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新教育の森:学校で起きた問題、第三者機関が調査 設置自治体増える

 ◇真相明かし再発防止に成果

 学校で起きたいじめやわいせつ問題などについて、公正に調査、勧告するための第三者機関を設置する自治体が増えている。真相を知るには裁判を起こすしかなかった被害者側にとって「知る権利」の確保や問題の再発防止への道を開く動きだが、課題も見える。【中川紗矢子】

 ◆子どもの権利を第一に

 学校内で起きた問題は外から見えにくい。「身内」の教育委員会や権限のない弁護士会の調査にも限界がある。そこで登場したのが独立した専門家による第三者機関だ。11年前の兵庫県川西市をはじめ、約20自治体が子どもの人権擁護を目的に第三者機関の設置を規定する条例を制定した。

 子どもの権利条約(94年批准)の具現化を目指し99年に設置された川西市の「子どもの人権オンブズパーソン」は、大学教授、弁護士らのオンブズパーソン3人と、専門職の相談員ら計14人で構成され、子どもに関するあらゆる相談を受け付ける。条例に基づき学校などで現場調査をし、是正勧告や提言ができる。市側にはこれを尊重する努力義務が課せられている。

 昨年度発足した札幌市の「子どもアシストセンター」には、最初の1年で延べ3571件の相談が寄せられた。半分以上が学校生活に関する内容で、当事者間の話し合いに立ち会うなどの「調整」に至ったのは41件。うち28件は相手方が学校だった。夜間や土曜にもフリーダイヤルの電話を受け付けており、代表救済委員の市川啓子さんは「友達同士のけんかから深刻な人権侵害まで、幅広く声を聞くのが救済の第一歩」と話す。

 ◆被害者家族の要望で

 第三者機関は、いじめなどの被害者の家族が設置を望んでいた。

 3月、札幌地裁で和解が成立した北海道滝川市のいじめ自殺裁判では、和解条項に「道は各地の教育委員会に、いじめが起きた場合に第三者機関を設置するよう指導する」との一文が盛り込まれた。この問題では、いじめを訴えた遺書があったにもかかわらず、市教委は記者会見でいじめを否定し、道教委は遺書のコピーを紛失。約1年後に市側がようやくいじめを認めた。

 長女友音さん(当時12歳)を亡くした母親の松木敬子さん(41)は「真相究明は学校では無理だし、訴訟を起こせば『お金目当てだ』と陰で言われる。中立な人に調査権限を与えてほしい。教師のいじめ放置や、いじめそのものの抑止力にもなる」と訴える。

 解決の難しさを示す一例が、03年に千葉県浦安市の知的障害がある少女(当時11歳)に担任教諭がわいせつ行為をしたとされる問題だ。教諭は刑事裁判で無罪が確定したが、民事裁判では1審に続いて3月の東京高裁判決も、わいせつの事実を認定し、市側敗訴が確定した。だが浦安市は「事実を確認できなかった」として、謝罪や家族との面会を拒否。再発防止策も一切行っていない。

 ◇国は静観/組織の権限に強弱

 99年に川西市で起きた中学ラグビー部練習中の熱中症死亡事故では、第三者機関が教職員の医学的知識の不足などを報告書で指摘し、市教委が全教職員向けのスポーツ活動における安全教育を行うなど再発防止が進んだ。一定の効果を上げている設置自治体もあるが、全国的な普及はこれからだ。

 文部科学省児童生徒課は第三者機関について「制度上、設置者(各自治体)が判断すること」と静観の構え。今年度から有識者会議で事例研究などを始めたものの、設置の指針策定や国レベルでの設置には消極的だ。

 組織が実質的に機能していない自治体もある。第三者機関が介入しても、調査権限などの問題で解決に結びつかないケースも見られる。教諭からの体罰を苦にした自殺で長男を亡くした「全国学校事故・事件を語る会」(兵庫県)の内海千春・代表世話人は「時間稼ぎや世論形成、混乱の沈静化に使われる危険もある」と指摘する。

 NPO「子どもの権利条約総合研究所」代表の喜多明人・早稲田大教授(教育法学)は「第三者機関が機能するには、縦割り行政の壁を越え、どんな領域にも入れる保障を与える条例が必要。北欧のように個別の問題解決だけでなく政策提言にも踏み込み、国が提言を受けて政策を見直す体制も作るべきだ」と訴える。

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 ■子どもの人権に関する全国の主な第三者機関

設置自治体   機関名            設置年

神奈川県    子ども人権審査委員会(※)  98年

兵庫県川西市  子どもの人権オンブズパーソン 99年

埼玉県     子どもの権利擁護委員会    02年

川崎市     人権オンブズパーソン     02年

岐阜県多治見市 子どもの権利擁護委員     04年

秋田県     子どもの権利擁護委員会    06年

岐阜県岐南町  要保護児童対策地域協議会   07年

福岡県志免町  子どもの権利相談室      07年

三重県名張市  子どもの権利救済委員会    07年

東京都目黒区  子どもの権利擁護委員     08年

愛知県豊田市  子どもの権利相談室      08年

札幌市     子どもアシストセンター    09年

東京都豊島区  子どもの権利擁護委員     10年

 ※神奈川県は条例ではなく要綱に基づく設置

毎日新聞 2010年9月11日 東京朝刊

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