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[21555] 【ネタ】【習作】英霊達とリリカルまじかる頑張ります 0-1
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/07 06:48
「サーヴァントセイバー、召喚に応じ参上した」

 ワケがわからない。それがなのはの感情だった。自分はただ、いい子でいなくてもいい相手が欲しかっただけ。だから神様にお願いした。

(私が本音を言い合える『誰か』が欲しい)

 いい子でなくても傍に居てくれる誰かが。父が入院している現在、なのはは家族の邪魔にならないように『いい子』を懸命に努めている。でも、なのはも子供だ。甘えたい時やワガママを言いたい時もある。だから、本音を言い合える相手が欲しい。それがなのはの偽らざる気持ちだった。

「でも、こんなのはないよ……」

 そんな願いをした途端、目の前に金髪の女性が現れ、しかも鎧や剣といったおとぎ話のような出で立ちときている。驚きよりも残念と言う面持ちのなのはに対し、セイバーはその凛々しい表情のまま、なのはにこう問うた。

「問おう。貴方が私のマスターか」

「…違うよ。マスターじゃない」

 幼いなのはに、マスターの意味は理解できなかった。でも、それは自分の求めるものじゃない事だけは、なんとなく感じ取っていた。
 セイバーは、幼い少女の言葉に先程までの表情ではなく、どこか不思議そうな顔をして、なのはを見つめた。

「私は、なのはは……あなたと、ともだちになりたいの」

 自分の言葉に軽く驚くセイバーを見て、なのはは嬉しかった。自分はそんなものじゃないくらい驚かされたのだ。その十分の一でも返す事が出来て満足したのだ。
 そんななのはの笑顔を見て、セイバーも笑みを浮かべた。二度目の召喚時は月光の中で。今回は星光の中、幼い少女に呼ばれた。イリヤスフィールよりも幼い彼女からは、強大な魔力を感じる。だが、それはどうでもよい事だった。

「友、ですか……。なら、失礼ですが貴方の名前を聞かせて頂きたい」

 セイバーは、自分が出来うる限りの優しい声でそう言った。

「あ、はい。私はなのは。高町なのはです」

「ナノハ?……なのは、ですね。私はセイバー。セイバーと呼んでください」

 こうして少女は、初めての友を得るのと同時に、永遠の友をも得た。星の光が差し込む部屋に、二人の笑みが輝いていた……。


 突然の出来事に、フェイトは戸惑っていた。それは傍にいたアルフやリニスも同じ。フェイトが様々な魔法に挑戦していた最中、転移魔法を構成した時、それは突然現れた。

「おいおい、今度は子供かよ。ま、十年後に期待か、こりゃ」

 全身を青いタイツのようなものでつつみ、手には紅い槍を所持している。アルフとリニスは全身で警戒感を示しているが、男はそんなものはどこ吹く風とばかりにフェイトを見つめている。

「そんな警戒すんな、って言っても無駄だわな」

 やれやれと両手を挙げて、男はフェイトの前で膝をついた。

「サーヴァントランサー、召喚に応じ参上した。お嬢ちゃんがマスターって事でいいか?」

 真面目だったのは途中まで。名乗りを終えると再び立ち上がり、フェイトの頭に手を乗せる。それをなぜか不快に思えない事に、フェイトは驚いていた。その手は暖かく、自分を安らげるように、ぶっきらぼうではあるが優しく撫でている。

そんなランサーの態度に、まず安堵したのはリニスだ。本能も、理性も、勝てない、と判断した相手。それがひとまず敵ではない。それがわかっただけでも良かった。

(フェイトも無意識に甘えているようですし、安心ですね)

「え?え?ランサー?マスター?」

「ああ。ま、主人って意味だ」

「主人?……えっと、多分違うと「フェイトから離れろ!」て、アルフ?!」
 
 見ればアルフがランサーの腕に噛み付いている。それを止めようとするフェイトと、決して放すまいとするアルフ。そして、噛まれているにも関わらず、笑みを浮かべてフェイトを撫で続けているランサー。
 そんな光景を眺め、リニスは思う。この男ならば、もしもの時から二人を守り抜いてくれるのでは、と。

 そして、願わくばその時が訪れないようにと、強く強く念じながら、微笑みを浮かべて三人の傍へと歩き出した。


「えっと……」

「ふむ、今回はまともな召喚のようだ」

 はやては唐突な現状に、必死に頭を回転させていた。冷静になれ、とまだ十歳にも満たない少女が自分に言い聞かせていた。
 両親が亡くなり、独りになってまだ日も浅い。そんな中、突如として現れた謎の男。はやては冷静に、いたってシンプルな結論に辿り着く。

「うん。ケーサツや」

「ちょっと待て」

 何やら呟いていた男を無視し、電話をしに行こうとした途端、不審者が若干焦りを帯びた声で待ったをかける。
 はやてはそれでも止まらない。制止を流し、車椅子を動かそうとして――――男が目の前にいた。

「君の考えは理解出来る。だが、私の話を聞いてほしい」

「おじさん、ドロボーやろ」

「こんな格好の泥棒がいるかい?」

 そう言われて、はやては改めて男を見る。赤いコートのようなものに、黒い服。おまけに白髪ときている。確かに、泥棒には相応しくない格好だ。泥棒は、渦巻きのような袋を背負って、頭巾をしているものだった。
 はやてはそう思い出し、男をドロボーとは言わない事にした。

「ならなんや?」

「サーヴァントだ」

 男の言葉に再び頭が混乱し出すはやて。そんな少女の姿に、男は何かを思い出し、微かに笑う。自分も『あの時』こうだったのだ、と。日常に非日常が入り込んだあの日。なら、自分がすべきは赤い彼女の役割だと。

「まあ落ち着け。サーヴァントは使い魔の最上級だと思ってくれればいい。つまりは……」

 そこまで言って、彼は言葉を濁す。目の前の少女にわかるように説明するには、あの時自らが拒否した言葉しか浮かばなかったからだ。即ち、召使い。だが、それは己の誇りに賭けても使ってはならない。
 そこまで考えて、男は何かに気付く。先程から少女以外、誰も出て来ない事に。

「なぁ……」

 そんな彼を思考から引き戻したのは、消え入りそうなはやての声。見れば、俯いて膝に置かれた手が震えている。

「何かな」

 穏やかな声だった。思えば初めから気配が少女以外なかった。それから導き出される答えは一つ。

「おじさんは……ツカイマさんなんか?」

「そうだよ」

「それって、わたしのそばにいてくれるって事?」

「君が望むなら」

「なら――――――っ!!」

 勢いよくはやてが顔を上げると、そこには男の笑顔があった。見る者を穏やかにするような笑顔があった。
 思わず言葉を失うはやてに、男はしゃがんで、はやての震える手にそっと手を重ねた。

「選んで欲しい。このまま一夜の夢として忘れて生きるか、私と共に生きてみるか」

 我ながらズルイと、男は思う。こんな聞き方を一人で暮らす子供にすれば、後者を選ぶに決まっている。だが、男はどんな形であれ、少女に決めて欲しかった。
 車椅子での生活。まだ小学校に通い立てかその直前か。どちらにしろ、この少女に待っているのは大人でも辛い生活だ。
それを支えてやりたい。だが、押し付けではなく、少女の意志でそれを選んで欲しい。それが男の問いかけの真意。彼女が望むなら、どんな相手にも立ち向かおう。彼女が願うなら、どんな事をも成し遂げよう。この身は一振りの剣。故に己が望み等はなく、主の望みが我が望み。

「どうかな?」

 男の声に、少女は我を取り戻したように、数回瞬きをした。そして、男の予想通りの答えを…………。

「いやや」

 言わなかった。それどころか、両方とも蹴った。

「忘れる事も出来んし、共に生きる事も違う」

「では――――」

 どうするのか?と続けようとした。が、それははやての言葉に遮られた。

「家族や」

「なっ……」

「わたしの家族になって、一緒に暮らす。共に生きるって、なんか違う気がするんよ。一緒に暮らすって言う方がしっくりくる」

 先程まで弱々しい雰囲気をしていたとは思えない程の断言。はやては男の目を見つめたまま、そう言って笑った。
 その力強さに、男も黙った。なぜなら、その言葉にある女性を見たから。

(ああ、どうやら俺は、よっぽど気の強い女性に縁があるらしい)

 穏やかな表情を浮かべ、どこか遠い眼をする男を見て、はやては胸が高鳴るのを感じた。それが何を意味するかなど、まだ幼いはやてに知る由もない。しかし、それが不思議と悪い感じがしない事だけは、確信を持って言えた。

「そういえば、まだ名乗っていなかったな。私はアーチャー。サーヴァントアーチャーだ」

「あ、わたしははやて。八神はやてや」

 そうやって互いに名乗りあったところで、なぜだかはやては笑い出した。それを不可解そうに見つめるアーチャー。どうかしたのかと尋ねても、ただただ笑うのみ。
 ややあって、はやては笑うのをやめ、なぜ笑い出したのかを話し出した。曰く、アーチャーの名前を聞いた時、くだらないダジャレを思いついたらしい。それがツボに入り、苦しかったと、はやては語った。

「あまり聞きたくはないが、どんなものだ」

「ぷくっ……ア、アチャーなアーチャーや」

 そう言うと、再びはやては笑い出す。どうやら相当気に入ったらしい。一方のアーチャーは「やはり聞くのではなかった」と言って苦い顔をした。それがますますはやての笑いを刺激する。
 そんなはやてを見ながら、アーチャーは小さく微笑む。この日、孤独だった少女に、久方ぶりの笑いが戻った……。





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ひとまずこんなところで。本当はアリサやすずかの所も考えたけど、力尽きました。

気分転換の作品なので、未熟な箇所はご容赦ください。

思いつきでやった。今は反省してる。



[21555] 0-2
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/01 14:28
 その日、すずかは不安の只中にいた。来月から、すずかは小学校に通う事になっている。
一般的な子なら、不安よりも期待が強いのだろう。だが、彼女は一般人と呼ぶ事が出来ない理由があった。

「私は……吸血鬼」

 『夜の一族』と呼ばれる吸血一族。それが、彼女の心に重くのしかかっていた。初めは、何が何だか分からなかった。次は、どうしてそんな事を教えたのかと、姉の忍に怒鳴り、終いには喚き散らして部屋に籠った。
 先程、ファリンが様子を伺いに来たが、放っておいてと追い払った。

「すずかも、そろそろ知っておいた方がいいと思ってね」

 夕食後の姉の言葉に、嫌な感じはしていた。そして、話を理解した時、少女の頭にはある単語しか浮かばなかった。

『化物』

「普通の子は血なんか飲まない。なら、私は?私はどうして普通じゃないの!」

 そう泣きながら叫んで、すずかは部屋のベッドへ飛び乗った。スプリングが軋み、嫌な音を出す。この時の彼女はしらないが、この異様な身体能力の高さも、彼女を特殊たらしめている要因の一つだった。
 感情に任せた動きが、ベッドに六歳が乗ったとは思えない程の負荷を掛けているのが、その何よりの証拠だ。

(普通じゃない私は、他の子みたいに生きていけないんだ。だって、私は……)

「『化物』、なんだから」

 呟くと同時に、風がすずかの頬を撫でる。それが、すずかには自分の言葉を肯定しているように思えた。

―――――彼女を見るまでは。

 綺麗な髪をたなびかせ、見た事もない眼帯なのだろうか。両目をそれで隠し、胸元が露わになっている黒い服を着こなしている。
だが、すずかが一番驚いたのは彼女の雰囲気だった。

(私に……似てる気がする)

 驚きで動けないすずかに、女性は無言で歩み寄って行く。何か声を出さなければ、と思うのだが、なぜか声を出してはいけない気がしている自分がいる。そんな事を考えているうちに、女性はすずかの前に辿り着き、おもむろにその手をすずかの頬に当てた。

「泣いて、いたのですか」

 綺麗な声だった。女性は優しく涙を指で拭うと、視線の高さをすずかに合わせる。瞳は見えない。でも、見つめられている。すずかは確かにそう感じた。
 女性は呆けるような表情のすずかに、微かではあるが笑みを浮かべた。

「似ていますね……」

「えっ………?」

「いえ、気にしないでください」

「……私、似てますか?」

「……ええ。とても」

 女性の言葉にすずかは、自分が間違っていないと確信した。誰かは分からないが、この人なら自分を受け入れてくれる。なにせ、自分を似てると言ってくれたのだから。
 厳密に言えば、女性の指した似ていると言うのは、すずかと自分ではなく、別人となのだが。それを指摘する程、彼女はすずかを知らなかった。

 一方の女性は、目の前の少女を見ながら、ある者の面影を重ねていた。

(本当に似ています。マスターとサーヴァントは、どこか共通点があると言いますが、まさかここまでとは)

 どれくらい時間が経ったのだろう。二人はお互いを見合ったまま、一言も発せずにいた。
すずかは、どう切り出そうと考え、女性はただそれを待っていた。時計の秒針が刻む音だけが、部屋の中に響いていく。
 そして、すずかが話を切り出そうとしたその時。

「すずかお嬢様、寝てしまいましたか?そろそろお風呂に入られた方がいいですよ」

 心配そうなファリンの声に、すずかはやっとの思いで固めた勇気を、完膚無きまでに砕かれた。そんなすずかを見て、女性が小さく微笑む。
未だに声を掛け続けるファリンに、すずかはどこか疲れた声で返していた。それを聞き、嬉しそうに返事をするファリン。そんな会話を、女性はただ静かに聴いていた。

 やがてファリンが下がると、すずかは拗ねたような顔をした。おそらく、自分の決意を見事に無にしてくれた事を思い出しているのだろう。
そんなすずかの顔を見て、女性は嬉しそうに語りかけた。

「良かったですね」

「何がですか」

「先程より、いい表情をしています」

 そう言われて、すずかは気付いた。あれほどあった不安が、今は微塵もなかったからだ。不思議そうな顔のすずかに、女性は笑みを浮かべてこう言った。

「貴方は一人ではない、と気付いたからです」

 女性は語る。自分にも、人とは違う事に悩み苦しんでいた『家族』がいた事を。その女性も最後には、自分を受け止めてくれる人達がいる事を思い出し、強く生きていった事を。そして、自分もまたそうしてもらった一人であると。
 その話を聞いて、すずかは己の状況を改めて考え直してみる。姉がいる、ノエルがいる、ファリンがいる。例え、自分が何であろうと受け入れてくれる『家族』が、自分にはいる。
 そう思った時、女性がすずかの髪を撫でながら言い切った。

「それに、世の中には色々なヒトがいます。私や彼女を友人と言ってくれた者だっていたのですから」

 意外と、世界は捨てたものじゃないですよ。そう言って、女性は優しく微笑んだ。

 その微笑みに、すずかもまた笑みを返す。そして、先程女性の名を聞こうとした事を思い出した。

「あ、あの、私!月村すずかといいますっ!」

 そう言いながら、すずかは自分に驚いていた。大声を出す事などほとんどない彼女にとって、自分が出した声量は他人のものに感じられた程だった。
 すずかは自分の動揺を隠せないまま、女性をただ見つめて問い掛ける。

「あ、貴方の名前を教えてください」

 聞き様によっては、初心な口説きにも取れそうな声。だがその瞳に映る輝きは、女性を少し驚かせた。一瞬の間の後、女性はその口元を緩めて答えた。

「私はライダー。サーヴァントライダーです」

 その声に込められた想いを、すずかは知らない。そしてライダーも、ソレを気付かない。なぜならそれは、姉が妹を得たかの様な嬉しさが滲んでいたのだから……。



 突然だが、アリサ・バニングスは言葉を失っていた。誘拐されたからでも、今から乱暴される所だったからでもない。
誘拐など、もう何度も経験している(ここまで危ないのは初めてだが)し、乱暴されるのも覚悟していた(それでも怖くはある)からだ。
 アリサが言葉を失っているのは、視界に映っている光景だった。

 廃ビルの窓。そこのむき出しのコンクリートに腰掛け、長い刀を抱えている侍。折から吹く風に、着物が微かに揺れて音を立てる。
アリサの周囲にいた誘拐犯達も、同じ様に言葉を失っていた。それもそうだ。なぜなら、先程までそこには誰もいなかったのだから。

「よい月夜よなぁ」

 誰もが言葉を失う中、侍はそう言い出した。まるでそれは独り言でも漏らしたように。

「俗世は様変わりしておるが、月の美しさは変わらぬ」

 すっと左手を上に上げ、その形を何かを持つように変えた。アリサはそれが何か理解できた。父親がよくお酒を飲む時にする仕草だったからだ。

「このような時は静かに杯を傾け、雅を感じるがよいのだが……」

 そこまで言って、侍はアリサ達を初めて見た。
それだけでアリサは安心感を感じていた。侍が何者かは知らない。もしかいたらこの廃ビルの幽霊かもしれない。それでも、それでもだ。

(ああ、アタシ助かったわ)

 そう確信し、アリサが安堵したのを契機に、誘拐犯達は侍に向かって動き出した。その手には、ナイフや拳銃と言った凶器が握られていたが、侍はそれらをまるで気にも留めず、ただ一言。

「無粋よな」

 それだけ言うと、いつの間にかアリサの傍へ立っていた。戸惑う誘拐犯達を眺め、侍は静かに手にした刀を構える。それだけ。それだけにも関われず、誘拐犯達は動けなくなった。彼らは、誘拐のプロフェッショナルチームであった。当然、修羅場等も経験している。今更、刃物を所持した男が一人現れた所でどうという事はない。

――――――はずだった。

 だが、現実には誰も動こうとしない。いや、出来ない。本能が、理性が告げる。コレからは助からない。逃げろ、とさえ思えない。ここにいる全員が同じ心境だった。
 死んだ、と。

 侍はまったく動かない誘拐犯達を見て、僅かに、傍にいたアリサさえ気付かない程の声で呟いた。

「幼子には目の毒よな」

 そして放たれた斬撃は、誘拐犯達を全員倒した。『死』ではなく『気絶』という形をもって。
事の全てを見ていたアリサだったが、流石に一撃で終わるとは思っていなかったのか、何度も目を瞬かせていた。
 すると、急に体が軽くなるのを感じた。見れば、体を縛っていた縄が綺麗に切られていた。

「これで動けるであろう」

「ありがとう。誰だか知らないけど、ひとまずお礼は言っとくわ」

 アリサの言葉に侍が軽く驚いた。自分のどこかに変な所でもあったのだろうか?そんな風にアリサが思っていると、答えは予想の斜め上をいっていた。

「なんと、異国の娘が流れるような日本語を「ちょぉぉぉっと待ちなさい!」

 古風だとは思っていたが、どうやら目の前の侍は、本気で時代錯誤の存在らしい。簡単な話を聞けば、気が付くとここに居て、自分が襲われそうになっているのを見つけたのだと言う。
 アリサはそんな事を飄々と語る侍を、心底胡散臭いものを見るように見つめていた。

「まあいいわ。とにかく助けてもらったんだし、お礼はちゃんとするから」

「ふむ、私は別に構わぬが……」

「アタシが構うの!とりあえず名前を聞かせて。いつまでもお侍さんじゃ、呼びにくいわ」

「それもそうよな。私はアサシンのサーヴァント。名を佐々木小次郎と言う」

 そんな風に二人が話していると、俄かに下の方から声がしてきた。その中の声の一つに、アリサがよく知るものがあった。
本当にこれで助かった。そうアリサが思った時、小次郎がゆっくりとアリサの頭に手を置いた。
 何を、と言おうとして、アリサは言えなかった。視界が滲んできたからだ。何でと疑問に思う前に、小次郎が呟いた。

「幼き身でよく耐えたものよ。だが、恐怖に涙するは恥でない」

「べ、別に――っく……アタシは……怖く、なんて」

「そうであろう。そなたが涙するは嬉し涙よ。なら、何を躊躇う事がある。思う存分流せばよい。私と月以外は誰もおらぬし―――」

私は何も見ておらぬ。

 それが切欠だった。アリサは流れ出す涙を止める事が出来なかった。ただ声を押し殺して泣いていた。それを視界から外し、小次郎は月夜を眺める。手から伝わる温もりと、流す涙の暖かさに、アリサはある決意を固める。

(アタシを泣かせてタダですむと思わない事ね!絶対お返ししてやるんだからっ!)

 余談だが、この後現れたSP達が小次郎を誘拐犯と勘違いし、アリサが鮫島達を一喝するのだが、その様子を見て小次郎が大いに笑った事だけ記しておく。




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ひとまず、ジュエルシード事件までで召喚されたのはこの五人です。残りは別の場所での召喚となりますので、しばらく出番なし。

当面はこの五組それぞれに焦点を当てた話を書く予定です。

七騎のぶつかり合いを期待していた方、本当に申し訳ないです。

短編で終わらせる自信が、なくなってきました……。




文才が、欲しいです。



[21555] ?-?(いつか辿り着きたい場所)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/02 21:39
予告と言う名のネタ。いつものように時系列がバラバラです。

あくまで現時点での構想であり、展開や感想によって変わる事もあるのでご注意ください。

後、ネタばれと言う解釈もできますので、撤退するなら今の内です。

 


 




いいですね?責任はとりませんよ?


それではどうぞ!!


 


未来予告









 雪原に佇む巨人と、それを見上げる少女。周囲には争った形跡が残っていたが、一部だけ綺麗な雪が積もっている。そこは、先程まで少女のいた場所。

「バーサーカーは、強いんだね」


 少女の言葉に、巨人は無言を貫く。だが、その内心は揺れに揺れていた。なぜならその言葉は―――。

(かの少女と同じ言葉を……)

 何から何までが、あの記憶と被る。違いと言えば、理性が僅かにではあるが戻っている事。

「でも、いたずらに命を奪っちゃダメ。狼だって必死に生きてるんだから」

 そして、とても優しい考えの持ち主である事。だが、とバーサーカーは思う。

(イリヤも、環境さえ違えばこう言う娘だった)

 だからこそ、目の前の少女を守ろう。あの時感じた無念を繰り返さぬように。あの刻の想いを少女にさせぬために!
雪が静かに降る中、巨人と少女はただ見つめ合っていた。不思議な絆を感じながら……。



「あの男をあまり信頼してはダメよ」

 そんな女性の言葉に、少女は歩みを止めた。
振り返ったその顔には、どうして?と言う色がありありと浮かんでいる。

「あれは、自分の事しか考えない人間よ。だから、貴方の母親の話も嘘かホントかわからない」

「それでも、ドクターのお手伝いをしなきゃ」

「それはわかるわ。だけど、覚えておいて」

 女性はそう言うと、自分の視線を少女の視線に合わせる。普段は見えない優しい顔立ちが、少女の瞳に映りこむ。

「私は、貴方の事が最優先。貴方だけでなくお母さんも守ってみせる。だから―――」

「わかってる。私の一番の味方は、キャスター達だから」

 そう答える少女に、キャスターは母の如き笑みを返す。無表情に見えるが、今確かに少女は笑ってくれた。それがキャスターにはこの上ない喜び。失ってしまったモノを、忘れてしまったモノを取り戻させてくれる天使の福音なのだから。

 少女の手を取り、キャスターは歩く。母性を仕舞い込み、再び『魔女』の顔に戻す。全てを嘲笑う事が可能な雰囲気が漂うが、握られている手からは、和んでしまう温もりがある。二人は歩く。その姿は、仲の良い母子の様に寄り添っていた……。



「明日からアタシも局員、か」

「今更何言ってんだ?あんだけなりたがってたクセによ」

 空を眺めて呟く少女に、どこからか声がする。その声に、少女はため息混じりに影を踏む。

「うっさい。……色々と思う事があんのよ」

 センチメンタルってか、と馬鹿にするような声を無視し、少女は再び空を見上げる。

 憧れた空。だが、自分には適正がない。それがわかった今、空は憧れであるのと同時に。

「なんで、飛べないのよ……」

 自分の才能の無さを思い知らされる要素となった。相方を務める少女は、飛べないまでも空を駆ける事が出来る。おまけに、大っぴらには出来ないが、秘密の切り札もある。
 だが、自分にはそんなモノはない。レアスキルも、空戦適正も、人に誇れるモノがない。

「それでも、アタシは証明しなきゃいけないんだ……っ!」

「ランスターの銃は、何にも負けないってか?」

「そうよ!」

 悲鳴のような叫び。その声に、ふざけていた声も黙った―――のだが。

「何を考えてるか知らねぇが、それを誰が喜ぶんだ」

 いつになくからかうように、声は続ける。それは少女を馬鹿にしたり、からかったりするモノではあった。しかし、その中には確かに少女を諭す様なモノが見え隠れしていた。
 生憎、それに少女が気付く事はなかったが、普段のやり取りが張り詰めていたモノを静めていく。
口では勝てないと、少女が改めて認識するのと同時に、自分を呼ぶ声が聞こえてきた。どうやら、相方が心配して捜しているようだ。

「ま、今日はここまでだな」

「そうね。さすがに気付かれるとマズイし」

 声と意見が合うのはこういう時ぐらいだな、と少女は思ってため息一つ。見れば相方の少女が、手を振ってこちらに駆けてくる。
それに応じ、手を振り返す。その時、確かに声が言った。

「才能がない奴なんていねえ。才能に気付かない奴がいるだけさ」

 初めて聞く優しい声に少女は驚くも、既に彼女が近付いてきたので、結局何も言えず終いだった。だが、少女の心にこの時の言葉はいつまでも残り続ける。来るべき結末を、変えるように……。



 その日、珍しく男はご機嫌だった。気難しい事で知られる彼だったが、この日は本当に機嫌が良かった。
…………彼女達と遊んでいた(本人はその自覚なし)までは。

「ギル~、悪いけど買い物頼める?」

「我に行けと?身の程を知れ、クイント」

 裂帛の気迫で答える僕らの英雄王だったが、その背には二人の少女が乗っかっていた。その対比に笑みを浮かべるクイントだが、手にした買い物籠を突きつけると、背に乗る娘達にこう言った。

「二人共、ギルがお菓子買ってくれるわよ」

『ホント~!?』

 瞳を輝かせ、立ち上がる姉妹。背にかかっていた重みが増した事に、微かにうめき声を漏らす英雄王だが、それでも、どけ!と言わない辺り、子供には甘いと言える。

「て訳でよろしく」

「おのれぇ~、覚えていろ」

 ちゃっかり買い物籠を手に持たせ、クイントはキッチンへと戻っていく。その後姿を睨みつける事しか出来ない英雄王。そして、そんな彼を無視して、姉妹はお出かけ準備を始めていた。

 英雄王、ギルガメッシュ。全ての財を手にした英雄は、両の手に幼い少女の手を握り、近くのスーパーへと歩き出す。

「ギルお兄ちゃん。おかしいくつ買っていい?」

「ギルお兄さん。いくらまでなら買ってくれる?」

 嬉しそうに問いかける姉妹に、ギルは視線も合わせず言い切った。

「ふん!ならば店ごと買ってくれるわ。お前達、好きな物を選ぶがよい」

 この発言の通り、彼は店を買い取ってしまい、クイントに大いに怒られる事となる。







―――はずだったのだが。


「ダメだよギルお兄ちゃん」

「うん。皆が迷惑するし、母さんも怒るよ」

 二人の少女によって、それは回避された。ギルガメッシュはなんだかんだでクイントが苦手である。自分を叱りつけてくる存在など、これまでいなかったからだ。母は強しとは誰が言ったか。さしもの英雄王も、母の愛には勝てないようだ。

「それに、おかしはたまに食べるからおいしいんだよ」

「たくさん食べたら虫歯になっちゃう」

 二人の言葉に、ギルガメッシュは不服そうではあるが、渋々買取を諦めた。そんな彼の手を、二人は強く握り直す。
そして、満面の笑顔でこう言った。

『でも、ありがとう!ギルお兄ちゃん(さん)』

 その言葉に、ギルガメッシュは満足そうに頷き笑い出す。その高笑いを聞きながら、二人もまた笑う。


今日もミッドは平和です。





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やってしまった……。その一言に尽きるこの一発ネタ。

つい、キャスター達を動かしてみただけでこの有様です。

本筋が無印にさえ突入してないのに……。

上にも書きましたが、変更(なるべくしないつもりではあります)の可能性もあります。何卒ご理解ご容赦の程を。



[21555] 0-3 ファーストデイズ(S&R)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/06 15:35
「ではスズカ、ファリンと買い物に行って来ます」

「うん。ライダー、ファリンをよろしくね」

「ふふっ、わかっています」

 笑みを浮かべるライダーにつられる様に、すずかも笑う。最近序列変更があり、ファリンはライダーの妹分になってしまっている。まあ、本人も「ライダーお姉様」と呼んでいる辺り、満更でもないようだが。

「では……」

「行ってらっしゃい」

 メイド服を翻し、ライダーは歩き出す。歩きながら、少しずれた眼鏡を指で直す。既に違和感がなくなりだした格好を思いながら、ライダーは思う。自分も変わったな、と。
 あの日、彼女に似た面影を持つすずかに出会った『始まりの夜』から、既に半月。月村の家にも慣れ、メイド服にも慣れた。清楚な雰囲気にどこか妖艶さが漂うのは、ライダーが着ているせいだろう。初め家主である忍は、ミニスカートタイプを着せようとしたが、ライダーとすずかの抵抗&弁護により阻止され、ノエル達と同様のロングとなった。



令嬢と騎乗兵のファーストデイズ



 柔らかな日差しと鳥のさえずり。それを目覚ましに、すずかはゆっくり目を覚ます。すると、何か違和感を感じた。

「あれ……?何で……」

 窓とカーテンは開いていたはず。そう続けようとして、意識が覚醒する。

「そうだ!ライダーは!?」

「呼びましたか?」

 どこか不思議そうに答えた声に、すずかは慌てて振り向く。そこには、昨夜と同じ格好で眼鏡を掛けたライダーの姿があった。
その手にした絵本がどこかシュールだ。

「えっと…」

「はい」

「お、おはよう。……ライダー」

「おはようございます、スズカ」

 その何とも言えない光景に、すずかは若干戸惑うも、何とか挨拶を交わす。ライダーはそれを平然と受け入れ、返した。そして、またその視線を絵本へ戻す。
 ちなみに、手にした絵本はすずかのお気に入りだったりする。

 しばらくライダーのページをめくる音だけが部屋に響く。その光景を見つめ、すずかはある疑問を浮かべた。

「ライダー……」

「はい?」

 すずかの声に、ライダーは再び視線を戻す。その瞳の美しさにすずかは魅入られそうになるものの、何とかそれを抑え付ける。
そう。疑問はそこにある。

「その眼鏡は?」

「以前いた場所で頂いたものです。思い出の品、といえば品ですね」

 まさか、残っているとは思いませんでしたが。言って、ライダーはそう感慨深そうに呟いた。
すずかは、ライダーになぜ最初から眼鏡ではなかったのかを尋ねた。それならあんなにビックリしなかったのに、と。
 その言葉に、ライダーは笑みを浮かべて答えた。仮にこの状態でも、スズカは驚いたと思います、と。
それは否定できない推理だったが、すずかは反論する。ビックリの度合いが違う。それにライダーが反論―――するかと思ったのだが、彼女は申し訳なさそうな顔をした。

「そうですね。それは確かに…。すみませんスズカ」

「えっ?」

 想像した事と違う反応に、すずかは戸惑う。違う、そうじゃない。自分は謝ってほしかった訳じゃない。ただ、ライダーともっと話がしたかっただけなのだ。そう思い、何か言わなければと思った時だった。

 ライダーが、笑っていた。

 それはどこか悪戯を成功させたように。だけど、どこか詫びるように。そこですずかも気付いた。

「もしかして……」

「はい、少しからかってみました。ですがあまり気分はよくないですね。スズカ相手では……」

 そう言って、ライダーは心底後悔しているのだろう。顎に手を当て、何事かを呟いている。セイバー相手ならばとか、リンはなぜあんなにも嬉しそうに……等と言っている。
 聞き慣れない名前ばかりだったが、すずかはそれよりも聞きたい事があった。

「ライダー……?」

 すずかがそう声を掛けた瞬間、ライダーが少しだけ固まった。どうしたんだろう、とすずかが見つめていると、ライダーは何か慌てたように視線を動かした。

「な、なんですかスズカ」

「何で眼鏡を掛けるの?」

「いえ、それは……えっ?」

 想像した言葉と違ったのか、ライダーは何かを弁明しようとして、聞かれた事を理解した。だが、それがどうして気になるのかがライダーにはわからなかった。

「目が悪いって事じゃないんでしょ?どうして眼鏡を掛けるの?すごくキレイな瞳なのに」

 もっとはっきり見たいな。そんなすずかの言葉に、知らずライダーは喜んでいた。そして同時に悲しんでもいた。なぜなら、その事を話す事はすずかの望みに応えられない事を意味するのだから。

「分かりました。なぜ私が瞳を隠していたのか、それを教えます」

 ライダーは、静かに語り出す。己の本当の名と、それにまつわる事実を。
蛇の怪物メドゥーサ。その名はすずかも聞いた事があった。見た者を石に変え、恐ろしい姿をした『化物』。ライダーはすずかに理解し易いように、難しい言葉や単語は使わず、簡単に話した。その語り口には何の感情もなかったが、姉が出てくる話の箇所だけは、懐かしむような響きがあった。

 すずかは、その話をするライダーを見て酷く心が痛んでいた。ライダーは何か悪い事をしたわけではない。それなのに、怪物にされ、実の姉をその手にかけさせられた。自分の意思に関係なく、望まぬ状況に置かれた。すずかは、そこでやっと気付いた。自分が感じた感覚は、この事を無意識に感じとっていたんだと。
 そして、それを理解したすずかは、自分の最後を語りだそうとしたライダーに……。

「もういい!もういいよっ!!」

 叫んだ。聞きたくないと言わんばかりに。怒りの感情そのままに、すずかは激しく首を振る。
そんなすずかに、ライダーは言葉がなかった。わかったからだ。なぜ、すずかが怒っているか。何に対して激怒しているか。

(優しい子ですね、本当に)

 すずかは泣いていた。それは怒りの涙。理不尽に対する抗議の証。神様という存在に、少女は初めて憤りを感じていた。
ただ愛された。その相手に奥さんがいて、怒りが愛した夫にではなく、ライダーに向かった。ライダーが誘った訳でも、近付いた訳でもない。
 なのに、悪いのはライダーにされた。住む場所を追われ、姿を変えられ、大切な姉達を亡くし、最後には命さえ奪われた。

 自分が泣く事で、何かが変わる訳じゃない。それでもすずかは思った。自分がライダーの味方になろうと。例え世界を、神様を敵にしても、自分だけは、絶対に自分だけはライダーの傍にいようと。
 奇しくもそれは、ライダーの二人の姉が出した結論と同じだった。そして、すずかはライダーに抱きつき、強く抱きしめる。

「スズカ……」

「もう大丈夫だよ。ライダーには、私がいるから」

 ずっと傍にいるから。その言葉に、ライダーも優しくすずかを抱きしめる。自分の事を我が事のように感じ、泣いているすずかに。ありったけの感謝と想いを込めて。

 それは、すずかを起こしにきたファリンが来るまで続いた……。



「あの後大変だったなぁ…」

 あの日の事を思い出し、すずかは笑う。部屋に入ってきたファリンが、ライダーを侵入者と判断して大騒ぎになったのだ。ノエルに忍までやってきて、すずかは説明に苦労したのを思い出す。困った事に、ライダーがファリンとノエルに勝ってしまったため、余計にややこしい事態になったのも要因の一つだ。

 結局、すずかの言葉とライダーの態度で理解はされたが、そこからがまた大変だった。
ライダーが伝説の存在だと言う事、現れた理由が分からない事、そして彼女もまた吸血種(本当は違うが、ライダーがそうした方がいいと判断した)である事がわかったからだ。
 戸惑う忍ではあったが、すずかの様子から、ライダーが既にすずかの中でどういう存在か把握し、それに免じて不問とした。この判断に、ライダーは忍にリンを重ねた。

 その後、例の格好の話となり、そこでも色々とあったのだが……。

(でも、ライダーは楽しそうだったよね)

 無理難題をふっかける忍とそれを助長するファリン。それを落ち着いて嗜めるノエルに慌てるすずか。それを眺め、ライダーは確かに笑っていたのだ。
 すずかは知らない。そのやりとりが、かつての衛宮邸を彷彿とさせていた事を。ライダーがそれを思い出し、自分の立ち位置に内心苦笑してたのを。

 そしてライダーはすずか付きのメイドとなり、ファリンが教育を担当(忍の悪戯めいた発案)したのだが……。

「これはですね……」

「こうですか?」

 衛宮邸での暮らしで、家事をある程度していたライダーに隙はなく、ファリンが逆に教わる方が多かった。
それでも、先輩としての意地を見せようとするファリンだったが、持ち前のドジを如何なく発揮。それをライダーがフォローする結末になり、見かねたノエルがライダーの教育を変わる事となり……今の形に納まるに至る。

「それにしてもサーヴァントかぁ。私だけの護衛みたいなモノだってライダーは言ってたけど……」

 すずか付きなのは、ライダーがサーヴァントの意味をすずかにそう語ったからだ。

 テーブルの上にある写真立てを眺めて、すずかは思う。来週からは小学生だ。
あの時あった不安はもうほとんど消えた。色々なヒトがいるから、友達だってできるはず。初めから打ち明ける事は出来なくても、いつかそれを打ち明けたい友達が出来る。それで嫌われてもいい。いざとなれば自分には家族がいる、ライダーがいる。それに……。

「意外と、世界は捨てたものじゃないんだから」

 ライダーの言った言葉に、すずかは勇気付けられた。ライダーがそう思ったのなら、きっと世界はそうなのだと。テーブルの写真立てには、月村家全員で撮った写真と、慣れないメイド服に照れているライダーとの2ショットが飾られていた。

「ライダーの様に、私もなれるといいな」

 誰かを勇気付けられる人に。そう呟くすずかの顔には、希望と言う名の確かな輝きが宿っていた……。




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すずか&ライダー編のファーストデイスをお送りしました。

原作改変になりすぎないようにしていますが、どっちがいいんですかね?

改変がありすぎてもいいのか?否か?

多分、改悪ならダメで改善ならいいと思われるのですが……基準が分からない。

ま、サーヴァントいる時点で改変もいいとこですけどね(苦笑)



[21555] 0-4 ファーストデイズ(F&L)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/06 12:23
腕に付いた噛み痕。そしてそれを付けた狼を眺め、ランサーは目を細める。その体から感じるのは魔力。つまり、狼はそれを持つ存在。

(使い魔、か。それもかなりのモンだ。こりゃ、本気で今回は当たりだな)

 それにと、ランサーの視線がその狼の隣へ移る。その先には金髪の少女がいた。名はフェイト。彼を呼び出した存在だ。
その身に宿す魔力は並外れたモノがあり、ルーン魔術の使い手である彼から見ても驚くものがある。
 そんなフェイトだが、今彼女はリニスのお説教を聞いている。まあ、本来はアルフに対するものなのだが、自分が止め切れなかったのも悪いと、二人揃ってリニスに怒られていた。

 その様子を眺め、ランサーは力関係を把握した。どうやらフェイトは立場は一番上だが、力量はリニスに劣り、アルフはそのどちらもリニスに劣る。よってリニスが現状一番上にいるようだ。そうランサーは理解し、苦笑を一つ。

 その様子は、姉に叱られる妹とペットにしか見えなかったからだ。しかも聞こえてくるのが、無闇に人を噛んではいけないとか、フェイトの言う事をキチンと聞きなさいなどとくれば、それはもう微笑ましいものだ。
 場違いだな、とも思いながらランサーは呟く。

「で、俺はいつまで突っ立っていりゃいいんだ?」

 その表情はどこか呆れるように、だが楽しそうに見えた……。



テスタロッサ家と槍騎士のファーストデイズ



 お説教が終わった後、ランサーを待っていたのは質問攻めだった。しかし、それらはランサーのとっては予想通りのものばかりだったため、比較的早くすんだ。ただ気になったのは、ランサーがサーヴァントの説明をした際のリニスの反応。どこか驚きながらも、最後には悔しそうな顔をしたからだ。
 それよりも問題は別の所にあった。それはランサーがフェイトに質問した事。ここはどこだ、と言う問いかけ。それにフェイトではなく、リニスが答えた。

「時の庭園です」

「なんだ、そりゃ」

 次元世界、管理局、ミッドチルダに魔導師とランサーの聞き覚えのない言葉ばかり。試しにと、リニスがやってみせたのは『バインド』と呼ばれる拘束魔法。
 突然現れた光の輪に驚くランサーだったが、それが魔力で出来ている事を認識した途端、音も立てずにバインドが消えた。

『っ!?』

「便利な代物だが、構造が甘いんだよ」

 ランサーがやったのは、バインドの魔力に自分の魔力を加えただけ。ルーン魔術の使い手たるランサーから見れば、基本デバイスありきの魔法は、穴だらけなのだ。この身がキャスターとして召喚されていれば、おそらくもっと早く解除できたと語るランサーに、リニス達は心の底から思う。
 この男が敵でなくて良かった、と。



 長い通路を歩くフェイト達。向かう先はフェイトの母プレシアのいる部屋。
母さんに紹介しなきゃ、とフェイトが言い出し今に至るのだが、ランサーには気になっている事があった。それはリニスとアルフの雰囲気と、リニスの忠告。

「決して過去から来たなどと話してはいけません」

 ランサーとフェイトに強く告げるその表情に、フェイトでさえ戸惑い、ランサーも鬼気迫るモノを感じたのだ。更に、ランサーの話や現状を説明している時と違い、明らかに不安そうな顔をしている。今もフェイトが母親の事を語るたびに、何とも言えない表情を浮かべていた。
 聞くべきか否かと思ったが、会えば原因も分かるだろうとランサーは結論付けた。その考えは良くも悪くも的中する……。

「入るね、母さん」

 アルフとリニスは外で待つと言い、フェイトが開けた一際大きな扉の先にいたのは黒髪の女性。その身体に宿る魔力はフェイトを凌ぎ、全身から他者を圧倒する気配を漂わせている。
 だが、ランサーが反応したのはもっと別の事だった。

(魔力が安定してねぇ……これは――――病か?)

 魔力探知に長けるサーヴァントだからこそ分かる。その体が弱っている事は。しかし、目の前の女性―――プレシアはそんな様子を一切見せず、フェイトとランサーを見つめる。

「……その男は?」

「あ、ランサーと言って……その、私が召喚しました」

 実の娘に話しているとは思えない態度に、ランサーは怒りを通り過ぎて驚いていた。プレシアはまったく表情を変えず、ただモノでも見るかのようにフェイトとランサーを見ていたからだ。今も経緯を説明するフェイトを、路傍の石でも見るかの如き目で見下ろしている。

(おいおい、マジかよ。やっとマシなマスターかと思えば、こんなとこに厄介事が隠れてやがった)

 内心、ランサーはやはりとも思っていた。
なぜリニスとアルフが部屋に入らなかったか、なぜフェイトが母親の事を話すたびに気まずそうにしたのか。その答えが眼前にあった。

 フェイトの話にプレシアが興味を抱いたのは、バインドを壊した方法だった。ランサーが使い魔である事にも興味があったようだが、それよりも相手の魔力に自分の魔力を加える等の聞いた事がない事に意識が向いたからだ。
 その話を詳しくと言われ、フェイトは嬉しそうに語り出す。ランサーに説明された事を懸命に思い出しながら、フェイトは語る。合間合間にプレシアが聞く事に詰まりながら、ランサーに助けてもらって答えるフェイト。
 それをランサーはただ黙って支えた。途中、プレシアが自分に直接尋ねた時には一計を案じた。

「わりぃが何言ってるかわからねえ。フェイトの言葉しか俺の知ってる言葉に聞こえねぇんだ」

 フェイトが何か言おうとするが、プレシアがフェイトに通訳をさせるように促し、フェイトが無視される事を回避させたのだった。
そうして十分ほど話し、プレシアはもう聞く事はないとばかりに二人を追い出した。それでもフェイトは、愛する母と長く話せた事に喜んでいた。
 そんなフェイトを、ランサーは複雑な心境で見つめていた。リニスもアルフも、今日初めて会ったランサーでさえ気付いている。
プレシアは、フェイトを何とも思っていない。娘どころか人として見てるかすら怪しい。にも関わらず、フェイトはプレシアを慕っている。

(だが、俺が何とかする問題じゃねぇ)

 自分がするべきは、来るべき戦いに備えてフェイトを鍛える事。まだまだこれから伸びていくフェイトを、一人前の戦士にする。それだけが自分がすべき事だと、ランサーは分かっている。分かっているが……。

(だからってほっとけるかよ)

 このままでは、フェイトは報われない。プレシアはフェイトが強くなっても何も思わないのだろう。自分の役に立つモノにしか興味を抱かない。それも、すぐになくなる。アレは人として壊れた奴の目だ。ランサーはそう思い、ある男を思い出していた。
 忘れようのない相手。自分の誇りを踏み躙り、利用価値がなくなった途端あっさりと捨てる事を選んだ男。その男の目に、プレシアの目はどこか似ていた。

 外で待っていた二人に「今日は母さんがたくさん話してくれたんだ」と告げるフェイト。その後ろを歩きながら、ランサーは誓う。それは声にならない想い。それは誰も知らない誓約ゲッシュ

(フェイトの想いを、あいつの努力を報われるようにしてやるか。この―――槍に賭けて!!)

 槍騎士はそう誓い、苦笑を一つ。我ながら、らしくない。そう思いながら、ランサーは歩みを速める。

「で、悪いが何か食わせてくれ。腹が減ったんでな」

「ラ、ランサー、頭が重いよ」

 フェイトの頭に腕組みし、そうリニスへ告げるランサー。その行為に弱くも抗議の声を上げるフェイト。

「わかりました。じゃあ、食事の支度をしますね」

「ちょっと!フェイトが嫌がってるだろ!」

 どこか呆れたように返すリニスに、今にも噛み付かんとするアルフ。

 怒るアルフ、嗜めるリニス、うろたえるフェイト。そして、笑みを浮かべながら逃げ出すランサー。逃がさんとばかりに追いかけるアルフに、置いてかないでと走るフェイト。ため息をつきながらそれでも笑みを見せるリニス。そんな光景を見ながら、ランサーは思う。

ああ、こういうのも悪くねぇ――――と。







おまけ

「出来ましたよ~」

『待ってました!』

「ふ、二人共、落ち着いて」

 今にも掴みかかろうとする二人を、フェイトは何とか宥める。

「じゃあ早速……」

 食事に手を伸ばそうとするランサー。同じようにアルフも食べようとして、何かに気付いたのか動きが止まった。

「さすがにこのままじゃ食べにくいね」

 その言葉と同時に、アルフの姿が変わる。狼から人間の女性へと。

 ランサーはその光景に口笛一つ。視界に映っているのは、美人と呼んで差し支えない女だったからだ。

「で、どうなってんだ?」

 口笛を吹いておきながら、ランサーは悪びれもせずリニスに尋ねる。その手には、アルフが狙っていたチキンステーキがしっかりと握られている。
 フェイトは、手掴みなんて……と驚き半分憧れ半分の視線でそれを見つめ、アルフはそのキレイな顔を歪めて唸っていた。

「使い魔は、アルフのように動物が素体です。ですが、主の魔力を消費する事で人の姿になることが出来るのです」

 ちなみに私もそうですよ。そうリニスが告げると、ランサーは驚いた顔をした。だがそれも一瞬。すぐにいつもの顔に戻して呟く。

「ま、しかしそう考えると……」

 アルフとリニスを交互に眺めるランサー。その視線に、リニスは恥ずかしがり、アルフは首を傾げた。

「いい女だよな、お前ら」

『っ?!』

 軽い調子ではあるが、その声に込められたものは本音の称賛。生まれてこのかた口説かれる事などなかった二人に、ランサーの一言は強烈だった。そんな二人の様子に、ランサーは面白がって言葉をかける。
 どうだ、本気で俺の女にならねえか?と言ってみれば、リニスは赤面しアルフは怒鳴る。初心だねぇ~とからかえば、二人揃って首を横にし無視の姿勢をとる。

 そんな風に盛り上がるランサー達を、フェイトは一人不思議そうに眺めて呟いた。

「早く食べないと、食事冷めるよ?」



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ファーストデイズ二本目をお送りしました。

今回、魔法に関して独自解釈がありますが、寛容な心で見てやってください。

ほのぼの分がなさすぎたので、おまけで投入したら……あれ?フラグか、これ?

次回はどの組か。ヒントは男女の組み合わせ。

9/5 加筆修正しました



[21555] 0-5 ファーストデイズ(A&A)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/06 12:16
 淡く日差しが大地を包み、穏やかな風が心地よい早朝。バニングス邸に、大きな違和感が存在していた。
まるで時代劇から抜け出してきたかの如き格好の男は、『物干し竿』と呼ばれる刀を縦横無尽に振り回す。
 いや、それは振り回しているのではなく、一見無秩序に見えながらも美しい剣舞をなしていた。

「ふむ、西洋の庭もまた良きモノよ」

 そう呟く男の名は佐々木小次郎。アサシンのサーヴァントにして、アリサの命の恩人であった。
あの後、彼は是非お礼をと言うアリサ達の招きを受け、ここバニングス邸に厄介になった。
 昨夜はアリサの両親からもお礼を述べられた(名乗った際に驚かれはしたが)後、豪勢な晩餐(見た事無いものばかりで戸惑った)を味わった小次郎だったが、その内心は複雑だった。

「よもや『ぼでぃーがーど』なるものになってくれとは……」

 昨夜の宴席で、アリサの両親からそう提案されたのだ。行くあてがないと告げた途端の申し出。しかも、アリサがそれを肯定したため、小次郎がそれを断ろうとすると、すかさずアリサが、疲れたから寝る、と言って断るキッカケを無くしてしまったのだ。

(あの時の娘、女狐と同じ匂いがしておった。まこと女というのは油断ならん)

 立ち去る時のアリサの顔を思い出し、小次郎はそう断じた。その顔は笑っていたのだ。どこからか「にひっ」と聞こえそうなぐらいに。

 そうやって笑うアリサと、キャスターの笑みが重なり、知らず小次郎は懐かしむように笑みを浮かべる。そんな彼を、朝日だけが見つめていた……。


お嬢様と傾奇者のファーストデイズ




「いい天気ね!」

 窓を開け、伸びをし終えて、アリサはそう言い切り、着替えを手に取る。
本来なら、大財閥の令嬢ともなれば手伝い等をするメイド等がいてもおかしくないのだが、バニングス邸には、いやアリサの周囲にはそのような者は敢えて付けられていなかった。
 アリサが望まなかった事と、両親の教育方針でもある『人の上に立つならば、立たれる者の気持ちを知れ』の精神で、アリサは同年代の子が自分でする事は全て自分でこなすように育てられていた。

 着替えを終え、アリサはすぐさま部屋の外へと出た。そして出迎えた鮫島に、挨拶もそこそこにこう尋ねた。

「小次郎はどこ?」



 アリサが捜しているとも知らず、小次郎は庭を散策していた。柳洞寺にいた頃は山門から動けず退屈していた事もあり、自由に動き回れる事に、小次郎は喜びを噛み締めていた。
 それに、バニングス邸は西洋式の庭園であった事もそれに拍車をかけた。日本庭園にはない味を、雅を感じながら小次郎は歩く。

「いささか侘び寂びが足らぬが、これはこれでまた良いモノよ」

 小次郎が特に気に入ったのは庭の中心にある噴水だった。枯山水とは正反対の発想に、小次郎は驚きと感心を抱いたのだ。

「水をこうも惜しげなく……贅沢ではあるが、これもまた文化の違いか」

 ま、雅には違いないと呟き、そろそろ屋敷に戻ろうとして――――その動きが止まった。

 そこには、仁王を思わせるような雰囲気の腕組みしたアリサの姿があった。無論、小次郎にとってアリサがそんな姿勢をした所で、脅威でも何でもない。だが、その目に宿った光が小次郎を止めるに至った。

「勝手にウロウロするなぁぁぁぁぁ!――はぁ――はぁ――っおかげで、庭を走り回るはめになったじゃないっ!!」

 鮫島から小次郎が庭にいると聞いたアリサは、早速とばかりに庭に出たのだが、小次郎は既に戻り始めていたため、庭をほぼ一周するはめになった。
 勿論その最中に何度も、どこかに行ってしまったんじゃないか?と言う不安を抱き続けて走る事にしたのだが、その疲れと苦しみを全て小次郎へと叩きつけたのだ。

 そんなアリサの剣幕も、小次郎には微笑ましいものにすぎない。それどころか、面白がって顔に笑みさえ浮かべて答えた。

「それは健脚であるな。幼子にしては大した者よ」

「幼子って呼ぶな!名前で呼べって言ってるでしょ!居候なんだから少しは言葉ってもんを……」

「はて?私は構わぬと言ったものを、礼だと言って連れてきたのはそなたではなかったか?」

 どこか嬉しそうに問いかける小次郎の言葉に、アリサは答えに詰まる。小次郎が言っている事は事実。目の前の侍は、確かに礼には及ばないと言った。それを強引に連れてきたのは自分である。ならば、小次郎の立場は居候ではなく、客人が妥当になる。
 幼いながらも、アリサはそこまで考え、そして悔しがった。それはもう誰の目からも明らかな程に。

 俯き手を握り締めているアリサを、小次郎は楽しそうに見つめる。昨夜のお返しにと、少しばかり大人気なく理屈で攻めたのだ。しかし、アリサはいかに頭の巡りが良いとはいえ、まだ子供。小次郎も、少しやり過ぎたかと思ったその瞬間。

「男のくせに細かい事気にするなぁぁぁぁっ!」

、アリサが吠えた。それはもう見事に。獅子か虎かと思わんばかりの咆哮だった。
その声に、小次郎は確かに空気が震えるのを感じた。その証拠に、表情は唖然としている。そして、耳鳴りが小次郎を襲い、頭を鈍く痛めつけた。

 肩で息をしながら、アリサはどうだと言わんばかりに胸を張る。その光景を眺め、小次郎は思う。
ああ、この女子は虎の子か、と。だから髪が黄金色をしておるのかと納得した。

「と・に・か・く!もう朝食の時間なんだから、早く来なさいよ」

「承知した。さて、異国の朝餉はいかなモノか」

「だから、ウチを異国扱いするのやめなさい」

 並んで歩く二人。時代がかった姿の小次郎と西洋人形の如きアリサの組み合わせは、違和感を感じさせながらも、どこかしっくりくるものがあった……。



用意された朝食は洋風。パンにスープ、サラダにベーコン。それにサニーサイドアップと呼ばれる半熟の目玉焼きが並んでいた。
 一般的なメニューには、昨夜の食事を小次郎があまりにもあれこれ聞くものだから、アリサの母が誰でも知っている方が、気を遣わずに食べられるだろうと、そう手配してくれたのだが……。

「この汁物は?」

「コンソメよ。野菜や鳥なんかを一緒に煮込んで作るはずよ」

「この菜物の盛り合わせは?」

「サラダ。色んな野菜を食べ易い大きさにして、ドレ……タレをかけて食べるの」

 ほらこれとアリサに手渡され、小次郎はドレッシングのビンを眺める。日本語と英語が書かれたそれを、面白そうに小次郎は眺めた。
アリサはそれを横目で見やり、ため息一つ。母の気遣いは、どうやら無駄に終わったようだ。小次郎にしてみれば、アリサの家にある物全てが珍しい。純日本と呼べる物でない限り、小次郎の興味は尽きないのだ。

 だけど、とアリサは思う。知らない物を尋ねる時、小次郎の顔はどこか幼く見える。純粋に未知との触れ合いを楽しんでいるのだ。だから子供の自分にさえ、素直に聞く事が出来る。
 それに引き換え自分はどうだ。大人に負けじと物を知ろうとし、塾や習い事をし共に遊ぶ相手もなく、同い年の子とは違う生き方をしている。もし、自分が小次郎の立場なら、素直に子供に物を聞くなど出来ない。
 それはプライドが邪魔をするからだろう。小次郎にはプライドがないのだ。だからそう出来るのだと、アリサは結論付ける。それは大きな間違いなのだが、生憎それを指摘する事は誰にも出来ない。

「どうかしたか?」

「…へ?」

「何やら思い詰めた顔をしておったのでな」

 そう言って小次郎はスープを啜る。れっきとしたマナー違反だが、日本人たる小次郎にそんな事は関係ない。
両手で皿を持ち、静かに啜るその姿はどこか浮いていた。ちなみに、小次郎の手元にもスプーンやフォークは置かれている。
 その光景を見て、アリサは頭を抱える。

(教える事が多すぎる!)

 物の名前や使い方。果ては文化やマナー等、これではまるで先生ではないか。そう思った時、アリサの脳裏にある提案が閃いた。うまくいけば、自分を子供扱いする小次郎に一泡吹かせられる作戦を。



以下、アリサのイメージです。


「いい、小次郎。あんたは外国の事を知らなさ過ぎ」

「ふむ」

「だから、アタシが教えてあげるから感謝なさい」

「おお、それはかたじけない。よろしく頼む」

「うむ!じゃ、これからアタシの事はお嬢様と呼びなさい」

「畏まりましたお嬢様……これでよいか?」

「よいよい。苦しゅうないぞ~」



「これだ!」

 アリサがそう思い、小次郎に声を掛けようとした時には―――。

もう小次郎の姿はなかった。

 慌てて周囲を見渡すも、小次郎の姿はどこにもない。見れば、小次郎の食事は綺麗に平らげられていた。
 なら外か。そう結論付け、席を立って食卓を後にしようとした所で―――。

「なんだ。もう食べぬのか?」

 もったいないと言いながら、小次郎が厨房の方から現れた。その手にしているのはコンソメが並々と入った皿。
呆気に取られるアリサを横切り、小次郎は静かに席に着く。そして先程のようにスープを啜り出す。一切ぶれる事のないその所作に、アリサは感心すら覚え始めていた。

 そんなアリサを小次郎は一瞥すると、視線をアリサの食事へ向ける。それは、アリサに食べないのかと言わんばかりであった。
それに気付き、アリサも席に着く。残っていた食事を下品にならない程度に急いで食べ、アリサは隣へと視線をやる。
 小次郎はゆっくり味わうようにコンソメを飲んでいた。その表情は心なしか嬉しそうだった。

「そんなに気に入ったの?」

「うむ。先程板前に聞いてきたが、そなたの言う通りの作り方であった。大地の恵みをふんだんに煮込んで作るとは、贅沢よな」

 そう答え、小次郎は空になった皿を見つめる。アリサの気のせいだろうか、その横顔がどこか悲しそうに見えたのは。
声を掛けようにも、その悲しみは深い事が分かる。そうしてアリサが迷っていると、小次郎が口を開いた。

「しかも色が琥珀とくれば、目にも雅なモノよ。大地の恵みに人の知恵、二つの結晶には恐れ入る」

 まさに珠玉の一杯よ。そう語る小次郎は、既にいつもの小次郎であった。
アリサはそれに安堵するが、同時に先程見せた表情が気になって仕方なかった。

 アリサは知らない。小次郎は元々百姓の出で、佐々木小次郎等という存在ではなかった事を。元百姓だからこそ、己の現在を鑑みて、その不条理さに思いを馳せたのを。
 今のアリサには、知る事が出来なかった……。



 食事を終えたアリサは、さっき思いついた提案を小次郎へ告げた。
それを聞き、願ってもないと応じる小次郎。と、ここまではアリサのシナリオ通り。だが、そうは簡単に運ばないのが世の中というもの。

「じゃ、これからはアタシを―――」

 お嬢様と呼びなさい。そう続けようとした。だが、それを遮るように小次郎は言った。

「わかっておる。ちゃんとありさと呼べばよいのであろう?」

 小次郎の言葉に、アリサは何も言えなくなった。名前で呼べと言ったのは自分だ。なら、この流れでそう言われてもおかしくない。
しかし、その顔にはありありと怒りが浮かんでいた。発音が違う。それが怒りの訳。だが、小次郎は気付けない。西洋の言葉も、一部を除き片言に近いのだ。

「如何したありさ。名前で呼んではならぬのか?」

「それでいいけど、そうじゃな~~~~いっ!!」

アリサの心からの絶叫は、屋敷全体に響き渡ったのだった……。




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ファーストデイズ三本目です。

おそらく、五組の中で一番漫才のような関係になるこの二人の話。

書いてて、一番難しいですが、楽しくもあります。

本編突入前の日常編は、今の所各組二話を予定しています。




予定=未定(汗



[21555] 0-6 ファーストデイズ(H&A)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/08 13:21
 淡く太陽がアスファルトを照らし、その日差しを浴びながら新聞配達人が駆けて行く。そんな朝が動きだす音で、アーチャーは目を覚ました。

「む、少し寝すぎたか?」

 そう小さく呟き、隣の少女に視線を移す。そこには、安らかな寝息をたてて眠るはやてがいた。

 あの後、詳しい話は明日にしようと告げ、アーチャーは居間で寝ようとしたのだが……。

「一緒が、ええんやけど……」

 そう消え入る声で言われてはしょうがない。アーチャーは渋々ながら、はやての要望に応じる事にした。
その際、こんなやりとりがあった……。



「わかった。ただし、今回だけだぞ」

「え~、ええやんか。私が大きくなるまで一緒に寝よ?」

「一応聞くが、大きくとはいくつまでだ?」

「十二!」

「断る」

「ぶ~」

「膨れてもダメなものはダメだ」

「ケチ、アホ、イジワル、人でなし、カイショウナシ、ドロボーネコ、ウワキモン!」

「待て。今、最後の方は聞き捨てならぬものがあったぞ」

「お昼のドラマでよ~聞くんよ。ちょう意味は知らへんけど」

「……そのドラマは君には早い」



 そのやりとりを終え、ベッドにはやてと共に横になるアーチャーだったが、興奮しているのだろう。はやては一向に眠る気配なく、アーチャーの腕に抱きついて質問を続けていた。

 どこの出身等のアーチャー自身の事から、明日はどうすると言った事まで様々だ。相手をしていればその内眠るだろうと、アーチャーは思っていたが、その勢いが弱まる事がなかったため、ある提案をした。

 それは、朝自分より早く起きたら、質問に何でも答えると言うモノ。はやてはそれを聞き――わずか三分で寝た。
それを見て、アーチャーは苦笑すると共に、何があっても負けられないと決意したのだった。

「さて、食事の支度でもするか」

 寝息をたてるはやての頭を軽く撫で、アーチャーは静かに部屋を後にするのだった……。



夜天の主と弓兵のファーストデイズ





 八神家のキッチンに佇むアーチャー。その背からは、戦場を詳細に観察するかの如き雰囲気が漂う。否、ここは戦場なのだ。
彼にとって、家事それも料理とはまさに戦いと呼べるもの。故に、敗走はなく、必勝こそが彼の必然。
 しかし、彼はキッチンをしばし眺めて呟いた。足りんな、と。

 彼の腕を十全に振るうためには、この調理器具だけでは力不足。ならば、どうするのか?簡単だ。ないのなら、創ればいい。

「投影、開始」トレース オン

 自分にとって言い慣れた言葉と共に魔術回路が動き出す。そして、アーチャーの手から―――。

「ふむ、こんなところか」

 包丁や鍋などが手品のように現れていた。それらは世間では高級品と言われるモノばかり。どこかの万年金欠宝石少女がいれば、間違いなく売り飛ばして資金にする事請け合いの光景だ。
 アーチャーはそれらと元々あったものと交換する。そして、それらを邪魔にならぬよう収納スペースへ入れた。

(彼女の母親の形見かもしれんしな)

 捨てずにしまったのはそれが理由。この家について、アーチャーは知らぬ事が多すぎる。それもあって、彼は手始めとばかりに食事を作ろうとしていたのだが、冷蔵庫の中を見て固まった。

 そこには、飲み物や調味料以外何も入っていなかったのだ。まさかの事態に、さしもの皮肉屋も沈黙した。そして、彼はゆっくり冷蔵庫の扉を閉じた……。

 はやては一人で暮らしている。そして、車椅子での生活。おそらく食事等は配達で賄っているのだろう。そう判断し、アーチャーはその顔を歪ませる。早朝から開いているスーパーはあるにはある。だが、それがどこにあるかわからない今、どうする事も出来ない。だからといって諦めるのは許されない。何もせずに諦めるなど、彼には決して出来ない結論だからだ。

「不本意ではあるが、それしかあるまい」

 苦渋に満ちた声。活路はある。だが、それは彼の中では苦肉の策。

「時間は有限。ならば、急ぐとしよう」

 そう結論を出し、彼は静かに走る。はやての部屋へ消え、即座に戻り玄関へ向かう。そしてドアを開け、閑静な住宅街を駆けるアーチャー。幼き少女のため、そして己の信念のために!



 包丁が野菜を刻み、軽快な音を響かせ、コンロにかけられた鍋が僅かに震えている。黒い無地のエプロンを着け、無言でアーチャーは調理をしていた。
 彼が向かった先はコンビニエンスストア。最近は生鮮食品も扱っていた事を思い出し、何軒か梯子したのだ。結果として食材は手に入ったものの、その鮮度などは納得のいくものではない。しかし、しかしである。

(食材を生かすも殺すも腕次第。ならば、私の腕で足りぬ分を補えば済む事っ!)

 無論、目利きをし、少しでも状態の良いものを選んではきている。ギリギリ及第点なら、後は工夫と技術で勝負。それがアーチャーの結論。持てる全てをぶつけ、彼はこの調理に挑んでいた。



 一方、静かな死闘が行われているキッチンから離れたはやての部屋。心地良い眠りに浸っていたはやてだが、漂ってくる匂いと音に意識が覚醒し始めた。

(あれ……?ええ匂いや……お出汁の匂いやな。この音は……包丁か)

 そこまでぼんやりと思い、次の瞬間目が覚めた。誰がこれをしているのか。そして、それが何を意味するのか。

「負けてしもた……」

 聞きたい事は山ほどあった。でも、答えてくれないかと思うような事もある。だからこそ、アーチャーに勝って色々聞こうとはやては意気込んでいたのだが、結果は見事に惨敗だ。
 しかし、どうやってアーチャーは料理をしているのだろうとはやては思う。食事は宅配にしているから、冷蔵庫には使える物は何もないはずだ。それに、買うにしてもスーパーはまだ開いていないし、お金も持ってるとは思えない。

 それだけ考え、はやてはまず着替える事にした。身体をベッドから動かし、車椅子へ。そして、タンスの中から着る物を引っ張り出していく。

(でも、朝ご飯かぁ……。こんなに楽しみなんは久しぶりや)

 知らず鼻歌混じりに着替えるはやて。そんな時、ドアがノックされ―――。

「起きたのか、はやて。何か手伝う事はないか?」

 アーチャーの声がした。開けない所に、彼の気遣いが見える。はやては少しビックリしながらも、笑顔で答える。

「特にないわ。おおきにな、アーチャー」

「そうか。なら、顔を洗ったらテーブルに着いてくれ。食事の用意が出来ている」

「うん。すぐ行く」

 はやてがそう答えると、アーチャーは待っていると言い残し、またキッチンへと戻っていった。その足音を聞きながら、着替えを再開したはやてだったが、視界が滲んでいる事に気付いた。
 どうしてと思った時、はやてが思い出したのはアーチャーの一言。

―――待っている。

 両親を亡くして以来、一人で済ませていた食事。それが、今日からは違う。自分を待ってくれる人が、食事を作ってくれる人が、『家族』がいる。それが、涙の理由。昨夜から出来た新しい同居人、アーチャー。彼は自分の『家族』になると言ってくれた。それが、こんな形で証明されるとは、はやては思っていなかった。

(神さまに謝らなアカンな。アーチャーと会わせてくれて、ホンマにありがとうございます)

 両親を亡くした日、はやてはなぜ自分も一緒に死なせてくれなかったのかと、神を恨んだ。たった一人で生きていく。それが幼い少女にどれ程辛い事かは、言葉に出来ない。だが、神ははやてを見捨てなかったようだ。

(でも、もしかしたら恨んだからアーチャー連れてきたのかもしれん)

 はやての脳裏に、手を合わせ謝る白髭の老人の姿が浮かぶ。そして、そんな事を思って笑いながら涙を拭う。許してやろう。相手はよぼよぼのおじいちゃんなんやから、とはやては思い、また笑う。そして、車椅子を動かし洗面台へと向かうのだった……。



 用意された食事に、はやては目を疑った。豆腐の味噌汁、だし巻き卵、ほうれん草のおひたしに焼き海苔と、実に純和風の献立が並んでいたのだ。ただ、白米だけは既製品をほぐしただけのようだが。それでも驚くはやてに、アーチャーは語る。
 自分がもっとも得意とする和食を作る事は、夜の内から決めていた事を。そして、食材を揃えるためとはいえ、申し訳なかったがはやての財布を借りた事を。けれど、自分が苦労した事などは一切触れない。はやての性格を、アーチャーは既に把握し始めていたからだ。下手な事を言えば、顔を曇らせてしまう。だからそれらの事を聞き、はやてが笑った時、アーチャーも笑った。

「ま、御託はこれぐらいにして、まずは食べてくれ」

「せやな。いただきま~す!」

 後にはやては語る。あの時の衝撃は、一生忘れないと。

「う……」

 だし巻き卵を口にし、はやては固まった。その反応に、僅かだがアーチャーにも緊張が走る。秒針の音だけが、静かに響く。どちらも微動だにしない。ややあって、はやての口が咀嚼を再開する。心なしかゆっくりに見えるそれを、アーチャーは真剣な眼差しで見つめる。
 今ならば、ランサーの動きさえ見切るのではないかと言わんばかりの眼力で。

 やがて、名残惜しそうに嚥下するはやてを、アーチャーはただ黙って見守る。

「ど……」

「……ど?」

 ゴクリと息を呑むアーチャー。想像と違う言葉に、その顔は戸惑いを隠せない。

「どうしてこんなに美味しいんや~~~~っ!!」

 はやての絶叫に、アーチャーは小さく安堵し、笑みを浮かべる。

「当然だ。私にかかれば、この程度の味など造作もない」

 すまし顔で語るアーチャー。その表情からは、絶対の自信が溢れている。そんなアーチャーを無視し、はやては既に他の物を食べ始めていた。それも、美味しいと目を輝かせながら。その光景を見て、アーチャーはただ嬉しそうに微笑むのだった。



「ホンマにアーチャーは料理が上手いんやなぁ……」

 食後のお茶を飲みながら、ぼんやりとはやては呟いた。その視線の先には、食器を洗うアーチャーの姿がある。本当は色々話しながら食べようと思っていたのに、あまりに美味しい食事に会話も忘れて食べ続けてしまった。結局、話は片付けが終わってからになった。

 後片付けをしているアーチャーを見ながら、はやては思う。

(意外とガンコなんやな、アーチャーって。今日は全部自分でやる!なんて……)

 手伝いを申し出たはやてに、アーチャーはこう断った。

「気持ちは嬉しいが、今日は私に全てやらせてほしい。なにしろ、久しぶりの事なのでね。勘を取り戻しておきたい」

「でも……」

「その代わり、明日からは頼む」

 そう笑みと共に言われては、はやても引き下がるをえない。仕方ないのでお茶を淹れ、こうしてくつろいでいるのだが……。

(なんや、変な感じやな。まるで歳の離れた兄妹や)

 そんな事を思い、はやては笑う。そして、もしここに両親がいたらなどと思ってしまう。
屈託なく笑う母と微笑む父。二人に手をつながれて歩く自分。それを後ろから呆れながらもついてくるアーチャー。
 そんな光景を幻視し、はやては瞼を強く閉じる。涙がこぼれないように、アーチャーに気付かれないように。
そんなはやての肩に、何かが触れた。

「どうした。埃でも目に入ったか?」

 アーチャーの手だった。その問いに無言で首を横に振るはやて。声を出さないのは、それで分かってしまうと思ったからだろう。しかし、アーチャーには無駄な事だった。
 彼はそれだけで何かを悟ると、笑みを浮かべて語り出した。

「はやて、君は確かこう言ったな。私と『家族』になってほしいと」

 無言で頷くはやて。それを確認し、アーチャーは続ける。

「なら、我慢しないでくれ。言いたい事なら言えばいい。やりたいならやればいい。ダメならそう言うし、出来るのなら力になろう」

 支え合い分かち合うのが家族だから。まるで、一人で抱え込むなと言っているようなその言葉に、はやては涙が止まらなかった。抑えていた声も、もう限界だった。
 流れる涙も拭わず、ただアーチャーの手の温もりを嬉しく思いながら泣いた。そんなはやてを、アーチャーは黙って見つめた。今必要なのは、言葉ではない。自分以外の温もりなのだと、アーチャーも知っているから。

 こうして、二人は『家族』としての第一歩を歩き出す。二人は知らない。その姿を、一匹の猫が注意深く見つめていた事を……。




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ファーストデイズ四本目。

はやてがおマセになった理由は、良くも悪くも保護者がいなかったからだと俺は思います。

さて、いよいよ次がファーストデイズ最後の一組!

……意外と早かったなぁ、ここまで



[21555] 0-7 ファーストデイズ(N&S)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/08 16:18
 突然だが、セイバーは困っていた。最優のサーヴァントとして名高きセイバーが、なす術なく固まっている。そんな状況を作りだしているのは、なんと――――。

「ふみゅぅ……」

 なのはだった。その手はセイバーの服(苦労して鎧だけを消した)の袖をしっかりと掴んでいる。
早朝に目覚めたセイバーだったが、身体を起こそうとして、この状況に気付いた。振りほどくにも、強く掴んでいる以上、下手をすれば起こしかねないと判断したのだが、ずっとこのままという訳にもいかなかった。

(退屈なのですが……何かないでしょうか)

 元来体を動かす事が好きなセイバーは、この状況が中々辛い。必要であれば平気だ。自分は王を務めていた事もある。その程度は造作もない―――はずなのだが。

 ただ何もせず、じっとしているのは耐え難い。本を読もうにも動けないし、瞑想しようにも正座も出来ない。
まさに進退窮まったその時、家の中の気配が動くのを感じた。しかもただの気配ではない。それは戦士の類だとセイバーは知っている。

(この家の気配は、なのはを除き三つ……その内二つがソレとは)

 その二つの気配は、家を後にし、外へと出て行った。遠ざかる気配にセイバーは思う。なのはに聞く事がまた増えたと。
出会いの後、簡単な話(ここが日本である事と、海鳴という町である事)をなのはから聞き、時間を考えセイバーが寝る事を勧めた。そのため、セイバーは高町家の事を何も知らない。

「仕方ありません。私ももう少し寝ましょう」

 可愛らしい寝顔のなのはを見つめ、セイバーは笑みを浮かべるとその目を閉じる。そうやって眠ろうとするセイバーに、世界は残酷だった。

「さ、朝食の支度をしなきゃ」

 なのはの母である桃子が、普段よりも少し早くから食事の支度を開始。その音と匂いに、セイバーはすぐに目を覚ます事となったのだった……。



高町家と騎士王のファーストデイズ





 (何があったんだろう?)

 気持ちよく目を覚ましたなのはが見たのは、『待て』を極限までさせられている犬の様な雰囲気を発しているセイバーの顔だった。
そんな事を感じていると、そのセイバーと目が合った。

「あうっ」

「お早うございます、なのは」

 その視線の強さに、思わずなのははたじろいた。そんななのはの様子に気付かず、セイバーは挨拶と共に体を起こす。
全身から怒気とも呼べる空気を漂わせ、彼女はなのはを見据えた。その目は、昨夜よりも真剣だ。何を言われるのだろう。そうなのはが覚悟した時だった。

「朝食の時間です」

「へっ?……あ、そうだね」

「早く着替え、居間に行きましょう」

「そ……そうだね」

 セイバーの有無を言わさない雰囲気に、なのははただ頷くしか出来なかった。家族がセイバーの事を知らない事も忘れるぐらいに、今のなのはは動揺していた。それはセイバーも同様である。昨夜から今まで何も食べておらず、更には食欲をそそる匂いを一時間以上嗅がされていたのだ。そのため、騎士王は食いしん王に変化していた。

 急かすようなセイバーの視線を受けながら着替えを終えるなのは。それを確認するやなのはを抱き抱えて部屋を出るセイバー。声を出す事も叶わず、なのはは初めてのお姫様抱っこを同性にされるという、非常に稀有な体験をした。

「着きました」

「あ、ありがとうセイバー」

 唯一の救いは、家族がそれぞれ用事があり、居なかった事か。恭也と美由希は学校の日直、桃子は士郎の世話と出掛けていて、テーブルには桃子の字で「あたためて食べてね」と書いてあるメモが一枚と、ラップをかけられたまだほのかに暖かい料理の数々。それをなのははどこか寂しそうに眺めるが、セイバーは既に今か今かとなのはを待っている。そんなセイバーに、なのはは犬の姿を再び重ね、笑みを一つ。

「セイバーは座ってて。私がご飯よそうから」

「わかりました。では、大盛りでお願いします」

「にゃはは。あ、ラップ取ってくれるとうれしいな」

「ええ、心得ています」

 そんなセイバーを横目に、なのはは茶碗を取り出す。自分用のものと、父の使っていたものを手にジャーを開け、ご飯をよそう。
それをそわそわしながら待つセイバー。そして、なのはから茶碗を受け取り……。

『いただきます!』



 食事は比較的早く終わりを告げた。元々なのは分しかご飯がなかった事、セイバーが凄まじい速度で御代わりした事が重なり、ご飯が綺麗になくなったのだ。
 空の御釜を見せられた時のセイバーは、まさに青天の霹靂といった顔を浮かべた。なのははそれを見て、乾いた笑いを浮かべるしかなかった。

 食後のお茶(これはセイバーが淹れた)を飲みながら、なのははセイバーに様々な事を話した。家族の事、家庭の事、自分の事。それをセイバーは黙って聞いてくれた。時に脱線し、思い出話になっても遮る事無く相槌を打ち、言葉に詰まりそうになるなのはをただ優しく待ち、全てを話し終えた頃には、お昼近くになっていた。

「……よくわかりました。なのはは、お父上が良くなってくれれば、また家族で過ごせるのですね」

「うん。お母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも、お父さんがにゅういんしてるから、なのはの相手ができないんだと思うの」

 どこか悲しそうに答えるなのはに、セイバーは何かを決意すると静かに立ち上がる。

「なのは、その病院に行きましょう」

「え?なんで?」

 突然の申し出に、なのはは目を瞬かせる。自分が行っても邪魔になるだけ。その考えが脳裏をよぎる。そんななのはの思考を読み取ったのだろう。セイバーは微笑むと、力強く断言した。

「私にいい考えがあります」



 セイバーと共に、なのはは聖祥大付属病院へとやってきた。見舞いには何度か来ていたため、道に迷う事はなかったが、セイバーの格好が目立ったせいで道中好奇の目で見られた。
 二人は士郎のいる病室へと向かう。なのははセイバーに、道すがらどんな事をするのかと尋ねたのだが、セイバーは答えてはくれなかった。ただ、任せてほしいとだけ告げて。

 病室のドアの前に立ち、なのはは恐る恐るノックする。そして意を決して声を掛けた。

「なのは、だよ。入るね」

「えっ?なのは?」

 想像もしない娘の来訪に驚く桃子。その声に若干の罪悪感を感じるも、肩に置かれたセイバーの手に勇気を出してドアを開ける。
そこには、こちらを見て驚く両親の姿があった。
 生死不明の重症を負いながらも、不屈の精神で一命を取り留めた士郎だったが、意識は取り戻したものの未だに退院のメドは立っていない。そんな夫を献身的に支える桃子。それを聞いたセイバーは、なのはにイリヤスフィールの姿を重ね、ここまで来たのだ。

 愛娘と共に現れた金髪の少女に、二人は言葉を失うが、セイバーは出来うる限りの柔らかな声で自己紹介を始めた。

「初めまして。私はセイバー、なのはの友人です。今日はお父上のお見舞いに来ました」

 その言葉に再び両親は驚く。家から出た事がないはずのなのはが、年上の、それも外国人の友人を作った事に。一方のなのはは、セイバーの友人という言葉に喜びを隠せず、満面の笑顔だった。
 簡単な挨拶だったが、娘の初めての友人が見舞いに来てくれた事に士郎も桃子も笑みを浮かべて歓迎した。そして、セイバーは先程までの表情を変え、真剣な面持ちでこう切り出した。

「そして、その怪我を直しにも」

 セイバーはそう言うと、その手を掲げて呟く。

「全て遠き理想郷」アヴァロン

 次の瞬間、眩い光がセイバーを包み、その手に何かが現れる。それは聖剣の鞘にして、万物から身を守るセイバーの切り札。
セイバーが死後辿りつくと言われている理想郷の名を冠した癒しの力。

 何が起きたのか戸惑う三人。セイバーはそれを気にも留めず、アヴァロンを士郎の体に置く。やがて淡い光を放ち、士郎を輝きが包む。それを見ながら、桃子もなのはも動けずにいた。その光はとても優しく、暖かな気持ちにさせてくる。そんな印象を受け、ただ黙って見守る二人。そして、輝きが消えた先には、何も変わらぬ士郎の姿とアヴァロンがあった。

 だが、目に見えぬ変化は起きていた。

「……痛みが消えた……?」

 信じられないとばかりに呟く士郎。そして、ゆっくりと起き上がり、自身の体を動かし始める。それを見て、セイバーは笑みを一つ浮かべアヴァロンを回収する。やがて、完全に直った事を理解した士郎が桃子に笑顔を向ける。それで全てを理解したのだろう。桃子も両目から涙を浮かべ、その胸に飛び込んだ。
 互いに涙を浮かべ抱き合う両親の姿に、なのはも知らず涙を浮かべる。そんななのはに、セイバーは優しく寄り添うのだった……。



 両親に手を繋がれ、嬉しそうに歩くなのは。それを見つめ、微笑むセイバー。
あのすぐ後、士郎は担当医を呼び、退院したい旨を告げた。無論、そんな事が許される訳はないのだが、士郎たちの懇願と根気についに病院側も折れ、退院の運びとなって現在に至る。

「ね、お父さんお母さん。お願いがあるんだけど」

 なのはの声に、士郎は分かってると言わんばかりに笑みを浮かべる。桃子も同様だ。

「セイバーちゃんの事だろ?」

「勿論いいわよ」

「部屋をどうするかだな」

 なのはの言葉を待たずして、二人はそう言って考えを巡らせる。驚いたのはセイバーだ。まさかこんなあっさりと結論を出されるとは思っていなかったからだ。

「ま、待ってください!貴方達はそれでいいのですか!?」

 それは暗に、あんなものを見ても何も聞かないのかと言っていた。それを感じたのだろう。士郎は真剣な眼差しでセイバーを見る。

「確かに色々と聞きたい事はある。でも、それは君が話したくなったらで構わない」

「そうよ。不思議な光景だったけど、それが?貴方はなのはのためにああしてくれた。それに、大切なのはあれが何なのかって事じゃなくて―――」

 セイバーちゃんがなのはのお友達って事よ。そう言って、桃子はセイバーに微笑む。それに士郎も応じ、微笑みを向ける。なのはも微笑み、セイバーを見つめる。三人の笑顔に、セイバーは一瞬呆気に取られるが、何かを思い出したのか笑みを浮かべ、答えた。

「そうですか。ならば、貴方達の気持ちに感謝を……」

「そんな固い態度はなし。これから一緒に暮らすんだから。私、桃子よ」

「そうだな。俺は士郎。士郎で構わないよ」

 二人の雰囲気にセイバーは面食らうが、士郎の名を聞いた時に軽い驚きを見せると、小さく呟く。

「何かの縁なのでしょうか……。よもやまた『シロウ』をアヴァロンが癒すとは……」

 そんなセイバーに、三人は顔を見合わせる。どこか懐かしむような顔に遠い視線。そして、そこはかとない哀しみを湛えた雰囲気に、何か気になる事でも言ったのかと思ったからだ。
 そんな三人に気付かず、セイバーはそうしてしばらく立ち尽くす。そんな彼女を現実に引き戻したのは、自分の体が訴える空腹の声だった。
恥ずかしがるセイバーに、笑いながらも早くお昼の支度をしないと、と歩き出す桃子。それに苦笑しながら同意する士郎となのは。
 そうして歩き出す四人の顔に浮かぶは満面の笑み。仲良く歩く親子と、それを眺めて微笑む少女。誰が見ても、幸せそのものの光景がそこにはあった……。



おまけ

 ただ沈黙のみが支配していた。呆気に取られる士郎と桃子に、苦笑いのなのは。そして……。

 もくもくと食べ続けるセイバー。その勢いは止まる事を知らず、既にご飯は四杯目だったりする。

「―――モモコ、御代わりを」

「え、ええ」

―――まだ食べるのか!?

 そんな心境で見つめる士郎に、もう開き直ったのか笑みさえ浮かべる桃子。ちなみに、なのはも士郎も既にセイバーの食事を見守っている。
そして、桃子が茶碗を持ち、ジャーを開けて……動かなくなった。
 どうしたのかと思うセイバー。だが、残りの二人には想像が出来た。

「ごめんなさい。もう、なくなっちゃって……」

 夕食時と同じぐらい炊いたのに、と呟く桃子。それにセイバーは驚きのち照れの表情だ。士郎はそんなセイバーに笑みを浮かべ、なのはも笑う。

「これは、もう一つジャーを買った方がいいかしら?」

「そうだな。それにセイバーの服なんかも必要だし」

「じゃあ今度のお休みにみんなで買い物に行こう!お兄ちゃんやお姉ちゃんも一緒に!」

 はしゃぐなのはに、笑みで応じる士郎と桃子。セイバーはそれを聞き、辞退しようとするが踏み止まる。なぜなら―――。

「みんなでお出かけするの、楽しみだなぁ」

 そんな風に笑うなのはを見たから。そして、その『みんな』に自分も入っている事を理解したから。

(それでは、友ではなく家族ですよ、なのは)

 そんな事を思いながらも、セイバーの顔はどこから見ても嬉しそうだった……。




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ファーストデイズラストでした。

これで各組の初日は終了です。

次からは本編準備編となります。

ランサーとアーチャーが重要です……(書く事多くて)



[21555] 0-8-1 とある一日(S&R)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/09 10:53
「ライダーは聞いた?」

 突然の忍の言葉に、紅茶を注ぐライダーの手が止まる。

「何をですか?」

「すずかが喧嘩の仲裁したって事」

 忍の意外そうな表情に、ライダーは笑みを浮かべて応じる。そう、ライダーは知っていた。すずかが喧嘩を止めた事も、それがキッカケで友人を作った事も。昨夜、寝る前の他愛のない雑談の際、本人から聞かされたのだ。
 だから、ライダーは知らないであろう忍に、取っておきの情報を教える事にした。

「ええ。それに友人が出来た事も」

「へえ、そうなんだ」

「アリサとナノハと言うらしいですよ」

 その顛末を話していた時、すずかはこの上なく上機嫌だった。ライダーに何度も何度も語っては、嬉しそうに名前を呟いていたから。
そして、今日はその一人であるアリサの家へ遊びに行っている。
 出掛ける際のすずかの笑顔は、ライダーにも分かる程に輝いていた。

 ライダーの話に、忍は笑みを浮かべると、手にした本を閉じる。そして、残っていた紅茶を飲み干し空を仰ぐ。

「仲良くしてるかしら?」

「スズカなら大丈夫でしょう」

 即座に答えたライダーに忍は苦笑しながら、それもそうかと呟くのだった……。


月村家と騎乗兵のとある一日



 帰宅したすずかは、夕食後にやや興奮気味にバニングス邸での事を話した。自宅に負けぬような邸宅だった事、SPと呼ばれる人達がいた事、洋風の庭なのに、和服(作務衣)を着た小次郎と言う専属庭師がいた事等、話題は尽きなかった。
 ライダー達はそれを嬉しそうに聞き、すずかの話に相槌を打つ。今度は自宅に呼びたいと言うすずかに、ノエル達が笑みを見せる。

「では、屋敷の大掃除をしなければいけませんね」

「後は庭の手入れも重点的に、ですね」

「ファリンはあまり張り切らぬ方がいいと思いますよ」

 かえってドジを踏みますから。そう断言するライダーに、ファリン以外が笑う。言われたファリンは、拗ねた表情でライダーを睨む。それを見て忍が放った子供みたいとの一言で、ファリンが叫んだ。

「忍お嬢様ぁ~~!」

 怒り心頭のファリンに、忍も謝るが笑っていてはしょうがない。ノエルが嗜めるがどこかノエルも楽しそうだ。ライダーはそんな光景を眺め、視線をすずかへ移す。
 すずかも笑みを浮かべ、三人を見つめている。だが、ライダーの視線に気付いたのか、視線をライダーへと移した。

「どうかした?」

「いえ、賑やかだと思いまして……」

 どこか懐かしそうに答えるライダー。その声に、すずかは答える。

「ライダーが来てからだよ?こんなに賑やかなのは」

 すずかの言葉が意外だったのか、ライダーは驚いた顔ですずかを見つめた。それを微笑ましく思い、すずかは笑みを返す。
ライダーが来てから、月村家には笑いが絶えない。以前からファリンと忍がムードメーカーだったが、ライダーが来て以来、それが余計に際立っていた。ライダーの的確な意見や鋭い指摘に、二人がリアクションを返すからだ。それにノエルやすずかまで笑い、それが更なる笑いに繋がる。

 今も、ファリンに詰め寄られて忍が困っているが、いつもなら仲裁役のノエルも、どこか楽しそうにそれに参加している。そんなやりとりを横目で見ながら、すずかは告げる。

「本当にライダーが来てくれてよかった」

 ライダーがもし居なければ、すずかはアリサやなのはと友達になれなかった。
その友人を得るキッカケ。それは、クラスの一人がアリサの髪の色をからかった事に端を発した……。



 クラスの自己紹介が終わり、担任の教師がいなくなった途端、一人の少年がアリサの髪を指差し、外人色と言い出した。無論、アリサはそれを無視していたが、あまりにもしつこいためについにアリサも我慢の限度を超えた。
 その少年へ無言で近付き、勢い良く蹴り飛ばしたのだ。たまらず後ろへ倒れる少年に、追い討ちをかけるようにアリサは言った。

「男のクセにしつこい!自分が日系色だからって、外人外人うるさいのよ!!」

 蹴られたショックで少年は呆然としていたが、自分が馬鹿にされた事は理解できたらしい。顔を真っ赤にして、アリサへ掴みかかろうとした。
だが、そんな少年を止めた者がいた。すずかである。

「ダメっ!気持ちは分かるけど、手を出したらいけないよ」

「そうだよ!それに、先に人を怒らせたのは君なんだから」

 少年を諭すすずかに、同調する声。それがなのはだった。なのははすずかの前に立つと、少年にこう言った。

「自分が嫌な事は人にしちゃいけないの。でも……」

 そこまで告げ、なのははアリサへ振り向く。その視線に、アリサは僅かに怯む。なのはは怒っていたからだ。

「嫌なら嫌って言わなきゃなの。言葉にしないと、何も伝わらないんだよ」

 はっきりと言い切るなのはに、アリサは言葉がなかった。そして、何かを考えた後、バツが悪そうに少年へ顔を向ける。

「わ、悪かったわ。その、蹴って……ごめんなさい」

 それを聞いて、すずかもなのはも笑みを浮かべる。少年も毒気を抜かれたのか、それに謝罪で応じた。そんな事があり、その後すずかは、なのはとアリサから少年を抑えた事を感心されたのだ。
 それにすずかは照れながらも、お返しとばかりになのはとアリサを誉めた。自分の意見をはっきり告げたなのはと、素直に間違いを認めて謝ったアリサを。そんなやりとりを経て、三人はそれぞれの名前を再確認し、友人となった。



 すずかは思う。あの時、少年を抑えなければ二人と友達になる事はなかったと。そして、あの時そう出来たのは、ライダーから勇気を貰ったから。何かを待つのではなく、自分で何かを起こす。その勇気をライダーからもらったから、動く事が出来たのだとすずかは思っていた。
 そこにすずかを現実へ引き戻す声が響いた。

「ねぇライダー、ちょっと助けてよ!」

 さすがに旗色が悪いと判断したのか、忍がライダーに助けを求めたのだ。それに、ライダーは口の端を歪めてこう言った。

「欲しい本があるのですが……」

 どうでしょう?と言わんばかりの声であった。ライダーは、月村家で養われているが、メイドとして働いている扱いにもなっている。そのため、週に一度僅かだがお金を貰い、書店まで本を買いに行っている。
 そのジャンルの雑多さに、すずかと忍も驚いたものだ。そして、今彼女が欲しがっているのは女性向けのファッション誌を始めとした三冊。なので、渡りに船とばかりに、ライダーはそう告げたのだ。

「い、いいわ。来週は二倍出す。だから――っ!」

 助けて。その言葉を言う前に、ライダーがファリンを取り押さえていた。正確には、二倍のにの音辺りで動き出していた。あまりの事に、忍もノエルも、当のファリンも言葉がなかった。
 ライダーは、ファリンの耳へ口を寄せると静かに囁きだす。

「ファリン、それぐらいでいいでしょう……」

「ら、ライダーお姉様……息が……」

「あまりシノブを困らせてはいけません。もう十分反省しています……」

「は、はい……」

「では―――後片付けは私とノエルがやりますので、ファリンはお茶を淹れてください」

 妖艶な雰囲気を一変させ、ライダーはそう言い放ち、食器を手に厨房へと消える。後に残されたファリンは、顔を真っ赤にして床に座り込んでいる。そしてノエルも後を追うように食器を手にして動き出し、すずかは呆然とそれを眺める。そして、呆気に取られている忍へ、ライダーが厨房から舞い戻り告げる。

「約束をお忘れなく」

 それだけ告げ、再び厨房へと消えるライダー。それを呆然と見送るすずかと忍。ファリンは小さく「脈拍が……血圧が……」と呟いているが、その顔がどこか嬉しそうに見えるのはきっと気のせいだろう。そんなファリンが再起動したのは、ライダー達が食器を洗い終わった後だった……。



 ファリンの淹れた紅茶を飲みながら、再び穏やかな雰囲気に包まれる月村家。それぞれの手には本があり、忍は工学関係、すずかは推理小説、ライダーが礼儀作法、ノエルは心理学、ファリンがドジをなくす百の方法であった。

 元々月村姉妹は読書家だった。それにライダーが加わり、読書の輪が広がったのだ。忍はライダーへ、ライダーはすずかへ、すずかが忍へと本を薦めあう事が盛んになった結果、月村家全体が読書家になっていった。
 ノエルはライダーのように感情溢れるヒトになるために、ファリンは初めは三人の話についていくためだったが、最近は自分を変える系の本を読んでいる。

「ね、ライダーはどんなジャンルが好きなの?」

「ジャンル、ですか……?」

 忍の問いかけに、ライダーは困ったように表情を曇らせる。ライダーにとって、好きなのは読書そのものであり、ジャンルにこだわり等ないのだが、最近特に読み漁っているものを思い出し、ライダーはそれを答える事にした。

「本屋さんがオススメするものです」

「は?」

「本のプロが読んだ方がいい、と宣伝されているものです」

 まさかのライダーの返しに、忍は言葉を失う。それは聞いていたすずかとファリンも同じだ。
戸惑う三人に、ライダーはおかしな事を言ったでしょうか?と言わんばかりの顔をする。
 そこへ、ノエルがピシャリと言った。

「ライダー、それはジャンルではなくコーナー名です」

 ノエルの突っ込みに全員が頷く。ライダーはそれに、そこまで大差ないと思いますがと不思議顔。だが、ノエルが首でそれを否定。
そんな二人だが、すずかは知っている。よく二人が互いに薦めあうのが、部下のうまい操縦法等の本である事を。
 そして、それを見てファリンが軽く凹んでいた事も。

「では、ノエルは何なのですか?」

「私は人間心理です」

「あ、私は恋愛小説です」

「私は……ま、ファリンと同じでいいわ」

「私はファンタジーかなぁ」

 ノエルの言葉を皮切りに、次々と好きなジャンルを告げていく月村家。それを聞き、ライダーは何やら悩みながら問いかける。

「私も……何か絞った方がいいのでしょうか」

「いいんじゃない?別になくても」

 あっけらかんと忍はそう告げた。彼女としては軽い雑談として聞いたのであって、ここまで大袈裟に捉えられるとは考えてなかったのだ。
だからこそ、忍はライダーに微笑みかける。

「だってライダーは、読書は好きなんでしょ?」

「……はい」

「なら、それでいいの。無理に話合わせようとしないで、ないならないって言ってくれればそれでいい」

 こんなの他愛のない家族の会話よ。そう告げた忍に、ノエルとファリンも頷く。すずかもライダーに笑って頷く。
その言い方に、ライダーは心に迫るものを感じた。この月村家に来て一月弱。まだそれだけしか経っていないのに、自分を家族と言い切る忍達に言い様のない感情を抱いたのだ。

(これが感動と言うのですか……?ああ、涙が溢れそうとはこんな気持ちなのですね)

 最後に泣いたのはいつだったか。そんな事を思いながら、ライダーは微笑む。その目に、微かに光るモノを浮かべて……。




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準備編一本目です。

読書のジャンル云々はホロウでもありましたが、あちらでは士郎とのやりとりに対し、こちらは四人となっています。

しかし、中々家族と呼べない衛宮家と違い、完全に家族の月村家では言う事がストレート。

家族、という言葉にライダーが感じたもの。それはきっと衛宮邸で知った温もりの更に上を行く『何か』だと思います。

……でもきっと、凛や士郎達だって忍と同じ事を思っていたと、俺は思っています。



[21555] 0-8-2 とある一日(A&A)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/10 11:32
 作務衣を着た長髪の男が、洋風の庭で作業をしている。その横に、アリサが寄り添うように立っていた。男の名は小次郎。なぜ作務衣を着ているかというと、あの格好は流石に目立つので、アリサがスーツと共に普段着(ここだけの話、作務衣姿の小次郎をアリサは気に入っている)として用意したのだ。

「ほう、友人が出来たか」

「そ、すずかとなのは。明日、早速すずかが遊びに来るから」

 なのはは予定があって無理らしいわ。そう告げる表情はどこか残念そう。そんなアリサを横目に、庭の植木を手入れしながら小次郎は笑う。その笑みにアリサは嫌なものを感じた。

「それは重畳。その娘にはここは虎の巣だと分かったか」

「誰がトラだぁぁぁ!たくっ、とりあえず粗相のないようにね」

 そう小次郎に告げると、アリサは屋敷へ戻っていく。その後姿に、小次郎は思う。

(余程嬉しいのであろうな。足取りが踊っておるわ)

 笑みを浮かべて植木に視線を戻し、小次郎は普段よりも更に丁寧に手入れをしていく。

 アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎。彼はなんだかんだでアリサに優しいのであった。



お嬢様と傾奇者のとある一日





 門の前で立ち尽くす一人の少女。彼女、月村すずかは、生まれて初めて自宅以外の豪邸を見た。その横で自慢げに立つアリサだったが、彼女は知らない。自分が月村家に訪れた際、まったく同じ反応をし、すずかに同じ事をされる事を。

「ま、こんなとこで立ってるのもなんだし、早く行きましょ」

「そ、そうだね」

 アリサについていきながら、すずかは辺りを見渡す。西洋風の庭は見慣れているが、それでも他人の家だとどこか違うように見受けられたからだ。だが、そんな中に完全に浮いている存在がいた。
 それは、枝きりバサミを手に、肩にタオルをかけた作務衣姿の小次郎だった。そんな違和感全開の姿に、すずかは呆然と立ち尽くす。それに気付いたアリサが、視線の先を追い―――その場から駆け出した。

「こんの、バカモノぉぉぉぉぉ!!」

 叫びと共に繰り出された跳び蹴りを、小次郎は逃げるでもなく、上体をそらし空いている手で受け止める。跳び蹴りの状態で固定されるアリサ。足首を掴まれ、何とかしようとバタバタと暴れるが、小次郎に何かを言われ、大人しくなった。ただ、その顔を真っ赤にしていたが。
 すずかはそれを見て、驚き苦笑する事しか出来なかった。

以下、そのやりとり。

「放しなさいよ!」

「それは出来ぬ」

「どうしてよ!?」

「服に土が着いてしまうのでな」

「いいから放せ!」

「暴れるでない。すかーとがめくれあがっておるぞ?」

「なっ――?!」



 小次郎に静かに降ろされ、アリサはブツブツ文句を言いながらも、どこか恥ずかしそうにすずかの所へ戻ってくる。そんなアリサに、すずかは尋ねた。
 あの人は誰なのかと。それにアリサはこう答えた。小次郎と言って、住み込みの専属庭師であると。そして、自分を丁寧に扱わない奴だとも言った。

「そのわりには、アリサちゃんと仲がいいんだね」

「べ、別にそこまでってワケじゃないけどね」

 他に比べていいだけよ。そう答えて、アリサは急ぎ足で玄関へ向かって歩き出す。それはどう見ても照れ隠し。そんなアリサをすずかは小さく笑みを浮かべて追いかける。小次郎は、そんな二人を眺め、おもむろに植木の手入れを始めるのだった。



 その後、すずかと色々な話をし、アリサがやっている習い事の一つにすずかも興味を持った事で、会話は更に盛り上がった。今度はなのはも一緒にと約束し、すずかが帰った時には、時計が六時を過ぎていた。

 初めて同年代の、しかも同性と話した事はアリサにとって大きな出来事であった。興奮冷めやらぬ彼女は、夕食時にもすずかとの話をし、小次郎を呆れさせた。だが、それを顔に出さない辺りに小次郎の優しさがある。しかし……。

「それでね……」

「ありさ、手が止まっておるぞ」

 食事が始まって既に五分が経つが、未だにアリサの食事は一品たりとも減っていない。さすがに小次郎もそれは見過ごせないのか、手にしたナイフとフォークでハンバーグを一口大に切断し、それをフォークに刺すと、アリサの口の前へ持って行く。その見事な所作に感心するアリサだったが、それもそこまで。

「ほれ」

 まるで餌を与えるようなその言い方にアリサは青筋を浮かべるが、ここで怒ってはまた小次郎を喜ばせるだけだと思い、黙って口を開ける。
入れられたハンバーグからは、濃厚なソースの味と肉の旨味が口一杯に広がり、それがアリサを笑顔にする。
 それを眺め、小次郎も同じ様にハンバーグを口にする。

「肉を食すのは些か慣れぬが、これは美味よな」

「でしょ?今度はステーキやトロットロに煮込んだビーフシチューを食べさせてあげるわ」

 驚くような小次郎に、アリサはそう言った。小次郎が未だに慣れない事の一つが食事。菜食中心だった時代の小次郎からしてみれば、肉を食べる事などほとんどなく、しかもそれが洋風になれば更に珍しいものとなる。
 そのため、アリサは小次郎にもっと驚いてもらおうと、シェフ達に頼んで様々な料理を出させている。おかげで、食事は小次郎のこの上ない楽しみとなっていた。
 ……どこかの騎士王と違い、味ではなく、食材や見た目などの雅さに重きを置いているが。

 そんな小次郎は、アリサの挙げた料理名に心底不思議そうな顔をしていた。それがアリサには堪らなく優越感を感じさせる。何しろ、小次郎は基本アリサを小馬鹿にしているので、こういう時でなければ小次郎の上に立てないからだ。

「すてーきとは何だ?」

「牛肉を厚切りにして炭火で焼くものよ。専用のたれをかけたり、塩をかけたりして食べるの」

「ほう、単純よな」

「でも、お肉の味が純粋に楽しめるわ」

「それも然り。では、びーふ……?」

「ビーフシチューよ、シチュー。そうね……」

 自慢げに語ろうとして、アリサはふと思った。考えてみれば、シチューを説明するなんてした事がないと。シチューはシチュー。そう片付けてしまうのが普通だから。
 そう、それはアリサが小次郎に出会ってから、常にしてきた事だった。世の中の事を説明する時、自分が如何に『常識』と言うモノに縛られているのかを実感するのだ。
 これはこういうものだから、こうなんだ。その一言で深く考えない。どうしてそうなのか?誰が決め、なぜそれを誰も不満に思わないのか?正しいとか間違っているなんて、絶対はないはずなのに。そこまで考えた所で、現実に引き戻された。

「……如何した、ありさ」

 小次郎の声だった。そこに若干だが戸惑いの色が見える。

「別に……少し思う事があっただけよ」

「左様か。で、しちゅーと言うのは如何ようなものか」

 アリサの声に感じるものがあったのか、小次郎は話題を変える意味も込めてそう聞いた。

「ま、簡単に言えば牛肉と野菜の煮込み料理よ」

 詳しくはシェフに聞きなさい。そうアリサは言って締めくくった。その顔はいつものアリサであった。
それに小次郎は笑みを浮かべ、目の前のハンバーグへとフォークを伸ばしてため息を吐く。

「ありさが考えに詰まったせいで、せっかくのはんばーぐが冷めてきておる。急いで食べねばならぬか」

「何よ。あんたが説明させたんじゃない!」

「む、ぽたーじゅに膜が出来始めたか」

「聞け!」

「おお、この人参は菓子であるか。野菜で甘味とは恐れ入る」

「無視するなぁぁぁっ!!」

 まさに虎の咆哮。しかし、既に小次郎も慣れたもので、アリサが叫んだ瞬間耳を塞いでいる。
完全に遊ばれている事を理解したアリサは、それならとフォークを手にし、小次郎のハンバーグを奪った。
 一瞬、何が起きたか分からぬ顔をした小次郎だったが、アリサが自分の食事を盗った事に気付き、微かに笑った。

「……手癖の悪い事よ」

「ふんっ。……アタシを無視するからよ」

 ハムッと盗ったハンバーグを口に入れ、美味しいと言わんばかりに笑顔になるアリサ。そんな彼女を、小次郎は眺めて呟いた。

―――やはり、女子は笑顔が一番よ。

 そんな小次郎の呟きには気付かず、アリサは食事を続ける。その顔に満面の笑みを浮かべながら……。





おまけ

「で、これが時間」

 アリサが小次郎に見せているのは携帯電話。寝る前の僅かな時間、毎晩行われるアリサの現代教室。本日の教材は文明の利器。

「なるほどな。……科学、と言うのは凄まじいものよ」

 手渡された携帯をしげしげと見つめる小次郎。先程までアリサに色々と説明されたが、その機能を完全に理解する事は出来ないようだ。
そんな小次郎に、アリサは苦笑気味に教えた。最近はアタシ達でも完全に使いこなすのは難しいから、と。
 その言葉に小次郎は驚き、その表情のままこう問いかけた。

「ならば、なぜこのような物を作るのだ?」

 道具は使いこなせてこその道具であろう。小次郎はそう言った。その反論にアリサは耳が痛かった。増えていく機能、ぶ厚くなる説明書、そして起きる事故。それらは全て小次郎の言葉で言えば片付けられる。

使いこなせないものを使うな。不必要なものを作るな。それは、自給自足で生き、創意工夫で苦労を乗り越えていた時代の小次郎だからこその台詞。あれもこれもではいつか破綻する。本当に必要なものを作り、使い易いものを目指す。それがどれだけ正しいかは、アリサにも分かる。分かるのだが……。

「ま、あれよ。付加価値がないと売れない世の中だから」

 そう告げるアリサに、小次郎は妙な世の中になったものよ、と呆れ顔。

 そんな風に、二人の夜は更けて行くのだった……。



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準備編その二。すずか編の裏と言うかその頃のアリサ達というか。

すずかは小次郎がサーヴァントだとは知りませんし、ライダーも気付けません(すずかが苗字を聞いてない&日本人名過ぎる)

アリサもすずかからライダーの事は聞いていますが、今は共通の話題で頭一杯で小次郎に話していません。

本格的に彼らが出会うもしくは知るのは、もうしばらく後になります。



[21555] 0-8-3 とある一日(N&S)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/11 06:19
 麗らかな春の日差しが差し込む公園を、サッカーボールを蹴りながら走る一人の少女。その額には汗が浮かんでいるが、そんなものを感じさせないような動きで、躍動感を前面に押し出し、ドリブルを続けている。
 そんな彼女を追いかける少女が一人。ぜえぜえと肩で息をしながら、その背に追いつこうとしているが、距離は縮むどころか離れる一方であった。

 やがて、少女は地面にへたり込み、動かなくなる。それに気付いたのだろう彼女が、少女の下へと戻ってきた。

「大丈夫ですか?なのは」

「にゃ、にゃはは……」

「大分体力がつきましたね」

「そ、そうだね。……初めは転んでばかりだったし」

 そう呟いてなのはは思い返す。セイバーとこうして運動するようになって、もう一年以上になる。あの頃に比べれば、今の自分はかなり体力がある。運動神経は……良くなってると信じたい、となのはは切に願う。

「さ、ではそろそろ帰りましょう。モモコの朝食が待っています」

「うん。それにお出かけの準備もあるしね」

 差し出されたセイバーの手を掴み、なのはは立ち上がる。今日は日曜日。学校は休みで、高町家は全員でお出かけする事になっていた。
本当は、つい先日出来た友人の誘いを受けたかったが、家族全員で行動するのは中々出来ない事もあり、断らざるを得なかったのだ。

(セイバーに教えてもらったもん。言わなきゃ何も伝わらないって)

 あの日、士郎が退院した日の夜。セイバーは高町家の全員にそう告げた。子供だからとか大人だからとか関係なく、家族として思っている事を正しく伝えるべきだと。誰もなのはの悩みに気付けなかったのは、そこにあるのだと、セイバーは言い切った。
 その言葉に、なのは達は何も言えなかった。セイバーが責めているのではなく、優しさを正しく向けてほしいと純粋に願っている事を誰もが感じ取っていたからだ。セイバーは思う。この家族は優しいから、自分の苦しみを他者に知られまいとして、余計苦しめる結果になってしまったのだと。
 それをセイバーはもうさせたくなかった。他者を思いやる事は大事だが、そのために自分を犠牲にする事だけはさせたくない。昔の自分の姿を、幼いなのはに見てしまったから。他者のために、望まれる姿であろうとしていた自分と、同じ境遇にさせないために。

(あれで、みんな変わったよね)

 士郎と桃子は以前にも増して休みを大事にするようになった。それは、家族との時間を大切にしたいから。恭也と美由希は鍛錬を厳しくした。それは恭也の期待に、美由希が応えたいと願ったから。なのはは思った事を隠さず伝えるようにした。ただし、セイバー優先で。友達であり、姉であり、他人であるセイバーは、一番客観的に意見を述べてくれるから。

 こうして、高町家はより絆を強める事になった。それが、後の悲劇を回避する事になるとは知らずに……。

高町家と騎士王のとある一日



「ただいま~!」

「只今帰りました」

 帰路に着いた二人は家に着くと、まず玄関からそう声を掛ける。

「お帰り~!もうご飯だからお父さん達も呼んで来て~!」

 すると、桃子の声が返ってくる。これがいつもの日常。

『了解っ!』

 どこか凛々しく、だけど可愛く答えるなのはに、真剣そのもののセイバー。そして、二人は庭にある道場へ向かう。そこからは、時折固い物がぶつかり合う音が聞こえてくる。
 なるべく静かに戸を開けるなのは。その視線の先では、恭也と美由希が睨み合っている。

 その邪魔をしないように、なのはは見守っている士郎へと近付いていく。セイバーもそれについていく形で歩き出す。

「お父さん」

「ん?もうそんな時間か」

 なのはが来た事で、全てを察し士郎は呟く。そして、膠着しそうな二人に向かって告げた。

「後三分だ。引き分けなら今日のセイバーの買い食い代は二人持ちだな」

『っ?!』

 その声に二人が動いた。一瞬だが、セイバーが目を輝かせたのを見たからだ。沈着冷静な雰囲気を持つセイバーだが、食の事になると別人のようになる。それは高町家全員の認識だ。セイバー泣いても飯やるな。それが高町家の教訓。それが出来なければ、彼女に食事を与えてはならない。同情すれば、必ず自分(の財政)に返ってくるのだ(既に、高町夫妻は経験済み)

 神速でぶつかり合う二人。それをキョロキョロと視線で追うなのはと、静かに見つめる士郎とセイバー。無論、なのはには見えていないが、それでも必死に追いかけようとする所が可愛いものだ。そんななのはと違い、セイバーはそれを一つも見逃さぬようにしている。
 御神の剣士は、彼女にとってこの上ない相手なのだ。以前戦った小次郎の剣。アレと似たものを感じていた事と、魔力も使わずこれ程の動きをしてくるのだ。その事が持つ意味は大きい。
 既に、セイバー自身恭也や士郎と戦っている。未だに魔力を使わない状態では、セイバーも容易に勝ち越す事が出来ない。

「む…」

「決まりましたね」

 恭也の大振りを好機と取った美由希だったが、それが恭也の誘いだった。だが、美由希もそれは覚悟の上であり、迫り来る小太刀を敢えて流さず受ける事で勢いを殺し、己の小太刀を叩き込んだ。
 しかし、それすら読んでいた恭也は打ち込まれた一撃を耐え切り、再度残りの小太刀で斬りつけた。

 肩で息をする恭也と美由希。それを見てどこか残念そうなセイバー。なのはは隣の士郎から、一連の流れを教えてもらっていた。

「っ――お前――はぁ――持ちだ――っからな」

「わかっ――はぁ――はぁ――てるよ」

 どこか嬉しさを滲ませる恭也と、悔しさと寂寥感が漂う美由希。

(これで、今月のお小遣いパー……トホホ)

 そんな事を思いつつ、美由希は道場の後片付けを始める。見ればなのはとセイバーが道場から出て行く所だった。去り行くセイバーの背中を眺めて美由希は願う。どうか、今日は僅かでも控えてくれますように、と。



 高町家の食事は、ある意味スゴイ。料理や素材ではなく、量がスゴイ。ご飯の量もさる事ながら、オカズの量も多いのだ。
原因は、育ち盛りの子供達ではない。一年以上前からいる家族同然の少女であった。

「モモコ、御代わりを」

「は~い」

 もう誰も何も思わない。まだ食事が始まって五分と経過してないとしても。それが当然なのだ。これが十分なら話は別だ。
大丈夫か、具合でも悪いのか、病気かもしれないと心配されるだろう。そういうものなのだ、セイバーという少女は。

「なのは、今日は何を買うんだ」

「えっとね……」

「あ、父さん醤油取って」

「ああ、ほら」

「シロウ殿、私にはソースを。目玉焼きにはかかせない」

「セイバー。はい、御代わり」

 賑やかな食卓。ちなみに、セイバーは全員から呼び捨てを望んだ。それに応えてセイバーと皆は呼んでいる。セイバーも同じく呼び捨てなのだが、士郎だけは殿付きとなっている。
 セイバー曰く「家長だから」との事だが、深い理由があるのだろうと桃子と士郎は考えている。

 常人が見たら驚くような量の食事も、セイバーの前では普通の食事。二つあった御釜のご飯も、綺麗になくなり、テーブルの上のオカズも残っているものは何もない。食後のお茶を啜り、セイバーは静かに告げた。

「ごちそうさまです」

「お粗末様」

 既に食べ終わっているなのは達も、それを聞いて片付けに動き出す。
それぞれが各々の食器を持って行き、それを桃子が洗う。洗われた食器を美由希が拭いて元の場所へ。恭也はテーブルを拭き、なのははその手伝い。士郎はセイバーとサッカー評論。
 いつもは仕事や学校などで慌しい朝だが、たまの休日はこんな風にゆったりと時間を過ごす。出掛けるのはお店が開き出す十時からなので、それまでは自由時間。

「ここでラインを上げれば……」

「いや、でもここからクロスに振る方がいいんじゃないか?」

 サッカーチームの監督をしている士郎が、セイバーとサッカー談議をするようになったのは半年前。欠員が出た際、セイバーに代理を頼んだ事がキッカケだった。見事な運動能力を如何なく発揮したセイバーは、永久出場停止という名誉の処罰を受けた。でも、そのプレーには多くの人間が賛辞を贈ったが。

 テーブルに目をやれば、恭也となのはが掃除を終えて、雑談していた。

「学校は楽しいか」

「うん。友達も出来たし、お勉強も楽しいよ」

 満面の笑みで答えるなのはを見つめ、頭を撫でながら恭也は思い出す。あの頃、どこか自分の意見を述べる事に臆病だったなのはに、恭也は気付いてやれなかった。それを悔いる自分を、なのははこう言って許してくれた。
 自分が淋しいと言わなかったからだと。悪いのは恭也ではなく、本音を言い出せなかった自分だから。そう告げたなのはに、恭也は思った。
強くなったと。幼いながらも、セイバーという友を得て、妹は成長したのだな。そう感じた事を。

 そして、キッチンからセイバー達の様子を美由希と桃子が見ていた。

「しっかしさ」

「んっ?」

「セイバーもすっかり『高町』だよね」

「そうね。まさに、高町セイバーね」

 食器をしまいながら笑う美由希と桃子。実際、セイバーを養子にしたいと桃子は提案した事があったのだが、セイバーはそれをやんわりと断った。その時、セイバーに言われた一言が、今も桃子の心に残っている。
 セイバーはこう言った。桃子の気持ちは嬉しいが、自分にも親はいた。だから、貴方を親と呼ぶ事が出来ない。でも、許されるならもう一人の母と思って桃子に接してもいいだろうかと。
 その申し出に桃子は喜んでと応じ、それまではなのはの母という立場で応対していたセイバーが、急にどこか甘えるようになってくれたと、桃子ははしゃいだものだ。
 もっとも、その違いは桃子にしか感じられないものであるが。

 概ね、高町家は平和。この日もそうだった。郊外に出来た大型ショッピングセンターに行ったまでは……。



「じゃあ、お昼にここで合流って事で」

 桃子の提案に頷く一同。まずは女性と男性に別れて散策し、お昼を食べてからそれぞれに別れて行動。最後に食料品を買って帰宅。そういう手筈になっていた。ちなみに集合場所は、二階にあるフードコート。先程から、セイバーの視線がせわしなく動いている。
 解散、の一声で動き出す高町家。セイバーはフードコートに未練がましい視線を送りながら、美由希に引きずられている。

「後でまた来るから」

「それはそうですが……」

 桃子の言葉にセイバーは言葉を濁す。そんなセイバーになのはが告げる。

「あんまり駄々こねると、おやつ抜きなの」

 それを告げられたセイバーの顔は、驚愕の一言に尽きた。それだけではない。掴んでいた美由希の手を振りほどき、心からの許しを得るかのように桃子に縋り付いた。その光景に、否応なく周囲の視線が集まる。

「ちょ、ちょっとセイバー……」

「ごめんなさいごめんなさい。もう言いませんので許してください」

 周りの視線などお構いなしに懇願するセイバーを眺め、美由希はなのはへ呆れた視線を向ける。

「どうすんの、なのは……これ」

「にゃ、にゃはは……どうしよう……」

 そんな二人の目の前で、セイバーの懇願は続くのだった……。



 一方、男性陣はというと……。

「これなんかどうだ?」

「いや、これは少し派手じゃないか?」

 なのはのための小物を見ていた。初めはファンシーな雰囲気にたじろいた二人だったが、なのはの入学祝いと友人が出来た事を兼ねて、プレゼントするものを選ぶために突撃したのだ。
 ……まあ、選び出したらそんな事を忘れてしまった二人ではあるが。

「髪飾り……?」

「お、それはいいな」

 恭也が目をつけたのは、リボン等の髪飾りだった。様々な色や形の物を見ながら、二人は悩む。ちなみに、成人男性がファンシーショップで真剣に物を見定めるのは、かなりシュールである。周囲の女性が先程からじっと二人を見つめているし。

 結局、二人は淡いピンクのリボンを買った。これをなのはは大変気に入り、常に身に着けるようになるのだが、ある時から身に着ける事がなくなる。その理由は、また別の話。



 お昼の集合までに、女性陣が見ていたのは衣服や小物類。男性陣はスポーツ用品や日用品。それらの話をしつつ、フードコートを歩く高町家。中でもセイバーは、目にする物全てに反応を示し、そのたびになのはが説明していた。
 それを見ながら、美由希は気が気でなかった。セイバーが食べる物は、全部自分の払いになるのだから。

「それで、どうする?」

「せっかくだ。皆好き勝手に店を選ぼうじゃないか」

 士郎の言葉に異議はなく、それぞれが思い思いの物を頼みに行く。ただし、セイバーだけは美由希の後をついていったが。



 テーブルに並ぶ料理の数々。士郎は海鮮丼、桃子はドーナツが三つ(チョコ・カスタード・プレーン)にパイ(アップル・アーモンド)が二つ、それにジャワティ、恭也は盛りそば(天麩羅付)、美由希はカルボナーラ、なのははオムハヤシ、そして……。

「す、すごいねセイバー」

「ええ、色々あって迷いましたが、これだけにしました」

 セイバーの前にあるのは、ナポリタンに石焼ビビンバ、それに石狩汁という体育会系もびっくりのメニューだった。ちなみに回った店で軽く五分はメニューを凝視している。

「……大丈夫か?」

「うん。……意外と少なくすんだ」

 バランスを考えましたと語るセイバーの横で、美由希はがっくりと項垂れていた。それに心で手を合わせる恭也。
そんな様子を眺め、なのはは呟いた。

「まだおやつを買ってないから、問題はこれからなの」

 その呟きに、美由希が顔を勢い良く上げ、セイバーを見る。その視線に気付き、セイバーが美由希を見返した。
美由希の視線に含まれたものに、セイバーは首を傾げた。

「どうしました?」

「ねぇセイバー……これで満足だよね?」

 お願いだからそう言って。そんな想いを込めた問いかけに、セイバーは笑みを浮かべて答える。

「何を言っているのですミユキ。後は甘味を買わねばなりません。一階にたい焼きが売っていたので、それを買わねば」

 嬉しそうにそう返し、スパゲッティを頬張るセイバー。その言葉に完全に打ちのめされる美由希。そして、それを同情の眼差しで見つめるなのは達。こうして、お昼は過ぎていった……。



 お昼を食べ、自由行動になったのだが、なぜか二人組になってしまうのが高町家。士郎と桃子、恭也と美由希、なのはとセイバー。話し合ったわけでもないのに、そうなってしまうのは仲が良いからなのか。ともあれ、三組はそれぞれに歩き出す。

「ね、セイバーはどこに行きたいの?」

「特にありませんよ」

「え~っ、つまんないの」

「では、なのはの行きたい所に」

 そう笑みと共に言われては、なのはも黙らざるをえない。結局、三階にあるアミューズメントコーナーへ向かった。

 様々な機械が並び、雑多な音を響かせるそこは、セイバーにとっては初体験の連続だった。
UFOキャッチャーで苦戦し、クイズゲームに唸り、レースゲームに興奮し、メダルゲームで大勝した。
 そんなセイバーとなのはも一緒になって楽しんでいた。一番二人が気に入ったのは景品のウサギとライオンのヌイグルミ。
セイバーはライオンが欲しかったのだが、中々取れず、なのはが何とか取ったのだ。その際、手前のウサギも一緒に落ちたのだが……。

「これはなのはに」

「ほえ?」

「お礼です。私には、これで十分ですから」

 今日の思い出に、とセイバーがなのはに手渡した。しばらくそのウサギを眺めていたなのはだったが、言われた事を理解したのだろう。
満面の笑みでそれを抱きしめ、感謝の気持ちをなのはも告げた。

「私こそありがとう!セイバー!」



 その後、再び合流した高町家は、食料品の買出しを終えて(勿論、セイバーは帰り際にたい焼きとみたらし団子をGET)帰路に着いた。
家に着いた時には、既に日が暮れていて、すぐに夕食の支度となったのだが、珍しく桃子の手伝いをセイバーが買って出た。
 それは、セイバーなりの感謝の気持ち。何も話さぬ自分を受け入れ、家族同然に良くしてもらい、今日もまた思い出をくれた事に対する精一杯の恩返し。

「さ、まずは何をすればいいですかモモコ」

「そうね……じゃあまず」

―――手を洗って来て。

 その言葉にセイバー以外の笑いが起こり、セイバーは恥ずかしそうに手を洗いに行く。その途中でふと思う。

(ああ、これが家庭なのですね。シロウ達とはまたどこか違う暖かさを感じます)

 でも、とセイバーは呟く。まだ私は、あの温もりが恋しいのです。そう呟きながら、セイバーは誓う。いつか全てを話して、キチンと現在と向き合おうと。この暖かさを愛しいと思っているから。だから、必ず機会が来れば明かす。その想いを、強く心に誓って……。




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準備編三本目です。

どこが?と聞かれると言いにくいのですが、リボンがそれです。

そのためだけに書いたわけではないですが、肝心なのはそこだったりします。

すずか、アリサ、なのはと今回は同じ時間軸での話でしたが、どうだったでしょうか?

今後も同じような展開をする時は、こういう表記(番号)にしますのでよろしくです。

……今回長かったかな?


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