわら患者をみていたそうで,彼からホメオパシーのことを聞いたと述べている。その後,このドイツ人は終戦後に米国軍に発見され,ホメオパシー研究家ということで本国へ移されたと記述している。
漢方を使用している医者からはホメオパシーの効果について興味深く観察されており,間中(1954)は漢方の臨床という漢方専門誌で漢方と絡めてホメオパシーについて述べている。その後輩で,西洋医学の医師で東洋医学に関心を持っていた坂口(1955)は,当時ドイツのスツットガルト市にあったホメオパシー専門病院Robert-Bosh病院にて,1955年1月から3ヶ月間ホメオパシーを学び,同じ漢方専門誌にてホメオパシーを紹介した。そして,1956年から1957年に,同誌でホメオパシー講座を連載している(坂口,1956a-g;坂口,1957a-g)。第1回まえがきでも,“今日ヨーロッパの都市で藥局へゆくと必ず,中央の入り口を挟んで兩側にホメオパシー(Homöo pathie)アロパシー(Allopathie)と書いてあるのが見られる,つまりホメオパシーの藥を売っていない藥店は一軒もない程に廣がっている。この療法は歐洲各國は勿論のこと北,南米,印度などにも非常に廣まり,世界中でやつていないのはソ聯のことは知らぬが日本と中國位ではないかと思える。外國のものを取り入れるに急なる日本でどうして今迄知られていないか不思議な位であるが,外國へ行く醫者の殆どが,大學醫學のチヤンピオンであつて,大衆の間に相當深く入り込んでいるこのホメオパシーを民間療法のつまらぬものと見むきもしなかつたためであろう”(坂口,1956a,p.57)と述べている。坂口(1961)は,ホメオパシー療法という書物を発行し,ホメオパシーについて詳しく報告している。そして,この本へ序文を寄せたドイツ鍼灸医学副会長シュミットが,近代医学が進歩を遂げたにもかかわらず,ホメオパシーはヨーロッパにおいて思いがけぬほど高度に発展をしたばかりか,地球上のほとんど全ての文明国に普及したが,日本はホメオパシーが知られていない数少ない国のひとつに入ると述べ,その理由に日本には東洋医学すなわち漢方と鍼灸が既に存在したことを挙げている。これは先述した過去における日本の事情と一致する。これに加えて,由井(2002a)は,ホメオパシーの正式な専門訓練は,長期間必要なこと,英語圏のネイティブでも難儀する万葉英語,ラテン語,およびギリシャ語等に精通する必要があり,言葉の高い壁等が日本人の進出を妨げたと日本に広まらなかった理由を述べている。
過去の日本では,ほとんど広まらなかったホメオパシーであるが,ここ10年における日本では,ホメオパシー専門大学および大学院でホメオパシーを学び,日本人初の英国国家認定である英国ホメオパシー協会認定ホメオパスとなり,英国臨床現場にて実際に臨床経験を多く経た由井が,1996年にホメオパシーを日本へ持ち帰り,日本において相談会,およびECCHに属する英国ホメオパシー協会認定カリキュラムを持つホメオパシー教育機関を立ち上げ,その普及に努めている(朝日新聞社,2000)。その後,この教育機関の認定カリキュラムを修了し,卒後,英国ホメオパス認定資格を得た認定ホメオパスが,様々な分野にて活躍している。例を挙げると鴫原(2005)は,女性の産痛,そのほか痛みの緩和,および精神支援として,妊娠,出産時の女性支援にホメオパシーを用いた事例を報告している。ロイヤル・アカデミー・オブ・ホメオパシー(2005)によれば,彼らの活動実績から2005年10月に,この団体に対する職業保険が成立し,その意味するところは,この学校を卒業した認定ホメオパスが,日本で正式な職業として定着しつつあるということである。
箕輪(2006)は,日本でこれら認定ホメオパスからのホメオパシー相談による処方や,一般の間でセルフケアとして利便性が高く急速に広がっている様子について述べている。そして,日本における心身医学の現場において,黒丸・中井(2002)は,ホメオパシーによる心療内科受診患者で,従来的な心身医学的治療では,あまり治療効果が認められなかった患者67人に対してホメオパシー治療を試みた結果,約半数の患者に症状の改善が認められた事例を報告している。このように徐々にではあるが,日本においてもホメオパシーによる心理治療的な導入が報告されつつある。
ホメオパシー相談 ホメオパシーは,たとえば多少の不安,恐怖,あるいはパニック発作等の緊急時に,セルフケアできる家庭医学として,心身両面に自分で対応できるほかにも,複雑な問題に関しては,ホメオパスへ相談することで,患者の持つ症状や問題点に対し,広範囲にわたり,ホメオパシー的なアプローチをすることができる。文化差や各ホメオパスの手法による個人差があるものの,通常はホメオパスと相談者の一対一で個室にて行われる。
所要時間は再診で心理面接とほぼ同枠の約30分から45分程度であり,初診ではもう少し長くかかる場合がある。そしてホメオパスは患者から詳細な既往歴を聞き,健康に関する現在の主訴等を含めた情報を,非常に詳しく訊ねる。たとえば,どんな感じなのか,どういう時に悪くなるのか,いつ頃から起こったのか,症状が起こった時の状況はどんな感じだったのか,および付随症状はあるのか等の詳細について患者に訊ねる。主訴以外のことに関しても,睡眠パターン,気分,および一日の様々な時間帯でどのように感じるか等の生活様式等についても患者から話を聞く(Pinder et al., 2005)。それにより,その人の持つ心理,身体,および環境社会面等を明確化することで,ホメオパシー・レメディを選択するための辞書を用いて,患者像とホメオパシー・レメディ像とを合致させる。先述したように,仮に同じ病気を持つ2人に違う症状がある場合に,ホメオパシーでは異なる種類のホメオパシー・レメディが処方されるのは,この合致点が変わってくるからであり,このことからも,従来の伝統的医療における病気の種類から分類した診断のための問診とは異なる点が多いということが理解できる。
ホメオパシー・レメディを選択するための辞書はマテリア・メディカやレパートリーと呼ばれる(Murphy, 2005; Scholten, 1996; Scholten, 2004a; Vermeulen,
1992)。マテリア・メディカとは,健康な者がある原物質あるいはホメオパシー・レメディを摂取し出てきた症状を書きとめてまとめたものであり,あるいは毒物等によって出た症状の歴史的事実を集約したもので,心身両面から見た症状の集まり,すなわち膨大なホメオパシー・レメディの情報が記述されている。この中には臨床心理学的視点から見ても,かなり数多くの心理的症状が記述されている。由井(2002a)によると,マテリア・メディカとは,同種の原理に基づき,そのままその症状を取り去る力について書かれたもので,プルービングといって,各ホメオパシー・レメディを健康な人が摂取することにより得られた精神的特徴,身体的症状,基調(悪化/好転する要因/原因),作用する器官,あるいは組織等のプルービング情報が,詳細に書かれていると定義している。従来の伝統的医療で使用される薬効書がその効能を記述している点とは異なり,ホメオパシーにおけるマテリア・メディカは,歴史的事実に基づいた症状を寄せ集めて記述されたものであり,ここでも従来の伝統的医療との違いが明確である。一方のレパートリーとは,由井(2002a)によれば,マテリア・メディカを全部覚えることが不可能なので実際の患者の症状からホメオパシー・レメディを検索できるように編纂されたものであると定義し,患者の症状像に基づいて,レパートリーから帰納的にある程度ホメオパシー・レメディを絞り込み,マテリア・メディカで演繹的に患者の全体像と照合させることで,短時間に最適なホメオパシー・レメディを高確率で検索することが可能になると述べている。
ホメオパスは様々なことを考慮しながら,その患者にあったホメオパシー・レメディを提供し,そして患者はホメオパシー・レメディを持ち帰り,指示通りに砂糖玉あるいは液体ベースで摂取する(Pinder et al., 2005)。するとホメオパシーはバイタルフォースといわれる患者自身の自然治癒力に刺激を与えることでスイッチが入り,その自然治癒力によって自己治癒するのである(White, 2000)。
Hahnemann(White, 2000より引用)は,患者の精神状態を見ることは心身両面に対応する適切なホメオパシー・レメディを選択する鍵になると述べている。そしてこのことから,臨床心理学博士でホメオパシー専門大学を卒業しているWhite(2000)によれば,ホメオパシーの訓練を受けた心理臨床家はベスト・ホメオパスであると述べている者もいると報告している。
また,海外の患者の多くは長年,心理療法を単発で利用しており,その患者の中にはその後,ホメオパシーと臨床心理の併用治療をする者もいる。多くの場合,ホメオパシーは患者の治療過程をより敏速にし,深い洞察を呼び起こし,心理療法の時間をもっと有効に使えるようになる。そして,大抵のホメオパスは良識のあるほかの専門家と同様に,心理治療,ヒプノセラピー,ボディワーク,およびほかの役に立つ治療へ紹介することに対して抵抗を感じておらず,しばしばホメオパシーは別の療法やライフスタイルの改善と一緒に用いられている。しかしながら,新しいアプローチの初期には,効果が得られているのかを知るためには,同時併用を避けることが勧められる場合もある(Ullman & Ullman, 2002)。
実際にホメオパシー・レメディの選択は,心理学的な観点に加えさらに考慮するべき点が多く,先述のように,広範囲にわたり個別化する過程を必要とし,その過程において,好き嫌い,身体症状,睡眠状態,夢,食欲,食べ方,および心身既往歴等を心理学的に扱うよりも,かなり細部にまで及んで聞き取り,患者のtotality of symptomsと呼ばれる全体像とホメオパシー・レメディを合致させるための作業をする。これは,Hahnemann(White, 2000より引用)が,心身症状が起こるのは,人間のバイタルフォースの乱れ,あるいは不調からなるとし,エネルギー的な乱れが起こった時に病気になる,つまり人間のバイタルフォースの機能,および感情における病理的な不調なのだとしたことにより,ホメオパシー的に患者全体を見るために,必要な作業である。
そして通常,フォローアップ相談を4週間から6週間後に行う。患者は前回のホメオパシー・レメディによる変化や気づいた点についてホメオパスへ報告する。変化がなかった場合は,ホメオパスはさらに問診することで,患者像を正確に理解し,適切なホメオパシー・レメディを選択し調整する。
セルフケアのホメオパシー これまでホメオパシーは個人に合わせた根本的なところを診る処方であると度々強調してきたが,ホメオパシーの良い点でもあり,曖昧でもある点は,たとえば恐怖心,風邪,火傷,あるいは切傷といった,詳細には個別化されていない単なる一般的な病状からでも,ある程度はホメオパシー・レメディ選択ができるというような二面性を持っていることである。一般的な病状には共通項目が多く,複雑化していない単純な症状であれば,セルフケアで試行錯誤してみることで,良い結果が得られることが多くみられる。また,先述のようにホメオパシー薬局にはホメオパスが常駐していることが多く,ホメオパシー・レメディを選択する際に簡単な手助けをすることが多い。あるいはホメオパシーに興味がある者は,自分自身で講習会や書物等から情報をあらかじめ得ており,ホメオパシー・レメディ選択に対して,ある程度の知識が既にあるため,店頭で自ら選択し,セルフケアとして気になるホメオパシー・レメディの一般購入が可能なのである。
ホメオパシーの安全性 先述したようにホメオパシーには副作用がなく,FDAも安全性を認めている(NCCAM,2003)。現在,ホメオパシー・レメディは約4千種類あるといわれており(Scholten,
2004b),これに希釈振盪の程度であるポーテンシーの種類をかけ合わせるとかなりの総数となるが,OTCで流通している数は,そのうちのほんのわずかで,ホメオパスが扱っている種類やポーテンシーよりもかなり少ない。由井(2002a)によれば,英国で通常家庭用として用いられているホメオパシー・レメディのポーテンシーは6 cから30 cといわれており,cとはラテン語で100を意味するCenturiaの頭文字で,100倍希釈法を意味する。たとえば30 cは100倍期釈法を30回行ったということで,アボガドロ数の限界希釈をはるかに超え,理論的には現物質の分子がひとつも存在しない10の60倍乗希釈を意味すると述べている。この種類およびポーテンシーの限定は,わざわざホメオパスのところまで足を運ばなくても良いように家庭医学としてセルフケアができるものをホメオパシー業界が考慮して店頭販売しているためである。臨床心理においても,心理学の書物を本屋で見つけて自分で読み,セルフケアにて自身で対処するのと,もうひとつには,書物を読んで防衛の蓋が開き,自分だけで対処するよりも専門サービスを求めて,心理臨床家による心理面接へ来訪することと同様である。
治癒過程および好転反応 ホメオパシー・レメディを摂取しはじめて症状の改善が認められる場合,これは適切なホメオパシー・レメディが見つかり,治癒しはじめたことを意味する。時折,最初の週に症状が一時的に悪化する場合があるが,これはその後,症状の改善あるいは劇的に良くなる可能性が高く,この一時的な悪化を好転反応という。もし適切なホメオパシー・レメディではない場合,何も起こらない。また,症状が少ししか改善されなかった場合は,ホメオパシー・レメディが適切ではなく,異なる種類のものが適切だったのか,それとも同じ種類で別のポーテンシーが適切だった可能性もある。別の反応としては,適切なホメオパシー・レメディを摂取した場合,過去の症状が戻ってくることがあり,これは先述したHering治癒の法則(d)である。通常,3日から4日続く場合があり,これは良い兆候で,5週間から6週間後には,結果がより明確になる(Ullman et al., 2005)。
好転反応とは,ホメオパシー・レメディを摂取した際に,一過性で一時的に病状が広がる現象をいい,従来においてホメオパシーを否定する人々の間で,先述したような希釈濃度の問題,作用順序の未判明と一緒に,ホメオパシー・レメディ投与後の好転反応が問題にされてきた(宮本,1986)。しかしながら,ホメオパシーでは好転反応は必ずしも,心身が悪化方向へ進行したのではないと考えている。Hahnemann(宮本,1986より引用)は,まず否定的な好転反応があらわれ,その後回復し治癒に至ると考えていた。これは漢方医学にも良く似た現象が見られ,漢方医学では,薬効によって一時的にあらわれる反応を瞑眩(めんげん)反応といい,服用後に一時的にあらわれる種々の予期しない反応と一緒である(創医会学術部,1984)。好転反応は薬物療法における副作用とは違い,ホメオパシー・レメディを取ることで一見,前よりも悪化したように見えることもあるが,自然治癒力がフル回転し,排泄作用が高まった結果であり,決して悪いものではなく,むしろ素晴らしい身体の知恵なのである(由井,2004)。
そして,ホメオパシー・レメディを取った後に,患者自身が変化に気づく場合があり,このように症状が一時的に少々悪化したような場合,ホメオパスはホメオパシー・レメディが効果を示していると理解している。ホメオパシーでは,風邪,発疹,および何らかの形の排出は,患者自身のシステムが浄化の段階にあるという兆候と考えており,通常は次回の相談であるいは途中に,状態の変化についてホメオパスに相談する(Pinder et
al., 2005)。
巻口(2002)は,ホメオパシーでは,病は本人に対するメッセージであるから,目を背けずに患いきる必要があると考えており,病による苦しみを通じて,自分を振り返り,病に真の意味を見出す時に人間は成長し,病と健康は表裏一体の関係であると述べている。そして,病が存在しなければ真の気づきと健康は存在せず,人間を病や死へ導くことができる力こそが,同時に真の健康をもたらす力であるとし,こうした考え方は道教や中国医学に見られる陰陽思想と類似すると説明している。
事例報告 現在までホメオパシーによる心理治療に関する海外文献は,ホメオパシー学術誌のみに限らず,精神医学や心理学の分野における専門的な学術誌等でも多く見られる。また,ホメオパシーに関する書物は専門書,および一般書を含め数多く出版され,代替医療全般について書かれた書物の中でも,その一部としてホメオパシーを取り上げており,その数も含めると相当数が流通している。先述したように,ホメオパシーでは,心身面をわけて考えないため,ホメオパシーに関する事例報告には心理面あるいは身体面のみで分類しているのではなく,心身両面のエピソード記述がされていることが多い。初来訪の主訴は身体面のものであっても,その裏に隠されている精神症状はまさに臨床心理で扱う事例が多く,200年以上にわたる歴史上あるホメオパシー事例報告のうち,臨床心理学的視点から検討してみると,治癒に成功した臨床心理学的な事例報告も多数見られる。
以下,特に心理に焦点を当てた成功事例について,簡単ながらも年代順で一部紹介していく。各事例の詳細についてはAppendixを参照されたい。Perez & Tomsko(1994)は,19世紀のホメオパシーによる心理治療に関して報告した。そして少なくともホメオパシー学術誌の中では,ホメオパシー医学が従来の伝統的医学で上手く行かなかった事例に対し,注目すべき治癒を導き出したと述べている。具体的には,1840年代の事例では,全く無関心で数週間の間に1箇所をじっと見つめ続け,作業を促しても何もせず返答もしない患者,2ヵ月毎の周期で無活動状態と交互に焦燥感,不眠,および頻脈の症状がある患者,および26歳音楽家で本来は快活であったが,兄弟の死後に幻覚症状が出ていた患者等の事例に関して,ホメオパシーによって治癒に導いたことを報告している。また,1879年には,Homeopathic
Medical Society of New Yorkにおいて年2回行われる会議にて,希死念慮がある患者の自殺防止治療におけるホメオパシー使用の利点についての白熱した討議が行われた。さらに1904年では,監禁されていた20代女性の事例,1906年では,角に立ちむなしいと泣く状態であった別の女性の事例,それにまつわる学術誌での当時のホメオパシー論文状況についての記述,および当時の精神疾患に対するホメオパシー治療における盛んな議論が展開されていた様子が推測される。
20世紀に入り,Scholten(1993)の事例では,35歳女性保育園園長の広場恐怖に関する事例,55歳女性の不眠に関する事例,および14歳少年の学校で集中力に問題がある事例等,多くの成功事例が報告されている。Whitmont(1996)は,数多くの事例の中からボーダーラインを治療した2事例を紹介し,Grandgeorge(1998)の事例では,沢山ある事例の中のひとつで,頻度が一番高く処方される突然の恐怖等に関するホメオパシー・レメディによる有名なジャーナリストの治癒を報告している。
21世紀に入り,由井(2001)は,多くの事例のうちで,主訴に幻聴のある8歳女児のホメオパシー適用について報告している。由井(2002b)は,多動及び自閉症の7歳男児の事例で,治療後,穏やかになり動きがゆっくりしてきたという報告をしている。Lansky(2003)の事例では,自閉症であった彼女自身の子供がホメオパシーによって治癒したとのことで,子供は賢くおしゃべりになり,より社会性が高くなり,この事例をきっかけに彼女は,米航空宇宙局(National Aeronautics and Space
Administration; NASA)科学者からホメオパスに転身したと述べている。Vieira(2004)は,André Luiz精神病院の患者で様々な精神病理を持つ7名(入院6名,外来1名)に,ホメオパシーおよび西洋医学治療の併用で治療した事例について報告している。これらの事例は西洋医学治療のみでは治癒が困難な事例で,ホメオパシーとの併用で迅速な治癒速度と効果が示されたものである。Panchal(2004)は,行動異常がある15歳少年の事例で,入院におけるホメオパシー治療により,少年の行動異常は治癒したと報告している。由井(2004)は,口数が少なく憂鬱な色覚異常の離婚した女性に関する事例について治癒報告している。最後に,Adalian(2005)は,自閉症の2つの事例を取り上げて紹介している。これらの成功事例は数多くあるホメオパシー事例報告のほんのわずかな一部である。
ジェンダーとホメオパシー ホメオパシー歴史家であるMorrell(1998)は,プロフェッショナル・ホメオパス(医師ではない認定ホメオパス)の男女別データを示した。そのデータでは,1988年から1998年間で1年毎に,英国The Society
of Homeopathsへの全登録者数,および女性の登録者数とその割合についてがあきらかになった。英国以外からも米国,ドイツ,カナダ,スイス,マレーシア,ニュージーランド,およびオーストラリアからのデータを使用した結果,各国で女性プロフェッショナル・ホメオパスの割合は,1998年時点で70%から95%の範囲となり,女性優勢率は時間の経過と共に増加していると報告した。英国The Society
of Homeopathsホメオパス登録における女性割合の推移は,1988年には48.8%だったものが1998年には77.1%と10年間で大幅に増加している。英国The Society of Homeopathsへの女性登録者数の推移を見てみると,1990年には165名のうち女性99名(60.0%),1993年には260名のうち女性182名(70.0%),1996年には465名のうち女性357名(76.8%),1997年には493名のうち女性381名(77.3%)であった。男女比が逆転したのは1989年で,132名のうち女性81名(61.4%)であり,英国では数値上,女性がプロフェッショナル・ホメオパスとして優勢となってきている。
さらに,Morell(1998)は,各国のホメオパシー大学生数,および性別構成数を示し,ホメオパシー教育プログラムは男性よりも女性に好まれているということをあきらかにした。その理由について,妊娠,出産,および家庭といった女性の人生設計において,パートタイム教育,および患者を診る際の女性性を生かしたホメオパスとしてのキャリアは,色々な面で採算が見合っており,一方で,一家の大黒柱の役割を持つ男性にとっては,利益採算の合わない教育および職業であると指摘している。
また,Morrell(1998)は,女性優勢にも関わらず,出版物やホメオパシー学術誌では,女性の記述(記事,レター等),および編集が少ないというデータをあきらかにし,ホメオパシー学術誌の編集者はほとんど男性であるという点において,バイアスが含まれていることが推測されると述べている。また,男性ホメオパスは教職につく傾向があり(平均50%),特にホメオパシー文献は,95%が男性によって書かれていることが報告された。さらに興味深い話として,男性は専門的職業の文献を支配する傾向があり,編み物,縫い物,図書館員,および看護関係の一番重要な文章の全ては女性よりもむしろ男性によって書かれていると述べている。しかしながら,Morrell(1998)は,この状況は女性の教職者,著作者,および管理職数の増加と共に,現在は変化の兆候を見せ,英国のみならず国際レベルにおいても,その変化が起こっていると説明している。
そしてホメオパシーに関心を持つ女性が多い理由のひとつには,男性と比較した際に,一般的に女性は代替療法に対して関心が高く同調しやすい点を挙げている。一方,一般的に男性は泣いてはいけない,我慢をするべきという男性教育の中で健康問題に気づかず,実際に病気になり満足な治療を得られなかった場合にのみ,ホメオパシーあるいは代替療法に対して興味を示しがちであると述べている。これらと関連した別の重要な要素は,ホメオパシー患者が自分の友人や家族をホメオパシーの利用者にしたがる傾向があり,草の根レベルでの目に見えない雪だるま式による利用者増加が存在することも指摘している。
一方で,医師が所属するThe Faculty of Homeopathyにおける医師ホメオパスの割合は,1988年には男性432名(73.7%),女性154名(26.3%)であり,1998年には男性1 024名(64.0%),女性576名(36.0%)と,女性の割合は増えているものの,男性優勢となっていることがあきらかになった。これは,1988年の英国Medical
Directoryでランダムに306名を選んだうち,男性235名(76.8%),女性71名(23.2%)となり,The Faculty of Homeopathyの男女比とほぼ同じで,プロフェッショナル・ホメオパスの男女比のほぼ正反対となることが報告された。1993年では,英国Medical
Directoryでランダムに533名を選んだうち,男性351名(65.9%),女性182名(34.1%)となり,男女差は縮まってきているものの,やはり男性優勢となっていることが報告された(Morrell, 1998)。
ちなみに,フランスは例外的であるがヨーロッパでは,医師とプロフェッショナル・ホメオパスが平等にホメオパシー治療を行っている。そして医師ホメオパスも5分診療ではなく,1人あたり40分から1時間かけて問診している(由井,2002b)。
この章では,これまで理解したことから,先行研究の妥当性,人々のニーズ,および臨床心理との関連について考察する。
無作為化比較試験とホメオパシー 従来,ホメオパシーの有効性に関する議論は,セオリーベースドで理論を臨床試験に先行させた形でなされることが多かった。しかし,現在における医療技術の臨床評価は,1940年代より医学領域で用いられるようになったRCTを基本とした手法を用いている。さらに1980年代よりホメオパシーについてもこの臨床試験が行われはじめ,評価がアウトカムベースで行われるようになった(津谷, 1996)。そしてホメオパシーが有効であるという結果の得られたシステマティックレビューによるメタ分析も多く行われているが(Kleijnen, Knipschild, & ter
Riet, 1991; Linde et al., 1997),先述のように研究者の間でこれら臨床試験によるホメオパシーの有効性について,共通見解が見出されていない(津谷, 1996)。
Pilkington et al. (2005)は,方法的妥当性の臨床試験が不足しているため,うつ病に対するホメオパシーの有効性について証明するには,エビデンスが限られていることをあきらかにした。今後,十分な母集団で統制群を用い,適切に設計された研究が必要で,さらなる研究では,被験者募集の問題を克服した上での質的研究が必要であると報告している。そして,詳細に個別化されたホメオパシー・レメディを用いて,個人の治療反応に対する革新的な分析方法が必要だろうという見解を示した。
代替医療およびホメオパシー理論が,従来の伝統的医療とはその概念化や体系が大きく異なるのに対し,従来の研究手法をそのまま使用し,その効果について研究するのは妥当とはいい切れない。大抵の代替医療やホメオパシーが患者を全体的に治療していくことに対し,従来の研究手法は,その一部に効果があるかないかを追いかけており,その研究法をホメオパシー研究へ適用する際の限界について,よく検討する必要がある。ホメオパシーで効果の得られた多くの事例報告があるのに対し,妥当性研究に共通見解が見出されていないということは,ホメオパシーの妥当性における研究方法に,まだ検討すべき点が十分あると考えられる。
ホメオパシーと従来の伝統的医療との最も決定的な違いは,従来の伝統的医療が医学的診断名から処方されるのに対し,ホメオパシーによる治療では,病気の種類から分類した診断名だけではホメオパシー・レメディを処方しない点である。これはいいかえると,従来の伝統的医療では,ひとつの病名のみから薬に効果があると考えているが,一方のホメオパシーは,より多くの症状が合致した方が,より有効性が高くなると考えているということである。そして,従来の伝統的医療をPopperian的視点に,およびホメオパシーをBayesian的視点に置き換え,スワン(白鳥および黒鳥)を例に挙げると,Karl Popper(1902-1994)は,スワンは白いという仮説がある場合に,1羽の黒いスワンをはじめて見たことで,スワンは白いという今までの仮説が間違っているという証明が可能になり,新たな仮説が成立すると考えている。これがRCTによる従来の科学的証明の基礎的な考え方である。一方,Thomas Bayes(1702-1761)は,真理を導き出すために,より実用主義的なアプローチを研究した。彼は,ある物事が真実だということは,連続的な観察から徐々に作られていくとし,はじめて黒いスワンを見て,全てのスワンが白いという仮説を疑いはじめる。そしてこれとは別の黒いスワン50羽の観察によって,黒いスワンも存在するという確信を得ることで,多くの事実は真理でも誤りでもなく,単に確実性であり,ゆえにほとんどの治療についてもこれが当てはまると考えている(Stolper,
Rutten, Lugten, & Barthel, 2004)。
既に昭和初期には,“現代医学の治療は‘病名’(病因学的分類)に従って横断的に,合理的な処置を加えようとする。したがって,体質とか,反応の個体差とかいう微妙な点には立ち入らない。又立ち入ることは困難である。ところが,ホメオパシーも,漢方も患者の訴えを中心にして指示を決める。科学的に治療することを終始念頭においているはずのアカデミイ医学の臨床家の‘患者の愁訴’を取り扱う態度を傍観して見給え。…足が冷えるの,頭が痒いの,口が苦いのなぞ‘無意味な’訴をダラダラ述べる患者は,理性的でない,医者の聞きたいことだけを筋立って言えない…扱いをされる事請け合いである。所が生きている人間にとつては,それがある機能変調の表現である。こんなものが一々どんな意味があるのか判らないというだけの理由で,之を無視することが科学的な態度であろうか。”(間中,1954,pp.13-14)と述べられていた。
これらの考え方からも,ひとつの診断名のみから一律で限定されたホメオパシー・レメディを選択することで,ホメオパシーの妥当性を研究していくには限界がある。先行文献において,特に薬物療法との比較研究においては,ホメオパシーが薬物療法の手法と同様に扱われており,それは病名から数種類のホメオパシー・レメディを適用して,その結果を得るという研究方法である。しかしながら,従来の伝統的医療とホメオパシーは,その理論や手法が全く異なっているため,ホメオパシーを単に従来の伝統的医療のように用いて,従来の科学的手法に従い研究しているのでは,結果の精度は低くならざるを得ないといえよう。
プラシーボ プラシーボとは,効果のない薬のことを指し,実験の対象,あるいは患者の心理的効果を期待して投与されるものである。科学的に解明されていないホメオパシーをプラシーボであると述べる研究結果は過去にもあったが,最近,Shang et al. (2005)のメタ分析による研究が科学雑誌Lancetで発表され,同号でその編集からもホメオパシーの終焉(The end of homeopathy)と主張がなされた(The Lancet editorial, 2005)。それに対してロンドン・ホメオパシー病院Director of ResearchのFisher(2006)をはじめとした,ホメオパシーを支持する研究者から多くの反論がなされた。
その中でもMedhlirst(2006)によると,Shang et al. (2005)の研究は,(a)何百ものホメオパシーの成功事例を研究者の選別条件に合わないという理由で除外した点,(b)研究者のバックグラウンドがホメオパシー分野ではなくて医学分野からであり,ホメオパシーの理解に限界があるように思われる点,(c)過去に有意差を得られたメタ分析がこの研究で使われていない点,および(d)2群のデータ取得方法が各々異なるやり方で行われており,それを比較することは無意味である点について,あきらかにバイアスが含まれていると反論している。(a)は,まさに先述した津谷(1996)が述べている,逆のパブリケーション・バイアスである。
そして,もしプラシーボであるならば,乳幼児や動物に効く(市川,1999; Albrecht
& Schütte, 1999)という臨床結果について正確に説明しきれない。乳幼児,子供,動物,および植物によるホメオパシー治療は多く行われており(Day, 2005; Hansen, 2005; Levatin, 2004; 由井,2001),実際に臨床効果がみられた報告も先述の通り存在する。このようにホメオパシーがプラシーボで有効ではないと確証を得るには,今後さらなる十分な検討が必要である。
被験者集めの限界 薬物療法の統制群を用いた研究では,被験者集めの限界により,妥当性研究が阻まれているということがあきらかになった。Katz, Fisher, Katz, Davidson,
& Feder(2005)の研究では,代替医療やホメオパシーを用いた治療を望む被験者の多くは,自然療法を好んでいるため,薬物実験に抵抗を示すことが多く,うつ病治療におけるホメオパシーとフルオキセチン(プロザック)の対比実験をした際に,はじめは230人参加者がいたが,アセスメントして実際に治験できる者が11人になってしまった。この研究に見るように,その被験者集めに際しては苦労している。
先述したPilkington et al. (2005)の研究でも,患者の満足度が高レベルであるという肯定的結果が得られたが,統制群の不足という欠点があり,また,好転反応が見られたことについても報告している。これらの好転反応は一過性なものであるが,Katz et al. (2005)の研究では,症状の悪化は患者の治療からの離脱原因となったことを報告している。被験者の薬物に対する抵抗や好転反応に対する不理解によって,このように大規模な母集団のための被験者採用,および統制群不足の問題についてあきらかになった。これらの限界はEBMにおけるホメオパシーの妥当性検討を妨げており,今後の課題である。
人々のニーズと経済コスト面 これまでの検討から,多くの人々は,従来の伝統的医療における心と身体を分離し,対象部分のみに対し処方するという視点から,本来の心と身体を包括した,個人の状態を正確に観察し個別化することで,各自に合わせたカスタムメイドの治療を求めており,そして,多くの事実および事例報告からも,心理治療に対してホメオパシーを利用していることがあきらかになった。また,ホメオパシーは予防医学でもあり,ホメオパシーによって根本から治癒することで,自己免疫力が高まるため,心身両面で病気にかかりにくくなり,たとえ病気にかかったとしても,薬に頼る総体量が減少する可能性が高い。このことは健康保険制度の利用頻度が減るということで,先述したMorrison et al. (2005)の研究であきらかになった医療費の高額化という経済コスト面からも,各国で毎年その増加に頭を痛めている健康保険制度利用増加という社会問題に対し,貢献できる可能性がある。ホメオパシーによって,安価で副作用のない安全性,および過剰な医療利用の減少による医療保険の負担減少等も期待できる。
同種の法則と臨床心理 ホメオパシー理論を臨床心理にあてはめてみると,摂食障害(水田・植月・木下・渡辺,2005)やアルコール依存症におけるアルコホリック・アノニマス(Alcoholic Anonymous; AA)等の同じ病状を持つ人々の集まる自助グループ等集団療法は,まさに同種の概念である。斎藤(1986)によれば,集団療法への参加は,同じ病状を持つ者が集まって語り,また,同じ病状を持つ,あるいは持っていた者からの話を聞き続けることにより,聞く耳ができてきて,他者の体験を自分の体験と重ね合わせ聞き取れるようになり,自分には普段見えない自分,考えたくない自分が,他人の姿を借りてはっきり見えてくるようになると説明している。これらは,似たような人々の中で自らによって回復に導くというもので,ホメオパシー理論から見た時に,自己治癒に導く過程はまさに同種の法則といえる。もうひとつ例を挙げると,音楽療法において,気分に合わせた音楽を聞かせることで患者の気持ちが代弁され,患者治癒への最大の治療効果が得られるというアルトシューラーの理論である同質の原理(村井,2004)も同様である。
好転反応と臨床心理 ここで,好転反応を臨床心理においてあてはめてみたい。心理治癒過程で,患者自身が問題を見ないように防衛機能を働かせているため,表出していた最表層にある症状が,治療過程で取り除かれてくると,次の層が表出し,原因となる根本的な問題に直面化することにより,見た目には悪化と見える症状を有する場合がある。たとえば,斎藤(2005)は,怒りの表出の中にこそ治療の成功への萌芽が見られると述べており,治療が進むにつれて本来の感情であった怒りが面接内で表出している様子を事例で示している。さらに,岩田(2003)によれば,森田療法では,絶対臥褥という,はじめの1週間,洗面と食事以外は布団の中でただ寝ている状況を作ることで,自分の症状(煩悶)に耐えるという経験から治療する方法があるが,最初は自身の感情に直面することで,襲ってくる不安,恐怖,および様々な感情をどうにかして振り払おうと,意識の中で格闘(はからい)し,恐怖や不安が最高潮に達することがある。やがて,そのはからいも尽き,どうしようもなくなる時がくるが,これも治療の過程の一環であり,この段階を通して,森田療法の中心的な概念である,あるがままと純な心を感じられ,思想の矛盾,はからいもなくなり,苦痛が消滅するということからも,ホメオパシーとの共通性が見られる。これはホメオパシーに当てはめた時,Vieira(2004)が精神レベルにおける治癒の法則(b)で述べているように,防衛機能の繰り返しから離れ,より深い感情を見つめられるようになるということとまさに同様であり,このように心理治療でみられる治療過程とホメオパシーの治癒過程は,非常に似ている。
由井(2002b)は,ホメオパシーの根本原理とは,自然に戻り自然に帰ることであるが,現代の多種多様な世の中では何が自然で何が不自然かわからなくなっていると述べている。そして,その状態の中でホメオパシーと共にそれまで見ないふりをしていた自己と対面することは非常に困難であるものの,ホメオパシーにより心の蓋が開かれ,幾層にもなっている心的外傷等の抑圧されたものを,1枚毎に剥がして見つめていくことは,とても大切なことで,それにより本来の自然な自己へ戻り,病気にもかかりにくくなっていくと強調している。Freud(1937 馬場訳 1970)は,抑圧されたものが患者に意識化され症状が消え去った時に,理解し得なかったものが解明され,内的抵抗が除去された時,心理療法の終結だと述べたが,一方で,それを終わりなき無限の課題とし,症状の消失を節目と見なしているものの,心の成長には終結がないことを示唆したことからも,由井(2002b)の述べたことと重なるといえる。
また,中村(2005)は,消費社会と対人恐怖症として,不安障害に対するSSRIを中心とした薬物療法の普及により,患者に対して治療の門戸が広がったという点では意義があるが,今日流布されている社会不安障害の概念には,対人状況における不安や恐れはあってはならない症状で,薬物等の人為的手段によって排除されなければならないという暗黙の前提が存在することを,問題に挙げている。そして心の領域にも消費社会化は着々と進行しており,病気と治療に関する見方を一変させる影響力を及ぼしたと述べている。さらに,排除されなければならないという疾病感,治療感においては,患者の不安は医師の投薬対象となるか,米国のように自ら薬局に行って薬物を購入するよりほかがないが,本当に他者との関わりにおける不安は,除去されなくてはならないのか,またそうすれば,ことは済むのかというところに問題はあると考える。これにより,患者自身は標的症状を抱える客体の位置に疎外されてしまう。そのため,対人不安を生きた主体の経験としてとらえなおし,その克服の道筋を,患者の自己回復過程としてイメージしなおすことが重要である。不安の制御に力を注ぐ代わりに,患者が自ら主体として経験を広げ固有の人生を切り開き,自己発展の欲望を建設的な行為を通し生かしていくための援助をするような治療的アプローチに,解決方向があると述べている(中村,2005)。ホメオパシーの考え方で,病は本人に対するメッセージであるから,目を背けずに患いきる必要がある(巻口,2002)ということと同じことである。
ただし,Ullman
& Ullman(2002)は,重度の精神疾患により薬物療法を用いている患者には,ホメオパシーをはじめる前にいきなり薬物をやめないように推奨している。これは,薬物療法を用いたほとんどの精神保健に従事する専門家は,自然療法についてあまりよく知らないので,患者が必要な治療を得ることから患者を遠ざけていると考えるためであり,また,危機管理のためにも精神科や病院とつながっていることを提案している。そしてホメオパスは,このような患者の一時的な悪化が何ヶ月あるいは何年もかけて,なるべく穏やかに行われるように治癒する方法を模索すると述べている。
ホメオパシー相談と心理面接 相談形態は,臨床心理の面接と非常に似ていて,かつ非なるものである。ホメオパシー相談はホメオパシー・レメディを見つけるのが目的なので,時間枠以内でホメオパシー・レメディが見つかった場合は,早い時間に終了となる場合もあるし,あるいは,1回の相談に4週間から6週間分のホメオパシー・レメディが処方されることが多いため,次回フォローアップ予約が必要な場合は4週間以降であるという点は,あらかじめ毎週決められた時間枠組を設定することで構造化を大切にする臨床心理面接とはやや趣が異なる。
ホメオパシーと心理治療 ここで改めて,ホメオパシーにおける心理治療の位置づけについて全体的に検討してみる。まず先述のように大抵の代替医療においては,心と身体はひとつのものとしてとらえており,何かしらの問題を持つ者を治療する場合,従来の伝統的医療のように,心と身体の両者を切り離すことはない。はじめは,心身両面のいずれか一方からアプローチしたとしても,たとえば初来訪時の患者が主訴とした身体の問題についてアプローチしていった場合,従来の伝統的医療では関連付けがなされなかった心の問題についても,治癒が見られることが多い。この点は,ホメオパシーを心理学的な心身症の枠組みで再解釈をしてみると,従来の伝統的医療との架け橋になる可能性が高い。臨床心理の現場においても,心の方からアプローチすることで,心に起因する身体的な病気が消失した等,様々な場面で確認されていることである。またホメオパシーでは,人間全体に対して考えていくため,対象部分のみ対処をする考え方である従来の伝統的医療とは,その概念体系が大きく異なり,患者そのものを全体的に考える臨床心理の治癒過程と,非常に近いといえる。
津谷(1996)は,ホメオパシーはKant(1724-1804)に思想源流を持つドイツ生気論,ロマン主義医学の流れを汲むものであると述べ,ほかにMesmer(1734-1815)によるメスメリズムも同じ流れであると述べている。ホメオパシーが臨床心理の源流であるMesmerとその源流を同じところにしているということは,臨床心理とホメオパシーの親和性を考える際に,その調和が高い可能性が大いにあると考えられる。Chertok & Saussure(1973 長井訳 1987)は,メスメリズムの根本的思想は,幻想と同様にアクティング・アウトが,症状の起源となった情動を排出させることのできるカタルシス的な価値を有していると述べている。まさにこの排出させるという点もホメオパシー理論にある根本的なものである。
最後に,Lemoine(1996 小野・山田訳 2005)は,かつて医学は魔術,心理学,および身体の治療からなる三本柱に頼ることが公に認められていたが,時と共に,実証主義の勝利から生まれた物質還元主義に席を譲りながら,魔術の全てが,そして心理学もそのほぼ全てが姿を消していき,心理学は精神分析,ついでは行動心理学の窓を通じて蘇ったと述べていることからも,これら人間の全体像を見ていくホメオパシーは,臨床心理における様々な問題の治癒について大きな可能性を持っている。子供のように薬物を使うことができない事例,薬物療法で効果がみられない,あるいは効果が低い難治性事例等に関して,患者の治癒への進展や効果を期待することができ,これまでの考察でも,臨床心理での適用について,かなり可能性があることが示唆されてきた。既存の概念とは異なるやり方で患者を全体的に見るということから,難治性の病気に対するアプローチとして有効である可能性が非常に高い。
提案と今後の課題
この章では,将来的に期待される研究法,多文化的な検討,および日本における臨床心理でのホメオパシー適用について提案し,今後の課題について述べる。
新尺度の作成 単に対象部分のみが改善されたかどうかの研究ではなく,より患者を全体的に見た際の,治癒および生活の質(QOL)における向上度から見た尺度作り等,ホメオパシーの効果を正確に測るための新しい尺度の作成を検討していく必要があることがわかった。しかしこれまで述べてきたように,多くの人々が挑戦しているものの,科学的証明を明白にさせた研究法が存在しておらず,非常に難しいテーマでもある。Scholten(2004b)は,ホメオパシーの科学的証明の必要性は緊急で,科学では一般法則化できることが必須であり,科学とは,どのような状況下においても一般法則化された普遍的特性を持つ原理を研究することであると述べている。彼は元素周期表にある元素からなるホメオパシー・レメディの一般法則化を,世界中ではじめて成功しており(Scholten, 2004a),そしてホメオパシーにおける法則化とは,ホメオパシーで用いられる植物,動物,鉱物等を科,群,族等で分類することで法則化し,この研究が進むと,科学的な証明へ近づけるかもしれないと述べている。このような分類方法の発展によって,ホメオパシー・レメディが正確に理解され,それにより的確に選択でき,結果が正しく反映された妥当性研究の進展が期待される。また,WHO QOL(World Health Organisation
Quality of Life Assessment)(田崎・中根, 1997),あるいはGHQ(The General Health Questionnaire)心理検査(中川・大坊, 1985)等が,生活の質を図る尺度として存在するので,たとえばこれらと組み合わせて,ホメオパシー独自の質問項目で開発された心理検査によるホメオパシー妥当性研究が期待される。
既存の心理検査での応用研究 現在,心理検査は30以上あるとされ,これらのテスト・バッテリーにより得られた患者像は,ホメオパシー・レメディの選択に役立つであろうし,適切なホメオパシー・レメディの選択は患者を治癒に導くため,既存の心理検査とホメオパシーの関係性についての研究について,より発展されることが望ましい。貝谷・山中・村岡(2000)は,患者の中には,身体症状を訴えるが,実は精神的な問題が主題であることがかなり多く,その代表的なものが仮面うつや不安障害であり,身体表現性障害のような葛藤やほかのストレス因子が存在し,心理的要因が関連していると判断される場合も少なからず認められると報告している。さらに,患者は一般に心の問題を自ら語ることを好まず,それとなく水を向け,心理社会的問題に関与していくことが必要であると述べている。
そして以下に挙げるような,不安障害や感情障害が存在する可能性をチェックするための自己記入式の精神状態の評価法として,東大式エゴグラム(末松・野村, 1998),CMI健康調査表(Cornell
Medical Index health questionnaire)(金久・深町, 1983),およびSDS(Self-rating Depression Scale)(福田・小林, 1983)を第一段階のアセスメントとして紹介している。これらのテストで問題があることが判明したならば,さらに詳しい検査をする必要があり,たとえば,パニック障害であれば,Sheehan不安尺度(Sheehan, 1983),強迫性障害であればYボックス(The
Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale)(Goodman, Price, Rasmussen, Mazure, Fleischmann, Hill, Heninger, & Charney, 1989),社会恐怖であればLiebowitz不安尺度(Liebowitz,
1987),摂食障害であればEAT(Eating Attitude Test)(Garner
& Garfinkel, 1979),あるいはEDI(Eating Disorder Inventory)(Garner,
Olmstead, & Polivy, 1983),また,うつ病に関しては,Hamiltonうつ病尺度(Hamilton, 1960),あるいはBeckうつ病評価表(Beck,
Ward, Mendelson, & Erbaugh, 1961)を用いることを推奨している(貝谷他, 2000)。ホメオパシーでは患者の性格パターンについて重要に考えているので,様々な性格検査との研究も発展が望ましく,これら既存の心理検査をテスト・バッテリーで用いることで,患者の全体像をより理解できるし,ホメオパシーとの親和性についてさらに研究することで,妥当性評価に対して,より正確な研究結果が得られることが期待される。
多文化的な検討 ホメオパシーは海外ではかなり認知されているので,より誤解が少ないであろうが,従来の伝統的療法の考え方とは異なるため,日本では代替医療やホメオパシーに対する患者の持つ認知度の低さにより,患者とホメオパス間において,治療に関する誤解が生じる可能性があり,患者教育面でも考慮する必要がある。書物等のみからの情報では限界があるので,正しい一般教育プログラムの充実が,ホメオパシーの理解と知名度も上げ,さらなる一般化が進むだろう。これらは,欧米における精神保健に対する正しい知識や心理面接に関する認知度に比べ,日本人の意識や認知度の低さ,および世間体を気にすること等が現在も多分に存在することとも同様である。
海外では国レベルで代替医療の関連機関が存在し,多くの市民の目に止まる主流な新聞や雑誌等で,従来の伝統的医療および代替医療の両者について,利点および限界の両面から多岐にわたって語られている。先述したNCCAMも米国の国立研究機関で,2006年度予算は,約1億2千万ドル(約140億円)であり(NCCAM,
2006),従って市民の得られる情報量が多いため,人々は自らで選択することができる。反対に日本では,従来の伝統的医療に関する情報が主流で,別体系の医学および精神保健に対する心理面接も含めた代替医療への認識が偏っている面も否めない。しかしながら各時代に流行があるように,現代の日本でも自然療法であるホメオパシーへの関心が非常に高くなっており,これら自然に戻ろうとする流れの中で,今後,海外へ追随する形で,日本においても一層の討議がなされることが予想される。
日本に焦点を当てる際,古来の日本においては,心身一体の概念を持ち,和法のような緩和的な療法が存在していたことから一見,日本人はホメオパシーを受け入れ易いと考えられがちである。しかしながら,このことが現代の日本人が心と身体のつながりを正確に結びつけており,ホメオパシーを受け入れ易いとは一概にいえない。
海外と日本における人間関係の文化差について検討する場合,日本は競争社会にもかかわらず,日本人は人間関係において和の精神というように,一般にあからさまな競争および衝突を避ける。そして集団行動を好み,一致団結した達成感を得られるものの,それに伴う著しい緊張があるといえる。日本人は個人と集団の狭間で絶えず衝突しており,その場合にも,一致団結を大事にする傾向がある。そしてこのような人間関係の緊張に我慢できなくなった者は,心身症となる場合が十分あり得る。また,現代の日本人は,たとえば自己中心的というような精神的概念を否定する傾向が見られ,自己中心的なことは,現代の社会問題に対して責任を問われる。たとえば,自己中心的な母親の行動は,子供の心身発達に悪影響を及ぼすため,世間的に好ましくないと考えられている(Wikipedia, 2006b)。
日本における文化的背景と自己中心的な母親の好例として,矢野(2006)は,職場環境での育児休暇取得に対する風当たりに対して,育児休業期間(育休)から育児専業期間(育専)と呼称変更を提案している。実際の育児は休業といった言葉から連想される,甘く緊張のない日々からは程遠いにも関わらず,今の呼称では育児休業取得が,あたかも身勝手で非常識な行動であるかのように思う風潮を助長していると述べていることからも,日本の世間体を気にして,個人的事情で休暇を取るということは自己中心的であると思われがちな文化について,うかがい知ることができる。
こうした背景を持つ日本で,多忙な現代生活や緊張感を伴い世間体を気にする文化において,感情を抑圧し,心と身体の関連性を切り離しているからこそ,心の症状として出し切れないものが身体症状として表出しているという側面があるだろう。ホメオパシーが日本に入ってこなかった理由のひとつに,過去の日本には既に緩和的な療法が主流だったということからも,一昔前の日本人の方が現代の私たちより,一層の心と身体の繋がり,自然への帰依を心と身体で,より深く理解していたと推測される。また過去の日本の事情から,日本では後から発展してきた近代西洋医学の方が,日本人の目には新鮮だった可能性があり,その結果,現代では主流となった向きもある。伊沢(2005)によれば,西洋医学が日本に入ってきた際に明治初期の医政者が,我が国には気休めの生薬しかないと発言しているとのことからも,このことが推測される。服部(1997b)も,当時の日本が抱えていた医療,および保健上の問題を解決する上では,西洋医学は即効性があり,確実だったと推測している。
また,日本人のメンタリティと関連して,欧米の人々が自分の感情等についての言語化を比較的得意とするのとは対照的に,日本人は自分のことを適切に言語化することが苦手である傾向がある。これは,患者の表した言語を元にホメオパシー・レメディを選択する際に不利であり,諸外国との文化差があるといえる。それからホメオパシーの辞書ともいえるマテリア・メディカとレパートリーは,200年以上前に使用されていた古い言語で書かれているものが多く含まれ,通常は現代的な表現にホメオパスが置き換えてホメオパシー・レメディ選択をしている。これに加えて,日本語としての翻訳が日本人ホメオパスには必要となり,感情等を正確に表現することに慣れていない日本人のニュアンスを理解しつつ,辞書上では,多重の翻訳作業を通したことによる微妙なニュアンスの欠損が生じており,それらと合致させるために不利な文化差があるといえ,日本特有の配慮が必要となってくる。
そして,ホメオパシー臨床では,都会に住む者よりも自然の中で生活をしている者の方に,効果がわかりやすく出るといわれている。澄んだ空気や綺麗な水のある中で生活をしている人々と,都会に住む人々を比べれば,あきらかに心身面に対する長年の影響は異なるであろうことは容易に推測できるし,ホメオパシーの効果は,より自然な環境で生活している者の方が,より少ない過程で,最大の効果が得られるともいわれている。あるいは,子供は成人よりも複雑化していない分,比較して効果が明確に示されやすいことが経験上知られている。これらのことはホメオパシーの妥当性について研究する際にも影響があるであろうし,このため被験者選びには,文化差や年齢等を考慮した研究も,今後必要になってくるであろう。しかしながら,子供を対象とした研究をする場合には,倫理面で,大人よりも一層の配慮が必要であり,妥当性研究を進める上での大きな壁があるともいえる。
また,ホメオパシー・レメディ選択肢のひとつに飲食物の嗜好があるが,これは国によって大きく違い,その飲食物に依存的か,あるいはあまり摂取しないのかが文化的に分かれ,一様な判断基準がないといえる(Scholten, 2004b)。もちろん日本特有の飲食物は,マテリア・メディカやレパートリーに現在組み込まれてはいないが,嗜好はホメオパシー・レメディ選択肢のするひとつであるから,今後は,ホメオパシーにおける日本人の嗜好も含めた傾向についての研究が必要となるであろう。飲食物以外でも,ホメオパシー・レメディ選択肢のひとつとして挙げていることが,国が違うことで,その国の常識となり,ホメオパスと患者間で,大きく取り上げられない場合が存在する可能性があり,このことはホメオパシー・レメディ選択,およびその効果にも影響を及ぼす可能性がある。
ホメオパシー・レメディにおける文化差に関連して,ロイヤル・アカデミー・オブ・ホメオパシーでは,日本在来の,スズメバチ,沖縄ハブ,ムカデ,フグのプルービングを行い,ECCHのマテリア・メディカに付け加えてもらうよう要請している(由井,2002b)。このように,日本特有の動物,植物等についてプルービング実験をすることで,日本人に対して風土に合った,有益で新たなホメオパシー・レメディが見つかる可能性が高い。
最後に,ホメオパシーにおけるジェンダーについてはMorrell(1998)の報告にあるように,ホメオパシー業界にも,社会全般的なジェンダー・バイアスが反映されていることは非常に興味深い。本論文では多く語らないが,女性の心身に対する気づきと関心が,代替医療への関心につながり,根本的な治癒に関する気づきを得ていることが推測される。女性学的視点で検討した時,社会的制約による女性の人生設計が一因となり,こうした結果が得られたとはいえ,一方で,女性ホメオパス数が優勢である背景には,女性性の持つ利点,つまり本来は,男女両者の中にある慈愛,慈悲,柔軟性,優しさ,および受容といった要素である女性性が患者の治癒に対する支援となることに,多くの人々が気づきを得てきたとも考えられる。Morrell(1998)の研究は暫定的で,最新データの更新,およびホメオパスのみならず患者におけるジェンダー調査等について,今後の研究がかなり期待される。
臨床心理での適用 臨床心理での適用を考える際に,先述したように日本人が心の問題を省みない代償として身体で表現しているのであれば,通常,防衛が強くて心理治療の進展に時間がかかることが予想される。ホメオパシー・レメディによって,潜在意識下でスイッチが入り,そこから出てきたものを取り扱っていくことで, Ullman & Ullman(2002)も述べているように,治癒過程が短縮できる。
また,臨床心理での適用に際して,Luc(2005)は,心理臨床家とホメオパスは患者に対するアプローチが非常に近いと考えており,ほとんどの症状や病理は,感情的混乱からはじまっていると述べている。例を挙げると,両親の離婚は十代の子供に与える影響は大きく,見捨てられ傷つき,罪悪感を持つが,これは典型的な摂食障害として表現され,面接時に,その患者の悲嘆や喪失について探る際に,しばしば見られるものであり,心理治療と平行して,喪失に関する,および患者固有の特徴を持つホメオパシー・レメディを与えることで,治療の助けになっていると指摘している。さらに,失恋や摂食障害の患者が,リストカットし煙草の火で自傷行為をするのは,深い根本的で打ちのめされる感情的痛みに対抗するために,自傷行為の痛みのみが安心できるからであり,ホメオパシー・レメディによって,安価にて副作用なしで,穏やかに治癒していると報告している。
先述した事例報告では,Whitmont(1996)のボーダーラインにおける事例で,ホメオパシー治療と心理セラピストとの連携が示されていた(Appendix)。本論文で取り上げたほかの事例報告では,ホメオパシーと心理臨床家の連携は明記されてはいなかったものの,実際に海外では,ホメオパスであり,かつ心理学博士の記述する研究論文や書物は多く見られ(White, 2000),心理臨床家がその治療方法に心理臨床家兼ホメオパスとしての,あるいは両者が連携してお互いの専門性を生かしていることが推測できる。例を挙げると,Kaplan(2006)は,絵画療法を,ホメオパシー・レメディを正確に選択するためのアセスメントとして用いており,その事例紹介で28才の学習障害および自閉症女性に対して,どのようにアセスメントをして,ホメオパシー・レメディを選択したかについて述べ,その結果,治療効果が得られたということを報告している。このように,心理検査とホメオパシーを連動させることによる臨床心理における適用についての可能性が考えられる。
同一人物が実際の臨床で使う際に,心理臨床家とホメオパスの違う点は,ホメオパスは,その個人にあったホメオパシー・レメディを選び出すためのいわゆる技術者であり,臨床心理学的な心理治療を目的とした心理面接をするわけではない。専門家として提供するサービスの質が安定するためにも,ホメオパスとしての正式な専門訓練および認定が必要であると考える。
一方で,もちろんホメオパスも含めた専門家全般と患者との関係には,人間と人間の関係性が発生し,臨床心理学的な効果を無にすることは逆に不可能であるということは,ホメオパスも心理学的な訓練が必要となる。先述したWhite(2000)が,ホメオパシーの訓練を受けた心理臨床家はベスト・ホメオパスであると述べているように,ホメオパシー相談でも傾聴,共感,および相手を裁かない等,色々な臨床心理技法が暗に用いられており,このような面接技術がなければ,逆にその専門性を生かすことはできないからである。
考慮すべき点は,ホメオパスの認定について,残念ながら現在の日本では,国家資格や統一認定基準等は存在していない。臨床心理において乱立している心理臨床家資格と同様で,ホメオパスの地位向上のためにも,患者が安心してその専門性を選択する上でも,海外事情を参考にしながら,今後ある程度の指針作りが必要かと思われる。現時点での日本では,自分で名乗りを上げれば,極論でいえば,自称ホメオパスとしての活動が可能であるが,書物を読みかじっただけで患者に対し専門的に使用するのは倫理上非常に問題があり,専門家としての倫理感が問われてくる。技術的なこともさることながら,実際,ホメオパシー治療が行われた帝政時代のドイツでも,一部のホメオパスから法外な治療費を請求されるのではないかと市民が案じていた様子が報告されている(服部,2005)。そのため,英国ではプリンスチャールズ財団が,ホメオパシー相談における適性価格についての指針を示していて,ホメオパスおよび地域にもよるが相談料は,初診は時間がかかるため,35ポンドから95ポンド(約7 000円から19 000円),再診で,20ポンドから60ポンド(約4 000円から12 000円)に通常ホメオパシー・レメディ代が含まれると述べている(Pinder et al., 2005)。医療保険が使えて,ホメオパシーに理解の深い英国と日本では事情が異なるとはいうものの,このように臨床上の様々な倫理規定が必要となることも忘れてはならない。
ホメオパシーを専門的に実践しようと思えば,専門訓練が必ず必要であることは述べたが,逆に正式にホメオパシーを学んだものも,心理学や解剖生理学等の人間を全体的に見ていく視点を持つための訓練が必須だといえる(服部,2005)。先述のように通常,ホメオパシー認定校では面接技法訓練も受け,実習制度も必修であり,面接技術向上のため心理学的な角度から基礎訓練を受けている。面接とホメオパシー両方の技術について自分の専門性に,さらに磨きをかける必要がある。
また,心理臨床家とホメオパスが両者を兼ねなくても,お互いに協力し合い連携をすることで,たとえば心理アセスメントの結果をホメオパスにフィードバックすると,患者像がより明確化し,ホメオパシー・レメディ選択に有効であろうし,先述のように,ホメオパシーを利用することで,治癒に導く時間を短縮し,深い洞察が得られた結果,心理面接をさらに有効に利用できるという利点がある。Ullman & Ullman(2002)が報告しているように,実際には海外の多くの患者が心理治療とホメオパシーの併用をしているにも関わらず,本論文ではその良い事例を多く提示することができなかった。今後のさらなる報告と調査が期待される。
併用計画を挙げるとすれば,ホメオパシー相談は通常,期間が1ヶ月から3ヶ月間隔であることが多いので,たとえば,その間に自身で内省するのにはまだ力がない患者や,防衛の蓋が取れ,その中にあった否定的感情が表出してきたものの,自分で抱えきれない場合に備えて,これらをホメオパシーで対処しつつも同時に,安全な場にて傾聴し,共感してくれる心理臨床家を相手とした心理面接の枠で,定期的に語り,未了の過去について臨床心理学的視点でワークをすることで,患者は安心して排出する場を持ち,不安を軽減し,面接が患者自らを治癒していくことの大きな援助となる。さらに心理臨床家が話を十分に聴く中で,患者像がより明確になり,患者の持つ癖やパターン等をホメオパスにフィードバックすることで,患者のための正確なホメオパシー・レメディ選択がなされるだろう。心理臨床家とホメオパスが連携することにより,患者の治癒促進にかなり期待できる。また,従来の伝統的医療とホメオパシーは対立するものではなく,両者の持っている技術と特徴を最大限に生かして,最大で唯一の目的である患者の治癒に向けて,より良い臨床を目指していけるよう期待したい。
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APPENDIX
イタリック体はホメオパシー・レメディであり,事例報告は年代順で並べている。
Perez
& Tomsko(1994)の事例報告
1840年代の事例では,全く無関心で数週間の間に1箇所をじっと見つめ続け,作業を促しても何もせず返答もしない患者が,Anacardium (アナカーディアム; マーキングナッツ)の3回投与によって,2週間後にはホメオパシーで治癒した。また,別の患者は,2ヵ月毎の周期で無活動状態と交互に焦燥感,不眠および頻脈の症状があったが,焦燥感のはじまりにStramonium (ストロモニューム; チョウセンアサガオ)で回復し,数週間以内に克服して,その後,抑うつ段階を全く経験せず,さらなる投与で完治した。次に別の26歳音楽家の事例で,本来は快活であったが,兄弟の死後に幻覚症状が出て,Stramoniumの投与30分後に激しく逆上し,それが数時間続いた後,この患者は眠り,その後完治した。それから,1879年に,Homeopathic
Medical Society of New Yorkで年2回行われる会議において,希死念慮がある患者の自殺防止治療におけるArsenicum (アーセニカム; 砒素)の利点についての白熱した討議が行われたとのことで,その場でButlerは,自殺患者の自己破滅的な憤怒を制御するために使用することを推奨し,Footeは,Arsenicumで認知されている自殺傾向における死に対する恐怖に有効とされる事実は誤りであると反対意見を主張したと報告している。
1904年では,当時,一般的だったホメオパシー学術誌での事例で,監禁されていた20代女性が,ホメオパシーとは別の療法を受けた2週間の間に,過度の興奮,多弁,および混乱状態にあったが,ホメオパシー治療を行ったところ,彼女は夜になると光に対する欲求と誰か側にいてもらいたいという欲求があることがわかり,同じ症状像を持つStramoniumにて治癒した。そしてこれと関連した事件に関する別の事例で,2年後の1906年に,角に立ちむなしいと泣く状態の別の女性は,Natrum muriaticum (ネイトラム・ミュリアティカム; 岩塩)によって治癒したが,1年後に彼女は再び戻ってくることになり,この時点では彼女はSepia (シーピア; イカ墨)を受け取った。その時はそれで彼女の症状は完治したと思われたが,再々度戻ってきてしまった。もう一度詳しく話を聞くと,悪化は午前3時にはじまるということがわかり,最終的に,同じ項目を持つKali phosphoricum (ケーライ・フォスフォリカム;
燐酸カリウム)を投与し完治した。大変興味深いことに,同じ学術誌の次号では別の著者が,このKali phosphoricumは,うつ病のような慢性的な疾患に対しては,根本的には作用しないという性質が指摘され,それとは異なるホメオパシー・レメディであるKali carbonicum (ケーライ・カーボニカム; 炭酸カルシウム)を推奨していたとのことで,精神疾患に対するホメオパシー治療について盛んな議論が展開されていた当時の様子が推測される。
Scholten(1993)の事例報告
多くの事例を報告している中で,35歳女性保育園園長の広場恐怖に関する事例で,極度の緊張感が2年前からあり,あまり評判のよくない附属小学校校長が男性という理由だけで,その地位を獲得していることを見て,自分の真価を全く認められていないと感じていた。Natrum carbonicum (ネイトラタム・カーボニカム; 炭酸ナトリウム)で彼女の持つ症状に対し治癒効果があった。また,55歳女性の不眠に関する事例では,午前3時に目が覚め,その後眠れないというもので,6人目の子供を出産後にはじまった。長男との問題が起こった後に悪化し,長男は彼女と夫へ連絡を取らなくなったというもので,Kali muriaticum (ケーライ・ミュリアティカム; 塩化カリウム)を投与後,2週間は変化がなかったが,その後,好転しはじめ,3ヵ月後に不眠は自己採点で以前より8割良くなった。前よりも気分が楽になり楽しく感じられ,すぐに問題にとらわれなくなった。最後に,14歳少年の学校において集中力に問題がある事例の場合,Ammonium carbonicum (アンモニューム・カーボニカム;
炭酸アンモニウム)で2週間悪化した。この間,家の雰囲気は最悪で,彼は絶えず継父に喧嘩をしかけており,同様に学校の先生とも喧嘩をした。それ以降,全ての症状が以前よりも良くなって勉学を楽しめるようになり,集中力も増した。家の状況は以前より良くなり,爪噛みも治まった。
Whitmont(1996)の事例報告
ボーダーラインにおける2つの事例を紹介している。そのうちのひとつに,25歳女性うつ病で,見当識障害,焦燥感,架空の敵への激怒,錯覚概念,強迫,および観念奔逸(身体部分が彼女と話をしたい,あるいは彼女の邪魔をしようとする)症状がみられた。敵から逃げるためには,活動を回避することが安全だと思っており,現実感のなさ,空虚,倦怠,衰弱,および離人感もあり,気づかずに暴力行為をしていることもあった。他者から避けられており,手洗い強迫にも関わらず,見た目は汚らしかった。幼少期は学習障害だと診断され,特殊学級に在籍し,プロ作家である父親に宿題を手伝ってもらっていたため,自分自身の才能を学べなかったと述べている。他者から軽視されていると感じており,自己主張し他者と関わることは無駄だと思っていた。治療3年後に,理解者が誰もなく,どうせ努力をしても無駄なのだということを,自分が自分自身に説得していたと理解できるようになった。父親の援助は逆に,父親の力や賢さを子供達,特に彼女に証明することとなり,逆に彼女がいかにできないのかということを見せられてしまったし,その証明は父親自身にとって必要なことであった。彼女がこの見識を取り込むにつれて,強迫観念は治癒した。まだ,彼女の抑うつ,無力感,および倦怠感は残っていた。その後,彼女は壊れた車で運転をしており,怪我をするかもしれないと恐怖を感じている夢を見た。別の夢は,ある女性に連絡しようとして,身体または母親がそれを許さないという夢であった。これらの夢が話されたことで,Whitmont(1996)は,無力な母親と一緒であった彼女のアイデンティティのみならず,物質主義的なもの(母親,車,身体)からの抵抗が見られたと述べている。そしてこれらの夢は,怒り,敵意,失望,屈辱,無礼な言動,どん底,冷笑的,およびはじまる前から負けている感覚がある等の自己像を反映しており,これらの特徴はPsorinum (ソライナム; 疥癬)像と合致するため,処方したところ劇的な治癒が見られた。
そして現在,彼女は将来への夢を持ち,散歩や美しい風景を楽しみ,姿勢が真っ直ぐになった。着る服や髪型にも意識が向き,気分も向上した。しかし最も重要なことは,否定的な理解が変化したことで,無力感と孤立感はあるものの,それらは単に存在しているだけだと理解し,暴力行為の代わりに,心理セラピストと一緒に面接で表現できるようになった。過去の習慣的な父親コンプレックスから成長し,新たな理解に挑戦し,抵抗を表現するための活動をしはじめた。最終的に彼女は自分の怒りの一部を許し,心理セラピストと一緒に,怒りについて取り上げている。これまでの度重なる逆上,関係を壊す罵倒等から,回復の機会を持ちつつある。自己主張し,落ち着いてきた過程で攻撃的欲求が見られ,それを正しく表現しはじめ,また手順がある仕事もできるようになった。ホメオパシー・レメディの繰り返しで,彼女は興味が出てきて行動し,協調性のある態度や心理学的な自己理解ができるようになり,ホメオパシー・レメディをはじめて投与した数ヵ月後には,彼女は大学に戻ることを決意した。さらに数年間にわたり,彼女の分析を続け,現在では他者との関係性における問題が上手く行くような面に焦点を当て,治療に取り組んでいる。
Grandgeorge(1998)の事例報告
Aconitum napellus (アコナイト・ナペラス; トリカブト)は,頻度が一番高く処方されるホメオパシー・レメディで,突然の恐怖等で処方されるとし,有名なジャーナリストにまつわる話について述べている。そのジャーナリストが幼少時,戦時中に両親を空爆で亡くし,自身も何度も死にそうになった。そして自分は死に囲まれた真ん中にいた小さい子供で,生き残り運が強かったと理解してから,自分自身しか頼れないと感じるようになった。そして死に対する考えが長期間つきまとっており,過去20年間1日たりとも死について忘れられる日がなく,それは通常,午前11時頃に起こってくると述べた。彼はいつも急いでいて,何でも知ったかぶりの人だった。Aconitum napellusは,彼の持つ症状に対し治療効果があったと述べている。
由井(2001)の事例報告
多くの事例を挙げているうちでのホメオパシー適用のひとつで,8歳女児で主訴に幻聴がある。6歳の時に子供部屋において妹と二段ベッドに寝るようになって以来,こうしなさい,ああしなさいという女性の声が時々聞こえて不安で,特に夜,入眠時に多発するようになった。寝付きが悪く朝起きられないこと,乗り物酔いや皮膚疾患を起こしやすいとのことで,Borax (ボーラックス; ホウ砂)により治癒した。
由井(2002b)の事例報告
7歳男児でホメオパシー相談6回目に来訪する。自閉症,および他人との交流を持たない。あちこちと歩きまわり座っていられない。他者の話を理解ができず,数字にこだわり電車や車に興味を示す。やりたい事を止められるとすぐ喧嘩腰で,かんしゃくを起こし,親も手を付けられない。疲れているのに落ち着くことができず,一日中動きまわる。手をぐるぐると糸巻きのようにまわして止まらず,まばたきが多い。以前は単語でしかしゃべらなかったが,今まで摂取したホメオパシー・レメディで,早口に文章をしゃべりはじめているものの,自分の興味,欲求,心配や不安がある時だけ話す。激しい調子の音楽を好む。由井(2002b)によれば,ホメオパシーでは,妊娠中における母親の心の背景をとても大切にしていくため,妊娠時の状況について母親に聞いたところ,以下の通りであった。子供が欲しくなった頃にできた子供なので嬉しかった。6か月目に入り,貧血で鉄分を毎日摂取した。7か月目から貧血は少しずつ良くなったものの,いらいらし怒りっぽくなり,誰にでも怒りが沸き上がり,姑とも喧嘩が絶えなくなった。どうしてと考えても解決策がなかった。10か月目に入るとすぐに破水し,飛び出るように短時間で産まれてきたので安産だったと思うと答えた。由井(2002b)によれば,ホメオパシーでは,飛び出るように出てきたのは,胎児が子宮でストレスを感じ,子宮内にいることができないことが多く,決して安産とはいえないと述べている。これらの症状に合うFerrum metallicum (ファーラム・メタリカム; 鉄),およびMygale lasiodora (ミーゲル・ラシオドラ; キューバ黒クモ)を与えたところ,Ferrum metallicumを摂取しはじめて1週間ほど好転反応があり,母親に甘えてきた。Mygale lasiodora摂取後,いつもは寝る時にぴくぴくとしながら寝ていたのがなくなり,とても熟睡していた。ホメオパシー・レメディが終わってから2週間後の現在,大変穏やかになり,動きがゆったりとし,母親の顔を見ながら話をするようになった。車や列車のおもちゃに執着しなくなっているものの,友達とのコミュニケーションはまだできないという状態になった。
Lansky(2003)の事例報告
NASA科学者であったLansky(2003)自身は当時,Mothering
Magazine誌に載っていた子供の行動問題に関するホメオパシーに関する記事を読み,ホメオパスと連絡を取り自閉症であった自分の子供をホメオパシーで治療した。それから4年後に,彼女の子供は,もはや自閉症ではなくなり,賢くおしゃべりで社会的になった。その後,彼女はNASA科学者からホメオパスに転職した。
Vieira(2004)の事例報告
André Luiz精神病院の患者で様々な精神病理を持つ7名(入院6名,外来1名)でホメオパシーおよび西洋医学治療の併用にて治療した事例報告を述べている。これらの事例は西洋医学治療のみでは治癒が困難な事例で,ホメオパシーとの併用で,迅速な治癒速度と効果が得られたものである。そのうちの3事例について示す。
ケース1(入院2回,合計45日)は,23歳女性。抑うつ,自殺傾向を伴うと診断。誰も自分を好きになってくれないし,関心を向けてくれず不安だと精神薬を14錠服用。無気力,無力感。初回入院でAurum metallicum (オーラム・メタリカム; 金)が処方されたが,満足の得られる結果が見られなかった。2回目入院時にNatrum carbonicumが処方された3日後に,身内に対し,特に母親が関心を払ってくれなくても気にならなくなったと述べた(母親の関心不足は自殺企図の原因であった)。そして彼女は以前よりも多く自分の人生における目標,目的,および理想について話すようになってきた。本人は意識していないが,以前は死に関する話題ばかりしゃべっていたが,現在は将来の夢を語りだした。
ケース2(入院3回,合計70日)は,34歳女性で,度重なる躁状態による発作,性的興奮,およびせん妄により2ヶ月間で3回入院した。適切なホメオパシー・レメディの処方後に,彼女の持つ症状は大幅に治癒した。その後,彼女は2人の子供を離婚した前夫へ,3人目の子供を現在の不仲の夫へ引きわたすことを決意した。ブラジルでは離婚後は母親に養育義務があることになっているため,難しい選択であったが,この選択をすることで,代償機能としての躁状態や発作はなくなるだろうと予想され,自分のやりたい勉学に向けて,新しい人生を進む決心をした。
ケース3(入院1回,合計25日)は,35歳男性でAndré
Luiz精神病院精神科インターン。アルコール依存症,抑うつ,自殺願望がある。仕事のノルマがとても厳しく,人間的ではない職場関係がある。同僚が皆酒を飲むので,彼も飲みはじめた。Anacardiumの投与により,気持ちが前向きになり性的にも治癒した。
Panchal(2004)の事例報告
15歳少年の行動異常に関する事例で,ある日彼がマスターベーションをしている最中に,偶然従姉妹が部屋に入ってきて以来,どろんとしたうつろな目で誰とも話さなくなり,視線をそらすようになった。罪悪感と恥の感情があるようにみられ,Helleborus
niger (ヘラボラス・ニガー; クリスマスローズ)により,少年の行動異常は治癒した。そして,ホメオパシー病院の他の患者と話をし,従姉妹たちとも笑って話せるようになった。入院は3日で,性的罪悪感も軽くなった。
由井(2004)の事例報告
花の赤色およびピンク色が見えず,黒色,白色,あるいは灰色にしか見えないと訴える色覚異常の女性に関する事例で,口数も少なく見るからに憂鬱そうで人生に光がないと述べている。5年前に離婚し,夫が自分の親友と一緒に出て行ったと,そのいい方はまるで他人事の様である。問題は解決したのか訊ねても,子供のためにいつまでも引きずっていられない等,建前的な返事が返ってくるだけで,心の整理ができていない様子である。夫が家出をしたのが5年前ということも考慮に入れ,長期間にわたる深い悲観,悲しみのホメオパシー・レメディであるNatrum muriaticumを処方する。次の来訪時に,今まで泣いたことはほとんどなかったのに,前回から,タンポポの花を見ても何を見ても涙が噴出して止まらなくなっていることと,少しずつ色を取り戻し,最初に茶色が見えてきたと報告し,あきらかに良い方向へ向かっていく。さらに引き続きNatrum muriaticumを処方したところ,ますます色が見えてきて,色がとても美しく世界が綺麗だったと驚き,雰囲気も見るからに変わって,それまでは遠慮深い女性だったが,人生に希望を持ちはじめた様子である。ほとんど色が戻ってきた頃に,彼女は一生分泣いた気分で,泣きっぱなしで涙が次々と出たと報告した。さらに,あの夫が好きだったことが良くわかったといい,いまさら何をいってもしょうがないので,新しい恋愛をしようかと思うと述べた。以前は化粧をしていても色合いがなかったが,この時は,頬がほんのりとピンク色に染まり綺麗になっていた。その1年後に,子連れで再婚した。
Adalian(2005)の事例報告
自閉症の2つの事例を取り上げて紹介している。1つめは,6歳男児アスペルガー障害,同胞に双子の女児と姉,いずれも健常児。母親と同居,極端なイスラム教徒の父親とは離婚協議の最中で,両親は別居しており,週末になると父親と生活する。がっちりとした体格でスポーツ好き,疑い深く敵対心があり,いつも怒鳴っていて声が嗄れていた。学校で常に攻撃性を持ち反抗し,動きが予期しづらく,そのため友人から拒絶されていた。数学とチェスが非常に得意。母親は妊娠中および産後に甲状腺の薬を飲んでいたため,授乳はしなかった。食欲旺盛で,いつも喉が渇いた状態であり,感情面では,音および犬のほえ声に敏感で,暗闇が恐かった。母親は子供を6時に寝床へ行かせた。そして子供の世話ができない,子供を統制したいという感情を持っていて,そのためか子供は挑戦的で反抗をしていた。Lac humanum (ラック・ヒューマナム; 母乳)で随分と症状が改善され,それに続いて2回目の治療へ来た際にLyssin (リシン; 狂犬病ウィルス)を与えた後,非常に落ち着きを持つようになり,集中力が良くなり,攻撃的なところが少なくなった。学校の先生もこの変化に気づき,今まではゲームに参加させられなかったのが,ホメオパシー・レメディ投与後,一緒にゲームに参加させられると感じるようになった。
2つ目の事例は,11歳男児で,とても小さく,年齢に比べ成長しておらず,6,7歳にしか見えない。母親は治療の少し前に癌で亡くなっている。40代後半の母親が亡くなる直前に話をした際に,夫の育て方に賛成できなかったため,自閉症の子供のことが非常に心配で,その心配が自分の病気につながったと述べていた。同胞に兄と姉がおり,皆が若い母親の死にショックで上手く対応できず,この男児も非常にひきこもった状態であった。ジャケットのフード下に隠れてアイコンタクトを一切持たず,不眠症にかかっており喘息があった。未熟児で生まれ,目が少し悪くて眼鏡をかけていた。消化器系も弱く,食べると直ぐ横になり,便を我慢できず下着をいつも汚していた。また,文章を書く事や綴りも苦手だったため,養護学校へ行く必要があるといわれたが,機械を使うゲームやコンピュータ等は極めて得意だった。感情を隠しており,面と向かって難しい質問をすると逃げていった。Baryta sulphur (バリュータ・ソーファー; 硫酸バリウム)で,未熟な性格,成長が止まっている感じと隠れるという面に対処した。そして1ヵ月後には,よりおしゃべりになって,もう隠れる必要がなくなっていた。2回目に来た時には,風邪を引いていたものの,喘息は見られなくなっていた。ますます睡眠状況も良くなったが,完全な睡眠を取れるようになるところまではたどり着けなかった。しかし,睡眠が前より取れるようになったおかげで,学校での集中力もより高まり,以前よりもほかの子供たちから自分を上手く守れるようになり,便の制御も良くなった。さらに新しい層が上がってきて,また秘密主義になり,色々なことを隠すようになったので,Thuja (スーヤ; ニオイヒバ)を与えたところ,少し太ってきて成長し,自己主張もできるようになった。最後にThymus gland (サイマス・グランド; 胸腺)を与えたところ,感情的成長が普通の状態までたどり着いた。そして,それまで不可能だった亡くなった母親の話をすることができるようになった。
表
Table 1
抑うつ研究のまとめ――抑うつが主診断
研究 |
研究デザイン &サンプル |
対象者基準 |
|
統制群Rx |
|
アウトカム測定 |
結果 |
手順注釈 |
臨床的注釈 |
Heulluy (1985) |
RCT 非二重盲検査 N=60, Tx=30,Ct=30, 設定/募集は 不明 |
現在抑うつで 相談を受けて いる閉経後の 子宮退縮他 |
個別化なし, L.72(構成物質 は明記なし) (20滴4回/日 ×31日間 必要な場合は 量を増やす) |
ジアゼパム (量と頻度は 不明) |
|
HAMD尺度 項目の前後 スコアの比率 |
L.72は全尺度上 でジアゼパムと 同様に効果が あった。 否定的アウトカム: 眠気(1/L.72, 2/ジアゼパム) |
無作為方法, 割当て, 二重盲検査, フォロー/辞退, 介入, 整合性は 不明 |
適切な介入 -あり, 適切な統制群/ プラシーボ -なし/不明, 適切なアウトカム -なし, 診断分類の問題 |
Katz
et
al. (2005) |
RCTパイロット 二重盲検査, 二重ダミーN=11,Tx(H)=4, Ct(F)=4, Ct(P)=3 GP臨床 イーストロンドン, GPホメオパスに よって募集 |
大うつ病エピソード を持ち,重症 ではない, 期間4+週, HAMDスコア17+ |
30種にレメディ を限定, 変更せず, 12週時に 希釈度を調整 ホメオパスが決定 支援ソフトを使用 |
4週間後に プラシーボ効果やHAMDスコアに 変化ない場合,プラシーボで逆の効果が出た場合,フルオキセチン20mg/日を40mg/日へ |
|
主診断:HAMD,CGI 副診断:SF12,QOL, WSDS, PSQI他 副作用チェックリスト |
少数のため 報告はなし |
順守(自己評価 報告)と介入 (不明)以外は 厳しい手順が 計画。 募集に問題(11), フォロー/辞退 (6完了) |
臨床的注釈なし |
Davidson
et
al. (1997) |
UC研究 N=12 (鬱病は3), US病院,UK ホメオパシック病院。 募集状況は 不明 |
社会恐怖, パニック障害, ADHD, 大うつ病, 慢性疲労症候群 |
全精神科アセスメント および インタビューをし 個別化後 処方した。 (7-80週間) |
N/A |
|
CGI Plus self-rated SCL-90 (病院にて),BSPS(医療 機関にて), 間隔変数 |
58%(7)は50%減 (CGI尺度), 50%(6)は50%減 (SCL-90または BSPS尺度)。 大うつ病患者 は3回中2回は 反応した 否定的アウトカム: 報告なし |
無作為化, 統制群,二重 盲検査-なし。 順守/介入 -不明。 レメディ/希釈度の報告-あり, 頻度-なし |
適切な介入 -あり, 適切な統制群/ プラシーボ -N/A, 適切なアウトカム -あり, 素晴らしい 予備試験報告 |
(Pilkington, K.,
Table
2
抑うつ研究のまとめ――抑うつが副診断
研究 |
研究デザイン &サンプル |
対象者基準 |
ホメオパシーRx |
統制群Rx |
|
|
アウトカム測定 |
結果 |
手順注釈 |
臨床的注釈 |
|
Clover et al. (1995) |
UC研究 (継続事例) N=50,UK ホメオパシック病院 |
癌に関連する 症状(気分障害 を含む) |
個別化 |
N/A |
|
|
HADS, RSCL 4回来院 |
RSCL1回と3回, 4回目の心理的 苦痛の副尺度が 改善(P<.005 及び<.02)。 HADS1回と3回 の不安副尺度 が改善(P<.01)。 (HADS普通が 初回48%から 4回目75%に) |
無作為化,二重盲 検査-なし, フォロー/辞退58%(29)。 理由(15死亡, 0フォローなし) 介入及び他交絡 因子29(58%)。 50%リラクゼーション, 14%鍼灸,34%CAM 他 |
適切な介入 -あり, 統制群/プラシーボ -N/A, 適切なアウトカム -あり 素晴らしく 計画された 実用主義的な コホート研究 |
|
Thompson & Reilly (2002) |
UC研究(継続 事例) N=100, UKホメオパシック 病院癌クリニック |
癌と関連 症状(気分 障害を含む) |
60分相談と 個別化した処方, 期間は変数 |
N/A |
|
|
初回と4-6回 相談後に,HADS, EORTC QLQ-30 の11尺度を 用いた自己 評価 |
初回不安59,鬱 37。最低2回。 フォロー後平均不安は1.6(95%CI 0.4-2.9), 平均鬱は1.4 (0.1-2.6)。 否定的:17 悪化/昔の症状 |
無作為化,二重盲 検査-なし, フォロー/辞退44%。 56完了(26死亡, 18棄権)。介入 及び他交絡因子 -不明 |
適切な介入 -あり, 統制群/プラシーボ -N/A, 適切なアウトカム -あり, 優れている事例 /コホート研究 |
|
Thompson & Reilly (2003) |
UC研究(継続 事例)N=45(26 前研究から)。 UKホメオパシック病院の外来患者 |
気分障害を含む エストロゲン枯渇 症状を持つ 乳癌患者 |
60分相談と 個別化した処方, 期間は変数 |
N/A |
|
|
3症状の生活で効果的スコア 毎回尺度が使われた 最初と3-5回 相談後にHADS, EORTCQLQ-30 の11尺度を 用いた自己評価 |
3主症状で改善に 有意差,平均不安は 2.1(0.7-3.4), 平均鬱は1(-0.1→2.1) P=.067で有意差なし。 否定的:7(新しい症状),昔の症状10。 悪化で辞退1 |
無作為化,二重盲 検査なし, フォロー/辞退11% 40完了(1死亡, 4棄権)。 介入及び他交絡 因子-従来の 癌治療 |
適切な介入 -あり, 統制群/プラシーボ -N/A, 適切なアウトカム -Yes, 優れている研究 |
|
Zenner & Weiser (1999) |
UC研究,期待される多角的アウトカムベース,N=269 (31産婦人科医 の患者),ドイツ |
産婦人科問題 (102気分障害 を含む) |
独自の開発レメディ Mulimenを投与 (83%の患者)または 注射 |
N/A |
|
|
患者と産婦人 科医が一緒に 最終5段階評価, 我慢度は 4段階評価 |
とても良い/良い 75%-80%, 気分障害(N=88) 77%とても良い /良いに症状改善 |
無作為化/統制群 -なし, フォロー/辞退-あり。 結果221/269(82%)。 有効回答率28.5% 介入及び他交絡 因子-18%が他治療, 2%が他セラピー |
適切な介入 -あり, 統制群/プラシーボ -N/A, 適切なアウトカム -不明 |
|
(Pilkington,
K.,
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