静まりかえった法廷に、すすり泣く声が響き渡った。
「死人に口なしと、責任を押しつける行為は親として絶対に許すことはできません。この事件の最高の刑で罪を償ってほしいと思います…」
先に証言台に立った父親は、保護責任者遺棄致死罪の最高量刑、懲役20年が科せられることを涙ながらに訴えた。
そして、嗚咽しながら押尾被告へあてた手紙を読み上げると、傍聴席や女性裁判員までが涙。その瞬間、押尾被告は顔を真っ赤にして視線を落とし、目頭を押さえた。
香織さんの両親が法廷に立つのは初めて。押尾被告の身勝手な証言や行動、新事実に大きなショックを受けた様子で、父親は押尾被告が香織さんの容体急変後、すぐに119番通報しなかったことに、「残念で悔しい。救急車を呼んで治療してもらえば、助からなくても親として納得ができた」と号泣。「普通の人なら呼ぶでしょが…」と振り絞るような声で語るのがやっとだった。
続けて、父親の訴えを傍聴席で涙を流して聞いていた母親が証言台へ。娘の薬物服用について、「娘も罪を犯したのだとずっと思ってきた」と複雑な心境を吐露。そして悲痛な思いを手紙にしたため、読み上げた。定年延長して運送会社で働く父親に感謝を示すため、香織さんが母親に託した言葉だった。
「娘に『おっとうが最後と決めた日に弁当を作って送り出したい。必ずその日を教えて』と頼まれていました。主人がトラックを降りると決めたのは、娘が亡くなった翌月の昨年9月30日。娘は銀座でママになる大きな夢も、近づいていた小さな夢も叶えることができませんでした」と唇をかみしめた。
最後に「娘の大切な命と計りにかけた、被告が失いたくなかったのものは何だったのでしょうか」と語気を強め、「親として望むことはただ1つ。娘の人生に残されたであろう時間と同じくらい長い長い刑と、尊い命と同じくらい重い刑を被告に与えてください!!」と声を震わせ号泣した。
その涙の訴えを、押尾被告は一点を見つめたまま聞き入り、最後に「はー」と大きなため息をついた。両親の叫びは押尾被告にどう届いたのか。
★量刑は懲役3年以上20年以下
保護責任者遺棄致死罪の量刑は懲役3年以上20年以下。1989年12月の最高裁判例で、暴力団員が13歳の少女に覚せい剤を注射し、錯乱状態に陥った少女を放置して死亡させた事件で同罪の適用を認め、懲役8年の実刑が下った。押尾被告の事件はこれと類似しており、法曹関係者は同じ懲役8年が有力とみている。同被告は昨年11月、麻薬取締法違反(MDMA使用)罪で懲役1年6月、執行猶予5年の判決を受けており、取り消される執行猶予分が加算され、懲役9年半になるとみられる。